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カノン  作者: しき
2.5話
18/206

カノン案内2


風音「はい、ここが例の部屋」


 ようやく到着した。

 紹介するも、そこには何の変哲(へんてつもない部屋が六つ並んでいるだけだ。

 廊下の左右に扉が三つずつある。


セイニー「ここは何のお部屋なんですか?」


風音「う~~ん、なんて言ったらいいんだろ? ・・・子作りするところ? ・・・子作りは違うか・・・・? ・・・ラブホテルに近いのかな?」


 言葉を探す。


風音「・・・あれだ。 仲の良い男女がイチャつく部屋」


 セイニーが疑問符いっぱいの表情を作る。


セイニー「ここに住んでいる人達って、皆さん自分のお部屋を割り当てられているんですよね?」


風音「はい」


セイニー「この宇宙船、壁が薄くて恋人同士で会話するだけでも周囲が気になるとか?」


風音「全ての部屋で防音は完璧なんですよこれが」


 セイニーが少し考える。


セイニー「・・・・・・要ります? この部屋」


風音「そのセリフと全く同じのを設計士に言った覚えがあるよ。 なんか絶対要るんだってさ。裏側の常識みたい。 宇宙空間での宇宙船っていう限られた空間で集団生活する場合、一番注意するべきは人間関係なんだって。 この部屋が有ると無いとで、人間関係が崩壊する可能性が三割くらい減少するとか?」


 ホントかよ? 逆じゃない? って当時突っ込んだ記憶がある。

 場合によっては余計人間関係が悪くなりそうな場所に思える。ラブホテルなんて浮気の代名詞みたいに使われる事もあるし。


セイニー「へ~~~」


 感心したように、部屋を見渡す。


セイニー「わざわざ使う人居るのかな・・・?」


 興味がある訳ではないが、なんとなく呟いた。


風音「一応この階のトイレの奥にあるドアからも、各六部屋が繋がってるから。 直接入るのを見られたくない場合はそっちからも行けるみたい。 だから、誰が利用してるのかは分からないね」


 と濁しておく。

 ただやっぱり何年も過ごしていると、たまに察する事はある。

 実際は堂々と利用している奴等が三組居る。


 まず癒々ゆゆ煉也れんや。こいつらはよく見かける。

 風音にとっては幼馴染でもあるので別に見かけたくないのに、わざとアピールしているかの様によくこの廊下付近で二人を見かける。

 それから今しがた目にした二人、リロとゼロア。なんかいっつもこの辺で喧嘩している。多分痴情ちじょうのもつれだと思っている。

 あと千丸ちまる。 女癖、男癖の悪い千丸はゼロアと九重ここのえに監視されているので、乗組員にこそ強引に手を出したりしない。

 しかしその代わり、よく外から知らない人を連れてくる。

 ・・・こいつに関しては、外でイチャついて来いよ。と思う。

 それ関連で言うと、一度千丸がカノン内で知らない女の人二人と修羅場ってたが、ゼロアに三人ともつまみ出されていた。つまみ出されたと言うか、炎火ほのかに連れて行かれて窓から外に放り投げられた。


 ・・・それ以外の利用者が居るのかは本当に知らない。


風音「あ、そういえば」


 ポケットから紙切れを取り出す。

 この部屋を紹介したと同時に、セイニーに渡してくれと頼まれてあったやつだ。


風音「神楽さんからセイニーに・・・って」


 紙切れをセイニーに渡す。


セイニー「私に・・・ですか?」


 受け取り、紙切れを広げた。

 しばらくセイニーが紙面を目で追う。


セイニー「・・・えっ?・・・・子供を・・・・・・」


 読みながら、時々風音の方を見る。


風音「?」


 疑問に思いながらも読み終わるまで待つ。


セイニー「・・・・・・確かに・・・一理あるのかな?・・・・・」


 などと、たまにブツブツ呟いている。


 しばらくしてセイニーが顔を上げた。


セイニー「ちょっと質問良いですか? 二択です。 ①風音は私の事がほんのちょっとは好きですか? ②殺したいくらい嫌いですか?」


 ・・・これから同じ宿で住む相手に、その問いで後者を選ぶ奴が居るのだろうか。


風音「そりゃまぁ・・・①だね」


セイニー「ありがとうございます・・・・そうですか。じゃあ・・・・どうしましょう。 え~~~っと? 今からですか?」


風音「何が?」


セイニー「あ、ほんとだ」


 再びセイニーが紙切れに目をやる。

 そしてそのまま意を決したように、風音の腕を掴んで目の前にある部屋に入ろうとする。

 意味が分からないので風音が抵抗する。


風音「えっ!? ちょっと!? 何?」


 その抵抗と風音の表情を見て、もう一度紙切れに目をやったセイニーが「なるほど~」という感じで何度かうなずいてから、また腕を引っ張って部屋に入って行こうとする。


風音「ちょっと失礼」


 セイニーから紙切れを奪い取る。

 彼女がおかしな行動をとり始めたのは、これを見てからだ。

 結構長い文章のようだ。神楽はこれをいつ書いたのだろう? 予め書いて、食堂に持って来ていたのだろうか?

 さっそく翻訳しながら読んでみる。


 セイニーさんへ


 実は女性がカノンの乗組員になる為には、ひとつ出来ればやっておいた方が良い事柄があります。

 それは、今紹介して貰ったであろう部屋を、風音様と利用する事なのです。


 今貴女あなた

 「えっ? この部屋を利用? 子供を産むの?」と疑問に思われたと思います。


 いえいえ、一度落ち着いてください。

 子を成すかどうかは貴女の自由ですし、どうしても部屋の利用が嫌なら断る事も出来ます。

 最初に書いた様に、出来れば、で良いのですから。

 もし風音様の事が嫌いなら、遠慮なく断って下さい。以下の文章は読まなくてもいいくらいです。でも。

 

 どうなんでしょう? 貴女のその境遇を考えると。

 自分でも考えた事は無いですか?

 貴女は前人類の最後の生き残りです。

 やはり人類として、絶滅だけは回避しなくてはならないのではないでしょうか?


 もう一度言います。

 絶滅だけは、回避しませんか?


 そしてこれが、その良い機会ではないでしょうか?


 仕事や生活もあるので、子を成すのはまだ早いとお考えなら、それも構いません。そんな事は後でも出来ます。

 しかし、今の内に相手くらいは決めておくのも必要な事なのでは?


 絶滅を回避する為にも。


 そう。

 絶滅を回避する為にも。



 さて、もし貴女の心が決まったのなら、下記の質問を風音様にしてみてください。


 ①風音さんは私の事がほんのちょっとは好きですか?

 ②殺したいくらい嫌いですか?


 この二択に対し、もし風音様が①と答えたなら、


 「僕は部屋の利用をしてもいいよ」


 という意味です。

 風音様からの了承は得られたと思ってください。あとはもう、貴女次第です。

 絶滅・・・回避したいですよね?

 大丈夫。相手の了承は得ました。

 なので安心して、いつ部屋を利用するのか聞いてみてください。

 おそらく風音様は、


 「何が?」


 とか言います。


 これは隠語いんごです。

 「今から利用しましょう」という意味です。

 なので、遠慮無く腕を引っ張って部屋に連れ込んで下さい。

 そうすると、風音様は


 「えっ!? 何っ!?」


 みたいな事を言って抵抗します。

 大丈夫です。



 演技です。



 これは、もしこの現場を誰かに見られていた時の為に「艦長として、誰か一人を贔屓ひいきする訳にはいかんので一応抵抗しています感」を出しているだけです。

 よく見て下さい、彼の表情を。困ったような顔をしているでしょう?

 ね?



 役者ですね。


 気にせずに部屋に連れ込んでしまいましょう。


 最後に。

 近日中に婚姻届けを役所に出すのをお忘れなく。



 ・・・・・・・・・・・・・

 読み終わった。


風音「怪文書やんこれ!!」


 思わず地元の方言丸出しで叫ぶ。

 どういうジャンルの冗談だ。

 読んでいる間もセイニーが腕を引っ張っていたので、重心を下げて抵抗していたが。


風音「ちょっと、セイニー。 この手紙、冗談だから」


 風音の腕を引っ張っているセイニーの両手をポンポンと叩く。

 そこでようやく、セイニーが引っ張るのをやめた。


セイニー「あ、冗談なんですか?」


風音「そりゃそうでしょ。 どっかのアイドル会社の社長じゃあるまいし、こんなもんが事実なら女性乗組員全員から軽蔑されてるよ」


 女性乗組員志願者は風音とこの部屋を利用って・・・艦長だからといって職権乱用もはなはだしいというか、横暴すぎるだろう。

 みんな辞めるわ。


セイニー「軽蔑・・・? 子供を産む事は人類にとって必要な事ですよ? 嫌悪感の無い相手なら別に構わないのでは・・・・? 嫌なら書いてあるように断ればいいだけですし・・・?」


 不思議そうな顔をしてそう言う。


風音「いや・・・・」


 その考え方に少し疑問を抱く。

 確かに間違ってはいない。一夫多妻制や一妻多夫制の国や星ではそういう考え方の人も居た。

 しかし基本的にパートナーが一人の国や星では、もう少し慎重に相手を選ぶ。

 そしてここは地球であり日本だ。


風音「間違ってはいないかもしれないけど、ここの文化にはそくしてない・・・のかな。 いや、セイニーがその考え方のままでいいって言うなら良いんだけど・・・」


 そういえば以前過去の話を聞いた時に、前人類は実験の為にセイニーに子供を産んで貰おうとしていた。というような事を言っていた。

 結果セイニーは当時子供を産める程の年齢まで身体が成長しなかった為、計画は頓挫とんざしていたようだが。

 今の彼女の発言は、その頃の教育から来ているものだろう。

 セイニーの考え方を子供の頃から洗脳しておく事で、特に好きでもない相手や多数の男性の子供を産む事に抵抗が無いように仕組んでいたのかもしれない。


 ここはセイニーの疑問に慎重に答える。


風音「まぁ時間はあるんだし、ゆっくりこの時代の文化を勉強してさ、自分の時代の考え方の方が自分に合ってると思うならそれは否定しないし、今の時代の考え方が素敵だと思ったら、鞍替くらがえすればいいし」


 洗脳されていた、とか余計な事は言わないでおく。もしかしたらその時代の人は本当にそういう考え方だったのかもしれないし。

 もう終わってしまった事だ。この言い方で無難だろう。


セイニー「そうですか・・・難しいですね?」


 言葉とは裏腹に、楽しそうだ。

 地上の文化に触れるのを楽しみにしていたようだから、こういう違いを実感するのも楽しいのだろう。


風音(そっか・・・。 今のやり取りが無かったら、こういう色事いろごとの認識の違いを教える事が出来なかったもんなぁ。 神楽さんはこれを見越していたのかも・・・男の僕じゃそういう話題って切り出し辛いし)


 だとしたら感謝しないと。セイニー自身も楽しそうだし。


風音(やっぱり神楽さんはしっかりしてるよなぁ・・・世話焼きのレベルが一味違うって言うか)


 こうしてまた風音に間違った認識が植え付けられていく。


風音「まぁいいや。 取り敢えずこの場所の紹介はこんなもんかな。 じゃあ次行こっか。 次は特におすすめの場所なんだけど」


 おすすめと聞いてセイニーの目が輝く。


セイニー「風音のおすすめですか? それはもう、今から楽しみですね?」


 まるでおもちゃを手に入れる直前の子供の様に、ワクワク感が最高潮に達している。


風音「うん、期待しててよ。 いっぱいトレーニング器具もあるし」


セイニー「トレーニング器具?」


 早速セイニーのワクワク感が半減する。


風音「トレーニングルームだよ。 いろんな運動が出来る場所」


セイニー「・・・・・・・・・・・・・・なるほど」


 セイニーが今日一番の、テンション下降っぷりを見せる。


風音「ありゃ? トレーニング嫌い?」


 様子の変化に気付いた風音が尋ねる。


セイニー「嫌いというか・・・そういう部屋は上空うえにもあったんですよ。 囚人用の施設内に。 ただ・・・何度か利用してみたんですが私には意味が無かったというか」


風音「意味? 細胞が機械に近いから、体型に変化が無いとか?」


 鍛えても筋肉が付かないのか。 確かにトレーニングは身体に何の変化も無ければ、やる気が続かないものだ。


セイニー「簡単に言えばそうですね。 私、やろうと思えば体型は自分の意志である程度変えられますし、身体性能は最大まで引き出せるんですよ?」


 だからトレーニングの意味が無い。


風音「そっかじゃあ・・・体を動かして汗をかくのを目的にするのはどうかな? ストレス発散にはならない?」


 トレーニング目的ではなく、メンタルの部分の健康維持の為に身体を動かすのはどうだろう?

 それを聞いたセイニーが、ちょっとだけテンションを持ち直して反応する。


セイニー「あ、その感覚は分かります! アレはアレで爽快感はありますよね? ・・・・でも・・・う~~~ん・・・」


 やはり身体に何の変化も無い事が予め分かっていると、敬遠してしまうようだ。


風音「あ、じゃあシミュレーター付きのランニングマシーンがあるんだけど、アレどうかな? めっちゃくちゃでかくて場所取ってるのに、今は誰も使ってないやつ」


 ドームテント状になっているランニング器具だ。

 地球上のあらゆる場所のランニングとウォーキングを体験出来る。テントの中に入ると事前に設定した場所の風景が広がっていて、そこを走る。

 動くたび風景がそれに合わせて動き、床が風景に対応した地形に変化していく。さすがに90度以上の傾斜には対応していないが。


 その器具の概要がいようを、セイニーに大雑把おおざっぱに説明した。


風音「あれ真ん中で分かれてて、二人用にも対応してるんだよ。 二人用の時は登山ルートが決まってて前に移動する事しか出来ないから、せっかくのリアルさが半減するけど・・・・あれで一緒に山登りしない?」


セイニー「やりますやります! やります!!」


 思った以上に食い付いた。


風音「じゃあ日本の山を全制覇しよう。 まずは葛城山かつらぎさんとかどうかな? 近くて馴染みのある山だし」


 風音もテンションが上がる。

 というのも、カノンの皆は風音のトレーニングはハードだという思い込みがあるせいか、誰もこういうのに付き合ってくれない。風音を慕っている人達すら。

 逆に風音の本気トレーニングに余裕で付いてこれるゼロアや神楽は、山登りシミュレーターなどヌル過ぎて付き合ってくれないし。


セイニー「近い山なら実際登りに行った方が良いような気もしますけど・・・・まぁ細かい事はいいですね。 早速それ見に行きましょう?」


 若干じゃっかんのダメ出しを喰らいつつも、風音が早速トレーニングルームのある二階へと案内を開始する。



 二階のトレーニングルーム前。

 今回は特に雑談する暇も無くすぐに着いた。

 階段降りてすぐにあるから、すごい近かった。


 トレーニングルームのドアを開けると、部屋の中央でゴロゴロと転げ回っている少女が一人。

 さっき走り去ったリロのようだ。

 トレーニングや遊んでいるのではなく、さっきゼロアにやられた怪我が痛くてのたうち回っているのだろう。

 まだこちらには気付いていない様だ。

 セイニーが眉をひそめてその様子をうかがう。


風音「痛々しいでしょ? ほぼ毎日あんな感じなんだよ。 元々戦闘民族って毎日修行してるから、あんなの日常茶飯事さはんじらしいけど」


 ついでに風音も修業時代よく死にかけていた。あれは全部、父親けんじんが悪い。

 ここで風音がポンッと手を打つ。


風音「そっか。 今日はセイニーが居るから治療出来るかも」


セイニー「・・・どういう事ですか?」


風音「セイニーに取り押さえて貰うとかさ。 あの子ね、いっつもここで苦しがってるんだけど、僕が治療しようとすると逃げるんだよ。「我慢出来ます」とか言ってやせ我慢しようとする」


セイニー「じゃあ放っておけばいいんじゃないですか?」


 このセリフだけ聞くと冷たい発言の様に聞こえるが、そうではない。

 セイニーもそろそろ戦闘民族の扱いが分かってきたようだ。戦闘を日常としている種族に対しては、この様なケースは放っておく方が良い。過干渉は逆に嫌われかねない。

 仲良くなりたければこういう場面では放っておき、平常時に話しかける方が良い。


風音「うん、僕もそれが正解だと思って放置したんだけど・・・でも放っておくと泣きそうな顔してずっとこっち見てるんだよ。 で見かねて「治療しようか?」って言ったら、その時は一旦頷くんだよ。 そんで近付いたら、「やっぱり我慢します~~」って逃げるんだよ」


 リロの異常行動にセイニーが首をクリンとひねる。


セイニー「・・・ちょっとよく分からないですね? この際ですし、今日は治療してみて真意を問いただしてみましょうか?」


 言うが早いか、セイニーがまた服を脱ぎ始める。


風音「ちょいぃ!!」


 反射的に大きな声を出しそうになった。


風音「だから何ですぐ脱ぐ?」


今度は下着姿になる前に注意する。


セイニー「あの・・・緊張するから見ないで下さいね?」


 上着を脱いだところで両手で風音の頭部を掴んで、風音の顔を無理矢理向こうに曲げる。


風音「じゃあ脱がなくて・・・壁に入ったりしなくていいから。 あっちは気付いてないんだし、器具の陰にでも隠れながら背後に回ってくれればいいから」


 セイニーがリロの方に目をやる。


セイニー「・・・それもそうですね?」


 言われて気付いた。てっきり地面に潜り込んで、真下から拘束する計画だと思っていた。

 カッターシャツ姿のセイニーが、急いで制服を着直す。

 そしてそのままアイコンタクトをしながら、リロの向こう側へと移動した。


 しばらくしてから風音がリロに声を掛ける。


風音「あれ? またここで転げ回ってんの? 治療しようか?」


 少し離れた場所から声を掛ける。今到着した風を装う。


リロ「え・・・あ・・・風音さん・・・? 新人さんの・・・・案内は・・・・?」


 苦しそうな言い方で、お腹を押さえながら顔を上げて尋ねる。


風音「まだ途中。 それより治療したほうが良くない?」


 リロも戦闘民族として決して弱くはない。

 本来なら腹に一発入れられたくらい、致命傷でなければ苦しむどころかその場で戦闘続行くらい可能だ。


 風音の問いにリロが無言で頷く。


風音「あの人の攻撃は全身に響くしね・・・・・吐いてないだけ立派だよ」


 ゼロアの攻撃はなぜか、全身を何度も苦痛が往復する。

 一般人があの一撃を喰らって仮に生き延びる事が出来たとしたら、その後が地獄だ。長時間続く痛みもきついがそれよりのどただれる。

 吐き気が治まらないので、喉が胃酸でボロボロになるまで嘔吐おうとを続けてしまうからだ。

 ・・・そう考えると、今のリロの状態はまだ耐えている方だ。


 そして風音がもう少しでリロに触れる距離にまで近付いた頃合いで。


リロ「あ・・・あの・・・やっぱりいいです・・・・我慢・・・出来ます・・・・」


 これもいつも通りだ。

 目に涙を浮かべながら、ひざを立てて後方に移動しようと準備をする。

 そこに。


リロ「えっ・・・!?」


 背後から飛び出て来たセイニーがリロを羽交はがめにした。


セイニー「はいっ、つ~~かま~~えた♪」


 そんな明るい声のセイニーとは対照的に、リロから感情の無い低い声が。


リロ「・・・・キエロ・・・」


 背後から取り押さえられているリロの両手が赤く変色しだしたところで、風音がリロの両腕を掴む。


風音「はい爆破禁止」


 いつの間にか目の前に居た風音と目が合い、リロが我に返る。


リロ「え・・・? あの・・・・・」


 風音に両腕を掴まれて、口をパクパクとさせている。その状態で振り返るとそこには、例の新人の姿が。

 セイニーは「よっしゃー!」みたいな表情をしていた。

 その状況にリロが混乱する。 なんでこの人に羽交い絞めに・・・・という疑問の表情。


風音「いっつも治療から逃げるから、僕が協力をお願いしたんだよ。 ほら、観念して早よポンポン出さんかい」


 状況の説明もそこそこに、早速治療に入る。


リロ「ちょ・・・・っと・・・まって・・・くだ・・・・」


 リロの制止など無視して、鳩尾みぞおち付近に手を当てて治療を開始する。


リロ「・・・あぁ♡・・・・・いや・・・・だからぁ・・・・うあぁ♡」


 妙につやっぽい声を出す。

 リロの顔が、爆発しそうなくらい真っ赤になっている。


風音(リロって顔も爆発したっけ・・・・?)


 彼女が手足を爆破させてゼロアに襲いかかっているのはよく見かけるが。

 顔は無いか。顔が爆発したら本人も危ないだろ。脳とかやられそう。


風音(あれっ? って事は? もしかしたらなんか変な所でも触ってんのかな・・・・?)


 おへそとか他人に触られたらゾワッとする感じは理解出来る。なぜなら小さい頃に母親に触られまくった過去があるから。


 改めて真っ赤な表情のリロを見る。


 あっ。

 まさかこれセクハラ案件なのか?

 だとしたらまずいな。

 「いやいや人助けの為ですがな。一旦了承りょうしょうは得とるんや。 こう・・・お腹に手を当ててこんな感じで、治療をやな・・・」は、裁判所で通じるのだろうか。


 えっ? でも確か・・・リロの身体には胸付近にも大きな牙と口があって・・・たてにガバッと・・・。

 風音がリロのおなかをなぞるように、指でおなかの上部から胸にかけて存在する口の場所を確認する。


風音(いやいや、間違ってない。 ただの口だよこれ)


 食事中に周囲に見せる事もあるくらいの場所だ。

 治療の為に服越しに口を触るくらい、別にセクハラとかではないと思うんだけど。


リロ「はあぁあ♡・・・! ・・・・・・くぅぅっ♡♡・・・!」


 しかし風音の指の動きに合わせて、えらく反応される。


風音(えぇ~~~~・・・・)


 疑問に思っている内に、治療が完了する。

 同時にセイニーがリロを解放すると、リロはそのままその場に崩れ落ちた。


風音(倒れた・・・・・)


リロ「あ・・・ありがとう・・・・ございましたぁ・・・♡」


風音「いえ・・・どういたしまして・・・」


 本当に大丈夫なのだろうか? いや間違いなく治療は終わっている筈だ。


セイニー「ところで、どうしていつも治療を拒むんですか?」


 そんな光景も一切気にせず、早速セイニーが本題をぶつける。


リロ(・・・・・・・!)


 その声に、リロが何かを思い出したようにガバッと立ち上がり、セイニーを見る。

 その目は獲物を見るように鋭く、徐々に鼻息も荒くなっている。


セイニー「ど、どうかしましたか?」


 さっき後ろから捕まえた事を怒っているのかと、少し緊張する。


リロ「あの・・・風音さん・・・少し彼女と二人にして・・・もらえませんか?」


 リロがセイニーの方を凝視ぎょうししたまま、風音に言う。


風音「セイニーさえ良ければ別にいいけど・・・一つ言っとくけどさっきのは全部僕の提案だから、あの件を責めてあげないでね?」


リロ「え・・・? いえそれは・・・もう・・・気にしてなくて・・・・・」


リロ(~~~~♡)


 さっきの治療を思い出したリロが顔を真っ赤にして、両手を頬に当ててブンブンと首を振る。


風音「じゃあいいけど・・・・」


 その言葉を信じてセイニーに目配せする。 さっきの九重の時と同じように、いいですよ、という感じのリアクションを見せる。


風音「それじゃあ今日は皆と親睦しんぼくを深める方が優先だから、トレーニング器具の説明はいずれって事で。先に外に出とくね」


 そう言って風音がトレーニングルームから出た直後。

 リロの視線が更に鋭くなる。


リロ「セイニーさんでしたっけ? あなたどうしてその服を着ているのですか?」


 リロが腕を組んで前髪に付いた髪留めをいじりながら、セイニーの服装を見て問う。

 リロの喋り方は良く言えば静かで落ち着いた・・・悪く言えば度が過ぎたひかえ目口調と言うか、陰気いんきな喋り方ではあるものの・・・


セイニー(この人普通に喋る事が出来たんだ)


 という感想を抱く。

 たどたどしい喋り方しか出来ないのかと思っていた。・・・えてそれには触れずに質問に答える。


セイニー「どうしても何も、仕事着ですよ?」


リロ「それ、カノンの制服ですよね・・・?」


 再びじっくりとセイニーの服装を見る。

 そして複雑な表情を作った。


リロ「私だけだったのに・・・」


 言いかけたリロに続けるように、セイニーがポンッと手を叩く。


セイニー「はい、そうなんですよ。 リロさん以外誰も着てくれない~って言ってました。 だから私も着てみたんですけど、すごく喜んでくれましたよ?」


 にっこりと笑ってそう答える。


リロ「そ・・・」


 急にリロの表情が明るくなり、セイニーの手を握って喋り出す。


リロ「そうなのっ! 風音さん凄く嬉しそうにするのっ・・・! それが食べてしまいたいくらい・・・・可愛くて・・・もぅ・・・・・」


 そこでリロがハッと我に返り、ポカンと見つめているセイニーの手を振り払う。


リロ「・・・気安く触らないで下さい」


 ふいっとセイニーから顔を背ける。

 そして自分を落ち着けるように一つ咳払いをしてから、改めてセイニーに向き直って続ける。


リロ「百歩譲ってその制服を着るのは認めます。カノンオリジナルの、風音さん考案の仕事着ですから? ただ、他にも色はあったでしょう? どう考えても黒は私だけの特権・・・」


 ブツブツと蚊の泣くような声でつぶやいているリロを見て、セイニーがクリンと首を傾ける。


セイニー「リロさんは、何かの御病気ですか?」


リロ「ど・・・どういう意味ですか・・・・!」


セイニー「すみません。病気という表現は失礼ですね。精神的な不調でしょうか? 急な感情の変化・・・。 一時的に自分の感情を抑える事が出来ていない様に見えます」


 リロをじっと見ながら説明する。


リロ「な、何を訳の分からない事を・・・」


 しらばっくれているが、実のところその通りだ。

 リロは自分の中で複数の感情が入り混じった時、急に態度が一転する事がある。

 本能や本音をさらけ出して生きる戦闘民族の本質と、それを感情で抑え込んで生きていこうと決めた自我とがぶつかり合っている。


セイニー「・・・あ、すみません。 悪い癖なんです。 分析したくなくても見えてしまうというか・・・風音に初めて出会った時なんて、全身隅々すみずみまで見てしまいました」


 あの時は一応警戒していた事もあり、体の細胞の構成まで見てしまった。


リロ「全身隅々まで・・・!? ・・・あ、あなた、風音さんに何を!」


 急に取り乱し始めたリロの目にちょっと涙が浮かぶ。

 リロの不安そうな表情を汲み取り、セイニーが笑顔で答える。


セイニー「安心して下さい、リロさんの身体は見てませんよ? もう許可なく身体を観察するのは止めました。 ついさっき身をもって学習したんですよ。 風音に下着姿を見られた時、緊張・・・いえ、凄く恥ずかしかったので・・・。あんなの勝手に人にやっちゃいけないですよね?」


 少し顔を赤くしながら、ちょっとした失敗談ってな感じで言う。

 他人から身体を観察されるのは、本来恥ずかしい事だという事を先程理解した。ならば今後は自分も他人に対してやらないように心掛けていかないと。

 全裸で実験生物扱いだった頃の自分とはもう違うのだ。


リロ「下着姿を・・・見せたの・・・? さっき・・・?」


 無意識にすうっと涙が一筋こぼれる。


セイニー「はい。 やっちゃいました」


 てへっ。


リロ「・・・・・ふっ・・・ぐぅ・・・!」


 ついに声を殺して泣き始めた。


セイニー「え? 大丈夫ですか? どうしました?」


 急に泣き出したリロを気遣う。が、腕を振り払われたさっきの事もあるので、尋ねるだけで手は出さない。


リロ「大丈夫・・・でず・・・」


リロ(こんな新人に・・・負けてられない・・・)


 泣き顔のまま、嗚咽おえつ交じりでリロの反撃が始まる。


リロ「でも私なんて・・・風音さんに怪我の治療をして貰った事もあるんですよ・・・」


セイニー「あ~~、あれちょっとうらやましいです。 凄く優しさを感じますよね」


 先程のブラウニーの幸せそうな寝顔を思い出しながら言う。

 そんなセイニーの反応を見て、リロの瞳に光が宿る。


リロ「・・・ふふっ」


 どうやら彼女は治療してもらった事が無いようだ。

 浅い。

 まだその程度か。

 この程度の小さな存在を意識していた自分が恥ずかしい。


 むしろ可哀想。

 風音さんと言えば治療。

 あの人に治療をして貰った経験が無いなんて。


 ――――滑稽こっけい


 下着姿を見せたとか風音さんの全身を見たとか、だから何? って感じ。

 あ~~、哀れ哀れ。

 そんなの事故でしかない。

 羨ましそうな表情をしているセイニーに、涙を拭いながら自慢げに言う。


リロ「それにさっきので二回目だし・・・。 一回目の時は、吹っ飛んで行く私を抱き止めながらで、格好良かったんだから。 私あの時風音さんに冷たい態度取ってたのに、それでも優しくしてくれたし」


 今まで泣いていたとは思えないほど饒舌じょうぜつに語り始めた。

 陰気な喋り方とはいえ、よく喋ってくれるようになったリロを見て、嬉しくなったセイニーも応じる。


セイニー「私もてのひらを切り落とされた時、風音が治療してくれようとしてたんです。 私は自分で自分の身体を修理出来るから必要無かったんですけど、なんだか唇をくっつけて治療しようとしてたみたいで。 せっかくなので私もあの時やってもらっても良かったですね?」


 同意を得るように言うと、リロが急にうつむく。


リロ「唇をくっつけて・・・・?」


 リロの声が震えている。


セイニー「はい。その方が大怪我を治療するのに向いてるらしいですよ?」


リロ「うぅ・・・うえぇっ・・・・」


 また泣き出した。


セイニー「えっ? えっ?」


 なんでこんなに情緒じょうちょ不安定なんだろうか。

 しかもさっきとは格の違う本気泣きだ。


セイニー(あ・・・・そうか)


 ここで気付く。

 リロは風音が優しくしてくれた事を誇りに思っていた。

 なのに今のセイニーの発言は、それを拒否したという内容だ。せっかくの優しさを踏みにじった奴を見てショックを受けたのだろう。

 慌ててセイニーが弁明を始める。


セイニー「いえ、拒否したとかそういうつもりでは無かったんですが・・・。 でも、私は確かに自分で治しましたけど、レスタ君も同じ怪我をしてたのでちゃんと治療を受けてましたよ? こう、ちょっと上を向いてこう・・・」


 その時のジェスチャーをして見せ、風音の気遣いが無駄にならなかった事を伝える。


リロ「・・ぁのガキィィ・・・・」


 もうボロッボロ泣いている。


セイニー(あれぇ・・・?)


 対処法が分からない。

 そこに後ろから声が。


風音「何? どうしたのこれ?」


 いつの間にか風音が戻って来ていた。


セイニー「あ、戻って来てたんですね」


 話が終わるまでずっと外で待っていると思っていた。というか風音もそのつもりだった。

 しかし、セイニーに伝えなければならない事が出来て・・・入ってきたらリロが泣いてた。


風音「うん。ちょっと用が出来て。・・・その前に大丈夫? まだどっか痛い?」


 子供をあやす様に、リロの背中をポンポンと叩きながら尋ねる。

 セイニーが誰かを泣かせるような事をするとは思えないので、やはり怪我が完璧に治っていなかったのか。と少し不安になる。


リロ「いえ・・・大丈夫・・・です。 ・・・ありがとうございます」


 泣くのを必死で抑えて顔を上げる。


風音「そ。 じゃ良かった」


 顔を上げたリロに微笑む。


リロ「・・・!」


 風音と目を合わせるや否や、緊急回避するかの如くすべる様に風音から離れ部屋の隅まで移動する。


風音(あ、また逃げた)


 そこまでやるかと思う程の逃げっぷりだ。地球人には不可能なレベルの超高速スウェイバックからの科戸しなと


 科戸しなと。風音が母から教わった歩法の一つだ。

 人間鍛えれば足の指の力を中心としたつま先の力だけで、十分に全身を動かす事が出来る。地面を足の指で噛むイメージだそうだ。

 タイミングが難しいがこれを歩く際や走る際に同時に使用する事で、一歩の距離と速度が飛躍的に上がる。

 速度を上げる為に爪を出して走る獣の状態に近いか。


 科戸を他人リロが使用するのを見て、ふと。


優希ゆうき「風・・・・・」


 母親の声を思い出した。科戸を教わった時。

 無理を言って稽古けいこを付けて貰った際に、ただ一言「風」とだけ呟いて微動だにしなくなった。

 風音はその様子をしばらく凝視していたが、まばたきしたその瞬間。

 ふわっと風音に風が吹いた。 ずっと包まれていたいような、ほんの少し甘く良い香り。

 まばたきを終えた頃には母親の姿は消えていた。


優希「歩き方を教えるわ。 科戸。 風の様にはやくよ」


 そう言って後ろからそっと抱かれる。

 以降、優希は風音に移動法や足運びばかり教えていた。



 昔の事を思い出し、感慨かんがい深げにリロの方を見る。

 トレーニングルームでの風音を見て覚えたのだろうか? いつの間にリロがあれを使うようになったのかは知らないが、まだ慣れていないのか足が地面から離れた瞬間だけ大幅に速度が上がっているので、コマ送りの様な動きになっている。

 四十点かな。

 慣れればもっとなめらかに・・・なんて、そんな評価はどうでもいいか。

 そんな事より、あんなもの普段私生活で使用するようなものじゃない。

 身体能力の無駄遣いというか・・・そういうところはセイニーと似ているのかもしれない。似た者同士で仲良くなってくれればいいが。

 しかし似た者同士と思っているのは風音だけのようで。ああいったリロの行動が理解出来ないセイニーは、隣で首を傾けている。


 一方でリロは二人に背を向けて、頭を壁に当てて体重を預けている。


リロ(はあぁぁぁぁぁ♡・・・・・優しぃ・・・・食べたぃ・・・・可愛ぃ・・・・・・・♡)


 壁に寄り掛かりながら、ジャケットの胸ポケットから一枚の写真を取り出す。

 写真には風音が写っている。

 息を荒くしながらそれを見つめた後、シャツのボタンを上から二つほど外し、そこから写真を入れる。

 リロの胸にある口が服の中で少し開き、写真を口の中に入れて閉じる。


リロ「・・・あぁ・・・・・・はぁ♡」


 胸に手を当てて恍惚こうこつとした表情になる。

 背中越しなのでリロが何をしているのか分からない二人は、成り行きを見守っている。


 しばらくしてリロが振り返り、シャツのボタンを留め直しながら二人の元に戻ってくる。


リロ「すみません・・・・少し落ち着きました・・・。あの・・・・治療・・・ありがとうございました。 もう・・・行きますね」


風音「いえどういたしまして。 またね」


 泣いてた原因とか色々聞きたい事もあったが、本人が落ち着いたと言っているしそのまま受け入れる。

 リロが二人に頭を下げてから、トレーニングルームから出て行こうとドア付近まで行き、


リロ「・・・・・・」


 振り返って、セイニーの方を見る。


セイニー「私?」


 セイニーがビシッと背筋を伸ばす。


リロ「不公平は嫌いだから・・・・教えておきます。 幼馴染や・・・虫や・・・木や・・・王女や・・・・子供は・・・・敵じゃない。 だけど、ブラウニーだけは・・・・脅威きょうい・・・。 覚えておいた方が良い・・・・。あなたは・・・その次」


 それだけ言い残し、セイニーの反応も待たずに去る。


風音「・・・・どういう事?」


セイニー「さあ?」


 なぜかブラウニーが脅威らしい。


セイニー「ブラウニーさんに脅威を感じる人なんて居るんですね?」


 確かにブラウニーは宇宙最強の生物に敵と認められた過去もある。それは風音もセイニーも知っているが。

 それはそれ。ブラウニーはブラウニー。


風音「あれに脅威を感じる人が居たら、今三階に居るあの姿を見せてあげたい」


 今まさに公開懲罰中だ。

 自分が罰を受けているとも気付かず、呑気のんきな顔を引っげて正座させられている。

 やろうと思えば、あんなもんなんぼでも張り倒せる。


セイニー「私がその次に脅威らしいですよ? 大出世ですね?」


風音「でもブラウニーの脅威ランクってタニシとどっこいだからね・・・・その次だったらせいぜい、折れて飛んでくるシャーしんくらいかな」


 ・・・とまぁ冗談はさておき。


風音「で、何があったの? 泣いてた理由とか分かる?」


セイニー「何もやってないんですけど・・・。だって最後に泣く直前までは上機嫌だったんですよ?」


風音「なのに急に泣いた・・・と」


 ふむ、と頷く。


風音「・・・じゃあ平常運転かな。 あの子いっつもそんなんだし」


セイニー「あれでいつも通りなんですね・・・」


 それが事実なら戦闘民族とか抜きにして、付き合い方が分からない。


風音「んじゃそれはいいや。 で、伝える事が二つ。 この後案内の続きをする予定だったんだけど、ちょっと用事が出来て」


 今廊下で待っている間に、仕事絡みの電話が入った事を伝える。


セイニー「あ、そうなんですね。 じゃあ、続きはまた今度ですね?」


風音「いや? 誰かひまなの見つけて続きを・・・・」


 言いかけた風音に、セイニーが少し困った様子で口を挟む。


セイニー「いえそれはちょっと」


 まさか断られるとは思っていなかった風音が、ほんの少し面食らった表情を作る。


風音「あ・・・そう? 案内役とも仲良くなれるし一石二鳥じゃない?」


セイニー「う~~~ん・・・。 その事なんですけど、私と風音とでは少し考え方が違うと言うか? 色んな人と少しずつ仲良くなるのも大事ですけど、やっぱり最初の友人の事をもっと知っておきたいですよ。 普通そうじゃないんですか?」


 クリンと首を傾げて問う。


風音「もっと知るも何も、僕らもう友情値カンストしてない?」


セイニー「いいえ? 何を言ってるんですか? まだまだ他の人に比べると壁がありますよ?」


風音「そう?」


 そんな自覚は無いが。


 もう一つ理解出来ていない風音に、セイニーが提案する。


セイニー「じゃあ例えば、今からしばらくの間だけ、私をブラウニーさんだと思ってください」


風音「急に難しい事を言うね・・・」


 ぶつくさ言いながらも取り敢えず言われた通り、今目の前に居るのはブラウニーだと自分に言い聞かせる。


風音「うん・・・・。うん・・・。 よし分かった、ブラウニー」


 何度かうなずいてからそう答える。

 セイニーの方も、コホンとひとつ咳払いを入れてからブラウニーに成り切る。


 両手を風音に向かって広げ、左右に振って元気よく登場。


セイニー「あ、艦長~~。 おはようござミサイル!」


 ドムッ! と風音の腹を殴る。


風音「なにやっとんねん」


 反射的に、ガスッ! とセイニーの脳天に結構強めのチョップをかます。


 クリティカルヒットにセイニーが頭を押さえ、う~~~~~・・・とか言ってしばらく痛がってから、風音の方をキッと見る。


セイニー「これっ!!」


 叩かれた頭を押さえながら叫ぶ。


風音「何がよ?」


 まだ風音はブラウニーのていで接している。


セイニー「もうブラウニーさんだと思わなくていいですよ。 だから今のです。多分私が同じ事をやってもこうはならないでしょ?」


 頭をさすりながら訴える。


風音「そりゃあ・・・ねぇ。セイニーがいきなりそんな事したら、反撃より心配の方が先に立つよ」


 急にどうしたん・・・ってなる。


セイニー「ですから、そういうのが壁なんですよ?」


風音「いやキャラ差じゃないかな?」


 仲の良し悪し以前に、人には個性というものがある。

 ブラウニーの様な知性の足りない個体に出合い頭に殴られたら、こちらも同じ対応で良い。


セイニー「そんな言い分では納得できません。私も頭を叩き返されるくらいになりたいんです」


 風音が不思議そうな顔をする。以前から思っていたが、


風音(なぜあの領域を目指そうとするのか・・・・)


 ちょっと理解出来ない。


 ともかく、どうやらセイニーも神楽かぐらと同じ考え方らしい。

 一気に皆と仲良くなるより、まず一人と・・・・か。

 二度同じ事を指摘され、改めて考える。

 風音も高校は通信制だったが、小中学校には通っていた。確かに学校で友達を作る時も、沢山一気に作る奴なんて居なかった。

 大体最初は一人か二人。そこから時間と共に少し輪が広がって行くか、そのまま少数で維持していくかだ。

 セイニーにとってカノンは初めての社会生活の場。学校の様な物だと考えるなら、そっちの方が自然な考え方か。


風音「そう・・・かもなぁ」


 納得すると共に、それを最初に指摘した神楽さんはやっぱりしっかりしてるな・・・と感心する。


セイニー「でしょ? だから案内は風音が最後までやって下さい。 それに安心して下さい、私待つのは慣れてますよ?」


 うふふ、と笑う


風音「ははっ、何億年も待った人が言うと説得力があるね~・・・っていうか。 セイニーはちょくちょく笑えない自虐ネタをかますね」


 こういうのは対応に困る。


風音「じゃあ案内の続きは今度にして、実は今待ってる間に電話が二本掛かってきて」


 なんとなく携帯を取り出す。


風音「片方はさっきも言った通り仕事関連なんだけど、もう片方がセイニー関連の報告でね」


セイニー「あ・・・もしかして結果が出たんですか?」


 セイニーの表情が一気に強張こわばる。


風音「うん。 結果から先に聞きたいだろうから言うね。 大丈夫っぽい、行けそう」


セイニー「あ・・・・そうなんですか?」


 強張っていた表情から力が抜け、安堵の表情に変わると同時に涙があふれる。



 セイニーの双子の弟の件だ。

 セイニーと同じ半機械の身体を持つ、レディアという名の男の子。

 もう今から数億年も前の話だが、彼もセイニー同様生まれてからずっと人体実験の被験者として扱われていた。

 そんな中、全身に電気を流す実験中に体が耐えきれず死亡。

 その体の一部を遺品としてセイニーが受け取っていた。


 その後弟を失くした失意の中セイニーは生きる意味を見失い、行動する気力をくし死を受け容れるかのように何日間もジッとしていた。

 そんなセイニーが死を迎える直前、弟の細胞が死んでいない事に気付く。

 もしかすると弟を生き返す事が出来るのではないか、と。

 それだけを目的としてセイニーは今まで生きて来た。


 ・・・という話を、以前本人から聞いている。


 やはりこの件を最初にどうにかしてあげたいと思っていた風音が、セイニーに出会った直後から取り掛かっていた案件だ。


 調査を依頼した結果、その細胞があまりにも優秀なので、蘇生自体は余裕で行えるであろうという結果だった。

 素材が肉片のみだと、普通は脳が復元出来ない可能性が高いらしいが、全く問題ないそうだ。


 しかし地球では亡くなった者の蘇生は、どの国でも認められていない。理由は当然、死者を蘇生させる事は禁忌きんきだからだ。

 だから調査の依頼も裏側(地球が存在しない方の宇宙の俗称)にある異星の研究者に頼んだ。


 ともかく問題無さそうなら早速、蘇生が許可されている裏側の星に行って・・・・と思っていたのだが、そこで待ったが掛かった。

 風音も知らなかったが、実は裏側にも蘇生のルールがあるらしい。

 裏側の基準で完全な死と認定された場合は蘇生は認められない。

 基本的に死者の蘇生が禁忌である事は、裏側でも同じなのだ。


 地球における完全な死とは、心肺や脳が停止し、もう二度と機能しなくなってしまった状態の事を指す。

 逆に心肺停止状態と呼ばれる状態は完全な死ではない。まだ機能が回復する可能性があるからだ。

 だから心臓マッサージや人工呼吸、果ては電気ショックでの救助が認められている。これは地球基準では死者蘇生には当たらないので、禁忌ではない。

 だが星によっては心肺停止状態からの電気ショックによる救助すら、死者蘇生であると判断している星もある。死亡している状態とほぼ変わらない状態にある者を、科学の力で生者の状態に戻しているのだから。


 ・・・といった感じで、星によって完全な死というものの基準は全く違う。

 では、身体の一部からの蘇生すら許可している星における、完全な死とそうでない者の違いとはどこか。


 先程風音とセイニーの二人が幽霊の話をしていたが、あれは地球での話。

 裏側では魂を見る事が出来る地域が普通に存在する。(幽霊と魂は全然違うものなので、地球で言う幽霊という概念と比較するのは間違っているのだが、見た感じは似ているらしい)

 そしてそこでは、肉体よりも魂の方が尊重される。

 肉体が人間でも魂が無ければそれは人としては扱われず、肉体が何で出来ていても魂が宿っていれば人として扱う。

 実際にそこでは亡くなった人の魂を肉体から離れる前に確保しておき、その魂を人形に宿す事で人として生活している者もいる。


 今回蘇生に待ったが掛かったのは、弟の魂が存在するのかどうかを確認する為だ。

 セイニーの持っていた弟の体の一部に魂が宿っていれば、蘇生は許可される。

 しかし宿っていなかった場合、許可は下りない。

 仮にそれを復元したところで、それは人の形を成し人の様な行動を取るだけで、人ではないからだ。


 その上で、二つの忠告をされた。

 まず一つ目。小さな肉片に魂が宿る可能性は極めて低い、と。

 体の一部を数センチ欠損するくらい、よくある事だ。事故や怪我でそうなった人なんて、地球でも数え切れないくらい居る。

 その状態は言い方を変えれば、自分の身体が二個に別れたと言ってもいいだろう。

 そのどちらに魂が宿るかと考えた時に・・・・

 残った本体ではなく、その欠損した一部の方に魂が宿るなんて事が有り得るだろうか?


 その人の身体に魂が存在する事が、人が人である為の大事な要素であるとするなら。

 事故で耳が片方千切れて吹っ飛んだ・・・それ以外特に外傷は無いが、耳の方に魂が宿っています。とか。

 ・・・・無いだろう。おそらく。


 ではもしこれに近い例えで、耳の方に魂が宿るとしたらどういう状況だろうか?

 その星の人が言うには、魂はその人間が「最後にその人間として活動(あるいは存在)していた部分」に宿るらしい。

 つまり。

 爆発事故で全身が一瞬にして粉々に吹き飛んだ。が、千切れた耳だけ爆風で遠くに吹っ飛んで転がった。

 ・・・これなら残った耳の方に魂が一時的に宿る。


 そして忠告二つ目。魂は生きている間は身体に縛られているが、死んでしまうと数秒で肉体から離れる。

 まして全身ではなく肉片に宿った魂など、本当に一時的に宿るだけで、一瞬で離れてしまうらしい。

 それが事実なら今回のケースは絶望的じゃないか、と思ったが。

 これに関しては例外も多々あるそうだ。

 魂の誤作動とも言われている現象。魂が「まだこの肉体は生きている」と判断し、肉体に宿り続けるケースがよくあるそうだ。

 この場合、埋葬され完全に朽ち果ててようやく体から魂が離れる。

 そしてこれはその人物の生前の思想に左右される。

 生きる事を強く望んでいた者ほど、亡くなった後この現象が起きやすい。



 ・・・以上を踏まえた上で、魂の有無の調査を裏側の専門機関に依頼していた。

 そして先程、魂の存在が認められたという電話が入ったのだ。


 風音はこの二つの忠告を聞き、弟さんの現状と照らし合わせて考えた時に、蘇生出来る可能性はかなり低いと感じていた。

 それだけに今回の報告を聞いた時は、一瞬足の力が抜けてその場に座り込んでしまったほど安堵した。

 肉親であるセイニーはそれ以上だろう。




セイニー「ああぁぁぁぁ~~~~~!! 良かったぁぁ~~~~~~!!!」


 泣き叫びながら風音に抱き付く。


風音(・・・取り敢えず、、、一安心かな。 なんでこの子は泣く時誰かにしがみ付くんだろう?)


 風音に抱き付いてわんわん泣いている。

 上空でも何度かこういう状況あったな・・・

 思い出しながらセイニーの背中をポンポンと叩いていると。


亜稀「何をしてる?」


 急に背後から亜稀が話しかけて来た。風音がビクッとして振り返る。


風音「うわびっくりした。 急に何? びびるからカノン内で気配消して近付くの禁止」


 ついさっきリロに対して気配を消して隠れ、背後から羽交い絞めにしたところだが。

 それは棚に上げます。自分は艦長だから良いのです。何をしても許されるのです。


亜稀「そんな事より、それは何してるところだ?」


 泣いているセイニーと風音を見ながら問う。


亜稀「お前案内してるんじゃなかったのか? 何故泣きながら密着してる?」


風音「ああこれ? 言っとくけど僕が泣かしたんじゃないよ。 弟さんの救助が出来る事が分かって、嬉しくて泣いてるだけ」


 これ言っとかないと、またこの前の凌舞しのぶが言ってたみたいに、女を泣かせるのが日常みたいな事を言われる。

 ・・・いや、思い出した。確かあれサルトが広めた悪評だ。あとでサルトに説教しておこう。


亜稀「で、なぜ密着する必要がある?」


 全く納得していない様子で、しつこいくらい聞いてくる。


風音「この子のくせみたい。 前にもあったんだけど、泣いてる時に目の前の相手にしがみ付くんだよ。・・・ほら、そろそろ泣き止んで?」


 セイニーの頭を撫でながら落ち着かせて離れて貰おうとするも、セイニーは泣きながら顔面を風音の胸にこすりつけて首を振る。

 二歳児くらいの子の行動に近いのかなと思う。やはり人との関わりが無さ過ぎて、精神的な年齢が低いのだろうか。


風音「そんな拒否しないで。 僕この後仕事があって・・・・」


亜稀「ならがせよ」


風音「それも可哀想だし・・・。泣いてる子供を一人で放置する感覚に近いって言うか。 ・・・・あっ」


 亜稀と目が合う。


風音「そういえば、亜稀って負傷している人には優しく・・・が信念だっけ」


亜稀「信念と言うか・・・それが普通だろ」


 本人はそう思っている。戦闘民族にしては珍しい考え方なのだが。

 それを聞いて風音の表情が明るくなる。


風音「そうかえらいえらい。 じゃあ泣いてる人にも優しくするわな当然。 って事で、あと任せた」


 抱き付いているセイニーを無理矢理剥がし、亜稀の前に置く。


亜稀「えっ? いや、それはそれで・・・お前」


 急展開にあせりながら、泣いているセイニーに目をやる。

 普段は可愛らしい子でも本気の泣き顔は原型が崩れて、ちょっと不細工になる子もいる。

 しかしセイニーの泣き顔は赤ちゃんと同じで、泣き顔にすら天使が宿っている。・・・という風に亜稀には見えた。


亜稀「まぁ・・・確かに放っておくのもアレだな・・・・む無しか」


 快諾してくれた亜稀の肩をポンと叩いて、早速仕事に向かう為に体を反転させる。


風音「あんがとね。 じゃよろしく。 また今度ねセイニー、仕事行ってきます」


 聞いているのかどうか分からないが、一応別れの挨拶をしてから、そのまま自分の部屋に向かって走り出す。


 直後にセイニーが足に力を込める。

 そして、ドンッという鈍い音と共に、風音が走って行った方向に向かって高速で飛んで行く。

 そのまま風音の横を通り抜けた。


風音「ん? 何?」


 トレーニングルーム入口の方に飛んで行ったセイニーを見て、思わず風音が足を止める。何かあったのかと後ろを振り向くと、亜稀もこちらを見ている。


風音「何があったん?」


 単刀直入に尋ねる。しかし亜稀は風音ではなく、風音の背後に視線を向けているようだ。


亜稀「おい、壁・・・・」


 亜稀の瞳には、壁まで飛んで行ったセイニーが、方向をこちらに転換し壁をバネにして足に全力を込めている姿が映った。


 壁? 亜稀の言葉の意味を考える暇も無く、また後ろからバキンッ!! というさっきよりも甲高く大きな音が鳴った。

 風音が振り返った頃には、もうセイニーが両手を広げて目の前に突っ込んで来ていた。


風音「待っっ!!」


 そのままロケットの様に風音の上腹にセイニーが突っ込んできて、着弾と同時にホールドされる。


風音「ぐっ・・・・!! いやっ無理っ!!」


 一瞬こらえようとしたものの、勢いに負けて数メートル吹っ飛ばされ押し倒された。

 丁度亜稀の足元辺りまで戻されたので、風音が亜稀を見上げる。


風音「・・・ただいま」


亜稀「おい・・・話が違わないか?」


 亜稀が風音に張り付いているセイニーを見て言う。

 泣いている時は、目の前の人物に抱き付くんじゃなかったか。


セイニー「うあぁぁ~~~~ん!! レディアァ~~~~~!!」


 セイニーの方は今の一連の出来事など無かったかのように、弟の名を叫びながら泣いている。

 それは置いといて、亜稀の問いに風音が答える。


風音「亜稀が誕生日パーティーに来なかったせいだろ!!」


 亜稀に向かって叫ぶ。


亜稀「急に訳の分からん事を言うな」


 風音の言葉の意味が分からな過ぎて、足元で寝転がっている風音の頭を軽く蹴る。


風音「だからぁ・・・」


 説明するのも面倒臭そうに、風音が亜稀に解説する。

 さっきも思っていたが、セイニーは精神年齢が幼いのだ。だから泣いた時に誰かに抱き付くのだろう。

 ただよく考えてみれば、幼い子供も抱き付く相手くらい選ぶ。いくら泣いていても知らない人に抱き付きには行かない。

 そう考えると、亜稀が以前上空で行われた風音の誕生日パーティーに出席して、その時にセイニーと知り合って仲良くなっていれば・・・

 そうすれば今のケース、亜稀の方に行ってくれてただろう多分。

 だから。


風音「あらかじめ亜稀がセイニーと知り合ってたら、セイニーはわざわざ僕を追いかけてまで捕まえには来なかったの! ・・・つまり、僕は亜稀のせいで殺人タックルを喰らったんだよ!」


 という結論に至る。


亜稀「なんで俺のせいになる」


 もう一度風音の頭を軽く蹴る。

 と反論しながらも、以前風音に誕生日パーティーに誘われた時の事を思い出す。


亜稀「・・・あれって確か開催地までシャロンの乗り物で行ったんだろ? じゃあシャロン嫌いの俺が行く訳ないだろ」


風音「亜稀が嫌いなのはシャロンじゃなくて、親組織のシエロでしょ? そんなこだわらなくても・・・」


亜稀「アホか。 一緒だ」


風音「でもしょっちゅう師範としてシャロン本部に仕事に行ってるんだしさ、あそこの人達が良い人達なのは知ってるでしょ」


 喋りながら、未だ大泣き中のセイニーの頭を撫でる。これはいつ泣き止んでくれるのだろうか。

 

亜稀「関係無い。シャロンでの仕事もお前に頼まれたから行ってるだけだ。 代理が出来たらすぐにでも辞める」


 嫌悪感を隠そうともしない。

 風音はシエロの事をあまり知らないが、シャロンの長官であるレイさんも頻繁ひんぱんにシエロの事を愚痴っている。

 裏側最大の治安組織のはずだが、もしかしたら胡散うさん臭い組織なのだろうか。


風音「そっか・・・まぁいいや。 どうせ代理とか居ないから辞める事は出来ないし、そんな非生産的な話は止めて、建設的な話をしよう。 今後今回みたいな事が無いように、亜稀はセイニーと仲良くなる努力をするように。 これ艦長命令だから。 以上」


 元々亜稀は他のクルー達ともあまり関わろうとしない。

 これも良い機会だ。皆と友人になれとまでは言わない。挨拶とか、せめて最低限のコミュニケーションくらい取ってほしい。・・・と、以前から思っていた。


 亜稀としては、いかに艦長の権限が強かろうが人間関係まで命令される筋合いはない。と思ったものの・・・

 風音を押し倒して泣いているセイニーを見る。


亜稀「・・・・・・・・」


 ・・・少し考える仕草を取ってから。


亜稀「・・・・まぁ、艦長命令なら」


 仕方なく、という風に了承する。


風音「ありゃ、思ったより素直」


 風音も亜稀の性格くらい心得ている。

 自分で言っといてなんだが、亜稀が承知するとは思っていなかった。


風音「・・・って、せっかく前向きな事言ってるんだから無粋ぶすいなツッコミは止めよう。 ・・・で。 今後の事はともかく、現状どうしよう。 急ぎでもないし、仕事の依頼の確認は午後からでいいかな・・・」


 亜稀が悩んでいる風音を見下ろしながら、


亜稀「じゃあ俺はもう行くわ。動けないんなら代わりに仕事の件、内容くらいは聞いといてやろうか?」


 と提案する。


風音「あ、ほんとに? 民間じゃなくてシャロンからの依頼なんだけど」


亜稀「断れそんなもん」


 提案を自ら取り消し、去ろうとする。


亜稀「・・・ああ、そうだ」


 去ろうとしたところで思い出したように、風音の方を見る。


風音「何?」


亜稀「・・・・・・・・・・」


 抱き合っている(?)二人を無言で見下ろす。


風音「・・・・何か?」


亜稀「お前確か・・・俺と組手したいとか言ってたっけ? 良かったら今日相手になってやる」


風音「えっ、ほんとに? それは嬉しいけど・・・急にどういう風の吹き回しで?」


 普段亜稀はゼロアとしか組手をしない。風音が頼んでも面倒臭いと言っていつも断られる。たまーに気が向いた時にやってくれるくらいだ。


亜稀「ん? いや、別に深い意味は無い。 ただ単に、今日はお前を殴りたくなった」


 寝転がっている二人を見下ろしながら言う。


風音「なんでそんないかつい理由・・・。いっそ深い意味があって欲しいわ」


亜稀「五秒以内に仕留めるから、覚悟しとけ」


風音「うん。僕も五秒以内を目指すよ」


 亜稀は元々危機察知能力に優れている。

 予知でもしているかのように、相手が攻撃してくる前から相手の動き方がおおよそ分かる。

 その能力を買われて、現在シャロンで治安部隊を相手に師範をやっている。


 しかしそれだけで勝てるほど戦闘に特化した連中は甘くない。

 だから亜稀は自分よりも格上と戦う時は最初の数秒に賭ける。

 彼の特殊能力とも言っていい技。その技に名前は無いが、風音は超集中と呼んでいる。

 亜稀が任意で集中を開始してから約五秒間、敵からのあらゆる攻撃(未知の能力ですら)を先読みするかのように避け、必要に応じてさばきながら、逆に相手のガードがいかに硬かろうが崩し、急所に向かって重撃を打ち込む。

 体が勝手に最善の行動を選択し続けているかのような、無敵の時間。

 だが五秒経過してしまえば、もう一度集中するまでに数分掛かる。

 亜稀の本来の強さはリロのちょっと下くらいなので、はっきり言って風音にはまるで及ばない。

 この五秒以内に風音を仕留めなければ、亜稀に勝機は無い。

 そして、だからこそ風音はこの五秒の間に亜稀に勝ちたい。


 今の所、風音と亜稀の組手は全て引き分けだ。

 風音が五秒以内に亜稀に仕留められた事も無ければ、亜稀の五秒を攻略出来た事も無い。

 一分間組手の時は、残りの約五十五秒間一方的に風音がボコして倒したけど。

 あれはルール上は勝ちだったものの、風音は勝ちと思っていない。


亜稀「じゃまた後でな」


 それだけ言い残し、亜稀がトレーニングルームから出て行った。

 静かになったトレーニングルームに、セイニーの泣き声だけが響く。


風音(しばらく泣き止みそうにないな。諦めて待つか・・・・)


 寝ころんだ状態から体を起こし、その場で足を伸ばして座る。



 それから十分は経過したか。

 すでにセイニーは風音から離れ、隣で座っている。


風音「・・・落ち着いた?」


セイニー「・・・はい。取り乱してしまってすみませんでした」


 ようやくいつもの調子に戻ったようだ。


風音「じゃあ改めて。 良かったね」


 そう言われてまたちょっと泣きそうになったのか、少し体を寄せて来た。

 それを牽制けんせいするように、風音が続ける。


風音「で、早速なんだけど。 セイニーが裏側に行って、弟さんを蘇生してきて貰えるかな? 行き方は後で詳しく説明するから」


セイニー「・・・えっ?」


 か細い声で、疑問の声を上げる。


風音「・・・?」


 風音も今のセイニーの反応の意味が分からず、首をひねる。


セイニー「あの・・・一緒に行くんじゃないんですか?」


風音「ああ、そういう疑問か。 いや、僕は無理なんだよ。必要なら適当に誰か連れて行ってくれてもいいけど。 不安ならフィリコとかブラウニーとか、あの辺を抱き枕代わりに・・・・」


セイニー「どうして風音は付いて来てくれないんですか?」


 風音の言葉をさえぎり、強い口調で尋ねてくる。


風音「えっ・・・・と」


 いつもの様に冗談を言える感じの雰囲気でもないので、素直に理由を説明する。


風音「シャロンに借金があるのは説明したと思うけど・・・。 返済中はシャロンの監視下に置かれてるような状況だから。 僕は仕事の依頼以外では地球から出られないんだよ」


 出られないとは言っているものの、結構裏側での仕事の依頼もあるから、割と頻繁に宇宙には出ている。

 ただ言葉通り自分の意志では出る事が出来ないし、依頼があった場所以外の範囲に出る事は出来ない。

 この縛りがあるのは風音と、副艦長という役職になっている凌舞と煉也の三人だけだ。

 例外として、借金の原因になった星の出身者であるアリエイラは自らこのルールを自身に課している。借金を完済するまでカノンから離れるつもりも無い。


風音「だから、その四人以外なら・・・」


セイニー「じゃあ借金を返せるまで保留にします。 そうすれば、付いて来てくれますよね?」


 また風音の意見を遮って尋ねた。

 困った表情で風音が答える。


風音「そりゃ出来るけど・・・。 なんで待つの? どうせならすぐに会いたいでしょ?」


 セイニーが「もちろん」という様に頷く。


セイニー「でも最初にレディアを生き返すんだって思ってから・・・長い長い時間を待ったじゃないですか? その時、色々考えたんですよ」


風音「?」


 質問の答えになっていないので少し疑問を抱くが、黙って続きを聞く。


セイニー「ずっと一人で考え事をしていた時、一番頭をよぎったのは『どうせ生き返すのなんて無理なんだろうな』でした」


 はははっ、とセイニーが乾いた笑いを漏らす。


セイニー「確かに無理な可能性の方が高いかもしれないけど、そんな嫌な事ばっかり考えても仕方ないじゃないですか? だから同じくらい『生き返す事が出来たら何をしよう』って考えました」


風音「まぁ・・・その方が良いかもね」


セイニー「・・・・でもね、何も思い付かないんです。 レディアさえ居れば他は何も望まないって、そんな事ばっかり考えて。 それは本音なんだけど・・・なんだろ? 同時に、未来さきを見ようとした時に、暗いもやが掛かってるって言うか?」


 セイニーが隣に座っている風音の手を握る。そしてようやく風音に向かって笑顔を見せる。


セイニー「この前風音達と出会ってからね? それが無くなったんです。レディアが生き返ったら何をしようって考えたら、次々やりたい事が浮かぶんです。ゆっくり喋りたい、一緒に綺麗な景色を見たい、一緒に美味しいものを食べたい、みんなで楽しく過ごしたい・・・とか。 どうしてだと思います?」


風音「ん・・・・。多分、レディア君の蘇生が現実味を帯びたからじゃないかな? 僕達に会うまでは現実味が無くて未来を想像し辛かったから、その先のビジョンが見えなかった・・・みたいな?」


セイニー「・・・それもあるかもしれませんね。でも一番の理由はそれじゃないです」


 セイニーが首を傾ける。一番を当ててみて? というジェスチャーだ。


風音「・・・・・う~~~~ん・・・。 何だろ?」


セイニー「わかりませんか?」


風音「うん・・・」


セイニー「これですよ」


 悩む風音の頭を、嬉しそうにセイニーが撫でる。


セイニー「風音に撫でられた時、・・・どう表現していいのかな・・・一気に世界が広がった感じ? 小さな部屋から出たような、こう・・・何て言うのかな? ・・・表現出来ないけど、これが誰かから愛情を受けるっていう事なのかなって」


 その時の感情を上手く伝える事が出来ない事をもどかしそうに、そして嬉しそうに語る。


セイニー「多分、私達みたいな誰からも愛情を受けて来なかった人は、あまり未来を見ないんじゃないかな? 夢とか希望とかはそっちのけで、今の自分にとって必要な、最低限望む事が全てで。それさえ叶えば他に多くを期待しませんでした。 それは、良く言えば欲が無いという事かもしれませんけど・・・」


風音「うん、良い状態ではないかもね・・・子供は欲張りなくらいが丁度いいから。 ・・・ん? セイニーって子供? 寝てた時間を除いても何万年か活動したんだっけ? じゃあお婆・・・」


 急に頭を撫でていたセイニーの手が、風音の頭を鷲掴わしづかみにしたので瞬時に黙る。


セイニー「その通りです。多分あまり良い状態ではなかったんだと思います。色んな事を考える事が出来る今、私は凄く幸せですから」


 そう言って再び頭を撫でるのを再開する。


セイニー「だから、この間からずっと思っていたんです。レディアの頭も撫でてあげて欲しいなって。他の何をするよりもまず、風音の優しさをあの子に与えてあげて欲しい」


風音「そ・・こまで言われるとなんか照れるけど、今のセイニーの意見を聞いて正直な感想を言っていいかな? それは、僕じゃなくてセイニーがやってあげるべきじゃない?」


 いや拒否してる訳じゃなく。 それくらいいくらでもやってあげるけど、そうじゃなく。


セイニー「ああ、もちろん私が先にやりますよ? その権利は誰にも譲りません。 って言うか、抑えられる訳無いですよ。まず泣いて抱き付くと思います」


風音「じゃあ・・・別に僕の分はカノンに連れ帰って来てからで良くない?」


 セイニーが風音の目を見てニッコリと微笑む。


セイニー「良くない」


風音「そっか」


 しばらく風音が考える。


風音「でも借金返しきるまでっしょ? いや~~~、ちょっと長丁場ながちょうばだよ? 僕としても裏側の冒険とかもしたいから、若い内に借金の件は終わらせようとは思ってるけど・・・でも、な~~~・・・」


 悩む風音に対し、追撃のようにセイニーが言う。


セイニー「それに借金を返すまでに蘇生しちゃうと、レディアにも借金返済を手伝って貰う事になるし・・・。 悲惨な亡くなり方をしたって聞いてるのに、ようやく生き返っていきなり借金背負ってるっていうのも・・・」


風音「それに関しては耳の痛い話でございますけれども」


 それを聞いて、ふふんっ とセイニーが得意気に胸を張る。


セイニー「大丈夫ですよ。さっき言ってたじゃないですか。私にも警備の仕事が来るかもしれないんですよね? 危険な仕事だって言うんなら、見返りだって大きいはずです」


風音「・・・・・・・・・・・・・」


 まぁ確かに、フェクトでの警備の仕事は高給だ。

 セイニーなりに考えていたんだな、とは思う。


風音「ところで、僕の借金の金額っていくらか言ったっけ?」


セイニー「だいたいにひゃくちょおえんでしょ?」


 覚えてはいるようだ。

 ただピンと来ていないみたいだ。


セイニー「ちなみに私が何年くらい働いたら、にひゃくちょおえん返せますか?」


 真顔で聞いてくる。

 なるほど、そういう事か。多分この子は稼ぎの良い仕事に就けば、1~2年くらいで返済出来ると思っている。

 道理でレディアの蘇生を後回しにしようとする訳だ。


風音「・・・そうだな」


 ここは現実を教えておいてあげよう。風音が携帯端末を取り出す。

 大体月給が60万円位だとして、まずそれを12倍する。年収720万円か。

 200兆円を720万円で割る。


風音「大体、2777万7778年くらいかな」


セイニー「へぇ・・・」


 セイニーが自分の指を折って何か計算している。そして。


セイニー「そっか、頑張る!」


 躊躇ちゅうちょが無い。


風音(おう、この子ヤバいな・・・)


風音「出来ればそんなに掛からない様にしていくけどね。 ・・・もしレディア君を蘇生させる事が出来る星から依頼が来たら、ついでに出来るからそれも視野に入れとこう」


 宇宙を自由に移動する権利は無いが、依頼があった星の中では割と自由に行動出来る。

 あまり借金返済に時間を掛けるつもりは無いが、蘇生はなるべく早い方が良い。そういう星からの依頼があれば回して貰えるようにシャロンに報告しておこう。

 蘇生していきなり借金生活になる事に関しては、レディア君に土下座して許して貰う事にして。


セイニー「よし!!」


 気合を入れた掛け声とともに、セイニーが立ち上がる。


セイニー「という訳でこれからは私も頑張ります! 末永くよろしくお願いしますね?」


 座っている風音を見下ろしながら微笑む。


風音「こちらこそよろしくね」


 セイニーに向かって手を差し出して握手をしようかと思った時、トレーニングルームのドアが勢いよく開く。

 二人同時に入り口を見ると、そこには息を切らせた神楽が立っていた。


神楽「今はっきりと聞こえましたわ」


 神楽が早足で二人に近付く。


風音「神楽さんいつまでパジャマ着てんの? そろそろビシッとした・・・」


神楽「そんな事より、今廊下を偶然通りかかった時に確かに聞こえました。セイニーさんが『末永くよろしくお願いします』と。そして風音様が『こちらこそ』と。間違いありませんね?」


 確認するように聞いてくる。


セイニー「間違いないですよ?」


 セイニーが答えると、神楽が満面の笑みになる。


神楽「あらあらあらあら♡ まぁまぁまぁ♡」


風音「って言うか廊下・・・? どの距離から聞いてたの?」


 確かにセイニーは元気良く喋っていたし、このトレーニングルームは現在一部窓が開いている。

 廊下で聞こえていても不自然ではないが・・・なぜこの人は息を切らしているのだろう。

 一体どこで聞いてダッシュしてきたのか。


神楽「わたくし耳は良い方ですの。中央階段を上がって来たところで聞こえたので、急ぎ向かわせていただきましたわ」


風音「そんな所から・・・なんでわざわざ」


 神楽の耳が良いのは知っているので、聞こえていた事には突っ込まない。


神楽「決まってますわ。ついに私の手紙が成果を上げたのですから」


風音「手紙・・・? ああ、さっきの」


 怪文書か。

 いや正確には、怪文書だと思った手紙か。成果を上げたという神楽の言葉通り、セイニーの勉強に大いに役立った。


風音「あの手紙の件。そういえば神楽さんにお礼を言っとかないとって思ってたんだよ」


 でもそんな事の確認の為にわざわざダッシュしてきたのか。とも思う。


神楽「いえいえ何をおっしゃいますやら。 お礼を言いたいのはこちらの方ですわ」


 満面の笑みで喜んでいる。


神楽「セイニーさん? 役所の場所はご存知ですか? 婚姻届けを出す方法が分からなければ、いつでも聞いてくださいね?」


 セイニーがクリンと首をひねる。


セイニー「え? わざわざありがとうございます。 でもそれは・・・今は必要無いですよ? さっきも言ってましたが、もっとこの時代の文化を勉強してからゆっくり考えます」


神楽「・・・・・・・・・」


 神楽の表情から笑みが消える。


神楽「風音様? 先程の手紙の件、お礼がしたいとはどういう意味でしょう?」


 ゾッとするような眼で風音の方を見て尋ねる。


風音「いやだから、今聞いた通り。 セイニーに文化の違いを教える為に役立ったよ。 ああいう・・・心の機微きびとらえての配慮はいりょっていうのかな? 同じ女性だからこその気配りには感謝してるよ」


 神楽とは対照的に、風音は明るく笑いながら答える。


神楽「そう・・・ですか。 それはどうも」


 あの手紙の内容で、何がどうなったらそんな感謝のされ方をするのかは不明だが、どうやら風音の神楽に対する好感度は上がっているようだ。

 だから反論はせずに素直に受け取っておく。

 そして同時に、あの手紙の作戦は失敗したという事も理解した。


神楽(そうですか・・・あれでも無理ですか・・・)


 その場の空気に流されるタイプの風音なら、無理矢理相手に迫られる状況を作り出すのが一番手っ取り早いと思ったが。

 また何か策を練らなければ。

 今日セイニーを利用してどうにかするのは諦めて、話題を変える。


神楽「・・・風音様? 確か、この間私との組手を希望されていたと記憶しているのですが」


風音「うん、やりたい。 最近ゼロアくらいしか付き合ってくれないし、あの人とやるとお互い手加減しないとだし・・・」


 お互い本気を出すと命のやり取りになる。・・・と言えば互角の勝負を繰り広げるかのように聞こえるが、結構な確率で風音が死ぬ事になる。


神楽「私で良ければお相手致しますわ」


風音「・・・なんでまた急に?」


 普段なら素直に喜ぶところだが・・・さっきもあった気がする。この流れ。


神楽「いえ? 特に深い意味はありませんわ。 ただ単に今日はなんとなく、風音様に気合を入れ直して差しあげたくなっただけです」


風音「ああ、そうですか」


 なんで今日は、どいつもこいつも深い理由も無く殴りたがるのか。

 と疑問に思っていると。


セイニー「私も組手したい!! 思いっきり殴り合いたい!!」


 これで三人目。殴りたいとはっきり言われた。


風音「えぇ~~~・・・。 なんで?」


セイニー「喧嘩したいです喧嘩!」


風音「もうそれ忘れていいよ。 でもまぁ他二人に比べたら、ちゃんと理由があるだけマシ・・・・」


 このやり取りを横で聞いていた神楽の表情がいっそう険しくなり、流れるような動作で風音の腹に掌底しょうていを打ち込む。


 ドンッ! と結構大きな音が鳴った。


風音「ふぐっ・・・! うぅ・・・」


 腹を押さえながら苦悶くもんの表情で、息も絶え絶えになりながら神楽を見る。


風音「・・・え? 何? もう組手始まってる・・・?」


 いきなりだったので結構足にきた。この人は自分の攻撃が、常人なら死んでもおかしくない威力だという事をちゃんと自覚しているのだろうか。

 そして神楽はなぜか怒っている。どちらかと言えば怒っていいのは風音の方だろうに。


神楽「どういう事ですか風音様? 私いつも言ってますわよね? 女性とは仲良くしてくださいと。 どうしてセイニーさんの口から喧嘩したいなんて言葉が出てくるのかしら?」 


 仲良くなっていると思っていた神楽にとっては、裏切られた気分だ。


風音「そんな誤解で今殴られたん・・・? 逆だよ。ゼロアがいらん事を言ったせいで、喧嘩すれば仲が良くなると思ってるんだよこの子」


セイニー「でも風音が言ってましたよ? 喧嘩するほど仲が良いって」


風音「言ったけど・・・」


 仲を良くする為に喧嘩するという意味ではない。


神楽「では仲良くなりたいという意味だったのですか?」


 セイニーの方を見て問う。


セイニー「はい。しかも何回もやった方が仲良くなれるみたいなんです。だから今日から毎日風音と喧嘩します」


神楽「あらあらあら♡」


 一転して神楽の表情が明るくなり、セイニーの両手をおおう様に握る。


神楽「その意気です」


 良からぬ方向に盛り上がりつつある会話を風音が止める。


風音「やらないよ。神楽さんもき付けないで。 って言うか神楽さんは、誤解が解けた時点でまず殴った事を謝って」


 こういうのはきちんと言っておかないと。


神楽「誤解? そんな事より、せっかくセイニーさんがやる気になっているのに断るとは何事ですか!!」


セイニー「隙あり!!」


 二人が同時に殴りかかってくる。


風音「そっか・・・」


 その拳を両方とも受け止める。


風音「分かった。やろう、喧嘩。 二人には教育が必要だわ」


 ようやく風音がやる気になり、受け止めた二人の拳をひねり上げる。

 神楽は関節をめられる前に、自ら体を回転させ振り解く。

 セイニーは何の抵抗もせず、そのまま腕と肩の骨を外された。

 が、一瞬も動じる事無くもう片方の手で風音の脇腹をえぐりにいく。

 それを避ける為に風音が腕を解放して離れた直後、外れた関節をゴキンゴキンと元に戻す。


風音「・・・もうそのまま二人掛かりで良いよ」


 風音が足を開いて戦闘態勢をとった。




 およそ一時間後。


 神楽とセイニーの二人が蓄積ちくせきされたダメージと疲れで、トレーニングルーム中央に倒れている。


風音「はぁ・・・はぁ・・・・。 想像以上だったな・・・」


 神楽との組手の時のルールとして特殊な攻撃技を封じているので、風音は毒を、神楽は秘術を使わずに戦っていた。セイニーも戦闘中にその暗黙の了解に気付いたのか、壁や地面に溶け込んだり周囲の機械操作などは封じていた。


 ・・・とはいえ二人とも単純に身体能力が高いのと、回復持ちだったのでかなりしぶとかった。だが風音同様、神楽の自然回復とセイニーの自己修復にも限界はある。

 特殊な技による面倒な駆け引きなど無く、とにかく相手が動けなくなるまでの殴り合いなら、技術で勝る風音が有利だったようだ。時間は掛かったもののどうにか押し切った。

 もし二人が共闘慣れしていたらもっと苦戦していただろうが・・・まぁでも勝ちは勝ちだ。

 最後まで立っていたが、疲れ切った風音がその場でへたり込む。


 そして今の組手(喧嘩?)で少しだけ嬉しい誤算もあった。


風音(セイニーが思ったより強いな・・・・。お互い特殊能力抜きなら亜稀やリロと同格くらいか。何でもありならあの二人より遥かに上だな多分)


 機械操作がありならカノンのレーザー砲とかを手元に引っ張ってきて撃てるし、対巨大兵器用の防御壁も使える。戦艦の中でセイニーと戦うという事は、戦艦そのものと戦うに等しいという事になる。


風音(ま、毒を解禁していいなら戦艦なんか雑魚ざこだけど)


 ・・・とかいう強がりは置いといて。

 セイニーの言う通り、彼女には炎火ほのかの警備の仕事をしてもらうのが適材適所なのだろう。


風音「とにかく僕が勝ったんだから二人とも言う事聞いてね。 今後は理由も無く喧嘩を始めない事」


 綺麗な姿勢で正座したまま、倒れている二人に向かって言う。


セイニー「はい・・・。理由があるから明日もやっていいって意味ですよね?」


神楽「その意気ですわ」


 二人とも声を出すのもしんどそうだが、共に満足そうに答える。


風音(・・・駄目だこの二人)


 問題児の多いカノンに、ようやく数少ない真面目属性の人が追加されたと思っていたのに。


 こんなはずでは・・・。

 倒れたまま笑顔で健闘をたたえ合っている? 二人を見る。


風音(まぁでもこれはこれで・・・カノンと相性が良さそうで良い・・・のか?)


 もう何でもいいか。

 真面目なのは次入ってくる人に期待しよう。

 もう今回は諦めた。

 


 あとがき!!!

 お疲れ様でした、ここまで読んでくれてありがとうございました。


 今回はおまけって感じの話ですね。

 本編を読んでない人には分かりにくい登場人物や設定が盛りだくさんの、不親切な日常編ですね。

 書き始めた時は本編を知らない人にも楽しめる様な・・・とか思っていた時期もありました。


 はい、序盤で諦めました。

 そんな事をしたら説明過多になりますね。ただでさえ毎回文字数多いのに。


 そんな事より、たかが番外編を書くだけで六ヵ月近く更新が無かったとか・・・。

 もう仕事を言い訳にするのも飽きてきました。世の中のなろう作家さん達は、どうやって仕事しながら毎月更新とかしてるんでしょうね?

 超人達なんでしょうか?

 単に僕が遅筆なだけなんでしょうか?

 ゲームばっかりしてるのが駄目なのかな?

 まぁこの後またゲームしますけど。



 って事で、次回があったらまた会いましょう。

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