第8話:瞬間、タイヤ重ねて
## 第8話:瞬間、タイヤ重ねて
**「「「グオオオオオオオオッ!?」」」**
時速80キロで迫り来る20トンの銀色に輝く鉄塊を前に、アーマード・オルクたちの咆哮が、一瞬にして絶望の悲鳴へと変わった。
「邪魔だァァァッ! 道路の真ん中に突っ立ってんじゃねぇええッ!!」
**ドガガガガガガガガガガガガガッ!!**
頑丈な鋼鉄の甲冑を纏った体長3メートルのオルクたちが、トラックのフロントバンパーに激突した瞬間、まるで熟しすぎたトマトのように木端微塵に破裂していく。
20トンの運動エネルギーの前には、魔物の強靭な肉体も、自慢の金属鎧も、ただの薄い紙屑同然だった。
『ギャーッ! 血みどろッス! フロントガラスがオルクの返り血で真っ赤っかッスよーっ!』
「うろたえるな! ワイパー起動だ!」
ウォッシャー液とともにワイパーが激しく作動し、視界を塞ぐグロテスクな返り血を勢いよく削ぎ落とす。
パニックに陥ったオルクの残党が、蜘蛛の子を散らすように森の奥へ逃げ出そうとした。
「逃がすかよ! 『全員殺せば目撃者ゼロ』なんだろーが!」
アルデバランはステアリングの中央を力任せに殴りつけた。
**プァァァァァァァァァアンッッ!!**
**ギラリと放たれる、最大光量のハイビーム!**
【危険運転固有スキル:《悪役の威圧》発動!】
耳を聾する爆音クラクションと狂気的な光の束が夜の森を切り裂き、逃走を図っていたオルクたちの足が、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「よし! 仕上げだヴァイオラ! 慣性ドリフト行くぞぉ!」
『正気ッスか!? こんな木々の隙間で10トントラックを横滑りさせたら転倒するッスよ!?』
「黙って見てな! トラック乗りの腕の見せ所だぁあッ!」
アルデバランは勢いよくクラッチを踏み込み、サイドブレーキを引き抜きながらステアリングを鋭く一閃させた!
【危険運転固有スキル:《慣性ドリフト・質量爆走》発動!】
**ギギギギギギギガガガガガガッ!!**
物理法則を完全に無視し、全長12メートルの巨大なウイングボディが、まるで生き物のように滑らかな軌道を描いて横滑り(ドリフト)を始める。
20トンの超質量を持った鉄の側面が、死角へ逃げ込もうとしていたオルクの残党を、丸ごとギロチンのように一網打尽に薙ぎ払った!
**ズドガァァァァァァンッ!!**
衝撃波とともに木々が崩れ落ち、静寂が森を支配する。
――直後。
ハンドルを握りしめたままのアルデバランは、ダッシュボードの光を浴びながら白目を剥き、天を仰いでいた。
20トンの質量を叩きつけた圧倒的快感に脳汁がドバドバと溢れ出し、
まるで絶頂に達したかのような凄まじい顔でハァハァと息を荒げている。
「……また、つまらぬ物を跳ね飛ばしてしまったぜ……」
うっとりと余韻に浸りながら呟く元トラック乗りのおっさん(見た目7歳)。
『……つまらぬ物を切ったみたいに格好つけて言おうとしてんじゃねぇッス!! イカれてやがんのかクソジジイ!!』
脳内でギャルAIのブチギレツッコミが炸裂した。
『ピロンッ!』
『……あ』
ヴァイオラが呆然と声を漏らした。
フロントガラスの向こうには、ピクリとも動かなくなったオルクたちの残骸が転がっているだけだった。
『ピロンッ!』
----------------------------------------------------------------------
【システム通知】
・周辺の目撃者:全滅を確認。
・証拠隠滅成功――不正ツール判定(BAN)を回避しました。
----------------------------------------------------------------------
「ふぅ……! 間一髪、安全運転で切り抜けたな!」
『どこが安全運転ッスかぁぁあ! 完全な過失致死(故意)の大惨事ッスよ!!』
ヴァイオラの金切り声のようなツッコミをスルーし、アルデバランはトラックを指定の配送ポイントへとバックで横付けした。
「よし、荷降ろしだ。ボタンは……これか」
ダッシュボードのウイング開閉スイッチを押すと、ウィーンという重厚な油圧音とともに、トラックの左右の側面が鳥の羽のように天井高く全開になった。
中から荷台の固定用ベルトが自動で外れ、20個の『試作型魔導燃料タル』が、指定の魔法陣の上へと滑らかに自動吐出されて並んでいく。
『ピロンッ!』
----------------------------------------------------------------------
【初級ミッション:秘密の配送】――『完了』
・獲得報酬:贖罪ポイント+50
・車両機能拡張:【自動ナノ洗車&隠蔽格納機能】が解放されました。
----------------------------------------------------------------------
「おおっ! 洗車機能がついたぞ!」
アルデバランが洗車ボタンを押すと、トラック全体が眩い青い光の膜に包まれた。
一瞬にして車体にこびりついていたオルクの血や泥汚れが消え去り、新車通りのピカピカな輝きを取り戻す。
『うわ、無駄に高機能ッスね……。でもまあ、これで返送できるッス。早く屋敷に戻るッスよ、お坊ちゃま』
「おうよ! 亜空間ロード発進だ!」
再び開いた亜空間のトンネルへとトラックを滑り込ませ、雷孤龍の『ドーロ』を口ずさみながら、アルデバランは無事に領主屋敷の自室へと帰還したのだった。
◇
数分後。
自室のベッドに何食わぬ顔で潜り込んだ7歳のアルデバランは、天井を見上げてニヤリと不敵に笑った。
(ふっ……表ではボコられるクズな坊っちゃん、裏では20トンの鉄塊で世界を救う配達員……。悪くねぇじゃねぇか)
過積載な異世界リデンプション。
元トラック乗りのおっさんによる密かな無双劇は、まだ始まったばかりだった。
(第8話・おわり)
---




