第4話:メタ会議
## 第4話:メタ会議
光の渦に呑み込まれた後、どれほどの時間が経っただろうか。
次に武田剛が意識を取り戻した時、全身を包んでいたのは「あまりにも自由の利かない、小さすぎる肉体」だった。
(……あう? な、なんだ……? 手足が……動かねぇ……!?)
必死に自分の手を見ようとするが、首すらまともに持ち上がらない。 ぼやける視界に映ったのは、素朴な石造りの天井と、赤ん坊特有のむくむくとした自分の小さな拳だった。
(ま、マジかよ……! 異世界転生って、まさかの『赤ちゃんスタート』かよ!?)
前世の39歳の記憶と黒歴史を持ったまま赤ん坊になるという地獄。 声を出そうとしても「あー」「うー」と情けない赤子声しか出ず、剛が心の中で頭を抱えていると――。
『ピロンッ!』
頭の中で、電子メールの着信音が軽快に鳴り響いた。
視界の端に、青白いシステムウィンドウが浮かび上がる。
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## 【アセンション・コード運営チーム】 贖罪プログラム参加者への周知事項◇.zip
(メール……? 運営チーム……?)
剛が念じるようにウィンドウをタップすると、添付ファイルが展開され、視界の中央にまるで最新のWeb会議アプリのような画面が浮かび上がった。
画面の周囲には、自分と同じように何らかの事故や自爆で死んだと思われる『キャスト参加者』たちのアイコンがずらりと並んでいる。
「なになに? チートスキルもらえるの?」 「マジかよ、ハーレム作らせてくれよー!」 「異世界でおーれーつえーしたい!」
画面越しに飛び交う、脳天気で欲望に忠実なキャストたちの声。 すると、メイン画面の中央に一人の男が映し出された。
白銀の髪に薄化粧、マジシャンか道化師のような派手で胡散臭い衣装に身を包んだ青年。 画面の左下には『運営チーム代表:ランサム=エア』とテロップが出ている。
「やぁやぁ、初めまして! 贖罪プログラム参加者の諸君。私が**アセンション・コード**運営チーム代表のランサム=エアだ。よろしく頼むよ、ガハハハ!」
大袈裟な身振り手振りで親しげに笑うランサム。
参加者たちが「なんだこの胡散臭いオッサン」「早く無双させろよ」と口々に愚痴を叩き始めた、その時だった。
「……フッ」
ランサムの笑顔が、一瞬で氷のように冷たく引きつった。 目が完全に座り、血の気の引いた顔でカメラを睨みつける。
「――黙れよ、ゴミ共」
会議内の喧騒が、ピタリと止まった。
「異世界転生と聞いて、第2の人生でチートスキル振り回して無双ライフ? 追放されてのびのびスローライフ? 答えは――『NO』だ。
てめぇらみたいなクズの重犯罪者がなぜか許されて無双できると思ってんのか?
ぶち殺すぞ、このゴミめらが」
(サ、サイコパスだぁぁぁ!? とんだキチガイ上司じゃねぇか!!)
赤ん坊の姿のまま、剛は心の中で絶叫した。
ランサムは机を力任せにバンッ!と叩きつけ、画面越しに唾を飛ばさんばかりに怒鳴り散らす。
「いいか!? この『アセンション・コード』の世界はな、
前世で真面目に生きて報われなかった者たちの『救済の場(プレイヤーの舞台)』なんだよ!
なのに貴様らみたいな事故死したゴミ共が大量に流れてくるせいで、
こっちは連日徹夜なんだよ! 満員御礼を超えてんだよ! プレイヤーからは文句ばっかり言われるしよぉおおっ!」
参加者のアイコンからひそひそ声が漏れる。
「(いや……それ完全に運営の経営能力の問題だろ……)」
「(増員しろよ……)」
「黙れぇぇええっ!! そんな急に増員できるほど楽な商売じゃねぇんだよ!! ぶっ殺すぞ!!」
散々怒鳴り散らした直後、ランサムは突然、聖母のような温かいニッコリ笑顔に戻った。
「……だが、安心したまえ。君たちには素晴らしい役割が与えられている。そう、24時間365日無給で働くアトラクションキャスト……すなわち
『NPC(裏方・噛ませ犬)』の役割だ」
「な……NPC……!?」
「そうさ。君たちには自由などない。当然だろ?
罪を犯した咎人なんだから。君たちのミッションはただ一つ。
現地人のフリをして、今後覚醒する本物の『主人公』を引き立てる【最悪の嫌われ悪役】を演じきることだ」
ランサムは煙管をふかして紫煙をくゆらせながら、淡々と、しかし逃げ場のない口調で告げる。
「贖罪スキルがゼロになれば解放してやる。だが、ルールを破ってチート無双したり、主人公の邪魔をしくじったりしたら……どうなるか、分かるね?」
サイコパス代表の目が、底なしの暗闇のように歪む。
「あ、それと『もし死んだらどうなるの?』なんて野暮な質問はしないでくれよ? ……君たちの代わりなんて、トラックで跳ね飛ばされて送られてくる奴らが山ほどいるんだからね」
**プツン。**
一方的な脅迫と説明を終え、画面は強制終了した。
部屋の天井を見上げたまま、赤ん坊の剛は冷や汗でぐっしょりと濡れていた。
(と……とんでもねぇブラック組織に巻き込まれちまった……! 失敗したら地獄行き、成功しても一生嫌われ者の噛ませ犬……!)
だが、絶望の深淵の中で、武田剛の歪んだ男気がフッと火を噴いた。
(ハッ……上等じゃねぇか。運営のサイコパス野郎に使い捨てられるつもりはねぇが……『嫌われ役のキャスト』なら、前世の俺の十八番だ。
見せてやるよ、元ガキ大将の真のイキリ悪役ムーブってやつをなぁ……!)
◇
――それから、数年の月日が流れた。
ウッドヴィレッジ領の領主ギュスターヴの養子『アルデバラン』として育った剛は、7歳を迎えていた。
「おい! てめぇら全員並べ! 今日から俺様がこの村のガキ大将だ! 嫌なら木剣で勝負しやがれ!!」
村の広場にある丸太の上で、金髪を逆立てた少年・アルデバランが不遜な笑みを浮かべて高らかに言い放つ。
その視線の先には、前世のゲーム知識とチートスペックを秘めた本物の主人公――少年『ヴィクトル』の姿があった。
「フン……行くぞヴィクトル! 俺の噛ませ犬……じゃなくて、俺の引き立て役として指を咥えて見てろぉ!」
過積載な贖罪計画、いよいよ「主人公との遭遇」という運命のギアが噛み合い始めていた。




