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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 初日乃伍


 ウェルズに止められた事に、不満そうな顔で振り返る息吹いぶき


ウェルズ「さてキミ、あ~・・・名前は?」


 息吹に尋ねる。

 ウェルズは仕事柄、宇宙艦カノンにいる乗組員は大体把握はあくしているつもりだったが、この子は知らない。


息吹「あなたに名乗る名など有りません。まずは先程艦長を馬鹿にした事の謝罪からです」


 息吹がそっぽを向く。


ウェルズ「すまなかったね。これでもキミの所の艦長とは友人なんだよ。仲が良いほど言いたい事が言えるだろ? それだけの事だから気にしないでくれ」


 その発言にむしろカチンとくる息吹。


息吹「・・・なんですって?(なんですか今のは。私より艦長と仲が良いつもりですか?) 私は介護が仕事ですから、誰に対してもどれほど仲良くなろうと暴言は言いません。暴言を言い合える仲だからと言って、そんな事で勝った気にならないで下さい」


 初対面なのに、もうウェルズの事を嫌っている様子。

 ウェルズがゼロアの方を見る。


ウェルズ「なんか俺この子に悪い事したっけ?」


 普通にゼロアに話しかけてみる。

 さっき手出ししないという約束をしたし、今のこの状況、まだゼロアが一番話が通じそうだ。


ゼロア「さあな。それより聞きたい事があるんだろう? さっきこいつが言った「風音をポンコツにした主」 意味が分からんが俺も気になる。 風音の様子がおかしい事に関りがありそうだ。 まずこいつの主人はアリエイラという名の・・・・・・変人だ」


 ゼロアはアリエイラの事をよく知らないので、今ので知っている限りの情報を伝えたつもりだ。


ウェルズ「アリエイラさんなら知ってるな。ロボット職員の生みの親で、超美人のあの人だろ?」


 以前仕事で見た事がある。しかもシャロンで働いているロボット職員達の生みの親だと聞いて、驚いたものだ。

 しかし今の発言に疑問があるようで、ゼロアは首を傾げる。


ゼロア「美人か? 誰かと間違えてないか?」


 ゼロアは戦闘民族なので、そもそも弱い奴は眼中に無い。

 周囲の評価ほど、アリエイラを美人だと思った事が無い。


ウェルズ「俺が見たのはこう・・・腕に流線型の模様がある人なんだけど」


 腕に指で線を引いて説明する。


ゼロア「そうか、じゃあそいつだ」


ウェルズ「そのアリエイラさんが主人って事は、この子もロボット?」


 息吹の方を手で示しながら尋ねる。


ゼロア「多分な」


ウェルズ「多分・・・って。同じ船の仲間なのに適当な」


 ウェルズの意見は無視し、息吹の方を見る。


ゼロア「それよりお前、さっさと答えろ。さっきの発言はどういう意味だ」


息吹「・・・・・・」


 今更だが、息吹が自分の失言に気付く。

 今回の作戦。風音を科学の力でポンコツにして、その状態のまま仕事を成功させシャロンからの評価を上げる。

 これを成功させる為の第一条件として、シャロン側に風音が今日調子が悪い事をなんとなく気付かせなければならないが、同時にこちらが意図してポンコツ化させている事を知られてはいけない。

 でもさっき勢いでほぼほぼ言ってしまった。


 質問を拒否し黙秘権もくひけんを行使してもいいが、風音が本調子ではないうえその理由すら分からないとなると、仕事自体が無くなってしまうかもしれない。

 息吹が高速で思考を巡らせ、最適解を見つける。


息吹「主が新しい発明をしまして。(え~~・・・と、名前をどうしましょうか・・・)その名も「恋をするとどのくらい盲目もうもくになるのか検証機」です」


ウェルズ「なんだそりゃ」


 息吹が考える最適解。

 全てが嘘で構築こうちくすると、バレやすくなる。だから嘘と真実をり交ぜる。

 アリエイラが関わっている事を匂わせてしまったからには、今更そこをごまかすと余計怪しくなる。

 だからもういっそ、アリエイラが機械を使って風音に何かをしたという事は事実をそのまま伝える。

 しかもそれにより少し様子がおかしくなっているというのも言ってしまうしかないだろう。


 そもそもアリエイラの計画では、風音の調子が悪い事をこのウェルズに知っておいてもらわないといけない。

 ここまでは事実を伝えても良い。


 しかし機械のせいで、意図的にただただポンコツになっているという事は隠す。

 これだけは知られてしまっては困る。計画がおじゃんだ。

 それ以前にそれを知られては十中八九じゅっちゅうはっくウェルズが、そんな状態の奴を殺人事件に関わらせるわけにはいかないと言い出すだろう。


 あくまで特定の状況でほんのちょっといつもより様子がおかしくなっている、くらいの認識にさせないといけない。


息吹「恋は盲目もうもくと言います。人は恋に落ちていると、第三者の目からはおかしな行動を取っていても、普通の行動だと思って我が道を突き進んでゆくもの。それを極端に表現させる様にした機械です」


ウェルズ「何故そんなものを作ったんだ?」


 当然の疑問。その機械の意図が分からない。


息吹「その盲目状態のせいで悪い女に大金をみついだり、悪い男に騙され自分の体を犠牲にしたり・・・。過去に世界でどれほどの被害があった事か。 ですからその機械を使い検証し、盲目状態から目を覚まさせる画期的な方法が見つけようとしていたのです。(うん。即興そっきょうにしてはそれらしい事が言えてますね) その活動に感動した艦長が、ぜひ協力させてくれ、自分を使ってくれ、と。 そしてその検証の最中に仕事の依頼が来たのです」


ウェルズ「なるほど。解決方法を見つけることが可能なのなら・・・大事な検証ではあるか。盲目的になっている認識を一般的な状態に戻す・・・って事だよな。 応用すればカルト宗教にはまってしまった人とかも救えるのかもな」


 一応納得した様子。


ゼロア「恋・・・? 具体的にその機械を使うとどうなる? 瞬時に誰かに恋をして盲目状態になるのか?」


息吹「え?」


 そこまで考えてなかった。


 すぐに取りつくろう。


息吹「私も開発者ではないので詳細は・・・。ただ、今艦長の注意力が多少散漫さんまんになっている事は見ても分かると思います。 ですのですでに恋はしているはず。(という事にしておかないと、話の整合性せいごうせいが取れなくなりますよね。問題はどういう基準で誰を好きになっている事にするかですね・・・) 多分・・・近くに居る人を好きになるのではないでしょうか?」


 という事にしておこう。


ゼロア「多少散漫になっているなんて生易しいレベルじゃないが・・・それよりその機械でれる対象は女だけだろうな?」


 嫌そうな顔をするゼロア。


息吹「さあ(どこを気にしているのでしょうかこの人は。艦長が男性を好きになる訳が無いのに。それだけ主人の機械の効果が凄いと評価してくれているという事でしょうか)どうでしょうね」


 マルチタスク脳の息吹は、凄く短い言葉を喋っている間に、遥かに長い考え事を済ませている事もある。


ウェルズ「風音君か・・・顔だけならアリっちゃアリだな」


 仮にれられた時の感想を言うウェルズ。


 確かに風音は見た目ほぼ女子ではあるが・・・。


ゼロア「・・・・・・」


 ゼロアがウェルズをゴミを見るような目で見る。


ウェルズ「いや冗談に決まってるだろ」


 ゼロアに向かって言っておく。


ゼロア「たちの悪い冗談はやめろ。寒気がする」


ウェルズ「俺だって常識くらいあるよ。 風音君と付き合うなら、ちゃんと性転換してもらってからにするって」


ゼロア(・・・常識? そういや最近そういう主張のやつが多いな・・・気持ちの悪い連中だ)


 口にこそ出さないが、やはりウェルズを害虫を見るような目で見る。


 「裏側」と呼ばれるここではない宇宙。

 そこではある程度文明が進んだほとんどの星で、同性愛が白い目で見られる事が多い。

 そこまではゼロアも理解出来る。

 戦闘民族としては、男が男に惚れるなんて有り得ないからだ。


 しかし裏側で同性愛が白い目で見られる理由は、戦闘民族であるゼロアの考え方とは全く方向性が違う。

 同性のまま付き合ったり結婚したりする事に、生産性が無いと思われているからだ。

 なぜなら裏側では人生で一度だけ、無料でリスクもほぼ無しで性転換できるから。

 それも本当に全身が、元々違う性別で生まれて来たのかと思うくらい完全に転換させる技術がある。二度目以降は多額のお金が必要になるが。

 だから人生のある時期に自分と同じ性の人を好きになったのなら、まずは好きになった側が性転換するのが常識らしい。


 異性同士で結ばれる事が常識とされている星では、そういった環境が整っているのに同性のまま付き合う奴が居たら「何故無料で転換できるのに、転換しないまま付き合ってるんだ? 頭おかしいのか?」となる。

 もちろん同性同士のまま付き合いたいという人達も一定数居る。そういう人達は、その考えを受け入れてくれる星に移住する事が多いようだ。

 逆に言えば裏側の大半の星では性転換さえしていれば、元同性だろうがすぐ受け入れられるし、周囲からもそれをからかわれたり白い目で見られる事は無い。


 この感覚は開星かいせいしたばかりの地球の人達にはまだ馴染なじんでいないようだし、ゼロア(や戦闘民族たち)にいたっては、この考え方そのものが気持ち悪いと思っている。


 そういった裏側の人達の感覚の件はともかく。

 ゼロアがウェルズに対し「こいつとは性格が合わないな」と思いながら、話を戻す。

 

ゼロア「・・・なんにせよ筋は通っているな。最初に風音がつまずいて転びかけたのを息吹こいつが救った。それで機械の効果が発動し風音はこいつに惚れ、注意力が散漫さんまんになった。そのあとは注意をく為にこいつの前で転び続けたという事か」


 ここまで起こった出来事を踏まえ、ゼロアがめちゃくちゃ都合よく解釈かいしゃくしてくれた。


息吹「その通りだと思います(悪くない流れですね)」


 調子が悪い状態が機械によるものだとウェルズに伝わってしまった事も、予定外だったが逆に良い事だと思う事にしよう。

 これで仕事を解決出来れば、そんな状態でなお仕事をこなせるという事が評価に繋がる。評価が上がれば、主がカザワンで優勝出来る。


 満足する息吹をよそに、ゼロアはいつになく真剣な表情。

 転ぶのを助けた息吹に、風音が惚れたという所が引っ掛かっているようだ。

 優しくすると惚れられてしまうのか?


ゼロア(・・・三回目以降は全部俺が助けてるな。・・・いや待て最後に助けた時、俺の腰に触ってこなかったか・・・?)


 なんかヘラヘラした表情で腰を触ってきていた気がする。

 あの時の風音の「ありがとゼロア」という声と共に、ゼロアの腰をポンポンと叩いていた時の映像が、何度も頭の中でリフレインする。


 ありがとゼロア。

 ありがとゼロア。

 ありがとゼロア・・・。 ポンポン。


ゼロア(・・・・・・・・・!!)


 ゼロアが総毛立そうけだち、危機感をあらわにする。


 得体の知れない恐怖に駆られるなど何年ぶりの事か。


ゼロア「・・・よし。風音の調子も悪いようだし、今日は止めにしよう」


息吹「・・・え?」


 一瞬呆ける息吹。

 

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