表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カノン  作者: しき
第4.5話
35/206

賭け事っぽい茶番3


ルミナ「セバスティアン。貴方あなたいくらびっくりしたからって、私に向かって怒鳴るのは失礼。減給」


 しかし減給のペースが速い。このセバスティアンという人物が実在したなら、給料日までに給料マイナスになってそうだ。

 ちょっと芝居を忘れかけていた風音が、少し落ち着いてから続ける。


風音「いやだってお嬢様。普通ここまで説明を聞いたら、それで勝負するものでしょう? それに最初、ホワイトさんがゲームを提案する事を承諾しょうだくしたじゃないですか」


ルミナ「だから提案を聞いたでしょうが。提案なんだから、聞いたあとで承諾するか拒否するかを決めても良いでしょ別に。 逆に聞くけど貴方は、提案されたゲームがほぼ負け確定のかたよったものだったとしてもその勝負を受けるの? 拒否する権利を放棄するの?」


風音「負け確定のゲーム・・・とは例えば?」


ルミナ「チンチロリンをやりましょうって誘って来て、相手だけ456の目しか無いサイコロを持っているとか」


風音「そんなもの秒で見抜けますから、逆に勝負を受けてイカサマを指摘して勝ちますが」


 カノンの乗組員なら全員知っている事だが、風音は動体視力が桁外けたはずれに良い。

 チンチロリンなど、おわんの中で転がっている最中のサイコロの目を全て正確に目で追える。敵が持つサイコロの目が456しか無かったら、敵がサイコロを振った瞬間に笑ってしまうかもしれない。


 でもルミナにまた後頭部を叩かれる。


ルミナ「揚げ足を取らないで。例えば提案された勝負が、それくらい必敗確定な不利な勝負な気がしたら?」


風音「事前に嫌な予感がしたり不利な事に気付いたら、という前提ですか? それは・・・断りますね」


ルミナ「それでも貴方が好きなギャンブル漫画の主人公なら受けるのでしょうね。相手が必勝法を使ってくる可能性がある事を承知の上で、それでも正面から叩き潰す。 ・・・のが作り話のセオリーなんだけど、実際はそんな事が簡単に出来るわけがないよね?」


風音「だから断ると?」


ルミナ「ええ。今のを聞いてて、いくつかルールに穴がある事が分かったしね。 まぁ要は・・・考えるのが面倒臭いから断ろうかなって」


風音「アホみたいな理由ですね」


ルミナ「はぁ? はい減給。貴方次ふざけた事を言ったら、今月の給料は全額白ネギに換算して支払う事にするわよ」


風音「何故よりによって日持ちしないものに・・・」


 二人の会話を聞きながら微笑しているホワイトが、会話に割って入る。


ホワイト「やってみると簡単だと思いますが」


ルミナ「あ~~~、そうかもしれないけどね。だまし合いが面倒」


風音「それが醍醐味だいごみでしょうに。それに私もルールを聞いてましたが、ルールに穴なんてありましたか? 普通に勝負が成立しそうですけれども」


 風音からも突っ込まれる。


ルミナ「現時点で気付いたのだけでも3つあるけど。 じゃあ簡単な穴を一つ言ってあげましょうか? あの5回好きな質問が出来るってルール。あれよく聞いてた? 答えたくない質問には答えたくないと拒否する事が出来る。その代わり、質問した側は質問回数が減らない。 それって言い換えれば、答えられない質問なら何度でも聞けるって事でしょ?」


風音「それの何が駄目なのですか?」


ルミナ「そもそも仮に色の好みなんかを本戦で尋ねたとして、本人しか知らない事なのに、嘘を吐いたか本当の事を言ったのかをどうやって確認するの?  仮に私が本当のカードを出したとして、好きな色を聞かれたとするわね? ルールに従うならカードに合わせて本当の答えを言わなければならない。でも私なら「黒」と嘘を答える。 嘘を見抜くのが得意なホワイトさんは、おそらくそれを嘘と見抜いてダウト宣言をするでしょうね。 当然ダウト宣言は失敗に終わる。 そしてそれ以降は何を言われても、私は黒が好きだと言い張るわ」


風音「ずるいですね・・・」


 そんな事をしたら成立しないじゃないか・・・と呆れた表情。


ルミナ「ずるいずるくないの話をしてるんじゃないの。これはゲームよ? 正直者同士でないと成立しないルールってのがそもそも破綻はたんしてるの。プレイヤーがどんな思想であれゲームを成立させるものを、ルールと呼ぶの。 重要なのは、こんな曖昧あいまいなルールをどう有効に利用しようとしているのか。 簡単な話よ。人によって答えが変わる質問ではなく、誰しもが嘘か本当かが分かる質問をする。それによって、急に質問される事に慣れていない者をおとしいれる。 例えば・・・セバスティアンが嘘のカードを出したとしましょう。そこで私が尋ねる。「貴方は今カジノにいますか?」。貴方はどう答えるの?」


 突然の問いに少し考える。


風音(え・・・? そりゃ・・・答えられないな。答えたらカードが嘘なのがバレるから)


風音「答えられません」


ルミナ「今ほんの一瞬考える間があったでしょう? この質問に答えていいのかどうか。 相手の嘘を見破る事に長けている人っていうのは、そういう仕草や目線や表情から真意を読み取るの。 今貴方は既に弱みを見せてしまったのよ。なのに、敵の質問の回数は減らない。 じゃあこの質問ならどうかな?「あなたが今出したカードは嘘ですか?」 どう答える?」


風音「答えられません」


 これは考えなくても分かる。出したカードの内容は答えたくないので、答えなくていいだろう。

 さっき考えている時間が弱みだと言われたので、すぐに答える。


 ペシッ。

 もはやお馴染み。風音がルミナに後頭部を叩かれる。


ルミナ「「いいえ」と答える事が可能なのよ。出したカードが本当なら答えは「いいえ」になるし、カードが嘘でも答えは「いいえ」になるから。 答えが同じでしょう? なら答えによってカードの真贋しんがんがバレる訳では無い。だから「答えられる」質問って事になるの。 さて重要なのはここから。もう一つルールがあったのを覚えてる? 答えたくない質問には答えなくてもよい、しかし答えられる質問には答えないといけない」


風音「あー、ありましたね。答えられる質問に答えなかった場合は、罰としてこちらの質問の機会が一つ失われるとかなんとか。確かに相手の質問回数は減らないまま、こっちだけ質問が4つに減らされるのは不利になりますね」


 そういう事か、と風音が納得しかけたが。


ルミナ「・・・と思うでしょう? 実の所、質問回数が4つに減るのは大した怪我じゃないの。何故なら、ホワイトさんはこのルールに慣れているから。 こちらがどんな質問をしたとしても、おそらくホワイトさんが場に出したカードの真贋は見抜けない。一方で、ホワイトさんは質問によってこちらのカードの真贋を見分ける可能性が高い。 5つの質問は一見いっけん運だけの勝負ではなくす為の、互いに読み合い探り合う事を目的として設けられた要素に見える。でも実際は全然違う。 こちらからすれば最初から無くても良いくらいなの。このルールは」


 風音にいくつが疑問が出る。


風音「二つ疑問があります。 では何が問題なのですか? 減らされても問題無いという考えなら、自分の質問の権利が無くなるまで「答えられない」と言い続ければいいでしょう? その時点で相手も質問をする意義が無くなり、互いに武器を失ってゲームとして面白くなくなる代わりに、フェアな状態になります。だったらクレームを付ける意味が・・・。というのが一つ」


 ホワイトが物珍しそうに風音の方をジッと見ている。

 敵であるはずなのに、やたらかばってくれているのが面白いのだろう。


ルミナ「その答えは簡単。「罰として質問の権利を一つ失う」 このルールに関して細かい言及げんきゅうが無かったの。 つまりホワイトさんの意向次第で、5つの質問の方ではなく「一度だけ相手がこれまで何回嘘を吐いたのかを質問出来る権利」の方を失う可能性がある。これはゲーム序盤で使えば、運が良ければ先制ポイントを稼ぎつつ、相手の初期ターンでの嘘を失効させる事が出来る。中盤以降で使えばどれだけどちらがリードしているのかの近況が分かり、攻め方を模索もさく出来る。例えばその時点で自分が大量リードしていれば、安全策に走るとかね。 終盤で使えば、運にもよるけど大きく負けていても逆転すら可能になる。 分かる? この権利を失うと勝ちが大きく遠のくの」


風音「・・・。 そこまで分かっているなら、お嬢様なら失わずに武器として利用出来る気もしますが」


 ルミナが首を横に振る。

 そんな甘い相手ではないという事だろう。


ルミナ「もう一つの疑問は?」


風音「基本的にお嬢様のおっしゃりたい事は分かりますよ? ギャンブルにおいて相手の真意を見抜くのは必要な才能であって、ホワイトさんはそれにけている。という事ですよね? 敵が己の持つ優れた能力を利用した勝負を仕掛けて来た。だからずるい、イカサマだ・・・などそのような事を言っていたら、どんな勝負も出来ないのでは?」


ルミナ「二つ目の疑問は答える価値も無いわね。互いの元々優れている才能なんて関係無い、フェアな勝負なら出来るわ」


 そう言って、このフロアの入り口を指で差す。


ルミナ「もう単純に、次にあの入り口から入ってくる人の性別当てとかでいいんじゃない?」


風音「まだそれ諦めてなかったんですね・・・運ゲーは嫌なのではなかったのですか?」


ルミナ「馬鹿言わないで。 性別当ては運ゲーじゃないわ」


 ここまで静観せいかんしていたホワイトが、風音の方を見ながら言う。


ホワイト「先程から私の方を庇って頂いて、有難う御座いますセバスティアンさん。 でもナミさんの意見も正しいと思います。ここは客同士が勝負のルールを提案して勝負を楽しむ場です。まずはお互いやりたい事を提案し、どちらのゲームをやるか決めるという方がフェアです。ではこういうのはどうでしょう? 今説明したゲームを、屁理屈へりくつのようなルールの穴を突くなど面倒な事はお互いしないと約束し、ワンゲームやります。そして私が勝てばこのゲームを続けましょう。ナミさんが勝てば性別当てゲームをします。引き分けた場合は・・・どうしましょうね。運ゲーの要素が強くなってしまいますが、ポーカーでもしますか」


 ルミナが少し考える。

 それでもこちらの不利な勝負ではあるが、まぁいい。


ルミナ「ええ、それならいいわよ。最後に言いかけてたジョーカーがどうのってのは無しって事でいいのかしら?」


ホワイト「はい。それはもし私がこの勝負に勝てれば、その時改めて説明します。この勝負ではジョーカーは無しで、シンプルに行きましょう」


 ホワイトがディーラーを呼び、カードを配らせる。

 一見このゲームは二人だけで出来るようで、スムーズに進行したければ第三者が要る。


ルミナ「先攻はどう決めるの?」


ホワイト「どちらが有利という事も無いので、お好きにどうぞ」


ルミナ「じゃあ私が先行で。1」


 と言ってキング(13)を伏せて出す。

 横で見ていた風音が感心する。


風音(ギャンブル得意な人って、こういう事が平然と出来るんだもんな・・・。でも相手が今何回嘘を吐いてるか確認出来る権利があるんだっけ? 今確認されたら早速相手にプラス3だな)


 ホワイトがルミナをジッと見ているが、そのまま続けて出す。


ホワイト「2」


ルミナ「3」


ホワイト「4」


ルミナ「5」


 さらに続けてカードを出したルミナに、ホワイトが尋ねる。


ホワイト「2ターン目のタイミングで私が何回嘘を吐いているのか、確認しなくても良かったのですか?」


ルミナ「別にいいわ。それより相手にものを尋ねるチャンスは5回しか無いのに、そんなどうでもいい質問でいいの?」


ホワイト「あ、いえ。ルール上の質問じゃなく、単に興味だったのですが。 先程経験値がものを言う5回の質問は、こちらが有利ではないかとの指摘がありました。 ですからフェアにどちらかのゲームを決めようという趣旨しゅしのこの勝負では、私はその権利を使うつもりが無かったですから」


 自分から武器を封じると言うのなら、少しくらい会話に応じてやるべきか。

 ルミナが面倒臭そうに答える。


ルミナ「貴方がダウト宣言をしなかったから、こっちも様子見でいいかなと思っただけよ。おそらく私の1枚目が嘘だと思っていたでしょう? 私が1枚目を出した時、私を見る振りをしてセバスティアンも見ていたから。この子また、私でも分かるくらい動揺どうようしてたわ」


風音「いやいや」


 なにを言っているのか。全く表情には出さなかったつもりだ。


ルミナ「セバスティアンの動揺すら演技かもしれない。と読んだのかしら。 あるいは演技が自然過ぎる。と思ったのかしら。 ダウトの可能性が圧倒的に高いと思うが、宣言するには確証が無い。と考えたのかしら。 だとしてもまだ序盤で先は長い、ダウト宣言をするのに躊躇ためらう必要の無い状況だった。このゲームが得意なら尚更なおさらね。 どうしてやらなかったの? 答えたくないなら別にいいけど」


 ホワイトは笑顔のまま答える。


ホワイト「確かにセバスティアンさんは、目に見えて動揺していました」


風音「馬鹿な」


ホワイト「そんな彼女の動揺に対して、ナミさんに全く変化が無かったからです。連れが相手にヒントを与える様な行動を取れば、普通プレイヤーも動揺しますから」


 彼女の動揺、というのは風音の動揺の事を指しているのだろうが・・・。


風音「・・・念の為これ以降は、お嬢様の手を見ないでおきましょう。 それとひとつ、ホワイトさん。さっきから私を見ながら彼女の動揺がどうこうって仰ってますが・・・私は男です。次に私を女性扱いしたら、自転車でき倒しますよ」


 それを聞いて、今までずっと冷静だったホワイトが目を細める。


ホワイト「・・・あ、失礼しました。男性でしたか。 えっ? 男性? ・・・あぁ。 そうですか。失礼しました」


風音「ちょっと自転車持って来て下さい」


 横にいたディーラーに頼む。

 普通に断られた。


ホワイト「6」


 7、8、9,10、11、12、13と、何事も無く順調に進んでいく。


風音(はぁ・・・緊張するなぁ。 淡々たんたんと進んでいくというか、こんなに動きが無いものなのか)


 最初の方こそ多少会話があったが、6が出てから13までは1分も経っていない。

 見ている風音の方が緊張しているが、勝負している者同士はお互い平然としている。

 ルミナは表情を悟らせたくないのか、あるいは無心になる為なのか、ホワイトやカードではなく飲み物を提供しているカウンターの方や別の卓の様子をぼんやりと見ている。


風音(よく考えたらこれはゲームを決める為の前哨戦ぜんしょうせん。だから手の内を見せない為に動きを少なくしてるのかな? でもルミナはともかくホワイトさんは勝ちにいかないと、そんな消極的なやり方で負けちゃうと自分の得意なゲームで勝負出来なくなるのに・・・)


 13まで出たという事は、勝負の折り返し地点だ。そろそろお互い何回くらい嘘を吐いているのか確認しなくてもいいのだろうか?

 確認した結果この段階で差がついていたら、無理をしてでもここから巻き返さなければならない。

 風音がそう思っていた矢先。


ホワイト「そろそろ確認しておかなくてもいいのですか? 1」


ルミナ「別にいいわ。2」


 そこからは特に会話も無く、お互い表情を読むような時間を取る訳でなく。

 3、4、5、6、7、8、9、10、11。 また淡々と進む。

 やはり手の内を明かさない戦いをしているようだ。ルミナはともかく、ホワイトが動かないのが風音には理解出来なかったが。

 もう終盤。お互い1枚ずつしかカードを持っていない状態なのに、動きが無さ過ぎだ。


ルミナ「はいこれで最後。12」


 最後のカードを伏せて出した。


ホワイト「結局最後のターンまでお互い確認しませんでしたね。一応ここで確認しておきましょうか。今の所、嘘は何枚でしょうか?」


ルミナ「12枚」


ホワイト「えっ!?]


 演技か本当か定かではないが、ホワイトが驚いている。


ホワイト「12!? 本当に? ・・・いや、嘘はルール違反ですもんね。嘘ではない、か。しかし何故・・・」


 本当に? と言った瞬間ディーラーがカードを確認しようかという動きを見せたが、別にいいと言う様にホワイトが止めた。


風音「ほぼ嘘じゃないですかお嬢様」


ルミナ「まぁね。最後の最後で面倒な駆け引きをしたくなかったから、最後のクイーンだけ本当。試しにダウトしてみる?」


 ホワイトがルミナをジッと見る。


ホワイト「いえ、止めときます。その言葉は嘘ではなさそうな気がします。 では13・・・で、私の負けですね」


 そう言って伏せてあったカードを全部裏向ける。

 もしお互いほとんど嘘が無ければ、ある程度綺麗にそろっているはずだが・・・見事にぐっちゃぐちゃだ。

 ホワイトは全部嘘のカードを出していたらしい。


 これに風音が驚く。

 ルミナはともかく、ホワイトは正面から見ていたのだ。

 嘘っぽく感じた瞬間がほとんどなかったのに。

 風音は生まれ持った優れた観察眼から、他人の嘘を見抜くのは得意だと自負していた。

 だが今回は負けだ。

 やはり訓練している者の嘘は見破れない。


 ここは素直に感心して声を上げる。


風音「凄いですね!? ホワイトさんは全部嘘じゃないですか。あれ? じゃあホワイトさんの方が嘘の数が多い?」


ホワイト「そうなりますね。でもナミさんが最後に確認の権利を使います。私が全部嘘でしたと答えます。ダウトを宣告され、負け。という流れになりますね」


風音「ああ、確かに」


ルミナ「私はまだ確認の権利を行使するとは言ってないわ。使えば勝ち、使わなければ負け。ホワイトさん、勝敗はあなたが勝手に決めて。もうどちらでも良くなったから」


風音(・・・・・・・・?)


 ちょっとルミナの話に付いていけない。


風音「どういう事ですか?」


 ルミナに向かって尋ねる。


ルミナ「もう演技は終わりって事です。風音さん」


 本名で呼ばれたので、演技をやめる。


風音「なんで? まだ1円も・・・じゃなかった、1クインも勝ってないのに」


 当初の予定では、勝負をしてお金を取り戻すはずだったのでは?


ホワイト「やはり演技でしたか」


 ホワイトはこちらの人物設定が演技だと、薄々気付いていたようだ。

 疑問符を浮かべている風音に、ルミナが説明する。


ルミナ「実はここに来る前にジルさんと言ってたんですが、状況によっては正面切って戦う必要すら無くなるんです」


 ルミナがホワイトの方を向く。


ルミナ「あなた、ミデュンの人よね?」


ホワイト「厳密に言うなら違いますが、聞きたい事は分かります。ミデュン出身の方と同じと思って頂いて結構です。・・・そしてここで会話は終了ですね」


 いつの間にか、後ろに座っていた仲間の三人が立ち上がってこちらに銃を向けている。

 後ろのやつらはこちらの会話を聞いていたようだ。突然ミデュンという言葉が出て来たので、こちらを捜査官だと思っているのだろう。ジルの依頼で来ているので、あながち間違いでもない。

 彼らの銃の矛先ほこさきは風音やルミナだけではない。ホワイトもだ。


ホワイト「治安組織にバレているなら逃げるなんて不可能でしょう。今更口封じなんて意味が無いのに・・・」


 背後の状況が分かっているのか、あきらめたような力のない笑みを風音に向けながら話しかける。


ホワイト「つまらない事に巻き込んで申し訳ありませんでした」


 さっきから風音は考え込んでいる。


風音「・・・・・・・・あ~だめだ。僕だけ全然話に付いて行けてない。 あとで聞かせてもらうよ、ホワイトさん」


 座ったまま卓に上半身を乗り出してホワイトの胸ぐらを掴み、自分の背後にぶん投げる。


ホワイト「うわっ!」


 急に視界が一回転し、混乱しながら風音の背後に着地する。


風音「僕の背後に隠れるような形でしゃがんで! ルミナはこっち」


 隣に座っていたルミナの肩を掴んで引き寄せる。


ルミナ「キャーーーーー♡」


 ビビっている振りをしながら、ここぞとばかりに風音に抱きつく。

 風音の前方をおおうように紫色の瘴気しょうきが発生する。

 風音の技、物質を崩壊させる毒だ。


 風音が動いたので銃を構えていた三人が立て続けに発砲するが、毒に触れた弾が全て霧の様に四散しさんする。

 三人は何が起こっているのか理解出来ていない様子だ。


 この毒は生物には効かないので、今すぐ撃つのをやめて殴り掛かってくる方がまだ善戦ぜんせん出来るのだが、当然そんな事は知らないので、そのまま混乱しながら撃ち続けるしか出来ないようだ。


風音「あの距離ならギリいけるな。ユニィ!」


ユニル「はぁい」


 風音の顔の横辺りに、手の平サイズの風の妖精ユニルが出現する。


ユニル「やっと解禁ですね~。隠れてるのにも飽きて来てたとこですよ~。あとルミナ調子に乗るな、早く離れろ」


 風の王ユニル・フレイアロウ。ウェーブのかかった薄赤色のショートヘアに、赤い目。そして常に空中に浮いており、髪や衣服が風になびくように動いている。

 そんな彼女が、風音に抱きついているルミナにメンチを切りながらの登場。


 そんな状態でも阿吽あうんの呼吸で行動する二人。

 風音の指示が出るまでもなくユニルが三人のあごの辺りに、圧縮された小さくて高速回転している大気の塊、風音達が風の壁と呼んでいる物を発生させる。

 ユニルの技の一つ。壁の様に触れる事も出来る風だ。

 今回は契約している風音の拳の動きに合わせて動くようにしてある。


 風音がフックを打つような形で拳をふるうと、風の壁が風音の強烈なフックと同じ威力で三人の顎にまともに当たり、三人の首がガクンと揺れる。

 そのまま同時に崩れ落ちた。


 仲良く気絶して後ろのソファに倒れた三人に向かって言っておく。


風音「感謝してほしいくらいだよ。もしルミナが少しでも傷ついてたら、あんたら地獄を見るくらいじゃ済まなかったから」


 ジルにどんな目に合わされるか。一瞬で皆殺しにされるならまだ良い方だ。

 と言うか、現時点で結構やばい。奴らがルミナに銃を向けたという事実は変わらない。

 ジルが後で暴走しなければいいが。


風音「ホワイトさん終わったよ。席に着いて説明お願い」


 周囲を同時に見ながら言う。

 不思議なくらいカジノ側の人が来ない。銃の発砲があったのに。

 むしろ他の客達の方がざわついている。


 ホワイトが他の客に向かって叫ぶ。


ホワイト「驚かせてすみませんでした! ステージの練習に熱が入ってしまいました! 見ての通り銃には弾が入っていませんでしたし、ご安心下さい!」


 そう言って頭を下げると、方々から少し怒号どごうは飛んだものの、しばらくして落ち着いてくれた。


 落ち着いた辺りで、ホワイトが元居た席に着く。


ホワイト「なんで私が尻拭しりぬぐいを・・・カジノの人達使えないですね・・・」


 まずは愚痴ぐちる。


ホワイト「風音さん・・・ってルミナさん? が呼んでましたっけ。名前合ってます?」


風音「合ってますよ。僕が風音でこっちがルミナ。こっちの妖精がユニル」


 一応紹介しておく。

 ルミナはまだ抱き付いて、ぐりぐりと顔を風音の胸に押し付けている。

 ユニルがそのルミナの襟首を捕まえて、引き剥がそうとしている。


風音「怖かった? ごめんね」


ルミナ「はい、怖かったです・・・」


 いきなり銃で撃たれて不安だった気持ちは分かるので、ルミナの頭を撫でながら優しく語りかける。


風音「そろそろ離れても大丈夫だよ。今の状況の説明お願い」


ルミナ「あ、・・・はい」


 ようやく離れて自分の席に戻る。


ユニル「わざとらしい・・・。お前が今ので怖がるわけないでしょうが・・・いつか沈めてやる・・・」


 ルミナを睨みつけてぶちぶち言っている。


ホワイト「まさか妖精持ちとは。しかもかなり位の高い・・・。怖いですね」


 ユニルがそれに反発する。


ユニル「怖い? こんなに可愛いのに? ねぇ、風音さん?」


風音「うん、可愛いと思う」


 ユニルがルミナの方を見て勝ち誇ったように胸を張る。

 そしてわざわざ耳元まで行って耳打ちする。


ユニル「可愛いってさ」


ルミナ「その可愛いは子犬を見た時の可愛いと同じ。ノーカウント」


ユニル「せいぜい負け惜しみを言ってなさい。その可愛いすら言って貰えない雑兵ぞうひょうが」


ルミナ「さっき言われたわよ」


ユニル「あれは演技中の一幕でしょうが。あれを現実だと思ってたの~? うっわかっわいそ~」


ルミナ「あの時は素でしたー」


ユニル「はいはい負け犬は向こう向いて吠えててね~」


 途中まで小声だったが、段々ヒートアップしてきた。


風音「あの、出て来ていきなり喧嘩するのやめて?」


 風音がユニルを引き寄せる。


風音「で? どういう状況? 本当にもう終わっちゃった? これから頭脳戦が始まると思って期待してたのに、結局さっきのゲームの追加ルールも謎のままだし」


ホワイト「ジョーカーの件ですか? あれは少し特殊なトランプを使いますし、ルールが複雑になります。勝負無しなら、もういいんじゃないですか?」


風音「えー、ちょっと気になる。せめて特殊なトランプって何かだけでも教えて?」


 ホワイトが今の勝負で使っていたカードを卓に広げる。


ホワイト「さっきの勝負はこの普通のカードでやりました。普通のトランプは上下が存在しないカード、いわゆる絵札などの上下対象のカードも多いですよね? でもトランプによってはね、全てのカードに上下が存在するタイプのものがあります。 ジョーカーのルールはこの上下が存在するカードを使います。カードが配られた時に手札の向きを揃えてから、一枚だけ上下を反転させます。そのカードをジョーカーとします」


 ホワイトが別のカードの束を卓に広げる。

 確かにカードの表側だけ全て上下非対称。カードのどちらが上でどちらが下かがはっきりしている。


風音「なるほど」


 まぁ言っている事はなんとなくは分かった。

 最初に手札のどれか一枚をジョーカーに変身させておくのか。


ルミナ「やらなくて良かったわ。ただただ面倒臭そう」


ホワイト「私としては、駆け引き要素が増えるのは楽しいんですが」


風音「ま、ちょっとスッキリしたところで。 で? なんでもう勝負無しになったの?」


 ルミナの方に説明をうながす。


ルミナ「風音さんはミデュンの正確な発音を知ってますか?」


風音「あ~、確かジルが言ってたよ。 デュン、の部分が言葉じゃなく音に近いって。僕等じゃ発音しにくいんだってね」


ルミナ「はい。地球で言うなら・・・気合が入ったスズメの声に近いですね」


 風音が顎に手を当て、真面目な顔になる。


風音「どういう事? 詳しく」


ルミナ「だからチュンチュンって鳴いているスズメのれの中に、たまにでっかい声で、ジュンッ!! って鳴くのがいるじゃないですか? あんな感じで、ミ・・・デュンッ!! っていう感じです」


風音「何それめっちゃ可愛い」


 ジルは本場の発音を聞いても面白くないと言っていたが、これは聞くべきだろう。


ルミナ「実は翻訳機を作り始めてから、最初に当たった壁なんですよ。・・・というか、現在も解決していない堅い壁ですね」


 ルミナが頭を抱える。

 ルミナ達は宇宙で最初に、脳波のうはを読み取る事で未知の言語にも対応した翻訳機を開発した。

 いまやそれが全宇宙で使われているので、大金持ちになったのだ。


ルミナ「口笛とか口から鳴る音とかで会話を成立させる星の人って、実は結構居るんですよ。それもそのはず、その技術はある一点において、声よりはるかに性能が高いんです。それが何だか分かりますか?」


風音「可愛さ?」


 さっきのセバスティアンというキャラのままなら、給料が白ネギに変わっている所だ。


ルミナ「・・・ええまぁ、そうなのかもしれないですけど。それより最大の利点は、声よりも遥かに遠くまで届く事です」


風音「へぇ・・・」


ルミナ「私達の翻訳機は、そういった民族が出す音を翻訳する事は出来るんです。要は脳波を受け取って言葉に変換するのですから、口笛なら問題ありません。問題は・・・」


 ホワイトの方を見る。ホワイトが苦笑している。大体何を言いたいのかが分かるのだろう。


ルミナ「たま~にあるんです。口や自分の身体から出る音以外の、あらゆる音で会話を成立させる事が出来る星が。その中でも一番有名なのがミデュンッ!! なんですけどその・・・」


風音「いやもう別に、普通にミデュンって言ってくれてもいいよ?」


 気になったので一応言っておく。


ルミナ「いえさっき可愛いって言ってたので」


風音「それでわざわざ? ありがとね」


 風音がルミナの頭を撫でる。


ルミナ「・・・・・・・・・・」


 ルミナがユニルに向かって勝ち誇った表情。


ユニル「チッ・・・・!!」


 そして妖精にあるまじき、でっかい舌打ち。


ルミナ「ともかくその、私達が作った翻訳機と相性が悪いんです。だって物から鳴る音からは脳波が読み取りにくいですから。だからそういう言語の翻訳は、翻訳機に手動で記録していく事になります・・・。その作業自体はクーラーズが喜んでやってくれたんですけど・・・」


 ちょっと悔しそうだ。

 自分達の機械の負けを認めないといけないからか。


風音(音言語を手動で記録・・・。あの人言語分野だったら何でも出来るな・・・)


 今度彼に口笛で会話するように頼んでみようか。


ルミナ「それで完成した翻訳機を起動してみると、もう悲惨だったんです。頻繁ひんぱんに関係無い周囲の音も声になって訳されるんですよ。落ち着かないし、夜道だと凄いビックリするし。だから結局翻訳機への搭載とうさいは諦めて、音翻訳機能が付いた物は販売されない事になりました。そりゃそうですよね、それが無くても別に、ミデュンの人達と声で会話は出来るんだし」


 ルミナにとっては忌々いまいましい民族達だ。

 ルミナが悔しそうな顔をしているが、本当に無念だったのはサルト(クーラーズ)の方だろう。わざわざ音言語を覚えて翻訳機に書き込んだのに、結局販売中止とか。


ルミナ「そういう星の人達は、どうやって会話を意味する音と周囲の生活音を聞き分けているのか・・・」


 これが今もぶち当たっている固い壁の事らしい。

 地球でも周囲の音が偶然声っぽく聞こえる事はある。

 それでも一瞬、んっ? 今誰か喋った? ってなるのに。それが日常的に起こるという事だ。


ホワイト「慣れとしか言いようが無いですね。私はミデュン出身ではありませんが、・・・まぁ偶然その技術は持ってましてね。だから協力者として雇われてました」


 音さえ鳴れば、どんな音でも言葉を成立させる民族が、協力者・・・。

 ここまで一人置いてけぼりだった風音が、ようやく理解した。


風音「あーー、やっと分かった。それを使ってイカサマをしてたって証拠を掴んだのか。だからもう勝負は終わり・・・あれ? でも」


 確かフェクトのカジノのルールでは勝負でイカサマが発覚したら、賭けに使われるはずだった財産を全て没収だと事前にジルから聞いていた。

 でも・・・まだホワイトさんはお金を賭けていない。さっきの試合は前哨戦。

 この状況でのイカサマから、口座のお金を没収出来るのか?

 もう少し待って、本格的にお互い口座をカジノに開示してからイカサマを指摘した方が良かったのでは?

 という疑問が。


 この疑問をルミナに尋ねた。


ルミナ「はい。だから最初はそのつもりでした。大きな金額が入った口座を開示するまで待ち、イカサマを使うまで待ちます。それをどうにか見抜いて行こうと。 そしてこちらからも二つルールを提案するつもりでした」


 そういえばルールをこちらから提案したい、と出発前に言っていた気がする。


風音「そういえば聞いてなかったっけ、どんなルール?」


ルミナ「途中で逃がさない為のルールです。 一つは基本的に掛け金はどんどん上げていく。もう一つは勝負を辞める事が出来るのは、先に口座の金額が全て尽きた方だけ。負けた方がまだ勝負出来る状態で、勝った側が勝ち逃げできない。っていうルールです」


 ホワイトが声を出して笑う。


ホワイト「それを受け入れる人は少ないでしょうね。どちらかが大損確定ですし、なんだか怖いですから。 でも私達には多くの資金があります。相手が大金持ちで賭け金がどんどん上昇し、しかもこちらはイカサマで負けない。となると、あの馬鹿三人は受けろと指示を出したでしょうね。 良い読みです、ええ」


 背後で気絶している三人をチラッと見る。


ホワイト「でも大丈夫なのですかそのルールで。確かにあの三馬鹿は馬鹿ですが、資金だけは豊潤ほうじゅんにあります。もし早めにイカサマを見抜けなければ、先にあなた達の資金が底を突く事も考えられましたよ?」


 ルミナの資金が底を突く?


風音「それは無いかな・・・。いやあなた達の資金がどんなもんか知りませんけど」


ホワイト「本当に怖い人達ですね・・・」


 高位の妖精に続いて、未知の大金持ちの組織にいどめる程の資産。

 もう苦笑しか出ない。


ルミナ「資産も無限じゃないから万が一って事もあるけど、最悪レスタを呼べば、あの子の口座も使えるしまず大丈夫でしょう」


風音「呼ぶって・・・椅子に縛り付けてるんじゃなかったっけ?」


 最初そんな事を言ってた様な。


ルミナ「ああ~、そういえばそうでしたね。もう、肝心かんじんな時に役に立たないんだからあの子」


風音(自分でやっといて・・・)


 これが姉というものの力か。


ルミナ「まぁレスタはともかく。 大きく賭けた時はイカサマを使ってくるって聞いてましたから、勝負を重ねるほど掛け金がふくれ上がってイカサマを使わざるを得なくなってくるじゃないですか? しかもこっちはいくらでも勝負が出来ますから、いつか見破れば勝ちだと思ってたんですよ。 でも一つだけ、そんなのを全部無視して一発で勝負を終える事が出来る展開があるんです」


 分かりますか? という感じで風音を見る。


風音「今こういう状態になってるって事は、その条件が整ったって事? ・・・何だろ?」


 考える。

 まだお金を賭けてもいないのに、終わる事が出来る。

 つまりは普通に勝負に勝つのではなく、罰金としてお金を回収できる態勢が整ったという事だ。


 こっちの目的は、お金をテロ組織から回収する事。それは間違いない。

 テロ組織から罰金としてお金を回収出来る条件は、勝負中に現行犯でイカサマを指摘するか、あるいは過去のイカサマを立証する事。


風音「過去の賭けのイカサマを立証出来る証拠を掴んだ・・・?」


 どうやってかは知らないが、消去法で考えるならこれしか答えが無い。


ルミナ「大大大大大正解です! 一番くだらない手法でイカサマが行われてたんです。カジノ側が協力者でした。その証拠を掴んだんですよ。あとはカジノ側を締め上げるだけで終わりです。 それが分かった理由ですが、実はミデュンの人が相手って聞いて、念の為音翻訳機能をオンにしてたんです」


 先程販売中止になったと言っていたが、当然開発者のルミナ達は持っている。

 ただし勝負中は音の翻訳機能はあまり意味が無いと思っていた。

 むしろ邪魔になるかもしれない。カジノ内なんて音だらけだ。それがいちいち意味の無い声になって翻訳されるかもしれない。

 それにまさか勝負中に音で会話をしてイカサマはしないだろう。会話などせずともわずかな動作など、自分達だけが分かる暗号だけでやり取りすればいいだけだ。

 それでもその機能をオンにした理由は、どちらかと言えば勝負中ではなくインターバル。

 長丁場ながちょうばになれば、勝負以外の時間に何らかの指示が出るかもしれない。その会話の中でイカサマを示唆しさする会話が出て、それを録音出来る確率はそれなりに高いはずだ。

 ・・・しかし想像していたよりも、かなり早い段階でその時が来た。


ルミナ「そしたら、勝負の中盤辺りで「なぜ指示に従わない?」ってはっきり聞こえたんです。あのカウンターから。グラスを移動させる時の音を使って」


 ルミナがお酒を提供しているカウンターの方を見る。

 風音もそちらを見ると、こちらと目が合った瞬間、店員が目を逸らした。


ルミナ「そしてターンをしばらく進めると、周囲の卓のディーラー達の手元と足元からも」


 風音がなんとなく周囲を見る。


風音「凄いね。どんな音でも会話って、物がぶつかる音とか指をこする音とか足音とか、ほんとに何でもいけるんだ」


 風音もそれらの音が耳に入ってはいたのだろうが、当然雑音として聞き流していた。

 そしてカジノ側が協力者なら、ルミナのカードを盗み見る手段など言うまでもない。そこいら中にある監視カメラを使えばいいだけだ。

 そんな音言語の技術に感心してる風音とは真逆で、呆れ果てた表情のルミナ。


ルミナ「勝負中に暗号じゃなく普通に会話って・・・」


 百歩譲って音で会話するにしても、せめて会話を暗号化すればいいのに。

 それでもバレるのは時間の問題ではあるが。音言語の翻訳機能には、不自然な音の連続を感知すれば拾って解析出来る機能も付いているから。


 まさかインターバルではなく勝負中に証拠が掴めると思っていなかったルミナが、ホワイトに尋ねる。


ルミナ「後ろの三人といい、あなたの周囲の人達って馬鹿ばっかりなの?」


 ホワイトが吹き出して笑う。

 手元にあった表向きのカードの束からキングのカードを一枚取り出して、風音達に見せてから卓の中央に伏せて出す。


ホワイト「本当に。・・・全くその通りですね。 1」


風音「ダウト」


 風音がカードを裏返す。 1だ。


風音「うわ、凄っ」


 おそらくパーム(手の中にカードを隠す技術)を使ってのすり替えだと思うが、風音の動体視力でも不自然な瞬間が分からなかった。

 やはり手品師の技術はあなどれない。超スピードだとかそんなチャチなもんじゃねぇ・・・と思う。


ホワイト「さっきくだらない手法って仰ってましたがその通りです。暗号だって種類は百通りも無い。それを警戒している同じ相手に勝負を重ねればいつかバレますよ。 あんな手法を使うくらいなら、私の技術の方がまだバレないですね。・・・と言いたいところですけど、空気の中に隠れた妖精がいるんじゃ、そもそも全てが筒抜つつぬけ。何もかもバレバレですね」


 その意見にユニルが物申ものもうす。


ユニル「ちょっとその言い方はどうなの? それじゃ私がイカサマをしてるみたいじゃない。私の役割はあなたがイカサマを使った時だけ、こちらも遠慮なく風音さん達に協力する事よ。あなたが何もしなければ、私も何もしない予定だったわ。まるで最初から私がイカサマをする気だったみたいに言わないで」


 不満を口にしているように聞こえるが、内容は自分の有能さを語る自慢なのでユニルが胸を張る。

 それを風音がめてあげようとしたら、その前に。


ルミナ「ユニルがイキってる所申し訳ないんだけど、私がくだらない手法だと言ったのはバレやすいバレにくいって話じゃなく、やり口が古典的すぎるって事よ」


ホワイト「それも仰る通りです。本来中立側の立場の者と組むイカサマなんて、古典的も古典的。 さっきのあの三人の単細胞っぷりを見たでしょう? あれの指示です。そもそも私はイカサマすら反対でしたから。運ではなく心理の読み合いでの勝負なんて、実力で勝てます。それをあいつらは効率が悪いからと言って・・・」


 ホワイトが振り返らずに親指で、背後の倒れている三人を指す。


ユニル「こいつ・・・いつか沈めてやる」


 それはそれとして、ユニルがルミナを睨み倒している。


 風音がホワイトを見ながら手を挙げる。


風音「ちょっと質問」


ホワイト「何でしょう?」


風音「ホワイトさんは、どうしてテロリストの協力者になったんですか?」


ホワイト「外部の協力者ではなく同志ですよ。後ろの三人と思想を共にしているからです。私もテロ関係者という事になりますね」


 そういう風には見えないが、本人がそう言っているのだからそうなのだろう。

 風音が何か言おうとしたが。


ホワイト「目的の為に暴力は良くない、なんてありきたりな事は言わないで下さいね。こちらも悪政あくせいは暴力よりも多くの人を殺す、なんてありきたりな言葉で返さなくてはならなくなります。君はまだ若い。世界には君の知らない事情が沢山ある。もっと世界を見て回るべきです。物事の表面だけを見ないようにね」


風音「・・・まさかテロリストに説法せっぽうされる日が来るなんてね」


 何を言おうがテロリストはただの人殺しだ。 ・・・が、これでもまだジルに比べると風音は理解ある方だ。

 ホワイトの言うように、テロの定義は立場によって変わる。

 ホワイトが政府のやり方に難癖なんくせを付けて、政府の人間を殺したならそれはただのテロだ。

 しかし政府が民衆を平気で虐殺し、飢えさせ、戦う気力を奪い、食料も金も性も全て吸い上げる。そして吸い上げる側は際限無く肥え太り、余興と称して人民の命で遊ぶ。

 そんな政権は宇宙にいくらでもある。これに民衆代表として協力者をつのり武装して立ち上がり、非武装の政府の人間を始末した事があったとして、それは悪なのか? それをテロと呼ぶのか? という事だ。

 一般目線ではそれをテロと言わない人も居るだろう。レジスタンスという呼び名だってある。

 だがその政権やその政権の味方をする者達から見れば、そいつらはまごうことなきテロリストだ。


 要するに、各々が勝手に自分の立場で喋りよるという事。

 聞いた情報だけで判断せず、自分の頭で考えて結論を出せというホワイトの助言は理解出来る。


 一応これでも風音は数年前に色んな星を旅してきた。

 ホワイトが思うよりも、色んな目線で考える事が出来るつもりだ。

 だから最初ジルからテロと聞いた時も、一度確認した。 それは一般的なテロリストと考えていいのか、と。


 そして今実際会ってみて、自分の目で見た結論を言おう。


風音「悪いけど、世界を見て回るまでもなくあなた達はただのテロリスト、人殺しだよ。ホワイトさんだけならまだ考える余地も無くはないけど、あの三人を見た後じゃね」


 こんな所で一般人からイカサマで金を巻き上げ、バレそうになったら短絡的に銃を取り出し殺そうとする。

 たとえ悲惨な政権下で悲惨な人生を過ごしてきたとしても、同情の余地など微塵みじんも無い。


ホワイト「正しい反応だと思いますよ。彼らを見られてしまっては、私も反論出来ません。私はレジスタンスの一員のつもりですが、組織の規模が大きくなると手段を選ばない連中が一定数出てきます。 更に厄介なのは、組織上層部にこういった輩が出てくる事です。 が・・・この話はここまでにしましょう。私達の間では関係のない話です」


 こうやって雑談をしている時も、カードをいじっているホワイトの手元では不思議な現象が起こり続けている。

 めちゃくちゃに並んでいたカードが、一回ひっくり返してもう一度ひっくり返すと綺麗に揃っていたり。その次の瞬間にはカードの背面の柄が変わっていたり。


ホワイト「そうだ、ひとつお願いがあります。もう一度勝負してもらえませんか?」


 ルミナに向かって言う。


ルミナ「なんで? やる意味が無いわ」


 乗り気ではない様子。


ホワイト「実は私このままいくと、一旦捕まるでしょうが短期間で釈放されると思うんですよ。だって今の勝負ではイカサマを使いませんでしたから現行犯ではないですし、過去にイカサマを使ったって言っても、私は指示に従っただけです。 普通なら従っただけでも仲間だと解釈されそうですが、さっきの事が監視カメラの映像にバッチリ映っているでしょう? 使えないと判断されたらすぐ殺されそうになりました。あれで仲間と呼べます? どう見ても従属じゅうぞくでしょう? だから私が「殺すと脅されて代打ちをしていただけだ」と言えば、その主張は認められると思うんです。財産は没収されるでしょうがね」


風音「というかどうして今回の勝負でイカサマを使わなかったんですか?」


ホワイト「先ほど言った通りです。カジノ側との暗号や音での会話なんてイカサマは、長時間同じ相手と繰り返して勝負するのは、いつバレてしまうのかとこっちのきもが冷えます。 そこにルミナさんの提案ですよ。 性別当てでしたっけ? それならあの単細胞たちの指示でも、多少は上手く出来るでしょう? 私が言った性別の人間をそれとなく入り口に誘導するだけですから。しかもカジノ側の人間だって協力者です。何度も使える手ではないですが、スタッフが仕事の振りをして入り口を通っても良い。一定間隔で暗号をやり取りするよりよっぽど自然にやってくれるだろうと思いました」


 こんなテロ側にとって都合の良い勝負、ホワイトから提示するのは怪しすぎる。

 それが相手の口から出たのだ。乗らない手は無いだろう。

 ここは勝つつもりの演技をしつつ、負けるべきだろうと判断した。


風音「じゃあホワイトさんはルミナの提案した勝負をしたいが為に、さっきの勝負わざと負けようとしてたんだ」


 だからわざわざ質問の権利を自分から手放したりしていたのか。と今になって分かる。


ホワイト「はい。そこからが悩みましたよ。どうやって自然にわざと負けるか。でも1ターン目のルミナさんを見て方針を決めました。あの時私は、本当にカードの真贋を見抜けなかったのです。直勘では嘘だと思いましたが、それでも確信が持てなかった」


ルミナ「分かる訳無いでしょ、無心だったんだから。私だって勝敗なんかどうでも良かったんだもん。別にあなたが提案したゲームで続けても良かったし。ただこっちは金額を引き上げる為に、本戦では何度かわざと負ける事も想定してたわ。私が性別当てゲームを希望した理由は、わざと負けやすいから。負ける時に無駄な演技が必要無いから。 それともう一つ。イカサマ抜きにしても、性別当ては短時間で勝負が決まるうえ、カジノに入り浸っている人達の方が有利な勝負。もしかしたら後ろの馬鹿三人が、前哨戦はわざと負けて性別当ての方をやるように指示を出すかなと思ったのよ。その証拠が掴めれば、その時点で終われるしね」


風音「そうだったんだ・・・」


 お互いあの勝負は捨て試合だったのか。

 道理で互いに動きが無さ過ぎると思った。

 内心この子ら何やってんのかな、とか失礼な事を考えてたくらいだ。


ホワイト「無心にはかないませんね。機械と変わらないですから。 ともかく私はあの瞬間、わざと負ける事をえて気付かせる方向で負けようと思いました。だから全部嘘なんて愚策ぐさくに走ったのです。さっき私の全部嘘を風音さんは「全く気付かなかった」と褒めてましたが、冷静に考えて下さい。相手の嘘回数確認の権利が残っている状態で中盤以降も全部嘘を吐き続けるなんて、どう考えても馬鹿のする事でしょ?」


風音「あ、そうか。確かに」


 風音はあんまり深く考えていなかったが、確かにそうだ。

 実際嘘の技術は凄かった。風音ですら気付かない程だ、そこは純粋に称賛しょうさんに値する。

 しかし全部嘘では自滅してしまうルールがあった。

 敵が何ターン目に嘘を吐いたのかを、いつでも指摘し正解なら無効に出来るというやつだ。

 全部嘘なんて吐いていたら、確認された瞬間全部無効にされる。少なくともどこかで4~5回は本当のカードを出して攪乱かくらんしないと。


ホワイト「勝負が終わって、当然ルミナさんから指摘があると予想されます。どうしてわざと負けるような戦略を取ったのか、と。 もちろん私は嘘偽りなく本心でこう答えるつもりでした。 1ターン目のあなたを見て、性別当ての方がまだ勝率が高いような気がしたからだ、と」


 そういう流れを予想していたが、まさかルミナも最後直前まで嘘を吐いていたとは予想外だった。

 だからルミナの嘘が12枚と聞いた時、本当に驚いていたのだ。

 嘘を見抜くのが得意だと自負じふしていた自分が、そんな多くの嘘を見抜けなかったのも驚いたが、それよりもルミナの目的が分からなくて。

 その真意を聞こうとしたが・・・。


 その後は風音に説明するまでもなく、知っての通り。

 わざと負けようとしているホワイトの判断に、残念ながらホワイトの協力者達は気付かず、勝つように指示を出していた。

 それを無視していたホワイトに、勝負途中で「なぜ指示を聞かない?」などと確認。それがルミナに録音されてしまった。で、何もかも終わり。という流れだ。

 

風音「ふぅん・・・。お互いどっちでも良かった、なんなら負けようとしていた、ね。 で、もう一度勝負したい理由は?」


ホワイト「私このままだと釈放後、組織内の過激派に命を狙われそうで。ほら、私のせいでこいつら三人は捕まるし、かなりのお金を没収される事になるでしょ?」


風音「別にホワイトさんのせいじゃなく、そいつら自身のせいだと思うけど・・・。まぁ、そういう展開にはなるのかな・・・」


 ちょっとホワイトが可哀想か? いや自業自得なのか? と考える。


ホワイト「あなた達資産家ですよね? もし私が勝負で勝ったら、釈放後どこか安全な星に送り届けてくれないかな、と思いまして。しばらく身を隠します」


ルミナ「なんで私がそんな事しなきゃいけないのよ。大体命を狙われるって、仮にそうなったとしてもそんな所に身を置いているあんた自身のせいでしょうが」


 ルミナの方は遠慮なく突き放す。


ホワイト「そこをなんとか。挑まれた勝負に背を向けてていいのですか?」


ルミナ「いいわよ別に」


ホワイト「そうですか・・・。では仕方ありませんね。勝者には風音さんが何でも一つ言う事を聞いてくれるという、面白特典もあったのですが」


風音「え?」


 驚く風音と、風音が否定する前にホワイトにたたみ掛けるルミナ。


ルミナ「待ってホワイトさん。私とした事が忘れてたわ。実は日本にはこんな言葉があるの。背中の傷はエンジニアの恥」


風音「無いよそんな言葉」


 風音の言葉など聞き流し、ルミナが白々しいやれやれ感を出す。


ルミナ「あなたの熱意には負けたわ。受けましょうその勝負」


ホワイト(良かった。食い付いてくれた)


 先程から様子を見ていると、ルミナの方は風音を好いている節がある。

 駄目元だめもとで言ってみたが、勝負までこぎつける事が出来た。


風音「いやいや何を勝手に・・・。僕は関係無いし」


ホワイト「残念ですが風音さん。あなたがこの場に居て、私達がルールを決め、あなたが否定する前に勝負が成立しました。諦めて下さい」


風音「んな訳あるか。じゃあ早口で喋ったら人をいくらでもおとしいれる事が出来るだろ」


 いくら客同士でルールを決める賭け事の場と言っても、勝手に当人以外を巻き込むルールなんて認められないだろう。

 風音が反論するが。


ルミナ「まぁまぁ、カジノ内では喧嘩をしてはいけませんよ?」


 さっきから喧嘩ばっかりしているルミナになだめられる。

 風音が一旦深呼吸をして、落ち着いてから言う。


風音「・・・。じゃあルミナ、この勝負は辞退の方向でいこうか」


 ルミナが悔しそうな表情で首を横に振る。


ルミナ「すみません。成立してしまった勝負を、私の一存で止める事は不可能です。もう既に大きな力が働いています」


風音「あのね? 当人だから辞退出来ますよ?」


ユニル「そうよ! 黙って聞いてりゃあんた達!」


 ユニルが怒り出した。

 ようやくまともな意見を言ってくれる人が出て来た。


ユニル「私も混ぜなさいよ!!」


風音「そっちか~~~」


 風音が項垂うなだれる。


ルミナ「あんたカード持てないでしょ」


 ユニルに向かって、虫を追い払うようにシッシッと手を振る。


ユニル「風音さんがここから動かないと約束してくれたら、今だけ契約を切って元の姿に戻ります」


 ユニルは風音と契約している今でこそ手の平くらいの大きさしかないが、本来は人間と同じくらいの大きさだ。

 契約した事で風音の中の妖精のイメージが、そのまま形になって反映はんえいされてしまっている。


風音「普段僕が仕事で頼んでも切ってくれないのに、こんな事で契約切らないでよ・・・」


ユニル「こんな事、なんて軽い事じゃないです」


 風の王ユニル・フレイアロウは、元の姿に戻った時本来の力を発揮する。

 仕事では本来の姿の方が便利な事が多々あるので、風音はよくユニルに契約を切るよう頼む。

 しかし普段はほんの短い間ですら風音と契約を切る事を嫌がるので、大体断られてきた。


風音「・・・それより風の王がこんな人の多い所で姿を現したら、下手すりゃ大騒動になるよ」


 それを聞いて、ユニルが自慢気に言う。


ユニル「まぁ確かに? 本来の姿は見る者の目を奪うほどの美人だもんね」


風音「否定はしないけど、そうじゃなくて・・・」


ホワイト「そう言われると、見てみたいですね」


ユニル「でしょ?」


風音「興味持たないでホワイトさん」


 風音は止めるが、ユニルがホワイトに向かって自慢気に語り始める。


ユニル「私の星での美少女コンテストの成績を知ったら驚くわよ?」


風音「妖精の星にそんなぞくな大会が?」


 風音も初耳だ。

 興味を持つなと言ったばかりだが、それは気になる。


ホワイト「まさか万年一位とかですか?」


ユニル「いえ、一位は毎年決まってるの。美の妖精ミル・ミロンちゃん。あの子の姿は、見た者が最も美しいと感じる姿に映るのよ。その本来の姿は親友にしか見せないの。 ちなみに美の妖精ってだけあって、本来の姿も可愛いわよ」


風音「じゃあもうその子は殿堂入りって事にして、出場しなくていいんじゃないかな」


ユニル「そうなのよ。実は本人はコンテストに出たがらないんだけど、周りが許さないみたい」


風音「あ~そう・・・。なんかその子の気持ち分かるなぁ」


 自分の事なのに、周りが勝手に決めていくところとか。それに流されていく自分とか。


ユニル「そんなの一位で当然でしょ? だから参加者の間では、二位こそが真の優勝者だと言われてるの。その大会で、なんと私は・・・万年三位なのよ!」


風音「二位じゃねーのかよ」


 一応ツッコんでおく。三位でも凄いんだろうけど。


ユニル「二位はいつも妹が持っていくのよ。見た目と言うより性格じゃないかしら? みんな清楚せいそな子の方が好きなのよね。みんながみんな元気が一番っていう考え方なら、私が二位だと思うんだけど」


風音(その大会は毎回同じ顔触かおぶれで開催してんの?)


 と思ったが、確か妖精ってあんまり増えたり減ったりしないもんな。

 そして昔の事を思い出す。

 風音もユニルの妹に会った事がある。水の妖精コットリン・フレイアロウだ。


風音「あの子か。分かるなぁ。単純にもの凄い可愛らしかったもんなぁ。他の妖精さん達と違って、人間と同じ大きさでも妖精に見えるって言うか」


 初めて妖精の星に行った、その時の事を思い出す。


 妖精の星に行く前、妖精との契約に詳しい人から情報は貰っていた。

 自分と相性の良さそうな、気が合う妖精を探すのにはかなりの時間が掛かる。互いに魂レベルでかれ合う関係でないと、契約は出来ないそうだ。

 もしかすると、星の隅から隅まで歩いても見つからないかもしれない。なんて言われた。

 むしろそれならまだ運が良い方で、性格的に相性が悪い妖精に出会ってしまったが最後、まるで害虫を潰す様に殺されてしまう。とも言われた。

 そんなネガティブな情報ばかり仕入れ、緊張しながら妖精の星に降り立ち、宇宙船から降りて一歩目。

 そこで出会ったのがフレイアロウ姉妹だった。


 いきなりの邂逅かいこう

 そして一目見た時から、運命的な出会いだと悟ったのだ。

 ユニルを見た風音が。

 風音を見たユニルが。

 ・・・ついでに風音を見たコットリンも。

 その後風音がコットリンに監禁されかけたりとかいろいろあって。

 最終的にユニルと契約して帰って来た。


風音「でも清楚・・・かな? あの子誰かと契約したいって気持ちが大きすぎたのか、僕が見た時はだいぶんでたけど。 でも間違いなく可愛らしい子ではあったよ、うん」


ユニル「おらぁ!!!」


 妹の方を褒めまくっている風音のほっぺたに、ユニルがグーパンする。


風音「痛った。 ・・・そういうとこだと思うよ、万年三位の理由」


 叩かれた所をさすりながら続ける。


風音「とにかく僕が言いたかったのは、人目の多い所で出ると警報鳴らされるから無理。諦めて」


 カジノ内で警報が鳴らされるという意味ではない。

 フェクト全体の話だ。場合によっては島全体に非常警報が出る。

 感情を持った大災害が出現するからだ。


ユニル「くぅ~~~っ!!」


 悔しそうに手をブンブンと振る。


ルミナ「分かったら引っ込んでなさい。 じゃあ早速始めましょう」


ホワイト「ユニルさんの本来の姿も見てみたかったですけどね」


 言いながらカードを配る。


ルミナ「待って」


 ホワイトがカードを配る手を止める。


ホワイト「何か?」


ルミナ「このカード、本当に純正の物? 裏側から表を判別出来るタイプのイカサマカードでないという証拠は?」


 なるほど、とホワイトが頷く。


ホワイト「今回は勝ちに来ているというのは伝わりましたが、存在しない事を証明するのは難しいですね。そういう人の為に、ここではカードの販売もしていますが・・・」


ルミナ「あんたカジノと組んでたじゃない。そこで売られた物を信用しろと?」


ホワイト「・・・当然そうなりますよね。でも同じ理屈がこちらにも言えます。実は妖精がもう一人居る可能性は? 空気中に隠れられてルミナさんに協力していたら、私は何をしても勝てませんよ」


ルミナ「空気中に溶け込めるような高位の妖精が、そんなポンポン出てくる訳無いでしょ」


ホワイト「でも居ないという証明は出来ませんよね?」


ルミナ「・・・・・・・」


 二人とも言い返せなくなった。これでは進まない。


風音「あ、もしかしてこれ、勝負無しって事でいい?」


 勝った方の言う事聞くとか面倒臭そうなので、お流れの方向に話を持っていく。


ホワイト&ルミナ「駄目です」


 ・・・お流れは無いらしい。

 でもこのままでは進まんし。

 フォローするしかないか。

 風音が溜め息。なんで自分にとって面倒でしかない勝負の後押しをしなければならないのか・・・。


風音「ホワイトさん」


ホワイト「はい?」


風音「妖精はユニィしか居ません」


ホワイト「なるほど、そう来ましたか」


 風音がホワイトの前で嘘を吐くとすぐにバレる事くらい、今この場に居る全員が分かっている。

 居ないという事の証明になるだろうと思っての言葉だ。


風音「それとルミナ」


ルミナ「はい?」


風音「確かに僕はホワイトさんの嘘は見抜けないけど、カードに少しでも違和感があったら気付くよ。裏面の柄から辺の長さから厚みまで全部問題無いよ。それは純正のカードだと思う」


ルミナ「まぁ・・・風音さんがそう言うなら」


風音「あと最後に。 これ以上勝負内の駆け引き以外で文句を付けたら、その時点で勝負無し」


 二人が頷いたところで、風音がポンと手を叩いて再開を促す。

 ホワイトがカード配りを再開する。

 お互い配り終わるまで一言も発しなくなった。

 おかげでとどこおりなく再開出来たものの。


風音(くそ、駄目か。どっちか文句付けてくれたら良かったのに)


 内心勝負無しになれよ、と思っていたのに。

 しかしここで閃く。

 そうか、ルールだ。

 例えば今の言葉。「駆け引き以外に文句を付けたら勝負無し」っていう所。

 ホワイトとルミナが文句を付けたら、と指定していない。その上で二人は了承した。

 つまりユニルや風音が文句を付けても勝負無しになるのでは?

 多少強引だが、さっきルミナが言っていたルールの穴とはつまり、こういう事だろう。

 簡単じゃないか。こういう事か、客同士でルールを決める賭け事って。


風音「あ~~、ちょっと良いかな? その・・・品の無いトランプの配り方に苛立いらだちを覚・・・」


ホワイト「ちょっと黙っていてくださいね」


ルミナ「外野が口を出すのは無粋ぶすいですよ、風音さん」


風音「あ、ごめんなさい」


 風音が恥ずかしそうにちょっと縮こまる。


ユニル「だからそういうの向いてないんですって、風音さんは」


 何をやりたかったかを察していたユニルが、慰めるように風音の頭を撫でる。


 二人がカードを手に取り、勝負出来る状態が整った。


ホワイト「さてどちらが先行にしましょうか。さっきと同じで、ルミナさんが先で行きますか?」


ルミナ「いえその手には乗らないわ。私が後で」


ホワイト「別にどっちが有利とか無いですけどね。では私からで。 1」


 カードを1枚伏せて出す。


ルミナ「待ちなさい。ここで確認するわ。あなた今何枚嘘を吐いているのかしら?」


ホワイト「ゼロですけど。使うの早いですね。使うにしてもせめて次のターンでは?」


 ホワイトの発言など無視して、ルミナが疑惑の表情を向ける。


ルミナ「ゼロを信じていいのかしら? 本当は嘘なのに、辻褄つじつまを合わせる為にあとでイカサマですり替える可能性もあるでしょ」


ホワイト「ずいぶん本気ですね。確かに可能です。私が2ターン目にカードを出す時に、1枚目をすり替えるという事ですよね? はい、やろうと思えば出来ます。 ではどう確認しましょうか」


 ディーラーに確認してもらったところで、そもそもカジノの人間を信用していないルミナには意味が無い。風音に見てもらうのが早いがそれよりも。


ホワイト「幸いまだ場に1枚しか出ていないですから、表を向けて確認して頂いても良いですよ。何枚か場に出ていたら確認不可能でしたが、今なら構いません」


 これが一番確実な証明だ。


ルミナ「そ。まぁいいわ。そこまで言うなら本当でしょ」


 と、ルミナが次に出すカードに手をやる。


ルミナ「・・・なんてねぇ!! 私にブラフは通じないわ!」


 すかさず手を伸ばして場に出ているカードをひっくり返す。

 1。


ルミナ「チッ・・・」


 渋々カードを裏返す。

 ここまでをぼんやりとした表情で見ていたユニルが呟く。


ユニル「何でしょうねぇ、この見苦しさ。というか余裕の無さ?」


風音「読み合いでの勝負なんだから、本来このくらい動きがあるもんじゃないの? むしろさっきの勝負がお互い動きが無さ過ぎたんだよ、多分」


 両者とも勝負を捨てていたのだとしても、1戦目もちょっとくらい動きがあっても良かったのに。


ルミナ「じゃあ・・・2」


ホワイト&風音(あ、これ嘘だ)


 ルミナの表情を見て察する。

 風音もさっきの事があってから、ホワイトにヒントを与えないようにルミナのカードは見ていなかったが、それでも横目でルミナの表情を見ててそう思った。

 ホワイトが顎に手を当てて考える。


ホワイト(いや、本当に嘘か? 誘っている? でなければ分かり易すぎる)


 誘いの技術は1戦目でホワイトも使っていた。

 わざと違和感を出す。しかしよく観察しないと分からないくらい微妙に。

 結果的に一度も反応してくれなかったが。


ホワイト「ダウト」


 ・・・で行く。自分の勘を信じた。

 まだ先は長い。もし外れても挽回ばんかいすればいいという判断。


ルミナ「はいはい正解。一回当てたくらいで調子に乗らないでよね」


 という感じでゲームが進んでいって・・・。


 怒涛どとうの勢いでルミナが負けた。


ルミナ「ああもうクソゲー!! これクソゲーだわ!!!」


 ルミナがお怒りだ。


ユニル「雪崩なだれのような勢いで負けましたね」


風音「もうこれホワイトさんの完全試合って言っていいのかな」


 嘘は全部バレるわ、嘘は見抜けないわ。散々でした。

 ユニルがルミナの肩まで飛んで行って、ポンポンと肩を叩く。


ユニル「ざまぁ~~~~」


ルミナ「黙れ虫が」


 ルミナがユニルを払いのける。ユニルはそれすらあざ笑い、ニコニコしながら風音の元に帰る。


ホワイト「では約束通り釈放次第、どこか遠くの星に送ってもらう手配を進めておいてもらいましょうか」


ルミナ「どこでもいいよね、未開の辺境惑星でいい?」


ホワイト「死ねと? 住みやすい星が良いですね」


ルミナ「わがまま言ってんじゃないわよ」


 ルミナがそっぽを向く。


ホワイト「それともう一つ。勝者には風音さんに一つお願いが出来るんでしたね」


風音「聞けるものと聞けないものがある、という事だけ言っとくけどね」


ホワイト「すぐ終わります。目をつぶってジッとしておいてもらうだけで」


風音「?」


 言われるまま目を閉じて静止する。

 ホワイトが手元にあったカクテルに入っていた、サクランボのようなフルーツを2つ備え付けの串で差して取る。


 それを2つとも風音の唇に押し付けた。


風音(ん? この香り・・・飲み物に入っていた果物かな? 食べろって事?)


 風音は見た事の無かったフルーツなので、異星の果物だろうと思う。

 口を開けて食べようとしたら。


ホワイト「ああ、食べないで下さい。ジッとしておいてもらえると助かります」


 再び口を閉じる。

 また押し付けられ、しばらく十数秒間にわたってそのまま静止。

 しばらくして唇から離す。


風音「もういいの? まだ?」


 ちょっと唇がカクテルで濡れたので、ペロッと舐めてみる。

 アルコール度数は低いのか、アルコール的な味は無くジュースみたいな味だった。


ホワイト「もう少しです。そしてこれは、こうしましょう」


 ルミナとユニルの口に押し付ける。


ルミナ&ユニル「・・・!!?」


ホワイト「風音さん、今の果物を食べて頂きますので、口を開けて下さい」


風音「何? 何? なんか怖い。儀式的な空気がする」


 段々目を瞑っているのが怖くなってきた風音。

 でも言われた通り口を開ける。


ホワイト「正解です。これはおまじないです。これをしておけば、住みやすい星に行けるような気がして」


風音「そんな事の為に・・・」


 他人の体を介した、幸運を呼ぶおまじないか。

 地球にも無くはない。そして確かに相手の許可が必要だ。

 しかしこんな事の為にわざわざ、勝利報酬に風音へのお願いの権利を入れるとは・・・。

 さすが自分の思想を貫くテロリストなだけの事はある。


 ホワイトが風音の口にフルーツを放り込む。

 そのまま食べる風音。


風音「うん? 何これ? ・・・ん? ・・・~~~!! ・・・カッ!!」


 いややはりアルコール度数は高かったようだ。さっき舐めた時は量が少なかっただけか。

 お酒に慣れていない風音が、フルーツに付いた酒のアルコールにむせている。

 なんとかフルーツを飲み込んだ。


風音「・・・こんなのよく飲めるな。 慣れればいけるのかな? フルーツ自体は美味しかったけど」


 一応感想を言っておいてから、尋ねる。


風音「で、何がしたかったんです?」


ホワイト「私の家に代々伝わる秘伝のおまじないですよ。私の不運を適当な食べ物に封じ込め、相手に押し付けおまじないをした後、相手に消化させます。不幸は相手に移り、おのずと私には幸運だけが残ります」


風音「いやいや勝手に何やってくれてんの? でもたかがおまじないですよね?」


ホワイト「おまじないも馬鹿に出来ませんよ? 特に女性はおまじないが好きですし、ルミナさんとユニルさんなら分かってくれるかもしれません。 あ、もう目を開けて大丈夫ですよ」


 風音が目を開ける。

 視界が開けたのでなんとなく周囲を見ると、ルミナは顔面が真っ赤になっている。そしてユニルはなんかヘラヘラしている。


風音「?」


ルミナ「負けた事は事実だしね。どこでも好きな星を言えばいいわ」


 消え入りそうな声で言うルミナと、それとは正反対に。


ユニル「約束は守らないとね。それで釈放後に殺されたりしたらカノンの沽券こけんに係わるから、釈放されて宇宙港から出発するまでの間なら、私が警護するわ」


 テンションが高いのかグルグル飛び回りながら言っている。


ホワイト「お、早速効果が出ましたよ」


風音(なんだこの変わり様。 その分の不幸を背負ったと解釈していいのかな? 嫌だなそれ)


 とっとと逃げれば良かった。


風音「まぁいいや。いい加減ジルに連絡しよう」


 普通テロリストの三人が気絶した時点で、カジノの警備員が来てもおかしくないはずだ。

 しかし今もカジノ内はおとなしいものだ。

 カジノ側としてはこの件に変に関わる事で、周囲にカジノがイカサマに加担していた事がバレると思っているのか。

 だから気付いていながら放置している。かあるいはどうしていいのか分からないのか。

 ・・・だとしても普通は何か対応しないと、放置している方が不自然だろうに。

 ホワイトが事態の収拾をしないカジノ側に向かって、「使えない」と言っていたのも頷ける。


 風音がジルに電話を掛ける。

 電話に出たジルに、最初から事細かに説明する。


風音「・・・っていう流れで、カジノ側の加担が分かったんだって。ちゃんと録音もしてあるみたいだから転送するよ。あとその時の対戦相手はイカサマを使わなかったみたい。だから現行犯逮捕は無理かな。録音内容と勝負内容を照らし合わせると、逆にイカサマを使用しなかった証明になってしまうと思う。でも一応テロに雇われてたのは事実みたいだから、その人もシャロンに連れて行って」


 ジルが電話の向こうで頬を緩ませる。


ジル「了解です。いやぁ聞く限りですと、ほぼルミナさんの手柄ですね。さすがです」


風音「あとで本人に言ってあげて」


 そう言って携帯を切ろうとしたが、思い出したように言う。


風音「あ、待った。何人か人を連れて来て」


ジル「元々複数で行くつもりでしたが、何か理由でも?」


風音「さっき話した対戦相手以外の三人ね。こっちを攻撃しようとしたから気絶させてあるんだ。あれを運ばないといけないから」


ジル「攻撃・・・? 誰を・・・攻撃しようとしたのですか?」


 ジルの声色が変わる。


風音「あーーー、僕だよ」


 面倒くさそうなので、そう言っておく。


ジル「そうですか、災難でしたね」


 声色が戻った。これはこれでちょっと腹立つ。


 電話を切ると同時に、とっととこの場を離れようと立ち上がる。

 全部喋ったし録音内容の転送も終えた。事情聴取に立ち会う必要も無いだろう。

 騒々しくなる前に帰ろう。


 ルミナに帰るように促したが、何か考え事を始めたようで、両手で顔を覆ったまま完全に自分の世界に入っている。

 付き合いが長いので分かる。これは当分帰ってこないやつだ。

 仕方ないので背負って帰った。




 カノン艦長室。


 カジノの一件の翌朝。

 風音の方から今回の件でジルに聞きたいことがあったので、ジルに連絡を取ってみた。


ジル「あのナツュ・アイゼンという男。どう見てもクロなのですが」


 パソコンに映っているジルが言う。

 ナツュ・アイゼンとはホワイトの事だ。確かアイゼンが本名だと言っていたが、本当だったのか。


風音「だろうね。テロ組織に資金提供していたのは事実だと思う。でも証拠が無いし、イカサマも指示されて従ってたっていうのが画像で残ってるからね」


ジル「みたいですね。素性がバレた瞬間、後ろの三人に殺されそうになっているシーンがあるとか? その画像、何故か私に見せてくれないんですよ。別にいいですけど」


 そりゃそうだろう。風音からレイ長官に、出来ればジルにだけは見せるなと伝えてある。

 あんなもの見せたら、テロリスト三人がルミナに銃口を向けていたのがバレる。

 そうなればジルは、どんな手を使ってでもあの三人を殺しに行くだろう。別にいいけど後味が悪い。


風音「イカサマを使うまで泳がせて、現行犯逮捕のほうが良かった?」


ジル「欲を言えばそうですけど。ルミナさんが関わった勝負ですよね? ならどんな結果も受け入れますよ」


風音「そっか、じゃあ本題に入るね。今回の報酬の件ですが」


ジル「はい?」


 ジルが不思議そうな顔。


風音「はい? じゃなしに」


ジル「あの、今回は大損したサルトさんを助けるという話でしたよね?」


風音「だから?」


ジル「カノンの人達がカノンの人を助ける。我々はそれが出来る情報を教えてあげたっていう事ですよね?」


風音「つまり?」


ジル「シャロンからの依頼ではないので、報酬は出ないですよ?」


風音「なるほど、ね」


 しばらく下を向いて考え、ふと顔を上げる。


風音「ジル」


ジル「はい?」


風音「いい奴だったよ」


ジル「亡き者にしないで下さいよ」


風音「何か現世でやり残したことがあれば、今日中に終わらせておいてください。明日お迎えに上がります」


ジル「怖い冗談はやめて下さいよ」


 ジルが笑いながら返す。


風音「冗談じゃ・・・なかったのか。 それがジルの最期の言葉でした・・・とさ」


 風音は真顔だ。


ジル「えーーーー、と。じゃあこういうのはどうでしょうか? 予定通り、サルトさんにお金を返したのですが」


 結局カジノがイカサマに加担していた事が分かったので、カジノ側からもお金が返金された。

 中にはホワイトが実力で勝った者も多かったのだろうが、それがどの人か判断出来ないので、イカサマ関係無しに、あのテロ組織関係者と勝負をした全ての人が返金対象となった。


ジル「最終的には受け取ってもらえたものの、要らないと言い張ってました」


風音「へぇ・・・」


 彼の性格ならそうだろうな、とは思う。


ジル「ですのでそれが報酬という事でどうですか? 要らないなら、カノンの借金返済にててもらうとか。風音さん達が取り戻したお金ですし、あれだけ拒否したんですから交渉の余地ありだと思います」


風音「うん・・・」


 考える。

 確かにあの人はプライドが高い。

 おそらくイカサマではなく、普通に心理戦で負けたのだろう。相手があのホワイトならそれも仕方がない。

 それに気付いているから、返金を受け取るのが屈辱なのだろう。

 本気で受け取りたくなかった筈だ。

 それを借金返済に・・・か。


風音「いいねそれ。誰も損しないな」


 ジルがホッと胸をなでおろす。


 ジルとの通信を切り、そのままパソコンでサルトの部屋に繋げる。


サルト「なんだ?」


 パソコンのモニターにサルトが映る。いつものように面倒臭そうな表情。

 伊達眼鏡だてめがねのお兄さんだ。風音よりはひと回り年上だが、風音の方が上司です。

 なのにこの塩対応。

 こちらを見ながら仕事を同時進行しているのか、手は動いている。

 仕事中に内線を掛けると大体こんな感じだ。


風音「仕事中にごめん。借金返済関連の話だから最優先で」


サルト「おう、それなら」


 サルトが手を止める。

 風音と同じく、彼も借金関連を最優先で動いてくれる。


サルト「で、なんか俺に仕事か?」


風音「仕事自体はもう終わったんだけど・・・」


 今回の仕事内容を説明する。


サルト「あー、それであの金返って来たのか。要らねぇってのに」


 サルトが愚痴る。


風音「そこでですよサルトさん。それを借金返済に充てて欲しいんです」


 どうしてそういう話になっているのか、さっきのジルとの話を説明する。


サルト「そうだな。受け取んのも嫌だったし、良いんじゃないか? なんかお前この間もタダ働きさせられてたもんな」


風音「おお、話が早い」


サルト「じゃああの二十万を借金返済用の口座に振り込んどけばいいんだな?」


風音「おぁん?」


 予想もしないサルトの発言に、思わず変な声が出た。


サルト「なんだ? 音飛びか? なんて言った今?」


風音「いやサルトさん、二十万て何?」


サルト「返ってきた金だろが」


 何言ってんだお前、という表情をしている。


風音「大負けしたとか言ってなかったっけ?」


サルト「二十万クインったら十分大負けだろが」


 理解不能の表情をしているサルト。しかし理解不能なのは風音の方だ。


風音「うん確かに。でもサルトさん大金持ちですやんか? なんでそんな一般的な金銭感覚で喋ってんの?」


サルト「駄目なのかよ」


風音「駄目っていうか・・・。ルミナなんて最初、賭け事に使うお金は二兆って言ったんだけど」


サルト「あいつ馬鹿じゃねぇの!? マジで誰か注意しろよ、放っといたらやばいぞアレ」


風音「そんなルミナが「大負けした」って言ったとしたらそれは、千兆円くらい負けた時だと思うんだよ」


サルト「冗談抜きでそうかもな」


 千兆負けても、一時間後には「まぁいいか」と言ってそうで怖い。


風音「そういうのサルトさんに期待してた」


サルト「俺お前からルミナ並みの馬鹿だと思われてたのか?」


 サルトにとっては心外この上ない評価だ。


風音「だってジルも言ってたし! サルトさんが出てった後、テロ組織が電話で大金稼いだみたいな事言ってたって!」


サルト「だからそいつらは一人から大量にむしり取るんじゃなく、コツコツ数万くらいの勝負を繰り返してたんだろ。たまたま俺から二十万取ったくらいのタイミングで、その日の稼ぎを本部に電話しただけだわ。おそらくな」


風音「なんっじゃそれ! ガセネタ掴ませやがって!」


 シャロンに抗議の電話を入れてやろうか。


サルト「なんなら俺が今回の勝負で200兆円賭けてたって事にして、全部返済に充てるか?」


 そうすれば一気に借金が無くなる。


風音「それはいらないけど・・・」


 そこは迷わず答える。

 画面の向こうでサルトは笑っているが、それでいて哀れなものを見る目をしている。


サルト「お前のそういうとこ嫌いじゃねぇけど、ちょっとは正道から外れた行動を取らんと、前に進めん事もあるぞ?」


 風音が顔をしかめる。


風音「分かるけど、それだと金額が事実に反しすぎてるから、単に借金を押し付けた形になるしさぁ・・・。 あ、そうか!」


 名案が出た。


風音「サルトさんさぁ、ちょっと今から明らかにイカサマしそうな怪しい奴相手に、200兆円賭けて負けて来てくれない? で、僕が同じ要領で取り返してくるわ。それを借金に充てるなら、納得して受け取れる」


サルト「やだよ。 つかそんな額で乗ってくる相手なんかいるかよ」


 呆れた様子。

 ・・・そりゃまぁ風音も冗談で言ったのだが。


風音「あーーー、もうっ!!」


 机に突っ伏す。

 なんか最近こんな事ばかりな気がする。

 運が良くないのだろうか。

 ・・・・運。と言えば。


風音「そういやなんか、他人の幸運の代わりに僕が不幸を受け取るっていうおまじないを受けたな」


 小さく呟いただけだが、サルトが聞いていたようで。


サルト「お前大丈夫かそれ? 地球のまじないはほとんど気休めみたいなもんばっかだが、他星よそのは本物があるから気を付けろよ。ここじゃあ可愛くおまじないなんて言い方してるが、他星のやつは文字通り、のろいだ」


風音「あーー、じゃああれのせいかな。相手が望んだ幸運が大した事じゃなかったから、こっちの不幸も大した事無いと思ってたんだけど」


 呪いというものは大体、願った事を叶える為にそれ相応の代償を払うものだ。

 仮にホワイトから受けた呪いが本物だとしてだ。

 彼が無事テロ組織から逃げる事と、200兆の借金が大幅に減ると思ってたら全然減らなかった事を天秤てんびんに掛けてみる。


風音「・・・明らかにこっちの方が不幸でかくない?」


 あっちは命が掛かってるかも知らんが、冷静に考えるとあんなおまじないは無くてもよかっただろ。

 あの時ルミナは口ではああ言ってたが、安易にホワイトを酷い星に送り出す様な事はしなかっただろうし。

 そう考えるとこっちが実害をくらっただけな気がする。


サルト「もし本物の呪いだってんなら、ポジティブに考えろよ。お前の不幸の方がでかかったんだろ? だったら不幸は終わったって事だ」


風音「むぅ・・・」


 納得いかない。平等でない気がする。


風音「そいや、結局負けなかったから分からなかったんだけど。ルミナが言ってた、もし負けても最悪ちゃぶ台返しをすればいいっていうの、あれどういう意味だったんだろう?」


サルト「そりゃお前、あいつの負けって言ったら、あいつの資産を全部奪われる事だろ?」


風音「そうだね」


 何兆とかいう額じゃない。何京というレベルだ。


サルト「そんな金がテロ組織に渡ったとしたら、凄まじい力を持つ事になる。お前とルミナ二人のせいで、一体何億って人間が死ぬ事になるのか・・・。と、なったとしてだ。 お前どうする?」


 風音が考える。


風音「・・・お金はルール通り払う。 けど多分責任を感じて治安組織と協力して、そのテロ撲滅を借金返済より優先する・・・かな」


サルト「それをそのまま、お前らの金を奪った相手の前で言うんだよ。お前の相方を見せた状態でな」


風音「相方? ユニィの事?」


サルト「そう。風の王を敵に回したら、いくらお金を持ってても紙きれだからな。大気中にいる限り、いつ建物ごと全身をじ切られて殺されてもおかしくない。ユニルがミデュンに出向いて、本気になりゃ数日でテロ壊滅だ」


風音「そりゃ無理だよ。僕と契約してる間はそんな大掛かりな事出来ない。本来の姿に戻ったら出来るかもしれないけど、大量虐殺みたいな事させたくないし」


 サルトが呆れて、でかい溜息を吐く。


サルト「んな事ぁ分かってるわアホ。 お前がどう考えてようが妖精を見せられた相手にすりゃ、自分を含め同志全員に対する死刑宣告なんだよ」


風音「うん・・・・」


 確かに。ただでさえユニルは敵に向かって大口を叩く傾向にあるし。ビビるだろうなとは思う。


サルト「そんな奴相手から金が取れるか? 俺なら謝ってでも勝負そのものを無かった事にしてもらう。なんなら要求があるなら飲んだっていい。二度とユニルがミデュンのテロとは関わらないって条件でな」


風音「それがちゃぶ台返しか。だったら最初から勝負する必要が無い気も・・・」


サルト「だ・か・ら。お前に気をつかってだろうが。さっき言ったばっかだろ、正道せいどうこだわるなって。俺やルミナだけなら、最初からユニルと組んで脅してただろうよ。でもお前が嫌がるだろそういうやり方を。相手が明らかな悪だと分かってりゃやるだろうが、事情を知らない内は慎重に動くだろお前は」


風音「・・・・・・・」


 何も言い返せない。

 最初にテロと聞いた時も、どの立場からテロと呼ばれているのかと気にしていたくらいだ。

 なにせ、過去に自分がテロリストと呼ばれた事がある。あの時も自分は自分の正義を貫いたつもりだ。

 どうすれば本当の正解だったのかなんて、今でも分からん。


 悩んでいる様子で考え込む風音の姿を見て、サルトがフォローする。


サルト「勘違いすんなよ、それが駄目だって言ってる訳じゃねぇよ。ルミナや俺が取る行動が正しいとも言わん。それがお前の生き方ってんなら貫け。中途半端で自分の考えを持たねー奴よりゃ遥かに良いわ」


 風音が考えるのをやめ、コーヒーを一口飲む。

 カップを置いて数秒の間を空けてから、しみじみと言う。


風音「・・・なんて言うか、まだ若いのにしっかりしてるね、ルミナにしてもサルトさんにしても」


 真剣に言う風音に、サルトが笑う。


サルト「しっかりしてる? 冗談だろ? 俺ら大金持ちのはずなのに、借金抱えた奴と一緒に毎日死ぬほど働いて借金返済手伝ってんだけど。これがしっかりした奴が下す判断かね?」


風音「いやぁ馬鹿が下す判断だと思うね」


 笑いながらそう言って、画面に映っているサルトの顔面を指で弾いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ