災害と再生の星8
風音が教会に行こうと立ち上がったところで、ふと周囲を見る。
風音「良かった・・・。戻ったか・・・・・」
心の底から安堵する。
突然様子が変わった風音にユニルが反応する。
ユニルは今ちょうど、羽交い絞めの画像を見ていたところだ。
ユニル「どうしたんですか突然・・・・。あっ、ラクネ君の力が無くなってますよ。今戻ってきたって事ですね。もうやり直せないので、調査は終わりですね」
風音「うん・・・。だろうね・・・」
ユニル「? ・・・どうしたんですか?」
風音の様子がおかしい。
ガタガタと震えている。
風音「いや・・・ちょっとね。久しぶりに星の子の力を間近で見たよ。あいつ自身が絶望から解き放たれてたから、前みたいな暴走は無かったんだけどね・・・」
それでも怖い。
すさまじい圧力だった。
自分の中から出た力とは思えない程の大きさ。
もう既にやり直してあの現象は無かった事になっている。
だったら覚えておこうと思った記憶以外は忘れるはずなのに、体が忘れてくれない。全然震えが止まらない。
ユニル「え・・・? あいつ自身が・・・って。風音さんの中にあるのは星の子の力の・・・残りカスみたいなものだけでしょ? なんで星の子の感情まで残ってるんですか?」
風音「さぁ・・・? あれはかなり特殊な力だし、力そのものが意思を持ってるとかじゃない? 僕もはっきり覚えてなくて・・・」
抱っこしていた咲桜をギュッと抱きしめ、深呼吸して震えを抑えようと努力する。
・・・別の事を考えよう。
とにかく最後に考えていた事を思い出す。
確か・・・地下には物凄い存在が居る。それこそ神みたいな。
で、地下に行けばそいつと戦う事になる。
風音自身の力ではどうしようもないので、星の子が目覚めて・・・
星が死んだ。
なんで星が潰れる? その流れが理解出来ないが、そういう風に覚えているのだ。そうなるのだろう。
そして星の子は・・・シエロを潰しに行こうとしていた。
何故シエロを・・・?
そこが思い出せない。
星の子の影響か、星の子が出てきてからの記憶は何故か、今までのやり直し以上に鮮明に覚えている部分が多い。 星の子の力のせいか、あるいは体の震えと同じく体が覚えているのだろうか?
だが逆に星の子が出てくるまでの流れが不鮮明だ。ほとんど覚えていない。
記憶の引継ぎも、とにかくこの星を守る為には教会の地下には関わってはいけない、という事を重点的に考えていたせいか、細かい所が抜け落ちている。
どうせもう挑戦しないのだから、なぜそんな事になったのかその理由の方に重点を置いて記憶を引き継げば良かったのに。
下手をすればこの星の人が全部死ぬんだから、一切関わるなと自分に言い聞かせたかった気持ちは分からなくも無いけども。
風音が再び椅子に座る。
ユセイ「なんじゃ? 今そこの小っこいのが調査は終わりとか言うとったが、依頼やめるんか?」
ユセイも座る。
ユニル「小っこいのじゃなくて、ユニルです。聞いての通りですよ。もう帰ります」
ユセイ「なんじゃ突然。散々やめろと言ってきて何じゃが、それでええのか?」
言いながら、ユセイの表情が緩む。
やはり死んだ時に復活しないような者達と、この星で探索などやりたくなかったようだ。
風音「そうですね。僕らはもうやめにしようと思いますけど・・・ちょっと失礼」
風音が電話をかける。
しばらくコールした後、女性が出る。
オペレーター「はい。こちらシエロ本部です」
風音「えっと、今そちらの仕事を請け負っている、音羽風音という者ですが。ちょっと「音羽風音の事を知っている人」と会話させて貰えませんか?」
オペレーター「音羽風音様ですね? ・・・・・・。 ・・・お待たせいたしました。そちらの仕事が終わるまでは、特に質問に答える事は無いそうです。 依頼した内容を、粛々と行ってくださいとの回答でした」
凄く冷たい対応。
でも引き下がる訳にはいかない。
風音「いやだから、なんでわざわざ相手を指定して呼んでるのかを考え・・・」
オペレーター「上の者には繋ぐ事が出来ません」
風音「じゃなくて、重要な事が聞きたくて・・・」
オペレーター「こちらからの回答は以上です。 他に何も無ければ、もう切ってもよろしいでしょうか?」
風音が大きく息を吸い込む。と同時に携帯を肩と耳で挟んで、両手で咲桜の耳を塞ぐ。
咲桜「・・・?」
不思議そうな表情で、咲桜が風音の顔を見上げた。
風音が下を向いて咲桜に笑顔を向ける。
風音「いいから代われっ!! わざわざこっちが人を指定して電話かけてんだから、お前らにとって重要な案件に決まってるだろうが!!」
ユニルがビクッとする。
周囲の客達も、何事かとこちらを見る。しばらくして電話先の相手に怒っている事は伝わったようで、徐々に周囲の人達の視線は減っていく。
風音を正面で見ていたユセイは、酒を飲みながら笑っている。
ユセイ「若いもんはこうでないとのぉ」
咲桜の両耳から手を離すと、首を傾けて「?」という表情をしている。
再び笑顔を返しておく。
いやでも・・・怒りって凄いな、と思う。今まで星の子にビビッて体が震えていたのに、今叫んだ事で震えがかなり収まった。怒鳴るって行為は、自分の怯えをここまで拭う事が出来るのか。
そしてしばらく待つ。
「トア・バンズだ。その仕事に関しては何も答えないと回答したはずだが?」
知らない人が出た。
風音の事を知っている人・・・つまり星の子の力を持っている事を知っている人物という事だ。
シエロでも一部の人しか知らないので、おそらくこの人物もかなり上の立場の人なのだろう。
風音「トアさんね。音羽風音です。細かい説明は省きます。訳あって事前に分かったんですけど、このあと目的地に着いてから厄介な事が起きるみたいで」
トア「ほう? 今後の出来事が事前に? 予言でも受けたのか?」
風音「そんな感じです。うっすらと未来が見えた・・・みたいな事だと考えてください。 まず地下には物凄い存在が居ます。それこそ神のような」
トアが吹き出す。
トア「ふっ、馬鹿馬鹿しいな。現地では神が存在するとか言われているようだが、まさかそんな話を信じたのか?」
この意見に答えていても時間の無駄なので、無視して続ける。
風音「そいつに僕は勝てないようで、僕の意志に反して星の子の力が出てくるみたいです。 結果。なんでか分かりませんけどニーギが爆発しました。 そのあと宇宙空間でその神? みたいなのと僕だけが残って・・・」
風音もはっきり覚えていないので、かなり大雑把な説明になる。
これでもまだやり直して間が無いので、覚えている方だ。
時間が経つにつれ、徐々に忘れていくのだろう。
トア「作り話もここまでいくと呆れるな・・・わざわざそれを言う為に電話を?」
馬鹿にしたように言う。
風音「いえここまでは信じようが信じまいが、どうでもいいんです。ここからがシエロにとって重要だと思ったので、電話をしました」
トア「ほう?」
風音「その神とどんなやり取りがあったのか知らないですが、星の子はシエロを末端に至るまで全て喰い尽くすと言ってました。もし本当にそうなったら、宣言通りシエロの在職者は全員死ぬと思います」
前回の記憶は曖昧な部分も多いが、この発言を星の子がしたのは鮮明に覚えている。
トア「・・・・・・」
風音「ただ、その意味が分からないんです。僕が電話をした理由はそこなんですよ。 ほら、ぶっちゃけシエロが消えてくれたら、僕も借金が無くなるし? その案に全力で乗っかって、この際星の子の好きにさせても良いんですけど・・・ってこれは冗談ですよ?」
今度は風音がトアを小馬鹿にしたように笑いながら言った。
そして仕切り直すように、一度咳払いをして。
風音「いや真面目な話。 なんで星の子はそんな事を考えたんでしょうね? そこが分からなくて。脈絡が無さ過ぎると思いません? その神とどういうやり取りがあったのか分からないんですけど、何かシエロが関わってるんですか?」
その辺を本当に覚えていない。
だから今の風音にとっては、なぜか突然星の子がシエロを恨みだしたようにしか見えない。
神とどういう会話があったらそんな事になるのか。
でも普通に考えて、理由も無くそんな事にはならないだろう。
という事は星の子あるいは風音が、神とそうなる流れの会話をした可能性が非常に高い。
多分だが覚えていないという事は、風音が会話をしていた可能性が高い。
星の子に体を支配されて以降の事は、覚えている部分も多いから。
だとするなら、神(あるいは今回の仕事の目的地)とシエロは何らかの繋がりがある? ・・・としか考えられないのだ。
風音はそう予測し、電話をして確認を取りたかった。
そんな風音の疑問にトアが答える。
トア「・・・関りなど無い」
突然不愉快そうな口調になる。
さっきまでの余裕はどうした。と風音が心の中で笑う。こんなの自白してるようなもんじゃないか。
風音「そういう言い方をされると逆に疑っちゃいますよ。 でも聞いても何も答えないでしょうから、結論だけ言いますね。 そっちで今後の方針を決めて下さい。 このまま仕事を続けろと言うならそれで構いませんが、覚悟だけはしておいて下さいね。 トアさんの言う様にシエロが何も関与していないなら、今までの会話は全部僕の戯言って事で無視してくれていいです。 でももしあの神とシエロに繋がりがあったら、おそらくさっき言った通りの展開になると思います。 あの・・・いいですか? ここまで真面目に聞いてなかったみたいですけど、せめて今から言う事だけは真剣に聞いてください」
こんな状況ですらおそらくこちらに何かを隠しているトアに対し、風音が口調に怒りを含めて続ける。
風音「真面目に考えた上で続けろってんならそれでもいいけどな。 真面目に考える気が無いなら別の奴と変われ。 場合によってはお前の判断のせいで全員死ぬんだよ」
トア「・・・・・・少し待っておけ」
そう言って電話が保留になった。
しかしどこまでも偉そうな態度の奴だ。途中ちょっとスカッとしたけど。あの余裕を無くしたあたり。
あの態度。おそらくシエロがその神みたいなのと何か関わりがあるとして、星の子がシエロを壊滅させようと思うほどの何かがあるという事か?
逆に知りたくなってくるなぁ・・・。
とか考えながらしばらく待っていると、トアが出る。
トア「上層部からの指示を伝える。 直ちに帰還しろ。それ以上の探索は許さないという事だ」
風音「そういう流れになると、やっぱりシエロが関わっている事を疑わざるを得ないんですけど。何か知ってるなら正直に言って貰えます? 何をさせようとしてたんですか? 回答が無いなら自分で調べに行きますよ?」
そんな気は毛頭無いが、主導権を取られっぱなしなのも気に入らないので言ってみる。
が、トアは強気な態度を崩さない。
トア「脅しのつもりか? 私は別に構わん。 探索を続けたければ続けろ。 勘違いするなよ。こちらは関与を認めた訳でも、私が貴様の話を信じた訳でも無い。 予言者メイクリット氏の存在の影響で、シエロには予言を警戒している上層部の連中が多い。彼等に先程の会話を録音させたものを聞かせたら、こういう判断になった。というだけの事だ。 あまり調子に乗るな」
風音「あ、そうなんですか。じゃあトアさんが続けてもいいって言ったから続けます、って上層部の連中に言っといて下さい。 本音言うと僕も気になってたんですよ、神とシエロの関係性が。 調べないと気になって夜も眠れないんで。じゃあそういう事で」
電話を切る。
ついでに携帯の電源も切る。
風音「よし帰るか」
ユニル「あ、結局帰るんですね」
今の会話を横で聞いていたユニルが少し笑う。
風音「そりゃ帰るよ。多分今の感じだと、シエロと目的地は何か重要な関りがあるけどね。気になるのも事実だけど、この星を犠牲にするわけにいかないよ」
ユニル「なんでも再生する星ですし、意外と星がぶっ壊れても再生するかもしれないですよ?」
風音「かもね。 それより問題なのは僕ら側だよ。その状況で僕とユニィはともかく、咲桜ちゃんはどうするんだってなるからね」
抱っこしている咲桜の頭を撫でると、嬉しかったようで風音の肩に手をかけてよじ登り、風音の頬にチュッとキスをした。
風音「あぁ・・・。 あ~~もう、癒されるわ~~」
ギュッと抱きしめてから、もう一回撫でる。
前回の嫌な記憶が、洗い流されていくようだ。
ユニルがポンっと手を打つ。
ユニル「こういうのはどうでしょう? 星が壊れても、この星の人達は元通りになる。風音さんは星の子状態だから無敵。私は死んで自分の星で復活します。で、咲桜は普通にくたばるっていうのは?」
風音「笑えない冗談やめてよ・・・」
咲桜も「何なのこの人」と言いたげな目でユニルを見る。
負けじとユニルも同じような表情で咲桜を見る。
ユニル「なんでコイツ付いて来たんだか・・・。あとお前の顔腹立つな」
眉をひそめた咲桜の表情が絶妙に腹立つ。
生意気な態度のお子様に、今回は制裁をする。 ユニルが咲桜に近付いてほっぺをペチペチ叩く。
咲桜はそれから逃れるように、顔をイヤイヤと振る。
ユニル「よし、帰りましょうすぐに。この星に居ても良い事一つも無いですね。ハズレ。今回の仕事はハズレです」
風音「そもそも乗り気じゃなかった僕に、ユニィが焚き付けたんじゃなかったっけ・・・」
ユニル「こんなお子様がセットだなんて聞いてませんでしたもん。やっぱりパートナー同士だけで探索をするのが正しい仕事の在り方でしょ」
風音「僕としては咲桜が居てくれて凄い癒しになってるんだけど。まぁ危険な星に来させるべきじゃないってのは、その通りだけどさ」
もう一回咲桜を撫でておく。
風音「って言うか、今回の仕事がハズレっていう言葉で思い出したんだけど、報酬ってどうなるんだろうね?」
ユニル「そりゃ何もしてないから無しなんじゃないですか?」
風音「でもこっちは出来る限りの事はした上で、向こうの指示を仰いだら辞めろってなったんだよ? 最大限の仕事してない?」
ユニル「そんな理屈が通じるような組織じゃないじゃないですか」
風音「・・・うん。まぁそうなんだけど。 え~~? じゃあただ働きか。 開き直って観光でもする?」
ユニル「いやこの星で観光は馬鹿じゃないですか」
風音「そうなんだよ。もう帰るしかないんだよ。ほんと無駄足だったな・・・。・・・あっ!!」
この星に来た事を全くの無駄足にしない為の手段が一つあった。
風音「ユセイさん、さっき戦った後に僕がスカウトしたの覚えてます?」
無駄足になるなら、せめて仲間集めをしようと決めてたんだった。
借金返し終わった後に、いろんな星を旅して回る為に現在カノンでは人員を募集している。
ユセイさんみたいな優秀な探検家なんて、まさに持って来いじゃないか。
ま、二百兆円の借金を返すまでは馬車馬のように働いてもらうんだけど。
でも楽しい職場だよ? みたいな文言で騙・・・いや、心よりの笑顔でお迎えしたい。
ユセイ「あぁん、スカウト? そりゃ覚えとるわ。酒が入ったくらいで忘れるかい。なんじゃ、わしが酒くらいで聞いた事を忘れる奴じゃと言いたいんかい。 それとぬしゃあシエロに喧嘩吹っ掛けてから電話の電源切ったじゃろ? おかげでこっちの携帯に「音羽風音を探索に行かせるな」ちゅうて、シエロからわんさか指示が来とるわ」
風音「シエロの件はともかく・・・飲み過ぎてないですか? 絡みだしたじゃないですか」
ユセイ「こんくらいで酔うとらんわ・・・付いて来いっちゅうなら一つ条件がある」
風音「なんですか?」
ユセイ「そのカノンっちゅう宇宙船には、美人はおるか?」
風音「居ても手は出させないですよ。 お互い合意なら別に良いですけど」
ユセイ「別に手ぇ出したり襲ったりせんわい。目の保養じゃ。日常が灰色じゃと気が滅入るじゃろ」
ちょっと考える。
風音「・・・美人ねぇ。普通に多いんじゃないかな」
基本みんな可愛いだろう。多分。
ルミナも癒々もアリエイラさんも・・・アリエイラさんなんて超が付く美人じゃないのか? 宇宙の基準が分からんけど。他にも何人か・・・
ふとブラウニーの顔が浮かぶ。
風音「なんか可愛いは可愛いと思うんですけど、アホみたいな抜けた顔してる人もいますよ。常に危機感が無いっていうのか」
ユセイ「そいつはいらん」
風音「いやでもそこが良いって言うか」
ユセイ「ぬしゃ趣味悪いのぉ」
ユニル「ほんとに。あれのどこがいいのか・・・」
ユニルが乗っかる。まさかの咲桜まで頷いている。
カノン食堂。
ブラウニー「へぷちっ!! ・・・あぁ、確かここではこういう時って誰かが噂してるとか言うんだっけ? 音羽ちゃん辺りが私の事馬鹿にしてんすかね・・・」
ブラウニーがくしゃみをしながらぼやく。
ルミナ「なんなの今の、可愛らしいアピールをするかのようなくしゃみは」
隣のテーブルで食事をしていたルミナが話を振ってくる。
ブラウニー「え~~・・・。急にお子様に暴言吐かれたよ・・・」
ルミナ「今ちょっと思ったんだけど」
ブラウニー「なんすか?」
ルミナ「あ、先に言っておくけど本当に他意は無くて、単に今思った疑問なんだけど」
ブラウニー「何かな?」
ルミナ「馬鹿な人でも馬鹿にされると腹が立つものなのかな?」
ブラウニー「その質問に他意が無いと信じろ、と?」
・・・・・・・・・
風音「まぁ、基本全員から舐められてるよあの人。多分カノンでも屈指の凄い人なのに」
舐められてると言うか、ガードゆるゆるでいじり易い顔してるんだよあの人。
ユセイ「そいつはいらんが、他に美人が多いなら行ってみるかの。もう娘も息子も孫も、自立してよその星に行ってしもうたし、この星にこだわる理由も無くなっとったところじゃ。家族が会いに来た時は迎え入れる部屋とかはあるんかの?」
風音「部屋は腐るほど余ってます」
地球の人達と違い、意外に裏側(地球が無い方の別次元の宇宙)の人達は自分の星にそれほど拘(こだわ9らない。
里帰りという概念はもちろんあるが、他の星に移住する人は結構多い。
日本で例えると、生まれた場所とは違う都道府県に移り住みます、くらいの感覚で別の星に行く。
ユセイ「ほうか。じゃあ急がんとまずいの。すぐに家に帰って荷物をまとめるか。家財は後で郵送にしてもかまわんか?」
風音「もちろん。でも急にどうしたんですか? 別にゆっくり準備して貰っても待ちますよ?」
ユセイ「時間じゃ時間。さっき言うとったじゃろ。夕方に近くなりゃなるほど、帰りに死ぬ可能性が上がるぞ。今の時間なら雨と自然発火と三種類の虫に気を付けてりゃいいだけじゃ。地震とかの自然災害も普通に起こるからの、そっちに気を取られんようにな」
風音「自然発火とかあるんですか。それは見た事無いな。あと虫も知らないのが二種類もいるのか」
何度かやり直した中で、見た回とかもあったんだろうか。
いずれにせよ、気を引き締めないと。
もうやり直しは出来ない。
・・・と気合を入れていたが。
ユセイの準備が終わり、昼過ぎ頃に出発してから最後まで。
自然災害はおろか森を歩く数時間の間、何一つ起こらなかった。
何も無さ過ぎて、ユセイが逆に警戒していた。
こんな事は初めてだと。危険地域で数時間に亘って何も無いなんて、この星始まって以来の事じゃないかとぼやいていた。
自然災害から守る為に、宇宙船を鋼鉄の倉庫のようなところに入れているのだが、ここに着くまで結局何も無く、普通に出発出来た。
帰りがこんなに楽なら、行きも楽だったら良かったのに。
ここで何回死んだと思ってるんだ。
なんて思いながら、四人はニーギを後にした。
ユニルからの過去の説明が終わった。
どうやら運命の妖精に力を借りていたらしい。
話がつまらなかったのか、いつの間にか抱っこされていた咲桜はまた眠っている。
ユニル「っていう事で、私も結局ニーギに行って春日さんをスカウトした事しかはっきり覚えてないんですけどね。 でも私は同じ妖精ですから、ラクネ君に力を借りた事は覚えてるんですよ。 ラクネ君の力を授かった人は、ラクネ君の力を使い切った時に何回もやり直した事実すら忘れていくんです。つまりラクネ君に力を借りた事すら忘れていきます」
やり直した事を忘れていくのに、その原因となったラクネを覚えているのは矛盾する事になる。
必然的にラクネの事も記憶から消えていく。
春日「それであの当時、やり直しがどうとか言うとったんか」
やり直しの件は春日も今初めて聞いた。
なにせ風音が覚えていないから知りようが無い。覚えていたユニルとはお互い自発的に会話をしないので、そっち経由で聞く機会も無かった。
風音も頷く。
風音「確かに忘れてた。でも言われて何となく思い出したよ。・・・ほんとに何となくだけど。・・・あの、あれでしょ? 猫背の人」
ユニル「ああ、それですそれです。これこれ、こんな感じの」
艦長室の目の前にあったソファに、突然正座した猫背の男性が現れる。
ラクネ「え?」
きょろきょろと周囲を見ている。そしてユニルと目が合う。
ラクネ「あ、なんだか見覚えがありますねここ。またユニルさんですか。急に呼び出さないで下さいよ」
ユニル「ごめんごめん、特に用は無いんだけど」
ラクネ「用も無いのになぜ呼んだんですか・・・。あ、どうも突然の訪問失礼致します。初めましてですね。 運命を司る妖精のラクネ・ソードです」
風音達の方を向いて、頭を下げながら自己紹介をした。
春日が軽く手を挙げて挨拶代わりとする。
風音「僕は初めましてじゃないですけどね。久しぶりです。見たら完全に思い出しましたよ。あの時はお世話になりました」
同じく頭を下げる風音に、ラクネが驚いた表情を見せる。
ラクネ「え? どうして覚えているのですか?」
風音「ちょっとずつ記憶が残ってるみたいで。 全部あやふやなんですけどね。 復讐だの真っ赤な場所で死んでしまっただの・・・。ラクネさんの事も会話内容までは思い出せないんですけど、この場所でその位置で互いに会話したってのは、何となく覚えてます」
ラクネが考える。
ラクネ「なるほど。初めてですね私が覚えられているケースは。やはり高位の妖精と契約しているからでしょうか」
風音「どうなんでしょうね? 僕の資質だ、なんておこがましい事も言えないですし。 ユニィの影響なんじゃないですか?」
ユニル「だとしたら、さすが私ってとこね。 今までに無い現象すら引き起こして見せる、これが風の王たる証よね」
ユニルが胸を張る。
おこがましいなんて感情とは無縁のユニルだ。当然遠慮無くこういう発言をする。
ラクネがユニルに答える。
ラクネ「ええ、純粋に凄いと思いますよ。 ユニルさんには、あとは人望さえあれば・・・いやそれと性格を直して・・・あと黙っていれば、立派に風の王と名乗っていいのではないでしょうか」
風音「今は名乗っちゃ駄目なんだ」
風音が笑う。
ラクネ「あくまで私個人の採点ですが、ユニルさんの場合風の王として相応しいのは実力だけで、あとは全部赤点だという評価です」
風音がしみじみと頷く。
風音「・・・ちょっと分かる」
ユニル「いやいやおかしいおかしい風音さんまで」
ユニルは手を振って否定しているが、ラクネが続ける。
ラクネ「その実力すら風音さんと契約している間は大幅減衰しています。ですから彼女は今、ただのユニルです」
風音が吹き出す。
風音「ただのユニル。 じゃあ凡ユニィって呼ぼうかな」
ユニル「あんたいい度胸してるわね」
ユニルがラクネに向かって掌を向ける。
すぐにラクネが両手を前に構えて防御姿勢をとる。
すぐに風音が止めに入る。
風音「はいはい喧嘩しないで、凡ユニィ」
ユニルが手を下ろす。
ユニル「凡ユニィは直ちにやめて下さい。 それにこれは喧嘩というか」
ラクネ「高位の妖精達の前に私の防御なんて何の意味も無いので、私が単に吹き飛ばされるだけの、いつもの流れですね」
妖精の星ではこういう事がよくあるのか。
風音「なんだ、じゃれてるだけか」
それならいいか。
ユニルもたまには同族と普通のやり取りをしたいだろうし。
ラクネが風音の方に視線を戻す。
ラクネ「・・・しかし嬉しいものですね、一度力を貸すほど深く関わった人に覚えて貰えているというのは」
言葉通り、嬉しそうに微笑む。
風音「そうか・・・。忘れられるのが当たり前なんだ。 ふぅん・・・。 良かったらいつでも遊びに来てくださいね、僕はずっと覚えておきますから」
ラクネが一度背筋を伸ばしてから、もう一度頭を下げた。
ラクネ「ええ、ありがとうございます」
その言葉を言い終わるか否かくらいで、ラクネの姿が消える。
ユニル「はい終了~~~。ラクネ君ありがとうございました~」
風音「え、今強制的に帰らせた?」
ユニル「はい。以前も感じたんですけど、ラクネ君と風音さんちょっと仲が良すぎるんですよ」
風音は覚えてないが、前回も仲が良かったらしい。確かに今回もお互い性格的に話しやすい感じは出ていた。
風音「それの何が駄目なのか」
ユニル「悔しいでしょ私が輪に入れないのは!」
風音「どう見ても入ってたけどね」
普通に会話に参加してたような。
ユニル「違う違う、会話の輪に入りたいとかじゃなく、この姿ですよ。風音さんが他の妖精と喋ってる時に、私がこのマスコット人形みたいな姿で喋ってると、凄く疎外感を感じるんです。風音さんが人と喋ってる時は、特に何とも思わないんですけど」
風音「そういうもんなのかな・・・?」
こういう疑問を持った時、いつもなら風音は頭の中で自分を実際に同じ立場に置き換えて、シミュレーションしてみてどう感じるのかを考えるのだが・・・。
他星の人と契約してて、その結果体が小さくなってて、今居る場所が自分の星じゃなくて、でも自分の星の出身の人と喋る機会が来た。
・・・という状況が特殊過ぎて置き換えるのが難しい。
風音「まぁそういうもんなのかな・・・」
その立場の気持ちが分からないので、同じ言葉しか出て来ない。
春日「そろそろええかの?」
会話が煮詰まったのを見計らってか、春日が声をかける。
そういえばこの人、用があって艦長室に来たのだった。こっちが勝手に雑談を始めただけだ。
風音「もういいですよ。ごめんなさい雑談ばっかりで。すっかり用があったの忘れてましたよ」
ようやく過去の話を終えて春日の用事を聞こうとした時。
コンコン。
とノックの音が。
風音「どうぞ」
ドアを開けて凌舞が入ってくる。
凌舞「まいど~、って・・・他にも人が居たのか。 春日さんと咲桜ちゃんも。あ~、どうしよ。後にしようか?」
春日が振り返る。
春日「こっちの話はすぐに終わるから、待っとりゃええ。 急ぎなら先にそっちの用件から終わらせるか?」
凌舞「いやこっちも明日の仕事の話だから、急ぎでもない。じゃあ適当に待っとくか」
そう言って、来客用のソファに寝転がる。
春日が風音の方に向き直って、話を戻す。
春日「この前は済まんかったの」
いきなり謝られる。
風音「えーーーーと? どの件? だいぶ前にシャロンから苦情が来たやつ? 練武の時間にセクハラをされた疑惑がどうのこうのってやつ」
春日は現在シャロンで格闘技の講師をやっているが、女性陣から時々セクハラ疑惑の苦情を頂く。
一応風音としても確実な証拠があれば、提出してくれれば罰しますと答えているものの。
送られてきた写真や動画はどれも微妙な物ばかり。
確かに格闘技の指導中に、春日が相手の女性に貪りつくように抱き付いているかのようにも見える。
でも見る限り、春日の行動に非は無い。格闘経験の豊富な風音から見ても、その状況なら最善の選択肢として組み付いているようにも見える。組み技としての理想形だ。
そんな風音の感想に加えて。
指導を受けている女性陣としては悔しい事に、一部を除きシャロンの実力者達の見解も風音寄りなのだ。
だから今のところ春日の方に問題は無い事になっている。
っていうか風音に言わせると。
それくらいうちの道場でもあったし。
こっちは何回母親に抱き付かれたと思ってるんだ。
わざと執拗に組み付いてくるならともかく、完璧なタイミングで捕まるんだから文句なんか言えない。
それがこっちも分かるから、その過程に文句を付けた事なんか無かったよ。むしろ勉強になりましたって話だ。
問題なのは母さんに捕まった後だ。ついでに服まくり上げてヘソ触って、髪の匂い嗅いでくるんだぞ。セクハラってのはああいうのを言うんだよ。
本当の被害者を舐めんじゃねぇぞ。
・・・と言いたい気持ちを抑え。
一応カノンの長として指導しておくか。
風音「あれに関しては、もうちょっとやり方を考えてほしいとは思いますけど。春日さん組み技じゃなくても戦えるでしょ。打撃も得意じゃないですか。それなら苦情も来なくなると思いますよ?」
春日「打撃なんぞ男性陣の方で教えとるわ。女の子には組み付いてなんぼじゃろが」
体格にハンデのある女性にこそ、組み付かれた時の不利を練習で何度も体験し、最善の反撃法を覚えて鍛錬するべき。
・・・という意味で言っているようには見えない。せめてそういう意味で言ってくれれば擁護出来るのだが。
単に組み技で指導したいという意味で言っているようだ。
風音「・・・やっぱり春日さんの方に問題ありそうだな。天狐さんの言う通りか」
以前シャロンの天ヶ崎天狐という女性から相談を受けて、春日対策を教えた事がある。
その成果もあって最近は春日がシャロンの新人女性に格闘技を装ったセクハラまがいの事をしようとすると、天狐が横から蹴りを入れて妨害しているようだ。
おかげで苦情も減って助かっている。
春日「天狐ちゃんな。面白いのぉあの子は。どんどん強くなる。今ワシとまともに組み手が出来る女子なんぞ、あの子くらいじゃろ。ああいうのが増えるといいのぉ」
春日は天狐に妨害されているという自覚も無いようだ。
唯一組み手が形になる実力者で、面白い存在だと思っている。
風音「いやそれがね。ついこの間までシャロンの女子部に、実力を偽ってただけの凄いのが居たんですよ。マテノ・サキ・ナ・ウィスパって覚えてません?」
春日「マテノちゃんな。覚えとるよ。身体の堅ったい子じゃろ?」
柔軟体操が苦手。みたいな意味での体が硬いではなく、身体に力を入れた時文字通り鋼鉄のように堅い。
そのくせ身体の柔軟性は軟体動物かってくらい柔らかい。
春日「あの子がそんな強かったかの? 普通に関節を取れとったような」
風音「いやわざとですよ。僕やりあいましたけど、あんな天才なかなか居ないですよ」
春日「ほぉ、ぬしがそう言うんじゃからよっぽどじゃの。 でもマテノちゃんは最近見んのぉ」
風音「殺人で捕まりましたからね。僕がこの間捕まえるの手伝わされましたよ」
春日がちょっとだけ驚く。
春日「そうなんか? ワシにはそういう情報一切入って来とらんのじゃが」
風音「そりゃ身内の恥ですしね」
世間にも主犯の男以外の名前は隠蔽していたような。本当にごく一部の、あの件の関係者以外は知らないのだろう。
春日「ふむ。 それよりそろそろええか? ワシが謝っとったのはその件じゃなく、たまふわの件じゃ」
たまふわ。ここフェクトで最も有名な歓楽街だ。飲み屋や大人のお店やカジノが多い。
風音はついこの間、仕事でルミナと一緒に行った。そしてカジノで五億負けた。
実はその仕事で行くもっと前から、春日が「大人になったら歓楽街には行くべきじゃ」とか言って、風音とたまふわで遊ぶ約束をしていた。
風音「ああ、この前連れてってやるとか言ってて、当日来なかったやつ。あれ仕事が入ってたんでしたっけ?」
春日「急に仕事が入ってしもうて。次の休みは確実に休みにしたからの、次こそは連れて行ってやろう」
ユニル「ちょっと春日さん。風音さんを歓楽街なんかに連れて行って、変な遊びを教えたりしないで下さいね」
隣で聞いていたユニルから警告が入る。
そんなユニルに風音自身が説明しておく。
風音「もうカジノは向いてない事も分かったし、飲みに行くだけだよ。成人したんだから、ああいう場所の空気感も覚えた方がいいって事らしいけど」
春日「そうそう、可愛い女の子と戯れながら酒を飲む。これ以上の娯楽があるかい。わしの厳選した、特にいい店があるんじゃ」
ユニル「だからそういうお店に連れて行かないで下さい。殺しますよ?」
春日「やってみい。ぬしの攻撃なんぞ効かんわ」
ユニル「・・・クソジジイが」
確かに春日に風は通じない。吹き飛びはするが、ダメージが無い。
風音「ユニィの言いたい事も分かるけどね。そういうのにお金を使ってる余裕なんか無いし、僕自身興味も無いけど・・・社会勉強ってのも必要な事でね。特に堅い仕事のお偉いさんなんかにかぎって、そういう店が好きだったりするからさ。そういう店に仕事上の流れで連れていかれた時、慣れてないと・・・っていう話をこの間春日さんとしてて、ああその通りだな。って」
ユニル「騙されてますって。このジジイは風音さんで遊びたいだけですって」
春日「あほか。玩具じゃあるまいし、こいつで遊びたいんじゃないわ。 面白いじゃろうが、なんも知らん奴に遊び方を教えながら飲むんは。それで慣れてくれば、一緒に遊べるようになるじゃろ」
風音「いやまぁ慣れるのは大事だけど、社会勉強抜きで一緒に遊びに行けるほどの余裕はうちには無いよ」
春日「固いのぉ。給料くらいあるじゃろ。男だったらそれを全部つぎ込んで遊びに行くもんじゃ」
ユニルがどうやって止めようかと考えている所で、ソファの方から声が。
凌舞「あーーー、ちょっといいか? 二人とユニルの話が平行線みたいだから、一旦行くって事にして話終わりでいいんじゃねぇか?」
待っていた凌舞が、誰かにメールでも打っているのか携帯をいじりながら話を終わらせようとする。
ユニル「ちょっと、凌舞さん!」
当然ユニルは怒る。
凌舞「まぁまぁ。 カザ。明日の仕事についてなんだけど、時間が惜しいから食事の準備をしながらにするわ。ちょっと調理場に移動してもらっていいか? ユニルもついでに」
風音「いいよ別に」
凌舞が風音の方に歩いて行って、風音の後ろにある窓の鍵を開けて窓を全開にして、深呼吸する。
凌舞「あ~相変わらずいい空気。さて行こうかカザ」
窓を閉める。
そして凌舞がユニルをつまんで、そのまま艦長室を出て行こうとする。
ユニル「だからまだ話は・・・」
凌舞「落ち着けユニル」
ユニルにだけ聞こえるように小声で話す。
艦長室から出て、調理場へ向かう。
風音はまず眠っている咲桜を、自分の部屋に連れて行って寝かせてから調理場に来るだろう。
聞かれる心配は無い。
凌舞「俺もな。カザの女遊びは阻止したい。でも春日さんにユニルは役に立たないだろ?」
ユニル「悔しながら・・・」
あんなの反則だ。自然災害が通じない体なんて。宇宙広しと言えども、ニーギ人くらいだ。
凌舞「だからさっき連絡しておいた。俺達以上にカザを女遊びの場に行かせたくない人が居てな。もうすぐ止めに来る」
ユニル「あのジジイを止めに? 戦闘になるんじゃないの? 勝てる?」
あれでも春日は武術の達人だが。
凌舞「勝てる勝てないより、春日さんが生きていられるかどうかの方が心配。殺さないでねとは言っといたけど・・・滅茶苦茶怒ってたからな」
携帯のメールの返信画像を見せる。
画面にただ一言「殺す」と書かれている。
ユニル「誰を呼んだんですか・・・」
しばらくして風音が艦長室に戻る。
調理場で凌舞との話は終わった。わざわざ移動する程の事も無かったくらいの話だった。
ユニルはそのまま食事が出来上がるまで食堂で待つそうだ。
艦長室に着き、ドアを開ける。
そこには変わり果てた状態の春日が。
風音「えぇっ! ちょっと、何!?」
全身痣だらけで、ニーギ人特有の紫色の血で全身血塗れ状態になった春日が、ソファで燃え尽きたような格好で座っている。
意識はあるようだが・・・。
すぐに駆け寄って風音が春日に抱き付くと、二人の全身が青白く光る。
一日一回限定の、他人を回復させる技だ。
完璧ではないものの、ほぼほぼ回復させた。もともとそんなに大怪我でもなかったようだ。
風音「何ですかこれ? 誰にやられたんですか?」
回復前から意識はあった事もあり、会話は出来そうなので尋ねる。
春日「それは・・・言えん」
風音「何でですか? だって春日さんが怪我って・・・」
かなりの事態だ。
だってこの人に特殊能力は通じない。
怪我をさせたければ、普通に殴り合いで勝つしかない。
春日は超が付く達人だ。異能抜きの真っ向勝負で、これをやってのけた奴が居る。
でも不審者やカノンに関係の無い人物が勝手に入ってきたら、警備のゼロアが気付く。
あれが動いてないという事は、身内か?
身内でこんな事が可能なのは・・・
風音「ゼロア? あの人くらいでしょ、カノン内で春日さん相手にここまで一方的にやれるのなんて」
春日が首を振る。
春日「違う・・・あやつが意味も無くそんな事をするはずがない。もう詮索はよすんじゃ・・・」
風音「・・・いやそういう訳にも。 じゃあ誰だ? 関係者で・・・こんな真似が出来る・・・。母さんかな? 藤御優希さん。 写真で見た事あったでしょ?」
春日「・・・ちがいます」
風音「違うのか。じゃあ・・・あ、さっき話題に出てたマテノ? あいつもう出所して働いてるのか?」
あいつなら出来る。羊の皮を脱ぎ捨てたあいつは怪物だ。
実際戦ってみての肌感覚だが、あいつは春日を上回る。
さっき部外者は無いと言ったが、侵入してもしばらくゼロアに気づかれないくらいの達人なら部外者の線も有り得る。
そして奴は何でも出来る天才型だった。
しかし春日がゆっくりと首を振る。
春日「違う・・・。それにマテノちゃんはそんな事をする子じゃあない。少なくともわしの前ではええ子じゃった」
風音「だからそれは演技だったんですって。でも違うって言うなら・・・」
誰だ? 他に誰か・・・身内でこんな事が出来る奴。
考える風音を春日が止める。
春日「誰なのかはどうでもええんじゃ。 わしから言える事は一つ。 たまふわに遊びに行くのはやはり止めにしようという事じゃ」
風音「え・・・今それ? 急に関係無い話を・・・って、それは別にどっちでもいいけど、それよりこんな事をした奴を・・・」
春日「いやもうそれはええ。触れてはならん禁忌に触れてしもうた。これはその罰なんじゃ・・・」
春日が立ち上がり、それだけ言い残し部屋を去ろうとする。
風音「本当に放置でいいの? 誰か言ってくれたら、誰であれ僕が責任持って謝らせるけど」
後ろを向いたまま、春日がひらひらと手を振る。
春日「構わん構わん。 こんくらいの怪我なんぞ慣れとるし、ええ修行になったわ。ま、今度その辺の居酒屋で一緒に飲もうや。 それで我慢するわい」
風音「飲みに行くのはいいけど・・・」
なんかモヤモヤする。
こんな大事を放置でいいとか言われてもな。
コンコン。
今まさに春日が出て行こうとしたその時、ドアからノックの音がする。
風音「どうぞ」
ドアを開け、巨躯の男が入って来た。
ゼロア「一応報告しておく。お前の母親がさっき、凌舞に会いにここに来ていたみたいだ。 彼女は出入り自由だから、これだけならわざわざ報告する必要も無い所なんだが、この部屋の窓から入ってきたみたいでな。 今後警戒するのも面倒だから、次からは普通に入ってくるように言っておいてくれ。あと窓の鍵くらい掛けておけ。以上だ」
風音に向かって業務連絡だけ言い終えて、すぐに出て行った。
風音「あれ? 鍵閉めてなかったっけ・・・。 っていうか、母さん来てたんだ。シノに用事って事は、この後ここにも来るのかな?」
紅茶の用意でもしておくか。
しばらくの沈黙。
何となく風音と春日の目が合った。
風音がハッと気付く。
風音「ぅん? って事はさっきの春日さんのってまさか」
春日「・・・ちがうよ?」
風音「違うのか」
急に窓から入ってきた母さんを、たまたま用事があってこの部屋に訪れた春日さんが見つけて、撃退しようとして返り討ちに逢った。
・・・が一番筋が通っている感じがしたが。
本人が違うって言ってるんだから違うか。
そのまま春日が部屋から出て行き、風音一人になって作業机に座る。
風音「・・・・・・・・・・」
何となく机の上に会ったペンを持ち、コツコツと机を叩いて考え事をする。
実はさっきから気になっている事がある。
ラクネに出会った事で、今まで忘れていた記憶が鮮明になった時。
ニーギでの出来事もぼんやりしていた部分が鮮明になった。
真っ赤な中で死んだような記憶。
そう。マグマに飛び込んで死んだんだ。
雨に濡れた記憶。
本来の記憶なら雨はユニルに対処してもらい、濡れずに済んだ記憶しかなかった。
でも違う。 濡れた時もあった。確かメモを見て対処したんだ。
あれは雨じゃなく生き物だった。それで・・・全員死んだんだ。
その時、誰の声か知らないが声が聞こえた。女の子の声。
当時起こった出来事を携帯にメモをしていて、それで見た事も思い出した。
確か春日さんと戦闘になり、一度殺されている。
真っ暗な空間の記憶。
神のような存在と戦い、負けた結果星の子が出てきてニーギが崩壊した。
復讐。
詳細は覚えていないが、星の子に体を乗っ取られた際、何故かシエロに対して敵意を持っていた。
それを風音は復讐と考えていた。
その他にも何回か死んでたっけ。
どうでもいいやり直しの記憶もある。
出発前に自分で首を切った事もあった。
あれも詳細がはっきりしないが、ブラウニーと一緒にいたような。覚えてないけど嫌な感じが全然しない。むしろブラウニーに感謝していたような。
どれもこれも少し鮮明になっただけで、全て思い出したわけじゃない。
でもそれぞれのやり直す直前の死に様や状況なんかが思い出される。
終わった事なので死に方なんてどうでもいい事なのかもしれないが、それらを思い出した事で一つ気になる事がある。
風音(なんか・・・毎回咲桜が自分から死にに行くような行動を取ってた様な)
自分からマグマに飛び込み、雨に濡れた時は助けようとしたのを拒否し、春日との戦闘中に割り込んで殺され、抵抗すれば殺されると分かっている神に突撃し・・・。
そもそも付いて来た理由も分からない。
確かここでニーギに行く話をしていて・・・すぐに人が死ぬ星だという話をしていた。
それを咲桜は聞いていて、その上で付いて来た。
まさか死ぬ為に付いて来たのか?
酷い境遇に置かれた子供だ。
精神的に不安定になる時が周期的に訪れるのかもしれない。
風音(次の検診の時に一応相談しておくか。 今日は機嫌良さそうだったけど・・・あんまり一人で放置するのは避けた方が良いのかな)
難しい問題だ。こういう時に何がしてやれるのだろう?
まだ子供だから、本当なら部屋も誰かと一緒にしてあげたかったのだが、当の本人が拒否するし・・・。
取り敢えず・・・今は隣にある風音の自室のベッドに寝かせてある。
一緒に昼寝でもしてこようか。
起きた時に隣に誰かが居れば安心するだろう。
母親がこの部屋に来た時の為に、「寝てます」と置き手紙をしてから自室に向かった。
よっしゃ、あとがき!
ここまで読んでくれてありがとうございました。お疲れさまでした。
今回のあとがきは長いですよ。語りたい事がいくつかありますので。
あと話の中には、メタ的な話も多いです。今回私がこういう考えだから登場人物がこうなった、とかそんな話。
だからそういう作品の裏話が嫌いだったり、本編読んでお疲れの人は、もうこの辺でやめておきましょうね。
という事で。
ここまで読んでくれてありがとね。よければまた次の話で会いましょう、バイバイ。
さて。
久しぶりの更新になりましたよ。
ストリートファイターⅤばっかりやってたせいでこんな事に・・・
しかもクソ弱いのにオンライン対戦なんかやってたから・・・
ってか強えぇんだよみんな・・・ほんとに初心者帯かよ・・・
元々大して上手くないからゴールドランクまで2000試合もかかったし・・・
なんでファイトマネーあんなに溜まりにくいんだよ・・・
サバイバルモードのロード時間長すぎるだろあれ・・・システムに合ってないだろ・・・
そもそもストⅤのゲーム自体が、全体的にロード時間長いんだよ・・・令和だぞもう・・・
持ちキャラの、かりんのほくとコス可愛いけどさ。あれのおかげで頑張れたみたいなとこあるわ。
あ!!
気付いたら更新遅れてた言い訳と愚痴大会になってましたよ。
作品と全然関係無い話はここまでにして。
ループものですよ。
いわゆる、同じ時間を繰り返し行う話?
厳密に言えば、今回の話はループものとはちょっと違うかもしれませんけど。
ループものって大体、絶対同じ時間の中を繰り返す。つまり始まりと終わりの時間が決まってる事が多いですからね。1月1日から1月14日までを何度も繰り返す、みたいな。
今回の話はループはループですけど、主人公の行動次第で始まりの時間と終わりの時間が変化してましたからね。
ループものと言えば。
一昔前に一世を風靡して、どの作品もループものばっかりだった時代があったみたいですね。
私とか天邪鬼なんで、流行って以降のほとんどの作品を見てなかったりしますが、流行り始める直前の作品なんかは結構見てました。
おそらくなんですが、それ以降いろんな作品が出て、どんでん返しやら叙述トリックやら色々と駆使した面白作品が次々登場し、ループ状態から繰り出せる案が出尽くし、飽和状態となって衰退したって感じだと思います。
まぁ衰退って別に、無くなった訳じゃないでしょうけどね。今もループものってジャンルが無くはないんでしょうが。
そんで、少し前の流行がチート系? 俺強ぇ系なんて言われてたかな?
今の流行が、役立たずを追い出したら実は役立たずは追い出した側だったので追い出した奴を連れ戻そうとして酷い目に遭う系? ・・・なのかな? ちょっとこれに関しては読んだ事が全く無いので詳細は分からないんだけども、結局チート系とどう違うの? チート系の別ジャンルって感じなのかな?
・・・まぁいいや。流行りの詳細は今このサイトを見ているみんなの方が詳しいでしょ。
これらの流行作品も敢えて読まないようにしてるんですが、流行りの流れはそんな感じらしいですね。
流行りの作品を読まない理由も一応書いときましょうか。以前も書いた気がするけど、はじめましての人も居るかもなので、一応ね。(いや居ないかな、続き物の話だし)
同じような作品ばっかりでつまらなそうだから読まないって人もいるかもしれませんが、前にもあとがきで似たような事を書いたかな?私の場合逆ですね。
どれもこれも面白そう。本当は読みたい。
でもあんまり見すぎると作風が引っ張られそうで。自分の個性が死にそうな気がするんですよ。
いずれ自分が小説を書かなくなるか、自分の作風を完全に確立出来ればその時は。
その時は一気に読んだるからな、覚悟しとけよお前ら。
そういう知識を敢えて入れない事で出来てしまったのが、例えば一つ前の話のギャンブルもののやつ。
あれなんかもそうですね。嘘喰いって漫画が面白くて、ちょっとやってみようって思っただけで。
敢えて一切それ系の小説には目を通さずに、小説におけるギャンブルものの書き方とか見せ方とか、一切勉強せずに書き始めました。
そういうのを読み漁って勉強してから書くと、もっと読みやすくて面白くなってたのかな? とも思う反面、急に世界観(作品の見せ方)が変わりそうな気が。
たとえ面白くても、もうそれは自分の作品じゃないなとも思うし。
だから本当は一番良いのは、他作品や有名作家の方の作品を熟読して、読みやすさや魅せ方を学んだ上で、自分の色を殺さずに表現する事なんでしょうね。
・・・いや無理無理。
だってさ。実際自分の作品を読み返した時に、「あぁこの部分の表現、昔読んだあの作品の影響受けてるな・・・」ってしみじみ思う事がありますもん。書いてる時はそんなつもり無かったのに・・・とかね。
他の作品なんて読んだら読んだ分だけ、まんま影響されてしまうのが目に見えてるわ。
さてループものに話を戻しまして。
前述した通り私はそれらの作品を見てないので、捻りの効いたループものの展開って分からないんですよ。
だから今回の話は「私が考えるループものの教科書通りの型」にはめた感じですね。
世間一般の感覚と合ってるかどうかは分かりませんが、私の考えるループものの教科書通りと言えばこんな感じ。
1、まずループものだという事を伏せた状態で話が始まります。
2、ループものじゃないと思っている読み手からすれば、急にとんでもない事が起こります。重要キャラが死んだり、周囲や世界そのものが歪な状態である事が判明したり。
この話の場合、主人公が死にましたね。
3、実はループしていた事が明かされます。
ここはいくつかパターンがあるのかな? ループしている事を知らなかったのは読者だけで、登場人物は知っていたケース。 登場人物すら気付いていないケース。 ごく一部の登場人物だけ気付いていたケース。その他いろいろ。
4、ああそうなんだ。じゃあこれから何度も同じ時間をループする話が始まるんだなって、読み手が思ったくらいのタイミングで、実はもう何度もループしていた事が明かされます。
5、あとは伏線回収。 最初ループものを伏せていた事によって、最初の頃読み手は何となく普通の話だと思って読んでいます。その部分に伏線を仕込んでおいて、あとで順番に回収していきます。
ここで読み手が「ああ、あの行動や言動はそういう事だったのか」って思ってくれれば、ループ作品としては成功なのかな。
惜しむらくは、この作品が続き物だっていう事。この伏線回収がループものにおいての醍醐味であり、そのほとんどがループする事で各キャラクターの大きな秘密が、読み手が驚くような形で明らかになっていく。っていう感じだと思います。
各登場人物にはその秘密の片鱗を、物語序盤から中盤にかけての読み手が何も知らない頃に散見させる訳なんですが・・・。
続き物の作品で、この話の中だけでループが起こっているという設定だと、キャラクターの変化や秘密で大きなネタを仕込む事が出来なくてね。
だから正直今回の話には、大きな伏線回収ってのは無かったかな・・・。単に中盤までは色々と真実が明らかになっていって、中盤以降はループを利用する事で請け負った仕事の解決策を見出していくっていうだけの展開でしたね。
最初そういう大きな伏線的なものが必要だと思ったから、この話だけのキャラクターを出す予定でしたが、いつもの如く話が長くなり過ぎる事が設定段階で判明しまして。
面倒く・・・じゃなくて、あまりダラダラと話が長いと読む人がダレるだろうと思ったので、やめようってなりました。
でも一応あとがきですし、大雑把にどんな話だったかを書いときますね。
これもループものではありがちなキャラクターですが、ループしている事に気付いている人物が居る予定でした。
本当はもう一人話の中心人物が居たのですが、そいつは以前からこの星の奇妙な神の存在に気付いており、単独で調査をしていた時に主人公達がこの星に来ます。
その人物は訳あって主人公すら気付いていなかった序盤の数回のループにも気付いて行動していて、このループの原因が主人公達にある事を突き止め、そのことを(当然読者にも)伏せたまま主人公達と接触します。
こう書くと単純な話なんですが、実際構想段階での話の展開がやたらややこしかったですね。
そいつが主人公達の前に登場するタイミングとか、登場までに与えている影響とか。
あと重要なのがそいつがループしている事に気付いている事を、序盤から中盤にかけてどうやって暗に読者に伝えるのか、ですね。 バレバレだと面白くないし、伏せ過ぎると伏線っぽくなくなるし。
ややこしいし、やめて正解だったかな。
余談ですがそいつは、滅茶苦茶無残な形で神に殺される予定でした。
6(おまけ)、全部解決するよりも、ループの中で生まれた(ループがあったからこそ気付けた)謎を残した方がそれっぽい感じがするので、最後に疑問を投げかけてみる。
これに関しては、本来ループものには必要が無いですかね。さっきとは逆で、続き物だからぶっ込んだ感じです。
もし続き物じゃなくその話だけで完結する物語なら、最後に秘密なんか残されると読んでいる方はモヤモヤします。
出来ればその作品の謎は、その作品の中で全て解消してほしいな、っていうのが私の考え方なので。
「はっきりしない結末でしたし謎も多く残されていますが、その解釈は読んだ方々の想像にお任せします」っていう作品、個人的にあんまり好きじゃないんです。
最後に謎を残すのは、続き物でいずれその作品内でその謎を解決させる気がある時だけ、やっていいんじゃないかと思っています。個人的にはね。
まぁこんな感じですかね? 私の思うループものの教科書通りって言えば。
本当にこの通りに書けてたかどうかは、甚だ疑問ではありますが。
ただ・・・上記5番目の伏線回収に関しては実際書いてみて、なんか疑問を感じたというか。
なんだろう?
これ伏線と伏線回収って言うより、当たり前の話の流れの順番を、前後入れ替えてるだけ? って感じがしました。
ちょっと何言ってるか分からないですかね。そうですよね。
もしくは呆れられるくらい、当たり前の事を言っちゃってるのかな。
えーーーとね。普通の話が「起・承・転・結」だとするじゃないですか?
ループものって、「転・起・承・冒頭の転の承・真の転・結」って感じなんですよ。
・・・いや全然意味が分かりませんよね。
まぁいいか別に。
で。
ここからがあとがきの本題ですよ。
やっとここからですよ、このあとがきの本題は。ここまで既に長かったのに。
さて本題の中身は。
「じゃあなんでせいぜい教科書通り、いやそれ以下のものしか書けない「書き手レベル2程度」のお前が、最低でも「書き手レベル23」は必要とされる、高ランククエストで有名なループものに手を出したんだ?」
っていう皆さんの疑問に対する答えですよ。
二つあります。
まず一つ目。
殺したかったんや。
端的に言い過ぎかもしれませんが、これですね。
物語の主人公ってさ。
基本死なないよね。
だって死んだら話が終わるし。
だからエンディング付近で死ぬ作品は結構あります。もうどうせ終わるから、主人公が死ぬのも一つの物語っていう。
でもさ、この作品なんか特に、主人公毎回死にかけてるでしょ。
運良く生き残り過ぎなんだよ。
これで死ななかったら、いつ死ぬんだよコイツ・・・くらい絶望的な状況から生きとる訳で。
そりゃ人間だもの。危機的な状況の連鎖の中では、普通に死ぬ時もあるってのは書いておきたかったかな。
あともう一人。
今回の話では、何故か自分から死のうとするキャラが出てます。
この作品に関わらず、そういうキャラにしてもそう。
死んじゃったらそこまで。そのキャラの物語はそこで終わります。
だから物語的には(少なくともそのキャラの物語が完結するまでは)死なせないようにしなければならない。
例外としてデスゲーム系みたいな、人の命がポンポン無くなっていく系の話だとそういう奴もあっさり死んだりしますけどね。まぁそういう例外はさておき。
要するに何が言いたいかというと。
読み手からしたらそういうキャラってさ、本当に死ぬ気あんのコイツ・・・てならないですか?
だって死のう死のうって言ってるだけで、物語の都合上絶対死なんって事やんか。
・・・でもね。
聞いてください奥さん。
ループものだとね。
こいつら殺せるんです。 ふへっ。
ぅふ、ふっ・・・あはは・・・ぁはははははははははははは。
あーー・・・。主人公なんかいくらでも殺せるし、ループものの中で死にたい奴なんかもう・・・作品の餌やで。そんな奴すぐ死にます。
死にたい奴の行動なんて特に、思い切った事が出来るので「死のう」っていう普段の行動に説得力が出るしね。
読む側からしたら、コイツはこのくらいの行動力があって、普通に死ぬんだ・・・みたいな。
他にもさっき書きましたけど、今回の話の場合もう一人出る筈だったキャラクターなんかも、存在や設定そのものが死亡フラグじゃないですか。
だってループものという状況においてさぁ。
必死で必死で、それこそ誰よりも努力してその世界の真実を調査して。ようやく掴み取った真実と向き合った時なんて・・・
そりゃぶっ殺されるでしょ。
当たり前でしょそんな展開。
え? 逆に殺されないケースもあるんじゃないかって?
何を言ってるんですか・・・ほんと・・・。ふふっ。 温室育ちかよ。
これが一つ目の理由ですかね。
冗談半分の話は置いといて真面目な話をすれば、別に殺したかったわけじゃなくってね。
物語として主人公は無敵の存在じゃないし、死にたいキャラは本当に死のうとしている。っていう事を表現するのに、ループほど便利な設定ってなかなか無いよな・・・って思ったから採用したって感じですね。
さて二つ目。
コブラっていう漫画があるの知ってますかね? サイコガンの。
昔の作品ですから、知らない人も多いのかな? 今は芸人のカズレーザーさんが居るから、知名度はまだ高いのかな?
私あの漫画昔から大好きだったんですよ。今でも漫画界最高峰って言っていいんじゃないかな。思い出補正入ってるからかもしれませんけど。
当時私が中学生くらいだった頃かな。
そんな大好きなコブラの、ある話だけが自分の中でモヤモヤして、なんか気に入らなかったんですよね。
今ちょっと手元にコブラが無いのでうろ覚えなんですが、凄くかいつまんで説明しますと。
ある星でゴミのようなものをたくさん集めては、それを売っている商売人が居ます。
主人公コブラが、そのゴミ山の中にある小型のロボットと目が合います。
買う気は無かったけど、何となく気になって買います。
そのロボットには、鎖でつながれた人間の腕がくっついていました。
と言っても偽物というか本物の人間の腕じゃないっぽいので、特に事件になる訳でも無く。単にコブラがその鎖を断ち切って、腕は捨ててロボットだけ持って帰ります。
その後いろいろあって、その捨てられた腕から全身が生え一人の人間になり、そいつ(仮にXとしましょう)が暴れ始めます。
Xの能力は、周囲の機械を集めて自分の身体に変える事。
だから機械だらけのその星では際限なくどんどん強化されていって、コブラが気付いた頃にはXは手が付けられない程巨大で無敵の存在になってしまってました。
強くなり過ぎたXに対してもうこちらの攻撃は一切通じないし、相手の攻撃一振りで街が崩壊します。
そこでようやく、買ったロボットの存在意義を知ります。
Xを封印しておく為に作られたロボットだったようです。鎖を切って腕を開放してしまったせいで、封印から復活したらしい。
そしてXは元々、封印以外に倒す手段は存在しない。
どうすれば再封印出来るのか聞きますが、もう強化され過ぎて手遅れだと。
じゃあどうするんだ、この星が滅ぶまで見ておくしかないのか。ってなった時に。
ロボットが提案します。
自分は対X戦用に作られたロボットなので、実は封印以外にもう一つ、Xと戦う為の能力がある。
なんと時間をある程度戻せる、との事。
早速ロボットが、こうなってしまう前の時間に戻そうとします。
そしてコブラに頼みます。
これから時間を戻すので、一つだけ覚えておいてほしい。
この時間で起こった出来事は全て忘れるが、それでもこれだけは記憶の奥底に刻み付けておいてほしい。
私に興味を持つな。
それだけコブラに頼んで時間を戻します。
最初のシーンに戻り、ゴミ山を見るコブラ。
何となくロボットと目が合いますが、さほど興味を持たずそのままその場を去ります。
終わり。
っていう感じの話。
間違ってるところも多いかも。でも大体こんな感じです。
この話の何が気に入らなかったのかって言うと。
なんも解決してない感じがしたんですよ。
いや封印するしかない敵を封印状態に戻したんだから、解決はしてるんですよ? でもそうじゃなくてさ。
無敵の主人公コブラが、手も足も出ず、結局見なかった事にするしかなかった。っていう結末。
なんかコブラらしくないって言うか。私の中でコブラってスーパーヒーローだったので。
でも時間が経って大人になって、コブラを全巻読み返す機会があったんですよ。
・・・・・・・・・・・・・・・
アリだな・・・・って。
なるほどこの話の展開か~、ってむしろ感心しました。
だってさ。自分の作品の主人公って強く描きたいでしょ?
実際コブラって凄い恰好良かったんですよ。どんな状況でも冗談言うし面白いのに、誰よりも強いし。
結構有名なのが、敵から「口の利き方に気を付けろ。俺は気が短いんだ」と言われた時の返し。
「腹を立てるとなにをするんだ? ウサギとワルツでも踊るのか?」
この煽りセンスよ。
めちゃめちゃ格好良いやんか。一回そのシーンを含めてコブラの名言集をググってみて? ほんと格好良いしユーモアの塊だから。
しかもそれらのシーンだけじゃないよ。徹頭徹尾そういう人なんです。
そのコブラが、逃げるしかないって話をさ。
そういう選択肢を躊躇無く選び取る主人公ってのをさ。
書けたんだ当時。って。
昨今流行りのチート系とは真逆の行動じゃない?
じゃあその話のせいで、チート系の主人公と比べて、コブラが格好悪い主人公になったか?
いや全然?
格好良いまんま。
めちゃめちゃ格好良いまんま。
なんならチート系主人公より遥かに格好良いまであります。
それに憧れまして。
オマージュって言うか、もし自分の作品で時間を戻せる系の話を書く機会があったら、その時の敵は主人公ではどうにもならないくらい絶望的な奴を敵にしようって決めてました。
そんで時間が戻って、そいつを放置して去るしかないっていう展開にしようって。
それが今回叶ったかな。
物語の都合上、ちょっとこっちが勝ててしまうような展開もありましたけどね。
本当はもっと一方的にやられたかったな。時間を戻す以外に、一切敵に抗う方法が無いくらい。
でもそれだとオマージュで書いたと言うより、ただのパクリになっちゃうか。って。
なんにせよ、それを書きたくて時間を戻す系の話に手を出したっていうのが、二つ目の理由ですね。
あーーーー。
ながかったーーーーー。
今回もあとがき長かったですね。
もしここまで読んでくれた人が居たら、本編後なのに本当にお疲れさまでした。
ありがとうね。
もし良かったらまた次の話で会いましょう。バイバイ。




