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カノン  作者: しき
第3話
27/206

殺人鬼9


 マリアードホテルに着いた風音達が、ガプカ・リブルとリク・リョウコ・マツバの二人が出入りしていないかを見張る。


 ここに着くまでにウェルズからいくつか情報が届いた。

 一つ目は亡くなっていた死体について。名はドグ・ハウアー、間違いなく偽名だ。千丸が言ったエイトアン・リッドが本名だろう。そしてやはり何らかの組織に所属しているようだったが、結局分からず。今後も調査対象だそうだ。

 そして二つ目。その部下と思われるもう一人。リッドの携帯情報から解析し潜伏地の情報を掴んだが、すでに死んでいたようだ。同じように頭部を破壊されていた。事前に聞いていたが、名はフロン・アレニ。だがこれも多分偽名だ。

 最後にロボットの死体から取れた水晶状の物質の事に関して。シャロンでは初めて扱う物質なので、解析に手古摺てこずっているようだ。


 要するに。 特にこれといって有用な情報はなかった、という事だ。


 物質の解析の方はこちらで終わらせているのでシャロンに伝えてもいいが、アリエイラの言うようにゼロア一人にやらせておく方が邪魔が無くてスムーズに終わるだろう。

 今はゼロアの方の報告待ちと、こちらの仕事に専念する。


風音「千丸、喉渇のどかわいたりしてない? 大丈夫?」


 じっと立ったまま一言も喋らない千丸に話しかける。

 千丸は今変身している人物、ヴィデン・ツァに不意に出会う事があっては困るので、伊達眼鏡だてめがねとマスクをしている。


千丸「え・・・、あぁ、大丈夫ぅ」


 声にいつものような覇気はきが無い。

 見た感じ元気が無いとかじゃなく、何か考え事をしている様子だ。


風音「何か思う所でもある?」


 能天気な千丸が考え事をしている事自体珍しいので確認しておく。


千丸「いや・・・大した事じゃないんだけどぉ、もしかして風音さんって男の人に興味が無いのかなぁ、って?」


 千丸は風音に性的に好かれていない、とアリエイラに指摘された事を気にしているようだ。


風音「大した事だよそれ、ずっと言い続けてたよ」


 やっと気付いてくれたのか。


千丸「でもそんなはずないよねぇ・・・」


風音「なんで本人の言う事を信じないんだよ」


 まだ真剣に考えているようだ。放置しておこう。


 それから二時間半。

 特にこれといった動きも無く、ただただ時間が過ぎて行った。

 辺りはもう暗くなっている。

 千丸は見張りに飽きて地面に座ったまま寝ている。元々放浪生活をしていた頃もあったので、外で寝るのは得意らしい。


 風音一人で見張りを続けていると、3005と3028のドアが十数秒差、ほとんど同時に開くのが見えた。角度的に人の姿は見えないが。

 すぐに千丸を起こす。


千丸「ん~~~? 動いたぁ?」


 目をこすりながら千丸が立ち上がる。


風音「まだ分からないけど、出掛ける気かも。ホテル全体を見た感じ他に開いたドアは無いから、仮にどこかに行くとしても二人だと思うけど」


 ホテル全体を見たと言っても見える範囲での話だ。地上のこの場所からは、最上階付近のドアが見えない。ヴィデン・ツァという男が上階の方に住んでいるなら、同時に出た可能性もある。

 三人ではない事を祈って、出てくるのを待つ。


風音「これは・・・ラッキーなのかな?」


 二人組がホテルの出入り口から出て来た。

 一人は千丸よりも背丈の低い獣人の女の子。もう一人は二メートル近い身長の人相の悪い若い男。

 リブルとマツバだけらしい。


千丸「うっわ、緊張してきたぁ・・・ほんと、何かあったらすぐ出て来てね」


 伊達眼鏡とマスクを外す。


風音「任せて。じゃあ早速行こうか」


 ホテルに近い内に行ってしまおう。

 すぐにホテル付近で会いに行くか、しばらく泳がせてから会いに行くかで悩んでいたが、すぐ行く事に決めた。

 もしヴィデン・ツァがこの場所に居るはずが無ければ、どのみちバレる。

 なら泳がせて偶然を装うより、アジトに近い場所の方が自然だろう。


 千丸が二人の後を追うように歩き始め、追いついたところで声を掛けた。


千丸「よう」


 普段どんな挨拶あいさつをしているか分からないので、適当に声を掛ける。

 これが一番バレにくいだろう。


マツバ「あれ? ヴィデが居る。なんで? 今日は夜まで部屋で情報収集って言ってなかったっけ?」


 いきなり不自然に思われている。


千丸「ちょっと気分転換ってとこだ」


 この喋り方でいいのだろうか、と心臓がバクバクいっている。


リブル「今日は色々調べる事があるだろ? んな事してる場合か?」


千丸「まぁ・・・な」


千丸(えっ・・・・・・・何っ!)


 今マツバが急に殴りかかってくる未来が見えた。拳がはっきりと目の前に映る。

 咄嗟とっさに上半身を反らした。


千丸(やっぱりバレたかぁ・・・出会った瞬間はバレてなかったのになぁ・・・やっぱり喋り方かぁ)


 でも逆に安心したのか、あせりより冷静さの方が上回る。

 これでもう風音が助けに来てくれる。正解の分からない演技を続けなくて良くなった。


 すぐに未来視を一旦停止し、再び未来視を始める。

 ゼロアと風音から教わった連撃れんげきに対する対処法だ。ゼロアの検証の結果分かった事だが、この能力は連撃に弱い。

 だから一旦未来視で対処したらすぐに解除、もう一度再開する事で次に取る相手の行動を再び視る。

 どうしようもなくタイムラグが発生するので何度もそれで敵の攻撃を避け続ける事は不可能だが、今回に限っては一発でも攻撃を避ければ風音の助けが入る。


 しかし次に視えたのは全然予想もしていなかった未来。マツバがリブルの腹を殴っている。


千丸(ん? なんだこれ? どういう事?)


 風音の方も異変に気付き、助けに行こうと飛び出す準備をしていたが。


マツバ「うわっ避けるの久しぶり☆ いつもはリブルを盾にするのに」


 マツバが殴ろうとした腕の軌道を修正し、ボスッと隣に居たリブルの腹を軽く殴る。


リブル「で結局俺が殴られるのか。たまにはヴィデが殴られろっての」


 ここで再び千丸の後頭部がリブルに叩かれる未来が視えた。といっても冗談の範疇だ。

 大人しく叩かれても良かったが、避ける方がヴィデン・ツァっぽいと思ったので避ける。


リブル「おいおい、ここはおとなしく叩かれとけよ」


 避けられたリブルが笑う。


千丸(・・・・・・・)


 どうやらマツバの遊びだったらしい。ヴィデン・ツァが未来視する事を前提で、反応を見て遊んでいるようだ。


 焦り過ぎた。

 冷静になって思い返してみれば、ゼロアの時とは大きく違う部分があった。

 こちらが死んでいない。

 もしマツバが殺人犯でこちらが偽物だと気付いて攻撃していたなら、ゼロアの時の様に自分が弾け飛んで死んでいる未来が視えたはずだ。

 視えたのは眼前に見えた拳だけ。という事は、仮にこっちが反応しなくとも寸止めしていたという事か。

 うん、確かに遊びだ。

 しかしどう反応していいのか・・・どうやらいつもと違う行動を取ってしまったようだし・・・。


千丸「いつも同じ行動をするのも・・・な」


 適当に答えとけ、という感じで答えた。


マツバ「確かにね☆ いつもなら怒るもんね☆」


 マツバは無邪気に笑っている。

 

リブル「さて。 遊ぶのはこれくらいにして、こいつを始末するぞマツバ」


 そう言いながら、リブルが千丸の横腹に蹴りを入れる未来が視えた。


 リブルが口を開く前に、千丸がその場から跳び退く。


千丸「・・・やっぱりねぇ」


 結局バレていたようだ。二人の反応からして、ここに来る事自体不自然だったようだし。警戒されれば喋り方でバレるのも当然か。


マツバ「えっ? えっ?」


 しかしマツバは状況を理解出来ていないようだ。マツバだけなら騙せていたのだろうと思うと、少し悔しい。


リブル「未来が視えているな」


 まだ喋る前、そして蹴りを入れる前に避けられた事を不思議に思っている。


リブル「本人が何者かに乗っ取られている可能性が・・・」


 何か連絡でも来たのか、リブルが携帯を見る。


リブル「マツバ。こいつは偽物だ。暗いとはいえこの場所は目立つ。早めに始末してしまおう」


 トントンッとリブルの横腹を誰かが叩いた。驚いたリブルがそちらを見下ろす。


風音「仮に偽物だとして、なんですぐ始末しようなんて思ったのかな? 普通ならすぐにそんな判断を下さなくない?」


 いつの間にかリブルの隣に立っていた風音が、二メートルはあろうかというリブルを見上げながら尋ねる。

 当然答えるはずもなく、即座にリブルが風音に殴り掛かる。

 それを軽く払いのけ、もう一度尋ねる。


風音「まだ何か探られた訳でもないのにさ。 すぐに始末するなんて言葉が出るって事は、何か後ろめたい事でもあるのかな?」


マツバ「なに? どういう状況? こいつは敵?」


 千丸と風音をキョロキョロと交互に見ながら混乱している。


リブル「敵だ。あのヴィデは偽物、こいつはあれの仲間だ」


マツバ「ヴィデが偽物なわけないでしょ。未来が視えてたよ?」


リブル「いいから構えろ。奴の言動が怪しかったからヴィデ本人に連絡を入れた、今本人から返信があった」


 千丸の言動を怪しんだ時点ですぐにヴィデン・ツァの携帯に連絡を入れていたようだ。

 もしヴィデン・ツァ本人なら必ず持ち歩いている筈の携帯に千丸が出なかったので、偽物だと判断して攻撃しようとした。

 しかし予想外な事に千丸は未来を読んで避けた。

 もしかして本人が操られているのかと、リブルが対応を考えていた頃にヴィデン・ツァ本人から返信が来たので、偽物と確定した。


 マツバが両腕を顔の前まで挙げて戦闘態勢をとる。

 風音が隣にいるリブルは無視して、まだ会話が出来そうなマツバの方に向かって話しかける。


風音「まぁちょっと落ち着いて。先にこっちの目的を言います。今起きてる連続殺人事件の事を調べてます。亜人種を中心に、普段数人のグループで行動している人達を調べてるんです。何か知らない?」


 リブルが風音の後頭部に腕を振り下ろす。

 それを頭上で受け止めた。


 その瞬間、風音の表情がこれまでの温和なものから一変する。

 風音がリブルを見上げる。

 目が合った時、リブルの背筋が凍りついた。


風音「お前、今頭に何か刺したな?」


 それが何だったのかは分からない。しかし細い針状の物だという事は分かった。

 リブルが逃げる様に風音のそばから離れ、それだけでは危険だと思ったのか更に遠くへと後退した。


 安全な位置まで来たと思ったのか、リブルが勝ち誇ったような表情。


リブル「もう遅い。お前らは俺の術中に落ちた」


 その言葉の直後。


千丸「うあぁあ!! いっっ・・・!!」


 千丸がうめき声と共に、頭を押さえてうずくまる。

 無表情のまま、風音がリブルを見た。頭が破壊された死体のそばに、針が落ちていたと天狐てんこが言っていたが。


風音「あぁ・・・今分かった。 お前らだ・・・」


 風音の瞳の色が青く輝く様に変化していく。


リブル「くそっ!! 効かねぇタイプか! おいマツバ何やってる!! 早くそいつを始末しろ!!」


マツバ「え・・・だって・・・」


 躊躇ちゅうちょするマツバの声がリブルの耳に届く頃には、リブルの視界から風音が消えていた。

 ほんの一瞬マツバの方を見た時に、闇に乗じて姿を消したようだ。


 焦ったリブルが急いで周囲を見る。


リブル「あいつどこに・・・!」


 リブルの両膝の裏側に大きな衝撃が走り、そのまま正座するような形でその場に座り込む。

 そして後ろから肩に手が置かれた。


風音「あれ」


 風音が千丸の方を指で差す。


風音「今ならまだ許してやる。治せ」


リブル「はっ! お前が命令出来る立場かよ。俺に何かあればアイツの頭痛は一生治らねえ。人質を取られてる状況ってのがまだ理解出来ねぇのか?」


風音「あっそ」


 後ろからリブルの腕ごと脇腹を蹴り飛ばす。

 まるで空き缶でも蹴ったかのようにリブルが吹っ飛び、街路樹がいろじゅに激突する。

 ほぼ同時に、風音の目の前に腕を振りかぶったマツバが現れた。


マツバ「仲間に手を出した罪、つぐなってもらうよ☆ ヒーローパンチ☆!!」


 マツバのストレートが風音の顔面をとらえる。


 ガンッ!! と。

 人が人を殴った時の音とは思えない、大きな音が周囲に響く。


風音「どんなもんかと思ったけど・・・」


 風音の足元の地面が数メートルにわたって、死んだように色褪いろあせて砂の様に変化している。

 周囲の無機物を毒で崩壊させ、自分の力に換えた。

 額から少しだけ血を流しながらマツバの腕を掴む。


風音「これなら強化しなくても耐えれたな。 でも普通の人なら軽く死んでるか」


 そのままマツバの胸部に向かって正拳突きを放つ。


マツバ「ヒーローバリアッ☆」


 マツバが空いた方の手で防御した。

 風音の正拳突きが、マツバの腕に真っすぐ刺さる。


 防御したその腕をへし折りながら、軽く十メートルは吹っ飛ばす。


 すぐに千丸の方に視線をやる。

 まだ頭を押さえて苦しがっている千丸に近付いて、首筋を見た。


風音「遅れてごめん千丸。ちょっと待ってて」


 調べてみると後頭部にほんの小さな血の跡がある。ここから針を打ち込まれたようだ。一度リブルが千丸の頭を叩こうとしているような動きがあったが、あの時にやられたのか。

 この血の跡から毒を流し込んで針を崩壊させてもいいが・・・。


 風音にはそれほど医療の知識が無い。脳に達している可能性が高い針が風音の毒で崩壊すれば、その場で物凄く小さな粒子の様な物質に変わる。それが脳内に残ったままで問題無いのだろうか?

 例えばウイルス性脳炎のうえんなどはウイルスが脳に入り込むはずだ。重症化する場合が多いが軽傷例もあるそうだ。

 脳にウイルスや菌が入ったのに軽傷で済む・・・ってどういう事だ? ウイルスや菌などの死体とかはどうなる? まさか無にかえるわけもないだろう。

 じゃあ脳内に放置? それとも他の臓器の様に自浄じじょう作用があるのだろうか? じゃあこのまま毒で針を脳内で崩壊させても問題無い?

 調べれば分かる事なのだろうが、知識の無い者が場当たり的な治療をするより、取り出す方が確実だ。

 もし頭蓋骨ずがいこつまでに針の一部でも露出していれば、この場で治せる。


風音「千丸、一瞬だけ痛いけどすぐ治すから我慢して」


 一応言っておくが、痛みで聞こえていないようだ。


 風音が針の跡周辺から指を突っ込んで直接針を捜す。

 千丸の後頭部から少し血が吹き出す。


 しばらく調べていると指先に針が当たったので、そのまま引き抜く。そしてすぐに傷口に息を吹き込む。

 青白い光と共に、千丸の首筋の怪我が治っていく。


風音「大丈夫?」


千丸「うん・・・おさまった・・・みたい」


 風音が千丸の頭を撫でる。

 やはり針による機械的な頭痛だったか。一生治らないという発言は窮地きゅうちを脱する為のブラフだったようだ。

 あの発言から一応呪いのたぐいも警戒していたが、裏側に治療しに行く必要は無くなった。


千丸「うぅ・・・やっぱり愛してるよ風音さ~~ん!」


 振り返って抱き付いて来ようとしたが、顔面を掴んで止める。


風音「やめて気持ち悪いから。ただでさえ男に興味無いのに、知らん男の姿してるし・・・」


 風音が二人の様子を見る。

 リブルの姿が無い。周囲に気配も無いので、どうやら逃げたようだ。

 マツバは折れた腕をかばって様子を見ていたようだが、風音がマツバの方を見た事で再び構える。


マツバ「ぃっつ・・・。 バリア成功☆ 痛くないっ☆」


風音「強がらなくていいよ。絶対折れてるから。感触で分かったし」


 風音がマツバに近付く。


マツバ「自分からやられに来るなんて、御苦労様☆ 成っ! 敗っ!」


 やられていない事をアピールする為だろうか。折れた方の腕で殴り掛かってくる。

 負傷を感じさせない速さ、そして威力もさっきと変わらないのだろう。

 風音がその腕を掴む。

 負傷している場所を敢えて取り、その場所が青白く光る。

 骨折が治っていく。ただこの治療法は完璧ではないので、ちょっとしたヒビくらいは残るだろう。


 回復した事にマツバが少し驚いていたが、すぐに風音の手を振り払う。


マツバ「ヒ・・・ヒーロー回復ひーりんぐ☆! 勝負はここからだ悪党!」


 ボクサーの様にステップを踏みながら、また構える。


風音(この子見たまんま、獣人の子供だな)


 知能とか。


風音「やりたいならやってあげるけど、その前にいくつか。なんであのリブルって奴と違って、すぐに手を出してこなかったのかな?」


マツバ「・・・答える必要は無い! 来いっ!」


風音「普通正義のヒーローなら答えてくれるんだけどな。まぁいいや、じゃあやろう。ヒーローじゃないみたいだし」


 目に見えてマツバが焦る。


マツバ「仕方ない、答えてやる! ヒーローは悪にしか手を出さないからっ☆」


風音「じゃあ僕は悪じゃないから喧嘩は止めよう。だって仲間に手を出したから悪って言ってたけど、あのリブルって人が先に手を出したんだし」


マツバ「え? そうなの・・・かな・・・」


 マツバが両腕を降ろしかけたが。


マツバ「いや! ヴィデの偽物を連れて来た! ヴィデをどうした!」


 また構える。


風音「どうもしてないよ、あれはたまたま似てるだけ。大体さっきリブルってやつが言ってたでしょ。連絡をしたら本人から返信があったって。僕らがヴィデさんに何かしてたら、返信なんて出来ないよ」


マツバ「え? そうなの・・・?」


 やっぱり腕を降ろす。


風音「聞きたいんだけど、最近この街で起こってる連続殺人って君達の仕業しわざ?」


マツバ「そう・・・だけど、違う! 私は人殺ししかやってない!」


 自白しよった。


風音「・・・人殺ししちゃ駄目でしょ」


マツバ「あれ? ・・・違う! 人殺ししかやってない!」


 同じ主張を繰り返す。


 「リク、もういい」


 マツバの後ろから聞き慣れた声が。

 今の千丸と同じ声。そして姿。


マツバ「ヴィデ! ・・・本物?」


 現れた男を見ながら首をひねっている。


ヴィデン「ああ・・・。リブルから連絡をもらった。何だあいつは? いや、どうでもいいか」


 自分そっくりな千丸を見たが、なぜか興味を失くした様子で風音の方を見る。

 その目が語っている。

 千丸に興味を失くしたというより、そんな事すらどうでもよくなるぐらい、もっと重要なものを見つけた目。


ヴィデン「・・・見つけた。お前、英雄殺しだな?」


マツバ「えっ!? こいつが!」


風音「何それ?」


 英雄殺し?

 どこかで聞いた事があるような気もする。

 確か裏側で八英雄と呼ばれていた人達が皆殺しにされた事件の・・・確か犯人は詳細不明で、ブラックリストにも掲載されていた様な。


 あぁ、それでどこで聞いたのかを今思い出した。シャロンだ。

 ブラックリストの風音の一つ前のページに載ってた人だ。


風音「人違いですけど。あの人確か詳細不明だったはず」


ヴィデン「いや、間違いない。聞いた情報の通りだ。ブラックリストに掲載されている青い目の女」


風音「誰が女だ。そこから間違ってるわ」


 確かに目は現在青いけども。そしてブラックリストにも載ってるけども。って言うかブラックリストの内容を知ってるなら、違うページに載ってた事くらい知ってるだろう。

 それとも詳細不明だから、ブラックリスト内に居る奴を全員疑っているのか・・・。


ヴィデン「実際の性別は関係無い。重要なのは目撃した人間が女だと証言した事だ。お前は女にも見える。実は男だとしても証言と食い違っているわけではない」


風音「じゃあ連れて来いやそいつを」


 女女と連呼されてちょっと苛々いらいらしている。その証言した奴を往復ビンタしたい気分だ。

 もっと他に特徴的な事を言えよ。例えば胸が大きかったとか、獣人だったとか、背丈とか髪の色とか・・・。

 よりによって青い目の女、って。腐るほどおるわそんなん。


ヴィデン「リク、偽物の方を頼む」


マツバ「任せて~☆」


 ヴィデン・ツァが刃渡りニ十センチ程のナイフを取り出す。


風音「ユニィ! 起きてる!?」


ユニル「はい、何でしょう?」


 呼んだ瞬間に風音の目の前に現れた。


風音「あの人が千丸なんだけど、もう回復できないから怪我をさせたくない。上空に避難お願い」


 ユニルが敵二人と、今風音に聞いた少し離れた場所に居る千丸を見る。


ユニル「え? どういう状況ですかこれ? 敵が二人いますけど。私も闘いましょうか?」


風音「千丸の安全を優先して。一人で大丈夫だから」


ユニル「分かりました。・・・あなた達、もし風音さんに何かあったら・・・」


 マツバとヴィデン・ツァを睨む。そして風音の手前、それ以上は言わずに千丸の方に飛んで行った。

 マツバが高速でユニルを追いかける。


マツバ「ねぇ? あんた悪党の仲間でしょ?」


 ユニルにピッタリと付いて行ったマツバが、走りながらユニルめがけて蹴りを放つ。

 ユニルの姿がその場から消え、マツバの蹴りが空振る。


マツバ「ん? 消えた?」


 ザザーーーッ! っとマツバが地面をこすりながらブレーキを掛ける。

 どこに行ったのかと周囲を見た頃には、既にユニルは千丸の場所に居て服を掴んでいた。何か千丸とごく短い会話をしてから、共に上空へ向かって消えていく。


マツバ「あ~~もうっ☆ 逃がしたか」


ヴィデン「リク! 伏せろ!」


 言葉と同時に反応したマツバがその場で伏せる。

 いつの間にか背後に居た風音が、マツバの顔面があった付近に蹴りを放っていたらしい。

 間一髪のところでマツバが蹴りをかわす。


 蹴りが空を切るのを下から見ていたマツバが、地に着いた両手をバネにしてそのまま風音の顔面に向かってお返しの両足蹴りを放つ。

 風音がその足を両手で抱きかかえる様に掴む。


風音「捕まえた。ちょっと痛いよ」


 そのまま背負い投げをする形でぶん投げる。顔面を叩きつけられるのを防ぐ為に、マツバが顔面を両腕で防御した。


 が、叩き付ける前に風音の首元にヴィデン・ツァのナイフがすべり込むように入って来る。

 咄嗟に掴んでいた足を離してその場から離れる。

 解放されたマツバは受け身を取り、クルンと一回転してから立ち上がる。


マツバ「うん、強いね☆」


 マツバが再び仕切り直す様に戦闘態勢をとる。

 ヴィデン・ツァがナイフを持っていない方の拳に、真っ黒なメリケンサックのような物を取り付けた。


ヴィデン「リク」


マツバ「なに?」


 呼ばれたマツバが振り返ると。

 そのままヴィデン・ツァがマツバのあごを殴った。

 マツバの動きが止まる。


 目の前で見ていた風音もその行動が理解出来なかったので、マツバも状況が飲み込めず呆然としているのかと思ったが、どうやら意識が飛んだようだ。

 やがてそのまま座り込むようにその場で崩れる。


風音「・・・急に何やってんの? 仲間割れ?」


ヴィデン「予定変更だ。さっきの小さいの。あれはかなり高位の妖精だな。こちらに向かって睨んだ時のあいつの目、危険な目をしていた。今から俺はお前を殺すが、同時にそれは俺があいつに殺される事を意味する」


 逃げる事も抵抗する事も出来ない。

 契約を解除した本来の姿である高位の妖精を敵に回すという事は、そういう事だ。

 このまま二人掛かりで風音を殺せば、二人ともユニルに殺される。


ヴィデン「俺は英雄殺しさえ殺せれば、もう死んでも構わない。俺の目的にリクを巻き込むのはここまでだ」


 風音が眉をひそめる。

 さっきからずっと思ってた事だが、急に出てきて何を言ってるんだこの男は。

 こいつの人生、こいつはこいつで色々あったのかもしれないが。


風音「あのさ、訳の分からない格好を付けないで貰える? こっちはそっちの事情を知らないから、勝手に完結されても困るんだよ。まずあんたいくつか勘違いしてるから」


 それ以上こちらの言葉も聞かず、ナイフで切り掛かってくる。

 無駄のない動き。そして風音が避ける事も既に視えている筈だ。

 千丸と違い生まれながら未来視を持っているこの男は、どういう動きをしてくるのか。

 最初の突きを避け、流れる様にこちらの急所を次々と狙ってくるナイフの軌道を避け続ける。


風音(おかしい・・・この人・・・)


 上段にナイフの軌道が来た時、試しに少しかがんで足払いをしてみる。

 当然こちらが足を蹴ろうとしているのが分かっているようで、ナイフの向きがこちらの動きより先に下段を向く。


風音(あれ? ・・・やっぱり視えてるな・・・)


 このまま足払いを予定通り行うとこちらが足を切られそうだったので、少し後方に距離を取り屈んだ状態を元に戻す。

 当然それも読んでいたのか、距離を取った分だけ詰めてくる。


風音(やっぱりおかしい・・・けど・・・、まぁいいや)


 なぜか必要以上に前に出て一方的に攻め立ててくるヴィデン・ツァの動きが不自然に感じたが、これがこの人の戦い方なのかもしれない。

 風音の目から見れば、せっかくの予知能力と噛み合っていない気がした。

 これではただ単にナイフの扱いが上手い一般兵のようだ。


 相手の事を考えるのはここまで。風音の方も反撃を開始する。

 隙を見て相手の腕を壊しにかかるも、こちらの攻撃は形になる前に止められる。

 しかし関係無い。こちらの反撃が避けられたり止められたりするのは想定済み。こいつの能力は敵に立て続けに行動された時にほころびが出る。

 顔面、腕、胴そしてまた腕。あらゆる場所にこちらが休みなく攻撃を続けると、ヴィデン・ツァが防戦一方になる。


風音(でもこの人・・・凄いな・・・)


 この速さに付いてこれるなんて。秒間十発以上は打ち続けているのに、ことごとく払いのけられる。

 本当にさっき千丸が持ってたのと同じ能力なのか?

 そう疑問に思う程、性能が違う。千丸は初撃を確実に躱す事くらいしか出来なかったのに。

 そして、防戦一方でありながら一向に引き下がらない。むしろ前に出てくる。


風音(なんなんだ? こいつの戦い方・・・)


 風音が足を潰す為に高速でローキックを放つ。

 これがヴィデン・ツァにとっての好機となった。

 一瞬の隙を見て、風音の喉元のどもとに真っすぐナイフが突き刺さる。


 ヴィデン・ツァの目が見開き、風音の顔を見て愕然がくぜんとする。


風音「その目。 視えた? この後の自分の未来」


 ナイフを持つ手を掴み、至近距離から強烈なフックを顎にお見舞いする。

 普通なら気絶する一撃だが、それでも倒れない。

 脳震盪のうしんとうの影響か足も震えているみたいだが、気合いだけで立っているようだ。

 そんな状態でなお、空いた手の方で風音の腹を殴っている。


風音(それだけ目的意識が勝ってるって事か。 本当に何なんだろうこの人)


 掴んでいた手を離すと。


ヴィデ「死・・・ね・・・・!」


 それでも前進して切り掛かってくる。

 足元もおぼつかない状態なので、ナイフを取り上げてから足を引っかけると、成す術なく倒れた。


風音「だから言ったのに、いくつか勘違いしてるって。まず僕にナイフが効くと思ってた事。一回わざと避けると、大体引っ掛かるんだよ」


 取り上げたナイフを倒れているヴィデン・ツァの前に放る。

 ナイフの先が毒で崩壊して無くなっている。


風音「勘違い二つ目。僕は英雄殺しじゃない。僕があんたらとやり合う理由は、連続殺人事件の容疑者だから。それだけ」


 うつ伏せに倒れていたヴィデン・ツァを転がして、倒れているリクを見えるようにする。


風音「最大の勘違いがあの子、気絶させたマツバさん。あれ何の意味も無いよ。怒ってる妖精は大自然の脅威と同じなんだよ。事情も被害も考えない。 もし僕が死んでたら、あんたとマツバさんは問答無用で死ぬ。この辺に住んでる住人は当然巻き込まれるし、最悪今上空に連れて行った僕の仲間の命だって危ない。多分放り出して自分の目的を優先するから」


ヴィデ「・・・英雄殺しでないなら・・・頼みがある。俺達は・・・まだ・・・捕まる訳には・・・」


 風音がもう一度ヴィデン・ツァの顎を殴る。

 今度こそ意識を失ったようだ。


風音「ごめん」


 さっきの様子を見る限りこの男の目的はおそらく・・・英雄殺しに対する私怨しえん

 マツバの自白が無ければ、事情くらいは聞いてあげたが・・・。

 もう一連の事件の犯人と判明している今、内容にもよるが事情を聴いて情が移ると捕まえにくくなる。

 何も知らない内に捕まえてしまう方が、気持ち的に楽だ。


 風音がシャロンに連絡を取る為に携帯端末を取り出すと、いつの間にかゼロアから連絡が来ていたようだ。


 潜入先で例のロボットを殺した実行犯の顔が分かった、という事らしいが。


風音(先に捕まえちゃったよ)


 同時に行動していればこういう事もあるか。

 一応ゼロアからのメールに目を通す。

 そして添付てんぷされていた犯人の女の写真を見る。


風音「・・・・・・・・・・・・ん?」


 ・・・じっくり見る。


風音「え・・・? 誰これ?」


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