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カノン  作者: しき
第4.5話
34/206

賭け事っぽい茶番2


風音「ふぅ・・・」


 ようやく一息ついた。


 カジノの客全員に高価な酒をおごったので、しばらくカジノ全体が盛り上がっていた。

 やはり三億も費用が掛かるだけあり、ひとつの大きなイベントのような扱い。

 場内アナウンスがあり、奢ったルミナに照明が当たり、店内の音楽が変わり・・・などなど。

 そして特にこのフロアが盛り上がっていた最大の原因は、ルミナが調子に乗って椅子の上で立って全員に手を振りまくっていたからだ。

 天使のような笑顔で「感謝しなさい愚民共」とか言っていたのが、なんか妙にウケてた。


風音「やっと落ち着いてきましたね」


ルミナ「そうね」


 二人でカウンターの席について一息つく。

 二人の前にはフルーツジュースが置かれている。

 風音は二十歳になったのでお酒でも良かったはずなのだが、店側が何も聞かずに勝手にジュースにしたようだ。

 多分見た目が若いから。


風音「せっかくだから高級なお酒を飲んでみたかったです・・・」


 執事の演技中だが、この言葉は素でもある。

 さっき聞いたが、ボトル一本で大体二百万クインくらいする果実酒らしい。

 地球には存在しない、宇宙でも美味しいと有名な果実酒だとか。

 いや飲ませてくれよ。

 今目の前に置かれてあるこれ。高級フルーツジュースったって、これ五万もしないだろう。

 一口飲んでみる。

 ・・・いや美味しいけどさ。

 何の為にカジノに入る時に身分証明書を提示したのか・・・。


ルミナ「セバスティアンはお酒飲めたんだっけ?」


風音「飲んだ事は無いです。でも一度酔っぱらってみたいです。 泣いたり怒ったりうるさくなったり静かになったり脱ぎ出したり・・・なんだか面白そうじゃないですか?」


 自分の隠された人格や性癖をさらけ出す・・・ハズレしか出ないガチャを引く感じ。


ルミナ「見てる分には面白いだろうけど、ここで脱がれても面倒だわ。 帰ってから浴びるほど飲みなさい。見ててあげるから」


風音「・・・遠慮しておきます」


ユミ「お酒を飲む時は、最初はほどほどにしておいた方が良いわよ」


 隣で聞いていたユミが、酒をあおりながら言う。


風音「そうですね。自室で誰か信用出来る人と飲みます」


 脱いでしまった時の事も考えて、男性乗組員で。サルト辺りを誘ってみるか。


 さて、そろそろ落ち着いてきたか? 風音が周囲を見回す。


風音「ではそろそろお嬢様も勝負なさいますか?」


ルミナ「そうね。と言っても、こちらから声を掛けるのもね。さっきの事があったから相手が委縮いしゅくしそうだし。誰か挑んで来ないかしら」


 ちょっと白々しいが、ギリギリテロ集団がいる辺りに聞こえるくらいの声量で喋る。

 彼らは目立つのを嫌うだろう。しかし同時に稼ぎやすいカモを見つけると、誰かに取られる前に行動を起こす様な連中である事も確かだ。

 正直彼らが声を掛けてくる可能性は・・・五分五分・・・より少し低いか。微妙なところだ。

 やはりさっきのイベントは、ユミさんがやった事にしてほしかった。


 しばらくルミナも周囲を目だけで見渡してみるが、特に誰からも声が掛からない。

 ルミナが小声で話しかける。


ルミナ「やっぱり目立ち過ぎたのかな、全然来ないですね」


 同じく周囲に聞こえないように、風音が小声で答える。


風音「まださっきの熱が冷めてないのもあるかな。 そりゃ驚くよ、三億もするイベントを開いたのがこんな可愛らしい子供だからね。まだこっちを遠目で見てる人も居るし。まぁあと五分もすりゃ、元の状態に戻ると思うけど。そうなってから、あいつらが声を掛けてきてくれるかどうかだね」


ルミナ「そんな・・・。褒めてもお金しか出ないですよ・・・♡」


 可愛いと言われてルミナが頬を赤くする。

 そのままルミナが財布から謎の銀色のカードを取り出して風音に渡したが、なんか怖いのでそのままルミナに返す。


風音「沈静化ちんせいかしてからちょっと待ってみて、それでも無理なら今日は止めとこうか。元々この件はサルトさんが原因だから、別の日にサルトさんに任せてもいいし」


 あれだけ目立ってしまったのだ。こっちから声を掛けるという選択肢は、警戒されそうなので無しにする。


風音「でもサルトさん一人だと不安だな・・・。僕らがもう一回来るのは不自然だから、ブラウニーにでも一緒に来てもらおっか」


ルミナ(ブラウニー・・・)


 ルミナの表情が曇る。

 また出たよその名が。

 風音は普段から、やけにブラウニーを信頼している節がある。

 ルミナ視点では自分とブラウニーを比較した時、負けている要素など何一つないのだが。

 やはりあの間抜けっぷりが、風音的にポイント高いのだろうか。


ルミナ(はぁ・・・。ああいうのを愛されキャラっていうのかしら?  ある意味でとても頭が良いのねあの女は。 あの計算し尽くされた馬鹿な行動の数々が、風音さんの信頼を勝ち取っているという事ね。本当に厄介・・・。 多分歌が下手くそなのも計算。何も無い所でこけてるのも計算。誰も聞いてないのに必死でこけた言い訳をしているのも計算。肩をグルグル回して脱臼だっきゅうしたのも計算。指の骨を・・・キリが無いわ。 いま思いついたそばから列挙れっきょしてみたけど、いちいち小賢しさが神懸かみがかってるわ。 ただ・・・それのどこが魅力なのかしら)


 ズゴゴゴゴッとストローの音が鳴る。

 考え事をしていたら、いつの間にかジュースが無くなっていた。

 ルミナがストローから口を放す。

 隣では風音がジュースを飲みながらぼんやりしている。ルミナが急に長考に入るのはいつもの事だ。慣れた様子で待っている。


ルミナ「え~~と。 それよりさっきの風音さんの意見に賛成です。もう少しして無理なら早々に諦めるのもアリですね。クーラーズ達に丸投げしましょう。 でもクーラーズが賭け事ねぇ・・・腐れ縁で付き合いだけは長いですけど、あんまり賭け事をしてる印象が無いですね。 失敗して更にお金取られそうだけど、ジルさんならクーラーズが失敗しても怒らないだろうし、別にいいのかな」


風音「いやぁ・・・。出来れば失敗してほしくないなぁ。テロの資金が増えるって事だし。 そうか・・・そう考えるとブラウニーでは不安になって来た。ワグナさんか癒々(ゆゆ)さんにするか」


 それを聞いて、ルミナが楽しそうにふふん、と鼻で笑う。


風音「どうしたん?」


ルミナ「いえ、頼りない人だなって」


風音「あぁブラウニーが? うん、あの人はちょっとね。頭のネジが緩いって言うかね。アレ・・・うんアレだから。 でも私生活では一番頼りになるんだよ、買い物とか」


 ブラウニーはあれで、カノンでも屈指くっしの常識人だ。


ルミナ「買い物くらい私でも出来ますけど」


 ルミナのほっぺたがぷくっと膨れる。


風音「今カノンに必要な消耗品の種類と数が分かる?」


 ルミナがしばらく考える。

 

ルミナ「・・・まず千丸とクーラーズの顔を見なくて済むようにする為のベニヤ板が五十枚」


風音「良いねそれ。喧嘩が減りそう」


 分からなかったのか、冗談で返して来たルミナに付き合ってあげる。

 ・・・とまぁ時間潰しの雑談はここまでにして。そろそろ落ち着いたか。


風音「ともあれ、あと十分くらい経っても無理ならもういいかな」


ルミナ「・・・ですね」


 今後の方針をそう決めてから、ユミと雑談したりジュースなど飲みながら時間を潰す。

 七分ほど経った頃。


 「すみません、勝負をして貰っても構いませんか? 先程相手を探していらっしゃったようですので」


風音&ルミナ(来た・・・!)


 まさにお目当てだった四人組の内の一人が声を掛けて来た。

 ルミナが振り返る。

 スーツ姿の青年。いや壮年か。

 一般的に明るい表情の方が若く見えるものだ。今は笑顔で話しかけてきているのでかなり若くも見えるが、先程座って仲間と会話していた時は三十代後半くらいに見えた。

 ウェーブの掛かった短めの茶髪に、微かな香水の香り。

 そしてどう見ても作り笑顔・・・なのだが、まぁそれが普通か。

 知らない人に話しかける時の笑顔が、心からの笑顔である人の方が少ないだろうし。


 つまりごくごく普通の対応をする好青年、という印象。

 この人がテロリスト関係者と聞けば、「そうなのか?」と思ってしまうような。

 四人組の中では、最もまともに見える人物だ。

 逆に残りの三人はどう見ても野蛮やばんで、テロ組織と言われても「あぁやっぱりな」と思うような風貌ふうぼうだ。


 瞬時に観察を終え、ルミナが応える。


ルミナ「ええ、もちろん。・・・お名前は?」


 「アイリッシュ・ホワイトリカーです。長いのでホワイトでもリカーでもアイリでも、好きに呼んで下さい」


風音「ではホワイトさんと呼ばせていただきます。私はセバスティアン。こちらはナミ様ですが、お嬢様の事はさっきの大々的な紹介でご存知ですよね。 ところで、ホワイトさんはお酒が好きなのですか?」


 偽名にしても適当過ぎる。

 アイリッシュはアイルランドの~という意味で、ホワイトリカーは焼酎しょうちゅうの一種。


ホワイト「ええ。地球のお酒ではアイリッシュウイスキーと、あと焼酎全般が好きですのでこの名前にしました。実はこれ、偽名じゃなく地球での通名つうめいなんですよ」


 通名とは、本名ではないが法的に効果のある名前の事だ。他の国や星に行った時に名乗る事が多い。


風音「え、そうなのですか? 通名って、あまりふざけたものは許可されないのでは?」


ホワイト「私の本名であるアイゼンが、私の星ではお酒の種類を指す名前でしたので。本名に則していれば、意味がある名前として許可が下ります」


風音「は~~。そうなんですね」


 じゃあもうアイゼンて名乗れや、とも思う。


ホワイト「ではあちらの卓に」


 少し離れたテーブルに案内される。

 仲間の三人組が座っているソファの近くのテーブルだ。

 ホワイトが仲間の三人を背にするような形で椅子に座る。

 ルミナと風音の二人も、ホワイトに向かい合うように座る。


ホワイト「さて勝負の内容ですが、こちらが提案させて貰ってもよろしいでしょうか?」


ルミナ「どうぞ」


ホワイト「ではダウトゲームなどどうでしょうか」


 割と有名なゲームだ。互いにトランプのカードを配り、持ち札をプレイヤーが交代で出していく。

 まずカードの出し方にルールがある。1から順にキング(13)まで。それをプレイヤーがカードを伏せて交代で場に出していく。

 相手が先行なら相手がまず1を出す、そしてこちらが2、また相手が3・・・と交互に繰り返していく。そうして最初に配られた手持ちのカードが先に無くなった方が勝ち。

 カードは伏せて出すので、嘘のカードを出す事も出来る。

 例えば手持ちに2のカードが無くても、他の不必要なカードを2と言って出す事は出来る。

 それが相手にバレずにゲームが進行すればその後の展開を有利に進める事が出来るが、そこでバレて「ダウト」と言われれば、場に出ているカードを全部手札に加えないといけない。

 嘘がバレると、それだけ勝ちが遠のくという事だ。

 しかし。


風音「でもそれ、二人用のゲームではなくないですか? 二人でやると、例えば2が4枚手元にあったら相手の持ちカードに2が無いって分かりますし・・・。長引きそうですし」


 確かこのゲーム、ローカルルールにもよるが基本的に二人では成立しにくいゲームじゃなかったか。


ホワイト「ええ、ですから最初からお互いに1~13までのカードを一枚ずつ配ります。全部で26枚しか使いません。ここまではよろしいですか?」


ルミナ「ええ」


風音(・・・ん? それだとお互い一切嘘無しで完勝出来るじゃないか。先手必勝のクソゲー?)


 と疑問に思う。


ルミナ「そんな訳無いでしょう」


 ルミナが風音の後頭部をペシッと平手で叩く。


風音「お嬢様。私まだ何も喋っておりませんが・・・」


ホワイト「疑問が全部、表情に出てましたよ」


ルミナ「分かり易すぎ。更に減給されたいの?」


風音「そうですか。失礼しました、続きをお願いします」


 風音を見ながらホワイトが微笑んで続ける。


ホワイト「26枚場に出るまで続け、嘘をついてカードを出した回数分がそのままポイントとなり、ポイントが多かった方の勝利です。逆に最後まで一度も嘘を吐かなかった場合、強制的に負けとなります。 ただし、嘘を吐いた時に敵プレイヤーからダウト宣言(嘘である事を指摘)されれば、嘘がバレた側はその嘘が無かった事になりポイント無しになります。そして指摘した側にプラス3ポイント。逆にダウト失敗、つまりダウト宣言をしたが嘘のカードではなかった時は、指摘した側がマイナス2ポイント。 ゲームが終了するまでなら、相手が出した何枚目のカードが嘘だったかをあとで指摘する事も出来ます。その場合、外すとマイナス3ポイント。ただし当ててもポイントにはならずにその嘘を無効に出来るだけです」


風音「ああ、そういうゲームなんですね。じゃあダウトを指摘されても回収は無し?」


ホワイト「ええ。先程セバスティアンさんが仰った通り、カード回収のルールを入れると長引きますから」


風音「最終的にポイントが同じだったら?」


ホワイト「お互い嘘を多く吐いた方が勝負が動いて面白いので、互いが嘘を吐いた回数の差を更にポイントとして嘘が多かった方に加えます。私が2回嘘を吐き、ナミさんが6回なら集計時にナミさんに4ポイント追加です。 集計が終わり最終的に5ポイント差までなら一旦引き分けとし、この場合早いターンで嘘を吐いた側の勝利とします。終わってみると5差以内に収まる事も多いですから、早い内に嘘を出した方が安心ですね。嘘を吐いたターンが全部重なってしまった場合は、単純にポイントが多い方が勝利。ポイントも同じなら勝負自体が引き分けです」


 風音がしばらく考える。

 風音が好きなボードゲームをはじめどんなゲームでもそうだが、ルールだけ聞いてもよく分からない。

 実際一度やってみるとすんなり理解出来るのだろうが。


風音「・・・既にややこしいですね」


ホワイト「ここまでならやってみれば簡単ですよ。駆け引きがややこしくなるのはここからです。追加でルールを。お互いどのタイミングでも、一回だけ相手がその時点で何回嘘を吐いているのかを確認出来ます。その権利をどういう風に使うかはご自由に。 いちいち自分が嘘を吐いた回数を覚えてない事もありますよね。その場合はディーラーなどの第三者に確認して貰いますので、面倒なら律儀りちぎに数えてなくてもいいですよ」


風音「なんでそんな面倒なルールを組み込むんですか・・・」


 ルミナが再び風音の後頭部を叩く。


ルミナ「まぁ当然そういうルールはいくつかあって然るべきよね。普通のダウトゲームなら自分の手札やそれまでの勝負の流れから、相手のダウトをある程度予想する事が出来るわ。でもこのルールはお互い完璧な手札を持った状態から始まる・・・つまりやろうと思えばどのターンでも嘘無しで手を出せる。 これでは相手が出したカードが嘘である事を予想し辛い。 何か相手の嘘を予想出来る要素が無いと、ただの運ゲーになってしまうわ。読み合いの勝負じゃなくただの運ゲーでいいなら、ジャンケンでいいじゃない」


ホワイト「その通りです」


ルミナ「ま、この子みたいに全部表情に出る子が対戦相手だと、そんなルールすら必要無いけどね」


 風音を見ながら言う。


風音「はいはいすみませんでした。もうなにも言わないですよ。二人で続けて下さい」


 風音が今聞いたルールの有効活用法を必死で考えるが。


風音(あぁ、やっぱり僕は賭け事苦手だな。駆け引きとかが面倒だわ。多分このルールって、1ターン目で嘘を吐く事を牽制けんせいする為なんだろうな。早めに使うのがセオリーになるのかな?)


 ルールを聞く限りだと早いターンで嘘を吐く方が勝ちの可能性が高いみたいだし、じゃあほとんどのプレイヤーが初回か二ターン目で嘘を吐く事になるのか?

 それを牽制するためのルール?

 くらいしか風音は思い付かない。

 もうよく分からん。どうせ他の使い道もあるんだろうなと思う。


ホワイト「そして質問の権利の二つ目。相手がカードを出したタイミングで、五回までどんな質問でも投げかける事が出来ます。そして質問された相手はその質問に対し、その時出したカードが本当なら本当の答えを。出したカードが嘘なら嘘の答えを瞬時に言って貰います。あ、答えたくない質問なら答えられないと言って頂ければ結構です。その場合その質問は下げ、質問出来る回数は減りません。 でも何を質問しても全部答えられないと言われるとゲームが進行しません。明らかに答えても問題が無いのに答えなかった場合は、質問された側の質問の権利が一つ失われるとしましょうか。 どういう事か、試しに1ターンだけやってみましょうか。 セバスティアンさん」


 ホワイトが風音にカードを三枚配る。カードの内容はスペードの1、2、3だ。


ホワイト「仮にセバスティアンさんの先行だとしましょう。何を出します? 正直に1を出しても良いですし、早めに嘘のカードを出して勝ちに近付きたいなら、いきなり2や3を出すのもアリですよ」


風音「急に言われましても・・・」


 いつもの風音なら、まずは無難ぶなんに行動するので素直に1を出す所だが。遊びなので2を出してみる。


風音「はい、1」


 と言ってカードを伏せて2を出す。


ホワイト「はい、質問です。セバスティアンさんの一番好きな色とその理由は?」


風音「・・・黒ですね。理由は単純に格好いい色だからです。見ての通り今着ている仕事のジャケットも、黒が好きだから黒で統一しています」


 当然嘘だ。カードで嘘を吐いたから、ルール上嘘で答えないといけない。

 しかし厳密に言えばこれは全部が全部嘘でもない。実際風音は黒が嫌いではない。好きな方だ。だから今言った通り、仕事のジャケットの色が黒なのだ。

 ただ一番好きな色ではない。という事だ。


ホワイト「そうですか分かりました。そのカード、ダウトです」


風音「・・・お見事」


 カードを裏返す。2だ。


ホワイト「実践では嘘を指摘されてそれが正解だったとしても、カードを裏返す必要は無いですよ。ダウトが正解だったとだけ伝えてくれれば。これで私が3ポイントリードですね」


風音「どうして黒が嘘だと?」


 ホワイトではなく、呆れた表情のルミナが答える。


ルミナ「だからあなた分かり易すぎるのよ。咄嗟とっさに嘘を吐こうとして、一瞬ジャケットのそでを見たでしょ。何でもいいから目についた色を言おうと思ったんじゃないの? 理由も「かっちょいいから~」「今着てるから~」って、聞いてて恥ずかしかったわ」


 またまたペシリと後頭部を叩かれる。


風音「・・・さっきから私、いいとこ全然ないですね」


 風音がへこむ。

 ホワイトが軽く笑いながら尋ねる。


ホワイト「ちなみに本当にセバスティアンさんが一番好きな色は?」


風音「限りなく透明に近い青、です」


 妙な答えに、一瞬ホワイトが間を空ける。


ホワイト「・・・なんだかそれの方が嘘みたいな回答ですね。本当ですか? 良ければ理由を」


風音「昔から風に当たるのが好きだったんです。風が吹く日はいつも外に出て、特に何をするわけでもなく風に当たっていました。 そんな私のイメージの中で、風は透明に近い青なんです。だから好きなんですその色が。 何故青なのかは自分でも分かりませんが」


 ホワイトが興味深そうに頷いている。


ホワイト「面白いですね。私も風を浴びるのは好きですよ。悩んでいる時なんかは、とても癒されます。 ・・・青である理由ですが、単純に風を浴びに外に出る日は、晴れの日が多かったのでは? 雨の日に風を浴びるとびしょ濡れになってしまいます。だから風を浴びる日はいつも青空だった。青空の下で浴びる風のイメージが、白や青に近くなった・・・なんてどうでしょう?」


風音「いや私、雨の日もずぶ濡れになりながら風に当たってましたよ。そんな時は、母親がいっつもタオルを持って駆け付けて来てました。あと普通に夜風も好きですし」


 ホワイトが面白いものを見るように、風音を観察する。


ホワイト「なるほど、じゃあお手上げですね。 何というか、セバスティアンさんは本当の話をしている時の方が嘘くさくて良いですね。 ・・・あ、面白い生き様だという意味の褒め言葉ですよ? さて、私のターンですか。 じゃあセバスティアンさんのお手並み拝見ですね。 私の言葉が嘘かホントか見破れますか? ちなみに私の好きな色は・・・とその前に、2」


 ホワイトがカードを出す。


ホワイト「白です。ほら、白って清廉潔白せいれんけっぱくなイメージでしょう? 私にしっくりきます。だから好きなんです」


風音「ダウト」


ルミナ(確かに明らかに嘘だわ。だからと言ってカードが嘘とは限らないよね)


 今のホワイトの発言は勝手に喋っただけだ。その発言の内容をカードの真偽しんぎに合わせる必要が無い。

 風音は素直な性格だから、話が嘘だと思ったからカードも嘘だと思っているのだろうが。


 ホワイトが自分が今出したカードをめくる。

 1。

 嘘だったようだ。


ルミナ(あ、そう。確かに仕掛けから発言まで、全部わざとらしかったしね。小賢こざかしいやり取りは嫌いなのかしら)


ホワイト「お見事です。これでポイントが並びました。1ターンだけの勝負だったので、引き分けですね。 実践じっせんでは今の私みたいに勝手に喋った場合、あなたの質問回数は減らないですよ。 それはそうと、どうして嘘だと思いました?」


風音「カジノに入り浸り、嘘を吐くゲームを得意としている人が清廉潔白と自分で言うのは少し白々しいかな、と。百歩譲って私生活では清廉潔白でありたい、ならまだ分かりますが。 もっと言えば、こういうのが苦手な私でもダウトを指摘しやすいように、わざと嘘っぽい言い回しをしたのかな、と。 遊びなので、引き分けで終わるくらいが落としどころとしては良いと考えたのでは?」


 ホワイトがパチパチと手を叩く。


ホワイト「はい、まさか真意まで当てて頂けるとは。 興味無いかもしれませんが、セバスティアンさんも答えてくれたので私も一応答えておきます。私が本当に好きな色は青です。セバスティアンさんと違って濃い青。理由はありません、感覚的なものです。たまに好きな色を聞かれた時、好きな理由を必死で考える人がいますよね。 その行動の意味が分かりません。理由とか別に無くてもいいでしょう。好きならそれで」


風音「そうかもしれませんね」


ルミナ「・・・・・・・・・・」


 ほがらかな様子で話している二人の会話を、ルミナが無表情で聞いている。


ルミナ(どうでもいいけどこれ今の部分だけ見てると、読み合いの勝負というよりパーティーゲームね。ゲームと称して互いの事を探り合う為の・・・いわゆる合コンとかで使われる低俗なゲームに近いわ)


 ゲームを通して相手に質問とかして、相手の事を知っていく。みたいなルールのゲームだ。

 だから嫌だとかいう訳では無いが、ちょっと気になった。


ホワイト「そして最後のルールです。手札に無いジョーカーの扱いについてですが・・・」


風音(まだルールがあるのか・・・)


 これだけルールが多いと、やり慣れてる人が有利じゃないか?

 今初めてルールを聞いた人とでは差が付きそうな気がする。

 シンプルなゲーム程、経験の差が出やすいとも言うが・・・いやいや複雑なゲームはもっと差が出るのでは?

 ルミナは天才的な情報処理能力を持っているから、初見でも戦えるかもしれないが・・・。


ルミナ「その前にちょっと良いかしら?」


ホワイト「はい、何でしょう?」


風音(お、いいタイミングで揺さぶりに行ったな。相手がルールを説明している時にジャブを入れるのは、ギャンブラーの基本やでぇ)


 少なくとも風音が読んできたギャンブル漫画では大体そうだった。

 風音はそういうのが苦手だ。読み合いとか心理戦とか。


 そういう漫画でよくある「実はルールの説明段階からもう勝負が始まってたの!?」 みたいなのもに落ちない。勝負開始前に駆け引きがあっちゃ駄目だろ。

 最低でもルールは互いに正確に理解出来ていて、初めてゲームが成立するものだろう。


 ルールを作り提示した側がルールの解釈かいしゃくに駆け引き要素を持ち込み、勝手にそのゲームを有利に進めるなんて、それはタダのイカサマじゃない?


 でもそれを指摘すると、敵は決まってこう言う。ルールを聞いた上で勝負に乗ったのだから、言い訳は通用しない。と。

 でもそれってこちらが知り得る事の出来ない大事な事柄を、わざとはぶいた契約書にサインさせてから、お金を奪っていく。と同じ事じゃないか?

 いやそれ・・・一般的な詐欺さぎやん。

 と言いたいところだが、この場合ルールをちゃんと確認しなかった方が悪いという事になる。

 そういった事態にならないように。ルール説明中に確認作業をしていくつもりなのだろう。


 ルミナが一つ咳払せきばらいをしてから言う。


ルミナ「そのゲームはやめて、別のにしない?」


 ・・・・・・・・・・・・・。


風音「ウソでしょ!!?」


 風音が高速でルミナの方に振り向く。

 ホワイトよりも風音の方がびっくりした。


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