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カノン  作者: しき
第5.5話
51/206

風音ワングランプリ? 初日乃漆


ゼロア「犯行予想時刻の監視カメラの映像を見せろ」


ウェルズ「物音が少し聞こえる程度で何も映ってないぞ?」


 ウェルズが携帯で物音がする時間帯の映像を見せる。


 ゼロアが一度ザッと見てから、途中物音がする辺りに映像を戻しながら尋ねる。


ゼロア「この音は足音だろう? 何故これで犯人が分からない?」


ウェルズ「一応解析班が頑張ってくれたけどな。犯人もなるべく音を鳴らさない様に移動している事と、遠過ぎる事もあって何も分からなかった」


ゼロア「シャロンの解析の精度はその程度なのか・・・」


ウェルズ「機械に期待し過ぎても仕方ないよ。じゃあ何か? あんたはこの足音から何か分かるのか?」


ゼロア「体重50キロ前後。 音を殺す為に普段と違う歩き方をしているから、歩き方の癖から犯人を絞るのは難しい。 音を殺す動きとは別に所々不慣れな歩き方をしているから、おそらく足跡を調べられる事を想定して普段履かないサイズや形状の靴を履いている。くらいだな」


ウェルズ「・・・・・・・・・」


 ウェルズが手帳を開いて容疑者三人のプロフィールと足跡鑑定の結果を見る。

 息子の体重64キロ。上司の体重82キロ。愛人・・・49キロ。

 足跡の痕跡28センチの靴跡。しかし鑑定の結果新品の靴である事が判明しているので、事前に用意した可能性が高い。重心の掛け方が少し不自然。わざと合わないサイズの靴を履いている可能性も考えられるが、足跡の痕跡から音を殺す為に不自然な歩き方をしていた可能性も高い。何とも言えない。


 ウェルズが息をのむ。


ウェルズ「それはどこまで信用出来るんだ?」


ゼロア「さあな」


風音「信用云々うんぬんの前に、機械で証明出来ないならそれは証拠にならないよ」


 いつの間にか帰ってきていた風音が割り込んでくる。

 さっきまでタオルで風音を拭いていた息吹が、今度は携帯コロコロで風音の服に付いた犬の毛を取っている。


ウェルズ「帰ってたのか」


風音「あの犬をガレージから移動させたのは誰? ちゃんとストレスのケアをしてあげないと駄目だろ。主人に異変があった事を雰囲気で感じ取ってるみたいだから、ストレス溜まってたよ。体も汚いままだし、洗ってあげた方がいいんじゃない? 普通に体にゴミとか付いてたよ。一応僕がちゃんと取っておいてあげたけど」


ウェルズ「犬のストレスケアなんて余裕は無かったんだよ。 亡くなった男性のご家族が引き取る事になるだろうから、それまでは我慢しておいてもらうしかないだろ。あと体が汚いのは今日一日でどうこうじゃないだろ、死んだ家主に文句言ってくれ」


風音「は~~~、なるほどね。その言い訳の数々から予想するに、犬を移動させたのお前かウェルズ。そういうとこだよ、最近全然昇給しない理由」


ウェルズ「放っとけ」


 風音がゼロアの方を見る。


風音「ゼロア。残念だけどさっきの足音の話は引っ込めてもらおうか。機械で証明出来ない事を言っても、現場を混乱させるだけで証拠にならないんだよ。キミは探偵団のフィジカル担当。犯人が暴れだした時に活躍する体力要因なんだよ。犯人特定段階で出しゃばるのは止めて頂きたい」


ゼロア「思った事を言っただけだ。採用されるかどうかはどうでもいい」


ウェルズ「その前に風音君、探偵団って何?」


 危険なワードが聞こえた。


風音「探偵団は探偵団だよ。今日ここに集まった四人組が、どんな難事件も解決するカノンの探偵団って事だよ」


 息吹が後ろで拍手をしている。


ゼロア「俺を入れるな。馬鹿がうつる」


ウェルズ「四人って、一人寝てるじゃないか」


 ウェルズがフィリコヨーテを見る。


 ツィコ・フィリコヨーテ。異星人の中でも特に珍しい植物系亜人。

 葉っぱのような見た目と色の髪の毛と、木目もくめ模様がある皮膚。

 割と自由に体を変化させられるようで、普段は人の形をとっているが、よく木に化けたり全身をつる状にして体を何かに固定したりしている。


 言われてみればずっと寝たままなので、風音が起こしにかかりながら説明する。


風音「この子は探偵団のマスコットキャラクターです。 ほら、フィリコ。そろそろ起きて」


 ずっとゼロアに背負われたまま寝ているフィリコヨーテの体をゆする。


ウェルズ「四人しかいないのに一人は体力要因で一人はマスコットキャラなのか・・・じゃあこの探偵団で探偵らしい事ができるのって、実質二人じゃないか」


 すかさず息吹がその発言を訂正する。


息吹「勘違いしないで下さい。私は推理など出来ませんし、する気もありません。艦長のサポートが私の仕事です」


ウェルズ「じゃあ一人じゃないか・・・」


 風音がなかなか起きてくれないフィリコヨーテの頬をツンツンする。


フィリコ「ん~~~? あれ・・・・。ここ・・・どこ~?」


 起きた。


風音「おはようフィリコ」


フィリコ「おはよう風音ちゃん。・・・ここどこ?」


 フィリコヨーテが周囲を見ている。ついでにゼロアに背負われている事に気付いて、不思議そうな顔をしている。

 風音が不敵な笑みを浮かべる。


風音「実はここはね・・・殺人現場だよ!」


フィリコ「ピィィ!!」


 悲鳴を上げて顔を伏せる。


フィリコ「帰るっ! 帰る怖い! 嫌い!」


風音「大丈夫! 殺人犯は僕が捕まえるから! それに安心して。もし死んでる人がいるのが怖いんなら、それはもう居ないから」


フィリコ「ほんとに・・・?」


 恐る恐る顔を上げる。


 敢えてフィリコヨーテと目を合わさずに、風音が視線を下に向けてうつろな表情に変わる。


風音「その代わり幽霊が出るかもね・・・・。殺したのは・・・お前かーーーー!!! って」


 大きく目を見開いてフィリコヨーテを見る。


フィリコ「ピギィィ!!!!」


 悲鳴と共に、ゼロアの背中に顔がめり込むんじゃないかというほど顔を隠す。


 ウェルズが風音の頭をポコリと叩く。


ウェルズ「なんでそんなに怖がらせるんだよ風音君」


風音「探偵団のマスコットキャラとして、現場で怖がる可愛い子供っていうポジションを確立かくりつさせていきたいな・・・って」


 普段の風音なら子供を怖がらせたりしないのだが、ポンコツ化している今は探偵団優先の思考になっている。


ウェルズ「いらないだろそんな要素。可愛い子供は、ただ笑ってりゃいいんだよ」


風音「なるほど・・・確かに。可愛い子は笑ってるのが一番だ。キャラ作りをする方向は間違ってたかも」


 馬鹿なりに一瞬で反省して、路線変更を考える。

 プルプルと震えているフィリコヨーテに向かって、両腕を広げて見せる。


風音「ごめんね~フィリコ。ほら、こっちおいで~」


 フィリコヨーテが顔を伏せたまま首を振る。


フィリコ「いや! 怖がらせる風音ちゃん嫌い!」


風音「ごめんごめん。もうしないよ。帰ったら一緒に庭で昼寝しよう?」


 まるで「散歩しよう」と言われた時の犬のように、パッとフィリコヨーテが顔を上げる。


フィリコ「ほんとに?」


風音「ほんとに」


フィリコ「ポンポンする?」


風音「する」


フィリコ「じゃあ好き~~♡」


 ゼロアの背中から、風音の広げた腕に移動する。

 人間と同じ形状だったフィリコヨーテの全身が植物状の触手だらけになり、風音の全身に絡みつく。

 もう人間らしい部分は顔だけになった。

 残った顔の部分が、風音のおなかの上あたりに張り付く形で落ち着く。


ウェルズ「大丈夫かそれ、寄生されてない?」


 風音の全身がフィリコヨーテに絡みつかれて、緑色の触手だらけだ。

 ウェルズの言う通り何も知らずに初めてこれを見たら、植物に寄生された人間に見えるだろう。

 フィリコヨーテが形態変化した事で、彼女の着ていた服とズボンと、ついでにかぼちゃパンツが地面に落ちていたので息吹が拾ってたたんでいる。


風音「大丈夫。昼寝から起きるとこうなってる事がよくあるし」


 そう答える風音の全身のいろんな所で、触手状の物がウネウネとうごめいている


ウェルズ「俺なら人生終わったと思うわ、起きてそうなってたら」


風音「大袈裟おおげさな。 じゃあそろそろ現場に行ってみようか」


ウェルズ「そうだな」


 家に案内しようと歩き出したウェルズについていく形で歩きだす風音。

 早速転倒しかけた風音に、すかさず息吹が駆け寄って救おうとしたが。

 フィリコヨーテの触手が地面に伸びて傾いた風音を支える。


風音「ありがとフィリコ」


 胸付近にあるフィリコヨーテの頭を撫でる。


フィリコ「どういたしまして!」


 得意気な表情。


息吹「・・・・・・。 あなたも邪魔をするのですね・・・」


 そして息吹が恨めしげな眼で、その光景を後ろから見ていた。


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