災害と再生の星7
ユセイ「・・・・・・気を付ける程度で十分じゃろ」
そう言ってユセイが酒を飲んでから席を立った。
風音「ちょ・・・っと待った」
風音がユセイを止める。
今戻ってきたようだ。
これから教会に行くところという場面。
安全な時間を作った事で、予想通り森スタートのループからは抜け出せているようだが・・・。
急に戻ってきたシーンが咲桜を抱っこしたまま立ち上がっている所だったので、少しびっくりして手に力を入れなおした。
結果的に抱っこするために添えていた手で、咲桜のお尻を揉んでしまうような形になった。
風音「あ、ごめん咲桜。びっくりした? ちょっとボーっとして落としかけて」
抱っこされていた咲桜が上を向く。
咲桜「・・・・」
フリフリと首を振って、頬を少し赤らめて顔を風音の胸にくっつけ、フンフンと鼻を鳴らしながら風音の脇腹をさする。
ユニル「発情してんじゃないわよクソガキ・・・」
ユニルが小声で文句を言っている。
そんな事より、引き継いだ記憶が荒唐無稽だ。
ユセイ「どうかしたんか?」
立ち上がったユセイが再び座る。
風音「ちょっと・・・待って下さいね。 まずユニィ、まだラクネさんの力って僕の中に残ってる?」
ユニル「あ、減ってますね。今戻ってきたんですか?」
風音「うん。あと何回やり直せるかは、やっぱり分からない?」
ユニル「力の残量がかなり少ないのは分かります。多分あと一回くらいじゃないですか?」
風音「だろうね。うん、じゃあ今回で最後だね」
聞いていたユセイが不思議そうな顔をしている。
手元にはまた酒が置かれている。いつの間に注文したのか。
早速飲みながら尋ねる。
ユセイ「何の話をしとる?」
風音「いえ気にしないで下さい。こっちの話です。 ちょっとだけ考えを整理させてもらっていいですか?」
ユセイ「まだなんか考える事があるんか? もうかなりの時間ここに居るがの。 ま、好きにせい。わしは酒が飲めるから何でもいいわ」
言葉通りユセイは豪快に酒を飲み始める。
風音が記憶を精査する。
覚えているのは、まず咲桜以外みんな死んだ事。
おそらくこれから出会うのだろうが、知らない人も一人死んだ記憶がある。
それと各々の死に様が滅茶苦茶だった事。死に様を鮮明に覚えておくという無駄な記憶に容量を使いたくなかったのか、死に様の詳細は詳しく思い出せないが、とにかく支離滅裂で理不尽だったという記憶だけがある。
そして正体不明の人物が居た事。そいつに殺された事。
最後に、その人物が意思疎通が出来るらしい事と、これから行くその場所を調べようとしたら襲って来た事。
それだけか。
思うにこれは・・・もう一回行ってもどうにもならん気がする。
帰ろうかな。
割と本気でそう思う。
一応携帯のメモに目を通す。・・・特に新しい事も書いていない。そりゃそうか。初めてこの場所からやり直してるんだから、メモが増えるはずがないか。あるとしたら今回の記憶をメモして次に活かす事だが、おそらく次は無いのでもうメモする意味もない。
携帯をしまう。
・・・でもまぁあと一回やり直せるし、その元凶らしき人物と意思疎通が出来た事と、調べようとしたら襲って来たという部分を覚えているのがヒントかもしれない。
そいつ自身が調べた事に対して警告を発したというのなら、今回は敢えて何もせずに意思疎通を試みてもいいかもしれない。
もちろん「この場所に来た事が調べようとする行為にあたる」とか言われて、現場に行っただけで殺されたらお手上げだが。
もう一回やり直せるのなら、駄目元で試してみてもいいか。
ふとここでやり直し回数が無くなる事を踏まえ、目的地での問題とは違った問題に直面する。
風音「今まで考えもしてなかったけど、帰りどうしよう?」
ユニル「どうしよう、とは?」
風音「来る時に森で何回も失敗してる訳だけど、これもしここでラクネさんの力を使い切ってもう帰ろうかってなった時に、帰りは残機無しであの森を攻略しないといけないんだけど」
ユニル「あぁ・・・確かに」
死んだらそこで終わり状態で、あの森を攻略。
多数の危険生物がいるらしいので、かなり危険だ。
風音「それこそ契約解除して、ユニィに周囲を無敵の風で覆ってもらって真っすぐ突っ切るとかが一番安全なんだけど」
その発言に、ユニルが渋い顔をする。
ユニル「まぁそれが確実ですけど・・・。まぁ、ね。死んじゃうくらいなら・・・とは思いますけど」
それでも契約を解除するのには抵抗があるようだ。
風音「宇宙船に着いたらまたすぐに契約すればいいだけだしさ」
ユニル「ん~~・・・まぁね~。それはそうなんですけどね~。解除した途端、他の妖精に目移りされても困りますしね~」
風音「いやだから誰に目移りするんだって話でね? 妖精なんかその辺に居てないでしょ。それに解除してすぐ移動だから、僕は元の姿になったユニィにくっついてる訳だし・・・」
ユニル「え? くっついてるとは? ちょっと詳しく説明を」
風音「風で高速移動なんじゃないの? しっかりユニィを掴んでないと振り落とされるイメージなんだけど。 ・・・あ、そうか。掴んでおく必要はないのかな? 元の姿だったら離れた場所にいる人でも護りながら簡単に運べる?」
運搬してもらった経験が無いので分からない。ただ元の姿になったユニルは、風に関しては大体何でも出来るイメージがある。
しかしユニルは首を横に振る。
ユニル「いえガンガン振り落とします。しっかり掴んでないと、スタート地点で放り投げて私だけ帰ったりします」
風音「さすがにスタート地点で放り投げられたら、今後を見据えて他の妖精探すわ」
他の妖精と契約する事を匂わせる発言はユニルがキレるのは知っているが、この発言はツッコミとして言っておく。
冗談くらいは伝わっているようで、ユニルが笑う。
ユニル「いやまぁそれは冗談ですけど。 でもしっかり掴んでおかないと危険ですよ。 ところで・・・あの、あれですか? 掴むってこう・・・腰に手を回すとかですか?」
風音「別に掴み方なんて何でもいいけど。腕を掴んでもいいし、羽交い絞めでもいいし」
笑いながら冗談を言う。
ユニル「羽交い絞めとは? 画像あります?」
なんか冗談に食いつかれた。
風音が携帯で羽交い絞めの画像を検索して見せる。
腕を広げた人物が、後ろにいる人物から広げた腕をがっちり押さえられている。
風音は冗談で言ったものの、この状態での移動はお互い嫌だろう。そもそもこの姿勢で誰が咲桜を抱っこするんだ。
ユニルが携帯から顔を上げる。
ユニル「・・・・これだわっ!」
風音「どれだよ」
ユニル「いやちょっと・・これ・・・あ~、そう・・・」
ユニルが携帯を見ながらブツブツ言った後、携帯画面をコツコツ叩きながら風音を見る。
ユニル「この状態になった時にですね、写真撮ってもらっていいですか?」
風音「どういう趣味だよ」
ユニルが再びコツコツと携帯の画面を指で叩く。
ユニル「ちなみにこの場合ってこれ私が前ですか? 風音さんが前ですか?」
風音「羽交い絞め状態で移動って考えると、どっちも嫌だけど」
その返答を聞いていたのかいなかったのか、ユニルがまた羽交い絞め画像を食い入るように見つめている。
ここでずっと酒を飲んでいたユセイが口を挟む。
ユセイ「やり直しとかどうとか、ところどころ何を言うとるのか分からんが、帰りの森の移動に関する心配じゃったら夕方までなら問題無いじゃろ。あの森は時間帯によって出てくる生き物が違うからの。この時間帯で無事にこの場所まで来たんなら、帰りも同じように行動するだけで帰れるわ。 夕方以降になったらガラッと生態系が変わるからの。その時間帯に跋扈する危険生物の知識が無いなら、命がいくつあっても足りんわの。今日の夕方出発するくらいなら、危険を覚悟でこの街で寝ずに一晩過ごしてから、明日の昼になってから出発する方が安全じゃ」
風音「ああ、そうなんですね。さすがニーギ随一の冒険家。その辺りは詳しいんですね。 ・・・だってさユニィ。良かったね、契約解除する必要は無いみたいだよ」
ユニルは携帯に夢中で聞いていないようだ。
ユニル「これ私が後ろの可能性も・・・ありあり全然あり。後ろの方が風音さんを征服する感じが・・・。でも私が前で風音さんに屈する感じも捨てがたい・・・いや自分に正直になろうよ。私はなんなら屈したい。 あぁ・・・どうすれば・・・」
携帯を持っていない方の手を横に広げたり前に曲げたり忙しそうにしている。
咲桜がそんなユニルを無の表情で見ている。
風音「あのお姉ちゃんはね、ちょっと変わってるから優しく見守ってあげてね?」
頭を撫でながら咲桜に言う。
咲桜が風音を見上げてニッコリと笑った後、またユニルを見て無の表情に戻った。
考えが概ねまとまったところで、教会に出発する準備が整う。
風音「じゃあ行きましょうかユセイさん」
ユニル「6:4で前! やっぱり前がいいか!」
まだやっている。
風音が教会に出発する為に立ち上がる。
風音「あのユニィ・・・そろそろ携帯返してもらえるかな?」
そして。
なんかすぐに教会に着いた。居酒屋の二軒隣りだった。
思わず「近いっ!」って言いそうになったが、やはり前回の記憶がうっすらとあるのかそんな予感がどこかにあったようで、近すぎた事にはあまり驚かなかった。
そしてまた予定調和で物事が進む。
副教会長に会い、嘘つきである事を見抜き、協会長を読んでもらい目的地まで案内して貰う流れ。
一つ前回と違うのは、風音がすでに教会長に見覚えがあったという事だけ。
メットさんだったか。
間違い無い。この人だ、地下で死んだのは。
風音がメットの顔をなんとなく見る。
この人どんな感じで死んだんだっけ?
詳細が思い出せない。各々の死に様なんかより、もっと引き継がなければならない記憶の方を優先したのは分かるが、死に様が分からないと対策も立てられない。
考えながらユセイに付いていくようにエレベーターに乗ると。
ユセイ「ありゃ? あんたは乗らんのか?」
ユセイがメットに対して尋ねる。
メット「私も普段立ち入り禁止ですので。今回の仕事は事前に聞いていましたが、私が地下に入って良いとも駄目だとも、一切指示が無かったから入っていいものかどうか・・・」
ユセイ「案内役として事前に通達があったんじゃろ? そんで入るなと言われとらんなら入ってええじゃろ別に。まぁあんたが入りたくないなら無理強いはせんが」
風音(ん・・・? 付いて来ないのか? 前回と流れが違う・・・?)
どこか違う行動をとってしまったのか?
別に地下での行動には影響しないだろうが。
しばらく様子を見ていると、悩んだ末にメットが答えを出す。
メット「そうですね。では私も行きましょうか。もしかしたら私が案内する事が織り込み済みなのかもしれないですし。それくらい指示を出さなくとも分かるだろう、なんて後で言われても困りますしね」
風音(ああ、なるほど。消極的な態度だったから来ないのかと思ったけど、悩んでから結局付いてくるんだこの人。じゃあやっぱりここまでは前回と同じ流れなのかな)
風音がエレベーターに乗ろうとこちらに移動してきたメットを止める。
風音「いやちょっと待って下さい。僕シエロの仕事を受けるのは今回が初めてじゃないんですけど、あそこって指示が適当なくせに、指示に無い行動をとった時に鬱陶しいくらい苦情を言ってくる組織なんですよ。現場まで案内しろ・・・じゃなく地下に向かわせろっていう指示だけだったのなら、付いて来たら後々面倒かも」
メットは付いてきても死ぬだけな気がする。そんな予感がするので、その予感を信じて止める。
今言った言葉は半分本当だ。シエロはいつも指示が適当だし、そのくせ文句は付けてくる。
ただ今回のメットのケースは、別に地下まで一緒に行っても文句は言われない気もするから、ちょっと説得力には欠けるかも。
・・・もしこの言葉を聞いてもメットが付いてくるなら、これ以上止めはしない。
メット「そうなんですか。私もよく分かっていなくて。 今回は政府を通じて指示が出てましたからね。慎重に行動した方がいいのかもしれませんね。では指示通り、あなた方を地下に誘導するだけにしておきましょう」
メットがエレベーターに乗るのをやめる。
ユセイ「そうか。じゃあわしらだけで行くとしようかの」
エレベーター内で地下に行くように操作し、ドアが閉じる。
そして約五分。体感では凄く長い時間の下降を終え、ドアが開く。
目の前には近代的な廊下と、もう一枚のドア。
そして自動ドアになっていたドアが開き、機械だらけで他に通じる道のない部屋。
その光景を見たユセイが呟く。
ユセイ「こりゃどう見ても人の手が入っとるじゃないか。探索っちゅうからてっきり・・・」
風音「ですよね。もっと地下の土がむき出し状態で、自然洞窟みたいになってるのを予想してましたよね」
実際その通りだが、これも何となく前回の記憶があるのか、ユセイが感じているほどの違和感は無かった。
さてここからが問題だ。
前回の風音が、各個人の死に様よりも重要だと思って記憶に残したであろう「この部屋を調べようとすると襲われる」というワード。
風音(・・・じゃあどうしようもないじゃないか)
今この部屋に入った瞬間、風音は反射的に目の前にある機械に書いてある文字を解析しようとして、ポケットの携帯に手を伸ばした。
しかしやめる。その行為が調べるにあたると思った。
おそらく今の自分がこういう行動をとろうとしたのだ。前回の自分もやったのだろう。
殺された原因がそれかどうかは分からないが、一旦何もしないでおく。
咲桜は手をつないで自分の後ろ寄りに立たせておく。まだ子供だから、勝手に興味本位で機械を調べに行こうとされても困るので。
しかしもう一つの記憶の方。これが謎だ。
前回の風音達を殺した人物。
その姿が見えない。部屋中どこを見ても存在しない。
本当に居るのか?
風音「ユニィ・・・とユセイさん。ひとつ言っておきたい事があります。この部屋の事を調べようとする前に、周囲を・・・」
ユセイ「あの機械に書いとる文字、ニーギのじゃないのぉ。どっかよその星の・・・」
あ・・・。
と風音が思った時には遅かった。
ユセイはこの星の出身。当然この星の言語は知っているし、他の星で広く使われている言葉も、冒険家としての基本的な知識として知っているのだろう。
ユセイがこの機械の事を調べるつもりが有ろうが無かろうが、今の発言で真実に一歩近づいてしまったのは事実。
ユセイの身体から、紫色の霧が大量に噴き出す。
風音「なっ・・・!?」
あれは紫色だが・・・血か?
その霧が徐々に地面に落ち、ユセイの変わり果てた姿がはっきりと目に見えるようになる。
ただの小さな肉塊。サッカーボールくらいの大きさに圧縮されている。
ユニル「なんですかあれは!」
ユニルも焦っている。
即座に風音が咲桜の視界を自分の身体で隠す。
あれは子供が見ちゃ駄目なやつだ。風音でも吐きそうなくらいキツい。
風音「いやまだ焦らなくてもいいと思う。ユセイさんなら、意味不明な攻撃で死んだら生き返るはず・・・」
とは言ったものの。
いつ生き返るんだ?
すぐじゃないのか?
ユニル「風音さん・・・あれ」
ユニルが見ている方に目を向ける。部屋の隅に何かが座っている。
白い人型の、実態が不鮮明な何か。
あれがユセイを殺したのだろう。
ユニルが突然の攻撃に対処出来るように、周囲に風を展開する。
この行動に風音がゾッとする。
嫌な予感。
しかしもう遅い。
ユニルに止めるように発言する前に、ユニルが消滅し風音との契約が切れた。
死んだのだろう。
風音(ちょっ・・・と・・・待て・・・これ・・・。どうしようもないだろ・・・)
意味不明過ぎる。
圧倒的だ。強いとかそういう次元なのかこの敵は?
突然、咲桜が繋いでいた手を振りほどいて走り出す。
怖くてエレベーターに逃げようとしているのか。
それが一番正解なのかもしれない。何も調べずに帰る。
それでも殺される可能性はあるが、何かするよりは帰れる可能性はある。
咲桜を逃がす為に、繋いでいた手を放してあげた・・・のが間違いだった。
咲桜が謎の敵に向かって走り出している。
風音「えっ! なんでっ・・・! 止まって咲桜!!」
制止も聞かず、そのまま敵に向かって殴りかかるように突っ込む。
その拳が敵に触れる事は無く、弾丸のような速度で咲桜の身体が吹き飛ばされる。
咲桜の身体はそのまま自動ドアをぶち破り、おそらくだがエレベーターのドアに激突した。
ドガァッ!!!!
恐ろしいほどの衝撃音。
あの速度・・・そしてぶつかった時の破壊音にも近いあの音。
生きている可能性など皆無だ。原型すら残っているかどうか・・・。
そちらの方を見たくない。
風音「くそっ!!!」
苛立ちで奥歯を噛みしめる。バキバキと奥歯で嫌な音がする。怒りのあまり、自分の奥歯を噛み割ったようだ。
そして目が輝くように青く変色する。なぜか風音は怒りを感じると目の色が変わる。そういう体質だ。
風音(何でこんな事に・・・。確か前回の記憶では、咲桜は死ななかったはず・・・。それは覚えてたのに。 どこが違った? なんでこの状態を見て、あの子は敵に突っ込んで行ったんだ・・・)
考えていると、謎の人物が喋りかけてきた。
「お前達は何者だ?」
風音「シエロって組織にこの場所の調査を依頼されたチームだよ。それより何者かってのはこっちが聞きたいね、お前何者なんだ?」
もうこの星の調査は今回で打ち切り。もうやり直せる回数は残っていないだろうが、仮に残っていても諦めるつもりだ。
そういう風に記憶を引き継ぐ。
そういう意識に変わったのに加え、怒りのせいで挑発的な口調になる。
「シエロ・・・? ふふっ、シエロか。愉快な事だ」
顔も輪郭がぼやけてはっきりしないそいつにも、笑うという感情はあるようだ。
風音「シエロを知ってんのか? お前何なんだ?」
「私はシエロによって作られた、この星の神だ」
風音「神? シエロが作った? 何を言ってるのか全く分からないな」
「・・・ふむ。興が乗った。私は慈悲深い。お前がこの場から離れないなら、哀れなお前を殺すのをやめてやっても良い」
風音「はあ? 子供を殺しておいて慈悲深い? ふざけるなよ」
この傲慢な態度が、ただただ苛つく。
「私はただのプログラムだ。この場所を調べようとした者、私に危害を加えようとした者を自動的に排除するようになっている。そこに私の意志など無い」
風音「・・・・・・」
どう返していいのか分からない。
このムカつく敵と、あまり長時間会話をしたくないという思いの方が強かった。
だからわざと挑発的な態度を崩さないところもあった。
もう好きにしろと。
しかしこいつはシエロを知っているうえ、かなり意味深な事を言っている。
・・・咲桜の件はこの上なくムカつく。
こんな奴と会話なんかしたくない。
・・・という思いを何とか押し殺そうと努力する。
まだやり直せる。
まだやり直せるんだ。
ここは情報を優先して引き継ぐんだ。何か分かるかもしれない。
・・・胃が痛い。ストレスだろう。
殺されるとか関係無い。今にも相手に襲い掛かりそうだ。
意識も遠のいていく。昔からいつもこうだった。ユニルと契約した事で抑えられていたが、昔から風音は感情が高ぶると意識を失い、自動的に行動しようとする。これは他星では戦闘民族によく見られる傾向だそうだ。
しかし歯を食いしばって、どうにか抑える。
風音「プログラム? シエロにそう組まれたって事?」
何とか普段の口調で喋る。
声が震える。頂点に達した怒りを抑えて喋ると、こんなにも声が震えるのか。
「そうだ。シエロの目的の為の実験体だ。シエロの目的は宇宙の解析。そしてその全てを手中に収める事。結論から言うなら宇宙の解析など不可能だったようだがな。 ともあれその足掛かりとして、星の解析を始めた」
風音「星の解析・・・ね」
この情報は本当の事だろうか?
宇宙を手中に収めたい?
シエロは全宇宙の敵なのか?
不可能だったという事は、現在その計画は諦めたという事か?
様々な疑問が浮かぶが、取り敢えず続きを聞く。
「星には記録がある。これまでの歴史や、現在のこの星における神羅万象全てのな。多次元に干渉する事でそれを探し出し、書き換え可能な状態にする。これが星の解析だ。 その技術をもってすれば、その星の過去や現在のあらゆる事象に干渉出来るようになる。 この星は二十余年前まで、普通の星だった。だが解析を終え書き換えた。異常な自然現象が多発し、異様な生物が多数生まれ、生物は生き返り、物質は元の形に戻る。 ニーギという星をこのような常識から外れた設定ばかりに書き換え、あらゆる生物達の記憶も、元からそうであったように改竄した。何故だと思う?」
それを本当にシエロがやったのだとしたら、信じられないくらいクズな行為だが。
星と、その星に住む者達を何だと思っているんだ。
しかし、何故そんな事をしたのかと聞かれても。
風音「実験じゃないのか・・・? 解析の力を使って、どれだけの事が可能なのか試したかった・・・とか」
「戯れだ」
風音「は?」
「解析を終えれば、何が出来るかなど試してみなくても分かる。解析が成功したついでに、この星の命で遊んだだけの事だ」
風音「何を・・・言ってる?」
シエロが・・・?
どこまで信じていいんだこの話は。
「そして神を生んだ。プログラムで組んだ仮初めの神をな。解析と書き換えの力を使い、この星においては何でも出来る、不可能な事など無い存在。 そこの最初に死んだ老人。この星の民だな。 本来なら生き返るのに、なぜ生き返らないのか? 私が殺したからだ。 生き返らないように書き換えた」
風音「どおりで・・・いつまで経っても起きてこないと思ったよ・・」
疑問だった点が一つ解消された。
まさかこいつは全部本当の事を話しているのか?
風音「じゃあ逆に・・・書き換えて生き返らせる事も出来るのか?」
「その老人だけならば。生き返らせ記憶を消し地上に戻す事など造作もない。他の二人は不可能だ。この星の者ではないので解析が出来ない。他星の者に直接干渉する事は不可能だ。 さて、そこでだ。 私が最初にお前が哀れだと言った事を覚えているか? そろそろその理由も分かってきたのではないか?」
・・・そりゃここまで聞けば誰でも気付くだろ。
風音「聞きながら考えてたよ。 確かに哀れだね。シエロの指示で、僕はここに・・・殺される為に来たって事だ」
「その通りだ。 何かそのような事になった心当たりは無いか?」
風音「無くはないかな・・・」
宇宙を掌握したいというのが本当だったとして、それが現在頓挫しているのなら、自分達より宇宙掌握に近い存在が邪魔になる。
なら心当たりがある。
星の子。
宇宙最強の生物の名だ。
これには過去誰も抗えなかった。
唯一風音だけが「継ぐ者」と呼ばれる宇宙でも最悪レベルの生物災害の協力と、そして何より星の子本人の力を借りる事でようやく討伐に成功した。
そしてその時、星の子の力を受け取ったのだ。不本意ながら。
星の子の力を持った人間。
自在に星の子の力を操れるなら、宇宙など軽く支配出来る。
実際は風音はその力を上手く扱えないが、シエロはその力を恐れたのだろう。
当然シエロはそんな危険人物、殺そうと考える。
だがそんな怪物をどうやって殺す? 返り討ちに逢うだけだ。
だったら神に殺させれば良い。
他のどこで敵わなくとも、ニーギにおいてのみ敵無しの存在がシエロの手駒にはある。
・・・という事か。
風音「だんだんシエロにムカついてきたな・・・」
自分だけじゃなく、そんな事で案内人まで巻き込んで。
そしてユニルも、咲桜も。
風音「あんたさっき、ここに居るなら殺さないとか言ってたっけ?」
「ああ。私も退屈でな。話し相手が居る方が少しは退屈も紛れるだろう。 他星の者がこの場所に来てしまっては、生かして地上に戻す事は出来ない。記憶が消せないのでな。 だが私はこの場において、何もしない者を自分の意志で殺す事もしない。故に、何もしないならずっと生かしておいてやっても良い」
風音「なるほどね・・・。あんたは僕が思ってたよりは、遥かにまともな存在なんだね」
最初にこいつに感じた怒りは、今は全てシエロに移行している。
風音「でも悪いけど、シエロにムカついてるからここから出て行かせてもらうよ」
そう言って踵を返す。
「なぜ死に急ぐ」
風音「あんたニーギの人以外には干渉出来ないんでしょ? だったらさっきユセイさんがやられたみたいな、魔法みたいな殺され方はしないって事だ。 どうにかしてあんたの力が及ばない場所に逃げてみせるよ。ニーギから出て行って、シエロに復讐する」
「先程の幼子の死に様を見ていなかったのか? 直接干渉出来なくとも・・・」
風音の腕周辺の空間が捻れる。
風音の右腕が曲がってはならない方向に強制的に曲げられ、
バキッバキッ! と骨が折れる大きな音が鳴る。
風音「痛った・・・」
「周囲は操れる。お前を殺す事など容易だ。それにどうやってこの星から出る? 宇宙船か? 私はここに居ながら、宇宙船を破壊する事も容易い」
風音の腕が青白く光る。
治癒能力だ。カロリーを消費するので何度も使えるわけではないが、今回特に他で使っていないので複雑骨折もすぐに完治する。
風音「やってみないと分からないでしょ」
「ふむ、面白い事が出来るのだな。だが、やってみなくとも分かる」
一瞬にして背後にいたはずの神が、風音の目の前に現れる。
風音「じゃあこういうのはどうかな?」
風音が周囲の物質を全て毒で崩壊させ、己の力に変える。
部屋にあった壁も機械も何もかも。すべてボロボロになって崩れていく。
「ほう、愉快な」
すぐに部屋が元の状態に戻る。
神が元に戻したのだろう。しかし風音に蓄えられた力が消えたわけではない。
そのまま全力で神をぶん殴る。
「ふむ」
そのまま風音の拳を顔面で受け止める。
もしこれが普通の人間なら、首から上がバラバラに弾け飛ぶ威力だ。
それでも神に動じる気配は無い。
「残念だ。これでお前の死が確定してしまった。逃げようとした事と、周りの物を崩したくらいなら私の裁量で生かしてやる事も出来たのだが・・・私への攻撃は私にもどうにも出来ない」
風音の全身が捻れていく。
さっき腕が折られた時のように、全身がああなってしまうのだろう。
風音(あぁ・・・これでやっと死ねる)
当たり前だ。この星の神だろこいつは。
最初から勝てるなんて思ってない。
少しでも情報を引き出しつつ、殺してもらう為にやっていた事だ。
でも踵を返した時はちょっと後悔した。このままだとエレベーター前で死んでいるであろう咲桜の姿を見てしまう。
出て行く振りなんかせずに、そのまま殴り掛かればよかったかな・・・なんて考えていたら、相手が先回りして前に出てきてくれた。
もしかして気を遣ってくれたのか? ・・・考えすぎか。
なんにせよ、嬉々として殴り掛かったよ。
おかげで死ねる。
さて問題はこの後だ。
シエロに関して得た情報を引き継ぐ。
まずは・・・
シエロを
絶対に
許さない
そして・・・。
・・・おかしい。
考えがまとまらない。
引き継ぐべき事を考えなければ。
・・・・・・。
まだ考えられると思っていたが、急に意識が遠のいてゆく。
風音にとって想定外の事態が起こる。
原因は二つ。
一つは風音の力を抑えていたユニルが先に死んでしまった事。
もう一つは死に至る前に、怒りで我を忘れてしまった事。
過去味わった底無しの絶望が、再び風音の身体に戻る。
風音の意識が、体内に封印してあった星の子の力に浸食されていく。
ぜった・・・い・・・に・・・ゆる・・・ゆる・・・
ユル・・・サ・・・
捻じ切られそうになっていた風音の身体が元に戻っていく。
怒りによって変色した目の色も戻り、完全にいつもの風音に戻った。
しかし体から力が抜けたように両腕をだらんと下げたまま、下を向いている。
神が余興を見るように感心する。
「ほう。まだ抗えるのか」
更に強い力で、風音の周囲の空間が捻じ曲がってゆく。
風音「そうか。私は遂に滅びたのだな。 ならばここに在るのは力の残滓か。もう絶望に落ちる事は無いのだな」
神の攻撃など意にも介さないように、ブツブツと独り言を言う。
「ふむ。これでも壊れない。 他星の者の生態は分からないものだな。まだその身の内に新たな力を隠していたのか」
先程簡単に腕を折ってやった相手が、思いのほか粘る。
空間を捻じ曲げる事で殺す事が不可能なくらい頑強になったようなので、神が風音に向かって手をかざす。
「面白かったぞ。では消えてもらおう」
風音を中心に球状に、空間が真っ黒に変色する。
風音が顔を上げ、正面に立つ神を見る。
風音「何をしている?」
ここで初めて神が少し動揺を見せる。
「何故・・・消えない?」
先程の風音を球状に包み込んだ技は、この星の一部を丸ごと消し去るはずのものだった。
神にはそれが出来る。
神が指定した範囲の、そこにあるもの全てを無に帰す。そこに干渉出来ない他星の者が居ようが、空間ごと一緒に消し飛ばす。・・・はずだった。
「お前は何者だ?」
風音「私は・・・何者でもない。 なるほど。貴様も生前の私と同じか。みじめな存在よな。何かの意志によって生まれ、一つの生き方しか出来ず、滅びる事すら出来ぬ」
風音が目の前にいた神の腕に触れると、触れた部分が消え去る。
神が風音の背後に瞬間移動した。
「お前・・・何をした?」
神が動揺を隠せないでいる。
消えた腕を再生させようとするが、生えてこない。
ニーギでは絶対の存在。
あらゆる攻撃が通じないはずの身体が、消し去られた。
風音「貴様も救いを求めるか? 救いを求めるなら私が喰ってやろう。必要無くば黙ってそこにおれ」
背後にいる神の方を振り返りもせず、上を見上げる。
外に出る気のようだ。エレベーターなど使わず、そのまま真上にぶち抜いて地上に出ようとしている。
「待て。ここから出すわけにはいかない」
周囲の空間がすべて真っ黒な闇に包まれる。
先程より広範囲で、この場に存在するあらゆるものを風音ごと無に帰そうとする。
風音「生前。私が星の子などと呼ばれていた頃から不思議であったのだが・・・」
振り返って神の方を見る。
風音「何故貴様らは、私に同じ攻撃を繰り返す? 一度通じぬのであれば、二度目に意味があるはずもなかろう」
星の子と呼ばれていた頃は、よく人類が攻撃を仕掛けてきた。
私を滅ぼしてくれるのなら・・・と無抵抗で身を晒したものだ。
しかしいつも落胆しかなかった。
知性を持つはずの人類達は、同じ武器による同じ攻撃を何度も何度も繰り返す。
持てる全ての攻撃をやり尽くし、こちらが傷一つ負わない事を分かっていながら、それでも物量さえあれば通じると思っているのか数を増やして何度も繰り返す。
本当に意味の無い行動だ。 知性が足りていないのか。
今この目の前にいる矮小な存在にしてもそうだ。
この星の理を掌握し、この星に存在するものを全て意のままに操り消し去る事も出来るのだろう。
つまらない。
理とは意のままに捻じ曲げるものではなく、受け入れるもの。
誤った理の使い方。
ただの紛い物。
そんなものが私に通じると、思い上がるのは勝手だ。
しかし何故二度目を試す?
一度無駄だったのだろう? この行動にどういう意味がある?
風音「理解に苦しむ・・・」
神によって暗黒状態にされていた周囲を、星の子の力で強制的に元の状態に戻す。
「なぜ・・・」
神の御業が勝手に解除された事に驚く。
ついに効かないだけでなく、神の力を封じるに至ったという事だ。
効かないのとは格の違う出来事に、これまでにない感情に襲われる。
風音「もう覚えた。私が同じ力でかき消しただけだ。疑問に思うほどの事ではない」
神の全身が震える。
ようやく気付いた。これは恐怖だ。
そして同時に悟る。
自分は頂点ではなかったのだ。
「お前は何なのだ・・・? 本物の神か・・?」
風音「何者でもないと言った。私は始まりの存在だっただけだ」
地上に出ようかと上を見上げていた風音が、視線を下に向ける。
風音「ん? シエロという組織があるのはこちら側か」
下を向いて言う。
その視線の先にある何光年も離れた位置に、シエロの本部がある。
「シエロをどうするつもりだ?」
風音「この体の主には大きな借りがある。今の私は気分が良い。この者の望みを叶えよう。シエロという組織を末端に至るまで全て喰い尽くす。生物から建物まで。この者の意識が戻る頃には、復讐は終わっている」
そう言った後、姿が消える。
無音で部屋に大穴を開け、ぶち抜いて出て行った。上ではなく下に。
穴を開けたというより、触れたそばから物質の方から消えていくように見えた。
このまま星の反対側に出て、宇宙に出て行くのだろう。
と同時に、星が鳴動する。
「まさかこんな終わり方をする事になるとはな」
落ち着いた口調。
神にプログラムされた事柄の一つに、シエロの敵を排除する。というものもある。
明確にシエロに敵意を向けた者を見てしまったのだ。
神の意志は関係無く自動的に排除が実行される。
ここまでの風音を分析し、今ニーギが出来る最大の攻撃手段で排除する事になったようだ。
星ごと爆破。
その凄まじいエネルギーであらゆる物を破壊する。
そして粉々になったニーギは、神の力を以てしても戻せない。
それはニーギという星の終わりを意味する。
神が落胆する。
(あれは・・・本物の神なのだろうな。星の爆発など意にも介さないだろう。こちらはただの犬死にか・・・。仮初の神の末路としては相応しい最期なのかもしれないが、この星の民を巻き込む事になったのは・・・いささか・・・)
そして星が爆発する。
宇宙空間において音こそ無いものの、物凄まじいインパクト。
普通の星の爆発ではない。
星全体が強制的に爆発物に書き換えられ、点火した。
大きな光が星が存在した場所の周囲を包む。
その光が止んだ頃。
宇宙空間にポツリと残された風音。
そしてかなり離れた場所に神が。
風音が神に高速で近付く。
風音「効かぬ事が分かっていながら・・・哀れな」
言葉ではなく、体に直接語り掛ける。
「仕方無いだろう。そうプログラムされていたのだ。・・・もうすぐニーギという存在の証も消え去る。同時に私の身体も消える。こうなってしまったからには、私からも頼もうか。ニーギの民の復讐も重ねて、シエロへの鉄槌を頼む」
風音「・・・・・・・・・くっ・・ぁ」
風音が頭を抱える。
風音「・・・断る」
風音が自分の両腕に全ての力を集約させる。
風音「ここで・・・終わらせてたまるか・・・。勝手な事ばっかり・・・しやがって・・・くそっ!!」
風音「もう目覚めたのか。寝ておればよいものを」
風音が意識を取り戻した。意識を取り戻す直前くらいからの流れはぼんやりと見ていたので理解している。
まず星の子はシエロを潰すつもりだ。
そしてこの星はもう元には戻らない。
それだけ分かれば充分だ。
こいつはここで止める。
風音「消えろっ!!」
両掌を自分の胴に向け、持てる全ての力を開放する。
星の子が嘲笑する。
風音「ふむ。私の力で私を・・・か。初めての体験だな。抗って相殺しても良いが、受け入れるのも一興。楽しませてもらおうか、私の力を」
最後に風音の身体の主導権を持っていたのは星の子だったのか、にやりと不敵な笑みを浮かべて。
風音の身体は消滅した。
時が戻るまでの刹那の時間に、神が理解する。
(なるほど。奴は時間さえも遡るというのか。まだ別の力を隠していたとは、愉快な。これでニーギの民が救われるというなら・・・大きな借りが出来たな。 私の存在も過去のものと入れ替わるのか? いや、まだニーギの理は生きている。可能ならば記憶を保持してみようか。おそらく過去に戻った奴は、この結果を良しとせず私に会いには来ない。そしてニーギを出て行くのだろう。 借りは返さなければな。記憶を保持出来ていれば、せめて奴がこの星を出て行く時くらいは平穏に出て行かせてやろうか)
今回の記憶を神が保持する事で、過去に戻った時に風音を殺してしまう事にならないかと、一瞬判断に迷ったが。
全く問題無い。
もちろん過去に戻った風音が神の存在を覚えている可能性はある。
普通なら神の存在を知ってしまった者に対して排除命令が出るので、神がこの記憶を保持するという事は、過去に戻ったと同時に風音を殺さなければならないという事に繋がる。
しかしそれよりも優先順位の高いプログラムが存在する。
シエロに危害を加えてはならない。という命令だ。
当然だ。こんな凄まじい力を持つ者を創り出したのだ。創った自分達に危害を加えないようにプログラムを組むのは当然であり、それが最も優先される高位の命令だ。
今回の事でよく分かった。神が風音に危害を加えると、シエロが滅ぶ可能性があるのだ。
それを神自身が理解してしまっているのだから、風音の排除など出来るわけがない。
そして神と共に世界が消滅し。
この時間軸は消えた。




