風音ワングランプリ? 初日乃捌
屋内に入ってすぐ、殺害現場があった。
入口からリビングに繋がる廊下。
人型にテープを張っていたりはしないが、どこにどういう風に被害者が倒れていたか分かるように、なんかいろいろ置いてある。
円錐状の物や、文字が書いてある小さな表示板など。
ウェルズ「ここが毒殺された現場で、死亡推定時刻が夜中零時前後・・・ってのは、さっき言ったっけ。 ちょっと待っててくれ」
四人に向かってそう伝えてから、ウェルズが携帯でどこかにメールを送っている。
しばらくして、二階からぞろぞろと人が下りてきた。
全部で六人。
「ご苦労様です」
そのうちの三人が挨拶をしながらこちらに向かって頭を下げる。
一人私服の奴がいるが、三人とも全員シャロンの職員だろう。
ウェルズ「お疲れ。休憩してていいよ」
ウェルズの一言で、三人が外に出て行った。
すると。
男「いつまでここに居ればいいんだ! 関係無いんだから早く帰らせろ!」
残された三人の、太った男が喚く。
女「さんせーい。なんでいつまでも閉じ込められなきゃいけないの?」
不満そうな顔の女性。
青年「・・・・・・」
無言の16~17歳くらいの青年。風音の方を凝視している。
ウェルズ「すぐ終わりますよ。もう一度一人ずつ、犯行時間と思われる時間に何をしていたかを順番に言って貰えますか?」
風音「その前に偽名でも本名でもいいけど、取り敢えず三人の名前を教えてくれない?」
ウェルズ「ああ、すまん。まずこちらの男性がギルさん。女性がアキュラさん。こちらは被害者のニューズさんの息子さんでマァさん。 じゃあギルさんから・・・」
喋っている途中で、息吹が手を挙げる。
息吹「少しいいでしょうか?」
ウェルズ「どうぞ」
息吹「アキュラさん。心拍数の異常な上昇が見られます。体調不良でしょうか?」
アキュラ「別に何ともないわよ。 何なの突然」
息吹「そうですか。失礼致しました。動悸は多数の重い疾患の前兆でもあります、介護が必要であればいつでも仰ってください。 では続きをどうぞ」
ウェルズに続けるよう促し、頭を下げて黙る。
ウェルズ(心拍数ねぇ?)
新たに人を連れてきてもう一度事情聴取をされると分かった途端、心拍数が上がる。
事実ならこれだけでだいぶ怪しいが、ウェルズとしては掴み所のない息吹の言う事を信じるのも・・・
あまり参考にはしないでおこう、と考えて続けようとしたら。
フィリコ「ねぇねぇ風音ちゃん、ちょっといい?」
風音の胸に張り付いている顔をグリンと上に向けて、風音に話しかける。
マァ「喋った・・・」
息子のマァ君が驚いている。
最初っから風音の胸にもう一つ顔があるのが気になっていたようだ。
実は他の二人も気にしていない振りをしているだけで、内心風音の見た目に引いている。
完全に何か別の生き物に寄生された人にしか見えないからだ。
風音「今は静かにしてようね~」
フィリコの頭を撫でる。
フィリコ「犯人が分かったんだけど、言っちゃダメ?」
風音「ははっ、えらいえらい。でも今の段階ではまだ何も分からないはずだからね。だから僕が推理するまでは大人しく・・・」
ウェルズ「どんな意見も聞いておきたい。もし何か思う所があるなら言ってくれ」
ウェルズが風音を制してフィリコヨーテの意見を聞こうとする。
フィリコ「その女の人が刺したんだって」
アキュラ「な、何を言ってるのあなた。何の根拠があって・・・」
アキュラが狼狽える。
フィリコ「聞いたもん」
アキュラ「だから誰によ!」
フィリコ「その子」
フィリコが顔を向けた先に、観葉植物が置いてある。
ウェルズ「キミは植物と会話が出来るのか?」
ウェルズが尋ねる。
フィリコ「ん? さっきからあなた誰?」
ウェルズ「今頃それが気になる!?」
フィリコ「だってあなただけ名前知らないもん」
ウェルズ「ああ、確かに俺だけキミの前で名乗ってないな。風音君の友達のウェルズだ、よろしく」
風音「ん? 友達になった覚えは・・・」
ウェルズが風音の口を塞ぐ。
ウェルズ「ともかく、キミは植物とお話が出来るのか?」
今までいろんな事件に立ち会いいろんな星の人を見てきたが、植物と会話出来る者は初めて見た。
フィリコ「あなたは出来ないの? なんで出来ないの?」
ウェルズに向かって不思議そうな表情を向ける。
ウェルズ(これは結構・・・信憑性があるな・・・)
まだ本当に植物と会話が出来るのかどうかは分からない。
が、この子は今さっき眠りから覚めたところで、被害者がどういう風に殺されたか正確には知らないはずだ。
しかもこの場所に来た時には「被害者は毒殺された」としか伝えていなかったはずなのに、そのうえでハッキリと言った。その女の人が「刺した」と。
アキュラ「何を言ってるの!? 草と会話なんて出来るわけないでしょ! あなたシャロンの人よね、適当な事を言う変人の意見を信じて、私を犯人に仕立て上げる気!?」
大声で怒鳴るアキュラ。ひとしきり喋った後、フィリコヨーテを睨みつける。
フィリコ「ピィ・・・。この人嫌い・・・」
アキュラに睨まれたフィリコヨーテが、泣きそうな顔で風音の方を見る。
怖がっているのか、風音の全身を覆っている触手が強く抱き付いて締め付ける。
おかげで風音の首が深刻なくらい締め付けられて、お花畑が見えそうになっている。
落ち着ける為に、風音がよしよしと頭を撫でておく。
ウェルズ「信じるかどうかは一旦置いておいて、全部聞いてみよう。キミ、他に何か分かる事は無いか?」
フィリコ「まずその女の人が刺して~、女の人が外に出て行って~、刺された人が鍵を閉めて~、部屋の方に行こうとして倒れたって」
ウェルズ「なるほど」
現場が密室になっていた事に関しては、単純に犯人が何らかの方法で合鍵を作ったのだろうと予想していた。
しかし本人が鍵を閉めたと。
まず被害者は腹を刺された。凶器はかなり短いナイフだ。血もほとんど流れていなかった。
実際致命傷ではなかったのだろう。本人もまだ治療すれば助かると思っていたと思う。
そんな中で犯人は逃げた。
助けを呼ぼうと思ったが、まずは犯人がすぐに戻ってこれない様に鍵を閉めに行った。
ナイフを抜けば余計に血が流れて出血多量になるなど、そういった知識を持っていたのかナイフを腹に刺したまま行動し続ける被害者。
そして電話で助けを呼ぼうとリビングに向かう途中で、被害者にとっては予想外の出来事が起こる。
刃に仕込んであった毒で動けなくなり、死んだ。
という流れが考えられる。
そういえばドアの取っ手に付着した痕跡は、犯人によって全て拭き取られていた。
この説が正しければ、内側のドアの鍵部分には被害者が触った跡だけが残っているはず。
すぐに鑑識結果を調べると、ドア内側の鍵部分は犯人が触れていなかったせいか、そもそも拭き取られた跡が無かったと書いてある。
ウェルズ「・・・・」
犯人も犯人で、それくらい拭き取っておけよ。万が一触れてしまった可能性とか考えないのか。
これで鍵部分に拭き取られた跡があり、その上から被害者が触れた痕跡だけが残っていればもう、ほぼほぼ今の説で決まりだったのに。
ウェルズ「・・・にしても足音に心拍数に観葉植物の声。どれもこれもアキュラさんを犯人と示してるんだよな」
手帳を見ながら呟く。
風音「同時に、どれもこれも証拠にならないものばっかりだけどね」
風音が口を挟む。
そしてまずはゼロアの方を見る。
風音「足音は機械ですら分からなかったんだから、ゼロアの意見だけでは参考程度にしか考える事は出来ない」
続いて息吹を見る。
風音「心拍数は息吹も言ってた通り、純粋に体調不良からきている可能性もある」
息吹「その通りです。すぐに事件と結びつけようとする単細胞な誰かとは違い、あらゆる可能性を考えるその柔軟な思考。 感服致しました」
ウェルズ(何だろう・・・凄い鬱陶しいなこの子)
息吹だけつまみ出そうかな、とか考え始めるウェルズ。
風音が息吹の意見に頷いて、次はフィリコヨーテの頭を撫でる。
風音「フィリコの話も証拠にはならない。残念だけど植物の証言なんて、認められないだろうからね」
頭を撫でられている事に満足しながら、風音の方を向く。
フィリコ「証拠って何~?」
風音「一番大事なものだよ」
フィリコ「グミよりも?」
グミはフィリコヨーテの大好物。事前に消化液をかけなくても食べられる、美味しいお菓子だからだそうだ。
風音が首を縦に振る。
風音「もっともっと大事」
フィリコ「愛よりも大事?」
風音「急に難しい事を言うね・・・」
フィリコ「なんかね~? 最近ね~? 九重ちゃんが私の所に来て、愛が大事だって言うから」
風音「何やってんのあのおっさん」
よっぽど暇なのか。
風音がウェルズの方を向く。
風音「なんにせよ、僕が真実を語るとするよ」
ウェルズ「本当か? 何か分かったのか?」
まだ予定していた容疑者各個人の、犯行予想時刻の動きを聞いていないのに。
風音「うん。完全に犯人が分かった」
ウェルズ「頼もしいな」
風音が全員をゆっくりと見渡し、不敵に笑う。
そして携帯で「BGM 推理」と検索して出てきた音楽を流す。
辺りにちょっと怖めのBGMが結構大音量で流れ始めた。
ウェルズ「え・・・なんなのその演出」
風音が顎に手を当て、カッと目を見開く。
風音「犯人は・・・この中に居ます!」
ウェルズ「そういうのいいから、まず誰か教えてくれないか?」
風音「慌てなさんな。 ・・・推理の前に一つ確認したい事があります。アキュラさん」
指名されたアキュラがビクッとする。
アキュラ「なに?」
風音「あなた指に付け爪をしてますよね。それ両面テープタイプですか?」
アキュラ「そうだけど・・・何?」
アキュラが目に見えて動揺し始める。
風音「この家に来て爪を落としてしまった事とか・・・記憶にあります?」
アキュラ「・・・何の事かしら? 記憶には無いわ」
風音「じゃああれはアキュラさんの物じゃないのか・・・」
意味深な事を言う。
隣で息吹が手を挙げた。
息吹「失礼ですがアキュラさん。先程よりも異常な数値が出ています。本当に大丈夫ですか?」
イラっとしたアキュラが怒鳴る。
アキュラ「しつこいわよ! 大丈夫だって言ってんだからあんたは黙ってて!」
風音が続ける。
風音「いや実はね。さっき犬の様子を見に行ったらですね、こんな物が体に付いてまして」
真っ赤な付け爪をポケットから取り出す。
風音「最初はゴミが付いてるな~くらいに思ってたんですが、これ付け爪だと思って。 誰のかなと思っていたら、さっき二階から下りて来た時アキュラさんが付け爪をしているのが見えまして。 もしかしたら落としたのかな、と。 アキュラさんの落とし物じゃなかったんですね。良かった。失くして困ってるかなと思ってたんです。 良かったらこれ、いりません?」
アキュラ「い、いらないわよ。そんな犬に付いてたものなんて。それに一つだけもらってもしょうがないでしょ」
それっぽい事を言っているが、声が上ずっている。
ウェルズ(なるほど、既に証拠を掴んでたのか。道理で足音や植物の意見を否定するわけだ。物的証拠ほど確実なものは無いからな)
ウェルズが感心する。
あとはその爪を調べればいいだけだ。アキュラの様子から見ておそらく彼女の物だろう。
なんにせよ鑑識に出せば必ず持ち主の証拠が出る。両面テープならその部分を調べれば、いつ落とした物かまで大体分かるだろう。
家の正面から入ると監視カメラに映る為、塀を乗り越える手段を選んだのはいいが、その際に一つ爪が落ちたのだと推測する。
本人もどこかの段階で落とした事に気付いただろう。
探そうにも深夜で暗い事もあり、どこで落としたのか分からない状態で探すと証拠となる痕跡を残しまくる事になる。
おそらく翌日にでも探しに行こうかと思ってたんじゃないだろうか。
しかし被害者が無断欠勤をした事がない人物であった事と、わざわざ自分の休憩時間を使って様子を見に来たおせっかいな同僚の存在もあって、翌日の昼にはもう死体が発見されていた。
犯人としては困った事に、回収出来なくなってしまったのだ。
シャロンの捜査班も馬鹿じゃない。もちろん何か証拠は落ちてないか庭をくまなく調べたはずだ。
だが庭の捜査前に犬を犬小屋に移動させた際、庭の雑草か何かに付着していた爪が犬のおなかに引っ付いたのだろうが、そこまでは調べなかったようだ。
犬を調べなかった理由は、犬の調査をガレージから外に移す前に終えていたからなのだろう。
これはシャロンの落ち度かもしれない。一度調べ終わり移動させた犬をもう一度ひっくり返して捜査するなんて、マニュアルに無いし・・・なんて言い訳にもならない。
ウェルズ(移動させた時に犬のお腹に付着してたのか。参ったな。もう一回調べておくべきだったか・・・)
反省しつつ、大体ウェルズの中で考えがまとまる。
もうこの事件は解決したようなものだ。
しかし風音が爪をポケットにしまう。
風音「そうですか。じゃあこれは後で捨てときますね。 ・・・すみません皆さん、関係無い話をしてしまって。 では御要望に応えて、先にこの事件の犯人を言いましょう」
大きく一つ深呼吸をする。
風音がビシィ!! っとウェルズの方に指を向ける。
風音「今回の犯人は・・・ウェルズ! お前だ!」




