風音ワングランプリ? 初日乃肆
フェクト中心街のとある民家前。
フェクトの治安組織シャロンの制服を着た、茶髪で欧米人のような顔立ちの大柄な男性職員が立っている。
とにかく明るく元気な男性。
彼が依頼人のウェルズだ。
もうすぐ風音がここに来るらしいので、家の前で待っている。
・・・と。
風音達が遠目に見えたので、ウェルズが風音に向かって声を掛けようとするが。
ウェルズ「・・・え?」
何かの冗談かと思い風音一行を見る。
女子高生のような恰好をした子と、全宇宙でもかなりレアな植物系亜人、そして超危険人物を連れてこっちに歩いて来ている。亜人は危険人物に背負われて寝ているようだ。
風音「あ、いたいた。 お~い、ウェルズ~~~!」
風音の方もウェルズを見つけて、テンション上がって駆け出す。
そして駆け出した一歩目で、躓いて転びそうになる。
しかし隣に居たゼロアが風音の身体が傾く前に首を掴んで引き起こす。
ゼロア「お前何なんだ? ふざけてる訳じゃないよな? 今日だけで何回転ぶ気だ」
ポンコツ化の件を聞かされていないゼロアにとっては、冗談でやっているようにも見える。
・・・が、人体の動きを観察するのが得意なゼロアの目にも、わざと躓いているようには見えない。
どう見ても一回一回本気で転びそうになっている。だから余計意味が分からない。
風音「かたじけない。ありがとゼロア」
首を掴まれたままヘラヘラしながら、ゼロアの腰をポンポンと叩いて礼を言っている。
どうやらあまり反省していない様子の風音。
そして反対隣りに立っていた息吹が、不満そうな表情。
息吹「失礼ですが、ふざけているのはゼロアさんの方です。 転びそうな艦長を助けるのは、介護専門の私の仕事です。一体何回邪魔をすれば気が済むのでしょうか?」
このメンバーで出発して、二回目までは風音がこけかけた時に息吹が防いだ。
しかしそれ以降、全部ゼロアが首を持って引き起こしている。
息吹が助けに行こうと動き出すよりも早くゼロアが反応するので、息吹の助けが全く間に合わない状態が続いている。
ゼロア「お前が止めて起こして安否確認をして風音がお前を誉めて礼を言ってお前が泣いて・・・の一連の流れが全部遅いからだ。いつまで経っても目的地に着かないだろう。 専門だと言うなら躓く前に止めて見せろ」
息吹「無茶な事を言わないで下さい。先に言っておきますが、ご飯を食べさせるのは私の仕事ですから」
ゼロア「・・・何を言っている?」
意味が分からないゼロア。
そうこうしている内に、ウェルズの目の前まで来る。
ウェルズ「ちょっと風音君」
ウェルズが風音だけを呼んで、風音が近付いてきてから他三人には聞かれない様に背を向ける。
ウェルズ「おい、どういうつもりだ?」
風音「何が?」
ウェルズ「女子二人の人選がよく分からないのはこの際どうでもいい。それよりなんで名無しを連れて来た?」
名無しとはゼロアの事だ。
異星人で戦闘民族。外見年齢二十代後半。身長216センチ。
灰がかった白色の髪の毛で、武骨な身体で大柄という、見るからに戦闘民族。
戦闘においてカノンの中で一番強い人物。
ゼロアはシャロンから名無しと呼ばれ、超危険人物と認識されておりブラックリストにも載っている。
治安組織シャロンにとってゼロアは、敵側の人物と言っても過言ではない。
風音「シャロンの仕事をゼロアに手伝ってもらうのは、別に初めてじゃないし。この前の連続殺人事件の件だって、ゼロアが真犯人の顔を特定する為に動いてくれてたでしょ」
ウェルズ「この前の・・・? ウチの職員が犯人だった時のやつか?」
風音「それ」
ウェルズ「それってシャロン職員が居ない場所での協力だろ? 今は俺が居るじゃないか。職員の前に名無しを連れてくるなよ。危ないだろ俺の命が」
確か過去に一度シャロンの親組織であるシエロという組織の本部が、ゼロアに襲撃された事件があったはずだ。
世間にはその件が公表されていないので、その時の詳しい事情はウェルズも知らないが、結果なら聞いた事がある。
職員全員が病院送りにされたそうだ。
ウェルズも最初聞いた時は、冗談かと思ったほどだ。本部がやられるなんて、組織全部が敗北したようなものだから。
しかしどうも事実だったらしい。じゃあそんな奴と関わりたくない。
そんな不安そうなウェルズに対し、笑顔を向けて返事をする風音。
風音「大丈夫!」
風音がドンと胸を叩く。
そしてゼロアに向かって振り返る。
風音「ゼロア! これから艦長命令を言い渡す! よく聞けい!」
ゼロア「・・・本当に今日はどうしたお前」
風音「絶対に今日はこのウェルズを殺すな! 以上!」
ゼロア「・・・なんだそれは? 明日ならいいのか?」
風音「好きにしろ!」
ウェルズ「おい風音君、ちょっと」
後ろから風音の服を引っ張って、回れ右をさせる。
ウェルズ「あほかお前」
風音「誰があほだ」
ウェルズ「お前だよ。ちょっと確認するが、名無しって冗談とか言うのか? あれ本気で言ってるんじゃないよな?」
風音「ゼロアはあまり冗談は言わないね。いつでも本気のナイスガイだよ」
ウェルズ「じゃあ今すぐ一生俺を殺すなって命令しとけ馬鹿」
ウェルズが裏拳で風音の額をコツンと叩く。
風音がゼロアの方に振り返る。
風音「ゼロア。君には失望したよ」
ゼロア「なんだ急に」
風音「ゼロアが明日ウェルズを殺すって言ったせいで、僕が馬鹿呼ばわりされたじゃないか」
ゼロア「殺すとは言ってない。お前のふざけた命令に付き合ってやっただけだ。 ウェルズだったか? 気にしているなら手出しはしないから安心しろ。 あと風音。今日のお前が馬鹿呼ばわりされるのは当然の事であって、別におかしな事じゃない」
それを聞いてウェルズがホッとする。
カノンの皆には理解出来ないかもしれないが、シャロン職員にとってゼロアの発言の一つ一つは特に警戒しなければならない。
仮にどう見ても冗談で言っているように見えても、冗談と捉えてはいけないのだ。
常に全力で警戒される。当たり前だがそれがブラックリストに載るという事なのだろう。
息吹「失礼、少し宜しいでしょうか?」
横で見ていた息吹が、我慢の限界に達したらしく口を挟む。
息吹「黙って聞いていればあなた達。艦長を馬鹿だあほだと言いたい放題。艦長をポンコツにした主を馬鹿にするならいざ知らず、艦長を馬鹿にするのは私が許しません。ここで私が二人とも成敗してあげましょうか?」
息吹が前後に大きく足を開き、少し腰を落として腕を軽く曲げる。
プログラム・殲滅の型。
大袈裟な名前が付けられているが、大して強くは無い。
そりゃロボットだし戦闘可能なタイプなので一般人よりは遥かに強いが、ここに居る(寝ているフィリコヨーテ含め)四人には遠く及ばない。
ウェルズくらいになると見ただけでも大体実力が分かるので、逆に息吹の言動に少し驚く。
ウェルズ「キミよく名無しに喧嘩売れるね。・・・それよりちょっと聞きたい事がある。・・・っとその前に」
ウェルズが風音の方を見る。
風音の事に関して息吹に聞きたい事があるので、邪魔されない様に風音本人には少し離れていてもらう。
ウェルズ「風音君。あそこの噴水前で遊んでる獣人の子供達って、風音君の友達じゃないのか?」
少し距離はあるがウェルズが指をさす方向には噴水広場があり、その前で三人の子供達が遊んでいる。
ウェルズは風音の交友関係を知らないが、噂には聞いた事がある。風音には獣人の子供の友達がめちゃくちゃ多いらしい。
だから適当に言ってみた。
風音「キコキ二とウィズリンとミュンジュソッピアだね。今日も元気で可愛いなぁ」
獣人の子供を見ているだけで顔が緩んでいる。
ウェルズ「よくこの距離から獣人の子供の見分けがつくな・・・ほぼほぼ同じに見えるのに」
そしてやはり友達だったか、と安心して。
ウェルズ「五分間だけなら遊んできてもいいよ」
風音「いやさすがに?」
殺人絡みの仕事に来てる時くらい、遊ぶのは控えるべきだろう。
殺人事件という重大性を考えると、ふざける事は出来ない。いかにポンコツになろうとも、その辺の理性はまだ生きている。
ウェルズ「子供達の笑顔を守るのも治安組織の大事な仕事だ。 行ってくれるね?」
でも依頼人から指示が出たのだから行くしかない。
風音「おっけ」
ダッシュで子供達の方に駆け出す。
途中転びそうになってもお構いなしに前進していく。
息吹「ああ、危ないですよ艦長」
息吹が付いて行こうとしたが、ウェルズが肩を掴んで止める。




