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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 二日目乃玖


 仕切り直すように、アリエイラが風音に尋ねる。


アリエイラ「ところで風音さんは、どの過去をやり直そうと思っているのですか?」


風音「そうだね・・・。さっきも言った通り、あんまり大きな人生の分岐点ぶんきてんで試すのは止めた方が良いと思うんだよ。で、考えてたんだけど。出来ればここに居る五人が全員知っている状態を変化させた未来を見る方が、見た夢の説明をしやすいと思う」


アリエイラ「それはそうですね。私達が知っている事の方が、変化した未来を想像しやすいですし」


風音「そう、で。昨日ポンコツになってたのを変化させてみるよ」


アリエイラ「なるほど?」


風音「夢の中でさっき言ったように精神にじょうをかけて、ポンコツ化しなかった場合の行動を見てみるよ。一応みんなの前ではポンコツになったふりをする。 その状態で昨日とは違う行動を取ってみるよ。 そのままいつも通り行動してても面白味が無いし、ポンコツになったっていう大義名分たいぎめいぶんの元、カノンの皆に普段出来ないような悪戯いたずらとか行動を仕掛けてみるかな」


アリエイラ「普段出来ない悪戯? そもそも悪戯なんて気心の知れている者同士でやるもの。わざわざ夢でやる必要性があるのでしょうか? 例えば私にはどんな悪戯を? 後ろから急に抱き付いて驚かすとかするのでしょうか?」


 さらりと自分の髪を撫でるアリエイラ。


風音「いや落とし穴に落としたり」


アリエイラ「正座」


 風音がソファの上で正座になる。


風音「夢の中での話ですよ?」


アリエイラ「黙りなさい。 もう自分で考えないで下さい。パソコンで「悪戯、ドッキリ、サプライズ」といった言葉で検索を掛け、出てきた行為を仕掛けましょう」


風音「いやでも僕の方がオリジナリティのある・・・」


アリエイラ「落とし穴は黙りなさい」


風音「落とし穴って言ってもあれだよ? 床にバネを仕掛けて、天井に穴を開けて上に落ちていく、みたいな。そのまま重力で上の階からもう一回落とし穴にはまって戻ってくる、みたいな。上手くいけばまたバネで跳ねて永久機関」


アリエイラ「もう自分で考えないで下さい」


 ここでレスタからも疑問の声が出る。


レスタ「残念ながらその場合、永久機関にはならないですよ。人が突然一階層も跳ね上げられる場合、必ずバランスを崩します。仮のその状態で何度も跳んだ場合、二度目以降は角度に問題が出る可能性が高く上手く真上に跳ね上がらない可能性が高いです。それに人をそれほど跳ね上げるバネに背中から落ちた場合、次に跳ね上げられた時に脊髄せきずいに深刻な・・・」


アリエイラ「レスタ君。真面目に考えなくていいです。いいですか風音さん。あなたに宿題です。寝るまでにパソコンで調べておく事。調べた時に最初に目にした悪戯を仕掛ける事。はい復唱」


風音「寝るまでに調べて、最初に目にしたやつを仕掛けます。 ちょっと質問良い?」


アリエイラ「どうぞ」


風音「何で最初に見たやつをやるのかな? いくつか見て選んだ方が良くない?」


アリエイラ「選んでしまったら結局貴方あなた好みの悪戯になるでしょう。どうせ風音さんの事です。どんなアイディアがネット上に転がっていても無視し、落とし穴に落とすという記事が見つかるまで検索を繰り返し、見つけると同時に「これだ!」と叫んで落とし穴の準備を始めます。もう読めています、貴方のハリモグラ並みの単純な行動は」


風音「いやそんなに落とし穴に執着しゅうちゃくしてないけどな・・・。例えばそうだな・・・定番だけど急に血を吐くドッキリとかなんてビックリしそうだし」


 アリエイラが呆れる。


アリエイラ「そんなもの今更誰が心配するのですか。風音さんは病気にかかりませんし、吐血とけつの理由なんてどうせ組手くみてのやり過ぎで内臓を痛めたからだと予想出来ます。 ただでさえあなたは自身の治療ができる特殊能力を持っているのですから、放っておいても自分で勝手に治癒して、どうにでもなるとみんな思ってます」


レスタ「そうですね。僕はビビりなんで基本誰がやってもビックリしますけど、それでも自分で治せる人たちがやっても心配は薄いですよね。ドッキリとしては弱いと思います」


 レスタにまでダメ出しをされる。


風音「なるほどね。じゃあ食堂で食べ物に中に一つ、大量のワサビを仕掛けておくとか」


アリエイラ「オチが見えています。どうせ神楽かぐらさんが食べて、何にも感想無しで終わります。あの人は何を食べても美味しいと感じる、はがねの舌を持つ人類ですから」


 あれはある種の特殊能力だと思っているので、あえて馬鹿舌などと陳腐ちんぷな表現はしない。


風音「まぁそれは・・・否定しないけど。 そうだね・・・最初に見たやつをやるって決めておくか。いわゆる今の流行はやりのやつになるんだろうね」


アリエイラ「ようやく納得して頂けましたか」


 満足そうに頷いた後、ルミナの方を見る。


アリエイラ「ではルミナ。もう我々は退出しましょう。明日はカザワン最終日です。早めに休息し英気えいきやしなっておきましょう」


ルミナ「英気も何も、もう私達はやる事無いけどね」


アリエイラ「そうですね」


 ルミナが会話の流れでアリエイラの方を見る。それを待っていたかのように、アリエイラがルミナに視線で合図を送る。


ルミナ(・・・珍しい。何かあるのかな?)


アリエイラ「では風音さん失礼いたします。また明日。それと息吹」


息吹「はい。なんでしょうか?」


アリエイラ「今日は風音さんはお休みが確定しています。あなたは風音さんと雑談でもしていなさい。この後もあなたは仕事があるので、せいぜい一時間ほどですが」


 息吹が驚く。


息吹「一時間も? 良いのですか?」


アリエイラ「あなた艦長とのお喋りの時間が欲しいと言っていたでしょう? たまには部下の希望を叶えましょう。風音さんも、構いませんよね?」


風音「いいよ別に。どうせ今日は暇だしね。たまには普段会話しないクルーとコミュニケーションとっておけって、煉兄れんにぃから散々言われてるし。特にアリエイラさんとこの子達は普段交流が少ないからちょうどいいよ」


 流れ的に息吹がアリエイラにお礼を言おうとしたが、我道がどうつらぬくアリエイラが先に喋る。


アリエイラ「片桐かたぎり煉也れんやさん、でしたっけ? そんな事を仰る割には、あの方は幼馴染以外の人達とは誰ともほとんど付き合いが無いですね。私なんてギリギリ名前を憶えている程度です」


 アリエイラは顔もはっきり覚えていないくらい、まともにからんだ事が無い。


風音「だからだよ。煉兄ぃはカノンの副艦長でしょ。立場上みんなとの交流が大事なのに、それを放棄ほうきしてるからね。でも誰かがやんないと駄目だから、その辺全部僕とシノに押し付けてるだけ」


アリエイラ「なるほど。カノンの粗大そだいゴミですね」


 上司に向かって酷い評価だ。風音も苦笑いしか出ない。


風音「僕も似たようなもんだけどね。家事はシノに任せてる部分が多いし、面倒なシャロンの武術指導の仕事管理は煉兄ぃに任せっきりだし。誰が居なくなっても困るんだよ、ウチは」


アリエイラ「ふむ。適材適所・・・なのですね。それは失礼。粗大ゴミは撤回てっかいしましょう」


 家事を凌舞しのぶに任せているのは誰が見ても正解だ。料理は上手いし、掃除から細かい気配りまで全部プロ級。

 クルーとの交流担当を主に風音が担当しているのも分かる。クルー側からしても風音が上司三人の中で一番話しやすいから。

 煉也の得意分野は知らないが、多分仕事管理に向いているのだろう。


 納得したところで。


アリエイラ「ではルミナ、そろそろ」


ルミナ「そうね。ではまた明日。良い夢を見て下さいね、風音さん」


風音「うん、今度こそ想定通りの夢だといいけどね」


ルミナ「ええ、大丈夫ですよ」


 ふふっと笑いながら艦長室から退室する。


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