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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 初日乃玖


ウェルズ「え!?」


 驚いたと言うより、混乱した表情になるウェルズ。


ウェルズ「え・・・ちょっ・・・。 んっと・・・じゃあ、・・・一旦聞くわ。聞いてから殴るわ」


風音「殴る? 本性を隠しきれなかったかウェルズ。 ではここまでの流れを解説しましょう」


 風音はフィリコヨーテが植物と会話出来る事を知っている。そして嘘をつかない子だという事も知っている。

 だから観葉植物の証言を信じる前提ぜんていで話を進めていく。


 まず深夜零時前頃。

 この時間に被害者に愛人として会いに来ていたアキュラさんが訪問そして帰宅。


ウェルズ「待った!」


 ウェルズが止める。


ウェルズ「普通に訪問したって? だからアキュラさんは門にある監視カメラに写ってないって言ってるじゃないか」


 風音がやれやれと首を振る。


風音「被害者が妻子持ちである事を御近所さんは知っています。やはり社会人として、世間体せけんていを大事にしたかったんでしょうなぁ。愛人にはいつも、目立たない場所から忍び込むように入って、目立たない様に帰るよう指示していたと考えられます」


ウェルズ「へいなんか飛び越えてたら、その方が目立つだろ」


風音「塀の向こうは目立たない裏路地ですし、越える瞬間だけ見つからなければ問題無いでしょう。それに対し正面玄関はとても人目に付く立地だ。 愛人が正面玄関から入るのを繰り返す方が、いずれ噂になってしまいますよ。 ・・・続けます」


 帰宅前、アキュラさんは被害者と痴話喧嘩ちわげんかをしてナイフで腹を刺した。

 そしてそのまま怒って家を飛び出した。


ウェルズ「アキュラさんが刺してんじゃん!! じゃあ犯人俺じゃねーだろ!!」


 たまらずウェルズが突っ込む。


風音「最後まで聞け犯人!」


ウェルズ「誰が犯人だ! せめて容疑者だろが! いや容疑者ですらねぇよ!」


 風音が続ける。


 ナイフはとても短いものだったので、脇腹ならば治療が早ければ致命傷に至らない事は説明するまでもない事。ナイフのダメージが原因で、その場で死んだとは思えない。


 そして二時間ドラマとかで「ナイフを抜いたら血が吹き出して危険だ」みたいなシーンがよくあるので、そういう知識を持っていた被害者は、助けが来るまではナイフを抜かずにいた。

 腹にナイフを刺した状態のまま、フィリコヨーテが言ったようにドアの鍵を閉めに行ったのだろう。


ウェルズ「そのあたりの流れは、俺の予想と重なる部分も多いけどな。ただ風音君はナイフが刺された時点では死んでいないという主張な訳だろ? って事は、その時点では毒を盛られてなかったっていう説って事だよな? じゃあ被害者は普通に助けを呼べるじゃないか。 ナイフのダメージは大した事が無かったはずなのに、そのあとすぐに廊下で倒れていた事実が、風音君の主張と合わなくなってこないか?」


風音「やれやれ、口の回る犯人だこと・・・」


ウェルズ「だから犯人て呼ぶな。今のお前の立場からであっても、せめて容疑者って呼べ」


風音「容疑者・・・ね。どうせ一時間後には犯人と呼ばれているのに・・・。涙ぐましい抵抗ですね。 ま、いいでしょ。よく聞きなさい容疑者。被害者はナイフで刺されたんですよ? じゃあ分かるでしょう倒れた理由くらい。もちろん貧血ひんけつですよ」


ウェルズ「貧血? 現場にはあんまり血が流れてなかったけどな。 貧血になって失神するほどの出血をしていないだろう? って言うか、お前がさっき言ったんだろが。ナイフを刺したままの方が血が流れにくいとかなんとか」


風音「貧血ってのは、なにも出血の量だけで決まらないですよ。採血さいけつの時にほんのスプーン一杯分の血を取られるのを見ただけで、失神する人だっているんですから」


ウェルズ「まぁ・・・確かにいるけどな。その場合ほとんどが吐き気とめまいで、失神する例はまれだけど。ついでに言うならそれは正確には貧血じゃないけどな。 血を見る事が苦手な人が目の前で自分の血を抜かれている様子を見てしまった時に、血管迷走神経反射を起こしてるんだよ」


 風音がやれやれと首を振る。


風音「そうやって難しい言葉を使って私から知識マウントをとれば、容疑が薄くなるとでも思っているのですか?」


ウェルズ「思ってねぇよ馬鹿」


風音「やれやれ口の悪い容疑者ですこと・・・。では続けます」


 そして被害者は倒れる直前、玄関の鍵を閉めてリビングに戻る際、廊下の電気を消した。

 ここが大きなポイントだ。

 確かに風音は「植物から聞いた」というフィリコヨーテの主張を信じてはいるが、実は植物を証言者とするには一つ欠点がある。

 植物は暗い場所では眠ってしまうのだ。


 被害者は倒れた時から発見まで死んでいなかったのだが、観葉植物はそれを確認出来なかった。

 この廊下は窓が無く、観葉植物が置いてある奥の廊下の端は、灯りを付けなければ昼間でも暗い。


 つまり発見されるまで実は生きていたという大事な証言を唯一出来たはずの観葉植物が、あろうことか寝てしまっていたのだ。


 ・・・という風に風音が説明していると。


フィリコ「え~? でも今聞いたら、電気消したのは女の人だって言ってるよ~? それに暗くなったら寝ちゃうけど、すぐには寝ないから男の人が死んじゃう所までは見たって言ってるよ~?」


 ウェルズ以外の人からも否定的な見解が出だした。


ウェルズ「フィリコちゃんの言う通り犯人の可能性が高いだろうな。 被害者は手負いの状態で、しかも助けを呼ぼうとしている。入口の電気を消す理由が無い。 それに対してこの場所は電気が点けっ放しになってると、玄関から丸見えだ。夜中の間ずっと電気が点いていたら、不自然ではあるだろう。 どうせ被害者は毒ですぐに死ぬと思っていた犯人が、不自然な点を減らす為に去る際に消したんだろうよ。 わざわざ鍵まで閉めに行った被害者が再び電気を点け直さなかった理由は、点ける事でまだ近くにいる犯人に普通に動き回っている事に気付かれて、戻ってこられる事を警戒したのかもしれない。 ・・・それはともかく、風音君はフィリコちゃんの意見を信じる方向で話を展開してるんだよな? じゃあ今ハッキリと「その時に被害者が死んだ」っていう証言が出たけど。どうするんだ? 俺が犯人説は引っ込めてくれるのか?」


 風音がフィリコヨーテの頭をよしよしと撫でる。


風音「フィリコも含めて植物さん達はおっちょこちょいな所もあるからさ? 見間違いって事も考えられるんじゃないかな? 本当にその時に死んでたのかな? 倒れてただけじゃない? 断言出来るのかな? もう一回聞いてみてくれない?」


 ぷにぷにとフィリコヨーテのほっぺたをでながら、ニッコリと微笑んで頼んでみる。


フィリコ「ん~~? いいよ~~♡」


 ご満悦まんえつなフィリコヨーテ。撫でられるのが気持ちいいようだ。


 フィリコヨーテがジッと観葉植物の方を見る。

 しばらくして。


フィリコ「聞いたよ~」


風音「どうだった?」


フィリコ「絶対見間違いじゃないと思うけど、そこまで言われたら見間違いかもしれない気もするって~」


ウェルズ「おい簡単に馬鹿にくっするなお前!!」


 観葉植物に向かって叫ぶ。叫んだところでこの言葉が通じているかどうかは知らないが。


風音「曖昧あいまい、という事ですね。 では続けます」


 そして次の日の昼になって同僚がこの家を調べに来た。

 その同僚が治安組織シャロンに通報。

 シャロンからウェルズが派遣される。

 一緒に家に突入したウェルズが倒れている男性を発見。


 そして駆け寄り意識の確認をするフリをして・・・傷口から毒を注入したのだ。


風音「・・・以上が今回の事件の全貌ぜんぼうです」


 事の真相を全て語り終わった風音が、悲しそうな表情で今回の事件に思いをせる。


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