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カノン  作者: しき
第3.5話
31/157

潜入

 太平洋に存在する人工島フェクト。

 フェクトで流通している物は食品から日用品や電化製品に至るまで、地球上の他の国から輸入している物がほとんどだ。

 食料品に至っては自給率2パーセント弱程度。

 その気になれば外宇宙の技術に物を言わせて100パーセント以上の自給率を維持する事も可能だが、それはしない。

 これは競合きょうごうを避ける為であり、あくまでフェクトは宇宙への出入り口の為に存在する島という立場だからだ。


 しかし全く何も生産活動をしていない訳ではない。

 ここ工業都市レモネでは、フェクトの宇宙港周りを発展させる為の工業製品が日々生産されている。



 今にも雨が降り出しそうな曇り模様の夕刻。

 レモネには無縁そうな人物が、何かを探しながら裏路地を歩いている。

 宇宙船カノンの乗組員ゼロア。

 二メートル超はあろうかという身長。見るからに威圧感のある顔立ち。

 現在帽子を被っているが、灰がかった白色の短髪をオールバック状にしている。

 服装などにこだわりは無いようで、黒いチノパンにチェックの服という非常にシンプルなで立ち。

 彼は裏社会で有名なので、目立つのを避ける為大きな帽子を目深まぶかに被っている。

 正確な年齢は本人すら分からないが、外見から地球年齢だと二十代後半くらいか。


ゼロア(アルノイド5-4483。ここだな・・・)


 ようやく風音かざねから頼まれた場所に着いた。目の前には目的の建物がある。

 普通の箱型の建物。窓は建物上部には沢山あるが一階部分には少ない。

 聞いた話では、機械類の製造会社だったはずだ。


 携帯の地図を見ながら、頼まれた仕事の概要がいようをおさらいする。


 まず風音達は現在、連続殺人犯を探しているらしい。

 そしてそれとは別件で、人間そっくりの機械人形を派遣はけんしている組織(犯罪組織かもしれない? まだ未確定)があるそうだ。

 風音達にとって後者の組織はどうでもよい。これが本当に犯罪組織なのか、そして仮に犯罪組織だったとしてどう対処していくのかは、治安組織であるシャロンの仕事だ。

 しかしどうもこの組織が、今回風音達が捜している連続殺人犯の顔を撮影している可能性が高いらしい事が分かったのだ。


 そして風音が連続殺人犯を追う中で、その組織が水面下で活動している場所を特定して調べ上げた。

 表向きは機械の製造会社として活動しているらしい。

 そう、今まさにゼロアの目の前にある建物だ。

 ここが普通の会社ならシャロンを通じて許可をもらい、殺人犯の情報を譲ってもらう。

 そしてもし犯罪組織が関与しているなら、この建物内に居る者を全員縛り上げシャロンに引き渡し、この会社が持っている全ての情報を強制的に頂く。


 ・・・以上が今回ゼロアが頼まれた仕事だ。


「あれ? ゼロアさんじゃないですか」


 眼前の建物を見上げていると、突然聞いた事のある声が。

 ゼロアが少し遠くの方からした声に反応し横を振り向く。


ゼロア「レスタか。こんな所で何をしている?」


レスタ「この辺りには仕事でよく来ますよ。今日は作業員向けのボット開発のお手伝いで来てて、ちょうど終わったところなんです。ボットだからシステム周りの仕事がメインだったので、お手伝いっていうか結局ほとんど僕がやっちゃいましたね」


 あはは・・・と笑って答える。


 クリス・ク・レスタ。カノンの乗組員。カノンに三人居る機械工学技術者の一人。

 仕事着なのか、白衣を着ている。

 身長はゼロアの胸元にすら到達しない、小柄な男の子。 地球年齢14歳らしい。

 ショートカットの真っ白な頭髪が印象的で、見た目は少女のようだ。

 カノンにはレスタと見た目がそっくりな姉ルミナが居るが、愛嬌があるからなのかルミナよりもレスタの方がよほど天使のように可愛らしく見える。


レスタ「むしろゼロアさんの方が珍しいですよ。こんな所で何をしてるんですか?」


ゼロア「風音から仕事を頼まれてな」


レスタ「え・・・? どうしてゼロアさんが? この地域は僕が風音さんに任されてて・・・」


 レスタが動揺する。


レスタ(もしかして風音さんからの仕事を取られちゃったの・・・かな?)


 風音から仕事をもらいそれを完璧にこなし、風音からの評価を上げる。

 そして休日になったら風音と仕事の話をするのを口実こうじつに、風音の部屋に遊びに行って雑談をするのがレスタの生き甲斐と言ってもいいのに。


 それを奪うというのか。

 しかも奪った相手がこんな機械音痴な人。

 こんな人に仕事を奪われてしまうのか?


レスタ(どうしよう・・・。このままじゃ・・・)


 スッと真顔になったレスタが、ゼロアに忠告を始める。


レスタ「ごめんなさいゼロアさん。あのですね、人には領分りょうぶんというものがあってですね」


ゼロア「? そうだな」


 適当に流して建物の方に視線を戻す。


ゼロア(さて、とっとと終わらせるか)


 早速建物の入り口に向かって歩き出す。

 入口の数メートル手前辺りから立ち入り禁止になっているようだが、遠慮なく突き進む。


レスタ「ちょっと、ゼロアさん」


 レスタがついて来る。

 まさかついて来るとは思わなかったので、ゼロアが面倒臭そうに振り返る。


ゼロア「帰れ。危険だ」


 犯罪組織の可能性があるならレスタは危険だ。


レスタ「この辺りは僕の庭ですよ。こんな場所に危険なんてあるはずが・・・」


 突然ゼロアの手の平がレスタの目の前にかざされる。

 ジュッ・・・。という音がレスタの目の前で鳴った。


レスタ「え・・・・・?」


 目の前の建物の方角から、ゼロアの手の平とこめかみにレーザー光線のようなものが発射された。

 そしてそのまま、ゼロアが無言で入口から建物に入って行こうとする。


レスタ「ちょっと、大丈夫ですか!? 今のレーザーじゃ・・・」


 というかなぜゼロアはノーリアクションなのか。

 結構な事が起こったよ、今。 二人とも殺されそうにならなかったか?


 心配しているレスタに対し、また面倒臭そうにゼロアが振り返る。


ゼロア「大丈夫じゃなかった。帽子に穴が開いたし少し火傷をした。次からは無傷で済むように、ここから先は少し気合を入れる。だから心配は要らん、お前は帰れ」


 ゼロアは異星出身の戦闘民族だ。戦闘民族は元々身体の強度が高いが、その戦闘民族固有の覚醒状態になる事で更に戦闘能力が強化される。

 ゼロアはこの覚醒状態に、自分の意志で一切のリスク無しで移行出来るようだ。


レスタ「本当に大丈夫なんですか・・・? というかレーザーって肉体で防御出来るものじゃ・・・」


 と言いかけたが、今実際に一度喰らって普通に生きているこの人にそれ以上言っても仕方ないか。

 しかし本当に覚醒状態に入ったのか疑う。だって見た目が全然変わらない。

 戦闘民族によっては巨大化したり、陽炎かげろうのように身体の周囲の空気が歪んだり、知能を捨てて猿のような姿になって大幅にパワーアップしたり。普通は外見に様々な変化があるものだ。


 そんなやり取りをしていると、追撃のレーザーがゼロアの額に数発発射された。

 しかし彼の言葉通り、今度は喰らった場所に小さな火傷すら残さない。

 そしてこのやり取りをこの建物の中の人達が見ているからなのか、あるいは自動的に機械が無駄だと判断したのか、それ以降はもう撃ってこなくなった。


ゼロア「これで安心したか? よし、帰れ」


レスタ「安心って・・・いきなり殺しにかかるような場所ですよ・・・。安心なんて・・・」


 と、心配するように言うが。

 実のところゼロアの事はそんなに心配していない。

 大丈夫だろう、この人なら何があっても。むしろ一度でいいから苦戦している所を見たいくらいだ。

 そんな事より、このままゼロア一人に行かせて仕事をやり遂げられる事の方が怖い。

 このままレモネでの仕事を全部奪われてしまうのでは・・・。という心配の方が大きい。


 そんなゼロアの身を案じている(?)レスタを、不思議そうに見る。


ゼロア「何を言っている? いきなりも何も、こっちが立ち入り禁止の場所に入ったからセキュリティが作動しただけだ。当たり前の対応だろう」


レスタ「レーザーを頭に撃つのが当たり前・・・?」


 今のをそんな風に解釈していたのか。

 この人にとっての当たり前のセキュリティとは、常人にとっての即死レベルの事なのか。

 ゼロアはいつも大体カノンの警備をしているが、大丈夫なのかこの認識の人にカノンの警備を任せてて。


 しかしこのゼロアの言葉に光明を見出す。

 このゼロアの発言を利用して、帰らされないように話を持っていく。


レスタ「確かにそうですよね。当たり前です。むしろこの治安の悪いフェクトですから、これくらいやる方が働く人達の安全を守れるってものです。そう考えればここは優良企業と言ってもいいかもしれませんね」


ゼロア「そうか」


 優良かどうかはどうでもいいので適当に流す。


レスタ「だから危険が無いと思うので、僕も行きます」


ゼロア「いや帰れ」


レスタ「いえゼロアさんの言う通りです。今の所おかしな事は何もされてませんし大丈夫ですよ」


 引き下がらない。ゼロア一人で行かせてなるものか。

 もし危険でも、自分の身くらい自分で・・・は守れないけど、ゼロアがいれば大丈夫だろう。


ゼロア(面倒なのに捕まったな・・・)


 ゼロアが珍しく真剣に悩む。

 レスタはただでさえ貧弱モヤシっ子だ。

 例えば今のレーザー光線にしても、部屋全体に隙間すきま無く放たれるとレスタはそれなりに怪我をするんじゃないのか?

 一般人レスタの耐久力とか知らないが、全身にレーザー照射されると大怪我とかするのか?


ゼロア(俺でも少し火傷するくらいだからな・・・。全身となると、こいつならおそらく・・・泣くだろうな)


 すでに治りつつある火傷の部分を触れながら考える。

 いやその場合は、自分も衣服が無くなるな。それも面倒だ。


ゼロア(俺の服はともかく、こいつに怪我をさせると風音が後で文句を言いそうだな)


 レーザーに限らず、建物内に居るだけで身に危険が及ぶような事態の場合、事前に一旦レスタを抱えて壁をぶち破って外に出なければいけない。

 そういうのが面倒臭い。

 一人なら突き進むだけで終わる仕事だったのに。

 しかし何度帰れと言ってもついて来そうだ。


ゼロア「帰る帰らないのやり取りをするのも面倒だ。一度だけチャンスをやる。勝手について来ればいいが、もしお前を外に逃がさなければならない事態に陥った場合、そこで帰れ。それでもついて来ようとするなら、その辺に縛り付けて誰かに迎えに来させる」


 そう伝えてレスタの反応も待たずにインターホンを探す。

 中の人と会話が出来れば話は早いのだが。

 いくら探しても見つからない。


 ノックしてみる。

 ・・・・・・・

 特に反応は無い。


 仕方ない。風音がシャロンの許可を得ていると言ってたので、入ってみようか。

 特に鍵などかかっていなかったようで、入り口のドアを開けゼロアが中に入る。続けてレスタが中に一歩入ろうとした時。

 ゼロアがレスタの方に手を伸ばして制止させる。


レスタ「どうしま・・・」


 ズンッ。


 とレスタの視界一杯に壁が。

 部屋の左右の壁が一瞬で中央に移動したようだ。侵入者をはさつぶす為の罠だろう。

 ゼロアの身体が挟まれ、レスタに向かって伸ばされた手だけが壁からはみ出して残っている。


レスタ「ゼロアさんっ!!」


ゼロア「どうした?」


 はみ出した腕が壁をじ曲げ、普通に暖簾のれんをくぐるように壁を破壊しながら出て来た。


ゼロア「何かあったのか?」


 レスタの周囲を見て警戒する。


レスタ「いや僕じゃなくて、ゼロアさんが。今壁に・・・」


ゼロア「だからセキュリティだろう。俺達は侵入者だ。いちいち驚いていたらキリがない」


 治安組織からの許可を貰っていようが、その許可証を見せるまでは相手にとっては不法侵入者だ。

 セキュリティを作動させられるのは仕方のない事。

 ・・・という考えのようだが。


レスタ「いやセキュリティって・・・」


ゼロア「見ろ」


 ゼロアが壁を指で差す。


ゼロア「な?」


 それだけ言って閉じた壁を真ん中で少しこじ開け、片方ずつ元あった場所に向かって蹴る。

 轟音と共に、勢いよく壁が元の位置に戻った。

 ゼロアが部屋を見回すと、天井に監視カメラのようなものがあったので、そちらに向かって一応警告しておく。


ゼロア「見ているのか? 今のは自動か? いずれにせよもう一度壁を閉じるなら、次は壁を外に放り出す。加減するのは今ので終わりだ」


 そして視線を目の前にあるドアの方に移す。


 いや・・・・・待て。


 言ってからゼロアが少し後悔した。

 そうか。レスタを帰らせるチャンスだったのか。

 今の発言はレスタを守る為のものだったが、守ってどうする。


 あえてレスタをこの部屋に引き入れてから、もう一度壁が閉じればレスタの身に危険が迫った事になる。

 危険な事が起こり、その結果レスタが一旦外に避難せざるを得ない状況になったら、もうついて来ないという約束だった。


 再び監視カメラの方を見る。


ゼロア「どうしてもと言うなら、もう一回だけなら許す」


レスタ「何を言ってるんですかゼロアさん・・・アトラクション感覚で楽しんでません? あとさっきの「な?」の意味が全然分からないんですけど」


 壁を見ろ、という意味だったと思うが何を伝えたかったのか。


ゼロア「壁を見なかったのか?」


レスタ「見ましたよ。分厚いコンクリートの壁で、侵入者を潰す為に表面が数センチ合金みたいになってましたね」


ゼロア「そうだ。表面だけ堅かった。だから俺を挟んだ時、内側の脆い壁の方が先に崩れた。 本当に侵入者を殺したければ、壁を全て合金にすればいい。 あれは侵入者を殺さないように、適度に痛めつける為のセキュリティだと思う」


 いや絶対違うだろう。とレスタが思う。

 あれは普通死ぬ。

 ゼロアが頑丈だったから合金が捻じ曲がり、その裏にあるコンクリートの壁の方が耐え切れずに壊れただけだ。

 ここでふと、レスタが勘違いしていた事に気付く。


レスタ「・・・これ何の仕事ですか? もしかして機械関係の仕事じゃ・・・ない?」


 来てはいけない所に来てしまったのだろうか。


ゼロア「連続殺人犯の顔写真を受けとる仕事だ」


レスタ「あ、じゃあ僕帰ります」


 はい撤収てっしゅう

 仕事を奪われるとかそういうのじゃなかったわ。


ゼロア「そうか」


 どういう心変わりか知らないが、ゼロアにとってはとても助かる。

 ・・・・と思ったが。

 戦闘民族の直感が働く。

 このまま帰すと危ない。

 おそらくレスタが入り口から出た時に、先程のレーザーで撃たれる。


ゼロア「いや待て、手遅れだ。おそらくセキュリティがお前にも作動している。外に出てから俺の居ない場所で怪我をされても困る。許可証を見せてセキュリティを解除してもらうまでは、俺の近くでいた方が安全だ。それでも帰ると言うなら止めはしないが」


 その言葉にレスタが青ざめている。


レスタ「じゃあ・・・一緒に行きます」


ゼロア「そうか。そんな緊張するな。今の所お前の言うように、常識的なセキュリティしか無い様だから優良企業だろう。犯罪組織かもしれないと聞いてたが、問題無さそうだ」


レスタ「犯罪組織・・・」


 もっと青ざめる。

 そしてここにきて自分の発言が裏目に出た。ゼロアはさっきのレスタの話を真に受けて、ここを優良企業だと思っている。


レスタ「あの・・・風音さんは呼べないですか?」


ゼロア「あいつは今連続殺人犯探しで忙しい」


レスタ「そうですか・・・」


 風音が居れば安心できるのに。

 この得体の知れない人と一緒は・・・いろんな意味で怖い。

 強いのは分かるけど、自分の物差しで世界を見ている節がある。


 仕方ないか・・・とレスタが覚悟を決めた時、急にどこかから声が。


「ようこそ。我社のセキュリティが勝手に作動してしまい、誠に失礼致しました。あなた方は、どちら様でしょうか?」


 さっきの監視カメラにスピーカーも付いていたのか、カメラの方から急に何者かの声がした。

 中年くらいの男性の声。


レスタ(セキュリティが勝手に作動? どう考えても殺す気満々だったような気がするけど。こっちの会話を聞かれてて、合わせてるのかな・・・)


 疑うレスタとは違い、ゼロアが能天気な反応をする。


ゼロア「ああ、ようやく気付いてくれたのか。不法侵入のような形で悪かったな、ただこの建物にも落ち度はある。 入り口にはインターホンを付けた方が良い。 少し頼みたい事があって来た。シャロンからの許可は貰っている」


 言いたい事を次々に言ってから、ゼロアが携帯端末の画面をカメラに向かって見せる。

 急ぎだったので、時間的に許可証をそのまま持ってくるのが無理だった。

 一応許可証の画像は送ってもらったが・・・。


「インターホン・・・普段は関係者以外立入禁止ですので付け忘れておりました。御意見感謝致します。協力の件、構いませんよ。シャロンに協力をするのはフェクトに住む者の義務です。しかし許可証がコピーですらなく、カメラで撮っただけの物というのは・・・。協力は惜しみませんが、後日改めて・・・」


 当然の意見か。シャロンの許可証は一応画像だけでも効力はあるらしいが、先方がそれで納得するかどうかは別の話だ。画像なんていくらでも加工出来るから、納得しない場合の方が多いだろう。


 そういう対応をされる可能性もある事は、こちらも予想していた。

 面倒だし時間も掛かってしまうが、仕方ない。


ゼロア「悪かった。今すぐシャロンに連絡して何人かこちらに来させる」


 早速携帯でシャロンに連絡をしようとすると。


「いえ結構です。携帯だと画面が小さいので監視カメラからでは確認が出来ない、と言いたかっただけです。直接確認させて頂けるなら許可証は画像だけでも結構ですよ。 応接室に御案内させていただきます。そのドアを開け右に進み、最初にある左側のドアに入って下さい」


ゼロア「ああ、面倒が無くて助かる」


レスタ(いやいやいや・・・後日改めてって言いかけてたし・・・)


 今明らかに意見を変えただろう。

 本当に犯罪組織かもしれない。今シャロンの職員を呼ばせなかったのも含めて、色々怪しすぎる。


 しかしレスタは全力で疑う反面、もう攻撃はしてこないんじゃないかとも思っている。

 なぜなら一連のこちらの行動を監視カメラで見ていたのなら分かるだろう。

 一般的な罠などいくら仕掛けても、ゼロアには効かない。

 異星の超巨大猛獣を容易たやすく捕獲出来るくらいの罠が、最低限のラインだ。そんなものを予め用意しているとは思えない。


 それに今の会話の後で何かを仕掛けてくるなら、それがそのままこちらへの宣戦布告となる。

 相手が余程の馬鹿でない限り、もう今は下手な罠を仕掛ける事が出来ない状態だと思う。


 疑っているレスタとは対照的に、ゼロアの方は特に勘繰かんぐりなどはせず、言われた通りドアを開けようとする。


 バヂンッ!! と大きな音。


レスタ「え?」


 今一瞬、部屋の電気が暗くなったような。

 何が起こった?

 レスタがゼロアの方を見る。

 おそらくゼロアの方から音がした。

 ゼロアはドアノブを見て何か考えている。


レスタ「なんかげ臭いような・・・どうしました?」


ゼロア「空気が乾燥してるな。静電気にやられた」


レスタ「静電気・・・・」


 そんな可愛い音だったか?


 ゼロアがカメラの方を向く。


ゼロア「おい、この部屋加湿器を付けた方が良いかもしれんぞ」


  「・・・・・・・・。失礼致しました。御提案感謝致します」


 ゼロアはそのまま言われた通り応接室まで歩いていく。

 何か嫌な予感がしたので、レスタは何も触れないようにしながらゼロアについて行く。


 応接間には高価そうなソファとテーブル。

 そして豪奢ごうしゃな部屋をいろどる、数千万~数億円はしそうな調度品の数々・・・。


レスタ(お金が掛かっている事を見せたいだけの、悪趣味な部屋・・・)


 と心の中で酷評する。


ゼロア「豪華な部屋だな。余程歓迎されているのか」


 ゼロアの方は、警戒心ゼロの呑気のんきな発言をしている。


レスタ「元々こういう趣味なだけじゃないですかね」


 けんのある言い方をしながら、ゼロアがソファに座るのを見てからレスタも座る。


 ゼロアが部屋内を見る。


ゼロア「お前らの部屋はこういう風にはしないのか?」


レスタ「そんなお金無いですよ」


 そもそもこんな悪趣味な部屋は嫌だ。


ゼロア「そうなのか? 聞いてたほど大した事は無いのか」


 レスタが乾いた笑いをらす。

 ・・・いや実際はそんな訳が無い。

 レスタの財力ならカノンと炎火ほのかにある数百にも及ぶ部屋全てを、この部屋の百倍豪華にする事だって出来る。

 風音がやってと言うなら、今日にでも手配を初めてもいい。


 そんな事よりゼロアは警戒心が無さ過ぎる。

 この会話だって絶対聞かれている。

 下手に金持ちである事を知られたら、何をされるか・・・。

 誘拐され身代金を要求され・・・。

 で、風音がかっこよく助けてくれて、泣きながら風音に抱きついて頭撫でて貰って・・・・・・・


レスタ(・・・・・・いい。それいい)


 ・・・そんな妄想をしていると、二人が入って来たのとは別のドアから四十代くらいの男性が入って来た。


男性「どうも初めまして。ネスカと申します。そちらはゼロアさんとレスタさん、でよろしいですね?」


 ゼロアと同じくオールバックの髪型。そしてスーツ姿。ちょっとダンディな顔立ちの、働く四十代サラリーマンって感じで爽やかさすらただよう。

 穏やかそうな表情ではあるので、温和な人物かもしれない。

 というのがレスタから見たその人物の印象。


 ゼロアはネスカを見て目を細める。


ゼロア「失礼だがあんた、タバコのポイ捨てとかしてないか?」


ネスカ「・・・急ですね。どういった意図の質問でしょうか?」


 ネスカが向かいのソファに座りながら尋ねる。


ゼロア「いきなりで悪いな。俺は人の善悪を見分けられる。俺の目にはあんたが悪人に映っている」


レスタ(ずいぶんストレートに・・・)


ネスカ「・・・・・・・・・・・・・」


ゼロア「ただし俺が分かるのは善悪だけだ。 普段いい奴でもたまにゴミをポイ捨てする事がある、なんて奴と、人を平気で殺せる奴を見分ける事は出来ない」


 だからゼロアが買い出しなどに出掛けると、周囲には悪人顔が多い多い。

 中には本当に犯罪者もいるのだろうが、ほとんどが小悪党なのでいちいち気にしていても仕方ない。


ネスカ「区別がつかないのに私を極悪人ではなく、ポイ捨て程度の小悪党ではないかと判断した理由は?」


ゼロア「ここは優良企業ではないかというのが俺達の総意そういだったのと・・・」


レスタ(総意ではないですけどね・・・)


 レスタの胸中きょうちゅうはともかく、発言しながらゼロアが周囲を見る。

 この豪華さ。明らかに重要な人物を接待する為の部屋だ。


ゼロア「これだけ歓迎されてるからな。いきなり極悪人扱いするのは失礼だろう」


 ネスカが笑いながら両手を上げる。


ネスカ「なるほど。 降参です、おっしゃる通り。 仕事でイライラしている時だけですがね、つい持っているレシートなどのゴミを、叩きつけるように地面に捨ててしまうことがあります」


ゼロア「やめた方が良い。その繰り返しがその顔を徐々に醜悪しゅうあくにさせていく」


ネスカ「今後は気を付けましょう」


 ニコニコとしながらそう答える。

 そしてノックの音。

 ネスカが入って来た方のドアからだ。


女性「失礼します」


 女性が飲み物を持って入って来た。

 こちらも女性用のカジュアルなスーツ姿。こっちはレスタと同じような短い髪型で・・・表情が無い。

 まるで感情が無いかのように無表情だ。


 紅茶が入ったカップを三つ、持って来たお盆からテーブルの上に移す。


ネスカ「冷めないうちにどうぞ」


レスタ「・・・・・・・・・・・・・」


 飲むわけ無いだろうこんなもの。

 と思っているとあんじょう


ゼロア「どうも」


 ゼロアは普通に飲み始めた。

 そしてカップを置いて、紅茶を凝視ぎょうししている。


レスタ「何か?」


ゼロア「いや・・・。 この紅茶は全部同じものか?」


 紅茶を配った女性に尋ねる。


女性「いいえ。レスタさんは死なれては困りますから、普通の紅茶を入れてあります。 レスタさんは高く売れます」


 女性が無表情のままレスタの方を見る。


ネスカ「ええ、そのように指示を出しました。見た目の可愛らしい男の子など、需要じゅようはいくらでもある」


 笑顔のままレスタを見る。


レスタ(高く・・・売る?)


 レスタがゾッとする。

 ついに本性をむき出しにしてきたか。


 今この瞬間、完全に相手側とこちらが敵対した事を認識した。

 レスタが表情を引き締め、おびえながらも相手をにらみ付ける。


 しかしそれでもゼロアの様子は変わらない。


ゼロア「そうか。歓迎は感謝するが、あまり気を遣わなくていい」


 そう言って、自分の分の残りを飲み干した。


ゼロア「で、許可証を見てもらいたいんだが・・・」


 早速仕事の話に移行する。

 すかさずレスタが隣からゼロアの腕を掴む。


レスタ「いや、ちょっと待ってくださいよ! 今の話聞いてました!? 僕に死なれると困るから普通の紅茶って事は、ゼロアさんのやつは・・・」


 高く売れるとか言ってた件も聞き捨てならないが、まずはそれだ。


 あの発言から、ゼロアの紅茶には致死性の高い何かが入っている。


ゼロア「ああ。こっちの紅茶に入ってる隠し味な、人類が使用出来る物の中では、宇宙で最も強力な毒だ」


レスタ「ひゅっ・・・」


 レスタの血の気が引いて、しゃっくりの様な変な声が出る。

 え? この人分かってて飲み干したのか・・・。


 レスタが恐る恐る二人の方を見ると、ネスカの方からは笑顔が消えている。女性は無表情のままだ。

 ゼロアはそうレスタに説明した後、ネスカの方に向き直る。


ゼロア「悪いな、こっちの話ばかりで。 許可証がこれで、頼みたい内容がこれだ」


 携帯の画像を見せながら、今日ここに来た理由を説明し始めた。

 しばらく呆けていたレスタが我に返る。


レスタ「ちょっと、だから! なんで普通に話を進めるんですか! これ毒なんですか!? しかも一番って・・・超が付くほど猛毒じゃないですか!」


 レスタが知っている中での強力な毒ですら、人は秒で死ぬ。

 それより強力な毒など、いくらゼロアが頑丈と言っても・・・。


ゼロア「面倒臭いな・・・もうそのくだりは過去にやった。歓迎されているだけだ。話が進まないから静かにしておいてくれ」


レスタ「全っ然意味が分からないですって!」


 レスタがえる。


ゼロア「・・・お前風音と仲良いなら聞いてないのか? 俺が裏側で凶悪人物とかいう噂が広まってる理由を」


レスタ「聞いた事無いですよ。ゼロアさんのひどい行為の噂は色々聞いた事がありますが、風音さんがゼロアさんを信用してるって言いましたから、僕も信用します。それ以上の理由なんて要らないです」


 もはや狂信とも言える心酔しんすいっぷりだ。


ゼロア「そうか。 面倒臭いな・・・。 あまり昔話をするのは好きじゃないんだが・・・」


 と言いながらも語ってくれた。




 ゼロアはこの毒を過去に何度か飲食した事がある。


 ゼロアが美味しいと感じる飲食物を口にした時、決まってその味の奥の方でかすかにする香りがある。

 五感が鋭敏えいびんな獣人や戦闘民族が、ようやく気付くくらい微かに。

 のちに知ったが、その風味がこの猛毒由来のものだったのだ。


 ある時シエロという宇宙最大の治安組織の本部に呼び出された際、温かい飲み物が出された。

 地球でいうコーヒーの様な、香り高い飲み物。

 その飲み物自体は何度か飲んだ事があったが、その時の味がものすごく美味しかった。

 そしてその味の奥の方で、隠し味の様にわずかに香る例の香り。


 こう何度も口にしていると、料理にあまり興味のないゼロアでもさすがに気付く。

 今まで口にして美味しいと感じていた食べ物たちは、この隠し味のおかげで美味しくなっていたのか、と。

 当時毒だと知らなかったゼロアはそれが気になり、シエロの職員に何気なく尋ねた。


 毒を盛った事をゼロアに気付かれ、殺されると勘違いした職員は許しをう為、毒入りだったと自白した。

 これが当時シエロで働いていた者達のみが知り、そして詳細は口外厳禁とされている、シエロ史に残る大事件の始まりの瞬間だった。


 ゼロアが飲み物に毒を盛った理由を尋ねに長官の部屋に向かったのがきっかけで、シエロ内に警報が鳴り響く。

 次々襲い来るシエロ職員達。

 警報のおかげか待っているだけで勝手に職員が集まってくれるので、面倒だから広い部屋を探し壁をぶち破り、倒した職員を次々外に放り出して行った。


 およそ二時間後。

 人材が尽きたのか誰も襲ってこなくなったので、悠々ゆうゆうと長官室に向かった。

 長官室に到着し、ノックもせずに入る。するとそこには、全てを諦めた表情の長官。


 その長官の顔面を掴む。


ゼロア「どうせお前は偽物だろう? 本物の長官はどこに行った?」


長官「私が本物の・・・」


ゼロア「どこに行ったと聞いている」


 顔面を掴んでいる手に少し力を入れる。


長官「ひとつ勘違いを・・・している・・・それだけ・・・・聞いてくれ」


 ゼロアが掴んでいた手を放す。


ゼロア「本物の長官に飲ませる為に飲み物も持って来ている。もしお前の話が時間稼ぎなら、まずお前に飲ませる」


 例の猛毒入りの飲み物を、ずっと手に持っていた。

 おかげでこぼさないように戦うのに苦労した。今にして思えば、床に置けば良かった。


 解放された偽長官が話し始める。


長官「その毒はクコという名だ。クコについて詳しく書いてあるページを、検索してくれ」


 ゼロアが手持ちの携帯で、猛毒クコを調べる。


 どんな食べ物飲み物にでも合い、その美味しさを二段階三段階と引き上げてしまう理想の調味料。

 しかし猛毒。迂闊うかつに触れるだけでも致死率ほぼ100パーセント。

 あらかじめ対応する解毒剤を飲んでおき、食後八時間程度の全身激痛に耐える覚悟があるならば、クコ入りの料理を食す事も可能。

 ただしその行為を何度も行う場合、二十日以上の間を空けるように。

 このリスクを承知の上で何度も経験している食通達が、分かっているだけでも五万人以上いる。それほど味の質が上がる。

 クコが採れる地域には、クコの毒が効かない部族が存在する。

 ゆえにあらゆる飲食物を最高の味で食す事が出来るこの部族は、全宇宙の食通から最も幸せな部族と言われている。


 という感じの内容が書いてあった。


長官「君はその部族とは関係無いだろうが、宇宙一の戦闘民族の生き残りと聞いている。だからこの毒が効かないと確信していたんだ。クコは毒さえ気にしなければ料理を最高の味に引き上げる。つまりクコ料理は、効かない者に対しては最大級の歓迎を意味する。 私はただ美味しいものを提供したかっただけなんだ」


ゼロア「・・・なら最初にそう言え」


 そう言って長官室を出て行った。




 昔話が終わったようだ。


ゼロア「・・・という事だ」


レスタ「え、それを・・・」


 信じたのか?

 嘘だろそれ。その場しのぎの。

 絶対シエロはゼロアを殺すつもりだったて。


ゼロア「それまでも何度か各所で振る舞われていたからな。まさか俺がそこまでいろんな場所で歓迎されていたとは知らなくてな。その件の後、面倒だが俺なりに全部思い出して礼を言いに行った。誰か早く教えてくれていれば、二度手間にならずに済んだのにな」


レスタ「その・・・ゼロアさんにクコ料理を提供した人達にお礼を言いに行った時って、相手の人達はどんな感じでした?」


 おそらくそいつらはゼロアを殺すつもりでクコを盛ったはずだ。

 それが死ななかったどころか、時間を置いて再び戻って来たのだ。

 どう考えても、次は自分が殺される番だ。


ゼロア「いやなぜか全員直接会えなかった。家まで行っても忙しくて出られないと言われたりな。仕方ないからインターホン越しに礼だけ言って、菓子折り置いて帰ったり・・・とかだな」


レスタ(生きた心地しなかっただろうな、その人達)


 しかしこのままでいいのか? 何も知らないゼロアが毒を盛られ、そのうえだまされたままだというのも・・・。

 そしてそれを黙って聞いているのは仲間としてどうなんだ?

 と思い、真相を教えてあげる。


レスタ「あの、多分ですけどシエロも含めてその人達は・・・」


 ゼロアさんを殺すつもりでクコを出したんですよ。

 と言いかけて止める。


レスタ「いややっぱり何でもないです」


 真相を言ったら、そのままシエロを潰しに行きそうだ。

 そうなったら今度こそシエロ内だけじゃなく、宇宙全体の歴史に残る大事件となってしまう。

 仲間意識より、全宇宙の秩序ちつじょの安定を優先しよう。


 というか治安組織シエロを壊滅させかけたのが原因で、ゼロアの悪評が広まったのか。

 って事はそれ以外の、ちまたで噂されていたゼロアの凶悪エピソードは捏造ねつぞう

 腹いせにシエロが流した噂だろうか。


 いやそんな事は今どうでもいい。とレスタが軽く首を振って頭を切り替える。

 なんにせよクコ入りの飲食物が歓迎を意味していると勘違いさせたままの方が良いなら、もう毒の方はいい。

 でもどう考えてももう一つ、おかしな発言があっただろう。


レスタ「毒はともかくですね。この人達さっき、僕を高く売るとか言ってましたよ」


 ちょっと強気で目の前の二人を睨む。

 なぜあんなに弱気だったレスタが急に強気になったのかと言うと。

 今の昔話を聞いて、明らかにネスカの表情が青ざめているからだ。


 どうやらゼロアが深く帽子をかぶっていた事と、レスタがゼロアと呼んでいたので気付いていなかったようだが、今の昔話でゼロアが宇宙でも有名な「名無し」と呼ばれる危険人物だと気付いたようだ。


 この場において優位に立てた事が分かったので、さらに続ける。


レスタ「あの発言は、許しがたいでしょう?」


ゼロア「嫌なら断ればいいだけだ」


レスタ「・・・・・・・」


 絶句する。


レスタ「あの・・・高く売るの意味分かってます?」


 いわゆる・・・奴隷として売られるという事だ。


ゼロア「しつこいな。アイドルとして売り出すという意味しかないだろう。 若い可愛い男は需要があるとか、高く売れるとか言ってただろう」


レスタ「はぁ?」


ゼロア「そしてお前は見るからに貧弱だ。これから売り出す新人に毒で死なれては困るから、普通の紅茶を入れた。 何がおかしい?」


レスタ「・・・・・・」


 いや。おかしい所しかないし。

 この人達を信用しているのだとしても、その解釈は無理矢理すぎる。ここは工業地区だ。なんでアイドルのスカウトが居る。


ゼロア「ついでに言うなら、別に俺はお前が可愛いとは思っていない」


レスタ「ついでにしても、それを今言う必要あったんですか・・・」


ゼロア「勘違いして調子に乗られても困る」


レスタ「なんでゼロアさんが困るんですか・・・」


 まぁでも分かった。この人には何を言っても無駄だ。

 100パーセント歓迎されていると思っている。

 もしゼロアが「こいつらは敵だ」と判断する事があるとしたら、それは直接的な分かり易い被害をくらった時くらいで・・・


 とか考えていると、無表情だった女性が急にゼロアに接近し殴り掛かる。

 当然というか、ゼロアはその攻撃を造作ぞうさもなく受け止める。


ゼロア「急にどうした?」


ネスカ「何をしている! やめろ!」


 レスタが見る限り、どうやら大声で制止しているネスカの方は本気で焦っている。

 おそらくネスカはレスタと同じ考えに至ったのだろう。

 目の前に居る危険人物は、幸いな事に歓迎されていると勘違いをしている。

 ならばここは穏便おんびんに話を進め、勘違いしたまま帰って頂くのがベストだ、と。


女性「いえ、了承しかねますマスター。マスターの心拍数に異常値を確認しました。この男の存在は、放置すればマスターの生命に危機が及ぶと判断します」


ゼロア「なんだこいつは。人間そっくりだがロボットか?」


 鷲掴わしづかみにしていた女性の拳を解放し、ネスカの方に尋ねる。


ネスカ「はい。少し異常があるようだ。すぐに追い出しますので・・・」


 女性がネスカの発言をさえぎる。


女性「私は護衛のロボットです。あなたは強い。私は護衛能力向上の為にあなたとの戦闘データが取りたいだけです。私には感情も痛みもありません。頭以外は遠慮なく壊してくださって構いませんので、あちらでお相手頂けないでしょうか?」


 ゼロアを真っ直ぐ見ながら、隣の部屋を指で差す。


ゼロア「必要無いだろう、お前は十分に強い。今の一撃だけでも分かる。フェクトでもお前に匹敵ひってきする奴は数えるほどしかいない」


レスタ(え・・・珍しい・・・)


 レスタの背筋に冷たいものが走る。

 ゼロアは普段、戦闘に関してお世辞を言わない人だ。

 この女性はレスタが想像していたよりも、遥かに凶悪な存在なのかもしれない。


ゼロア「今日は仕事を優先したい。どうしてもと言うなら日を改め・・・」


女性「私が怖いのですか?」


 ゼロアが面倒臭そうに、一つ息を吐く。

 理解に苦しむ。

 こんな安い挑発までして、更に能力を向上させたい理由が分からない。本来なら付き合う必要も無いが。


ゼロア「こっちは早く仕事を終わらせたいんだが、これだけ歓迎されているから断るのもな・・・」


 仕方なくゼロアが立ち上がる。

 隣の部屋に二人で向かい、ドアを開けて先にゼロアが入っていく。

 続けて女性が隣に行く前に、ネスカに振り返る。


女性「任せて下さいマスター。私が対処致します」


 そう言って、初めて笑顔を見せた。


 そしてドアが閉まり切ってから数秒して、またドアが開く。

 入って来たゼロアの手には、首を千切られ目が見開かれた女性の頭部。

 女性の顔は最期に何か信じられないものでも見たかのような、唖然あぜんとした表情のまま静止している。


 それをそのままテーブルの上に置く。

 首からは普通に大量の血が出ている。


レスタ「ひっ・・・」


 目の前に置かれたのでレスタがビビる。


ゼロア「護衛能力の向上の為だ。全力でやった。言われた通り頭だけは無事に終わらせたから、良いデータが取れるといいな。あと本人は感情が無いと言っていたが、自我が芽生え始めている。出来るなら次のロボットにそのまま移してやれ」


ネスカ「はい・・・ありがとうございます」


 テーブルの上に置かれた頭を見ながら、引きつった様子で言う。


レスタ(って言うかこれ本当にロボットだったのかな・・・。どう見ても人間の生首だけど・・・)


 思わず目を逸らして見ないようにしていた首を、怖がりながらもう一度見る。生々しい頭と血。どう見ても千切れた首が人間にしか見えない。

 レスタがそう思うのも無理はない。そういうロボットを作っている組織だ。

 ここにいるレスタは知らないが、現在別で動いている風音達は既にこれらがロボットである事を知っている。


ゼロア「じゃあ仕事の話に戻・・・」


 話し始めた瞬間。

 急にさっきゼロアと女性が戦った部屋のドアが勢いよく開く。


女「どうした? アラートが鳴り響いている。ジーナに何かあったのか?」


ネスカ「来るなエリス! いいんだ、戻ってくれ」


 エリスと呼ばれた女がテーブルの上を見る。


エリス「嘘だろ・・・ジーナが・・・」


 状況を理解し、レスタとゼロアを見る。


エリス「おいおい・・・なんであの時の化け物がここに居るんだ?」


 ゼロアを見てそう呟く。


ゼロア「ん・・・? ああ、花屋でリロと喧嘩していた女か。体つきは少し違うが、顔はあの時のままだな。お前も機械なのか」


 ついこの間の話だ。カノン乗組員のリロが経営している花屋で、リロに喧嘩を吹っかけて来た男女三人のグループが居た。

 リロから連絡を受け応援でゼロアが駆けつけたので、その三人組を見ている。

 あの時逃げた女だ。


エリス「あの時の体ならつい最近頭を潰されてね。それよりなんでお前がここに居る?」


  エリスが構える。


ネスカ「いいんだエリス。 下がっていてくれ」


 しかしエリスは構えを解かずに、ネスカをかばう様に前に出る。


エリス「いいから早く逃げろ。ジーナでも無理だったんだ、私では時間稼ぎしか出来ない」


 ネスカがエリスの説得を諦め、ゼロアの方を向く。


ネスカ「ここまでしておいて勝手な話かもしれないが、名無しにひとつお願いがある。このエリスの体と、奥で眠っているエリスの本体だけは傷付けないでやってくれ」


ゼロア「・・・お前らさっきから何を言っている?」


ネスカ「依頼内容はさっきの画面で確認した。エリスの攻撃型機体を破壊された時のデータが欲しいんだろ? すぐに渡す。だから・・・」


 ネスカが立ち上がってエリスの肩を掴んで後ろにやり、盾になるように前に立つ。


ネスカ「娘にだけは・・・手を出さないでくれ」


エリス「父さん・・・」


レスタ「あの・・・どういう状況でしょう?」


 なんだか凄く目紛めまぐるしい展開だという事は分かるが、こっちが置いてけぼりだ。

 凄い速度で、勝手に変なドラマが進んでいってる感じというか。


ネスカ「実は私が働くこの会社の母体となっているのは、大きな犯罪組織だ。 実はこの子をその組織に人質に取られているような状態でな・・・。そう、あれは二年前の話だ・・・」


 語り出した。


ゼロア「それより早くデータをもらえると助かる」


レスタ(ぶった切ったよ・・・)


 自分は結構長めに過去語りをしてたくせに。


ネスカ「・・ああ。 エリス。攻撃型機体が破壊された時のデータを。特に破壊した犯人の顔が映っている映像が欲しいようだ。彼の携帯に転送してくれ」


エリス「はい」


 テーブルの上に置いてあったゼロアの携帯を取り、操作を始める。

 操作をしながら犯人の詳細を語ってくれた。


エリス「こいつが今フェクトを騒がせてる連続殺人犯なんだろ? ・・・こいつな。シャロンの職員だ。 どこかで見た顔だと思っていたが、思い出した。 あの時はお前もいただろう。花屋で喧嘩した時、シャロンの職員が駆けつけたのを見たな? あの中にいた」


ゼロア「そうか。 レスタ、紅茶飲まないのか?」


 もうすぐ仕事が終わって帰る。それまでに飲まないのは失礼だと思っているのだろう。

 レスタが無言で自分に出された紅茶をゼロアの前に動かすと、ゼロアが一気に飲む。


ゼロア「普通の味だな。クコが入ってないとここまで味が落ちるか」


エリス「おいあんた達。今私結構重要な事言ったよ? 聞いてなかったのか?」


ゼロア「シャロン職員が犯人なんだろ? だから何だ? どこにでもあるだろうそういうのは」


エリス「そりゃ広い宇宙にゃいくらでもあるけどさ・・・。身近で起こったら驚かない?」


 むしろ全く驚いていないゼロアの反応に、エリスが驚いている。


 おいどうなんだ、という感じでゼロアがレスタを見る。


レスタ「僕は内心かなり驚いてましたよ、連続殺人犯がシャロン職員だなんて。特に僕達も関わりが深い組織だし・・・。ただ、すぐに信じられなかったのでリアクションは薄くなりましたし、正直今も半信半疑ですけど」


エリス「普通そうだよねぇ」


ゼロア「そうか。じゃあ・・・俺も驚いた」


 エリスは驚いて欲しいようなので、ゼロアなりに空気を読む。


エリス「もういいよ・・・」


 テーブルの上に携帯を置く。


エリス「転送終わったよ。他に用は?」


ゼロア「無い。あ、いや、ついでに俺の携帯から音羽風音って奴の携帯に、犯人の画像を送ってくれないか? 「実行犯の顔が分かった」とえてくれ」


エリス「そんくらい自分でやりなよ」


 愚痴ぐちりながらもう一度携帯を取り、言われた通り操作する。


エリス「音羽・・・? ってどれだ?」


 登録されてある連絡先の一覧を開いたが、漢字が読めないのでどれかを尋ねる。

 ゼロアがテーブルの上に指で「音羽」と書いた。


エリス「何かメッセージ付け加えとく? こいつシャロン職員だとか」


ゼロア「どっちでもいい」


 という事なので言われた通り「実行犯の顔が分かった」というタイトルで画像だけ貼り付けたメールを送って、携帯をゼロアに返す。


ゼロア「どうも。 突然の訪問なのに歓迎してもらって悪かったな。また今度菓子折りでも持ってくる。出来ればそれまでにインターホンを付けておいてくれ。じゃあな」


 そのままソファから立ち上がり、すたすたと帰っていく。


レスタ「ちょっと待ってくださいよゼロアさん」


 早くもドアを開けて廊下に出て行ったゼロアを追いかける。

 そしてドア前で振り返る。


レスタ「エリスさんでしたっけ? 人質っていうのは・・・呪いとか爆弾が仕掛けられてるとかで、組織の一存でいつでも殺されてしまうとかですか?」


エリス「いや・・・組織の言う事を聞かなければ、直接組織のやつらが私達を殺害しに来る。あんたの言う様な仕掛けは脅しとしては強力だけど、時間さえあれば解除出来るしね。それに仕掛けなんて必要無いんだよ。私の本体は寝たきりで動けないから、どうせ逃げられないし。せめて父さんだけでも逃げてくれたら・・・」


ネスカ「馬鹿を言うな」


 そう答えるネスカの表情を見ても、確かに本気で娘の身を案じる父親の顔をしているのは分かる。

 しかし。


レスタ「あの・・・どんな事情があろうが、僕はあなた達がゼロアさんに毒を盛った事と、僕を売ろうとした事を許していません」


エリス「・・・こっちだって好きでやってるんじゃない。いつか組織に対抗する為に、ジーナだって努力と研鑽けんさんを・・・」


 ネスカがエリスに手を差し出して止める。


ネスカ「レスタ君。あなたの意見は間違っていないが、これだけは信じて欲しい。あなたを売ろうとしたのは、この場所に入られたからだ。無断でこの工場の敷地内に入った者は、すぐに殺せと組織に言われている。最初のレーザーもそうだ。あれは私の意志で止められるものではない。 しかしあなたは生きたまま工場内まで入って来てしまった。その状況から殺さずに済ませるには、私が自分の意志で招いた事にして売り飛ばす以外に道が無かった。運良く大金持ちの女性にでも買われれば、死ぬよりはマシな人生だってあるかもしれないからな。 ・・・名無しに毒を盛った方は言い訳をするつもりは無い。生かしておいては危険だと感じたから、規則通り殺害しようとした」


レスタ「そうですか。いずれにせよ、事情を知っても僕はあなた達に協力しません。このままフェクトで犯罪を続けるなら、シャロンから仕事を受けている僕達ともいずれ敵対する事になると思います。 だけど、もし・・・こんな状況を変えたいなら、ゼロアさんに相談してみて下さい。 あの人が味方に付けば、心強いですよ」


 それだけ伝えて出て行こうと振り返ると、エリスがその背に向かって呟く。


エリス「ここまでの事をしておいて、今更頼れる訳がないだろう」


 レスタが再び振り返って、困った様に溜め息をつく。


レスタ「それが残念な事に僕と違って、ゼロアさんはあなた達の事を信用してるみたいです。今は勘違いで信用してる部分も多いみたいですけど、あなた達のこれからの行動次第で、その信用を本物に変える事は出来るんじゃないですか?」






  某日。


 カノンの廊下でレスタがゼロアを見かけた。


レスタ「あれ? ゼロアさんだ。久しぶりに見た気がしますね」


 大体いつもカノンの警備でその辺ウロウロしてるのに。

 話しかけられたゼロアが反応する。


ゼロア「この前の・・・ロボットの会社のやつな。菓子折りを持って行った時に、ちょっとした依頼をされてな。しばらく留守にしていた」


 あの人達、やはりゼロアに相談したらしい。しかし。


レスタ「ちょっとした? 大した仕事じゃなかったんですか? 僕はてっきり・・・」


 刺客の排除を手伝うとか、彼らを一旦カノンに保護してからの護衛とか、結構大きなお願いをされるのかと思っていた。


ゼロア「ああ。仕事自体は大した事が無かった。犯罪組織の壊滅だ」


レスタ「・・・。僕の想像を遥かに上回って来てるじゃないですか」


 まさかの根っこから潰しに行ったのか。


ゼロア「ただな。シエロの連中が出しゃばるから・・・邪魔でな。なんであいつらに連絡が行ってたんだ? あと関連組織の撲滅ぼくめつとかで、潰した会社にあったデータを解析かいせきして色んな所に引っ張り回された。おかげで滞在日数が予定よりかなり伸びてな」


 ゼロアはシエロが関わっていた事を不思議がっているようだが、聞いているレスタはその理由を推測出来る。


 治安組織にとってゼロアは危険人物だという認識なので、ゼロアが地球から出て行く際はシャロンにその目的を報告しなければならない。それをおこたると地球から出て行く事は出来るが、帰ってくる事が出来なくなる。

 おそらくゼロアから目的を聞いたシャロンが、シエロに報告した。というだけの事だろう。


 その流れを鬱陶うっとうしがっているゼロアとは違い、レスタは明るい表情。


レスタ「じゃあ今回の仕事は結構稼げたんじゃないですか?」


 ゼロアにとっては仕事の邪魔でしかなかっただろうが、見方によってはシエロと一緒というのは悪い事でもない。

 シエロと長期間にわたって危険な仕事をしたという事は、それだけの報酬もあったはずだから。


 しかしゼロアの反応は薄い。


ゼロア「そんなに、だな。 シエロからじゃなくあいつら親子からの依頼だったから、五万クインだ」


レスタ「安っす!! 何でですか!? シエロと一緒に仕事したんでしょ!? 依頼主とか関係無く普通シエロからもいくらか出るはずでしょ!? 公共の組織の指示を受けながら仕事をしたんですよ!? しかも内容が組織犯罪の壊滅なんだから・・・」


 叫びながら、一瞬素の表情に戻る。


 もっと何か言わなければならない事があるような。


レスタ「・・・・・・・・・・・・・・?」


 ちょっと首をひねる。


レスタ「・・・いやその前に、まず五万が安いっ!!!」


 それだ。


 いくらで依頼してるんだあの人達は。相場そうばとかあるだろ。

 犯罪組織の壊滅を頼んでおいて・・・。


ゼロア「そうか。 あいつらがいくら欲しいか聞いてきて、依頼の内容も簡単そうだったからな。 じゃあ十万くらいと吹っ掛けても良かったのか」


レスタ「あんたか!! 相場が分かってなかったの!!」


 これまたワグナさんに怒られるんじゃないのかこの人。


ゼロア「分かっていないのはお前の方だ。お前が言っているのは結果論だ。 聞いていたのか? 俺はシエロに邪魔をされたから、結果的に仕事期間が延びたと言っただろう。もし俺だけならサッと行ってサッと終わってたはずだ。すぐに終わる仕事で十万も貰うのは気が引ける」


レスタ「掛かる時間じゃなくて、仕事内容で価格を決めましょうよ」


 あとさっきからこの人「十万も~」とか言ってるけど、それでも安いからな?


ゼロア「仕事内容だと二万位だろ。他星に行く手間を考えて五万だ」


 何か言いたげなレスタを見て続ける。


ゼロア「それともう一つお前は勘違いをしている。宇宙間の移動にかかる費用は、俺持ちじゃない。あいつらが払っている」


レスタ「当たり前でしょそんなの。移動がこっち持ちだったら今すぐ抗議の電話を入れてますよ」


 単純に赤字だそれは。


 しばしゼロアが考える。


ゼロア「お前は何に文句があるんだ?」


レスタ「もういいです・・・。これから仕事を受ける時は、ワグナさんか風音さんに一言相談して下さい」


ゼロア「亜稀あきに電話で相談したのが間違いだったのか」


レスタ「・・・何とも言えませんけど」


 レスタは亜稀とは喋らな過ぎて、ほとんど知らないに等しい。良くも悪くも言えない。


ゼロア「亜稀が言うには、依頼料に関しては時給900くらいが俺に見合った金額では? と言っていた」


レスタ「じゃあ今後は二度と亜稀さんに相談しないで下さい」


 バイト感覚の時給で犯罪組織壊滅をうな。


 ん?

 依頼料に‟関しては”・・・とは?

 他に何かあるのか?


レスタ「亜稀さんは他に何か言ってましたか?」


ゼロア「事情を説明したら、寝たきりのエリス本体を治してあげた方が良いと」


レスタ「あ・・・まともな事も言うんですね、亜稀さん」


 確かにあの人は怪我人とか病人に優しい。


ゼロア「だから癒々に頼んで治してもらった。回復させながらの手術が必要だったようで、風音の実家から応援を呼んだらしい」


レスタ「それはいくらで請け負ったんですか?」


ゼロア「ん? 五万だ」


レスタ「・・・・・・・・」


 その治療だけでも数百万とかいくだろうに。

 まぁ治療は実質タダみたいなもんだから、犯罪組織壊滅が五万という破格に比べたら、治療に五万ってのはかなりマシな判断だ。

 金銭感覚が分かっていないゼロアにしては交渉した方か。


レスタ「治療費の事はとやかく言わない事にして・・・じゃあ合計で十万ですか。それでも安いなぁ」


ゼロア「合計じゃなく、全部込みで五万だ」


 反射的にレスタが、ゼロアの太ももをペチンと叩く。


レスタ「うん、ちょっともう我慢するのやめます」


 もういい。

 もう説教する。


 ピリリリリ・・・。 ピリリリリ・・・。

 ゼロアの携帯が鳴る。

 亜稀かららしい。


ゼロア「なんだ? ・・・エリス? あぁ、俺の仕事の依頼人だ。通してくれていい」


 電話を切る。


ゼロア「噂をすれば・・・だな。今炎火ほのかにエリスが訪ねて来たらしい。間もなくカノンに・・・」


エリス「あ、いた」


 レスタの背後からエリスの声が。

 転移装置近くの廊下で会話していたので、本当にすぐに来た。

 こちらに寄って来るので、レスタが少し廊下の端に避ける。


ゼロア「ん?」


 近くに来たエリスの顔をじっくり見る。


エリス「な、なんだよ・・・」


 エリスが顔を赤くして後退あとずさる。


ゼロア「お前本人だな? もう歩けるのか?」


エリス「ああ、おかげさまでね。ロボットに慣れると、背後の視界が無いのが落ち着かないけどね」


 普通に歩けることを証明する為か、トントンッと地面をつま先で蹴って見せる。


ゼロア「何の用だ?」


エリス「父さんがね、依頼料が安すぎたからこれ渡して来いって」


 エリスが持っていたカバンから少し大きめの花瓶を取り出し、ゼロアに差し出す。


ゼロア「いらん。花を飾る趣味は無い。お前が持っていた方が良い」


エリス「違うよ。売ってくれって事。二千万クイン位はすると思う。ウチにあった高価な調度品とか家具は組織の物だからね。言われた通り全部シャロンに引き渡したよ。でもこれだけは本当に父さんの物でさ。シャロンにも調べて貰った。汚いお金で買った物じゃないよ」


ゼロア「いらん。契約での報酬以外の物は受け取るなと言われている」


 ゼロアが携帯を取り出し、どこかに電話を掛ける。


ゼロア「ああ、フィリコヨーテか。お前が綺麗だと思う花を多めに持って来てくれ」


 電話を切ってすぐに、たくさんの花を持ったフィリコが窓の外に現れた。

 乗組員のツィコ・フィリコヨーテ。愛称はフィリコ。人間と植物の中間みたいな見た目の人物。大体いつも畑がある庭にいる。

 今現在ゼロア達は一般的な家屋の二階部分くらいの高さの場所に居るが、フィリコは成長させた植物に乗ってこの高さまでせり上がって来たようだ。


 いつも明るいフィリコだが、寝ていたのか凄く眠そうな顔をしている。

 レスタが丁度窓の近くにいたので、三重構造になっている窓を一つずつ開けて花を受け取り、ゼロアに渡す。

 フィリコは一つ欠伸あくびをして、そのまま無言で庭に帰って行った。

 この窓は閉めるのも面倒臭い。レスタが苦労して窓を閉め直している。


ゼロア「ほら、全快祝いだ」


 綺麗な色とりどりの花を束にして花瓶に差す。


エリス「・・・・・・・・・・・」


ゼロア「で? 用件はそれだけか?」


 エリスが花で顔を隠しながら答える。


エリス「いやその・・・うちロボットだけが残ってさ」


 父親は緊急避難きんきゅうひなん(自分や家族の命を守る為に仕方なく犯罪行為をしてしまう事)が部分的に認められた事もあり、刑も(思ったよりは、だが)軽めで済むそうだ。

 五年間隔離施設での生活だが、家族と会う事と仕事をする事、そして希望すれば一日一回監視下の元で外出する事は出来るらしい。


 エリスの家はロボット以外全てを失ったと言っていいほど、家財のほとんどをシャロンに没収された。

 犯罪組織の元所有物は没収される、そういう決まりになっている。

 その決まりで言うならロボットも組織の所有物だが、人権を持つに値すると判断されたロボット(とその活動維持メンテナンスのための装置)だけは経緯に関わらず没収出来ない。人権侵害になるからだ。

 ・・・エリスの機体二機だけは、ちょっとずるい方法で没収を回避したが。


エリス「メンテナンス技術は父さんが持ってるから、それを活かして人材派遣をやる事にしてさ。私の機体が二つと、あとこの間のジーナも含めて三つ動かせる機体があるから・・・良かったら何でも頼んでくれればって思って。私の機体とか特にオススメで、私の意識を移せるから遠慮なく呼んでくれればいつでも・・・あの・・」


ゼロア「要はついでに営業をかけに来たという事か。悪いがアリエイラが同じようなロボットを使った人材派遣をやってるからな。ウチが頼る事は無いと思う。 それよりお前いくつだ?」


 話の腰を折って、急に年齢を尋ねる。


レスタ「ゼロアさん、いきなり女性に年齢を聞くのは・・・」


ゼロア「年齢を聞くのに男も女もあるか。 お前確かロボットの時は二十代中盤くらいじゃなかったか? 今のお前はかなり若く見える」


エリス「私自身は十八・・・は生年月日からの計算か。実際は肉体を冷凍状態にしてた期間が二年あって、その分の肉体年齢が止まってるから十六だ。 ロボットの方は私をベースに作ってから、少し成長させてある」


 と答えながら、どこか意気消沈したような表情。

 さっきの人材派遣の件で、直球で断られたのが尾を引いている様だ。


レスタ「思ったよりだいぶ若い方だったんですね」


 ゼロアよりよっぽど失礼なコメントが思わず出てしまう。

 見た目はともかく、雰囲気や態度が大人過ぎたのでもっと年上かと思っていた。

 やはりあんな仕事をしていたから、性格も大人にならざるを得なかったのか。


ゼロア「じゃあ働くよりまず高校に行け。お前今一人暮らしじゃないのか? ウチの船が女子寮になるから、今なら食費以外はタダで住める」


 この春から風音所有の宇宙船「炎火ほのか」が高校の女子寮になる。

 今も炎火の船体には「学生寮スタートキャンペーン」とかいう、よく分からないまく広告を出している。


 キャンペーンはフェクト自治会協賛によるもので、内容は今しがたゼロアが言った通り、最初の一年間は食費以外の費用が無料という事らしい。


ゼロア「無料で釣っておいて、二年目からむしり取ろうという企画が進行中だ。入った時点で三年生のやつは逃げ得になる」


レスタ「嫌な言い方をしないで下さい。二年目からもかなり安めの寮費で提供する予定になってます。男子寮と合わせないといけないですから」


 ゼロアを注意するような口調で言う。

 この人普段あまり考えずに行動しているくせに、要らない知識ばっかり吸収している。フォローする身にもなってほしい。


 先程よりは少し立ち直った表情のエリスが、二人に尋ねる。


エリス「あんた達と一緒に住むって事? それはちょっとね・・・どうしようかな」


レスタ「いえ、安心して下さい。さっき転移装置でこの船に移動してきたでしょ? 女子寮になるのは転移前のフェクトにある船の方です。この船はカノンと言って、今はフェクトじゃない場所にあります。僕達はカノンに住んでますので、一緒ではないですよ」


 エリスの表情が少し曇る。


エリス「そう・・・」


 エリスが少し考える。


エリス「仕事は父さんだけでもなんとかなるけど・・・学校ねぇ」


ゼロア「そういうのは大事だと風音が言っていた」


エリス「う~~ん・・・。そもそもその人の意見を参考にしていいのかどうか・・・」


 エリスはあまり乗り気では無い様子だ。


レスタ「そういえばゼロアさんも忙しくなりますね。週四で女子寮の警備でしょ?」


 ゼロアは普段カノンの警備をしているが、この春から女子寮の警備員として働く事になっている。


 当初治安組織からはゼロアが警備員として働く事が問題視されていた(ゼロアという人物が危険過ぎるため)が、結局風音が交渉して認めてもらう形になったらしい。

 本当に学生の安全を真剣に考慮こうりょしてるんなら、ゼロアを外してどうする、と。


ゼロア「ああ。と言ってもやる事は普段と変わらないな。かかえる命の数が増えるだけだ」


レスタ「何ですかその格好良い言い方」


 と、茶化ちゃかす。

 でもそういう風に考えているのか。その意気や良し。 とレスタも大満足。


エリス「あんたが女子寮の警備員として常駐じょうちゅうするのか?」


ゼロア「常駐というか・・・警備員は常駐させるが、俺は週四だな」


 誤解の無いように正確に答えておく。

 もっと正確に言うなら花屋でエリスと喧嘩をしたレノ・リロという人物が、週六でほぼ毎日常駐する事になる。が、説明が面倒なので省いた。


エリス「ふぅん・・・で? 申し込み資料とかある?」


ゼロア「炎火の入り口に大量に置いてある」


エリス「じゃあ検討しとくよ」


 という返事の直後。

 エリスの視界に不審な人物が映る。

 そいつがゼロアの背後から音も無く近付き、ゼロアに対して何かをしようとしている。

 あれは・・・敵意? 攻撃をしようとしている?

 そしてエリスはその人物を見た事がある。


エリス(あいつ・・・花屋の屋台の女か。ここに住んでいるのか?)


 エリスが持っていた花瓶を床に置いて、ゼロアの背後に走る。


リロ「・・・誰? ・・・邪魔しないで」


 リロがゼロアを攻撃する寸前で止まる。

 エリスに対し、ゼロアへの攻撃を邪魔された事に不満を漏らしている。


リロ「どうしてゼロアを・・・護るの? 恋人か・・・なにか?」


 うつむいたまま、エリスを下から恨めしい目で見上げる。


エリス「何を言っている? 急に暴力を振るおうとした奴を止めて何が悪い」


 ごくまともな意見。を言っているだけの様に見える。


 しかし真正面から見ているリロには見える。

 リロの恋人発言を受け、ほんの少しつやっぽくなったエリスの表情が。


リロ「ふ・・・ふふ・・・・・」


 肩を震わせて、不敵に笑う。そして顔を上げて愉快そうな表情。


リロ「ゼロアの・・・弱点・・・・み~つけ・・・た」


 ボッ!!

 

 破裂音と共にリロの足元が爆発し、高速でエリスに跳びかかる。

 至近距離でロケットの様に加速したリロが速過ぎて、現在ロボットではないエリスの身体では反応すら出来ない。

 エリスが抵抗を諦め、目を細めてしまう。


エリス「・・・・?」


 攻撃が来ない。


 ダンッ!!!!


 と二十メートル以上離れた廊下の向こうで、リロが壁に叩きつけられる大きな音が鳴る。

 しかもすぐには壁から落ちてこない。

 しばらく壁にはりつけになっているかのような体勢のまま、数秒してようやく地面に落ちる。


ゼロア「あいつも成長したな。初めて一発避けたか」


 いつの間にかゼロアが殴り返していた。

 珍しくゼロアがリロをめる。ゼロアが本気の速度で放った攻撃をリロが避けたのは今のが初めてだ。


 直前のエリスを襲う事を示唆しさする発言や行動は、ブラフだったのだろう。

 リロはエリスを襲うような発言をした後、エリスに襲いかかる振りをしてゼロアの攻撃を誘った。

 おそらくゼロアなら、エリスへの攻撃を止めようとするだろう。との読みだ。

 そして予想通り放たれるゼロアの一撃。

 それを避ける事に成功し、そのままその腕を掴んで爆破しようとしていた。

 残念ながら実際は避ける所までしか出来なかったようだが。


エリス(今何が起こったんだ?)


 目の前で見ていたのに、ゼロアの攻撃が見えなかった。リロが避けた一撃目も、その後吹き飛ばした二撃目も。

 会社の応接室で対峙たいじした時、これと闘おうとしていたのかと思うとゾッとする。


 今の音を聞きつけたのか、誰かがリロに駆け寄り介抱している。

 リロがもぞもぞともだえた後しばらくして、勢いよく立ち上がり高速で走り去った。


 そして介抱をしていた人物がこちらに走って来る。


風音「おらぁっ!!」


 そのままゼロアの頭にダッシュジャンプ強チョップを入れる。


ゼロア「どうした急に」


 特に痛がる風でもなく、風音を見下ろす。


風音「今のはやりすぎ。あれはリロじゃなかったら死んでるから」


ゼロア「リロだったから問題無いな」


風音「せいっ!!」


 もう一発入れとく。

 さて。


風音「え~~っと。どちらさん?」


 知らない人が居る。


ゼロア「エリス・サイカだ。最近俺に直接仕事を依頼してきた奴だが、聞いてないか?」


 エリスが軽く頭を下げる。


風音「ああ! この人が。聞いてる聞いてる。仕事の内容は知らないんだけど、ワグナさんが「どうせゼロアは暇だから行かせとけ」とか言ってたやつだ」


エリス「あんたそんな扱いなのか」


 エリスが哀れむようにゼロアを見る。


レスタ「単にワグナさんとゼロアさんの相性が悪いだけですよ」


 フォローしておく。さっきの喧嘩といい、カノンの人達はみんな仲が悪いと思われても困る。


風音「どうも、カノンの艦長の音羽おとは風音かざねです」


 エリスに向かって軽く頭を下げる。


エリス「ああ、あんたが。 世話になったね。頼んだ仕事だけじゃなく、ついでに寝たきりだった私の体まで治して貰って」


風音「ついで・・・? 依頼料以外に治療の報酬は貰わなかったって事?」


 ゼロアを見る。


レスタ「そうなんですよ、オプションでやっちゃったんですよ」


 それを今から説教しようとしていた。

 二千万の花瓶を受け取らなかった事に関してどうこう言うつもりは無いが、何でもかんでも自分基準の感覚のままでは駄目だ。ゼロアの今後の為にも言っておかなければならない。


風音「えらいっ! そういうの大事!」


 風音がゼロアを褒める。


風音「慈善事業じぜんじぎょうじゃないけどさ、依頼人を大事にしないと次に繋がらないしね」


レスタ「ですよねぇ、僕もそう思ってました」


 風音がそう言うならその通りだ。異論など無い。


風音「で、本来の依頼内容は?」


ゼロア「犯罪組織の壊滅だ」


風音「え・・・規模でか・・。それで何日も居なかったのか。移動時間を抜いたら日帰りでいける仕事らしい、ってワグナさんから聞いてたんだけど」


 最初どういう目算もくさんで日帰りとか言ってたんだろう?

 それはそうと、じゃあ逆に早すぎないか? こうなってくると本当に終わったのかの方が気になる。一週間くらいで帰って来たし。


ゼロア「思いのほか面倒事が多かったからな・・・」


エリス「そんな仕事を五万クインで引き受けて貰って・・・もう感謝しかないね」


 エリスが申し訳無さそうに言う。


風音「五っ・・・!! ・・・万、ですか」


 その安さに驚く。こっちの感覚はやはりレスタと同じだったようだ。


 風音がゼロアの目を見る。


風音(マジで?)


ゼロア(マジだが?)


 ゼロアとは目の動きだけで会話が出来る。


エリス「やっぱり安すぎると思わない?」


 今の風音の反応を見たエリスが尋ねる。


風音「いや別に・・・ん、まぁ正直安すぎるけど。 でも僕らが取ってきた仕事をゼロアが勝手に安値で受けたら問題だけど、ゼロアが引き受けて自分の判断で金額を決めたなら別にいいよ。その内容ならワグナさんは一言相談しろって怒るかもしれないけど、ワグナさんには僕から言っとく。報告書は書いてる?」


ゼロア「ああ、一週間分だ」


 四つ折りにしていた報告書を胸の内ポケットから取り出す。

 受け取った風音が目を通す。

 初日からシエロが関わっていると書いてある。


風音「・・・シエロからはいくら貰ったのかな?」


ゼロア「何も貰っていない」


風音「そっか」


 風音がすぐにシャロンのレイ長官に電話を始める。


レイ「なんだ? 私に直接電話という事は、かなりの急用か?」


風音「うん急用。ちょっと確認したい事があって」


 今回の事情を説明した。


風音「・・・で、この場合ウチはシエロからいくら貰えるのかな?」


レイ「ゼロア君が何も言わなかったんだから、無しだろう」


風音「いや御冗談。報告書を見る限りではそっちが勝手に来たくせに、ゼロアを利用して連れ回したように見えるけど」


 と文句を言う風音を見てゼロアが。


ゼロア「済んだ事だ。別にもういいだろう。それより電話の相手がシャロンでシエロの話題なら丁度良い。ちょっと変わってくれ」


 まだ会話中の風音の携帯をひったくる。


ゼロア「誰だ? こちらはゼロアだ。シャロンにもう一度宇宙への外出許可を貰おうと思っていた」


レイ「こちら長官のレイだ。・・・外出の目的を」


 レイの声に緊張が混じる。


ゼロア「クコという植物は知っているか?」


レイ「地球に存在する物か? それらしいものは・・・あるみたいだが」


 手元で調べながら喋っているようだ。


ゼロア「いや異星の物だ。猛毒の」


レイ「ああ、知っている」


 即答。これは調べずとも知っていたようだ。


ゼロア「以前シエロにクコ入りの飲み物を出された事があってな」


レイ「らしいな。私は当時あの場所に居なかったから詳しくは知らないが、その件は話し合いで解決したと聞いているが?」


ゼロア「最近思い出したんだが、肝心のシエロ本部への礼がまだだったんでな」


 クコ料理を提供してくれた人達へのお礼巡りは終わらせたが、シエロだけまだだった。

 あの時騒動を起こしてしまったので、しばらくシエロに近付いてはいけない状態だったからだ。

 まぁいずれ・・・と思っていたが、久しぶりにクコを口にするまですっかり忘れていた。


レイ「礼・・・?」


 毒を盛られた事に対する礼? と、レイの背筋が凍る。


ゼロア「明日にでも適当に何か見繕みつくろって、シエロ本部に行こうかと思っていたところだ。外出許可は明日までに用意出来るな?」


レイ「ちょっと・・・待ってもらえるか?」


 そう言って電話を切る。

 ゼロアが携帯を耳から離して通話を切ったのを見て、風音が抗議する。


風音「ちょっと何勝手に切ってんの? まだ言いたい事が山ほど・・・」


レイ「いや・・・またかけ直すらしい」 


風音「そう。今度はちゃんと代わってね」


 返信を待つ間、しばらくエリスと雑談する。

 もう用事は終わった様なので帰るらしい。

 雑談の中で分かった事だが、エリスが高校入学と入寮を検討しているとの事。

 風音が帰りを見送るついでに、寮のパンフレットの場所を教えに転移装置で炎火に転移した。

 レスタは何となく風音の方に付いて行った。これは大体いつもの事だ。


 ゼロアだけになったくらいのタイミングで、返信が来る。


レイ「お待たせした。結論から言おう。外出許可は出ない」


ゼロア「理由は?」


レイ「シエロに確認したが、目的が分からない者をシエロ本部に近付ける事は出来ないという返答だ」


ゼロア「礼だと言ったが?」


レイ「真意の方だよ」


ゼロア「真意とは?」


レイ「駆け引きはやめよう。要は今回の件で報酬が無かった事に不満があるんだな?」


ゼロア「何を言っている? 幻聴でも聞こえているのか?」


レイ「二百億借金を減らそう。それで納得してほしい。過去の事は改めて私から謝る。・・・すまなかった」


ゼロア「それより誰か普通に会話が出来る奴と交代してくれ」


レイ「とにかく決定は変わらないので、以上だ。風音君にもそう伝えておいてくれ」


 と言って電話を切られる。

 通話が終わったのでこちらも切る。


 しばらくして、風音が帰って来た。


ゼロア「返信があった」


 携帯を差し出しながら言う。


風音「あ、代わって代わって」


ゼロア「いやもう切れた」


風音「だからなんで勝手に切る」


 携帯を受け取った風音が愚痴る。もう一度かけ直す為に、ポケットにはしまわずに手で持ったままでいる。


ゼロア「毎回向こうが勝手に切るからだ。それと、風音に借金を二百億減らすと伝えておいてくれと言っていた」


風音「えっ!?」


 二百億? 借金の事でレイが言ったのなら、その通貨単位はフェクトで流通しているクインではなく円のはず。かなり高めだ。

 そりゃ大規模犯罪組織の壊滅ならそれくらいになるのも分かるが、さっきまで渋っていた組織の決断にしては・・・ずいぶん思い切ったな。

 電話で確認しようか? いやここは敢えて触れない方が良いのか? 変に突っ込んで修正されても困る。

 風音が携帯をしまう。


風音「電話で何か交渉でもした?」


ゼロア「してない。それとひとつ覚えておいて欲しい事がある。お前にとっては悲しい現実だが、受け止めろ」


風音「なになに? 怖いよそのフリ」


ゼロア「今電話に出てたお前の知り合いな、幻聴でも聞こえているのか会話が成立しない」


風音「んな馬鹿な」


ゼロア「あれはもう末期だ」


風音「ふ~~ん・・・」


 ゼロアが言うんだからそうなのか?

 じゃあ二百億の件は信用出来ないじゃないか。


 ・・・と思っていたが、ワグナに確認してみるとちゃんと借金は減額されていた。


 じゃあまぁ・・・いいや。


 はいあとがき!!


 どうもお疲れ様でした~。・・・って言うほど長くもなかったですかね本編に比べると。

 それでも三万字もありましたしね。

 ここまで読んでくれてありがとね。


 今回のはアレですね。神狼と違って、ちゃんと本編の三話を読んでないと意味分からんやつですね。

 本編からカットされた部分でした。本当の意味での三話のこぼれ話みたいな。


 さて。

 久しぶりに・・・いや初めてかな、ちょっと真面目なお話を。

 小説の中身にしても、あとがきにしても。あんまり時事ネタは入れない方が良いかな、というのが僕のスタイルというか考え方なんですが。

 しかし敢えて触れていこう。

 コロナね。

 皆さん大丈夫ですか?

 自分や家族が大丈夫でない人。みんなみんな快復しますように。

 そして大丈夫な人。その調子で家で小説でも読み倒そうぜ。この場所にはいっぱい作品があって、暇なんかいくらでも潰せますから。

 この機会にいろんな作品を読んじゃいましょう。ついでに書く方をやってみるのも面白いかもですよ。


 それでも気が滅入ってきたら、軽く運動でもしましょう。

 僕も最低週二回はきつめの自宅トレーニングをしています。そんで終わった時大体ふくらはぎと太ももが死んでます。足の運動だけはホント慣れないな・・・。

 外出自粛状態ですが、そんな感じで体も精神も健康を維持していきましょうね。


 ちなみにここからは人によりますが。

 あくまで僕はそう、ってだけなんですが。

 あえてネガティブなニュースばっかりを連続して見ないようにね。情報収集は大事ですが、精神が落ち込んでいきますから。

 ネガティブな情報を見て気分が沈んだ時は、その後で明るい情報や明るい動画でも見ましょう。

 そこは明るい小説を読めとは言わないです。精神的にしんどい時は、内容が明るかろうが文字を読む事が精神に来ますから。・・・まぁ人によりけりですけどね。


 以上・・・なんか露骨な点数稼ぎみたいにも見えますが、全部本心ですよ?


 よし時事ネタ終わり。


 うん、もういいかな三.五話は。

 前回のあとがきで言ってたっけ、あと二つある予定だったけど、それはまた機会があればって事でとっとと四話に行かんと。

 四話は実家篇かな。・・・まぁ未定ですけど。


 じゃあまたね、ありがとうございました。

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