第5話:はじめてのミッション
## 第5話:はじめてのミッション
王国北端に位置する、豊かな森林と険しい山々に囲まれた『ウッドヴィレッジ辺境領』。
かつての人魔大戦では最前線の激戦区だったこの地も、現在は武闘派として知られる領主ギュスターヴ・ヒューラー辺境伯の治世のもと、長閑で平和な静寂を取り戻していた。
その領主屋敷で『アルデバラン』の名を冠して暮らす少年――それが、前世で39歳にして10トントラック事故を起こして死んだ男、武田剛だ。
剛の実父は、かつて名を馳せた凄腕の冒険者だったが、雪山でドラゴンと相打ちになり死亡。
父の盟友であったギュスターヴが「親友の遺族を守る」という誓いを果たし、
残された母アンヌとともに剛を引き取り、
亡き親友の名『アルデバラン』を少年に継がせて養子としたのだった。
こうして領主の坊っちゃんとして7歳を迎えたアルデバラン。
前世の記憶と無数の黒歴史を抱えたまま、この平和な辺境領でやり直せるかと思いきや
――無慈悲なシステム通知が、彼の平穏を打ち砕いた。
『ピロンッ!』
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【デイリーミッション:悪役度の加算】
概要:村の子供たちからおやつ(焼き立てパン)を力ずくで強奪し、泣かせなさい。
報酬:贖罪ポイント+10
失敗ペナルティ:全身激痛お仕置き(感電)
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「はぁぁあ!? 7歳のガキからパン奪って泣かせろだぁ!?」
自室の姿鏡の前で、アルデバランは顔を歪めて絶叫した。
「ふざけるなよ! こっちは中身39歳のおっさんだぞ!? 39歳が7歳の子供のおやつ奪ってドヤ顔とか、ダサすぎて黒歴史どころの騒ぎじゃねぇよ! 死んでも嫌だね!」
『警告:ミッションを拒否した場合、即座に電撃ペナルティが実行されます』
「うぐぐぐ……っ!」
結局、背に腹は代えられず、アルデバランは村の広場へと足を運ぶ羽目になった。
広場では、村の子供たちが楽しそうに木の実やパンを分け合って笑っている。
(くそっ……やるしかないのか……! イキリ悪役ムーブだ……!)
アルデバランは意を決して丸太の上に駆け上がり、胸を張って金髪を逆立てた。
「お、おい! てめぇら全員聞けぇっ! 今日からこの俺様がガキ大将だ! その手に持ってるパンを全部俺様に差し出しやがれぇ!!」
精一杯の威嚇。しかし、集まってきた子供たちの
「えー、アルデバランちゃんどうしたのー?」「お腹すいてるのー?」という無垢な瞳と、泣きそうに震える小さな手を見た瞬間――。
アルデバランの脳内で、39年分の良心が大爆発した。
(――ッ駄目だ!! 無理無理無理!! こんな小さいガキをカツアゲするとか、人間として終わりすぎるだろ! どんだけクズでも最低限のラインってものがあるだろーが!!)
己の不甲斐なさに冷や汗をダラダラ流して硬直していると、
後ろからズシンと重い足音が響いた。
「おいおい、何だぁ? 養子のヒョロガリ坊っちゃんが
俺たちの村で威張ってんじゃねぇよ」
振り返ると、そこにいたのは村で一番体格のデカいガキ大将グループの3人組だった。木刀を肩に担ぎ、凶悪な笑みを浮かべている。
(な、なんだこいつら、何喰ったら世紀末にいる悪役みてぇにこんなにデカくなるんだよ……! ガチのガキ大将出てきた……!)
だが、ここで引けばミッション失敗で感電(たぶん感電死)だ。
アルデバランは震える膝を必死に抑え、強がりを叩きつけた。
「フン……! ちょうどいい、雑魚どもが! 俺様の拳でひれ伏さ
せてやるわぁあ!俺様は天才だぁああ!!今編み出した暗殺拳を受けて死ぬが良い!!」
「極星無双会の空手を喰らうがいい!! アタァッ!!!」
流線形に流れる様な動き、それはまるでオーディエンスと化した子供達に
一子相伝の拳法を彷彿とさせる、前世で習った空手の動きだった。
前世の黒歴史スキルを叫びながら、勇ましく飛びかかるアルデバラン!
――しかし!
彼のステータスは、神々に嫌がらせで設定された**【ALL H(最低ランク)】**。
**ベキッ! ドカッ! バキッ!**
「ぶふっ!?」「ぐえぇっ!?」「あべしぃいいいいいいいッ!?」
一秒で返り討ち。
パンチは空を切り、あっけなく押し倒されたアルデバランは、地面に転がされて砂埃まみれのボコボコにされてしまった。
「ヘッ、口ほどにもねぇな! 養子様が調子に乗んじゃ――」
ガキ大将が木刀を振り上げた、その時だった。
「――そこまでにしなよ」
涼やかな少年声とともに、一閃の風が駆け抜けた。
**ドガァンッ!**
「ぎゃああああっ!?」
一瞬にして木刀が真っ二つに叩き割られ、ガキ大将グループが吹き飛ぶ。
そこに立っていたのは、美しい黒髪をなびかせ、木剣を構えた同年代の少年――この世界の真の主人公の一人『ヴィクトル』だった。
転生者としてのチート能力を秘めたヴィクトルは、冷たい眼差しでガキ大将たちを射殺す。
「僕の友達(?)に手を出すなら、次は容赦しないよ」
「ひ、ひぇぇぇええっ! 化け物だぁあああっ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げていくガキ大将たち。
泥だらけで地面に倒れ伏すアルデバランを見下ろし、ヴィクトルは優しく手を差し伸べた。
「大丈夫ですか、お坊ちゃま! ……分かっています。貴方はあのガキ大将たちを懲らしめるために、あえて自分が囮になり、懲らしめる口実を作ったのですね……!」
(ち、ちがう……! 俺はただ、普通にカツアゲしようとしてボコられただけだぁ……!)
あまりにも眩しすぎる主人公の勘違いリスペクトの眼差し。
情けなさと羞恥心で死にそうになりながら、アルデバランは差し出された手を払いのけ、泥を拭いながら立ち上がった。
「フ、フン……! 余計なお世話だ、ヴィクトル! 俺は……俺はただ、準備運動をしていただけだぁーっ!」
捨てゼリフを残し、逃げるようにその場を走り去るアルデバラン。
村の外れの木陰まで走り込み、一人になると、彼はそのまま草むらに倒れ込んで頭を抱えた。
「うああああん! 情けねぇぇぇええっ!! 39歳にもなってガキにボコられて、7歳の本物の主人公に助けられるとか……! 悪役どころかただの引き立て役の雑魚じゃねぇかぁあ!」
絶望と自己嫌悪で地面を叩くアルデバラン。
するとその時、彼の脳内で『ピコーン♪』と、妙にチャラい効果音が鳴り響いた。
『あ〜あ、マジダサすぎ〜。見てて草生えるんスけどww』
「な、なんだ……!? 脳内に直接……!?」
『初めましてッス、宿主! あーしは贖罪プログラムのサポートAI、名前はー……んー、まあ「ヴァイオラ」って呼んでほしいっス!』
視界の端に、ピンク色の光とともにギャルっぽいアバターのアイコンが踊り出た。
『ALL Hのゴミステータスでイキって返り討ちとか、マジでウケるんスけど!
でもま、あーしも仕事なんでね。
しゃーないから今日からあーしがヘルプサポートサービスしてやるっスよ〜!』
「ふぁ、ファッションヘルスサービス、さ、サポートAI……? ていうかお前、なんか態度軽すぎねぇか!?」
『耳腐ってんのかよ、薄ら寒いわクソジジイ』
こうして、最低ステータスの元トラック乗りと、ポンコツ(?)ギャルAIによる、波乱に満ちた異世界生活が本格的に幕を開けたのだった。




