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カノン  作者: しき
第5.5話
45/206

風音ワングランプリ? 初日乃壱


 宇宙艦カノン艦長室。

 来客用のソファと仕事用のデスク、あとは二つの棚と観葉植物。

 細かい小物を除けば目につく物はそのくらいしかない、シンプルな仕事部屋。

 今現在この部屋では一人の男性が、パソコンに向かって仕事をしている。


 ここカノンという宇宙艦の艦長である、音羽風音おとはかざね

 少しだけ伸ばし気味の黒髪ショートカットと、ちょっと大きめの目とそんなに高くない鼻。

 顔面の凹凸おうとつ具合ぐあいが、一般的な日本人男性といった感じの見た目だ。

 そして生まれつき、かなり女性らしい顔立ちをしている。ついでに年齢の割に幼い顔をしている。

 そういった外見の特徴から、顔だけ見ると高校二年生くらいの女学生にしか見えない。

 実際は最近二十歳になったばかりの、立派な成人男性だ。


 今日も彼の頭には大量の髪留め。これは彼の相方である、風の妖精ユニルが起こす風対策のために付けている。彼女が何かしら技を使うたびに、髪の毛がバサバサと動いてしまうのを防ぐためだ。

 風音本人は女と間違われたくないと普段から言っているが、この髪留めのせいで余計見た目の女っぽさにみがきがかかっている。


 そんな生まれ持った見た目とは反し、背格好せかっこうは大人そのもの。

 昔から実家の道場で修行を重ねてきた事もあり、線が細いながら筋肉はしっかりと付いている。

 身長も176あるし靴底が普通より少し厚めの靴(仕事用の安全靴あんぜんぐつだから)を履いているので、立ち上がると180越えに見える。

 服装も大人の男性らしいと思ってもらえるように、上下黒のジャケットを着るという努力はしている。


 プルルルル。


 報告書作成の仕事をしていると、机の上の電話機から内線の音が鳴った。

 風音が受話器を取る。


風音「はい」


ルミナ「おはようございます。今から艦長室に行ってもいいですか?」


風音「おはよ。 別にいいけど、いつもならいきなり来るのに。 どうしたの今日は?」


ルミナ「はい。『風音かざねワングランプリ、はーじまーるよ~~~~!』 って事で、すぐに向かいますね」


 内線が切れた。


風音「え、なに・・・?」


 受話器を置いて考える。

 風音ワングランプリ?

 なんか凄くダサいタイトルの何かが始まろうとしている?

 自分の名前が入っているみたいだけども。

 何かのもよおしか?

 

 しばらく考えていると。


 コンコン。


 ノックの音。


風音「どうぞ~」


レスタ「おはようございます」


 挨拶あいさつと共に、ぞろぞろと人が入ってくる。


風音「おはよ~・・・って、多いな。四人も居るのか」


 まずはノックした男性。クリス・ク・レスタ。異星人。

 まだ見た目十五歳前後の、カノンの乗組員の少年。

 真っ白なショートカットの髪の毛と、大きなクリッとした目が特徴的な、天使のように可愛らしい男の子。

 そのレスタが同じく乗組員である他三名を引き連れて艦長室にやってきた。


 レスタとほぼ一緒に入ってきた女の子。レスタの双子の姉クリス・ク・ルミナ。

 先程の内線の主だ。

 こちらは肩の長さまで伸ばした髪の毛の長さ以外、ほぼレスタと見た目が同じの女の子。弟と同じくドングリ目をしているが、強気な性格の為かちょっとだけ眼光がんこうが鋭いので、見た目の天使っぽさは弟の方が上だ。

 

 そして長身の女性、アリエイラ・フォクス。こちらも異星人。今日は何故か少し大きめのバッグを持参じさんしている。

 青磁色せいじいろ(薄い緑色に近い色)の髪の毛をした、長髪で目鼻立ちの整った女性。見た目二十代前半。腕には流線形りゅうせんけい刺青いれずみの様な模様が複数本描かれている。

 いつもは電動車椅子で艦内を移動している彼女だが、今日は徒歩のようだ。

 普段の立ち振る舞いの特徴として、彼女は基本笑顔を絶やさない。

 以前風音に背後から頭突きをする時でさえ、笑顔で行っていた過去があるほど。

 イヤリングをしていたり、高価そうな腕時計を付けていたりと、一見すると他の女性陣より身なりに気をつかっているようにも見える。

 しかし本人はあまり自分の見た目に対する周囲の評価に興味が無いようで、いっつも髪の毛がとっ散らかっている。

 今日も寝癖ねぐせがあっちこっちにねまくっている。


 そしてそんな彼女の背後に立ち、彼女の髪の毛に必死でくしを入れながら、何とか寝癖を直そうと努力している女性がいる。

 その努力もむなしく、櫛を通したそばから髪の毛がピンピン撥ねていく。

 水や寝癖直しのスプレーなどを使うと不機嫌になるので、仕方なく櫛で直そうとしているが勝てない様子。


 息吹いぶき。アリエイラの従者じゅうしゃ

 アリエイラが造り出した介護用ロボットだ。

 見た目ほぼ100パーセント人間。ロボットだと言われないと、人間と見分けがつかない。

 黒髪黒目の日本なら一見どこにでもいそうな、十代後半くらいの可愛らしい女の子。

 ただどこにでも居そうと言っても、ロボットなので欠点らしい欠点が一つも無い。スタイルも平均的だし性格も良いし、顔のパーツ一つ一つも整っているし、当然シミもしわもムダ毛も、およそ人体のマイナス要素とされるものが一切無い。

 まさにパーフェクト女子、といった風情ふぜいだ。

 風音に合わせて風音と同年代の日本人風に作ってあるので、風音にとっては親しみやすい風体ふうていをしている。しかもロボットなので日本語をマスターしており、翻訳機無しで会話が出来るので、風音にとっては更に親しみやすい。


 風音が息吹を見ながら思う。


風音(また今日は、すごい可愛らしい格好してるな息吹・・・)


 今日は何故か制服ブレザーとチェックのスカートを着ている。

 そういえばもう間もなく、風音が持つもう一つの宇宙艦「炎火ほのか」の近くで高校が開校される。まさか通う気なのだろうか。

 社会勉強学科ならロボットも通えるが・・・。社会生活において超常識人の息吹には、今更必要無いように思える。

 どっちかと言えば常識が通用しない彼女の主人、アリエイラが通うべきなんじゃないかなと思うほどだ。これを本人に言おうものなら、また笑顔で頭突きされるのだろうが。


 そんな息吹が、ちょっと泣きそうな顔をしながらアリエイラの髪をいている。


息吹「あるじ。艦長の前ですよ? お願いですから一度洗面台で寝癖を直しましょう。まだ遅くは無いですから」


 聞く耳を持たない主人に対する、その必死な息吹の様子を見ながら風音が笑って答える。


風音「僕なんか気にしなくていいよ。アリエイラさんのそれはいつもの事でしょ」


息吹「そういう訳にもまいりません。今日は私が一緒に行動しております。主がだらしない恰好かっこうをしていると、お世話をしている私までだらしないと思われてしまいます」


アリエイラ「息吹?」


 だらしないと言われたアリエイラが、笑顔のまま息吹を見る。

 笑顔とは裏腹に、「少し黙りなさい」というニュアンスで名前を呼んだつもりだったが。


息吹「はい何か?」


 息吹はそういうふくみを感じ取る事無く、用があって呼ばれたと解釈かいしゃくし普通に返事をする。


 アリエイラが何かを言う前に、先に風音が言う。


風音「アリエイラさんがどうであれ、息吹がだらしないなんて思わないよ」


息吹「・・・そう言って頂けるのはありがたいですが、でも以前艦長は「アリエイラさんはせっかく美人なのに、髪の毛がいっつもボサボサですね」っておっしゃってたじゃないですか」


 確かに言った記憶はある。


風音「・・・まぁ僕じゃなくても、みんな思ってるんじゃない?」


息吹「主がそう思われている事が我慢できないのです。せっかく美人なのに・・・という事はつまり、それがそこなわれている今は逆に、有り得ないブスだと思われているという事ですよね?」


風音「いや、そんな極端きょくたんな・・・」


アリエイラ「息吹?」


息吹「主が人として当たり前のたしなみをおこたったせいで、結果艦長からブスと思われるなんて従者として我慢なりません。 これはほぼ自殺に近い行為であり・・・」


アリエイラ「息吹」


 主人への想いが強すぎるせいか、全然止まらない息吹。

 本心で主人を心配して言っているのだろうが、そんなの関係無くアリエイラはもうすぐキレそうだ。

 手が出る前に、急いで風音が息吹を止める。


風音「いや大丈夫、ブスとか思ってないから。あれだ、あの・・・むしろそういうのも愛嬌あいきょうがあっていいんじゃない?」


 息吹が櫛をポケットにしまう。


息吹「そうですか? ・・・艦長がそう仰るなら。 そして今後とも主に対する率直な意見をお願いします。 至らない所があれば、私も改善するよう努力しますので」


風音「はげめよ」


 もう何でもいいや、と適当に答えておく。


息吹「あと艦長あの・・・これ、つまらないものですが」


 ピシッと背筋を伸ばし、菓子折りの様な包装紙で包まれた箱を風音に渡す。


風音「え、なんで? 何かあったっけ? 超ディレイお歳暮せいぼ?」


 お歳暮だとしたらもう、一ヶ月近く遅いが。

 一応受け取って、その場では開けずに机の隅に置く。


息吹「いえ、私なんかがこの部屋にお邪魔をするという事で、お土産みやげの一つでも無いと・・・という事です」


風音「気にし過ぎじゃないかな?」


 風音が笑う。


レスタ「何持ってんのかなって思ってたんだけど、そんなこと考えてたんですね」


ルミナ「真面目を通り越して、ただの気にしぃよね」


 クリス姉弟からも突っ込まれる。


風音「お土産とかなくても、いつでも気軽に来てくれていいよ。仕事中だと悪いと思って気をつかってるなら、事前に空き時間を教えておくし」


 その言葉に息吹の表情が、花が咲いたように明るくなる。


息吹「本当ですか? ありがとうございます。 では艦長、向こう一年の予定を教えていただけますか? その空き時間の全てに私の名前で予約を入れておいて・・・」


アリエイラ「息吹。少し黙りなさい」


息吹「かしこまりました」


 主人からの命令に、満足そうにうやうやしく頭を下げて息吹が黙る。


 仕切り直すように、アリエイラが風音の方を見る。


アリエイラ「さて、風音さん。ついに開催かいさいが決定致しました」


風音(・・・・・・・・・)


 今まであんまり考えていなかったが、よく見たらこの面子めんつ全員エンジニアだ。

 天才ばかりで脳の構造が根本的に違うからなのか、会話が成立しない事がままある。

 この子達の会話はいつも突拍子とっぴょうしが無いし、話がいきなり違う方向に飛ぶので話の内容がよく分からない事が多い。


 今もいきなり開催決定とか言われても・・・事前に何も聞いてないし、内容を聞かないと分からないなこれは。

 尋ねてみる。


風音「開催って、何が?」


アリエイラ「風音ワングランプリです」


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