鉄塊
## 第6話:鉄塊
「うう……あいつマジでむかつくッス……『ファッションヘルス』とか、
前世でどんな風俗通い詰めてたらそんな聞き間違いになるんスかね?
マジでキモいッス、セクハラッス、訴えて勝つッス」
「うるせぇな! 聴覚が7歳児の耳に退化してんだから聞き間違いもするだろ! ぶつぶつ文句言ってねぇで、早くその『トラック召喚』のやり方を教えろよ!」
村外れの鬱蒼とした森林地帯。人目を避けて開けた平地に辿りついたアルデバランは、頭の中でギャルAIヴァイオラと不毛なレスバを繰り広げていた。
視界の端で、ピンク髪のアバター画像が『はぁ〜あ』と深々と呆れ溜息をつく。
『はいはい、召喚コマンドの呼び出しッスね。思考リンクで
【アイテムボックス:車両カテゴリ】を開いて、
召喚コード《デカくて重くて危ねぇ奴》を口に出せばいいッスよ』
「なんだよそのクソだせぇ召喚コードは……ッ!
オーオー、でかくて重くてあぶねーやつね……ママが喜びそうだ。
俺の義理父が出てきそうだぜ」
そう言うとアルデバランは両手で相手をバカにするジェスチャーを取った。
愚痴りつつも、胸の前で印を結ぶように両手を掲げ、腹の底から叫んだ。
「出でよ! 俺の誇り! 俺の相棒!
――《デカくて重くて危ねぇ奴(10トントラック)》!!」
**ゴォォォォォォオオオンッ!!**
直後、空間が歪み、大気が激しく震動した。
頭上の空間に巨大な亀裂が走り、眩い黄金の魔法陣が展開される。
ドカンッ! と腹に響く凄まじい風圧とともに、大地を揺らして「それ」が姿を現した。
「うおっ!? きたぁぁぁあああッ!?」
土煙が舞い散る中に鎮座したのは、全長12メートル、全高3.8メートル、総重量20トン超――。
銀色に輝く大型バンボディと、鈍いメッキの大型フロントグリルを誇る、紛れもない**『10トン・大型ウイングトラック』**だった。
「ひょ、ひょーっ! マジで出たぁあ! 俺の相棒! 10トントラックだぁあ!」
前世で初配送の日に激突炎上させたあの巨躯。だが異世界の魔力によって鍛え直されたのか、車体は新車以上の漆黒と銀の美しい光沢を放っている。
『ちっ、男ってマジでこういう鉄の塊見るとテンション上がるから単純でウザいッスね……』
「うるせぇ! 男のロマンなんだよ! 車幅2.5メートルの圧倒的質量だぞ!?」
はしゃぐアルデバランは、ワクワクしながら運転席のドアを開けた。
……が、ここで致命的な問題にぶち当たる。
「あ……届かねぇ」
7歳児の身長(約120cm)では、大型トラックのステップにすら足が届かない。
タイヤのホイールに足をかけ、必死の思いでハシゴを登るようにして、ようやく運転席へと転がり込んだ。
「はぁ……はぁ……乗るだけで体力持っていかれる……」
広々とした運転席シートにちょこんと腰掛ける。当然、足はアクセルペダルやクラッチペダルに遥か遠く届かない。
「おいヴァイオラ! ペダルに足が届かねぇぞ! これじゃ発進できねぇ!」
『チッ……使えねぇおじんッスね。自動体型補正&アシストモードONにするッス。これでペダル類が魔力で延長されるから、ガキの足でも余裕で踏めるッスよ』
「おおっ! 足元から金属のペダルが伸びてきた! 優秀だな、おい!」
『あーしを褒めても一銭も出ないッスよ。早くエンジンかけてどっか行ってほしいッス』
毒舌をスルーし、アルデバランはダッシュボードに挿さっていたキーを握り締めた。
深く息を吸い込み、キーを右に捻る。
**キュキュキュ……ドキュゥゥゥウンッ!!**
**ズドロロロロロロロロロ……ッ!!**
腹の底を直接揺さぶるような、超大型V8ディゼルエンジンの圧倒的な重低音が響き渡り、車体全体が心地よく揺れた。
**プシューッッ!!**
エアーブレーキの排気音が森の静寂を切り裂く。
前世で何度も身体に叩き込んだ感覚が、一瞬で蘇ってきた。
「くぅぅうっ! このエンジンの振動! エアーの抜ける音! たまらんぜぇええっ!」
小さく可変したシフトレバーを握り、クラッチを踏み込んで1速へ叩き込む。
サイドブレーキのレバーを押し下げると、20トンの鉄の怪獣が静かに咆哮を上げた。
「行くぞヴァイオラ! 異世界初ドライブだぁぁあッ!」
**グォォォォオンッ!!**
アクセルを踏み込むと、圧倒的なトルクがリアタイヤを駆動させ、トラックは勢いよく森の木々の中へと躍り出た。
**バキバキバキバキッ!!**
「ぎゃあああああっ!? 木が! 木がストローみたいに折れていくッス!?」
脳内のギャルAIが悲鳴を上げる。
フロントバンパーに接触した直径数十センチの巨木たちが、20トンの圧倒的質量の前にはマッチ棒同然。何一つ減速することなく、バキバキと粉砕されて倒れていく。
「ハハハハハッ! 見ろ! どんな障害物も、この10トントラックの前には紙屑同然だぁあ!ハハハ木がゴミのようじゃあないかぁああ!!」
ハンドルを握るアルデバランの顔に、前世の『ガキ大将』としての不遜な笑みが戻っていた。
「ステータスがALL H? 剣が振れない? 関係ねぇよ! 俺にはこの【20トンの鉄塊】がある! 異世界の怪物だろーが魔王だろーが、全員これで轢き潰して無双してやるぜぇええっ!」
『だめだ、コイツ、ハイになってやがる、危険運転致死野郎の思考で恐怖なんスけどーっ!! 警察呼んでーっ!!』
異世界の静かな森に、V8エンジンの爆音と、ギャルAIの叫び声、そして元トラック乗りのおっさんの高笑いがどこまでも響き渡っていた。




