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カノン  作者: しき
第5話
42/206

災害と再生の星6


 ユセイとの戦闘が終わり。

 すぐに咲桜さくらの方を見る。


風音「咲桜ちゃん、おいで~~」


咲桜「・・・!」


 呼ばれた咲桜の表情がお日様の様にパァッと明るくなり、ダッシュで風音の元に向かって来る。ついでに咲桜を見張っていたユニルも一緒について来た。

 風音も小走りで咲桜に近付き、目の前まで来た所で風音が両手を広げると、咲桜が風音に向かってピョンと跳ぶ。

 空中で咲桜をキャッチして、そのまま抱っこしたままクルンとその場で一回転する。


風音「は~~~・・・。なんか安心したね」


 ギュッと優しく咲桜を抱いて、ユニルの方を見て言う。


ユニル「それより何ですか今の?」


風音「え? ユセイさんとの戦いの事? 結構圧勝じゃなかった?」


 相手の手の内が分かっていたのだ。多分前回の時より楽に勝てただろう。

 注意される程の醜態しゅうたいは見せていないはずだ。


ユニル「いえそれじゃなくて。今の抱き合って回転してたやつです」


風音「え・・・別に深い意味も無いけど。昔からよくある、微笑ほほえましい光景じゃない?」


 よくドラマとかであったんじゃないかな。抱き合ってクルンていうやつ。恋人同士だと仲睦なかむつまじく見えるし、親子だと微笑ましく見えるやつ。

 風音が一体何に疑問を持っているのか分からない、という表情をする。

 それを真似まねるように、咲桜も「何なのこの人」と言いたげな表情をユニルに向ける。


ユニル「いやいや・・・今やる事じゃないでしょって言いたいのと、あとお前の顔腹立つな」


 眉をひそめた咲桜の顔が絶妙に腹立つ。


風音「あっ! そうそうクレーマーの相手してる場合じゃないんだよ。時間を作らないと」


ユニル「クレーマーって・・・」


 風音がユセイに近付く。


風音「案内の前にお願いしたい事があるんです。ちょっと一時間くらい、休憩できる場所ってありますか? ここで一旦時間を作りたいんです」


 まとまった時間を作れれば、ようやく森のループから脱出できる。


ユセイ「だらしないのぉ、ワシの若い頃は一日くらい休みなく動けたんじゃが」


 森から歩いてきた事で、疲れたから休憩を要求していると思っているようだ。

 死に戻りの事は伝えていないので、そういう風に解釈している。


ユセイ「じゃあ居酒屋にでも行くかの。ぬしゃ酒飲めるんか?」


風音「いえまだ、年齢的に無理ですね。確かこの星のルールでも無理な年齢じゃないかな?」


 言わなくても分かりそうなものだ。ただでさえ実年齢より若く見られる風音だ。あと二年ちょっともすれば成人になるというのに、まだ子供と間違えられる事すらある。


ユセイ「固いのぉ。ワシは子供の頃から飲んどったぞ」


風音「あ~それで脳がやられてるんですね」


ユセイ「あぁん!? 案内してやらんぞ!」


風音「いやだって、これから仕事なのに飲もうとするから」


ユセイ「酒が入ったくらいで仕事に影響が出るようじゃ、酒向いとらんわ」


風音「出たよアル中の迷言が。そういう人が事故起こすんだよ」


ユセイ「ぬしゃ頭悪いのぉ。聞いとったのかワシの話を。事故を起こすのは酒向いとらん奴じゃ。酒に飲まれん奴ぁ毎日飲んどっても生涯しょうがい事故なんか起こさんわ」


風音「はいはい」


 カス発言だが反論はしない。

 これ以上機嫌を損ねて本当に案内してくれなくなっても困るので、この辺にしておく。


 しばらく街を歩いて、ユセイ行きつけの居酒屋に入る。

 結構繁盛はんじょうしているようで、沢山の人が昼間っから酒を飲んでいる。

 ああ、今思い出した。確かこの星では今日は休日だ。だからか、人が多いのは。


 そこで雑談しながら小一時間。

 大きな地震が起こった。

 そして大きな音。外で地割れが起こっているようだ。


ユセイ「おっ、久しぶりにデカイの来たの。こりゃ何軒なんけんかぶっ壊れるかの」


 酒を飲みながら、落ち着いた様子で言っている。

 周囲の人達も全く動じていない。そのまま普通に会話している。一部では大きな地震が来た事に歓声を上げて笑っているグループもいる。 これが慣れか。


 ユセイは酒が強いと自分で言うだけあって、ずっと飲んでいるのに全く様子が変わらない。

 ここまで強いと、酒を飲んでいる意味も無いんじゃないのか? とすら思う。

 酒が入る事で高揚こうようしたりとか、いつもと違う感覚になるのが楽しいんじゃないの?

 ・・・まぁ本人が満足なのなら何でもいいけど。


 たった今ユセイが家が何軒か壊れるか、みたいな事を言っていたが。


風音「このお店は大丈夫なんですか?」


ユセイ「さぁの。地割れやらマグマやらが直撃したら死ぬだけじゃ。ワシらはすぐに生き返るし、店も元通りになるから何の問題も無いわ。マグマの場合その場ですぐに生き返るせいでまたすぐ死ぬ事もあるから、多少面倒ではあるがの。で・・・ほとぼりが冷めた時、ぬしらだけが消えとる」


 毒を含めた言い方。散々止めたのに、自業自得だ。と言いたいようだ。


風音「それは困るな・・・」


 当然その可能性もあるのか。やはり厄介な星だ。

 もうかれこれ一時間くらいこの居酒屋に居る。

 もしここで死んでも、おそらく居酒屋に入ったくらいからのやり直しとなるのだろう。

 この地震がおそらく、前回咲桜と風音が死んだやつだ。


 一分は経ったが、まだしつこく揺れ続けている。

 隣に座っていた咲桜が、怖いのか腰にしがみ付いてきている。

 そりゃ小さな子供だとこの地震は怖いだろう。引き寄せて抱っこして背中を撫でておく。地震が終わるまではこうしておいた方が安心するだろう。

 嬉しかったのか咲桜はフンフン鼻を鳴らしている。

 ユニルは元々空中に浮いているので、全く動じていない。何故か冷めた目でこちらを見ているだけだ。


 一応この地震が終わるまでは待機しておこうと思ったが、もしユセイが言ったようにこの地震で死んでやり直しになったら、まだやり直しの回数は残るんだろうか?

 もし無かったら、せっかく森を越えたのに即帰宅だ。

 つまらない終わり方。

 悔しいのでせめてユセイさんをスカウトして帰ろう。探検に向いているだけでなく、実力も本物だし。

 ただし地球に来たら「酒を飲んた状態で車を運転したらガチでボコボコにされても文句言わない」という内容の誓約書にサインさせよう。


 しばらくしてようやく地震が治まる。

 なんとか死なずに済んだようだ。


 ・・・本当に死なずに済んだのか?


 まさか即死して、記憶を失った状態でこの場所をやり直しているなんてオチじゃないよな?

 居酒屋の風景が変わらないけど、実は数十分時間がさかのぼってるとかじゃないよな?

 一応ユニルにまだやり直せるか確認しておく。


 ・・・・・・・・・

 さっきと同じ状態だから問題無いそうだ。

 良かった。死んでなかったようだ。

 

風音「よし、じゃあ仕事の話をしましょうか」


ユセイ「おぉようやくかぃ。やる気無いんかと思っとったわ」


 一時間も雑談しかしていなかったからそう思われても仕方ない。

 こちらとしては、地震が起こって治まるまでは次の段階に移っても仕方が無いと思っていたので、敢えて仕事の話はしなかった。


風音「こっちにも事情があるんですよ。今ようやく準備が整いました。 で、ですね。目的地の場所なんですけども」


ユセイ「聞いとらんのか?」


風音「位置座標の数字とその地下って事だけです。一応一番近い街に来るように手配してくれたはずなんで、遠くはないと思ってるんですけど・・・」


ユセイ「この街の教会の地下じゃ」


風音「えっ? 街の中なんですか?」


 じゃあこの人の役割は何なんだ。

 本当に道案内人か。

 てっきり災害による即死トラップが多い星だから、いろいろこの星の危険な自然災害を解説しながら、目的地まで安全に案内してくれる人だと思っていた。


ユセイ「この辺は元は何にも無い場所じゃったがの。少し前の事じゃ。誰が言い出したんかは知らんが、ここは神の恩恵おんけいがある場所じゃっちゅうて、この星で一番立派な教会を立てたんじゃ。そこから同時進行で街が作られていった感じじゃな。だからこの街の歴史は浅い。まだ二十数年くらいじゃ」


 あまり見た目が近代的ではなかったのでそう感じなかったが、割と最新の町なのか。どおりで地震くらいでびくともしない建物の構造だと思ったら。


風音「神の恩恵ね・・・ちょっと胡散臭うさんくささが出て来たけど。でもその場所がシエロの言う特異点とくいてんの位置な訳だから、何かがあるのは間違いないのかな?」


ユセイ「協会の地下は基本立ち入り禁止じゃからな。誰も行った事が無いはずじゃ。教会を作った奴くらいじゃないんかの、内部構造を知っとるのは」


風音「え、それって今の教会長じゃないの?」


ユセイ「いや関係無いの。誰が建てたんかは知らん。 あぁそれと。ワシくらいになると仕事柄、一般人じゃ知りえん情報も入って来よる。聞いた話じゃ今の副教会長はシエロ関係者じゃな。それがぬしの仕事とどう関係しとるのかは知らんがの」


風音「へぇ・・・。ん?」


 なんだそれ。

 かなり重要な話じゃないのか?

 一応メモしておくか。携帯に書き込んでおく。


風音「その情報はどこで知ったんですか?」


ユセイ「居酒屋での。副教会長がみに来た時に、会話の中でシエロ関係者である事を匂わせとったそうじゃ」


 風音がちょっと拍子抜ひょうしぬけする。メモに書き込んだ副教会長はシエロ関係者、という所に?マークを足しておく。


風音「ワシくらいになるとって言うから、優秀な情報屋でも背後に居るのかと思ったら・・・居酒屋トークかい」


ユセイ「ぬしゃ酒をあまり良く思っとらんようじゃが、酒は馬鹿に出来んぞ。どんな優秀な人間でも、酒が入ると言ってはならん事をつい言ってしまうもんじゃ。だから昔から情報収集の場といや酒場じゃ。 そんな酒場に知り合いをようけ作っておくとな、本来は知りえん面白い情報が聞ける時もある。ま、その情報の内容やら真偽は玉石混淆ぎょくせきこんこうじゃがの。その真贋しんがんを見抜ける目を持っとったら、これほど優秀な情報収集所は無いわの」


風音「そういうものなんですか・・・」


 ちょっと感心する。


ユセイ「酒場で面白い話を聞いても自分が酒にやられとるようじゃ、聞いた情報も台無しじゃろ? いくら飲んでも自分の弱みは出さんし、聞いた事は忘れん。その気概きがいが無い内は飲みに行くなっちゅう事じゃ」


 酒をあおりながら言う。


風音「そうなりたくても慣れなきゃ無理な気もしますけど」


ユセイ「だから若い内から飲んで慣れとけぃ」


 コップに酒をいで風音の前に出す。

 それを風音がそのままユセイの前に戻す。


風音「嫌だよ。ここで捕まる訳にはいかないんでね」


ユセイ「固いのぉ」


 ユセイがそれを飲み干した。


 しかしその話が本当だとしたら、どういう事だろう?

 危険な星だから、シエロでは調べるのに限界があるから依頼するって感じじゃなかったか?

 もう目的地に関係者がいるなら、そいつに調べさせればいいのに。

 会えるなら、ちょっと探りを入れてみるか。


 風音も目の前にあった水を一気に飲み干す。

 目的地もその場所までの危険度も聞いたし、情報収集はこのくらいかな。


風音「・・・さて、じゃあそろそろそこに行ってみましょうか。ちなみに街中では即死の危険とかあります?」


ユセイ「大体が岩が降ってきたり地震に襲われたりじゃな。危険生物のたぐいは、対応出来るようになっとるからおらん。さっきも言うとったが、他の生物に襲われて死ぬのはこの星の住人も普通に死ぬからの。危険生物に対する対応だけは必死じゃ。 ぬしらが通ってきた森あるじゃろ? あの森がこの星で一番危険じゃの。あの森は様子がおかしい。ニーギでも異常なくらいの、危険生物だらけの場所じゃから」


風音「え? そんな危険なルートで来させられたんですか?」


 一番安全なルートとか言ってやがったのに・・・シエロの野郎・・・。


ユセイ「わしらニーギのもんにとっては危険ちゅう話じゃ。 まぁぬしらにとってもあの森は危険じゃがの。シエロがあのルートを推奨すいしょうしたんは当然、ぬしらには自然災害のルートの方が危険じゃからじゃろ。ワシらは復活出来るから脅威じゃないっちゅうだけで、死んで終わりなら立て続けに自然災害に襲われる道ほど怖いもんは無いわ。あらがすべが無い」


風音「いやでも・・・」


 こっちはユニルが居るから、自然災害に抗う術はあるんだけど。

 むしろ意味不明な生き物に襲われる方が、予測不可能で対処し辛い。

 それはシエロも知っているだろうに。


風音「・・・いやまぁいいや。深く考えないでおこう。 異星人にとってはあそこが一番安全なルートってのが、共通認識だって事だね」


 そろそろ出発しようかという意思を見せるように、咲桜を抱っこしたまま席を立つ。


ユセイ「そうじゃの。街の中ではああいうのは無いから安心せい。今日の気候条件じゃと、ひょうの針と落雷と大気爆発の危険も少ないじゃろ。頭上からの落石に気を付ける程度で十分じゃ」


 そう言って最後に一杯飲んでから席を立つ。

 教会まで案内してくれるようだ。


 ユセイが会計を払わずに出て行こうとするので、一応店員にそれでいいのか尋ねた。この仕事中はユセイに掛かる費用は全てシエロ持ちだそうだ。最初に店に入る時にそれ専用のクレジットカードを見せていたらしい。

 よく飲む人だなぁと思っていたが、人の金だからあんなに休みなく飲んでたのか。


 そして居酒屋を出て。

 ユセイの言った通り、特に何の危険も無く教会に着いた。

 この星の事だから、到着までにどうせいろんな落下物に襲われるんだろうと構えていたが、特に何も無かった。


 ・・・だってさっき飲んでた居酒屋の(大きな道と広場を挟んでとはいえ)二軒隣にあったから。


風音「近いっ!!」


ユセイ「なんじゃいきなり」


風音「教会近い!!」


ユセイ「何の文句があるんじゃ」


風音「ほんとに合ってんのかここで? こんな仕事ある? わざわざ僕に頼まなくても、情報収集さえしてくれば誰でも来れるでしょこれ」


 何回も森で死んだ奴が言う台詞せりふではないが、それはあまりにも情報が無かったからであってさ。

 事前に色々情報を仕入れてからのぞめば、シエロ関係者なら普通に来れるだろこれは。

 ニーギに来る前に仕事内容を見た時は、大冒険の果てにようやく辿たどり着けるような場所に目的地が存在するのかと思っていたほどだ。

 それともあれか。教会の地下に行ってからが本番で、そこから大冒険の始まりなのか。


ユセイ「アホ、誰でもは来れんわ。予測でどうにかなるほど、この星の災害は甘くないわ。・・・ぬしと違って、誰しも進んで死にとうないちゅう事じゃろ」


 またとげを含んだ言い方で返される。


風音「僕だって死んでいいと思って来てる訳じゃないんですけどね」


 適当に言い返しておく。


 教会の入り口は開いたままになっており、そのまま中に入る。

 天井の高い広い空間にたくさんの椅子。中には多くの巡礼者がいる。


 ユセイが教会長を呼ぼうとしたが。


風音「あ。ちょっと教会長さんに会う前に、例の副教会長さんを呼んでいいです?」


ユセイ「好きにしたらええんじゃないか? わしは案内しか頼まれとらんから、調査の仕方はぬしらの自由じゃ」


 周囲を見回して適当に教会関係者を捕まえ、副教会長が居るかどうかを尋ねる。


 少ししてから困惑した表情の人物がやって来る。


「私を呼ばれましたか? 事前にユセイさんが来る事は聞いていましたが、教会長に話を通すはずでは?」


 どうやらこの人が副教会長のようだ。

 かなり若い? まだ三十代になりたてくらいの若さだ。

 教会関係者は全身を覆う服を着ているので、顔の造りくらいしか見えないが。


風音「すみません。ちょっとうわさを聞いたので確認したくて。さっき居酒屋で仕事の打ち合わせをしていた時に、ユセイさんと教会に行くっていう話をしてたんですよ。 当然今回の件はシエロからの依頼なんで、僕達の会話の中にシエロの名前が頻繁ひんぱんに出て来るじゃないですか? そしたら隣で飲んでた男達が聞いてたらしくて「教会に行くんなら副教会長がシエロ関係者らしいから、いろいろ知ってるんじゃないか?」みたいな事を言い出したんですよ。その話って本当ですか?」


 情報元がユセイである事は隠す。今後のユセイの仕事に影響するかもしれないから。


 風音の問いに対しほんの少し目を泳がせた後、一瞬の間があってから。


「私がシエロの関係者? ・・・でたらめもいい所ですよ。酔っぱらいの言う事を信用してはいけませんよ?」


風音「あぁ、そうなんですか。それは残念。シエロの人が居たら色々聞きたい事があったのにな・・・。あいつら適当な情報流しやがって・・・」


 それなら特に用は無いですという事で、ついでに教会長を呼んでもらう事にする。

 副教会長が奥に引っ込んだので待っている間、溜め息を吐いて悩む。


風音「あ~~、どうしよ。面倒な仕事かもなこれ」


ユセイ「分かり易かったのぉ」


ユニル「誰がどう見ても嘘吐いてましたね」


 さっき副教会長は嘘を言っていた。あれはシエロ関係者だ。

 元々風音は観察眼に優れているので、こういう時に嘘を見抜くのは得意だったりする。

 しかし今のは風音でなくとも分かった。

 抱っこされたままいつの間にか寝ていた咲桜以外の、全員から見抜かれている。


風音「その意図が分からないな・・・。自分達で出来る仕事を僕にやらせる理由か・・・。よっぽどその地下が危険とかなのかな?」


 だとしても言えばいいのに。

 言ったらキャンセルされる可能性があるからか? ・・・いやいやこの星に来た時点で危険を承知で来てるんだから、今更断らんでしょ。そんな面倒な駆け引きの為に色々隠された状態で仕事をするより、危険なものは危険だと全部明かした上で、ちょっとでも有益ゆうえきな情報を貰える方が良い。


 あまり考える猶予ゆうよも無く、奥から教会長が来た。

 先程と同じく服のせいでほぼほぼ全身見えないが、顔の造りは見える。

 温和そうな普通のおじいさんという感じだ。

 軽く自己紹介と挨拶をする。名前はメット・サマさんというらしい。

 挨拶を終え、こちらにも一応確認しておく。


風音「本題の前にすみません。ちょっと今回の仕事の内容で確認したい事がありまして。 シエロからの依頼って、現地に仕事の説明役として関係者が居る事も多いんですが・・・。今この教会にはシエロ関係者の方って居ないんでしょうか?」


 予想外の質問だったのだろう。メットさんが首をひねる。


メット「シエロ関係者・・・は居ないと思いますが? 仕事内容が曖昧あいまいであるなら、電話でシエロ本部に直接聞いてみれば良いのではないでしょうか?」


 普通の反応。


風音「あ、いえいえ。ちょっとした疑問だけですので。わざわざ本部に確認するほどじゃないんですよ。でも仰る通りですね。この後も疑問が増えてくるようなら、本部に聞いてみますね」


 無難に返しておく。

 おそらくこの人は現地の人で、何も知らないのだろう。

 風音が「こちらの用件は終わった」と、ユセイに目で合図する。


ユセイ「じゃあ早速地下に案内してもらおうかの」


メット「はい。ではこちらに」


 教会の奥に案内される。

 メットさんに付いて行きながら、キョロキョロと周囲を見る。


風音「凄いね。こういうのを豪奢ごうしゃっていうのかな」


ユニル「ですねぇ」


 外から見た教会の外観だけでなく、中身も立派だ。至るところ金色やら銀色やらでピカピカしてるし、宿舎(?)も広い。何百人の人が住めるようになっているのか。


風音「質素しっそとか節制せっせいとかいう言葉とは、真逆の建物だね・・・」


 ただこれは率直そっちょくな感想であって、別にそこに文句は無いけど。教会が派手では駄目だという決まりはない。


風音「あ、そうか。そろそろ咲桜ちゃん起こさないと」


 これから地下にある何かを調べに行くという事で、抱っこしたままでは行動しにくいので出来れば自分の足で歩いて・・・。


風音(あ、そうだ。副教会長とシエロの事ばっかり考えてたから、肝心かんじんな事を聞くの忘れてるわ)


 ふと風音がメットに対して、聞いておかなければいけない事を思い出した。


風音「そういえば一番重要な事を聞くのを忘れてました。地下ってどうなってるんですか? 部屋があるとか? 神様がどうとか言ってたので、祭壇さいだんみたいなのがあるとかですかね?」


 咲桜の背中をポンポンと叩いて起こしながら尋ねる。

 そう。一体どういう場所で何を調べればいいのか。そういう点の指示が全然無かったので、現地の人が教えてくれるのかと思っていた。

 しかしユセイは道案内だけだと言うし、教会長もこちらが今の今まで尋ねなかったせいなのかもしれないが、何も教えてくれないし。

 この状態でいきなり目的地に着いても、何をどうしていいやら・・・。


 先導していたメットが振り返って、さわやかな笑顔で答えてくれた。


メット「分かりません。見た事が無いです。皆さんがあそこに何をしに行くのかも聞いておりませんので」


風音「え? 教会長さんが地下の構造を知らないんですか?」


メット「あの場所は政府が管理しています。ですから私も立ち入り禁止なんですよ」


風音「あ、そうなんですか・・・」


 駄目だこの人使えない。政府が管理している建物の長って・・・この人教会長というより、公務員じゃないのか。

 本当に何も知らない、ただ単にこの教会の長をやっているというだけの人だ。


 そうこうしている内に、目的地に向かうであろうエレベーターが見えた。


メット「少し時間がかかりますので、少々お待ちください」


 そう言ってエレベーターのそばにあった機械を操作し始めた。

 風音がメットさんに適当に返事とお礼を言ってから、エレベーターをジッと見る。


風音「地下の探索って聞いてたのに、まさかエレベーターで行く事になるとはね・・・」


 感慨かんがい深いな・・・と思う。

 命懸けで山登りに挑戦します!! って言ってた奴が、当日ヘリコで頂上に向かったくらいの超達成感。


 ここで咲桜が起きたようで、眠そうな顔で風音を見上げる。


風音「おはよう咲桜ちゃん。 自分で歩ける?」


 咲桜がイヤイヤと首を振って、風音にしがみ付く。


風音「もうしょうがないな~。もうちょっとだけだよ?」


 子供と犬はいつでもウェルカムな風音としては、こう甘えられると突き放す事など出来ない。

 言葉とは裏腹に、超ニッコニコ顔の風音が咲桜を抱き直す。


ユニル「いつまでも甘えないでね、このクソガキちゃん?」


 ユニルが咲桜に近付き、笑顔で説得する。

 咲桜がユニルを平手でペッと叩いた。


ユニル「あ~! ついにこの子暴力振るいましたよ! 見ましたか風音さん!」


風音「よく出来ましたね~。悪口ばっかり言う悪い子は、お仕置きしないとね~」


 風音が咲桜の頭を撫でる。

 咲桜は褒められて喜んでいるのか、グリグリと顔面を風音の胸に押し付けている。


ユニル「・・・・・・」


 ユニルが風音の顔をジッと見る。


ユニル「・・・ひょっとして風音さんって、ロリコンなんですか?」


 ニーギに来てからずっと思っていた疑惑を、ついに口に出す。


風音「なっ・・・にを人聞きの悪い事を・・・。この際言っておくけど、小さい子っていうのはあらゆる意味で別枠べつわくだからね?」


ユニル「・・・というと?」


風音「例えばそうだな・・・。 どんなに親しい人でも、家族でも、美人な女性でも、同い年くらいの可愛い女の子でもね? 味を共有したいとかいう理由で、口に入れていたあめを取り出して「はい」って渡されても、それを食べる事はしないんだよ僕は。まずここまでは分かる?」


ユニル「はぁ・・・。その例えが気持ち悪いのは置いといて、言いたい事は分かりますけど。回し食いをしたくないっていう事ですよね。ある程度は誰しもそうじゃないですか?」


風音「でもそういうのをよく分かってない小さな子が、ただただ親切で飴を自分の口から取り出して渡してくれたら、躊躇ちゅうちょ無く食べられるっていうか」


ユニル「女児のはイケる・・・と。ド変態じゃないですか」


風音「だからその認識が違うんだってば。男の子とか女の子とか関係無く、小さい子なら抵抗が無いんだって」


ユニル「男児もイケる・・・ロリコンという枠にすら収まらないのね」


ユセイ「わしが思うに、女児に手を出しておくのは正義じゃ」


風音「ちょっと黙っててじいさん。あのね? 小さな子っていうのは、そういう存在って話。けがれの無い枠」


 弁明べんめいしている風音の腕の中で、咲桜が着ているどてらのポケットをポンポンして、何かを探している。


風音「ん? どうしたの?」


 咲桜が口をパクパクさせ、指で口を差している。


風音「あ、飴がどうとか言ってたから、飴が欲しくなった?」


 咲桜がコクコクと頷く。

 風音が自分のポケットから飴を取り出す。


風音「はい、どう――」


ユニル「させるか!!」


 風音が咲桜に渡そうとした飴が、強烈な風で地面に叩きつけられる。

 パァン!! と大きな音がして、弾丸で撃たれたように床が大きくへこんで飴は砕けた。

 メットさんがビクッとして一瞬こちらを見たが、またすぐ作業に戻る。


風音「何してんのもったいない」


ユニル「いえ、今子供の仮面をかぶった悪魔が居ました」


風音「何を訳の分からない事言ってんの」


 やれやれと困った表情でユニルを見る。

 咲桜もそれに倣って呆れた表情でユニルを見る。


ユニル「私は正しい選択をしたまでです。 ・・・あとお前の顔腹立つな」


 咲桜のユニルを見る「何あの子?」みたいな表情が絶妙に腹立つ。

 風音が再びポケットを探る。


風音「もう飴無いや。 じゃあさっさと仕事を終わらせて、帰ってから飴食べようね」


 咲桜がコクコクと頷く。

 先程から教会長がエレベーターを操作しており、ようやく準備が整ったようだ。

 今結構な時間無駄話してたのに。

 たかがエレベーターを動かすだけでも、厳重に管理されているという事か。

 早速ドアが開いたエレベーターに乗るユセイに、風音が続く。


ユニル(帰ったらカノン内の飴を全部破壊しておかないと)


 いつに無く真剣な表情のユニルもそれに続く。


 風音達がエレベーターに乗ったところで、ユセイが疑問を口にする。


ユセイ「ありゃ? あんたは乗らんのか?」


メット「私も普段立ち入り禁止ですから。今回の仕事は事前に聞いていましたが、私が地下に入って良いとも駄目だとも、一切指示が無かったので入っていいものかどうか・・・」


ユセイ「案内役として事前に通達があったんじゃろ? そんで入るなと言われとらんなら入ってええじゃろ別に。まぁあんたが入りたくないなら無理強むりじいはせんが」


風音「・・・・・・・・」


 風音は特に何も口を挟まずに様子を見る。

 今までの、そして今のメットさんの対応を見るに、彼の言動には嘘が無い。

 シエロ関係者ならついて来てもらった方が何かの役に立ちそうだが、この人は本当に只の一般人だと思う。多分特に何かの役に立つことは無いだろう。

 でも絶対邪魔になるとも限らない。一応この建物の管理者だし、地下に行ってみればこの人にしか分からない何かがあるかもしれない。


 要するに「どっちでもいいか」という事で口を挟まない事にした。

 メットがしばらく考えてから。


メット「そうですね。では私も行きましょうか。もしかしたら私が案内する事がり込み済みなのかもしれないですし。それくらい指示を出さなくとも分かるだろう、なんて後で言われても困りますしね」


 そう言ってメットもエレベーターに乗り込む。


 エレベーターに乗ったところで、咲桜を地面に降ろした。

 内側からメットが地下に行くように操作をしながら、風音たちの方を見て言う。


メット「揺れるかもしれませんので、お子さんは抱いたままの方がいいかもしれませんよ」


風音「あ、そうなんですか?」


 降ろしたばかりだったが、再び抱っこする。

 咲桜は喜んでいるし、ユニルは隣で舌打ちをしている。


 そしてドアが閉じ、長い下降の時間。


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・


風音「長っが。これどこまで降りてるんですか?」


 メットに尋ねる。もう五分くらい下降し続けている。


メット「さぁ・・・? 私も初めてですので」


 だろうな。という回答。

 地下一階、二階、三階・・・みたいな途中経過が無いので、今全体のどの辺なのか全く分からない。


風音(高速エレベーターだと一分くらいで50階くらいまで行けるんだっけか? いや100階か? 現時点でその五倍・・・)


 意味の無い思考か。 何か理由があって、このエレベーターが非常にゆっくり下降している可能性もある。

 まぁ考えるだけ無駄か・・・と思っていたあたりで、ようやく止まった。

 ドアが開いた先には、上下左右真っ白な壁の近代的な廊下に、自動ドアのようなもの。

 早速全員で降りて自動ドアの前に立つ。

 あっけないほど普通に開いたその先には。

 大きな機械や画面が大量にあった。他には何も無く、別の場所に続くドアも何も無い、ただそれだけの一つの部屋。


ユセイ「こりゃどう見ても人の手が入っとるじゃないか。探索っちゅうからてっきり・・・」


 とユセイはそこまでしか言わなかったが、続きは大体分かる。風音も同じ事を考えていた。

 ここは地元では神が存在すると言われ、科学的にも特異な存在を感知したという場所だ。


 そんな場所の探索と聞いて、こちらが予想していたのは。


 過去このエレベーターを作った者達は、この場所に何かがあると確信してこの地に訪れた。

 その後この地下を探索しようとしたが、ニーギ特有の自然現象の脅威の連発に襲われ、自分達では探索出来なかった。だから一旦封印し後世の誰かに探索を任せようとした。


 ・・・みたいな感じだと思っていた。

 つまりユセイも風音も、目的地に着いたら未開発の地下を探索するのだと思っていた。


 でもユセイが言ったように、おそらくもうこの地の探索は済んでいる。

 そしてこのエレベーターを作った奴らっていうのが、今現在管理しているこの国の政府関係者ではないのか?

 つぶやいたユセイに風音が話しかける。


風音「ですよね。このエレベーターが政府関係者の作ったものなんだから、この部屋もそいつらが作ったもんでしょ。 もう探索とかする必要無くない?」


 ・・・と思うが、一応他の可能性も考えてみるか。


 ほぼあり得ないと思う。

 と自分の中で前置きをした上で、例えば・・・。

 この部屋は元々ここに存在したというケース。政府が作ったのではなく、その・・・いわゆる・・・神の所有物?

 神と呼ばれる何かがここにり、誰かがそれを感知し政府の力を頼り地面を掘りエレベーターを設置した。

 しかしその当時この部屋を調べつくしたものの何も分からなかったので、封印し後世に任せて・・・。

 ・・・みたいな。


 ふと目の前にある機械にいくつかあるものが目にまり、風音が携帯を機械に向ける。


 ・・・早速だが、今思いついた仮説を微塵みじんに打ち砕くに足る証拠を掴めた。


風音「うん、これは間違いなく人類が作った部屋だわ。なんか機械のいろんな所に文字が書いてあったから今調べてみたけど、第三共通語で書かれてるって結果が出たよ」


 その文字の内容はこの機械を扱う上での注意事項やら、機械の各部分の役割を端的たんてきに書いてあったりとか。

 普通のその辺の家庭にある機械に目を向けた時に書いてあるような内容ばかりで、特別変わった事は書いていない。


 重要なのはその文字がこの星の言語ではなく、宇宙で広く使われている言語が書いてあるという事。

 もう間違いなく人類が組んだ機械だこれは。


メット「政府が作ったものなら、私が操作すればセキュリティの解除が出来たりするのでしょうか? 上のパソコンと同じ解除キーで中身が調べられないですかね?」


風音「やってみてもらっていいですか?」


 凄く助かる提案だ。こんなもん素人が触ったところで、どうせセキュリティに弾かれるだけだろう。

 調べる対象が近代的なコンピューターだったとは思っていなかったので、どうしたものかと思っていたところだ。メットさんが付いて来てくれてて良かった。


 メットがパソコン(?)の手元部分にある板状の機械に触れる。


 その瞬間プシュッと小さな音が鳴り、メットの全身から多量の紫色の霧が出た。


風音「えっ・・・!」


 不意打ち過ぎて言葉が出ない。

 咄嗟とっさに抱っこしていた咲桜の頭を押さえて、そっちを見ないようにする。


 霧状に噴出したものはメットの血だ。


 辺りが紫に染まる。

 この星の人の血は紫なのか・・・?

 ・・・などと、日常の中でこの星の人の血を見ただけならそういった事を考えるのだろうが、メットの衝撃的な姿の前に、小さな疑問など全て吹き飛ぶ。


 今しがたメットさんが立っていた場所には、サッカーボール大に丸く圧縮されたメットさんだったものが転がっている。


 一人の人間が一瞬にして、ただの紫色の肉の塊と化している。


風音「何っ!? ユニィ! 何があったか分かる!?」


 咲桜をギュッと抱いて、ユニルに確認する。


ユニル「いえ、分かりませんでした。 機械に触れた瞬間でしたから、罠ですかね?」


 普段強気な態度を崩さないユニルも、こればかりは声に緊張を含んでいる。


ユセイ「驚いてる場合でもないの。 こりゃ一旦意識を切るか」


 ユセイが耳にイヤホンを付ける。

 風音が周囲を見回すと、いつの間にか部屋の隅に。

 何かが地べたに座っている。人型をした、全身が白い何か。

 顔・・・は存在するのだが、はっきりと見えない。顔だけでなく全身が、常時ゆがんで変化し続けているような、ホログラムでも見ているのかと思えるほどのうつろな存在感。


 今の今までこんな奴は居なかった。

 ユセイもその存在に気付いたのか、自動的にそれに襲い掛かる。


風音「ちょっと! ユセイさん!!」


 意識を自発的に消したせいで、意味不明なモノに自分から向かって行っている。


 しかし今の現象をアレが起こしたのだとしたら、危険過ぎる。

 今風音には大きな疑問がある。その疑問が解決するまでは、ユセイを戦わせるわけには・・・。


 ユセイがそれに接近し攻撃を繰り出そうとしたが、その前に動きがピタリと止まる。

 その後メットの時のように瞬時に、ユセイの全身が大量の紫のビー玉のようなものに変わる。

 メットとは違って血が噴き出すのではなく、全身を瞬時に数百個の小さな球状をした血肉の塊に変えたような。

 肉でできた紫のビー玉状の物が、紫色の汁を垂らしながら部屋中に転がって広がっていく。


ユニル「風音さん・・・。契約解除した方がいいかもしれません」


 さすがのユニルも冷や汗をかいている。

 自分からこんな事を言い出すのは初めてだ。


風音「いや・・・それでどうにかなるのかな・・・」


 動体視力だけでは攻撃の正体が分からない。もっと言えば物理攻撃に見えない。まるで魔法のようだ。

 ユニルが物理攻撃の通じない元の姿に戻っても、意味不明な力でねじ伏せられるだけの可能性まである。


 そしてメットが死んだ時からずっと思っていた大きな疑問。

 なぜ彼らは生き返らない?

 メットもユセイもこの星の人間だ。意味不明な死に方をしたら、すぐに生き返るんじゃないのか?

 ユセイはすぐに生き返ると言っていた気がする。じゃあどうして・・・。


 まさかこいつ、本当に神・・・・・・。


 ユニルが攻撃の正体を掴む為に、部屋全体に風を流す。

 風音がユニルのその行動に気づいた時には、もう風は止んでいた。

 まさか・・・と思い今しがた隣で喋っていたユニルの方を見る。


風音「嘘だろ・・・」


 ユニルが消滅している。

 どんな殺され方をしたのか見ていなかったが、妖精は殺されるとその場で消滅するので、ただただ姿が消えてしまった。


風音「なんなんだお前・・・」


 白いニンゲンに向かって呟く。


 「お前もこの場所の事を調べようとしたな?」


風音「え?」


 喋れるのか。というか意思疎通いしそつうが出来るのか。こちらの声に反応した。

 しかし相手の敵意を含んだ言い方に、何か嫌な予感。

 ここはもう、やり直す為の行動に切り替える。


 覚えておく事はこいつの存在と、みんなの死に様と今の言葉。調べようとした、というのは最初に携帯を機械に向けた時の事か。あるいはこの場所に来た事を言っているのか。

 取り敢えずこれらだけ覚えておく。


 ほんの一瞬でこれだけを考えた頃には、風音のおなか周りから物凄い力でねじれが発生し、全身がその場で回転するように浮いた。


 これはどうにもならない力だ。

 死を確信する。

 最期の瞬間、咲桜が心配そうに見つめる姿が映ったのと・・・その咲桜だけが無事な姿である事に安堵あんどした。

 咲桜が無事なままやり直せるなら、やり直しとしては合格だ。という思いが最後に胸に去来きょらいし、意識を失う。


 そして風音は、全身をじ切られて絶命した。



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