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カノン  作者: しき
第5話
39/206

災害と再生の星3



ラクネ「音羽さんはさっき面白い事を言ってましたね。 運命は自分で切り開くとか? では見事切り開き、一度も死なずに仕事を完遂し・・・。・・・・・・・おや?」


 ラクネの言葉が途中で止まる。目の前に居る風音の異変に気付いたようだ。


 突然風音が目をぱちくりとさせている。


風音「今・・・戻って来た? え? 死んだのか?」


 キョロキョロと周囲を確認する。


ラクネ「そうですね、まだ施しの儀式を終えていないのに、音羽さんの中に私の力を感じます。・・・と言うか、そんなすぐに出発したのですか?」


 ラクネはニーギで死んで戻って来たと思っているようだ。


風音「いや、出発は仮に引き受けたとして三日後ですけど」


ラクネ「ではどうして死んだのですか?」


風音「いやそれが・・・状況が・・・思いだせない。なんか明るくて真っ白で・・・いやそれは死んで目の前が真っ白になっただけなのかな。 でも多分、自分で死んだはず・・・そんな気はする」


ラクネ「ではそれは間違いないのでしょう。そのあやふやな感覚を確定事項だと信じて下さい。 なるほど自死じしですか。本番前に、私の力を試したかったのでしょうか?」


風音「いやそんな無駄な使い方・・・しないと・・・思いますけど。 仮にやるとしても、ニーギで何かあった時の為の自殺の練習・・・? ・・・いやいやいや、そんな事しないか」


 一体何が起こったらカノン内でやり直そうってなるんだ?

 もちろんニーギでの事を考えての、予行練習という意味合いが大きいのだろう。

 しかし・・・自分の事だから自分の性格は一番よく分かっている。

 自ら進んで予行練習なんてしない。

 「この状況なら、本番前に試しにやってみても良いかな」と思える状況になったのだろう。


 それにしても何が引き金になってやろうと思ったのかが、想像も出来ない。

 ラクネが思い出す為のアドバイスをする。


ラクネ「一番覚えている可能性が高いのは、「最後に考えていた事」です。思い出せませんか?」


風音「・・・。 覚えてるかも・・・。確か、これってどの時間に戻るんだろう、って」


 最後の最後は死因に直接関係無い事を考えていた。


ラクネ「一応その疑問に答えておきましょうか。ここからやり直せば死を回避出来るであろうという時間に戻ります。特に音羽さんにとって都合の良い時間に。ほとんどが死の原因が起こる少し前に戻る事になりますね。・・・しかしよりによってそっちを考えてしまいましたか。最初だと仕方ないですよね。今後はなぜ死んだのかを考えて下さい。それを次に覚えていると回避しやすくなります」


 本当にやり直せるのかという不安もあったので、最後にあまり考え事をしている余裕が無かったというのも本音だ。

 思考のほとんどが「本当に大丈夫なんだろうな?」だったと思う。ユニルと共に居るのだから妖精の凄さは理解しているが、だからといって実際に初めて自分で命を絶つ時に「安心しろ」と言われても無理な話だ。


 はっきり覚えているのが最期の瞬間だけなのなら、次からは有意義に使わないと。


ラクネ「他に何か・・・嫌な予感とか無いですか? 何か自死しようと思った原因が他にあるかもしれません」


 必死で思い出そうとするも。


風音「思い出せないな。これは・・・参ったな。こんなに思い出せないなら、また繰り返すだけじゃないかな」


 やはり最後が一番大事か。その瞬間に死の原因を頭に刻んでおかないと。


ラクネ「例えば、この後どう行動するつもりですか?」


風音「ラクネさんに力を貰ってから・・・その時点でユニィが帰って来てなかったら、報告しに食堂へ・・・食堂?」


 何かが引っ掛かった。


ラクネ「何か思い出しましたか?」


風音「いや・・・でも・・・なんか・・・食堂に行かない方が良い気がする」


ラクネ「その感覚です。それを信じて下さい。おそらく食堂で何かが起こります。 そうですね。例えば・・・食堂にはこの船の乗組員達が沢山居て、そこで音羽さんはニーギに出発する事を言います。おそらくニーギの事を知っている者全員が、止めようとするでしょう。それで例えば、誰かが勝手にその仕事をキャンセルしたとか」


 風音が首をひねる。


風音「う~~ん。まぁ、あるかなぁ。レスタとかブラウニーなら、事情を説明してもそういう事しそう。でもそれで死ぬかな? やっぱりやります~ってシエロに報告すれば多分キャンセルをキャンセル出来るしな」


ラクネ「いずれにせよ、可能性は全部潰しておいた方が良いと思いますよ。食堂には行かない。仕事の話はユニルさん以外には言わないように、を心掛けましょう」


風音「ですね。でもこれで一回か。出発前に無駄に使っちゃったよ」


ラクネ「いえ・・・。確かにそうですが・・・。この減り方は意外ですね」


 ラクネが風音をジッと見る。


ラクネ「おそらく・・・あと八回くらいやり直せますね。音羽さんの中の私の力があまり減っていません。 ユニルさんと契約した事で、生物としてのうつわが大きくなってるのかな・・・。一回やり直してこれだけしか減らないのは初めてですね」


 風音にはよく分からないが、なんかその道のプロが驚いている。


風音「八回か・・・減ったと思ってたら、まさか増えるとはね。それを喜んでいいのかどうかわからないけど」


 仕事を失敗し続けたら、最悪あと八回も死ぬ。

 死に数が増える、って喜ぶ事なのか? 仕事の成功率が上がるという意味では、喜ぶべき事だろうが。


風音「うん、ま、とにかくもうこれ以上本番以外で力を使うのはやめよう。勿体もったいないわ。・・・そういえば、ラクネさんって僕に与えた力をもう一回補充したりとかは出来ないですよね?」


 力を与えてくれた本人が目の前に居るので、もう一度儀式をやり直す事で九回に戻せないだろうか。


ラクネ「ああ、そういった説明をしてませんでしたね。それは無理です。更に言えば私が力を与える事が出来るのは、人生に一度だけです。例外は妖精と私の契約者だけとなります」


風音「あ、そうなんだ。 まぁ何回も体験したい力じゃないしね。一度で十分か」


 風音としては一度で十分だ。

 でもそう考えると、ラクネの契約者って結構無敵だなと思う。

 こんな力を無限に使えるなんて。

 バスケの選手になったら、遠くから適当にスリーポイントシュートを投げて、外した時はやり直しって設定するだけで得点王になりそう。

 対戦者と観戦してる人達にとっては、ただのクソゲーと化すだろうけど。

 ・・・と長めに雑談していたせいか、艦長室のドアが開きユニルが帰って来た。

 何故か咲桜さくらを連れている。


風音「あれ、どうしたの咲桜ちゃん」


 ちょっと泣いている咲桜に優しく話しかける。


ユニル「今さっき廊下で半ベソをかいてたので連れてきました」


風音「ありがと。おいで咲桜ちゃん」


 風音が両手を広げると、咲桜が走り寄って風音に飛びつく。

 風音の胸と腰に手足を回して、すんすんと泣き始める。


風音「はいはい、怖くないよ~」


 あやしながら頭を撫でる。


ユニル「やっぱりまだここの環境に慣れてないんですかね?」


風音「慣れる慣れない以前の問題じゃないかな。こんな小さいのに、両親の元に居ないってだけで相当精神的にきついだろうし」


 咲桜の両親は生きているのかどうかすら分かっていない。

 フェクトで子供達が大量に殺された惨殺事件に巻き込まれ、どうにか生き残った子なのだが、事件後何故かいくら両親を探しても見つからなかった。

 その後施設に送られたが、脱走するなど様々な問題行動を起こし、治安組織のシャロンも対応に頭を抱えていた。


 一方で咲桜は例の事件に大きく関わっていた風音にずいぶんなついていた。脱走を繰り返したのも、風音を探していたようだ。

 事件に深く関わったと言っても、事件の際風音は咲桜を助けた訳では無かった。

 正確には誰も助けられなかったのだが、結果生き残った咲桜は助けられたと思っているのかもしれない。

 しばらくしてシャロンの一存で、咲桜は風音の所有する宇宙船カノンに預けられる事になった。

 おかげでカノン側は報告書の提出は当然の事、カノンには定期的にカウンセラーやシャロン関係者が咲桜の様子を見に来る。

 カノンは現在借金関係でシャロンに首輪を付けられているような状態、言わばシャロンの関連施設状態だ。

 シャロンにとっては管理しやすい場所でもあるし、風音も咲桜自身もそれを望んでいたので特に誰も損はしていない状態だ。


 とはいえめちゃくちゃ広い宇宙船。住んでいる人数に対して広すぎる空間は、大人でも心細く思ってしまう。

 そのうえ住んでいるのは知らない大人達。

 更に精神的ショックから喋る事が出来ないので、基本誰ともコミュニケーションが取れない。

 風音の居ない所ではまだ不安の方が大きくて当然だろう。


 風音が咲桜にかまっている間に、ユニルがラクネを見た。


ユニル「あれ? あんたまだ居たの?」


ラクネ「呼んでおいて・・・」


 はぁ・・・と溜め息を吐く。


ラクネ「ではそろそろ帰りますね。ユニルさんも、ニーギに行く事を誰にも言わないようにしてくださいね、では」


 ラクネの姿が消える。


風音「ラクネさんって、いつでも自力で帰る事が出来たのか」


 色々言ってたけど、わざわざ最後まで付き合ってくれたんだな、と思う。


ユニル「それより誰にも言うなってどういう事です?」


風音「あぁ、色々あってね。どうも誰かに知られると、妨害されるかもしれないって事が分かったんだよ」


 一度死んだという結果から見た憶測おくそくでしかないが。


ユニル「あ~~、そりゃぁ・・・ニーギですからねぇ。私もラクネ君の能力を信じてなかったら行かせませんよ。あんな誰でもすぐに死んじゃうような星に行く人なんてどうかしてます」


風音「これから行く僕に向かってキミ・・・。でも実際その通りなんだよ。だから思うんだけど、本当の意味でどうかしてるのってシエロじゃない?」


 実は今回の依頼で最も重要なのは、そこのような気がする。

 それこそが一番考えなくてはならない事ではないだろうか。


 普通こんな依頼をするか?

 いや全く考えられない訳では無いけれども。

 二百兆円もの借金があるのだ。断れないだろうと思って、難易度の高いシエロでも誰もやりたくないような仕事を回して来た・・・という可能性もあるだろう。

 でも借金の金額関係無くこんなもの普通断るし、頼む方がどうかしてる。


ユニル「シエロがどうかしてるのなんて、今に始まった事じゃないでしょ。創業以来ずっと安心と信頼の腐敗組織じゃないですか」


風音「僕ら地球人みたいな宇宙の事全然詳しくない星の人ですら知ってるくらい、悪いうわさしか聞かないしね。ちょっと気になるのは、噂になり過ぎてる事なんだよ・・・」


 全然そういうのが隠せていないとか、馬鹿すぎる気がする。そこに大きな違和感がある。

 あそこで働いているのはエリート集団のはず。不祥事や不信感を抱かせる行為なんて隠蔽いんぺい出来そうなものなのに。


風音「分からないな、あの組織だけは。 考え過ぎなのかも。もっと単純に、しょうもない不祥事を起こしまくる、馬鹿な職員が多いだけなのかもね」


ユニル「私はそう思いますけど。ちょっと試しに私が壊滅させてきましょうか? 何かボロを出すかもしれないですよ?」


風音「やめてね絶対に。 と言うか、さすがに契約解除しないと無理じゃないかな。あそこの戦力は今のユニィじゃ勝てないよ。・・・あ、そうか。ラクネさんを呼んでくれれば、出掛けてる間ラクネさんと契約でもして・・・」


 バスケのプロプレイヤーにでもなってみるか。

 って、そんな事になる訳無いか。こんな会話、お互い冗談で言ってるだけだし・・・。


 バチィッ!!


風音「痛いっ!!」


 ユニルの瞬間移動パンチが風音のほっぺに炸裂さくれつする。


 風音がユニルの方を見ると、恐ろしい笑みを浮かべている。


ユニル「ねぇ? どうして今ラクネ君の話題が出てくるの? そんなに気に入った? 私が居ない間、そんなに楽しいおしゃべりでもしてたの? そんなに私と別れてラクネ君と契約したいの?」


 あ、結構本気で怒ってる。

 まだそこまで付き合いが長くないので彼女の怒るポイントが分からなかったが、ひとつはっきりした。

 契約解除くらいの話題ならそこまで怒らないが、他の妖精と契約しようとする発言をするとこうなるのか。

 今後は軽口でもあんまり言わない方が良いのかも。

 でも言われっ放しもどうかと思うし、今後対等な関係をきずいていく為にも一応反論はしておこう。


風音「いやいやそういう訳じゃなく。今のはユニィが今の姿じゃ絶対出来ない事をやるって言ったから、むしろユニィが僕との契約を切ろうとしてたように聞こえたよ」


ユニル「そんな事言ってません。この姿でもシエロくらい潰せます」


風音「絶対無理だよ」


ユニル「論点ろんてんをずらさないで下さい。今重要なのは風音さんが何故かラクネ君と契約したがっている所です」


風音「別にラクネさんがどうこうじゃないよ。 別にコットリンさんでも良いわけだし・・・」


 あ・・・、これは失言だった気がする。

 言ってすぐに気付いた。

 ユニルの表情から怒りの笑みすら消え、真顔になっている。


 いや。

 そういう意味じゃないんですよ。ユニルが一番というのは大前提なんです。

 そもそもユニルと契約解除する気なんて一切無いし。

 ただ、なんかラクネとの仲をやたら疑ってくるので「別に彼に特別思い入れがある訳じゃないよ」と言いたくて放ってしまったセリフだ。


 コットリンさんでもいいと言った部分も、ちゃんと理由がある。

 風音はただでさえ見た目が女っぽいので、普段男と歩いているだけでカップルと間違われる。

 風音の事を男だと知っている人からも、普通に知り合いの男性と楽しそうに会話してるだけで、男色だんしょくだと疑われる事も日常茶飯事だ。

 そんな日常を送っていると「お前男の方が好きなんじゃないのか?」系の質問には、すぐに「男よりは女の方が好きじゃい」系の言葉で反射的に言い返すのがくせになっている。

 ユニルがやけにラクネ(男性)との関係を問い詰めてくるから、咄嗟とっさに男の妖精と契約したいわけじゃないよという意味で、コットリンの名を出しただけだ。

 そこは信じてほしいが・・・


ユニル「ちょっと失礼します。いつか・・・戻ります」


 ふっ、とユニルの姿が消えた。

 そしてその数瞬後。妖精と契約した者だけが分かる感覚。

 たった今、ユニルとの契約が解除された。


 ・・・・・・もしかして、愛想を尽かされた?

 でも戻るとか言ってたし・・・。

 いつのまにか寝ていた咲桜の頭をそっと撫でる。

 とその時。


ラクネ「ちょっとすみません!」


 突然目の前にラクネが現れた。


風音「どうかしました?」


ラクネ「こっちが聞きたいです! 何かありましたか!? 突然ユニルさんとコットリンさんが喧嘩を始めましたけど!」


風音「うわマジですか・・・」


 星間移動出来ないはずのユニルが、どうやって自分の星に帰ったんだ? という疑問が一瞬浮かぶが、答えはすぐに出た。

 さっき言ってたわ。ここでの存在を消したのか。

 要するにわざと死んだ。元の姿だと本体が強すぎてそれも難しいが、風音と契約している状態だと簡単に出来る。自分の耐久力よりも攻撃力の方が遥かに高いから。


ラクネ「ええ、星中巻き込んでます。しかも普段あの大人しいコットリンさんが、妙に好戦的で眷属総出けんぞくそうでで応戦して・・・」


風音「あぁ・・・」


 風音がコットリンさんでもいいとか言ってしまったから、どっちが風音と契約するかを賭けて、喧嘩を吹っかけに行ったのか。

 あれはやたらラクネとの仲を疑ったユニルに対しての、ただの会話の流れなのに。

 コットリンにすれば、本来無かったチャンスが勝手に転がり込んできた状態だ。嬉々として戦争を開始するだろう。


風音「妖精って他にも強靭なのが沢山居ませんでしたっけ? どうして誰も止められないんですか?」


ラクネ「あの二人に抗えるような実力のある高位の妖精は少ないですし、居たとしても快楽主義者や好戦的な者が多いですから。妖精同士の喧嘩なんて止めるどころかたのしんで見物するか、自分も参加するような者ばかりですよ。 そんな高位の者達の中でフレイアロウ姉妹だけが、他の妖精の喧嘩の仲裁をする貴重な存在だったのです。 その二人が喧嘩なんて・・・収拾がつかないですよ」


 なるほど。だからさっきラクネは、風と水の妖精の喧嘩なんて誰も得しないと言ってたのか。

 ・・・ちょっと考える。

 うん、覚悟は決まった。


風音「よし、予行練習第二ラウンド行きます!!」


 仕方ない。これは自分のせいだ。

 せっかくだ。死ぬ間際に考えていた事をどの程度覚えているのか実験しよう。

 巻き戻る事は実験済みなんだから、ビビる必要は無い。

 どうせ時間が戻るんだから、その辺にある物を適当に毒で崩壊させ力を補充する。

 そして手刀に力を込めた所で。


ラクネ「あ、もしかしてやり直しの条件を満たそうとしていますか? なら必要無いです。私が居ますから、強制的に発動出来ます。今の事態が起こる直前に戻りますので、そうならないように回避方法だけ考えておいてください」


 そう言われて、手刀に込めた力を解いて風音が必死に今の状況を頭に叩き込む。

 ・挑戦可能回数が九回に増えたがすでに二回失敗したので、あとやり直しのチャンスは七回になった。

 ・ユニルには他の妖精と契約する話題を振ってはいけない。今回やり直す原因になったのはこれ。取り返しのつかない戦争が妖精の星で起こる。

 ・いつの間にか咲桜は寝てたけど、寝る時背中をポンポンされると喜ぶので、出来ればやってあげる。


 あとは・・・あとは・・・。

 どれだけ覚えてるかの実験なんだから、もっとたくさん覚えた方が良いのか?

 いや、考え過ぎて一部しか引き継がなかったらそれはそれで問題か。

 この三点に絞って、特に先の二つを重点的に頭に思い浮かべておく。


ラクネ「ではいきます」







ユニル「シエロがどうかしてるのなんて、今にして始まった事じゃないでしょ。創業以来ずっと安心と信頼の腐敗組織じゃないですか」


 風音が目をぱちくりとさせる。


ユニル「・・・? どうかしました?」


風音「いや別に」


 抱っこしている咲桜の背中をポンポンと叩く。

 角度的に咲桜の顔は見えないが、嬉しいのか胸に顔を擦りつけてきた。

 可愛いなぁ。

 ・・・うん、三つとも覚えている。特にユニルに対しての失言の辺りは詳細に。

 やはりそこを重点的に考えていたからだろう。

 それでも一部ぼやけているので、もっと覚えておくのは無理そうか。


 対応を変えてみる。


風音「安心と信頼の腐敗組織って表現は、なかなか諷刺ふうしの効いた表現だなと思って」


ユニル「私クラスにもなれば、皮肉も超一流です」


 ユニルが胸を張って応える。


風音「それは自慢して良い事なのかな」


 二人で笑う。

 うん、この対応で良かったのか。


風音「じゃ取り敢えず依頼は受けとくね。三日後に出発って事で。そろそろ僕は朝ご飯を食べて来るかな」


 咲桜を抱っこしたまま立ち上がる。

 多分この子はもうすぐ寝るので、先に部屋に連れて行っておいてあげよう。

 寝ないようなら一緒にご飯食べに行ってもいいし。


ユニル「私はもうちょっと依頼文の詳細を読んでおきますね。さっきちゃんと全部読んでなかったので」


風音「お、気合十分だね。本番も頼りにしてるよ」


ユニル「ええ、任せて下さい」


 風音が艦長室のドアから廊下に出て、思わずしゃがみ込む。


風音(あ~~~~・・・。何やってんだ本当に・・・。せっかくの能力を出発前に二回も使う? 有り得ないな・・・。特に一回目なんて何があったのかもよく分からないし・・・その時の自分に聞きたいわ・・・本当に戻る必要あったのかよ・・・)


 突然座り込んだので、抱っこされていた咲桜が不思議そうな表情で風音の顔を見上げる。


風音「あ~ごめんごめん、何でもないよ」


 取り敢えず頭を撫でてあげた。


 そしてこの三日後出発する訳だが、何故かニーギに行く為の小型船に咲桜が忍び込んでいた。

 そしてニーギ到着の直前にひょっこり出て来たのだ。

 風音とユニル、二人してめちゃくちゃビックリした。


 今まで仕事で宇宙に出る事はあったが、何故今回に限って忍び込んでまで付いて来ようと思ったのか・・・それがよく分からなかった。



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