風音ワングランプリ? 初日乃弐
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風音「なんて?」
それはさっきの内線でも聞いた気がするけども。
もう一回聞いても意味が分からなかった。
アリエイラ「どうして聞き返す必要があるのですか? ちゃんと聞いておられましたか?」
風音「なんか幻聴みたいなのは聞こえましたけど」
聞き間違いであってほしい。なんか凄い恥ずかしいタイトルの大会が開かれようとしている。
アリエイラ「はぁ・・・。レスタ君。説明を」
ため息交じりで首を振りながら、レスタに振る。
レスタ「第一回風音ワングランプリ。僕達はカザワンって呼んでますが、ご存知無いですか?」
風音「初耳だと思うけどね・・・。大体第一回って事は、過去に前例が無いんじゃないの? プレ大会とかあった?」
レスタ「確かに今回が初めてです。僕達も二週間前に企画して、ここまで必死に頑張ってきました」
辛い日々を思い出すかのように、目頭を押さえる。
風音「・・・って事は、二週間前に生まれたものを今突然僕に発表して、知らなかっただけでため息つかれたって事?」
理不尽過ぎやしないだろうか。
風音「あとそのネーミングどうにかならないのかな。カザワンって。 僕もその催しの事カザワンって呼ばなきゃいけないのかな?」
自分の名前が入っている大会とか、テレビの冠番組じゃあるまいし。
こんな日常で使われると普通に恥ずかしい。
アリエイラ「催しの名前の事は今どうでもよいのです。 いいですか? 今日から三日間かけて、カノン一のエンジニアは誰なのかを、風音さんに決めて頂きます」
決めて頂くも何も。カノンで一番のエンジニアなんて。
風音「・・・サルトさんじゃないの?」
アリエイラ・ルミナ・レスタ「「「は?」」」
綺麗にハモった。
風音「え? だってあの人翻訳の仕事で、いっつもプログラミングみたいな事してない?」
レスタ「いやサルトさんは学者でしょう。 確かに文脈形成の解析プログラミングもしますが・・・あれはサルトさんの天才的な言語知識を組み込んで、独自のプログラムを作っているから凄いのであって、あんなの技術部分は僕達に比べたら児戯に等しいレベルで・・・」
ルミナ「そう。あいつが凄いのは記憶力と言語の解析能力であって、あいつがよくプログラミングで悩んでいる部分なんて、私達なら靴下を履くより簡単に解決出来ますよ」
風音「そうなんだ・・・」
じゃあ見てないで手伝ってあげなよ・・・と思う。
アリエイラ「調教したカピバラでも出来るレベルでしょう、あれは」
そしてアリエイラからのとどめ。今日もサルトは居ない所でボロカス言われている。
風音「あ、そうなんだ。僕の中ではあの人が一番結果を出してるイメージがあったから」
サルト・ハミルトン・クーラーズ。彼の仕事は翻訳依頼を受けて翻訳解析する事、そして自分なりに分かりやすく説明を付けて依頼人に渡す。
失われた言語で書かれた本などは、その解析自体は機械がやってくれても、ニュアンスや言い回しの意味が全く分からない事が多い。だから機械で翻訳しても結果的に、まったく意味不明な文章で構築される事が頻繁にある。
そういったものを悉く的確に翻訳している事から、依頼人からの評価が非常に高い。
本人は「この仕事はお金にならない」とかよくぼやいているが、彼の趣味があらゆる言語をマスターする事なので、趣味も兼ねているせいか没頭しだすと仕事の手が止まらない。
風音はそんな彼が仕事をしている様を見ていると、本当に尊敬出来る人物だといつも思う。
まぁそんな訳で、やはり結論として。
風音「・・・もうサルトさんで良いんじゃない?」
アリエイラ・ルミナ・レスタ「「「良くないです」」」
風音「・・・そう」
全員からそう言われると引っ込めるしかない。
アリエイラ「いいですか? エンジニアとは何かを創り出す事に意味があるのです。新たな創造力こそがエンジニアの要なのです。学者の趣味プログラミングと一緒にされては困ります」
風音「はぁ・・・そですか。じゃあ具体的にどうやって一番を決めるんですか?」
アリエイラ「はい。今日から三日間、日替わりで三人が開発した機械を風音さんに体験して頂きます。そして全て終わった後どれが一番だったかを決めて頂くという、非常にシンプルなものとなっています」
風音「一日では終わらないんですか?」
よく分からない大会にあまり長期間拘束されても・・・。依頼が入ったら仕事に行かなければならないのに。
アリエイラ「私共の頑張りを知って頂く為には、やはり最低一日は使い込んで頂かないと。短時間で評価されては、本質を見逃してしまう恐れがあります」
風音「ふぅん・・・」
もうひとつピンと来ていない風音をよそに、ルミナが笑顔ではしゃぎだす。
ルミナ「という事で説明は終わり! 今日は早速一番手であるアリちゃんが開発した、期待の新作から試していきましょう!」
楽しみにしていたのか、嬉しそうに促す。
そしてアリエイラは得意気な表情。
アリエイラ「ふふん。では行きましょうか」
風音「お、気合入ってるね。どんなの?」
アリエイラ「はいド~~ン。ポンコツ製造機~~~」
持っていたバッグから、配線だらけのヤバげな機械を取り出す。
アリエイラ「これを頭部にセッティングします」
そしてヤバい事を言い出した。
風音「・・・待って? それを僕に付ける気?」
露骨に嫌そうな顔をする。
アリエイラ「大丈夫です。一種の催眠状態を誘発するようなものだと思ってください」
風音「具体的にどうなるんですか?」
アリエイラ「この機械を付けて電気を流すと、およそ一日の間その人がポンコツになります」
その説明を受けて、じっくりと考える。
風音「・・・じゃあ取り敢えずアリエイラさんが最下位って事で」
早速カザワン最下位が決定した。
もうこれ今日一日で終わるんじゃないか。
アリエイラ「いえちょっと待って下さい! ちゃんと理由があるんです」
風音「どんな理由があっても、僕がポンコツになる事で明るい未来が見えないんだけど」
理由を聞く前に否定する。
そんな小競り合いを、意外にも対戦相手のルミナが止める。
ルミナ「・・・まぁ聞きましょうよ。私は興味があります」
当然対戦相手である三人は、互いにどんな機械をプレゼンしようとしているのか知らない状態だ。
ルミナとしてはポンコツを意図的に作り出す事にどんな意味があるのかが、エンジニアとして純粋に気になっているようだ。
アリエイラ「さすがルミナ。興味を持つ事こそエンジニアにとって最も大事な事ですからね。 さて。風音さんにとって、ここカノンの中で一番評価が高い人物って誰でしょうか?」
少し考える。
風音「・・・サルトさんかな」
アリエイラが呆れた表情をする。
アリエイラ「あ~もう・・・。 もうそういうのは結構ですから。・・・本当にいつもいつもあなたは・・・」
風音「え? どういう事?」
本心で答えたつもりなのに。
アリエイラ「はぐらかさないで下さいと言っているのです。 誰が男性の評価を聞きましたか? 女性の中で一番は誰かと聞いたでしょう?」
風音「いや? 女性の中から選べとは言ってなかったんじゃない?」
アリエイラ「言いました」
自信満々で断言しているが、風音が首をひねる。
風音「言ったっけ?」
クリス姉弟に尋ねると、代わりに息吹が答える。
息吹「いえ主は「カノンの中で」と仰っていました。女性限定と言い出したのは艦長が答えた後です。 すみません。曖昧な事を言う主に変わって、私の方からお詫びさせて頂きます」
息吹がペコリと頭を下げ、顔を上げて悲しそうな表情で訴える。
息吹「どうか、どうか主の事を馬鹿だとか思わない様にお願い致します。ただでさえ現状ブスだと思われているのに、その上馬鹿だなんて。 ブスと・・・じゃなかった、馬鹿と天才は紙一重と申します、ぜひ艦長には主の良い所に目を向けて頂いて・・・」
アリエイラ「息吹」
ニッコリと息吹に笑顔を向ける。
息吹「はい何か?」
息吹も笑顔で応じる。
アリエイラ「私さっきあなたに、少し黙りなさいと言ったわよね?」
息吹「はい。ですから「少しの間」静かにしていました」
アリエイラ「そう。いい子ね。じゃあ次はずっと静かにしていなさい」
主から指示を出された事に満足した息吹が、恭しく頭を下げる。
息吹「かしこまりました」
そして再び黙る。
アリエイラ「どうやら風音さんの言う通り、女性の中でとは言ってなかったようですね」
アリエイラが自分の髪をさらりと撫でる。
非を認めたが、それがどうしたという態度。
アリエイラ「それでは改めて問いましょう。カノンにいる女性の中で、風音さんにとって最も評価の高い人物は誰ですか? 評価基準がブレてしまうので、子供である咲桜ちゃんと、ロボットである息吹達は除きましょう。もちろん妖精のユニルさんは論外。自然そのものである彼女が尊敬と畏怖の対象になるのは、至極当然の事ですから」
改めて問われ、またしばらく考える。
風音「・・・じゃあブラウニーかな」
アリエイラ「ほら見た事か!」
アリエイラが叫ぶ。
唐突に叫ばれたので、風音がちょっとビクッとする。
風音「え? 何が?」
アリエイラがツカツカと風音の机に近付く。
アリエイラ「風音さん。あなたが強い人を尊敬しているのなら、神楽さんや私やリロさんや凌舞さんと答えるのは納得がいきます。単に見た目の可愛い子の評価が高いと言うなら、ルミナや私やセイニーさんやフィリコヨーテさんと答えるのも納得がいきます。仕事が出来る人を尊敬すると言うなら、癒々さんや私やワグナさんを選ぶのも理解出来ます。しかしよく考えて下さい」
アリエイラが風音に顔を近づけ、机をドンッと叩く。
アリエイラ「ブラウニーさんはただのポンコツです」
ルミナ「一理あるわね・・・」
ルミナは納得しているようだ。ついでにレスタまで無言で頷いている。
風音「いやいやちょっと待って。あの人一番まともでしょ」
アリエイラ「まず頻繁に寝坊する人は社会人向いてません」
風音「ぐうの音も出ない程正論だけど」
いきなり急所をえぐってきた。
アリエイラ「仕事中に居眠りしてそのまま夜まで起きずに、同僚の怒りを買って廊下で正座させられる人なんて、あなたが許しているだけで普通の会社ならクビです」
風音「もう反論出来ないわ、それを言われると」
でもあれは出会った時からそうだったので、そういう体質の人だと分かってて雇ったわけだし。
その部分に目を瞑れば、カノンの中でもかなりまともな人物だと思う。
アリエイラ「だから私は思ったのです。これは一つの真理ではないかと。 それなりに出来る人よりも、この子は駄目な子だな・・・と思える人物ほど、人は注意深く見ようとするのです。そしてその頑張りや成長過程を温かい目で見ます。結局のところ凡俗達は、最初から10の働きが出来る人より、0から9に上がった人の方を評価してしまう生き物なのです」
ルミナ「分かる。分かるよアリちゃん。悪い人がたまに優しい事をすると、何故か普段から優しい人より良い人扱いを受けるやつとかもね。結局その思考回路が凡人の限界なのよね」
ルミナがしみじみと頷いている。
風音「いや別に・・・そういう意味でブラウニーを尊敬してるわけじゃないけど。・・・あの人の生き様とか・・・」
アリエイラ「黙りなさい。言い訳は聞きたくありません。 それにこれは風音さん、あなたにとっても他人事ではないのです。 いいですか? いつまで経っても風音さんは、シャロンからの評価が上がりませんよね? その理由を考えました」
シャロンとは、よく風音に仕事を依頼してくる組織だ。
アリエイラ「私の目から見て、風音さんも天才型なのです。 つまり出来て当然だと思われているのです。それが良くないのではないでしょうか? そこでこの機械です。 敢えてポンコツになり、ポンコツながら頑張って頑張って、頑張って依頼をこなした時。 今までになく評価が上がるはずです」
風音「えぇー・・・」
仮にその理屈が合ってたとしても、最初からポンコツな人じゃないと成立しないんじゃないかな。
今まで出来た人が一日だけ急にポンコツになったって、今日は調子悪いんだなで終わりそう。
でも反論したら怒るし・・・。
どうすればいいんだこの人。
風音「そんな事で評価なんか上がるかな・・・?」
反論と言うより、ちょっとだけ否定的な感じで意見を言っておく。
しかし彼女は自信満々に言い返してくる。
アリエイラ「上がります。でなければ理屈に合わない。正当に能力で評価されるならこのカノンにおいて、風音さんが最も尊敬すべき女性は私になるはずですから。ブラウニーさんが選ばれた時点で、ポンコツ有利なのは疑う余地もありません」
証明終了。と言うように、ポンコツ製造機を片手にニッコリと笑顔を向ける。
風音「そうですか。じゃあもうその機械が一位でいいので、次行きましょうか」
アリエイラ「使って頂きます」
ドンッ! と机の上に置かれ、風音の顔が引きつる。




