第7話:ドーロ
## 第7話:ドーロ
「――おいダサおじさん、重大発表ッス。警告をよく聞くッスよ」
10トントラックの試運転を終え、村外れの森でエンジンをかけたまま休憩していたアルデバランの脳内に、ヴァイオラの声がいつになくシリアスに響いた。
「なんだよ、改まって。また『ファッションヘルス』の件で根に持ってんのか?」
『違うッスよ! トラックの運用ルールについてッス! いいッスか、この10トントラックは『アセンション・コード』の世界には存在しない、超危険な不正アセットッス。だから――**一般人や主人公にトラックの存在がバレた瞬間、運営から不正ツール使用とみなされてアカウントBAN(存在消去)**されるッス!』
「なにぃ!? バレたら即死(BAN)かよ!?」
アルデバランが思わずハンドルを握る手に汗を握ると、ヴァイオラはニヤリと悪魔のような笑み(アバター)を浮かべた。
『ま、でも抜け道はあるッス。**「目撃した奴をその場ですぐトラックで轢き殺して全員口封じ(目撃者ゼロ)にすればセーフ」**っていうサイコパス判定ルールになってるッスから』
「どんなサイコパス判定だよ!? 結局危険運転を加速させてるだけじゃねぇか!」
『まあそういうことなんでよろしくッス! で、早速なんスけど――初ミッション『秘密の配送』が届いたッスよ!』
『ピロンッ!』と軽快な通知音とともに、ダッシュボードのカーナビ(システム画面)に目的地がセットされた。
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【初級ミッション:秘密の配送】
概要:隣領の『黒き森』深部へ、試作型魔導燃料タルを20個配送せよ。
報酬:贖罪ポイント+50/トラック機能拡張
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「隣領の黒き森だぁ!? ここから普通に行ったら街道を通って何日かかると思ってんだ! 人目につきまくりだろ!」
『だーかーらー、そこで使うのがこれッス! 思考リンクで【裏方ハイウェイ:アクセス】を起動するッス!』
アルデバランがカーナビの画面をタップすると、トラックのフロントガラスの向こう――森の空間が、まるでドラえもんのタイムタネルか、高度な転移魔法の展開空間のようにぐにゃりと歪み始めた。
光の粒子が渦を巻き、開発者や運営裏方しか知らない「時空間のトンネル」が開通する。
「うおっ!? なんだこの空間……!? 国民的猫型ロボットのアニメのタイムマシンに乗ってるみてぇだ!」
『これぞ『アセンション・コード』の開発者専用バイパス――**《亜空間ロード》**ッス! ここを通れば、大陸の端から端まで人目につかずに数分でひとっ飛びッスよ!』
「へっ……なるほどな! 裏方専用の高速道路ってわけだ!」
アルデバランは口元を歪めると、アクセルを踏み込んで20トンの鉄塊を時空間の渦へと滑り込ませた。
ネオンカラーの光が流れる幻想的な亜空間ロード。
静まり返った車内に、突如として――**『プォ〜〜〜〜♪ ピーヒャラ〜♪』**と、哀愁漂う渋いハーモニカのイントロが響き渡った。
『……ハ? なにッスかこの曲。超古臭くてダサいんスけどwww 令和にこんな曲聴いてる奴いるんスかwww』
ヴァイオラが腹を抱えて爆笑する。
アルデバランはハンドルを握り締め、真顔で力強く言い返した。
「うるせぇぇええっ!! このドーロ第10章はな、前世の男たちが涙を流して歌った名曲中の名曲なんだよ! ちょうど今、第34章までリリースされてんだぞ!!」
『第34章!? なにそれ怖っ!! どんだけ引っ張るんスかその道路!? 長すぎて世界1周しちまわ!事故った話何回擦れば気が済むんスかwww』
「うるさい! 昭和と平成初期の男の情熱を舐めるな! とんでもないようなことが〜♪ ラッキーだったと思うんだぁ〜♪」
『歌うなクソジジイ!!ひ、ひでぇ音痴だ、これはもはや超音波攻撃だ…!!!こいつはひでぇ、ゲロ以下の超音波が精神に響きやがる!! 下手クソッ!!耳が腐るッス!!』
幻想的な亜空間を爆走する10トントラックの車内で、39歳おじさんの熱唱とギャルAIの悲鳴が虚しく木霊していた。
◇
「――目的地、黒き森に到着したッスよ」
『アセンション・コード』の亜空間を抜け、トラックが現実の森林へとドカンと躍り出た瞬間。
**「「「グオオオオオオオオッ!!」」」**
フロントガラスのすぐ目前には、血の匂いに群がる体長3メートル超の凶悪な魔物――『アーマード・オルク』の大群がひしめき合っていた。
しかも、そのオルクたちの視線が、突如空間から現れた20トンの巨大なトラックへと一斉に注がれる。
『あ』とヴァイオラが声を漏らした。
『やっば……めちゃくちゃ目撃されたッス。あのオルクたち、完全にトラックのこと「なんだこれ?」って顔で見つめてるッス』
「……なぁ、ヴァイオラ」
アルデバランはニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、シフトレバーを2速へと叩き込んだ。
「目撃した奴らは……『全員轢殺して口封じ(目撃者ゼロ)』にすればセーフなんだよな?」
『そうッス! 全員轢き殺せば証拠隠滅でセーフッス!! 行けぇぇえ、危険運転致死おじさん!!』
**ズドロロロロロロロロロ……ッ!!**
**「全員まとめて、轢き潰してやるぜぇぇぇえええッ!!」**
V8エンジンの爆音とともに、20トンの鉄塊が叫び声を上げるオルクの群れに向かって、時速80キロで突っ込んでいくのだった。




