第3話:クズのステータス
## 第3話:クズのステータス
光の渦の中へと吸い込まれていく最中、武田剛の意識の深層に、複数の「だるそうな声」が響いていた。
「えーー……嫌だよぉ。要らないでしょ、こんなクズ」
「ダンジョン内で転生させて、一生モンスターに狩られるの刑とかでいいんじゃない?」
「いやいや、一応『贖罪プログラム』の一環だからさぁ。
人命を率先して奪うような配置はマズいって」
「じゃあステータスは全部最低ランクでいいよ。他の転生者みたいにチート与えたら、元がクズだから絶対ロクなことしないし」
「あ、でも前世の黒歴史ノートに『自分はジャイアントだ』とか『オーガだ』とか書いてたらしいよ? 痛すぎるww」
「マジで!? じゃあ嫌がらせで『超音波』とか『ガキ大将』とかのゴミスキル付けとく? キャハハ!」
「あ、大型免許持ってるみたいだから、特典のトラック召喚も乗っけておいてー」
「適当すぎだろwwww」
(おい……! 誰だてめぇら……! 人の黒歴史を勝手に読んで笑ってんじゃねぇ……っ!)
抗議しようとした剛だったが、脳が強烈な睡魔に侵され、意識は深い闇へと沈んでいった。
◇
……。
ふと気づくと、剛は柔らかな布の感触に包まれていた。
(……ん? どこだ……? 俺、どうなった……?)
目を開けようとするが、瞼が重い。辛うじて視界に映ったのは、ぼんやりとした石造りの天井と、自分の目の前にある「むくむくと丸い小さな拳」だった。
(……は? なんだこの手……小さすぎねぇか……?)
声を出そうと口を開く。
「ぁ……あぅ〜……」
(な、なんだこの情けねぇ声はぁぁあ!?)
必死に手足を動かそうとするが、まるで自分の身体ではないかのように自由が利かない。 前世で39年生きた記憶とドス黒い黒歴史を丸ごと抱えたまま、剛は『赤ん坊』として異世界に生まれ変わってしまったのだ。
(マジかよ……! 異世界転生って、まさかの赤ん坊スタートかよ!? 勘弁してくれよ神様ぁあ!)
パニックになりかけた剛だったが、前世で暇つぶしに数々のゲームをやり込んでいた勘が働き、心の中で念じてみた。
(確か……こういう時って『ステータス』とか唱えれば出るんじゃねぇのか……?)
『ピコンッ!』
思考した瞬間、視界の中央に半透明のシステムウィンドウが浮かび上がった。
---
【名前】<クズ> 【職業】<なし> 【信仰】<なし> 【Lv】1
・体力:H(最低) ・技量:H(最低) ・筋力:H(最低) ・信仰:H(最低) ・魔力:H(最低)
## <所持スキル> ・贖罪 ★★★★★★★★★★(Lv.10/10) ・大型免許(トラック召喚) (Lv.--) ・超音波 ☆☆☆(Lv.3/10) ・ジャイアント ☆☆☆(Lv.3/10) ・オーガ ☆☆☆(Lv.3/10) ・ガキ大将 ☆☆☆(Lv.3/10)
(名前が<クズ>ってなんだよぉおおおっ!?)
ステータス画面を見つめたまま、剛は心の中で血の涙を流して絶叫した。 オールHランクの最低ステータス。そして前世のイタすぎる黒歴史がそのまま反映されたような、ふざけきったスキル一覧。
(ふざけやがってあの神々(運営)ども……! 完全に俺の事オモチャにして楽しんでやがるな……!?)
「ぁうぐぅっ!!」
怒りのあまり呻き声をあげるが、口から出るのは赤ん坊の哀しいポエムのような産声だけだった。
その時だった。
『ピロンッ!』
軽快な電子着信音が、視界の端で鳴り響いた。 手紙のようなアイコンが点滅している。
(メール……? 誰からだ……?)
剛が念じてアイコンを開くと、いかにも王道MMOのチュートリアルのような文章が展開された。
---
【異世界『アセンション・コード』の世界へようこそ】
この世界には様々な種族や神、魔物が貴方を待ち受けています。 時には他プレイヤー(転生者)と協力・敵対しながら、冒険と感動を味わうことができます。
## ※NPC(現地人)は世界各地で独自の思考を持ち生活しています。 彼らを傷つけたり、犯罪を犯すと罪に問われます。絶対にやめましょう。
(アセンション・コード……? これが俺の転生した世界の名確か……)
ゲームマニュアルは一通り目を通す派だった剛が、堅苦しい文章をスクロールしていくと、メールの最下部に1つの添付ファイルが括り付けられているのに気づいた。
---
## 【添付ファイル】 アセンション・コード運営チーム 贖罪プログラム参加者への周知事項◇.zip
(周知事項……? 贖罪プログラムの……?)
不審に思いながらも、剛がその添付ファイルを展開するように念じた――その瞬間。
視界の前面にリアルタイムWeb会議風のウィンドウが跳ね上がった。




