殺人鬼10
街からかなり離れた郊外に差し掛かる場所。
こんな所にもコンビニはあったようで、ジルと天狐の二人が食料の調達を終えて出てくる。
ジル「さて、これから今回の事件の容疑者に会うので気合い入れて下さいね」
天狐「はっ?」
天狐がホットドッグにかぶりつきながら間抜けな声で反応する。
急いで食べてコーヒーで流し込む。
天狐「何言ってるの? 私を疑ってたんでしょ? 他にも容疑者が居たの?」
ジル「ええ。待ち合わせをしているのであと30分くらいで来ます。 今回の件、間違いなくシャロンに犯人が居ます。天狐を疑っていたのはそのせいもありますが、私は今から来る二人とあなたが共謀していると思っていました」
天狐「犯人もしくは実行犯でない内通者ね・・・。状況から考えて、おそらく居るんでしょうね」
街のど真ん中で殺されていた女性。あの件でも分かる様に、犯人はシャロンがパトロールを強化している地域でも平気で殺人をやってのけている。
そしてシャロンが仕掛けた監視カメラには映らない。
世間に顔を知られていない元犯罪者も次々殺されている事から、最初から内通者の存在を疑って掛かっていたが、ここに来てそれが露骨になり始めた。
天狐「仮に職員の中に犯人が居るとしたら、多分三か月後リングェイド捜査官が来るまでに裏側に逃げるつもりなんでしょ。地球での犯罪者が裏側に逃げたって、シエロは探さないでしょうし。私らは手を出せなくなるし」
ジル「おそらくそういう算段でしょうね。ただリングェイド氏は殺人事件に構っているほど暇じゃないと思いますが」
メジーノ・リングェイド捜査官。シエロお抱えの優秀な捜査官だ。
色々と条件はあるようだが、彼は過去の風景を見る事が出来る。加えて瞬間記憶が出来る。
殺人現場でその力を使えば、犯行時の犯人の顔から行動まで全部見て、写真の様に正確にスケッチが出来る。
彼が来れば今回の犯人など、すぐに割り出せる。
そんな彼の才能を欲している星など裏側に何百とある。常に忙しい人物で、シャロンもまさか彼が地球に来る日がくるとは思っていなかった。
しかし今回彼は何らかの事件を解決する為に地球に来るわけではない。
なぜ「死の海」(地球が存在する方の宇宙の通称)には地球だけに知的生命体が存在するのか、その生命の成り立ちを調べる為に来るらしい。
地球の人類は地球上で進化して生まれたのか。あるいはもっと上位の存在がいる時代があり、それに生み出されたのか。それとも高度な科学によって何者かの意志で生み出されたのか。
そういうのを見に来るそうだ。
どういう意図があってそれを見に来るのかは、来た時にでも聞くとして。
天狐「いくら忙しくても、連続殺人が起こってたら調べるくらいするでしょ。本業は捜査官なんだから」
ジル「いや? シエロの任務で来ているので、犯罪は後回しでしょう。時間が余ればついでにやってくれるかもしれませんが」
天狐「犯罪がついで・・・ね。感じ悪っ。 まさにシエロ関係者って感じ」
ジル「捜査をするしないにかかわらず、犯人にとっては脅威かもしれませんね。状況によっては捕まる可能性が非常に高くなるのは事実ですから」
天狐「じゃあさ、これから三ヶ月間宇宙港から出て行こうとするシャロン職員を全部捕まえるとかどう?」
天狐は真面目な顔をして言っているが、ジルが笑う。
ジル「いいですねぇ、疑わしきは皆罰する。私はそういうの好きですが、レイ長官が許さないでしょう。月単位で百数十人が行ったり来たりしてますから、現実的じゃないですね」
じゃあやはり、疑わしい者をピンポイントで攻めるしかないという事になる。
天狐「ジルが疑ってる二人っていう奴は誰と誰?」
ジル「ギャジィとマテノの二人ですが・・・」
ジルが喋っている最中に、天狐が反応する。
天狐「ああ、あいつらか! あたしも疑ってた。ジルとあの二人が共犯だと思ってたもん。だってあんたらここ最近三人一緒に行動してたでしょ?」
ジル「ええ。さっきも言った通り、天狐とあの二人を疑ってましたから。敢えて二人を手元に置いてました」
天狐「なんで私だけ泳がそうとしたの?」
その三人が容疑者だと、天狐が一番危険だろう。誰よりも優先して見張っておかないといけない筈だ。
ジル「私が天狐と行動すると言いだしたら、疑ってますよと言ってるようなものでしょ。といって職員の誰かにあなたを見張らせて、それをあなたに気付かれたら後々面倒ですからね。一応一部の夜間職員には天狐を警戒するように指示を出してましたよ」
天狐「あんたそんな事してたの・・・。って言うかもし私が犯人で泳がせた結果、昼間犯行に及んだらどうするつもりだったの?」
ジルが鼻で笑う。
ジル「闇に紛れるならまだしも昼間天狐が一人で殺人なんて無理ですよ。 誰かの手引きが無いと、馬鹿だから確実に証拠を残します」
これまでの犯人達の手際の良さと照らし合わせたら、天狐一人での犯行は無い。との判断だ。
天狐「私やっぱりあんたの事嫌いだわ」
ホットドッグを包んでいた紙をジルに投げつける。
ジルがそれを手の甲で弾き、空中で掴んで近くにあったゴミ箱に捨てる。
ジル「存分に嫌って下さい。今回この二人でやっている目的は、仲が悪い者同士でもシャロン職員として連携が出来るかどうかですから」
少しイラついた天狐が、深呼吸をして自分を落ち着かせる。
そう。
これは九重さんからの指示だ。何よりも全うすべき任務なのだ。
話題を容疑者の話に戻そう。
天狐「今日会った時に二人に直接聞くの? ・・・その・・・こっちが疑ってる事とか、犯行時に何をしてたのかとか」
ジル「もっと率直に、しばらく24時間体制で監視される生活をしてもらうと言います。最大で三ヶ月」
天狐「受け入れるのかな・・・? そもそも犯行の一部は、あんたと違って二人とも完全にアリバイがあったよね?」
そう。二人は犯行が起こった際に、他の職員とシャロン内に居た事は判明している。
ジルだけなのだ。全ての犯行時にアリバイが無かったのは。
ジル「そんなもの協力者が他に居ればなんとでもなりますし、勘でしかないですが私は今回の事件、キリ・シエに似ていると感じました」
天狐「キリ・シエとは?」
ジル「知らないのですか? シエロ関係者が犯人だった過去の有名な事件ですよ、連続殺人鬼キリ・シエ」
天狐「いや知らないよ、裏側の過去の事件簿なんて」
ジル「キリ・シエという有能な捜査官の犯行です。その有能さから、彼はどこかの星で凶悪な大量殺人が起こる度に召喚されていました。しかもほぼ確実に犯人を捕まえるんです。 そこまでなら本当に優秀な捜査官だったのですが、幾度もそんな事が続く中で時折不可解な事が起こりまして。捕まえた犯人が殺したと主張する人数と、実際の被害者の数が合わないんです」
天狐「キリ・シエが殺してたの?」
ジル「ええ。 大量殺人鬼は自分が殺した者達の人数を正確に覚えている事が多いのも事実ですが、取り調べでいちいち本当の事を言わない奴も多いんです。常に薄ら笑いで、こっちを小馬鹿にするような発言を繰り返したりね。だから最初は犯人の主張の方が嘘だと思われてましたよ」
天狐「いやいや、そこはちゃんと捜査しようよ」
何度目だろう、シエロに対して呆れるのは。シエロはそこらへん適当だから、不祥事も多い。
ジル「キリ・シエの本当の目的は殺人。相手は誰でもよかったとの事です。まずは普通に捜査をして連続殺人犯を割り出し、その後犯人の殺し方の癖や標的にしそうな人物を徹底的に調べ上げてから、まるで犯人が殺したように偽装して殺します。誰が捜査しても一連の犯行と疑わなかったそうですよ。それほど完璧な偽装工作でした。そして殺し終わった後、過去の事件現場の情報を元に捕まえに行きます」
天狐「そのやり口で何人殺したの?」
ジル「18人です」
天狐「多いな。 一つの事件につき一人だとしたら・・・ある意味本当に優秀な捜査官でもあったのね」
彼には18もの連続殺人事件を解決に導く腕はあったのだ。
事件を誰よりも早く解決すれば人を一人殺せるという、吐き気を催すような執着心がその結果を生んだのだろうが。
天狐「でもそのやり方だと何回目かでバレない? 18回も、ってシエロが無能すぎない?」
ジル「実際は5回目でバレましたよ。長く続いた最大の理由は、捕らえる際に規則に則ってキリ・シエもしくは同行していた別の職員が犯人を殺害していたからです。捕まえに行く段階で生死問わずになっていた犯人も8人くらい居たかな? 詳しく覚えてませんがそんな感じです。犯人死亡時はそれ以上調べようが無いのでカウントしないとすれば、五回目の犯人逮捕時にキリ・シエの犯行である事がほぼ確定となりました」
本来ならキリ・シエは全ての現場で犯人を追い詰めると同時に殺したかったはずだ。しかし状況によって確実に犯人だと判明する前に殺したり、完全に投降している犯人を殺すのは同行している職員から不審に思われるため、何度かは犯人を殺す事に失敗した。その結果、殺せなかった犯人たちの証言の積み重ねで発覚となったわけだ。
天狐「キリ・シエは捕まったの? そもそもそれは最近の事件?」
ジル「ええ割と最近ですね、私が殺しました」
天狐「え?」
思わず聞き返してしまう。
ジル「天狐はその歳でもう耳が遠くなってるのですか?」
嫌味ではなく、普通に尋ねてくる。
天狐「いまの「え?」は聞こえなかったんじゃなくて、お前何やってんのの「え?」だよ」
ジル「逃走しようとした大量殺人犯は、殺害して止めても良いという決まりがありますから。私はそれを遵守しただけです。もし逃がしてまた殺人が起こったら、誰が責任を取るんですか?」
天狐「あっそ・・・」
そうかもしれないが・・・やっぱり今回の件はジルが犯人じゃないのか? という疑問が再び芽生える。
ジル「話を戻しましょう。ギャジィとマテノには犯行時別の職員達とシャロンに居たという完全なアリバイがあると言いましたが、協力者が別で殺人をして攪乱しているとか、あるいはキリ・シエの時の様に別の連続殺人に便乗して同一犯だと思わせる事に成功すれば、アリバイなんていくらでも作れます」
天狐「う~~~ん・・・」
そうかもしれないが、二人には客観的に見てちゃんとしたアリバイがあるのも事実だと考えると。
天狐「私もあの二人を疑ってたからその意見自体には賛成なんだけどさ。 問題はさっきも言ったけど、この状況で大人しくあの二人が監視下に置かせてくれるかなって事」
仮に犯人じゃなかったら、噴飯ものだろう。
シャロン職員としてのプライドもあるだろうし、アリバイがあるのに疑われているのだから。
ジル「証拠が無いから強制は出来ないですね。受け入れなければこの件が片付くまで、地球からは出られない事だけ伝えて解散します。 それと知ってますか? 天狐の視点ではアリバイが無いのは私だけでしょうが、全ての犯行時アリバイが無いのは天狐もですよ」
天狐「えっ? そうだっけ?」
ジルと郊外で会うまでは自分が疑われる事など考えもしていなかったので、調べていないというか知らなかったようだ。
ジル「それに私達が口裏を合わせて極秘で出会った時にも、犯行が起こったでしょう? 偶然あの時を指定して我々が会わなければ、やはり二人ともアリバイは無かった。 何か意図的なものを感じませんか?」
天狐「う~~ん。まぁ言われてみれば。 シャロン内に私達に疑いを向けるように動いてる犯人が存在しそうって感じはする。でも私は夜中に後輩の子からよく電話とかメールがくるから、その気になればアリバイが証明出来るけどね」
ジル「私もです。その気になれば証明は可能です。逆に言えば我々は身の潔白を示したければ、自分の過去の行動を徹底的に洗い直し、他人を介し事実確認をして証明しなければならない状態です。 ギャジィとマテノは犯行が起こった時、シャロン内で大勢と仕事をしています。言わば「アリバイを証明するまでもない状態」です」
天狐「逆に怪しいって事? その理屈だとあの二人だけじゃなく、シャロン内の他の職員も疑わなくちゃじゃない?」
ジル「当たり前でしょう。だからあの二人以外にも何名か疑っている者は居ます。今回の場合、犯人の思想や犯行現場と被害者の状態から見る犯人の身体能力の高さ。そして私達の仕事状況などを把握している地位にいる者等々・・・ですかね。これだけ条件が揃えばかなり絞られます。 特に怪しいのがあの二人ってだけで、今日は二人ずつ18人に会う予定ですよ?」
天狐「あ、そうなの? 全員にさっきのやつやるんだ。めんどくさ」
24時間体制で見張ってもいいか? って聞くやつ。
面倒だから18人全員集めて言う方が早くない? とも思うが、各々の都合や仕事もあるか。
ジル「自分が疑われてる訳ですから、不愉快ではあるでしょうけどね。一応それなりの理由付けは用意してあります」
あらゆる事件において共通の規定として、シャロン内に犯人が存在するかもしれないという疑いがあれば、まずは親組織であるシエロに報告するようになっている。
そして全職員の情報を送り、疑わしいと思われる者をシエロがピックアップし、監視するよう促す。
しかし強制ではない。本人が拒否した場合監視は出来ないが、拒否した事で今後疑いが濃くなる事だけ伝える事になる。
「残念ながら君達はこれに引っ掛かってしまった。正確な人数を教える事は出来ないが、引っ掛かったのは他にも複数いる。君達だけが疑われているわけではない」と伝える。
親組織の命令となれば、ジルや天狐に不満が向く事は無いだろう。
・・・実際はシエロに報告なんてしてないが。
最近は報告しても後回しにされ、結果無視されて放置になる事の方が多い。
だから報告するだけ無駄だが、せっかくなのでこの規定を利用させてもらう。
ジル「我々はただの上からの使いという立場です。ですからこの件の不満から今後不和が起こる事は無いと思いますが、念の為女性職員の説得は天狐に任せます」
天狐「それはいいけど、監視って誰がやるの?」
本当にシエロに報告して対応してくれていたなら、それも指示がある。
しかし今回はレイに報告はしてあるものの、シエロからの指示や関係書類も無いので監視に人員は割けない。
ジル「監視は私が引き受けた事にして、男性職員13名の方は空中監獄に連れて行きます。監獄といってもフェクトより広い空間ですし、生活出来る施設も整っています。そこで仕事をしてもらいながら、三ヶ月間あるいは事件が解決するまで生活してもらいます」
天狐「あぁ例の件の土地ね。まだ許してないけど、もう深くは聞かないわ」
今回の件で協力して貰っている風音に言えば借りられるだろう。もし別途金が必要だというなら、一日二万クインくらいで交渉してみようと思っている。
ジル「問題は女性職員五名です。空中監獄内では犯罪行為を行おうとすると自動的に殺されてしまいますが、女性職員を入れてしまうと・・・」
以前あの場所で男性が女性を襲おうとして、監獄の犯罪防止機能によって次々死んだ。もちろん襲う奴が一番悪いが、わざわざこちらからそういう状況を提供するのも気が引ける。
天狐「じゃあ女性職員は・・・私の部屋で寝泊まりさせようか? 三ヶ月間は私は昼間に寝て、夜間自宅でデスクワークにするから」
仮にその中に犯人が居たとして、その状況では動けないだろう。昼間は当然単独行動はさせない。複数人で仕事をさせる。
仕事の日はそれでいいが、問題は各々の休日だ。ジルの方は放ったらかしでいいのかもしれないが・・・頭の痛い話だ。出来るだけ休日は重なるように取らせるが、少なくとも共同生活の間天狐に休日と呼べる日は無いのだろう。
そんな天狐の滅入った様子に気付いているのかいないのか、ジルは能天気な反応。
ジル「ああ、いいですねそれ。天狐が良いならそれでいきましょう。マテノ・コリー・バジェスタ・テトラ・ワッカの五名です」
天狐「個人的にメールアドレス登録をしてるのはテトラとバジェスタとコリーだけね。この三人はもう事前にメールで伝えとく?」
ジル「直接会ってからで・・・あぁ、まぁその三人ならいいか。別に構いませんよ」
事前に事情を知っておいた方が説明も楽だし好きにすればいいだろう。どちらかといえばその三人はあまり疑いの無い方だ。
早速天狐が三人にメールを打つ。
「・・・って事で不愉快かもしれないけれどごめんね。 監視については地位の高い者が責任を持ってって事らしいから、女性職員は私が責任を持って見る事になりました。強制じゃないけど、これから最大で三ヶ月間、私のマンションの部屋で寝泊まりしてもらう事になります」
シエロ関係の説明のあと、自宅マンションで泊める事を伝えた。
しばらくしてからテトラから返信が来る。
仕事なのでジルも目を通す。
「不愉快なんてとんでもない。これも犯人逮捕の為の重要な仕事です。 それはいつからですか? もう今日から御姉様のお部屋に行ってもいいですか? もし残り四人の中に犯人が居たら、私にお任せ下さい」
大体こんな感じのメールが、立て続けにバジェスタからも来た。
コリーのメールは共に暮らす事を喜ぶ内容だった。
「私の不幸とは何だと思われますか?
シエロの様な俗物に私の正義を疑われる事?
いいえ違う。 私の不幸は御姉様に疑われる事です。
そんな御姉様が私を自宅に置くと仰いました。
ただ監視するだけであればシャロンの客室でも良かったでしょうに。
御姉様は私達の事を信頼していると仰りたかったのでは?
私は此度の報告に幸せを感じております。
そして・・・・(以下長文)」
ジル「ぅゎ・・・」
ジルが引く。なんでこんなポエム形式なのだろうか。
天狐「何が「ぅゎ・・・」よ。女子なんてこんなもんでしょ」
ジル「いやこれは特殊だと思いますけど。 天狐が私に送ったメールは、まだまともだったんですね」
絵文字ばかりのアレですら、どうかしてるのかと思ったのに。
そんな事よりこの三人と今から会うのか?
無理無理、正面から顔を見てられない。
よし、もうこの三人は呼ばなくていいか。とジルが判断し、三人に来なくてよくなったから仕事を優先してくれという通知をしておく。
さて、では本題の最も疑わしい容疑者の二人の件だ。
天狐「あの二人の事はあんまり知らないのよね。ジルの方が詳しいでしょ?」
ジル「二人とも獣人です。見た目は人間にかなり近いので、獣人の血は薄いですが」
天狐「らしいね。獣人って言っても獣じゃなく虫系の方。地球で会う事も少ないからあんまり知らないんだけど、虫系の宇宙人は力が桁違いだから厄介らしいよね。実際あんなに人間の血が濃くなっても、まだあれだけ強いのは凄いしね」
虫系の獣人は、いわゆる獣系の獣人以上に頭が弱いのが特徴だ。
だから種族としての脅威度は低い。
言うまでもなく、種族全体で知能が低いという事は単純に弱いという事。
体が貧弱だろうが強力な兵器を作る頭脳がある種族の方が、結果として強い。
その反面、正面からぶん殴り合うのは最も怖い種族でもある。
ジル「あの手の獣人の厄介な所は、特殊な身体能力です。まず頭部を破壊しても止まらない種族が多い。二人ともそうですが、特にギャジィは再生するタイプです。彼らは元々脳以外でも神経節で・・・っと、詳しい説明は省きましょう。とにかく彼らは身体のいくつかの部位に、頭とは別の脳を持つように特殊な進化をしました。だから頭が無くなっても死なずに動き続けます」
天狐「怖っ・・・」
ジル「ただし見る事や聞く事は出来なくなりますけどね。その状態でも一般的な地球人の何倍も強いですが。 マテノは頭部が無くなると裏側で再生手術でも受けない限り、その内餓死します。ただギャジィはすぐに無くなった頭部が再生して、また元に戻ります」
手足など見た目にもほんの少し虫の要素が残っている、そういう生態のギャジィはともかく。
虫系の血なんて10%も入ってなさそうな、どう見てもほぼ人間のマテノが。
天狐「マテノって首から上が無くなっても餓死するまで動くの?」
裏側の虫系獣人達はゴキブリの生まれ変わりじゃないのか? と背筋が冷たくなる。
ジル「安心して下さい。二人とも五体全てを切り刻んでやれば割と早めに死にますよ。ちなみに二人を同行させる理由としてその身体能力を利用しました」
ジルが連続殺人事件の捜査にその二人を同行させる為には、なぜその二人を選んだかの理由付けがあった方が良い。その方がジルが二人を疑っている事がバレにくい。
都合の良い事に、二人の身体能力が理由付けに持って来いだった。
今回の連続殺人犯は頭部を破壊しての殺人を繰り返している。だから人間そっくりで頭部を破壊されても大丈夫な二人、特にギャジィこそが適任だと。
犯人が頭を潰したと思って油断している所を逆に潰す。という作戦に参加してくれと頼んだ形だ。
天狐「なるほどねぇ」
出来れば頭以外のどこに脳があるのか知っておきたいところだ。可能なら殺さずに済ませたい。全ての脳付近に同時に拳を打ち込めば、動けなくなるだろう。逆に一つでも打ち漏らすとおそらく彼らは止まらない。
ジル「そして彼らの有名な特殊体質でもありますが、あの種族は相手の考えている事を読むタイプの者が居ます。これはマテノが得意みたいなのですが・・・彼女が犯人として疑わしい理由として、彼女はなぜか犯罪者の心を読むのに長けています。本人は隠しているようですが、長期に渡って彼女を観察していれば容易に分かります」
天狐がその発言に疑問を抱く。
天狐「なんで犯罪者の心が読むのが得意だと、疑わしいって結論になるの?」
ジル「あの心を読む能力は、互いの性格の相性が良いほど読みやすいようです。犯罪者の心を読みやすいという事は、潜在的にマテノが犯罪者に近い考え方や性格をしている可能性が高いという事になる」
天狐「へぇ・・・。可能性が高いってだけ? 絶対ではないの?」
ジル「ええ。性格というのは不思議なもので、例えば天狐の大嫌いな奴を思い浮かべてみて下さい。そいつと自分は正反対の性格をしていると思うでしょう? でも周りから見ると二人とも本質的に似た性格だと見えている事が多いんです。 同族嫌悪というやつですね。 マテノは性格が正義に振り切っている分、正反対の悪に近くなっているのかもしれない」
天狐「正義が振り切って悪に? そんな事あるかな?」
ジル「治安組織が凶悪犯罪者を殺しても許される社会に多い傾向ですが、そういう社会の治安部隊の中には正義感が強すぎて犯罪者を微罪でも殺してしまう者が一定数います。 それを繰り返すうち悪を殺す事に快感を覚える。いずれいたぶって殺すようになる。裏側ではよくある事です。・・・その行為が正義か悪かはともかく、生物として本質的に悪に近付いているのかもしれない。だからマテノは犯罪者の心が読める様になった。とかね」
天狐「地球で言うとこのダーティハリー症候群? 過ぎたるは猶・・・ってやつね。マテノはジルに似てるわね」
ジル「一緒にしないで下さい。私の行為は秩序の域をはみ出していません」
天狐「・・・・・・・・」
なんとなく天狐が周囲を見る。
これから二人に尋問する事になるだろうから、郊外の開けた所に来ている。
ジルは場合によって戦闘になる事も覚悟で、逃走しにくい見通しの良いこの場所を選んだのだろう。
天狐「あんたさ、今の言葉本気で言ってる?」
冗談っぽい口調で、周囲を確認しながら問う。
ジル「本気ですが?」
天狐「あっ・・・そ」
茶化す様に吐き捨てる。
天狐(なるほど、同族嫌悪ね。的確な表現だわ)
二人が来るまであとおよそ20分の予定。
ここまでの会話で天狐に一つ分かった事がある。
おそらくマテノは読もうと思えばジルの心が読める。だとするならマテノはジルに疑われている事にとっくに気付いている?
心を読まれるような経験をした事は無いが、そもそもどの距離から読めるのだろうか。もしかしてある程度離れていても読めるのか?
今さっき周囲を見たのはそれが理由だ。
実はもうマテノ達がこの付近まで来ていて、心を読まれてたらアウトじゃないか。
一応確認してみた結果、周囲数百メートル内には何の気配も感じなかったが。
しかしあの種族が人の考えている事を読む時は、読まれる側にも違和感があると聞いた事もある。確か風音がそう言っていた。
じゃあ結局ジルは読まれているのか? いないのか?
天狐(いや・・・そこで悩む必要は無いのか・・・。発想を変えよう)
読まれていようがいまいが、やるべき事をやるだけだ。
今でも天狐はマテノとジャギィを含め、18人を全員信じたいという気持ちも大きい。
証拠が無い状態で疑うのも、正直心苦しい状況だ。
基本的には信じてあげる方向で、面会をする。
その上でもし今日この場にマテノとギャジィが来なければ、その時は遠慮なく疑ってかかる事にする。
ジルの心を読んで疑われている事を知った上で面会に来るなら、その演技を見破ってやる。
有無を言わさず襲ってくるなら返り討ちにする。
それだけの事だ。
それはそうと・・・正義も振り切ると悪に変わる、か。そんなのは人によると思うものの。
天狐(私も・・・・)
自分が完全な善などと言い切る自信は無い。
九重達と戦った経緯を考えると、本当に自分が正しかったのか分からなくなる。
・・・・・・・・・・・・
よそう。
考えても意味が無い。
ふと過去の事を思い出す。
以前まだ今の様に強くなる前、他ならぬ九重から教わったのだ。
多かれ少なかれ己の行動の正否に迷いや葛藤があるのは当たり前だ。正しい行為だと思うなら胸を張って行動しろ、と。
そう教わった次の日長官室に乗り込んで、レイ長官の顔を掴んで「給料を上げろ」と言い放ったのは、今でもシャロンでは語り草となっている。
だって皆必要以上に働かされてしんどそうだったし。だからシャロンを辞めるつもりで、皆の代表として一発かましてやろうと思った。
それで無職になったら、当時募集中だと言っていた九重の職場で一緒に働かせてもらおうと思っていた。
そしたら予想外な事に給料が上がった。
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マツバ「・・・・ん・・・」
ようやくマツバが反応した。
風音「あ、やっと起きた」
ここまでに風音がマツバを起こす為に、いろいろやっていた。
獣人に気付け薬は相性が悪い場合があるので使えない。
気絶状態から覚醒させる為に頬っぺた叩いたりしていたが、獣人特有の頑健さからか効きにくかった。
マツバ「ん、、、んん? えっ!?」
敵が目の前に居たのでマツバが危険を感じたのか、ガバッと起きあがる。
風音「何もしないから大丈夫だって。ほらそこ」
マツバが倒れていた隣に、気絶したヴィデン・ツァが寝転がっている。
それを見たマツバが何か言う前に先に説明する。
風音「ちゃんと生きてるでしょ? 戦いになったから気絶させたけど、これ以上何かするつもりは無い。それより連続殺人事件の事について詳しく教えて欲しい」
ヴィデン・ツァを見ながら、諦めた様に喋り始める。
マツバ「詳しくって言われても、私は人殺ししかやってない」
また同じ主張を繰り返す。
今まで風音はこの言葉の解釈を間違えていたのかもしれない。
マツバは人殺し担当で、その他の作業例えばターゲットを見つけたり追い詰めたりなどは他の二人が担当しているという意味だと思っていた。
風音「それ。その言葉の意味を考えてたんだけど、もしかして一連の連続殺人事件の被害者の中に「人殺し」が居る? マツバさんはその人を殺したって言ってる?」
マツバ「だからそう言ってるでしょ」
風音「更に言うなら、人殺ししかやってない・・・人殺し以外の被害者に関してはマツバさんは関わって無い?」
マツバ「最初からそう言ってるよ。他の人達は勝手に死んでいってる。私達には関係無い」
人殺ししかやってない。
やはり「殺人犯しか手にかけていない」という意味で言っていたのか。
翻訳機の訳し方にもよるが、相手が獣人など言葉足らずな亜人種の場合よくこういう勘違いがある。
今回の場合英語などに訳していれば、この勘違いは無かったかもしれない。
風音「いっぱい聞きたい事があるんだけど、まずなんでマツバさん達は人殺しを殺して回ってるのかな?」
「人殺し」ではなく「殺人犯」と言った方が風音としては分かり易いが、マツバの表現に合わせる。
マツバ「ヴィデが捜してる人を見つけるため。 酷い殺人鬼なんだって。この星に居るかもしれないって」
それが英雄殺しか。
マツバ「ヴィデはちょっと先の未来と、人殺しが人殺しをする瞬間が少し前に分かるの」
風音「この人そんな事も出来るのか」
近くで人が殺される瞬間が事前に分かる。変身した千丸は使わなかった能力だ。
本人の記憶が無いから使い方が分からなかったのだろう。
つまりヴィデン・ツァの行動を要約すると、まずどこでどうやって仕入れた情報なのかは知らないが、地球に英雄殺しが居るかもしれないと思った。
地球に来たヴィデン・ツァが英雄殺しを捜す為に、フェクトで起こる殺人の瞬間を未来視する。
少し前にそれが分かるという事は、殺人を止めるのは間に合わないのだろう。
しかしヴィデン・ツァにとって重要なのは殺人を阻止出来るかどうかではなく、犯人の素性の方だ。
現場に行き、犯人が英雄殺しでないか確認する。
その後英雄殺しではないと判断したら・・・
風音「それが目的の人じゃないと分かったら、ヒーローの仕事として殺してたって事?」
マツバ「まずは自首? っていうのをするように言って、するって言ったら何もしない。しないって言ったらリブルが頭を痛くするの。するって言うまで。逃げても無駄って事も分からせるの。 でも言う事を聞かずに私を殺そうとする人も居て、それは殺していいってリブルが」
風音「なるほど・・・」
リブルの言っている事は間違ってはいない。
ここフェクトでは犯罪者に殺されそうになったら殺しても一切の罪にならない。
日本でも殺人を含め暴力行為が正当防衛で無罪になる事はあるが、殺してしまうと過剰防衛と判断される事もあり無罪のハードルは高い。
ここフェクトでは過剰防衛といった概念がほぼ無いと言える。
そりゃ殺さずに済むならそれに越した事は無い。しかしフェクトではその甘さが自分の死に繋がる。
ただ、もちろん殺されそうになった証拠が無ければ掴まる。死人に口なし。何でもかんでもそれを理由に許可していたら、殺人で溢れかえってしまう。
風音「その時の映像って言うか・・・ビデオとか撮ってる?」
風音が見る限り、マツバは嘘を吐いていないと思う。しかしそれは何の証左にもならない。やはり物証が必要だ。
マツバ「撮ってないけど?」
風音が頭を抱える。
じゃあ捕まるだろ・・・。殺してもいいと言ったリブルが撮ってくれているのか?
凶悪犯罪に関してはシャロンの捜査は優秀(逆に軽犯罪は物っ凄い雑とも言える)だから、死体の状況から殺された側が手を出そうとした痕跡などが資料から分かるかもしれないが・・・。
一件でもそういった部分が不明瞭な件があれば、無罪を勝ち取るには物証が無いと厳しい。
風音「証拠が無いと捕まるんだけど・・・まぁいいや。リブルって人の指示ならその人が何とかしてるでしょ。 ともかくマツバさんがやってる事は仮に証拠があっても、ちゃんと報告しないと罪になるんだよ」
マツバ「えっ!? そうなの?」
やはり知らなかったのか。相手が殺人鬼だろうが正当防衛だろうが、人を殺したらまぁ大体そう(報告が必要)なのは分かりそうなものだけど。
これだから裏側出身の人は怖い。常識からして全然違う。
風音「だから君達をシャロンに連れて行く。そこで今言った事と同じ話をしてもらえる? 捜査次第ではしばらくの勾留で済むかもね。 それともう一つ。この人は仲間?」
先程携帯端末にゼロアから送られてきた写真の女を見せる。
殺されたロボットが最後に見た女だ。
マツバ「知らない・・・」
ヴィデン・ツァの様子が気になるのか、倒れたヴィデン・ツァを見ながら考え事をしているようだ。写真はチラッと見ただけで、興味も無さそうな様子。
しかし知らないのはおかしい。
確かこのロボット殺害の現場にも例の針が落ちていたと報告があった。
おそらくこの女とリブルは関わっている・・・か、あるいはこの女が何らかの方法でこの三人組のやり方を知った。そして敢えて同じ方法で殺人を行っている?
仮にそうだとしたら目的は何だろう?
バレそうになったらこの三人に連続殺人の全ての罪を被せる為?
やはりとにかくリブルの話を聞いてからでないと、答えが出ない。
リブルがこの女と知り合いなら話は早い。マツバがやっていない被害者達は、この女とリブルが関わっている。
「お前達か!! 動くな!! そこで大人しくしろ!!」
背後から大きな声が聞こえた。
振り返ると、シャロンの制服を着た職員達が二人、銃を手にこちらに走ってきている。
風音(誰か通報したのか・・・ちょっと騒ぎ過ぎたかな・・・)
特にリブルを木にぶつけた辺り。周辺住民が通報していても何らおかしくない。
これからマツバにリブルの事について詳しく聞こうとしていたのに・・・間の悪い・・・。
でも仕方ないか。
風音がマツバを見・・・
風音「えっ、逃げてるし!」
背後からの声に振り返っている間に、マツバがヴィデン・ツァを抱えて走り出していた。
マツバが逃げるだけならまだしも、ヴィデン・ツァを連れて行かれるのは困る。
風音が咄嗟に追おうとしたが。
「動くな!! 音羽風音だな!! 動くと撃つ!!」
こういう時ブラックリストに入っている風音は、迂闊な行動が出来ない。
ブラックリスト入りしている者が通報された場所に居たら、弁明が認められるまで動いてはいけない。
仮に今マツバを追う為に動いたとしても、逃げたとみなされ即犯罪者として扱われる。
風音(まいったな・・・。今シャロンの仕事に協力中なのは知ってるはずだし・・・とっとと終わらせよう)
近付いてきたシャロン職員に事情を説明しようとした時。
「まず手に持っている物を地面に置け」
そう指示される。
そういえばマツバに見せた携帯端末を手に持ったままだった。
こういう場合、手に何も持っていてはいけない。
そのままゆっくり携帯端末を地面に置く。
「ん? それは待ち受けの画面か? なぜシャロン職員が写っている?」
風音「えっ! これシャロン職員!?」
容疑者の画像が画面に映ったままだったが、それを見た職員の言葉に驚く。
いや、驚く事ではないのか? むしろそれを最初に考えなかったのが間違い?
そういえば天狐もジルも身内を疑っていた。
マツバに聞くのも大事だが、マツバを気絶から起こす前にまずレイかウェルズ辺りに聞くのが定石じゃないか。
・・・馬鹿か。と心の中で自分を罵倒する。
形式的な職務質問を終えてから、すぐに事情を説明する。
これまでの経緯を結構長い時間をかけて丁寧に説明したが、今一つ信じて貰えていない感じだ。
「ブラックリスト入りしている貴様の言い分。しかもゼロア?・・・名無しが調べてきた情報など、にわかには信じがたいが・・・。 なんにせよその写真の女性はシャロン職員のマテノ・サキ・ナ・ウィスパだ」
風音「マテノ・・・」
聞いた事が無い。
それも仕方ない。風音は知らない職員の方が圧倒的に多い。
風音「まぁいいや。じゃあマテノさんの対応は処遇も含めて全部シャロンに任せる。ジルと天狐さんとウェルズ、あとレイさんにメールで伝えとくから。あなた達も協力出来るなら協力してあげて下さい」
早速携帯端末を操作する。
「音羽さんはこれからどうする気なんだ? もう協力は終わりなのか?」
なぜか貴様という呼び方から音羽さんに変わっている。
もしかしてジル・天狐・レイの名前が挙がったからか?
べつに偉そうな態度を取られたからってチクったりしないけども。
風音「いえ、今回の件は犯人グループが二組居ます。僕にとって重要なのはマツバさん達三人の方・・・特にリブルって奴が気になるから、そっちを追います。 気を付けて下さい。多分マテノさん達の方が本当の連続殺人犯だと思います」
危険度も高いだろう。あのロボットを正面から殺したのだ。弱いわけが無い。
伝えるべき事は伝えたので、職員の反応も待たず風音が職員達の前から走り去る。
すぐにリブルを追おう。
マツバ達の場所は分からないが、リブルなら分かる。
実は蹴り飛ばした時、リブルの服に発信機を付けておいた。
おそらく戦闘能力の低いリブルは、戦闘時マツバの邪魔になるだけなので逃げるだろうと思っていた。というかわざと逃げやすくしてやった。
そしてあわよくばマツバを倒した後にリブルを追い、ヴィデン・ツァに会えればいいなと思っていたが。
実際はリブルを追うまでもなくヴィデン・ツァは現れた。
取り敢えず逃げたマツバは後回しでいい。
リブルを追う。
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ヴィデ「おいマツバ! いいから一旦下ろせ!」
担がれたまま、高速で走っているマツバに言う。
マツバ「起きたばっかりなんだから大人しくしてよ。 まずリブルに会わないと。なんかこのままじゃ、私達捕まるみたい。リブルが言った通りにしてたし、ヴィデもこの場所の法を調べてたのに・・・。 さっきの人が証拠? っていうのが必要って」
ヴィデ「証拠? 正当防衛のか? とにかく降ろせ」
マツバ「駄目だよ。私が走った方が早いもん。すぐリブルに会って話を聞かないと」
獣人族は人を一人担いでも、人間より走るのが早い。
もうかなりの距離を走っている。
どうもマツバは最初こそ携帯を見てリブルの位置を確認していたようだが、今は匂いで追っているようだ。
街の中心近い場所だったところから、郊外に向かって移動している。
マツバ「あれ?」
急にマツバの足が止まる。
ヴィデ「どうした?」
ようやく地上に下ろされたヴィデン・ツァがマツバの視線の先を見る。
倒れた人間と、二人の男女が居る。
ヴィデ「あれは・・・リブルか?」
倒れている人物の格好。先程のリブルと同じだ。
マツバ「ん? あの女の人・・・」
さっきチラッとだけ見た。
ショートカットの髪型に少し細めの首。シャロンの制服。優しげにも恐ろしげにも見える爽やかな笑顔。
顔に付いている装飾品も記憶にある通りだ。片方ずつ違う形のイヤリング。刺青か生まれつきか分からないが、額からこめかみ付近にかけての四つの目のような模様。それが少し髪の毛で隠れている感じも。
間違いない。風音の携帯に写っていた女の人。
もう一人は誰か分からないが、見た目で獣人系である事が分かる。
同じくシャロンの制服。中央だけが複眼になっている特徴的で鋭い目。後方に向かっておっ立てた髪型。茶色の髪色は、根っこの方が金色っぽいので染めているのか。よく見れば額から触覚が生えていて、これが茶色で髪の毛の中に紛れている。この触角が目立たない様に髪を染めていると思われる。
二人はこちらに気付いているようで、男の方は無表情、女の方は満面の笑みでニコニコしている。
女が倒れている人物を足で転がした。
今までは倒れている人物の足元しか見えていなかったが、衣服などからそれがリブルだという事は気付いていた。
しかし転がされて横向きになった事で分かった。
首から上が無い。
マツバ「・・・・!」
瞬時に構える。
女「まぁ落ち着きなって。ヴィデとマツバ・・・で合ってる?」
マツバ「誰だお前ら! なんで私達を知ってる!」
女「私はマテノっていうの。こっちはギャジィ。格好を見れば分かるっしょ? シャロンの職員」
笑顔のまま答える。
ギャジィ「こいつはあなた達の仲間ですね? 死ぬ間際に自白しましたよ。あなた達の事と、連続殺人の実行犯だという事」
マツバ「嘘だっ! さっき聞いたもん! そっちの女が犯人だって!」
一瞬、マテノとギャジィがその言葉に反応した様子を見せる。
マテノ「誰から聞いたの?」
笑顔の質が変わったマテノが、威圧するように尋ねる。
・・・が、またすぐ普通の笑顔に戻る。
マテノ「・・・ま、いっか。今リブルからあんた達が疑われてるのを聞いてたから。どうせ潮時だったんだよね。でも私達だってバレちゃってるのかぁ。シャロンにもバレてたら面倒だなぁ」
言い分とは逆に、あまり困ってなさそうな態度。
ヴィデ「お前らリブルとどういう関係だ?」
マテノ「ああこれ? 元々は私達の仲間だよ。こいつの技術がさ、使えるじゃん? あの頭痛の針がさぁ、癖になちゃって」
もう役に立たなくなったリブルの死体を蹴る。
マテノ「ところであんた達はさぁ、殺したいくらいムカつく奴が居たらどうする? 苦痛を味わわせてから殺したいって思う?」
ヴィデ「興味無いな」
マテノが嬉しそうな表情をする。
マテノ「あ、珍しい。私と一緒だ。私あの感覚がよく分からないんだよね。どうしていたぶるの? そいつが苦しがってる姿を見てどうなるの? だってそいつは苦しがってる間中、「自分はもうすぐ死ぬかも」って思ってるんだよ?」
ヴィデ「・・・何が言いたい?」
ヴィデン・ツァは人を殺すなんて時にどうやって殺すかなど興味無いという意味で答えたはずだが、何か方向性の違う事を言い出した。
マテノ「私達はさぁ・・・」
ヴィデ「マツバ!!」
ギャジィが一瞬で距離を詰め、マツバに襲いかかっている未来が視えた。
自分も襲われるかもしれないので、すぐに未来視を一旦止め改めて視る。
そこで視えたのは、ギャジィの末路だった。
マツバがヴィデン・ツァの声に反応し、寄って来たギャジィの先手を取って顔面を殴る。
衝撃音と共にギャジィの顔面が破壊された。
敵が一人減った事に一安心している場合ではない。
すぐにマテノの方を見る。確かあの女の方が危険だ。
マテノ「あ~やっちゃった。せっかくの能力が台無しじゃん。なんでギャジィの方を見とかないの?」
マテノが呆れた様子で、ギャジィの方を見るように促す。
死んだと思ったギャジィがマツバの服を掴んで拘束し、頭が無いまま無数の連打をマツバに叩き込む。
マツバ「ヒーローバリアッ☆」
両腕で防ぐもその一撃毎の威力が半端ではないのか、防いでいるマツバの腕が見る間に腫れ上がり、マツバが歯を食いしばって苦悶の表情を浮かべている。
反撃の隙すら無いようだ。
そうしている内に、ギャジィの頭が再生した。
マツバ「・・・くっ! ヒーローキーック☆!!」
ほぼ同時にマツバが両足でギャジィを蹴った事で、マツバの服が破れて拘束が解ける。
ヴィデン・ツァがギャジィを止めようと、動きを読んで行動しようとすると。
マテノ「あー、なんで私を見とかないの? せっかくの能力が台無しじゃん」
いつの間にかそばにいたマテノに横から足元をすくわれ、ヴィデン・ツァがその場で転ばされる。
その瞬間、避ける間もなく自分の頭が踏み潰される未来が視えた・・・。
バンッ!!
大きな音が鳴る。
ヴィデン・ツァの頭がその場で飛び散る様に粉砕された。
どれほどの威力で踏むとこうなるのかというくらい、放射状に広範囲に血と頭部の破片が飛び散る。
目の前で見ていたマツバが、呆けた表情のまま涙を流す。
マテノ「あ~~~♡ 良かったわ最後の表情」
恍惚とした表情を浮かべている。
マツバ「ヴィデ!! ヴィデッ!!」
泣きながらヴィデン・ツァの亡骸に近付こうとするが、ギャジィに首を掴まれる。
マテノ「あ~、そういうのはいいわ。面白くない」
泣いているマツバを不快そうに見る。
マテノ「・・・ああ、さっきの話の続きね。 私達はさぁ、なかなか死ねないのよ。五体バラバラにされたって、数分間は意識がある。死ぬまでの間、自分を見つめ直す事が出来るの。そういう種族だからかなぁ・・・昔から思ってたんだよね。そんな時間なんてさ、犯罪者には必要無くない?」
マツバは泣きながら無言でマテノを睨んでいる。
マテノ「今のアンタにしたってそう。もう分かってるじゃん、この後どうなるか。 死ぬんだよ。 そんな奴を殺しても面白くないの。 当たり前のようにまだ自分は生きていられるって思ってる奴。そんな奴を死んだと気付かせる間もなく殺すの。そうすれば、そいつの人生を全部消し去った気分になれる。私に殺されたそいつの人生に、意味なんて無かったのよ」
その場で屈んで、ヴィデン・ツァの亡骸を愛おしそうに撫でる。
マツバ「触るなっ!!!!」
叫びながらマテノに寄ろうとするが、首を掴んでいるギャジィの力が強すぎてその場から動けない。
そのマツバの反応に、マテノがヘラヘラと笑っている。
マテノ「リブルもそうだったわ。私達と一緒に裏側に逃げると思ってたみたい。さっき連続殺人がバレちゃったから、とっととあんた達に罪を着せて逃げようって言ってきたの。 でも頭痛の装置は面白かったけどさ、リブルなんて元々思想が犯罪者だし、単純に邪魔じゃん? 一緒に連れてく訳ないよね? だからすぐ殺しちゃった」
リブルの最期は、逃げる計画について喋っている最中だった。
それを笑顔で聞いていたマテノ。それが彼が見た最後の光景だ。
マテノ「でもそれは私の考え。 どうもギャジィは逆みたい。 ギャジィ、その子私がこれを触ってるのを見たくないらしいわ」
ギャジィ「みたいですね。じゃあこうしましょう」
ギャジィが無理矢理マツバの顔を自分の方に向け、マツバの両眼に指を深々と突っ込む。
マツバの眼球が潰れ、両眼から血が吹き出す。
マツバ「・・・っ! ぎゃぁああああああ!!!」
悲鳴と共に、マツバが両目を押さえて崩れ落ちる。
ギャジィ「おいおい、ヒーローバリア☆ で防がねぇと」
笑いながら小馬鹿にする。
ギャジィ「ほら、ヒーロージャンプ☆」
その崩れたマツバを、ギャジィが上空まで跳ばす勢いで脇腹を蹴り上げた。
内臓が損傷したのか、大量に血を吐きながら何メートルも上に跳ばされ、そのまま落下してくるマツバが受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
叩きつけられた瞬間小さく声をあげたが、さっきほどの元気は無い。
まだ意識はあるようで、マツバがもぞもぞと動いている。
どうやらうずくまったまま泣いているようだ。痛みか、無力感からか、あるいはヴィデン・ツァの死になのか。
ギャジィがマツバを見て楽しそうに笑う。
そんな様子をマテノが心底つまらなそうに見ている。
マテノ「ほらギャジィ、それよそれ。今その子はね。こいつの死を弔いながら、自分の死を考えてるの。その時間無駄じゃない? 生きた意味を考える時間を最後に与えちゃ駄目よ」
ギャジィ「そうですか? 俺は見ててイラつく奴が苦しんでる姿は、ずっと見てられます。こんなのまだ始まったところですよ」
リブルの装置。あれは頭に針を打ち込まれた者に頭痛を与えるが、設定次第でリブルから離れれば離れるほど頭痛が酷くなるようにも出来る。
それを利用して、一旦逃げても頭痛に耐え切れず戻って来る者をマテノが瞬殺していた。
戻ってくれば治して貰えると思っている奴を、目が合った瞬間に殺す。
そしてそれとは真逆。
不幸にも酷くなる頭痛に打ち勝ち、リブルの装置の範囲外まで逃げる奴もいた。
そいつらは念の為追いかけていたギャジィが始末していた。
顔面の原型も分らなくなるほどの拷問にかけ、頭部を持ち去っていた。
マテノ「で? 今日は長く楽しむ時間が無い訳だけど、もうそれ放っといても死ぬでしょ? とどめは刺さないって事?」
どうせ死ぬなら、その方が長く苦痛を与えられる。
ギャジィ「いえ? 長く楽しむのと殺すのは別物です。苦しみは前菜、とどめはデザートですよ」
マテノ「それだとメインディッシュが無いじゃん」
マテノが吹き出して笑う。
ギャジィ「私は前菜でお腹一杯になるので」
虫系獣人は蜘蛛などの虫くらい燃費がいい。ちょっとの量で数日から数十日生きる。
軽口を叩きながら、ギャジィが止めを刺す為にマツバに近付く。
「二人とも動くな」
マテノ達に向かって男の声で警告が入る。
ギャジィが振り向くと、そこにはシャロンの上司が二人。
ジルと天狐だ。
ジル「何をしている? その二人の死体の方は戦闘の結果か? それは後で調べるが、問題はその少女だ。仮にその子が犯罪者であったとしても、拷問は禁止されている」
尋ねながら二人に近付く。
マテノがヘラヘラ笑いながら反応する。
マテノ「もういいよ、知らない振りは。どうせバレてんでしょ? そうやって知らない振りして近付いて一気に制圧。 ジルさんが考えそうな姑息な手だよね」
天狐が呆れた顔で同意する。
天狐「分かるわ~。ジルってこんな手が好きよね。私なら問答無用で仕掛けるけどね」
ジル「あなたどっちの味方ですか」
そう。二人は当然風音からの連絡でマテノが連続殺人犯だと聞いている。
その知らせを受け、すぐに探し始めた。シャロンは職員が必ず持っている手帳から、各職員が今どこに居るのかを把握出来る。
本部と連携して場所を割り出し、ジル達が待機していた場所から近かったので割とすぐに到着したはずであったが、もう二人も殺されている。
ジル「それよりマテノ達の方に話し合いの余地は無さそうですね。すぐ終わらせましょう。あの子の治療が間に合わなくなる」
マテノ「勝手に話し合いが出来ないなんて決めないでよ。 一応私達が殺してきたのは犯罪者ばかりだったんだけど・・・ジルさんなら許してくれるんじゃない?」
同意を求める様に笑顔で話す。
ジル「犯罪者だけなら、ね。個人的には気持ちは分かりますよ。ただあなたが殺した者達の中には、元犯罪者も居ましたから」
分かってないな~、とマテノが首を振る。
マテノ「元? 意味分かんない。 犯罪者なんて一生犯罪者じゃん。まさか犯した罪が消えるとでも思ってるの? ジルさんと私って考え方が似てるかと思ってたけど、ちょっと違うのかな?」
天狐「もういい。うるさい。 あんた達三人の事なんてどうでもいい。私は話し合いをしに来たわけじゃないから」
この中で最も話し合いの余地など持っていない天狐が、ギャジィの方に近付いていく。
不敵な笑みを浮かべたギャジィが天狐と戦闘になる前に、デザートを終わらせておく。
足元で苦しんでいるマツバの胴体を踏み潰す為に、足を上げた。
天狐「止まりなさい!!」
叫んで走り出すが、間に合わない。
ギャジィが愉しそうに笑う。
ギャジィ「遅いですよ、先輩」
胴体を引き千切る程の威力でマツバを踏みつけ・・・ようとした足が、逆に引き千切られた。
膝から下がズボンごと引き千切られたが虫型の特徴かあまり血が吹き出さず、痛みもそれほど感じていないようだ。しかし何が起きたのか分からず千切れた場所をじっと見る。
ギャジィが背後に気配を感じ、片足だけで器用に振り返る。
千切れたズボンごとギャジィの足を持った人物が立っていた。
風音「・・・・・・」
輝くような青い瞳を携えた風音が、ギャジィの足を持ったまま無言で場の全体を見る。
物を言わせぬ尋常ではない空気を纏った風音を見て、天狐、ジル、ギャジィの三人が思わず息をのみ硬直する。
ただ一人。マテノが手をほぐす様にブラブラと振る。
マテノ(予定より早く、ギャジィはやられちゃうかな)
元々ギャジィでは天狐には勝てないと思っていた。
しかしほんの三十秒時間を稼いでくれれば、ジルを始末し続けざまに天狐を始末出来ると踏んでいたが。
厄介な増援が来たものだ。
マテノ(面倒だけど・・・私一人で全部やるか)
それでも彼女は余裕の表情を崩さず、正面から風音を見据える。




