風音ワングランプリ? 二日目乃弐
機械を観察しながら、今のルミナの説明について考える。
風音「夢でやり直すって言ってもね・・・。明晰夢って言うんだっけ? 自分の夢の中で自分の意識がはっきりするやつ。あれを意図的に起こすって事に近いのかな? だとしたら全部自分にとって都合良く話が進むんじゃない? それはそれでエンタメとしては面白いけど・・・」
都合よく話が進むのではなく、ルミナの言うようにちゃんと人生の別ルートを体験する。なんて事が出来るか?
という疑問が出る。
ルミナ「まぁそう思いますよね。半分当たりですよ。あくまでエンタメの範疇だと思ってください。人生何が起こるかはやってみないと分からないもの。例えば人生を本当にやり直す事が出来たとしても、この機械で見た夢と同じにはならないでしょうね。 でも人の脳っていうのは皆さんが思っている以上に凄いんです。普段何気なく生活を送っていても周囲の情報を無意識に捉えて、頭の中で情報化し保存し続けているんですよ。自分自身がその人生で体験してきた事柄、それらの情報を総合して分岐の先の物語を作ります。 ですから思い通りに事は運びませんし、突拍子もない幸運や不幸も起こりにくいです。 もちろん現実では周囲の他人の感情や運の要素も多々あるので、再現される正確さは微妙ですが、かなりリアルにおそらくこうなっていたでしょうという人生を見せてくれます」
風音「へぇ・・・」
それが事実なら結構凄そうだが。
説明を受けても、まだ若干疑いの方が強い。
悪夢みたいに何もかも思い通りにならなくて嫌な思いをするか、逆に思い通りに事が運ぶかの二択じゃないかなと思う。
風音「あと他人の人生を体験ってのは何?」
ルミナ「そっちに関しては完全なお遊びです。適当な設定で適当な人物の人生を、ただ遊ぶっていう。 いろんな選択肢に迫られますが、まぁやり直せますんで、いろいろ試して遊んでみようっていう感じですね」
風音「アドベンチャーゲームを自分の夢でやろうって感じかぁ。そっちの方が面白いかもな」
自分の人生に後悔や反省は多々ある。
今の所人生最大の反省は、自分の見通しの甘さのせいでブラウニーを殺しかけた事か。
でもあれは・・・やり直した先の未来を見たいとは思わないし。
ゲーム感覚で他人の人生を体験出来る方が、気楽でいいかなと思う。
ルミナ「そうですか? どっちにしても両方体験して頂きますが、ではまずはそっちに設定しておきましょう。 そしてこの作品の最大の売りを発表します。 驚くべき事にですね、脳の時間的誤認作用を含め、意図的に夢の中で超長時間活動するにもかかわらず、起床後ちゃんと普通の睡眠と同じように脳が休息しているのです!! もちろん夢の内容は起きても全部覚えてます!!」
自信を持ってそう言い放つと、アリエイラとレスタが驚愕する。
アリエイラ「まさか・・・。 体と脳の回復効果が通常の睡眠と同じ?」
息を飲みながら尋ねるアリエイラ。
ルミナ「そうです!」
レスタ「お~~~・・・」
感嘆しているレスタと、笑顔のまま動揺を隠せないアリエイラ。
アリエイラ「ふふっ・・・恐ろしい。やはり手強い。相手にとって不足無しというところですね」
ルミナ「ふふん」
得意気なルミナ。
そのやり取りを見ていた風音が、思った事を尋ねる。
風音「それはなんか凄い事なの?」
アリエイラ・レスタ・ルミナ「「「えっ?」」」
三人とも目が点になって驚く。
風音「だってせっかく寝てるのにさ、睡眠した分の回復をしてないって本末転倒じゃない? 回復は出来て当たり前でしょ。こっちは寝てるんだから」
まさかの事態に狼狽するルミナ。
ルミナ「いやだって・・・。夢の中で自己に目覚めて思考をし続けるっていうのは、短時間なら睡眠に影響は無いですけど、この機械の力でその状態を長時間にわたって続けるわけですよ? つまり本来なら脳が休息する時間が足りない訳だから・・・え・・・これどう説明すればいいんだろ・・・」
言葉に詰まるルミナに、レスタとアリエイラが割って入る。
レスタ「少なからず脳に負担を掛けるわけですよ? 本来なら全く同じ回復率なわけ無いじゃないですか」
アリエイラ「いいですか? 夢遊病患者が、寝ている間ずっと歩き回っていたとしましょう。目が醒めた時、普通に寝ていた人と比較して体の回復率が全く同じだと思いますか? そんなわけないでしょう? それが脳の休息と置き換わっているだけです。 何故理解出来ないのですか? この程度の事、ジャンガリアンハムスターの親子でも理解出来ますよ?」
昨日と同じく、また三人に次々言われる。
今日は実質ボロカス言ってるのは一人だけだけど。
風音「ふぅん・・・。要するに遊べるけどデメリットは無いって事だね」
そういう風に理解する。
もうその時点で昨日のアリエイラの機械と比べて、比較になってないくらい圧勝だろう。
あんなもんデメリットの塊だったから。
しかしルミナが困ったような顔。
ルミナ「いや~~~・・・、それがですね。作り終わってからふと気付いたんですけど、全くデメリットが無いわけでも無いんですよね。むしろ大きなデメリットが一つ」
風音「え、そうなん? よっしゃ、じゃあ止めよう」
思わず本音がちらりと出た。
ルミナ「いえそれは無理です。 ですが起こり得るデメリットを事前に解説しておきますね。 要するに夢とはいえ、自分の人生をやり直すわけですよ。もし夢の中の方が圧倒的に今の人生より成功していたらどうでしょう? 起きてからの後悔が凄い事になると思いませんか?」
風音「あ~~、そういう・・・」
確かに。
自分のミスのせいで人を死なせてしまった人が、この機械で助ける事が出来た後の未来を見たら。
夢から醒めた後、後悔がより大きくなるだけだろう。
あくまで遊びであるという判断が出来ない人は、虚構の中であれ人生のやり直しなんて手を出すべきではない。
判断出来る人でももしやるとしたら、例えば「友達からの成人式の誘いを断ったけど、もし行ってたらどうなってたんだろ?」とかその程度の小さな分岐を体験してみる程度の方が、エンタメとして良いという事だ。
風音「遊ぶ側の裁量が大事って事か。人生の大きな分岐点を追体験するのは、自分を責めてしまうだけで良くないかもね。でもそれは事前に使用する人が理解してれば回避出来る問題だし、評価には関係無いでしょ」
ルミナ「あぁ・・・そう言って頂けるとありがたいです」
顔の前で両手を合わせて、笑顔を風音に向けるルミナ。
だがそうは問屋が卸さないのが、残りの二名。
レスタ「どうなんでしょうね~。 評価は評価。デメリットはマイナス要素として点を引くのがカザワンの正しいやり方じゃないのかな~。 いえ、これは独り言ですけど」
アリエリラ「こらこらレスタ君、大きな独り言ははしたないですよ。 ところで・・・ねぇ息吹? ルールとは何の為にあるのでしょうね? 良い部分は加点。悪い部分は減点。この最も単純なルールすら守られないなら、ルールの存在意義を見失ってしまいますね?」
息吹「全くです主」
馬鹿にしたように鼻で笑う息吹。
ルミナ「くっ・・・」
醜い足の引っ張り合いが始まっている。
息吹「ただその計算方式ですと、昨日の主の作品は大幅マイナスな気が致します。先程主がご自身で仰っていたではないですか。艦長が主の作品のせいで恥をかいてしまった事は忘れて、結果を見て下さいと。 ここはひとつ悪い部分には目を瞑って頂き、良い部分のみに目を向けて貰う方が主にとっても・・・」
アリエイラ「黙りなさい息吹。いつまで喋っているのですか」
息吹「かしこまりました」
息吹が一礼して黙る。
ルミナ「・・・まぁいいわ。ちょっとくらい減点があっても、勝ちは揺るがないから」
足引っ張り組の三人を放置して、早速機械のセッティングを始める。




