【番外編】四話 青年の喜び
そして一週間後、私はまたしても王立図書館へ向かった。
当然、シャーリンから返事が来ていないか確かめるためだ。
本を手に取って、開く。この瞬間は、何度体験しても緊張する。
中には、少し小ぶりのメモが挟まっていた。ドキドキしながら、そのメモを読み上げる。
【アレク様
シャーリンです。
あなたのお気持ち、良く伝わりました。
素敵な言葉を、どうもありがとうございます。
頑張るので、見守っていてくださいね。
早くあなたに会いたいです。】
「うぐっ…………!!!!!」
私は、とんでもない大ダメージを受けた。
シャーリン、君は美しさだけでなく可愛さまで兼ね備えているというのか。
会いたいなんて、私だって同じ気持ち……いや、それ以上に決まっている!!
でも、そのことをストレートに表現したら引かれてしまうかもしれない。私はただでさえシャーリンのことを考えているとき、長年の仲である部下に「顔が気色悪いです」と言われた男なのだから。
しかし、なんて返事をするべきか。もしかしたらシャーリンは、私の返事に失望してしまったのかもしれない。そんなことは、絶対にあってはならないことだ。
少しでもシャーリンを元気づけられるよう、誠意をもって返事をしよう。
もしかしたらこれが、最後の手紙になるのかもしれないのだから。
「……よし」
【親愛なるシャーリン
お元気ですか。体は壊していませんか。
ベルローズ男爵とキャロラインが処刑されましたね。
これは、あなたの努力の賜物です。ただ……あなたは本当に、心配になることをする。
新聞の記事を読みましたが、一人で男の屋敷に乗り込むなんて、危険すぎます。
あなたは魅力的な人だから、皆があなたを狙っているはずです。私は心配で心配でたまりません。
でも、何事もなくてよかった。ヴァイス公爵夫妻には、褒美を与えなければなりませんね。
そして、シャーリン。よく頑張ったね。
私は、あなたが誇らしい。一度目の人生でも二度目の人生でも、あなたは誇り高くて美しい。その美しさは、やっぱり変わっていないと思いました。
早く私も、あなたを迎えに行きたい。きっと、もう少しです。
私があなたに手を差し伸べたら、あなたはその手を取ってくださるでしょうか。
愛しています、シャーリン。
世界中の誰よりも。
アレク】
完璧だ、そう思った。
それでは、今日も帰るとしよう。そう思って本を本棚に仕舞った、その直後だった。
「アレク様……ですよね?」
シャーリンの声だと、すぐにわかった。私は即座にその場を去ろうとする。
「待って!!」
……シャーリンにそういわれてしまったら、私は逆らえない。ぴたりと、足を止めた。そして、背を向けたままフードを深く被り直す。
シャーリンが深く息を吸った気配がした。
「……あなたが、尊い御方だということは……私にも、わかっております。けれど、どうしても……あなたの顔を見て、一度直接お礼を言わせていただきたいのです。私の死の真相を暴いてくださったこと、時を巻き戻してくださったこと、この本を書いてくださったこと、私を見守ってくださったこと…………その全てに、感謝しています」
「………………」
「だから、私はもっとあなたと____」
「……シャーリン、ごめん」
「…………え?」
心臓が、破裂しそうだ。
シャーリンが、すぐそばにいる。
シャーリンと、話している。まるで夢のようだった。
あぁ、だめだ。なにか返事をしなければ。そう思って、ゆっくりと顔だけで振り返った。
シャーリンは、泣きそうな顔をしている。
ならば、私も精いっぱい言葉を尽くそうと思った。君にはいつも、笑っていてほしいから。
私は声が緊張で震えてしまいそうになりながら、ゆっくりと口を開いた。
「すみません、今はまだ、ダメなんです。あなたの気持ちは嬉しい。私もあなたと話したい。けれど……きっと今あなたの顔を見たら、この気持ちが抑えられなくなってしまう。だから、今はどうか、ご容赦ください」
……そう話すと、シャーリンの顔が果実のように真っ赤に染まった。なんて可愛いのだろうか。でも、お願いだから今はやめてほしい。
「……そんなに可愛い顔をしないでください。本当に、抑えられなくなってしまう」
「ひ、ぇ…………」
「私はもう、行きます。ですが、約束します。その時がきたら、あなたを絶対に迎えに行く。私はいつでも、あなたの味方です」
私はなんとか声を振り絞って、足早にその場を去ったのだった。




