表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カノン  作者: しき
第5.5話
47/206

風音ワングランプリ? 初日乃参


 目の前に置かれたポンコツ製造機を見ながら。


風音「純粋に嫌なんです。怖いです」


 ちょっとアリエイラには一旦落ち着いて考えてみてほしい。

 機械の力で意図的にポンコツになるって凄い事だよ。

 なんか変な電波を受信しそうだ。


アリエイラ「大丈夫ですよ。ブラウニーさんを見て下さい、いっつもヘラヘラしていますよねあの子。あの子には世界がお花畑に見えているのです。あれと同じになるだけです」


風音「それの何が大丈夫なんですか」


 風音の反論など無視し、早速機械の配線の先にある球状の物質を風音の頭に取り付けようとする。


風音「いやちょっと待ってって」


 風音が振り払おうとするも。


アリエイラ「息吹いぶき。風音さんを取り抑えておきなさい」


 息吹に指示を出す。

 新たな指示が出たので、黙っていた息吹が口を開く。


息吹「忘れたのですか主。私の中では主よりも艦長の方が、権限が上です。主の命令であろうが、艦長の意志にそむく行動はしたくありません」


 珍しく息吹が指示を拒否する。


風音「さすが息吹。アレな主人とは違うね」


 褒められた息吹が満足そうな顔をする。

 そんな息吹に呆れ顔のアリエイラが。


アリエイラ「従者の心得を忘れているのはあなたの方です。 従者とは奴隷ではない。人に害を与えない行動の選択なら、息吹自身の意志こそが最も権限を持っている。と言ったでしょう? 今はあなたがどうしたいのかを考えなさい。 例えば・・・風音さんがポンコツになれば、介護ロボであるあなたに頼る事があるかもしれませんね?」


息吹「え・・・」


 ゾクッとする。


息吹「艦長が私に頼る・・・?」


 よく考えれば艦長と喋った事や雑用を頼まれた事はあるが、艦長に介護ロボとして頼られた事は一度も無い。


 息吹の手がブルブルと震える。

 そしてゆっくりと風音の方を見た。


息吹「艦長が・・・私から介護を受ける・・・?」


 ハァハァと息が荒くなり、息吹が両手で自分を強く抱きしめる。

 今までにないほど震えている体を、必死で抑えている。


 階段から落ちないように、艦長の手を取ってあげる息吹わたし

 食事をぽろぽろ落としてしまう艦長に、食べさせてあげる息吹わたし

 睡眠おやすみのお供をしてあげる息吹わたし。等々・・・。


 ゾックゾクする。


息吹「あ・・・ あぁ・・・」


 全身ガクガクと震えだした。

 介護ロボとして、これ以上に幸せな事なんてこの世にあるのか。


 シュインッ! っと何らかの機械音が艦長室に響く。


 息吹が高速で風音の背後に回った。

 ガシッとそのまま後ろから抱きしめる様に風音を抑える。


風音「う、裏切ったか息吹!」


息吹「すみません艦長・・・。仕方が無かったのです」


 幸せそうに目をつぶって、ギリギリと締め付ける。


風音「はぁ・・・」


 ため息。

 一応息吹の行動にノッてはあげたけど。

 まぁこうなると思ってたよ。

 力尽くでほどいても息吹の腕が壊れるだけだし、仕方なく受け入れる。


 テキパキと取り付け作業を行うアリエイラに、最後に一つだけ確認する。


風音「これ本当に一日だけ?」


アリエイラ「それは問題ありません。催眠状態のようなものと言いましたが、実際の催眠と同じで後遺症も無いですし、ずっとかかりっ放しなど有り得ません。必ずいつかは覚めます。それをおよそ一日に設定してあります。本当は約二日半まで設定を伸ばせるのですが、カザワンの邪魔になりますから」


風音「一時間とかに出来ないもんですかね?」


アリエイラ「それは無理です。設定上は可能ですが、カザワン的に無理です」


風音「もういいよその大会。アリエイラさんが一位で。だから一時間にしましょうよ」


 その言葉に、参加者の他二名から異論が出る。


レスタ「残念ですがそういう訳にはいきませんよ。僕だって初代一位になりたいですし」


ルミナ「当然私もです。ここは黙って受け入れるしかないですね」


アリエイラ「何より私が納得出来ません。そんな形で一位になるなんて。 ・・・よし、準備完了」


 そして瞬時に開始のスイッチを押す。


風音「え? ちょっと、心の準備とか・・・」


 って言った時には。


アリエイラ「はい終わりました」


 もう機械を取り外しにかかる。

 同時に抑えていた息吹も離れた。


風音「え? もう終わった?」


 電気が流れた感じは無かったし、自分の中で何か変わった気もしない。


アリエイラ「あぁ、言い忘れてましたが・・・」


 思い出したように何かを言いかけるアリエイラ。


 だが風音は聞いていないのか、自分の体の何が変わったのかを確かめる様に、腕を伸ばしてみたりしている。


アリエイラ(なるほど。風音さんはこういう状況で私の話を聞かずに、自分の興味を優先するような事はしない。早速ポンコツになっているという事ですね)


 話を聞いてもらえなかったアリエイラが、機械の効果に満足そうに頷く。

 そして風音が椅子から立ち上がろうとした時。


風音「おっと」


 椅子が傾いて、風音が転びそうになる。

 それを背後に居た息吹がすぐに横に回り込んで、抱き留めて転ぶのを阻止する。

 これが介護ロボの本領だ。身近で転びそうな人が居た時は、すかさず全身を使って止める。


 そして手を取って、ゆっくりと風音を椅子に座らせる。


息吹「大丈夫でしたか?」


 これも介護のマニュアル通り。風音に安否の確認を行う。


風音「うん大丈夫、ありがとね」


 そう言って息吹の頭を撫でると、一瞬息吹がフリーズした。


息吹「・・・いえどういたしまして(あぁ・・・一生このままでいいのに・・・)」


 息吹が返事と同時に、歓喜の涙を流して微笑む。


風音「な・・・なんで突然泣いてんの息吹・・・」


 なんか変わった事でもあったか?


アリエイラ「息吹の事は放っておいてください。 それより重要な事を言い忘れていました。この機械の特徴としてですね、催眠とほぼ同じだという事は何度も言ってきました。つまり効果も同じなのです」


風音「どういう事?」


アリエイラ「機械の効果が出ている間、本人がポンコツになった自覚がありません。普通にいつも通り行動していると思っています」


 風音がいつになく真剣な表情で、ふむ、と頷く。


風音「ごめん。よく分からなかったからもう一回言って?」


アリエイラ「いえもう結構です。早速機械の効果が出ているようで何よりです」


 困った様子の風音と、満足するアリエイラ。


 ピロリン♪


 そんな中、風音の眼前にあるスパコンから仕事の通知音が鳴る。


風音「あ、仕事の依頼かな?」


 早速スパコンを操作する。


アリエイラ「あら、素晴らしいタイミングですね」


 出来れば機械の効果中に、シャロンから何らかの仕事をけ負って欲しいと思っていた。

 おかげで手間が省けた。もし今仕事の依頼が来なかったら、こちらからどんな仕事でもいいから回してくれと頼もうと思っていたところだ。


風音「あれ?」


 スパコンを操作しようとしていた風音が声を上げる。

 仕事のメールを開く方法をど忘れしたようだ。


風音「普通とはちょっと違うんだったな」


 少し悩んでいると、それを察したのかレスタが声を掛ける。


レスタ「個別っていうところから、仕事のらんをクリックしてパスワード。そのあと今来たメールをクリックして、それがシャロンからの依頼なら、それ専用のパスワードを打てば開きます。シャロン以外からの依頼なら、二回目のパスは不要です」


風音「ああ、そうか。パスワードって何だったっけ?」


息吹「0004IBUKIDAISUKI、とかではないでしょうか?」


 息吹も知らないので勘で言ってみる。早速風音が打ち込んでみたが、どうやら違ったようだ。

 間違っていた事に謝る息吹と、それを許して頭を撫でる風音。そしてまた涙を流す息吹。


 そんな茶番はさておき、レスタがパスワードを知っていたので代わりに打ち込む。


 ここまで黙って様子を見ていたルミナが、アリエイラに質問する。


ルミナ「アリちゃん、これってポンコツ具合を設定出来ないのかな? ちょっとこれはやりすぎって言うか、仕事が出来る状態じゃないような気もするけど」


 アリエイラが少し困った表情を作る。


アリエイラ「ポンコツ具合の設定ですか。盲点でしたね。弱中強くらいは選べるようにしておいた方が良かったのでしょうか。 ・・・でもブラウニーさんも大体こんな感じですし、一日くらいどうにかなるでしょう」


ルミナ「そうかな? ブラウニーも大概たいがいだけど、ここまでではないような・・・。 このレベルまで仕事が出来なくなっちゃったら、そもそも仕事を完了出来ないんじゃないのかな。それはそれで困るのよね、アリちゃんの機械を正しく判定出来なくなるって事だし」


 同じエンジニアとして、率直そっちょくな意見を言う。

 ルミナとしても、対戦相手に勝手に自滅されても面白くない。

 ちゃんと想定通りの結果を出して貰って、それを風音に正しく判定してもらいたい。

 全力のアリエイラとレスタを叩き潰す事に意味がある企画なのだから。


アリエイラ「ふむ、そうですか。 ルミナの意見はいつも的を射てますからね。ルミナからそう言われると、こっちもちょっと不安になりますね」


 アリエイラにしては珍しく弱気な発言。

 普段は自分こそが正義であり、自分より正しいものなど無いという態度のアリエイラだが、同じ分野で活躍する天才の意見は意外とすんなり受け入れたりもする。


ルミナ「と言ってもアリちゃんの理論で言うなら、ある程度以上はポンコツでないと意味が無いわけだし。一旦様子見ね」


 エンジニア同士で総評している間に、スパコン前では仕事のメールが開いたようで音声が流れる。


「えーっと、こちらウェルズ。この音声メールは風音君が見てくれているのかな? もし他の人が見ているなら風音君に伝言を頼む」


 という出だしから始まった。

 ウェルズとはフェクトのいう人工島の治安組織「シャロン」の男性職員。

 風音とは顔馴染みであるとともに、犬派猫派争いで超敵対している人物でもある。


「密室殺人事件があってね。容疑者を三人までしぼったんだが、誰が犯人か全く分からない状態なんだ。確か風音君って人の嘘を見破るのが得意だったよな? 個人的なお願いだから報酬は凄く安いが、小遣い稼ぎにちょっと応援に来てくれないか?」


 という、しょうもない依頼だった。

 いや内容は殺人だから依頼内容そのものはしょうもなくは無い。そうではなく、シャロンからの依頼は本来高報酬のはずなのだ。

 ただこれは本当に安い仕事だ。シャロンからの依頼だと思ってメールを開くと、がっかりするパターンのやつだ。


風音「この間似たような仕事を手伝ったから、味をめたのかな。その時も嘘を見破たって意味ないって言ったんだけどな。僕の目だけでは証拠にならないからね。ちゃんと証拠を掴んで解決しなきゃ」


 呆れたように言う風音。


レスタ(機械でポンコツになってるって割には、まともな事を言ってるな・・・)

 

風音「よし、こうなったら僕が探偵団を結成して頑張るしかないか!」


レスタ「え? なんですかその流れ」


 やはりどこかネジが壊れている。


風音「よし、メンバーを集めよう。まずはマスコットキャラクターが欠かせないからフィリコだろ、それとあとは・・・探偵団にはフィジカル要因も必須ひっすか。じゃあゼロアでいっか。探偵団は四~五人が相場そうばだからもう一人か。よし、じゃあこの中の誰かから選ぼう」


 今部屋に居る四人に目を向ける。

 しかしルミナが手を振って拒否する。


ルミナ「ぜひ行動を共にしたいところなんですけど、カザワン中ですから。 私達三人が直接手を貸すような行動は出来ません。場合によって不正に繋がります」


 よほどこの大会に気合を入れているのか、ルールを遵守じゅんしゅする方針のようだ。


風音「そっか。じゃあ息吹は今日一緒に仕事出来る?」


 そう息吹に尋ねると、待ってましたとばかりに笑顔で答える。


息吹「もちろん。 (まさか一緒に仕事をする日が来るなんて。この機会に有用性をアピールしておかなくては・・・)それに主人の機械の影響で今日一日、艦長は転びやすくなっています。どうか私を常にそばに置いてください」


 喋っている最中にも高速で物事を考える息吹。


 しかし息吹の参加にルミナが少し不満の表情。


ルミナ「う~~ん・・・。 一応息吹もグレーなのよね。カザワン参加者じゃないけど、明らかにアリちゃん陣営の子だし」


アリエイラ「いえ、むしろ監視要員として息吹に行かせましょう。仕事中の風音さんと、周囲の評価を見て来て貰います。心配しないでルミナ。息吹は私の不正に繋がるような行動はしません」


ルミナ「まぁ・・・ね。今の風音さんだけで仕事に行かせちゃうと、肝心かんじんの機械の性能がどうだったかの判断が出来ないしね。関係者を一人付いて行かせる方が評価しやすいか・・・」


風音「・・・じゃあもう話は終わった?」


 なんか放っておいたら話がまとまったようなので、息吹の参加が決定した。

 早速他のメンバー、まずはゼロアに内線を掛ける。


レスタ「いやちょっと待って下さい。サポートの息吹さんはともかく、そのメンバーは絶対不向きですって」


 探偵団って事は、推理をしに行くって事だろうに。

 息吹は風音のサポート要員として付いて行くだけで、仕事内容には関わらない。

 実質仕事をするのはポンコツ化した風音と、脳筋のゼロアと幼児並みの頭脳の亜人フィリコ。仕事をする前からどうにもならない事くらい分かる。


 レスタが人員集めの見直しを要求するが、風音は聞く耳を持たない。

 仕事が出来ないポンコツほど、間違った行動だけはやたら迅速じんそくに動く。

 まるでポンコツさを感じさせない、素晴らしい要領で間違った人員募集を進めていく。


レスタ「あ~~あ、大丈夫かなこれ。殺人事件の捜査なのに・・・」


 レスタが不安そうに呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ