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カノン  作者: しき
第5話
41/206

災害と再生の星5


風音「あ・・・今戻って来たのか」


 この感覚には慣れてきた気がする。

 まずは急いで思い出し作業からだ。


 ・あと何回やり直せるかをユニルに確認。

 もう後が無ければ仕事をキャンセルして帰る。これは来る前から絶対にそうすると決めていた事だ。


 ・特殊能力が効かない(そういう風に覚えているが、どういう意味だろう?)案内人と戦う事になる事。地割れで咲桜が死ぬ事。それを回避する為に森を早く抜ける事。

 そしてそれを必ずメモする事。


 ・地割れで死ぬ回の一つ前におそらく即死している回がある。そのせいで一度記憶がリセットされた? リセットされたせいで、過去一回雨で死んでいるのに、また今回雨で死んだらしい。


 ・・・うん、それはちょっとあやふやな部分もあるが大体覚えている。

 メモがあるのか・・・。

 便利かもな確かに。


 あとは・・・死ぬ間際、誰かの声が聞こえた様な? 女の人の声?

 この辺はうろ覚えだ。

 でもそんな事があった気がする。

 今この森の中に、現地の人でも居るのだろうか?

 一応それも書いとくか。


 早速メモをする為に、携帯のメモ機能を起動する。


風音「うわもう・・・結構いっぱい書いとる」


 一通り目を通す。


風音「え・・・これもう・・・かなり能力を消費してない?」


 メモを見ながら思う。


 早速今回覚えていた事を書き込む。

 地割れの件。ユニルに確認する件。声がしたので誰かが森に居るかもしれない件。多分一回即死している件。

 はっきり覚えている地割れの件は詳細に書いた。

 逆に声のやつはよく分からん。

 誰かがいるかも? くらいで書いておく。


風音(メモ書いてから思ったけど・・・これユニィに確認して、もうやり直し出来ないってなったらこのまま帰るんだよな。メモする意味無かった事になるな)


 先に確認すればよかったかな。

 案外本当に、もう後が無いって言われるかも。

 そうなったらもうこんなメモすぐに消したる。

 そんな事を考えながら、宇宙船を降りる。


ユニル「あ、遅かったですね。トイレでも行ってました?」


風音「いやちょっと色々確認したい事があってね」


 咲桜さくらが死んでしまう件も含んでいるので、本人に聞かせないためにユニルだけ呼んでメモを見せ、内容を全て伝える。


ユニル「なるほど。もう何回もやり直していると。森では私が活躍するんですね。 でも私、あと何回やり直せるのかなんて分かりませんよ?」


風音「え? 話が違うな・・・」


 じゃあもう帰ろうかな。危険だわ。


ユニル「風音さんの中にあるラクネ君の力の残量は分かりますよ? 私以外の妖精の力が風音さんの中にあるっていう、凄く不愉快な状態。 それは今もあります。だから最低でもあと一回はやり直せます。ただ残量が分かったからと言って、それであと何回やり直せるっていうのはラクネ君しか分からないでしょ」


風音「大体分かるって言ってたけどな」


ユニル「だから言葉通り、大体じゃないですか? もう残り少ないのは分かりますよ。でもあと一回なのか二回なのか、少なく見えて実はあと三回くらいやり直せるのか、そういうのは分からないですよ」


風音「あ、そうなんだ。最初が七回だからメモを見た感じ、あと三回ってことは無い気がする。多くて二回じゃないかな?」


ユニル「そうなんですか?」


 もう一度ユニルが携帯のメモに目を通す。


ユニル「あ~、そうですね。最低でも五回やり直してますね。即死回っていうのが存在するなら、ですけど」


 理解したようで、携帯を返して来た。


風音「だね。 ま、とにかく。 まだやり直せるんなら、とっとと森を突破しようか」


 急ぐ事にしよう。 と意気込んで出発しようとした時。


風音(・・・・・?)


 急ぐ?

 何か嫌な感じ。

 何だろうか。

 咲桜を地割れから救う為には急がなければならないらしい。

 しかしこの感じ。急ぐと何かあるのか?

 嫌な感じがする時は何かの予兆とラクネが言っていた。

 そしてこの急ぐ事によって嫌な予感がするというのは、メモにも一切っていない。

 という事は、おそらく一度あったであろう即死した回と関係があるような気がする。


 即死した回の次の回って、即死したせいで全てのやり直しの記憶を失くした状態のまま、森からスタートしたって事だよな?

 その時の自分は、ニーギに着いたばかりでまだ何も始まっていないと思っていたのだろう。

 ・・・それにしても凄い死に方だ。ほんの一瞬すら、何も考える瞬間すら無いほどの即死?

 死角から隕石にでも当たったのか。


 理屈はどうあれ。


 森をゆっくり行くと咲桜が死ぬ可能性があるのなら、選択肢は一つだ。

 即死を警戒しながら急いで行く。それしか無い。

 ユニルを呼ぶ。


風音「ちょっとユニィ」


ユニル「はい?」


風音「森を抜けるまでの間、周囲を風で警戒しておいてもらえないかな」


 ユニルはかなり広範囲で大気を動かす事が出来る。

 そしてユニルが起こす風は、ユニルにとって触覚のようなもの。

 風に触れた物の形、動きが手に取るように分かる。


ユニル「いいですよ。ただ、雨でしたっけ? それの対処をしている時はそこに集中しないといけないので、無理ですけど」


風音「そっか、じゃあ両対応出来るように契約を・・・」


 ・・・あ、この先は言わないでおこう。嫌な予感しかしない。


風音「じゃなくて、僕も毒で地面のエネルギーを吸収しながら行くよ。雨の時は僕がメインで周囲を警戒するから」


 ユニルがニコニコしながら頷く。


ユニル「そうですね、それが良いです。もしそんな些細ささいな事で契約解除とか言ってたら、今から夜まで説教でしたよ」


風音「いやいやそんな事言う訳ないじゃないですか~」


 釘を刺された。

 ・・・でも真剣な話、些細な事ではない。即死に繋がるかもしれない事への警戒だから。

 ユニルにとっては今はまだ死んでもやり直せる状態なのだから、契約を解除してまで守る必要は無いという感覚なのかもしれない。

 ・・・まぁ仕方ないか。


 暇だったのかその辺で草花を見ていた咲桜に声を掛ける。


風音「咲桜ちゃん、おいで~」


 パッとこちらを向いて、駆け寄ってくる。

 後ろ手に何かを隠しているようだ。

 虫でも捕まえて驚かそうとしているのかな? ここはえて気付かないようにしてあげる。

 咲桜に合わせて、風音がかがむ。


風音「ちょっと急ぐけど、走れる?」


 咲桜が首をひねる。

 ・・・こういう時、ちゃんとこちらの意図が伝わっているのかどうかが分からない。

 筆談ひつだんとか出来たら良いと思うのだが、なぜかこの子は筆談も嫌がる。


風音「抱っこする?」


咲桜「・・・・・・!」


 屈んでいる風音に、咲桜が飛びつく。

 咲桜が何かを手に持っていたようで、それを風音の頭に乗せる。

 花で出来たかんむりらしい。あまり時間が無かったので、ほとんどがくきで出来た花の少ない冠だが、一応輪っか状になっている。


風音「あ・・・・・・」


 感極まる。


風音「ありがと~~~!!」


 抱っこした咲桜に頬ずりして喜ぶ。

 咲桜が満足そうに微笑んだ後、風音の頬にチュッと口付けをした。


風音「~~~~~~~!! あぁもう可愛いなぁ!!」


 基本可愛らしいもの全般が大好きな風音だ。

 犬とか小さな子からこんな事をされると、滅っ茶苦茶喜ぶ。もうデレッデレだ。

 全力で咲桜の頭を撫でる。

 そしてお返しに、咲桜の前髪をかき上げておでこにキスする。


咲桜「・・・・・・っ!」


 それも嬉しかったのかフンフンと鼻息を荒くして、満面の笑顔で強く抱き付いて来る。

 もう一度軽く頭を撫でてあげた後、冠が頭から落ちないように茎の一部を髪留めに挟む。

 微笑ましい休日の親子のような、誰もが見ているだけで幸せになれるような光景だ。


ユニル「風音さぁん・・・」


 不意に、地獄の底から聞こえたかのような不吉な声が聞こえた。

 風音がユニルの方を見る。

 声色とは違って、まるで今の咲桜のような満面の笑みだ。


ユニル「実は私も花冠を作ってたんですよ」


 ユニルの手には、今作ったばかりのようなボロボロの花冠が。

 作ったというよりも、風で花を大量に集めて輪っか状に圧縮しましたっていう感じ。ユニルなら二秒で作れそう。

 どこにも結び目が無いので、本当なら持っているだけでバラバラになりそうに見える。しかし物凄い力で圧縮されているからなのか、ひとつの塊になっている。


風音「凄いねそれ・・・アートみたい」


 ユニルが持っていた冠を風の頭に乗せる。


風音「ありがと。・・・じゃあそろそろ行こっか」


ユニル「いやちょっと待ってくださいよ」


 行こうとした風音の顔面の前に行き、両手で鼻をつまむ。


風音「・・・? 何か?」


ユニル「何か忘れてません?」


 風音が考える。


 ハッとする。・・・まさか。

 ふと不安になって、ポケットを触ってみる。


 ・・・大丈夫だ、ハンカチは持ってた。

 じゃあもう多分、何も忘れていないと思うが。


風音「・・・ヒントを」


ユニル「さっきこの子が冠をあげた後は、何かありましたよね?」


 その言葉を聞いて咲桜がもぞもぞと動く。

 咲桜が目の前に居たユニルの頬に軽くキスをした。


ユニル「あなたのはいらないからっ!!」


 風音の鼻をグリィッ!ってしながらユニルが吠える。

 咲桜がビクッとして風音に強く抱き付いた。

 風音が咲桜の頭を撫でながらフォローする。


風音「あ~~怖かったね。このお姉ちゃん怖いねぇ。ちゃんと言われた通りにやったのにねぇ?」


 よしよしと咲桜を撫でる。

 咲桜がうんうんと頷きながら、森の方を指で差す。

 もう早く行こうと言っているようだ。


風音「そだね。もうこんな怖いお姉ちゃんは放っておいて、さっさと行っちゃおうか」


 急がないと咲桜が地割れで死ぬらしいし。

 風音の鼻をつまんでいるユニルを外して、風音が駆け出す。


ユニル「ちょ・・・と、待ってくださいよ」


 すぐに追いかける。

 今の一連の咲桜の対応。わざとユニルを怒らせるような行動を取り、自分は可愛がられる様な行動を取ったようにユニルの目からは見えた。


ユニル(まだ子供だしね・・・)


 彼女は今、両親が居ない状態だ。

 親代わりである風音を誰かに取られたくないという気持ちはあるのかもしれない。

 やはり寂しいのかも・・・と考える。

 そう考えるとこちらも大人として、少しくらいのオイタは許してあげないと。


 風音の背を追いかけていると、風音の肩の横辺りから咲桜がひょっこりと顔を出す。

 追いかけているユニルと目が合う。

 咲桜がニコッ、と勝ち誇った表情をした。


ユニル(・・・っ!! このクソガキッ・・・!)


 いや違う間違っていた。こいつはそんな純粋な子じゃない。

 子供という事を最大限利用して甘えてやがる。そして自分以外を蹴落とそうとしてやがる。

 今理解した。こいつは思ったより腹黒い。


ユニル「なんて厄介な・・・ルミナだけでも鬱陶うっとうしいのに」


 とかブツブツ言っていると、ポツリと一滴雨が降った。

 瞬時にユニルが二人に接近し、三人の頭上に強烈な風を展開する。


風音「おぉ、対応が早い」


 風音も雨の前兆ぜんちょうが来た事にすぐに気付いて、ユニルに指示を出そうと思っていたところだ。


ユニル「ええ、どっかのお子さんとは違いますから。可愛いだけじゃなく優秀。そして超優しいユニルさんですよ」


風音「うんえらいえらい」


 風音がユニルの頭を指で撫でる。

 そして同時に、周囲の地面を毒で崩壊させた。

 風音の全身が地面を崩壊させた分だけ強化されていく。

 特に眼筋がんきんなど、目の周囲を強化する。これをしておけば視界内でとらえたものの反応速度から、瞬発力を中心とした運動機能まで、警戒に適した能力が飛躍的に上がる。


 これから先自分の周囲で起こる、全ての事象を見逃さない様に神経をとがらせなくてはならない。

 考える間も無いほどの即死など、一度で十分じゅうぶんだ。


風音「ここからは僕が周りを警戒しないとだからね。ちょっと速度を落とそうか」


 駆け足だったのを、早歩き程度の速度に抑える。

 そうしている内に、雨が本降りになった。

 水の量も音も、凄い勢いだ。バケツの水をひっくり返した様な~とかよく言うが、そんな生易しいもんじゃない。

 滝だこれは。

 しかもこれが全部生き物って。どう見ても雨にしか見えない。

 歩きながらユニルに聞く。


風音「よくこの勢いの水をはじけるね」


 そんな酷い状態なのに、三人が全然雨に濡れない。下に溜まった水が跳ねる事で、風音の足元がほんの少しだけ濡れる程度だ。衣服の上からだし、この程度なら何の影響もない。

 力の大半を抑えられている今のユニルの力で、これだけの事を出来る事に感心する。


ユニル「妹が水の化身みたいなものですから。慣れてますね、水のあしらい方は」


風音「やな理由だな・・・。よく姉妹喧嘩とかしてたの?」


ユニル「いえいえ、仲の良い姉妹でしたよ。妹って男女問わず凄い人気があったんですよ。あの子は表面上凄く優しいけど、でも四六時中しろくじちゅう誰かにしつこく付きまとわれるとプライベートが無くなるでしょ? やっぱり徐々じょじょにイライラするのよ。 だから笑顔で冗談交じりに「もうかなり長い時間が経ってますよ。そろそろ帰られた方が良いのではないですか」とか言って相手に水をぶっかけて追い払おうとするんです」


風音「・・・それは冗談で済むの?」


 来客に水をかけるって。


ユニル「別に水の妖精が水を操るのなんて、手足を動かすようなものですから。コップの中に入った水をかけて「帰れ」っていうのとは全然感覚が違いますよ。ただあの子が内心イライラしてる時って、相手が地平線まで飛んで行きそうなくらいの威力で水を噴射ふんしゃするんですよ」


風音「いよいよ冗談では済まないでしょ」


ユニル「はい。だから私が風で威力を殺してたんですよ。冗談で済む程度の威力までね。だから慣れました」


風音「へ~~・・・。ちゃんとお姉ちゃんしてるね」


 素直に褒める。

 妖精の星に居る者達からは妹の方が評価が高いようだが、風音視点ではどう見てもこの姉妹は姉の方がしっかりしている。


ユニル「ええまぁ。あの子の姉は私じゃないとつとまらないですよ」


 雑談している内に雨が上がる。

 勢いは凄かったが、降っている時間はかなり短いようだ。生物なのだから、本当の雨のようにずっと降り続ける事は不可能なのだろう。


風音「よし。じゃあここからはまた急ぎだね。この辺りから森を抜けるまでが、本番かな」


 即死の原因を確実に見抜いて回避しなければ。


ユニル「はい、じゃあまた風を周囲に・・・」


 急にユニルが明後日の方を向く。

 何かを感知したようだ。


風音「ん? どうし・・・なんだアレ」


 遠くに何か妙なものがいる。全長五メートルはありそうな、黒くて長い生物が空中をウネウネと移動している。

 でっかい蛇? 見た目は蛇に近いが全身丸太のような太さなのと、顔の造りが少し違う。

 巨大な生物なのに、目は小指の爪ほどしかない。顔のほとんどが口だ。


 その生物がピタリと動きを止め、近くにある木をジッと見つめる。


風音「おっ? 獲物でも見つけたのかな?」


 見つからないように伏せながら、目をらしてよく見る。

 やはり予想通り、木に何らかの生物がいたようだ。トカゲのような生き物か。

 あれを捕食しようとしているようだ。

 蛇が口を大きく開ける。

 蛇はその場から動かなかったが、音も無く蛇の目の前にあった木に、直径一メートルはある大きな穴が開いた。


ユニル「え? なに? 何があったんですか?」


 ユニルは何が起こったのか理解出来なかったようだ。


風音「気持ちわる・・・」


 動体視力と視力が共に良い風音には全て見えていた。

 見えてなかったユニルに説明してあげる。


風音「あの蛇ね、口の中に大量に子供がいる。隙間すきまも無いくらいウッジャウジャいるよ。それを飛ばしたみたい」


 口の中から小さな生き物を一瞬にして大量に、それもショットガンのような勢いで発射した。

 発射された生物(子供達?)は口を開けたまま飛んで行き、触れた物を食いながら進んでいったようだ。

 あれは子供に食事を与えているのか?

 子供を口の中に入れて運び、親が獲物をさがし、獲物が見つかると子供が飛び出て一斉に襲い掛かる。


風音「あれが即死の原因かな?」


 可能性は十分ありそうだ。

 生態を知らなければ、至近距離から隙間なく弾が出るショットガンを撃たれるようなものだ。

 銃と違い発射音が鳴らないのも厄介だ。不思議なのは飛んでいく子供達が風を切る音や、獲物を食べる時の音も聞こえなかった事だ。

 無音にして一瞬で、巨木に直径一メートル大の大穴を開けてしまう。


 そしてこいつが即死の原因だとしたら。スタートからずっとゆっくり歩いていれば即死を回避出来るという事は、こいつはしばらくするとどこかへ行くのか。


 しばらく見ていると、先程撃ち出された子供達が親の元に戻っていく。

 撃ち出された時と違い、獲物や木を食ったせいか全員丸々と太っている。

 それを親が・・・


風音「え? あれ?」


 食べている。

 口の中に戻すのではなく、つぶしながら食べている。


ユニル「うえぇ・・・何ですかアレ。共食ともぐい?」


風音「うん。意味が分からないね。あんな二度手間な食事方法を取らなくても、獲物を見つけた時点で自分で食えばいいのに」


 風音が不可解なものを見る目で観察していたが。


 早速その疑問の答えになるような行動を取るのが見えた。

 こちらに気付いたらしい、ゆっくりと蛇がこちらを向く。


風音「ああ、そういう事か。届くのか。そこから」


 まだ五十メートル以上は離れているが、こちらを向いてゆっくりと口を開けた。

 抱っこされている咲桜が、不安になったのか少し強めに風音にしがみ付く。

 その不安を払うように風音が少し頭を撫でてあげる。


風音「ユニィ。何重にも壁を張ってもらえる? 最初の一枚は十メートルくらい向こうで」


 念の為風音も体を強化して構える。見た感じその必要は無いと思うが。


ユニル「はい」


 ユニルが空気を圧縮した壁を前方に十枚ほど作る。

 真っ直ぐ向かってくるなら、横から強風で吹いてやれば簡単に吹っ飛んで行きそうな気もするが、言われた通りの行動を取った。

 予想通り、無数の子供がこちらに向かって発射される。

 子供達が見えない壁にぶつかり落ちていくのが見える。


風音「速いな・・・本当に弾丸並みだ。あと回転しながら突っ込んで来てるのか。 ・・・あれどうやってぶつかった時の音を消してるんだろう? ルミナの武器と同じ原理かな?」


 口を開けたまま、いびつに生えた沢山の歯を前方に向けて突進している。

 とにかく前にある物をけずり取りながら腹に入れていく感じか。


ユニル「あ・・・観察したかったんですか?」


 なぜ吹き飛ばさずに、正面から受け止める様な行動を指示したのかと思ったら。


風音「だって気にならない? どうやってあんな速度で食べてるんだろう、とか」


ユニル「全然気にならないです」


風音「あ、そうなんだ。見た事無い生物の動きってみんな気になると思ってたよ。 ・・・あ、一枚目が破られたね」


 子供達が対象に届かないのを見て、親蛇が何度もこちらに向かって発射し続けている。

 その何度目かの射撃でユニルの壁が一枚破られた。残った子供達はこちらに向かって飛んできているが、速度が落ちているのでそのほとんどが、二枚目の壁に到達する前に推進力すいしんりょくが無くなって落ちていく。

 破られたといっても実在する壁ではない。ユニル次第しだいでもう一回張り直せるから、早速もう一枚目が復活している。


風音「あと僕の左にも壁を。 あの威力だったら三枚くらい張っておけば十分防げるみたいだし、前方はもっと壁を少なくしてもいいから」


ユニル「え? 左?」


 そちらを見ると、もう一匹居た。一匹目よりもかなり離れた場所だが、こちらを向いている。

 そしてもう口を開けようとしている。


ユニル「うわ気付きませんでした」


 言われた通り壁を張る。


風音「うん・・・」


 周囲を見た感じ、この二匹しか居ないっぽい。じゃあこの蛇はもう対処できたようなものだ。

 ここでじっとしているだけで相手の弾がいずれ尽きる。

 弾が尽きた後逃げるのか、あるいは本体が襲ってくるのか。

 油断は出来ないがおそらく本体が強けりゃこんな闘い方はしないだろうから、普通に勝てるんじゃないかな。 もし襲ってくるなら返り討ちにしてやる。


 ただ少し気になる事がある。

 二匹目の存在に気付いたのはおそらく風音が最初だ。ユニルが最初の壁を張り始めたくらいの時。

 未知の野生の生物は何をしてくるのか分からない。同族あるいは別の生物同士でも共闘してくる事なんて、当たり前の様にある。

 一匹目に襲われた時こそ、不意打ちを警戒して周囲に気を配らなければならないと思っていた。

 ・・・でその過程で二匹目を見つけたわけだが。


 二匹目を見つけた時はまだこちらを向いていなかったし遠かったので、その時は一旦後回しにした。何事も無く通り過ぎてくれればそれでいいし。

 でもその直後、抱っこされている咲桜が(これは偶然だろうが)そちらを向いて蛇を見つけていた。

 その時の咲桜の行動が少し気になった。

 敵の存在をこちらに知らせる事もなく、ただ目をらし強く風音に抱きついた後、少し微笑んだのだ。

 ユニルは気付いて無かった訳だし、もし風音が気付いていなかったら、遠距離斉射せいしゃで三人とも死んでいたかもしれないのに。


 ・・・自分だって死んでしまうのに、なぜ黙っていたのだろうか。

 トラウマが原因か?

 病院での検査結果では、精神的に参ってはいるもののうつやパニックなどの症状は無く、自殺願望や自傷行為などは見られなかったと聞いているが。

 希有けうな症状・・・例えば・・・親しい人と一緒なら死んでも良いと思っている?


 漫画とかではたまに変なのが居る。死にたがりだが自分一人で死ぬのは嫌で、大事な人と一緒に死にたいとか言って主人公を殺しにくる敵キャラ。

 大体親友とか友人以上の関係の異性とかで、本気でお互いしたっているから「一人で死んどけよ」とは言えないので主人公が苦悩する、みたいな(読者としては)鬱陶しい敵キャラ。

 でも現実であるのかそんな事。


 風音が咲桜の頭を優しく撫でてあげる。

 咲桜が上を見上げてキョトンとした後、少し笑った。

 ・・・こうやって少しずつケアしていってあげれば、よく分からない行動も減っていくのかな。

 減っていけば良いけどな。


ユニル「あ、逃げましたね」


 考え事をしている内に、一匹目が逃げたようだ。

 やはり本体はかかって来ないか。


風音「じゃあもう少しで二匹目も逃げるかな。あとは警戒しつつ森を抜けるだけだね」


 予想通り、二匹目もしばらくして消えた。多分即死の原因は今のやつだろう。

 他にもあるかもしれないので一応森を出るまで油断はしないが、おそらく乗り切ったと思う。


 そうして森を抜けるまで走り続け、途中何度か地震はあったがそれ以外は特に何事も無く森を抜けると。


風音「凄いな・・・なんじゃあれ・・・」


 遠くで火山と氷山が爆発している。

 ひとしきり感想を言った後、街を目指す。


 街に着くと、ユセイと名乗る案内人が待っていた。

 そしてユセイ側が一方的にこちらに喧嘩を売るような形で口論となり、戦闘に発展する。

 これはメモで見たとおりだし楽勝だろう。

 まずは咲桜を離れた場所に移動させる。

 あとは能力を使わずに、普通にやれば勝てるのだったか。

 なんか卑怯ひきょうにも武人っぽい台詞せりふでこちらに技を使わせようとしていたので、お返しに頬っぺたを叩いて倒した。前回どうやって倒したのかは覚えていないが、もしかしたらこのくだりは前回もやったのだろうか。


 戦闘後ユセイと少し会話をして、案内を引き受けてもらう事になった。

 ここまでは予定調和よていちょうわだ。


 さてここからだ、未知の領域は。

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