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カノン  作者: しき
第3.5話
30/206

神狼


風音「この新システム開発って、一人じゃきついのかな・・・? 二人くらい割り当てる?」


ワグナ「そうですね。レスタ君とアリエイラさんに頼みましょうか」


風音「正直専門外だから、全然分からないなこういうの」


ワグナ「私もです。直接どちらかをここに呼んで、依頼に目を通してもらった方が良さそうですね」


 大和の山奥に停泊している大きな宇宙船カノン。

 その艦長である音羽おとは風音かざねが、仕事の話をしに事務室に来ている。


 艦長という肩書だが、まだ彼は二十歳になったばかりの青年。

 そんな若さながら過去には宇宙を冒険した経験もあり、今や立派に(?)艦長を務めている。

 いつもの様に風音の頭には大量の髪留め、そして仕事用の黒のジャケット姿。

 普段から女性に間違われやすい顔をしているのに、この髪留めのせいでさらに見た目が男性から遠ざかっている。


 風音と話をしているのは異星人のワグナ・トリミア。

 カノンの女性事務員で見た目はほぼ地球人と変わらない。外見年齢20代半ばで、仕事が出来るクールな印象の眼鏡美人。


風音「あとは・・・セイニーも働きたがってたっけ」


ワグナ「ちょっと早いですかね・・・。 彼女はもう少し地上の文化に慣れてからの方が・・・」


 今は特に大きな仕事の依頼もないので、ウチで出来そうな仕事を探そうとワグナと会話をしていたら。


 ドォン!!!


風音「ん? なんだ?」


ワグナ「何でしょうね?」


 急にどこかから大きな音が。


ワグナ「この感じだと外じゃなくカノン内ですね。近くでしょうし、私が見てきましょうか?」


 カノンの防音設備なら、よほど壊滅的な音でない限り他の階層からの音は聞こえない。

 そして同じく同階の他の部屋内の音も、かなり大きな音でないと聞こえにくい。


 つまり今の様にはっきり音が聞こえたという事は、この階の廊下で何かが起こったという事だろう。


風音「いや僕が見てくるよ。どうせリロとゼロアが喧嘩してるか、サルトさんとルミナが喧嘩してるかだと思うし」


 そう言って事務室から出て行こうとすると、事務室のドアが大きな音を立てて開いた。


 驚いて風音が見ると、そこには童顔巨乳でおなじみの事務員、虹月こうづき癒々ゆゆ

 日本人らしい漆黒の髪で、煉也と同じくらいの長さの膝くらいまでの髪をしている。

 その髪の両サイドと後ろをひもやゴムではなく、白い布でクルクル巻いて縛っているので、長髪の巫女みこさんチックな見た目。


 なぜか泣いているようだ。


癒々「カザ!!! いる!?」


 大きな泣き声でそう叫びながら、癒々が事務室に入って来た。


風音「はい・・・いてますけど」


 ちょっとビビりながら答える。


癒々「だったら私はカザと結婚すればいいんでしょ!?」


 机を叩き、机上きじょうにあったペンを破壊しながら叫ぶ。


風音「急に何・・・? どういう事?」


 内容に何の脈絡みゃくらくもない。

 そして言葉の内容とは違い、怒りをぶつけられているように聞こえる。


 事情を察したワグナが間に入る。


ワグナ「また煉也れんやと喧嘩でもしたの?」


 片桐煉也かたぎりれんやとはカノンの乗組員であり、風音の幼馴染のお兄さんだ。ついでに癒々も二人の幼馴染。


癒々「もう絶交! あんな人もう知らない!!」


ワグナ「あなた達何回絶交するの?」


癒々「これで最後。 もう終わり。あの人とはもう終わり」


 泣きながらそう答える。


ワグナ「じゃあ今度こそ、もう嫌いになったって事でいいの?」


癒々「・・・・・・・・・」


ワグナ「嫌いって事でいいのね?」


癒々「・・・・・き・・・・」


 泣きながら小さく息を吸い込む。


癒々「・・・・・・・好きぃ・・・」


 そう呟いて、両手を顔に当ててさめざめと泣き始める。


 風音が小さくため息。

 ・・・聞かなくても大体分かるけど、一応尋ねる。


風音「取り敢えず事情を聞かせて?」


 癒々が泣きながらぽつぽつと語り始めた。


 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


 要するに痴話ちわ喧嘩げんかしたという事でした。

 まぁいつもの事だ。


 癒々の説明が長かったので要約すると。

 つい先ほど二人で談笑していたら、九重ここのえと廊下ですれ違ったそうだ。

 九重とは挨拶しただけで終わったのだが、それを機に癒々と煉也の話題が「九重が風音にやたら結婚を勧めている」というものになった。

 その際煉也が、「カザはあれで間の抜けた所もあるから、癒々が奥さんになって支えてあげたらうまくいくんじゃないか?」とか言ったらしい。


 という事だが、話を聞き終わった風音が。


風音「うん・・・なるほど、じゃあちょっと今から煉兄れんにぃしばき回してくるわ」


 それは確かに許せん。

 別に間抜けと言われた事に腹が立った訳じゃないよ。あくまでその後の発言が許せないだけです。


 肩をグルグルと回して、事務室を出て行こうとする。


ワグナ「まぁ落ち着いて艦長。今更艦長が手を下さなくとも、さっきの音が全てを物語っているでしょ。それと・・・」


 泣いている癒々を置いて、少し離れた場所に移動して小声になって話す。


ワグナ「そもそも艦長は、なぜ今の話を聞いて煉也に問題があると思ったのですか?」


風音「そりゃ・・・当然でしょ。付き合ってる彼女にそんな事言ったら、普通彼女は怒るよ」


 それともワグナは自分の彼氏が突然、他の男と結婚しろとか言いだしても怒らないのか?

 と疑問の表情。

 ワグナが小さく首を振って否定する。


ワグナ「もうこの際バラしてしまいますが、あの二人は別に付き合っていません」


風音「え? ・・・・・・。 いやいやそれは無い。だってあの例の部屋でいっつも・・・」


ワグナ「例の部屋って、子作り部屋の事でしょう?」


 カノンには各々に割り当てられた自室とは別に、そういった目的の為だけに使用する区域がある。

 まぁ・・・ラブホテル区域みたいな場所が宇宙船内の一区画に存在すると解釈するのが早いか。


風音「子作り・・・ストレートに言うとそうなんだけど、あの部屋をよく二人で使ってるんじゃなかったっけ? それで付き合ってないとか、二人はそんなただれた関係?」


 幼馴染だからあの二人の性格は熟知している。 あの部屋を二人で使用するという事は、イコール付き合っていると考えるのが自然だ。


ワグナ「あれは癒々が考えた演出です」


風音「演出とは?」


ワグナ「艦長はあの二人があの部屋の掃除を担当しているのを知らないでしょう? まぁえて黙ってましたから、知らなくても無理は無いのですけど」


風音「掃除担当?」


 ・・・確かに知らなかった。

 じゃあ二人でよくあの部屋に入ったり出てきたりしていたのは、掃除の為だったのか。

 しかしどうしてそれを隠す?


 そう疑問を浮かべている風音に、ワグナが答える。


ワグナ「だから演出。今の艦長みたいな勘違いを生むのが狙いですよ。二人であの部屋を使っていると思わせておけば、両方に悪い虫が寄ってこないでしょ?」


風音「まぁ・・・確かに」


 同性から見ても煉也は優しいし見た目もかっこいいし強い(異星人には特に、強い男は女性戦闘民族を中心にモテる傾向にある)のに、煉也に色目を使って近付こうとする女性クルーは一人もいない。例外は女性版の千丸くらいだ。


 癒々も同じく。顔にも体型にも恵まれ、性格まで良いのに男性版千丸くらいしかこなをかけようとしない。

 千丸はああいう生態というか変態だし、煉也も癒々も黙殺もくさつしているから除外するとして考えるなら。

 なるほど確かに。互いに一人も悪い虫が寄ってこない、公認の美男美女カップル状態だ。


 そして謎が一つ解けた。

 ・・・いや前々から一人の幼馴染として、疑問には思っていたのだ。

 なぜあんなに堂々と見せつける様に、皆の前であの場所に出入りしているのかと。

 羞恥心しゅうちしんとか無いのかな? と思っていた。


風音「でもじゃあなんでとっとと付き合わないの?」


 素朴そぼくな疑問。


 そんな疑問を投げかける風音を見て。

 はぁ~・・・。 とワグナが大きな溜め息。


ワグナ「分かってないですね艦長は。まだまだお子様というか・・・」


 呆れた顔のワグナに、風音が理解不能の表情。


風音「じゃあワグナさんには理由が分かると?」


 ワグナが得意気に眼鏡を中指でクイッとする。


ワグナ「恋愛っていうのはね。付き合ってからも楽しいものだけど、それまでの過程が楽しいのよ。付き合ってからじゃ味わえない・・・こう・・・胸が締め付けられる苦しみと、それを遥かに上回る幸せと。もう・・・毎日が輝いてるの。 私だって若い頃は・・・」


風音「若い頃は・・・って、ワグナさん今でも若いでしょ」


 まだ地球周期で40歳過ぎくらいだ。

 今日は元々機嫌が良かったワグナの表情が、五倍増しで恵比須えびす顔になる。


ワグナ「もぅ艦長。そうやってお世辞を挟まなくていいですから。 のど飴食べますか?」


 机の上の置いてあった飴を、袋ごと風音に渡す。


 別にお世辞で言ったつもりもなかったが、ワグナ本人は他の乗組員達との倍近い年齢差を気にしているようだ。

 長命種であるワグナの星の種族は、地球年齢40歳ならまだまだ若かったはず・・・確か90歳くらいまで若者じゃなかったか。そしてそれに比例するかのように、地球人に比べると肉体的にも精神的にも成長がゆっくりだ。

 つまりワグナは地球人に換算すると、心身ともに20歳手前くらい? 18、9歳くらいか。

 だったら精神年齢や肉体年齢は、風音や他の女性乗組員のリロとか神楽かぐらとそんな変わらない。いやむしろ実年齢以外は、ワグナの方が年下という見方すら出来る。


 ただ悲しい事に、ここまでのデータからも分かるように。

 ワグナは地球人換算かんさんでは計算上20歳手前くらいのはずなのに、見た目は20代半ば。

 そう。

 ワグナの星の基準で言えば彼女は「ちょっとけている」のだ。


 それを自覚しているからなのか、本来はまだ若いという事を自分からアピールする事は無い。

 なぜなら「必死に見える」から。

 そういうのもあり普段から、無理して年長の女性として振る舞っているようなところがある。


 風音が袋から飴を一個だけ取って、飴を口に入れながら机に戻す。


風音「って事は、その・・・交際前の幸福な期間? を楽しむ為に今の状態を続けてるって事?」


 恋愛している時が幸せ、なんて言う人も確かにいる。


ワグナ「癒々の方はね。 もちろん煉也が付き合おうと言えば、すぐにでも付き合うでしょうが。あえて癒々からは言わないみたいですね」


 その結果、癒々の事を仲の良い幼馴染だと思っている煉也から、そういう発言が出たのか。

 煉也は癒々に少なからず好感は持っているはずだが・・・。まだ付き合うとかいうには一歩早いような状態?

 って言うか。

 だから癒々はこの状況が楽しいんじゃないのか?

 自分は相手が好きで、相手も少なからず自分の事が好き。そして現在は他の女性には目移めうつりする事も無く、良い友達として接してくれている。


 その今の状態が幸せだと。癒々本人がこの日常を望んでいたんじゃないのか?

 そんなある日、煉也から癒々に対しての消極的な意見が日常会話で出たとしても、別に煉也に非は無くない?


風音「そっか・・・。じゃあ煉兄ぃ大して悪く無いなぁ・・・。 今回の煉兄ぃの落ち度を強いて言うなら、ニブいだけか。 こんなに分かり易いんだから気付いてやれって話だよ。 全く、男としてどうなんだよ」


 呆れる風音。そしてワグナがニッコリと微笑む。


ワグナ「私からは何も言いませんが、この会話が艦内放送なら総ツッコミでしょうね」





 ようやく癒々が落ち着き始めたところで、ワグナが提案する。


ワグナ「そうだ癒々。せっかくだから、煉也に嫉妬しっとさせない?」


癒々「・・・? どういう事?」


ワグナ「あなた達いっつも一緒にいるじゃない? だから煉也は一緒にいるのが当たり前みたいに思ってるのよ。 でも実際癒々と艦長が、本当に二人っきりで他の星に旅行に行ったとしたらどうかしら? 表面上はお似合いだなんて言ってても、多少の喪失感そうしつかんはあるはずよ。自分には癒々が必要だったって気付かせるの」


 名案を出したという得意気なワグナに対し、風音は乗り気でない表情。


風音「そうかな? 話を聞く限り、煉兄ぃのニブさは本物だよ。旅行がきっかけで僕達二人の仲がより深まったって解釈される方が、癒々さんにとって最悪のケースじゃない?」


 癒々が少し不安そうな表情をしたが、開き直ったようにワグナの方を見た。


癒々「いや・・・やってみたい。 上手くいけばそれでいいし、誤解されても訂正すればいいだけだから」


風音「そっか。 癒々さんがそれでいいなら別にいいけど。 でもその前に。癒々さんはともかく、僕は借金のせいで他の星に旅行に行けないんだけど」


ワグナ「そんな艦長が他の星に行ける例外と言えば?」


風音「例外・・・仕事?」


 他の星からの仕事の依頼。

 太平洋に浮かぶ人工島フェクトに、シャロンという名の異星人を中心とした治安組織がある。

 そのシャロンとシャロンの親組織シエロからの依頼なら、風音も地球から出る事が出来る。


ワグナ「はい。 ちょうど裏側から仕事の要請ようせいが来ています」


 ワグナが自分のパソコンを操作する。

 癒々の机と風音が座っていた机にあったパソコンの画面に、裏側(ここではない別の宇宙)からの仕事の依頼が映る。


風音「一応いちおうシャロンからの依頼、って扱いね。 実際はシエロからの協力依頼の仕事で・・・害獣駆除がいじゅうくじょ?」


 隅から隅まで読んでも全然詳しい情報が載っていない。まさかとは思うがこれ、もし引き受けたとしたら詳細は現地で調べろという事か?


 本来の依頼人はその星の現地の人らしい。しかしまだその星がどこかという情報すら書いていない。

 普通こんな不親切な依頼があるか?

 分かる事は害獣駆除の依頼だという事と、シエロから現地の人達への協力要請が出ているという事だけ。


 風音が少し嫌そうな顔をする。


風音「どうせならシエロが関わってない依頼で、他の星に行けるやつ無いの?」


 守銭奴しゅせんどのシエロが関わっていると、あんまり借金が減らないから引き受けたくない。

 仕事内容も詳細が書かれていない事から、意図的にシエロが伏せているのかもしれない。なら割に合わない仕事である可能性も高い。


 普段なら断る案件だろうこれは。


ワグナ「残念ですけど、他の星に行ける依頼は他に無いですね。もちろん今回の目的を考えれば、普通に地球内で二人が旅行に行っても構わないのですけど。カノンから山を下りて、二人で鹿でも見に行きますか?」


 ワグナは今日、本当に機嫌が良い様だ。

 まさか休日でもない日に二人で旅行してこいとまで言い出すとは。


風音「それもいいけど・・・どうせなら借金返済に時間を使った方が有意義かな」


 機嫌が良すぎる人って逆に怖いので、ここはいつも通り無難ぶなんな回答をしておく。


 詳細は現地に着いてから聞こう。

 今回の様に依頼内容が明確になっていない場合、内容次第で契約にのっとって現地で断る事だって出来る。

 でないと無茶苦茶な依頼を引き受けさせられる事だってある。

 断る理由をシャロンに説明し、適当に観光してから帰ってくればいいか。




  ------------------



 ソラプニバ・エンビリドウ星。

 風音も癒々も、一回聞いて即座に名前を忘れた星に到着した。

 文明はそれほど進んでいない。地球で言うと1800年代?

 普通ならこの文明レベルの星に宇宙船は来ない筈だが・・・。


風音(宇宙港を作らざるを得ない理由が、この星にはある?)


 ・・・とかどうでもいい事をいろいろ勘ぐってしまうのは悪い癖だ。

 今回そういうところにはあまり踏み込まない方が良いか。


 宇宙船から降り立った風音が少し驚く。

 たくさんの出迎えが居る。


風音「現地の人がわざわざ出迎えてくれるなんて、珍しいね」


 大体こっちから訪ねていくのが普通だ。


癒々「そうなの?」


 他の星へ行く依頼など受けた事が無い癒々には、これが普通の光景だと映っていたようだ。


 宇宙船から降りた風音達に、現地の人達が群がってくる。民族衣装のような服を来た人達、その数二十人ほど。

 その中から、分かり易い長老みたいな人が出て来てひざまずく。


ロイ「私はカッホムラチト・ロイトリポチテと申します。救世主様」


 これも聞いたそばから忘れてしまったので、ロイさんと呼ぶ事にした。

 ロイさんはそう言って地面に頭を付ける。

 これが誰かに何かを頼む時の動作なのだろうか、日本の土下座に近い。


風音「あの、顔を上げて下さい。救世主様とかそんなんじゃないですから」


 いきなりのこの対応に、風音が戸惑う。

 癒々は長老のロイさん? を立って見下したままの状態を嫌ったのか、同じように地面に正座して頭を下げる。


癒々「いえこちらこそ。しばらくこの星にお世話になります」


風音「いやほんと、立と? 二人とも一回立とう?」


 いやこれちょっと・・・断りにくいな。

 内容がちょっとでも気に入らなかったら、すぐに観光路線にしようと意気込んできたのに。

 これはよっぽど無理な依頼でないと断れないな。


 と言う訳で、早速害獣駆除の詳しい情報を聞く事に。


ロイ「駆除して頂きたい獣の数はおよそ20頭。わたくし共は普段あの獣を「シフ・カカライ」と呼び大切に扱っております」


風音「大事に扱っている生物を駆除する理由は何ですか?」


 大切な生き物を駆除?

 害獣駆除依頼と聞いて来た風音にとっては、当然の疑問だ。


ロイ「駆除する理由は、人類に害を与える大変強力な獣だからです。今回だけでも、もう十人以上犠牲になっているという現状なのです。 基本的に自分達の縄張なわばりから出てくる事は決して無いのですが、時々大きく数が増えるのです。そうすると人類の生活圏まで縄張りを伸ばそうとします。少しくらいなら人類側が土地を移動すればいいのですが・・・そうするとどんどん縄張りの範囲を広げ、いずれ人の住む土地が無くなります。もう人類側は過去に、これ以上不可能な程土地を追いやられてしまいました。わたくし共も共存出来ればそれでいいと思うのですが、放置しておけば大地の全てを縄張りにするまで止まらないのでしょう。全て殺してしまうのは傲慢ごうまんな行為であるので禁止としていますが、今以上に数が増え縄張りの範囲を広げようとした際はどうにか抑制しなければ、という状況でございます」


風音「時々増えるって事は、土地を追いやられてから数が増えるのは今回が初めてじゃないって事ですよね? 前回の時はどう対応したんですか?」


ロイ「他の星から大きな機械がやってきて・・・他の生態系にも大きな被害が出ましたが、どうにか。 その時は戦って下さった方が五人も亡くなられて・・・」


風音「亡くなった・・・?」


 マジか・・・マジか。

 大きな機械ってなんだ? 兵器じゃないのか?

 裏側の技術を持ってして兵器を使用して、獣に五人も殺された?

 どんな獣だ。

 兵器を使っていいなら、獣なんてありんこに等しいだろうに。


 ん? という事は、もう一つやらなければならないことがあるのか?

 ここの人達が、そんな獣の縄張りに近付く事なんて出来ないだろう。


風音「今回犠牲になった人達の遺体って、まだ縄張りの中にいて回収されてないって事なんですか?」


 もう腐っているかもしれないが、骨くらいは回収して供養してあげた方が良いのでは?


ロイ「いえ。シフ・カカライの犠牲になる者は、二つの末路に分かれます。縄張りから暴力で排除される場合と、食料になる場合。排除の時は粉々にされて広範囲にばら撒かれます。回収は出来ません。食料になった場合も同様、骨すら残りません」


風音「あ、そうなんですね。・・・喰われてるのか・・・」


 てっきりロイの言葉にもあったように、縄張り意識の強い獣が邪魔な生き物を殺しているだけかと思っていた。

 そうか。人を喰うのか。

 縄張りから出て来て人を狩りに来ないという事は、好んで食べているわけではないのか?

 あくまで縄張り内に居たから食べた、と?


 考え込んでいる風音から特に追加の疑問が出ないので、癒々が尋ねる。


癒々「シフ・カカライとは何か意味合いがあるのですか? ただの名前ですか?」


ロイ「シフとは神を表す古い言葉です。カカは勇敢ゆうかんな、大きなというような意味合いであり、ライは・・・こういった獣の総称です」


 ロイが地面に、四足歩行の犬のような絵を描く。


癒々「動物の名に神をかんする事は、よくある事ですね。 そして勇敢で大きな犬・・・地球でいう狼のような生き物ですか」


 癒々が絵を見る。

 こんな獣が・・・わざわざシエロが引き受けてまで駆除しなければならない獣?


癒々「しん・・・ろう・・・ね」


 日本で表現するなら・・・神狼しんろう

 ただ何となく「しんろう」って呼び方、凶暴な獣にしては覇気はきに欠ける。


 現地の人達の呼び方にならい、神狼シフと呼ぼうか。



   ------------------



 泊まる為に用意してくれていた建物に着き、部屋で二人で会議をする。


風音「どう? いけそうだと思った?」


癒々「どうなんだろうね? 音の速さに近い速度の獣だよね?」


 先程の現地人たちの集まりには、その獣の詳細を聞いてから解散してもらった。

 火を吐くだとか、電気を製造する器官を持っているだとか、そういう特殊な能力を持っているわけではないようだ。

 ただただ速い。

 彼らが本気で動く度、大きな破裂音が鳴るらしい。


癒々「私のプロレス技が効くと思う?」


風音「見てみない事にはどうにも。ジッとしてくれれば通じるとは思うけど」


 癒々は治療が得意だが、風音の様に毒を出したりというような特殊な事はしない。

 出来る事といえば、投げたりぶん殴ったりして戦う事くらいだ。

 癒々は風音の父親が経営する空手の道場に通っていたのに、なぜプロレス技ばかり使うようになったのかは謎のままだ。


風音「ちなみに僕は無理だと思う。下手すりゃ死ぬよ。音速以下とはいえ、そんな速度で大きな塊が突っ込んで来たら、回復なんか間に合わない。即死するよ。触れた瞬間にバラバラだと思う。しかもシエロの依頼は生け捕り? 現地の人達は駆除さえ出来ればいいって感じだったけど・・・」


 やっぱりシエロがいろいろ情報を伏せてやがった。こっちに着いてから生け捕り依頼という情報が追加されるわ、予想以上に凶悪な獣だと知らされるわ・・・。


 ・・・反対を押し切ってでも、ユニルを連れてくるべきだったか。

 周囲の被害を考えなくていい戦闘こそ、風の妖精である彼女の真骨頂しんこっちょうだ。

 風音は連れて来るつもりだったが、ワグナが反対していたから連れて来なかった。この仕事の本来の目的は、煉也に二人で旅行に行っていると思わせる事。

 ユニルを連れて来てしまうと、仕事で行ってるのかなと思われてしまうからだ。


風音「ユニィが居れば、いくらでも速度を軽減させる事が出来たんだけど・・・」


癒々「大丈夫だよ。最高速度では真っ直ぐにしか走れないらしいじゃない?」


 ちょっと風音が考えたが。


風音「その情報に大丈夫な要素が見当たらない・・・」


 だから致命的な物体が真っ直ぐ突っ込んでくるって事じゃないか。


癒々「そう? よく考えてみて? 活路かつろ見出みいだせないかな?」


風音「・・・ギリギリで避けて方向転換させている間に叩くとか?」


 ギリギリだと風圧とかは? 立ってられるのかな? 衝撃波は音速を越えないと出ないんだっけ?

 様々な疑問も出てくる。

 撃たれる瞬間さえ分かれば光速のレーザー光線すら避け続ける風音だ。その何十万分の一の速さである音速など、相手の動きを見てれば事前に避ける事など余裕だ。

 それこそ避けるだけでいいなら、今から朝まででも避け続けてやる。

 しかしそれは避けるだけの場合の事で、反撃の為に引き付ける必要があるとなると・・・。予測して事前に安全な場所に身体を移動させる事とは意味合いが全然違う。タイミングを一瞬間違えると即死だ。

 まだ距離がある内に避けてしまうと、体勢を立て直してまた突っ込んでくるだろうし。そうなったらずっと相手のターンだ。


癒々「そんな消極的でどうするの。 カザが正面から受け止めようよ。止まった相手を私が叩くから」


風音「え、僕の意見聞いてた?」


 この人遠回しに死ねって言ってる?


癒々「まぁまぁ、作戦を考えたから。大船に乗ったつもりでいこう」


風音「えぇ・・・。 不安しかないな・・・」


 依頼を断りたかった風音とは違い、癒々に断るという選択肢は無い様だ。





 凶悪な獣が相手なので、下準備などにも時間が掛かると思ったのだろう。

 現地の人達の予想では、駆除開始は到着二日後以降だと思っていたようだ。

 今日はもうすぐ夜になるので寝てもらい、そのあと二日くらいもてなす気で準備をしていたようだが。


 二日も待ってられない。とっとと現物を見たい。

 どんな獣かも分からないまま、不安な二日間を過ごしたって精神的にしんどいだけだ。


 ロイに駆除対象の神狼が居る場所を聞き出し、偵察に行ってみると言って出て来た。

 現在神狼は大きな森を抜けた先にある平原を縄張りにしているそうだ。

 つい先日までその平原は、人が管理していた場所だ。このまま森まで、そして今住んでいる居住地域まで縄張りを広げるのはもう時間の問題だという。

 つまりその平原を縄張りとしている神狼を全て駆除すればいいのか。

 それがおよそ20数頭くらい、と。


 神狼はどうやら夜行性で、夜は狩りなどの為に単独行動をする獣らしい。

 昼も基本単独行動だが、夫婦や子供がいる神狼はある程度固まって行動している事もあるとか。

 情報を聞く限り、正直むれはキツい。

 単体の時に狩る方がいいだろう。そろそろ辺りも暗くなり始めた頃だし、今からやる方がいいと判断した。


 しばらく街から離れた方向に歩いていく。

 そのまま森に入り、森の中の一本の舗装された道を歩きながら。


 さて・・・この辺で、そろそろ思っていた事を言おうか。


風音「癒々さん・・・なんでそんな恰好かっこうなん?」


 髪型が巫女さんチックなのはそのままだが。

 問題は首から下全部。

 ピッチピチのレオタード姿のような恰好。

 胸の形がくっきり見えて、胸の下や側面を中心に穴が何ヶ所も開いているので、谷間やら下乳やら脇腹なんかが丸見えだ。

 背中もガラ空きで見えている部分が多くあるが、そっちは長い髪の毛で大半隠れている。

 腰回りにヒラヒラが付いているが、太ももの付け根より下は尻も含めて丸出し。・・・かと思えば、膝下ひざしたはプロテクターの様なものにおおわれている。

 そして周囲が暗くて分かり辛いが、紫と黒の鮮やかな色使い。


 女子プロレスラーの・・・特にセクシー寄りの衣装?

 しかも癒々は胸がでかいしウエスト細いわりに太ももごついので、物凄ものすごく目のやり場に困る。


 ちなみに女子プロレスの衣装は激しい動きに耐える。衣装がズレて大事な部分が露出しない様に徹底されている。

 だから破れたりしない限りは、今以上に見た目がセクシーになる事は無い。・・・だからこそ、動きの無い時点で限界まで大胆な衣装が好まれるらしい。


 しかしそれは興行こうぎょうでの話であり、なぜ癒々が個人的にこのチョイスをしているのか・・・。

 防御力が下がるだけのような・・・。


風音「絶対間違ってる気がする・・・」


癒々「それはむしろこっちの台詞せりふだよ。なんでカザは道着に着替えないの? 研刃けんじんさん仕込じこみの空手は使わないの?」


 音羽研刃。実家で道場主をやっている風音の父親の名前だ。


風音「動物と戦う時にわざわざ着替えないでしょ」


 というか人とやる時も着替えないわ。そもそも持ち歩かないわ。

 今もそうだが、わざわざバッグ持参で持ち歩いている方がおかしい。


風音「もしかして衣装と技が連動してると思ってる?」


癒々「なわけ無いでしょ、気合いの問題。 本物の格闘家は、本気衣装を着た時リミッターを外せるんだよ。 カザみたいな気の抜けた心根で、本当に勝てると思ってるの?」


 癒々が気合いを入れるかのように、バチンッ! と自分の両拳を叩き合わせる。


風音「・・・空回りしないようにね」


 もういいや、この人はこれで。



 森を抜け平原に出てしばらく二人で歩いていくと、突然二人同時に止まる。


癒々「あら・・・? 今ゾッとしたね」


風音「うん。縄張りに入ったね・・・というか、るわあそこに」


 風音が前方を指で差す。


癒々「どこ? 全然見えない・・・。 相変わらず目が良いね」


 目を細めて前方を見ている癒々の腕を、風音がつかむ。


癒々「え? なに?」


風音「1・・2・・・3っ!!」


 腕を掴んだまま、その場から大きく跳んで離れる。


 一秒ほど前に二人が居た場所を、凄まじい勢いで巨大な固まりが通り過ぎて行った。

 いきなり襲い掛かって来たようだ。

 聞いていたような大きな音は鳴らなかった。まだ本気の速度ではないのか。

 それでも二人の全身を、強烈な風が叩く。


 そして通り過ぎる瞬間、見た。

 白銀の美しい毛並みの、見上げれば3メートル近くはあろうかという巨大な犬型生物。


 すぐに通り過ぎた方向に視線を向ける。


風音「1・2・・3」


 また跳び退く。

 そして再び同じ事が起こる。

 再び視線を神狼の方に移すと、今度はすぐには掛かって来なかった。


風音「・・・警戒してるね」


 二度も避けられた経験など無いのかもしれない。

 明らかに警戒している。


癒々「ちょっと・・・カザ。今どういう状況?」


 全然見えていないようだ。

 もちろん通り過ぎた瞬間は見えているが、暗闇のせいで少し離れられると視認出来ていないようだ。


風音「こっちが初手をミスったかな。って状態。相手は今の二回とも油断してた。正面から止めるなら、今ので止めた方が良かったな。次は本気だよ、多分」


癒々「え、もうそんな反省会が必要なレベルまで進んでる? よし、じゃあちょっとおそきにしっしちゃったけど・・・合体っ」


 癒々が手に持っていたバッグを放り投げ、背後から風音の腰に手を回してがっちりホールドする。


風音「・・・なに? 作戦ってそれ?」


 めっっちゃくちゃ胸が背中に押し付けられてますけど。


風音「抱きつくのとかは、煉兄ぃにしてあげたらいいんじゃないかな」


癒々「何言ってるの? 抱きつきじゃなく組み付き。組み付かないと掛けられないプロレス技なんて、いくらでもあるでしょ」


風音「あぁそう・・・。そのままバックドロップとかしないでね・・・」


 風音は身体から物質を崩壊させる毒を出す。この毒は基本的には生物に効かない。

 そして崩壊させた物質は風音にエネルギーを奪われ死んだように粉々になり、その物質の質量の分だけ風音は己の力に変換出来る。

 風音が毒で周囲の地面や岩石などを毒で崩壊させ力に換えて、体と足を限界まで強化し、癒々はインパクトの瞬間に風音を回復させる作戦だと聞いていた。

 足を強化する理由はもちろん、衝突間際に突進の威力を殺す為に全力で後退する為だ。

 どうやって瞬間回復なんてするのかと思っていたが、最初から張り付くのか。


 神狼は警戒しているのか、こちらの様子を見ながらしばらくその場をウロウロしていたが。


風音「来るよ・・・12・3」


 強化した脚で、思いっきり横に跳び退いた。


 ヴァンッ!!

 

 と大きな衝撃音を立てながら、今まで二人が居た場所を神狼がとんでもない速度で通り過ぎる。


風音「・・・・・」


 冷や汗をかきながら、すぐに神狼の方を見る。

 今のが喰う為ではなく、殺す為の攻撃か。

 最初の二回で喰うのは諦め、殺して排除する事にしたようだ。


 また少し警戒しているのか、神狼が低くうなり声をあげているのが聞こえる。その唸り声も犬に近い。


癒々「ちょっと! なにけてるの! 受け止めないと!」


 背後からクレームが。


風音「避けるわあんなもん! 回復なんか間に合わないって!」


 今本当に死ぬかと思った。加速が見えた瞬間、受け止めるのは諦めて行動を避ける方に変えた。


癒々「え~・・・じゃあどうするの? 作戦変更?」


風音「いや今ので分かった。次は作戦通りで行こう」


 風音が地面を靴で少し掘る。

 そして神狼から目をらさずに、少しずつ後退する。


風音「最高速度に達した瞬間って、走るというより跳ねてタックルしてるんだよ。で、あいつはその突進の速度が落ちる前に獲物をとらえるように、距離を計算してるみたい。だから多分こっちが離れるとその分近付いてくるはず・・・」


 予想通り、こちらが後退した分だけゆっくり距離を詰めてくる。


風音「それと重要なのが、あいつは三歩で最高速度を出せる」


 ほとんど助走がいらない。最後の一歩を除けば、助走はたったの二歩だ。

 その三歩目の踏み込みで加速が最大に達し、体当たりするように飛び掛かってくる。


癒々「さっきから123、123、ってそれを数えてたの?」


 風音の肩に顎を乗せながら聞いてくる。

 この人緊張感とか無いのだろうか、と疑問に思いながらも答える。


風音「うん。どのくらいで最高速度を出せるのか分かれば、その前にこっちが距離を詰める事で速度を大幅に減らせるかと思って数えてたんだけど。二歩は・・・無理だね」


 もう数える意味もないかな・・・と思い始めていたが、今の突進で重要な事が分かった。

 最高速度と言われる音速に近い時でも、加速は三歩だったのだ。そしてそのまま地面と平行に飛んでくるような動きだ。


風音「僕の考えが上手く行ったら作戦通りで。失敗したらまた避けるけど、クレームは受け付けません」


 こちらの後退の足が止まったと同時くらいで、また突っ込んでくる。


風音「12・3っ! よしっ!」


 さっき地面を軽く掘った場所。あそこの地面の周囲を直径と下方向に向かって二メートル程、毒で崩壊させて力に換えておいた。

 風音はそれで力が得られると同時に、その場所を神狼の三歩目に合わせるように調整した。

 崩壊した地面は死んだ粉の様になって、足を踏み入れると少し沈み込む。

 踏み入れるだけで沈む床だ。思い切り踏み込めば足を取られる。

 神狼にとって一番大事な踏み込みの瞬間に合わせて、落とし穴を仕掛けたような形だ。


 神狼が体勢を崩すのを見てから、風音が強化した脚で地面を蹴り、大きく前進する。

 ここで少しでも近付いておかなければ。

 体勢を立て直され、一歩でも加速されれば敗色濃厚だ。


 そしてそのまま突っ込んできた神狼を正面から受け止めた。


風音「ぐっ!!! 痛っっって!!」


 速度はかなり落ちたが、予想外に突っ込んできた。

 戦闘中にいきなり落とし穴にはまったら、本能的にすぐ体勢を立て直そうとして穴から足を出そうとする動きがあると思っていた。

 あるいは単純に落とし穴に足を取られて、派手に転んでくれるか。

 そのどちらかだと予想していたが、上半身が半分以上地面に沈み込むような崩れた姿勢で、それでも地面を蹴って勢いのまま無理矢理前進してきたようだ。


 そんな状態でも時速100キロは出ているか。

 受け止める為に腕周りと胴周りを毒で大幅に強化しているとはいえ、超巨体のこの速さを正面から受け止めてこちらにダメージが無い訳がない。

 全身が痺れる。

 しかし耐えられるか否かで言えば、これなら耐えられる。さっき死を予感した音速の比ではない。


 頭から突っ込んできた神狼が、同時に噛み付いて来ようとしている。

 痛みに顔を歪めながらも、そのまま神狼の顔面を両手で掴む。


 ここで疑問が。

 なぜまだ全身が痛い?

 衝突の瞬間に癒々が回復する予定じゃなかったか?

 まだ後ろからがっちり組み付いているので、振り落とされたとかではないのに。

 風音が死にさえしなければ、癒々の技でダメージは即回復するはずでは・・・


 というか・・・なんか・・・首筋があったかい。


癒々「うえぇぇぇ・・・」


 風音の背後で、癒々が涙を流しながら吐いてた。

 それが全部風音にかかっている。


風音「ぅおい!!」


癒々「だって・・・もっと威力を殺してくれないと・・・カザを通じてお腹に響いて・・・」


 癒々のお腹が青白い光に包まれる。彼女の技、回復だ。

 どうやら自分のお腹を優先して回復させたようだ。

 癒々が涙をぬぐう。


癒々「乙女に吐かせるとは・・・もう許さない!」


 癒々が風音から離れ、まずは神狼の首に向かって縦回転たてかいてん延髄切えんずいぎりを放つ。


癒々「ダラッッッシャァァァァ!!!」


 風音が押さえ込んでいたおかげで、まともに延髄に蹴りが入る。

 その蹴りの威力で神狼の顔を掴んでいた風音の手が引き剥がされ、神狼の顔面が地面に打ち付けられる。

 そのまま神狼の後ろ足を脇に挟み、その場でジャイアントスイングを始めた。


癒々「っっらあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 神狼の巨体が浮き上がり、グルグルとぶん回される。


 回転の中心で、癒々がキョロキョロと周囲を見ている。

 このまま本当なら神狼の頭をコーナーポストにぶつけたいのだ。

 しかしここはリングの上ではない。周りに代わりとなる木なども無い。

 柱にぶつけるのは諦めたのか、ひざを曲げた。


癒々「お・・・・・・っらぁぁ!!!」


 スイングしたままその場でジャンプ。

 ジャンプの直前に回転を加速させる動きをしていたのか、空中でグルグルと回転速度を上げる。

 そして地面の方を向くように向きを変え、最後の一回転。


 最後の回転はスイング速度を何倍にも上げ、神狼の頭部を地面に思いっきりぶつけた。


風音「えっっぐ・・・。って普通なら言うとこだけど」


 多分見た目ほどは効いていない。

 こいつは元々獲物に向かって高速で顔面から突っ込んでいく獣だ。今のスイング速度で顔面を打ち付けられるくらい、普通に耐えるだろう。

 もしこれがノーダメージで反撃しようする行動を見せたなら、風音も援護えんごしなければと思って観察していたが。

 首筋へのダメージは効いているのか、反撃の態勢は整わないようだ。今の所反撃の動きは無い。


 癒々が神狼の両足を持ったまま着地し、その両足を掴み直し抱きかかえる。

 サバ折りだ。


癒々「ん・・・あぁぁぁぁぁ!!!!」


 グギッボキッ! という音が鳴り、両足関節が破壊された。


 そしてもう一度スイングし、今度は回転の勢いを利用して上空に放り投げる。

 高々とぶん投げられた神狼を見上げ。


癒々「カザ! 跳ね上げて!」


 そう言って風音の方に向かってジャンプする。

 それに合わせて風音が癒々の足裏に、上空に跳ね上げるように蹴りを入れる。


 癒々が高く跳び上がり放り投げた神狼に追いつき、空中で神狼の背中と腰辺りを掴む。


風音(あのまま叩きつけて終わり・・・かな)


 と思っていたら、バックブリーカーの体勢になってそのまま降って来た。

 癒々は足を前に放り出した状態のまま、地面にお尻から着地する。


 ドンっ!!


 と結構大きな音が響く。

 同時に着地の衝撃で、肩に抱えていた神狼の背骨がバキバキと複数ヶ所折れる音が鳴る。


風音(痛っっったそう・・・でもあれ癒々さんも痛いだろ・・・)


 なんで上空から、わざわざ自分が下になって落ちるのか。自分が上になって地面に叩きつければ相手の体がクッションになるし、ダメージもでかいのに。


 癒々が倒れた神狼の顔面を引き起こし、状態を確認する。

 まだ意識はあるようで、歯をむき出しにして威嚇いかくしている。ただ体が麻痺しているのか、それで精一杯の様だ。


 顔面から手を離し、くるりと神狼とは反対の方向を向く。


癒々「おらぁぁぁっ!!」


 勇ましい掛け声で、神狼の顔面に向かってむき出しの尻でヒップアタックをする。


 ポヨンっ。


 そしてすぐに体を反転させ顔面に覆いかぶさるように押さえ込み、スリーカウントを始める。


癒々「ワンッ・・・! ツー・・・・! ・・・・・・・・・・・・」


 自分で地面を叩きながらカウントしているが、なぜかツーで溜めている。


 早よスリーって言わんかい。と思いながら風音が見ている。


 癒々が口惜くちおしそうな表情。

 反撃できないか? もう終わりなのか? という感じの表情をしている。


風音(あれ誰目線の表情なんだろう? レフェリー? 観客?)


癒々「・・・・・・・スリー!」


 ようやく三度目の地面を叩く。

 反転するように転がって、寝ころんだまま空に向かって高々と拳を上げる。


癒々「ウィーーーーン!!!!


 勝ち名乗りが終わって立ち上がり、ポンポンと衣装に付いた土を払う。


癒々「よし勝った。 結構通じるよね、私の攻撃」


風音「最後のヒップアタックいる?」


癒々「絶対にいる。どこかで入れておきたかったけど、威力よりエンターテイメント性の高い技だからね。舐めてかかると命に関わる相手だと、あのタイミングがベストだったわ。 本来なら中盤を盛り上げたかったから、真ん中くらいで入れたかったな。 でもどうも前半の頭への攻撃があんまり通ってなかったんだよね。あのまま間を空けると危ない感じがして。だからほんとはココナッツクラッシュも挟む予定だったけどやめたの。 あ、ごめん・・・見たかったよね? たくさんの技が見せられなかったのは、ファンのあなたに申し訳なかったわ。 でも大丈夫! 今ので各部位の耐久力も分かったし、今後はもっと威力も伴うせ技を入れていくから、期待してて!」


 癒々が熱い思いを語る。


風音(ファンのあなた・・・? 別に魅せ技いらんけどな。サッと倒して欲しい)


 って言うと癒々のやる気を奪いそうなので、口には出さないでおく。


風音「そうですか。 それはそうと、僕に対して何かコメントは?」


 上着をゲロまみれにさせられた風音。いつの間にか上着は脱いでシャツ姿になっている。

 でも首を伝って、ちょっとシャツの内側にも入った。


癒々「ごめんごめん。でもね? それこっちの方が恥ずかしいんだよ?」


 喋りながら、バッグに入れていたひもで神狼の四足を縛り上げていく。

 この紐は見た目の細さに反して、かなりの頑丈さを誇る化学繊維だ。もし目を覚ましても、まず動けないだろう。


風音「・・・かもしれないけどさぁ。 一回帰って体を洗うか」


癒々「森一つ越えないといけないのに、この距離を帰るの? ちょっとくらい我慢出来ない?」


風音「いや匂いがね・・・」


癒々「だから・・・私の方が恥ずかしいんだよ? 匂いとか言わないで?」


風音「・・・じゃなくて、この張り付き作戦で続けるつもりじゃないの? 僕は耐えられるけど、吐いた物の匂いは更に吐き気を誘発(ゆうはつするから。このまま続けたらまた吐くよ絶対。もう吐きたくないでしょ」


癒々「大丈夫だよ。同じミスは繰り返さないから。 プロレスラーはね、どこに攻撃が来るか予め分かっていれば、全て耐えきる事が出来るんだよ」


 ドンッと自分のお腹を叩く。


風音「・・・・・・・・・・・・はぁ」


 あんたプロレスラーじゃないじゃん。っていう無粋ぶすいなツッコミはしないけども。


 ・・・まぁそこまで言うならいいか。


 風音が倒れている神狼に視線を移す。

 顔は少しハイエナに近い。ちょっと間抜けな感じで・・・可愛らしい。

 その顔をゆっくりと撫でる。

 気絶しているようだ。癒々はスリーカウントの時顔面に覆いかぶさっている間、同時に首もめていたのか。

 そのまま太い前脚も沿うように撫でる。

 最初見た時から思っていたが、この生き物は後ろ脚より前脚の方が遥かに強靭きょうじんだ。加速の時も他の生き物の動きと比べて違和感があった。


風音「可愛いのになぁ・・・ごめんね」


 犬好きとしては、本当ならこの生物に危害を加えたくないが・・・。

 何人も殺されている状況でそうも言ってられない。

 殺処分される可能性もあるが生け捕り依頼なのだから、保護される可能性だってある。


 人の居ない星に連れて行って放すとかだといいな。

 もしそうなら可能な限り殺さないように仕事を終えた方が良いかな。死にさえしなければ回復させる事は出来る。

 風音が背中を撫でた時、神狼の背中付近が青白く光る。

 風音も癒々同様、回復技を使える。癒々ほど性能は高くないが。

 でも今ので折れた背骨くらいは治っただろう。


風音「・・・行こうか」




 そのまま夜通し狩りは続き、依頼された平原に居た20頭プラス数頭を仕留めた。

 生け捕りにした神狼を街に運ぶ為に、一度帰って乗り物を持って来て、積み込んで運ぶ作業を何往復かした頃には辺りは明るくなり始めていた。


 結果報告。

 殺してしまった神狼・・・0頭。

 多分放っておけば死んでしまう神狼・・・5頭。(癒々が回復させようかと思ったが、彼女の回復は精度が高いので、回復後に縛られたまま全力で暴れられる可能性が高いため断念。風音が死なない様に危険な致命傷を全て回復させてはいるものの、別で治療が必要な状態)

 重傷状態の神狼・・・13頭。(こちらは野生動物なら十分に自然治癒できる状態)

 軽傷で捕獲出来た神狼・・・6頭。

 あのあと癒々が吐いた回数・・・3回。


 まぁ・・・上々の出来だ。



 朝になって作業が終わり報告をすると、住民達にめちゃくちゃビックリされた。

 そして瀕死の5頭が早速解体されていく。


風音「あれ? 結局食料にするのか・・・・」


癒々「肉食獣なんておいしいのかな?」


 何の為の生け捕りだったのか。

 血抜きした新鮮な肉が欲しかったのか? 殺してしまって時間が経つと肉の質が大幅に低下するのは分かるが・・・美味しさにこだわるような、そんな事言ってられる獣か?


 まぁいいか。獣を狩って食料にする行為そのものに疑問は無い。

 仕事は終わったし、適当に観光して帰る事にしよう。


 その日は少し寝た後、街総出で豪華にもてなされ、その後は夜まで観光してから帰る事に。

 結果的にすごく楽しい旅行になったかな、という感じになって良かった。


 そして帰りぎわに神狼の肉を渡された。


 帰りの宇宙船の中で。


癒々「お肉を受け取るの、結構断ってたね」


風音「うん。単純に肉食獣の肉なんてらないっていうのもあるけど・・・ロイさんじゃない人がくれたからね」


 最初からずっと説明役案内役をしてくれていたロイさんが、なぜかその場に居なかった。

 解体作業で忙しそうだったから、指揮をしていたのかもしれないが。


風音「親切でくれたのかもしれないけど、あの人個人の勝手な行動だったら全員に迷惑が掛かるかもだし」


 解体している時の皆の真剣な表情を見ていると、どうも神狼の肉や毛皮は彼等にとって貴重な物のようだ。

 でも断ってもお礼だと言って何度も渡そうとしてくるので、結局こっちが折れて受け取る形に収まった。


風音「神狼が増える時期限定で、観光産業のかなめになるのかも。僕もこれ買ってきたんだけど」


 お守りのような物をポケットから取り出す。


癒々「何それ?」


風音「手縫てぬいの袋に、神狼の毛が一本入ってるお守り。大体2000円くらい」


癒々「毛なら私の衣装にいっぱい付いてるけど」


 何回もぶん回していたから、衣装に張り付いている。


風音「え・・・先に言ってよ・・・」


癒々「いや相談してから買い物してよ・・・」


風音「・・・・・・・・・・・」




  ------------------



煉也「お? 帰ってたのか」


癒々「ええ。寂しかった?」


 帰るなり、早速煉也の部屋に会いに来た。


煉也「ん? まぁ、そうだな」


 その回答に、癒々が満面の笑みでお土産みやげを渡す。


癒々「私が居ないと、話し相手もいないもんね」


煉也「それは別に・・・サルトさんもいれば九重さんもいるし」


 少し癒々がムッとするが、女の名前が出なかったので良しとしよう。


煉也「でも物足りなさは大きかったな。たった二日でも本当に大事さを痛感したよ」


 癒々が満足そうな笑み。


癒々「でしょ? これからはもっと・・・」


煉也「やっぱり和食が一番だ。風音が食事担当の時くらいしか本格的な和食が出ないからな。あいつが居ないと困る」






 カノン事務室。


風音「はいおみやげ~」


 女性事務員のブラウニーに、一つお土産の箱を渡す。


ブラウニー「ありがとー。 食べていい? 食べ物、これ?」


風音「うん、皆へのおみやげは全部食べ物」


ワグナ「ありがとうございます。艦長はこれから報告書作成がありますよね? 良かったら、皆の分は私が配っておきますね」


風音「そう? じゃあよろしく」


 色とりどりの箱が入った袋をワグナの机に置く。

 貰ったお肉はまずキッチンに持っていき、凌舞しのぶがすぐ焼いてくれたのでその場に居たゼロアにあげた。

 ゼロアにはあれがお土産という事で良いだろう。これはその他の乗組員の分だ。


ワグナ「これ宇宙港で買ってきたものじゃありませんか?」


 袋を見ながら言う。


風音「うわ、一瞬でバレたよ。 お土産は食べ物の方が良いかなって思ったんだけど、あの・・・名前忘れた。 あの星にはそういうのが少なすぎて」


 逆に木彫りの置物とかそういうお土産は多かったが・・・。仕事で他所よその星に行くたびそういった物ばかり買っていると、置き場に困る。

 だから帰りの宇宙港で、いろんな星から商品を集めたお土産屋さんで色々買って来た。


風音「試食でこれが特に美味しかったんだよ、ラッタ星ってとこのクッキー。早速皆で食べない?」


 袋から一つ箱を取り出し、青い包装紙をバリバリと破る。

 ふたを開けると、綺麗に並べられたクッキーが。

 ひとつ取り出し、ワグナが食べる。


ワグナ「あら美味しい。今までに無い食感と甘みですね」


 上品に口に運んでそう言いながら、クッキーの数を数える。

 29個。全部で30個入りだったようだ。

 高速でワグナがもう一つ食べる。そして。


ワグナ「28個ですか。じゃあ艦長と私で14個ずつでちょうどいいですね」


風音「はい・・・ソウデスネ」


ブラウニー「いやいやちょうどじゃないっすよ。全部聞いてますからね。私に分けてくれないと、一番美味しいのを二人占めした事をみんなにバラすけどいいんすか?」


風音「じゃあおひとつどうぞ」


 ブラウニーにひとつ配る。


ブラウニー「そうじゃなくって、ちゃんと三等分に・・・あぁ、でもこれ・・・本当においひぃ・・・」


 そうしている内に、ワグナがもう一つ食べていたようで。


ワグナ「仕方ないわね、じゃあ三等分で」


 ワグナが数を数える。

 26個か。

 なんですって? これでは3で割れないわ。

 爆速でワグナが2個食べる。


ワグナ「良かった。これで8個ずつ、上手く分けられますね」


風音「ソウデスネ・・・」


 お皿に8個ずつ取り分けながら、ワグナが尋ねる。


ワグナ「今回の作戦、上手くいったと思います?」


 神狼狩りではなく、癒々と煉也の方の事だ。


風音「賭ける? 僕はこの後癒々さんが「もう絶交する」って言ってここに入ってくる方に、クッキー8個賭ける」


 ワグナが余裕の微笑み。


ワグナ「艦長。そんなですから、賭け事が弱いんですよ。手堅く行こうとしすぎです」


風音「じゃあワグナさん予想は?」


ワグナ「癒々はまた泣きながらここにきて、ついでに艦長とブラウニーが巻き添えで嫌な目に遭う。に、クッキー8個。そして更にレイズ。ブラウニーの分のクッキーも賭けます」


 そもそもワグナが癒々に提案した案なのに、このひどい予想。


ブラウニー「え・・・なに勝手に私の分まで」


風音「お、言ったね。よっしゃ。僕も全部賭ける!」


ブラウニー「それは・・・二人の予想が外れたら私が総取りでいいって事っすか?」


 ワグナがチラッとブラウニーを見る。


ワグナ「お互い外した時はノーゲームとします」


風音「上等じゃあ!」


ブラウニー「いやそのテンションで受け入れるのはおかしいっしょ。私ばっかり損して・・・」


 ブラウニーが反論しかけた時、事務所のドアが大きな音を立てて開く。


癒々「カザ! いる!?」


風音「はい、いてますけど」


 また少し涙を流している癒々。そして怒っているせいで力を制御出来ていないのか、事務所のドアノブがひねつぶされている。


 ここまでは予想・・・ん?

 癒々の手にちょっと血が付いてますけど、誰の血でしょうね。

 でもまぁ・・・予想通りだ。ここまでは。

 しかし衣装が予想とは違う。

 あの戦闘服だ。見た目は似ているが、装飾と色合いが違うので別バージョンだ。

 一体何着の衣装を持っているのか。


ブラウニー(えっろ・・・)


 同性のブラウニーですらこの感想。


 癒々が風音を真っ直ぐに見据みすえる。


癒々「ようやく分かった。煉也の中で私の存在が小さい訳じゃない。カザの存在が大きすぎるの」


風音「そんな事は無いと思うけど」


 否定するように癒々が首を振る。


癒々「前々から思ってたんだけど、煉也の部屋ってカザの安いシャンプーの匂いがするの。 もしかしてカザ、しょっちゅう煉也の部屋に遊びに行ってない?」


 安いシャンプー・・・。あなた達女性陣が高っかいやつ買うから、安いの使ってるんです。

 それを言うとまたワグナに叱られるので、何も言いませんけど。


風音「遊びにって言うか、よくゴロゴロしに行くけど・・・」


 カノンであの部屋だけ唯一和室なので、あそこが一番落ち着くのだ。

 煉也の部屋は障子で仕切られた二つの部屋がある。その片方には好きに出入りして良いと言われているので、よく意味もなくゴロゴロしに行く。


癒々「そう・・・・・・ゴロゴロ・・・・・・」


 回答を間違えたか?

 癒々から不穏ふおんな気配が放たれる。


風音「あ、でもたまにお茶を出してもらうくらいで、他に何にも無いよ?」


 特別な扱いは受けていない事をアピールしていく。


癒々「そう。私にはお茶なんて、出た事無いわ・・・」


風音(くそっ、また裏目に出た)


 ていうか煉也も、いっつも遊びに来る幼馴染にお茶くらい出せや。


癒々「まぁいいわ。 カザ、久しぶりに組手しない? どちらが上かはっきりさせようよ。プロレスルールで、お互い特殊能力は無しで」


 バチンッと両拳を叩き合わせる。


風音「えー・・・と」


 何でもありの組手なら喜んで相手になるが、なんでそんなルールで戦わないといけないのか。

 そのルールでも負けるとは思わないけど、面倒でしかない。

 それにそのルールでこっちが勝ったら、癒々が更に不機嫌になるだけだろうに。


 風音が自分の分のクッキーをワグナの皿に移す。

 そしてワグナの机の上にあった紙に、ペンを走らせる。


 「クッキーはあげる。僕は二日ほど行方をくらませます。報告書はちゃんと提出しておきます」


 癒々の怒りは大体二日で冷める。


 メモを書き終わって、癒々の方を見る。


風音「じゃあ僕も本気で応えないとね。ちょっと自分の部屋で道着に着替えてくるよ」


癒々「その意気だよ。本気の時こそ衣装は大事だからね。じゃあ後でトレーニングルームで」


 事務室から風音が出て行く。

 そしてそれから二日、彼は帰ってこなかった。


 三人になった事務室で、ブラウニーが癒々の衣装を観察していると。


癒々「ねぇブラウニー?」


 バッチリ目が合ってしまった。


ブラウニー「な、なんすか?」


癒々「待ってる間、ちょっと練習台になって?」


ブラウニー「いやいやおかしいっしょ。 私は格闘技未経験っすから」


癒々「知ってるよ。大丈夫、多分怪我はさせないから。 はい、捕まえた」


 ブラウニーの返事も待たずに、正面から抱き付いて捕まえる。


ブラウニー「いやっ、ちょっと、えっろ! やらかっ! ・・・じゃなくて、待って待って待って!」


 叫びもむなしく持ち上げられ、トレーニングルームに連行されていった。


ワグナ「はい、私の勝ち」


 ブラウニーの分のクッキーを自分の皿に移した。


 あとがき!!


 読んでくれてありがとね、お疲れ様でした。


 今回の話は第三話のこぼれ話をいくつか小話で書いていくか・・・って感じで書き始めた第一弾みたいな。

 短い話なんで語る事も少ないな。


 第三話を読んでない人でも読めるようにはしたつもりでしたけど、小話なんで出てくる人物達の容姿に関する細かい描写は省いた部分も多かったですね。だからこの話だけ読んだ人は登場人物の絵が頭に浮かばないまま、最後まで読み進めていく事になったりとか。

 でも安心して下さい。僕も登場人物の絵が浮かんでないですから。こいつらどんな見た目してるんでしょうね。


 ま、それはそうと話を戻してですね。

 第三話の小話があと三つくらいあって、ちょっとずつ書いていくか・・・って思ってたのも束の間。

 もう飽きてきまして。

 あと一つか二つ書いたら本編に戻ろうかなとか。


 第三話を読んだ人にしか分からないだろうけど、ちなみに書こうと思っていたのは。

 「メリッサの家」・・・ブラウニーと一緒にメリッサの家というアニメの第一話を見る話。

 「潜入」・・・第三話でばっさりカットされていた、ゼロアが機械人間の開発組織のアジトに潜入した時の話。

 「二人飲み」・・・天狐と九重が二人で飲みに行ってる時の会話を、ほぼずっと会話形式で進めていく話。


 どれを書こう。普通に考えたら潜入か。

 あんな重要な所普通カットしないしね。だって真犯人を判明させるシーンだし。 そこをカットする作品ってクソやんか?

 でもこのくだり、悪ふざけの多い部分なんですよ。ちょうど本編が真面目なシーンだったから、邪魔かなと思ってカットしましてん。


 一番書きやすそうなのは二人飲みかなぁ。ずっと飲み屋なんで情景描写は最低限で、ほぼ会話だけで進行って最高じゃないですか。

 これ小説を書いている人には分かるのかな? それとも僕だけかな? とにかく会話って書きやすいんですよ。

 すいすい話が進んでいく感じで。

 逆に風景や情景、状況説明を文字で書くのって難しい。まず自分の頭に浮かんでいる光景を言語化するのが難しい。風景もそうだし動きのある場面、例えば戦闘シーンとかどう伝えていいのか意味分からん。ここが遅筆の最大の原因と言ってもいいくらい。

 そこを逃げていたら小説なんて書けないって? うん、まぁその通りですよ。

 でも逃げたいんや。

 俺・・・そこから逃げたいんや!


 メリッサの家はとにかく長くなりそうだから没かな。五万字越えたら小話じゃない気がするし。


 さぁ次はどれ書こう。


 って感じであとがきも終わりですかね。

 ここまでお付き合いどうもでした。ありがとうございました。

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