【番外編】三話 青年の焦り
数日後のことだった。
いつも通り王都を隠れて満喫していた私は、クラウゼン侯爵とシャーリンが二人でいるところを見てしまったのである。
わかっていても、やはり胸が痛んだ。しかし、今はまだ、静かに見守っていよう。そう思いながら彼女を遠くから見ていた。
そんな時だった。一度目の人生で私に石を投げつけた酔っ払いの男が、シャーリンを連れて行こうとしたのである。
私は我慢ができなくなって、ついその男を捻りつぶしてしまった。
シャーリンに姿を見せる気などなかったのに。
直後、警備隊が駆けつけてきたのをいいことに、私は急いでその場を去った。
間近で見たシャーリンは美しく、勇敢で、更に素敵な女性へと進化していた。思い出すだけで、顔が熱くなる。
心が落ち着かない私は、祈りながら王立図書館へ向かった。
するとそこには、すこし分厚く膨らんだままの本が置いてあった。開くと、そこには綺麗に折りたたまれたハンカチが挟まれている。
あぁ、読まれなかったのかと残念に思いながら一応ハンカチを開くと、中から私が入れたものとは違う四つ折りのメモがひらりと落ちた。
心臓がドクン、と大きく跳ねる。
私は震える手で、メモを開いた。中にはこう書いてあった。
【アレク様へ
シャーリンです。お返事をしてくださって、ありがとうございます。
私はあなたの正体は聞きません。きっとあなたには、私に正体を明かせないほど尊いお方なのでしょう。
ですが、もしできるなら、あなたにお会いしたいのです。そして、お礼が言いたいと思います。
時を巻き戻してくださって、どうもありがとうございますと、どうか直接言わせてください。
そして、一度目の人生で……私が亡くなった後、私の死の真相を暴いてくださったこと、嬉しく思います。私なんて、誰にも気にされていないのだと……そう思っていましたから。
あなたの本のおかげで、私は夫の愛人の名前を知ることができました。そして、二人の計画についても……。
あとは自分の力で、どうにかかんばってみようと思います。
お返事、お待ちしております。
追伸.もう怪我は治りましたので、ハンカチはお返しいたします。このハンカチは前の人生で私があなたに渡したものですから、あなたが持っていてくださるとうれしいです。お心遣いいただきありがとうございます】
____私は歓喜した。
やはり、シャーリンだったのだ。それにしても、なんて美しい字なのだろうか。
シャーリンは心だけではなく、文字まで美しい。世紀の大発見であった。
それに、配慮ができるところも、お礼を忘れない精神も、やはり好きだと思った。
「怪我が治ったようで、何よりだ……」
それにしても、あの血文字はやはりシャーリンが自分で書いたものなのか。
意外とアグレッシブなところもあるのだなと、少し驚いた。
だが、そんなところさえも愛しく映った。
そうして私はシャーリンからの返事を大切にポケットに仕舞いながら、再び返事をしたためたのだった。
【シャーリンへ
丁寧な返事を、どうもありがとう。私は、あなたのそんな思慮深く優しいところが好きです。
先日、王都で男に絡まれたと風の噂で聞きました。怪我はありませんでしたか?
子供を守って勇敢に立ち向かう、そんなあなたに恋焦がれています。
そしてシャーリン、私はあなたに謝らなければならないことがあります。
それは、今はまだあなたに会うことはできないということです。その理由は、きっとこの封筒を見たあなたなら察してくださることでしょう。
でも、約束します。
あなたが全てから解き放たれて、自由の身になった時。私は必ずあなたを迎えに行く。
だから、その時まで……どうか待っていてくれませんか。
いつでもあなたを想っています。
忘れないで。私はいつでも、あなたの味方です。
そしてそれは、私だけじゃないはずですよ。
アレク】
あくまで「フードの男」が私だとバレてしまわないよう、先日噂を聞いたことにして誤魔化した。
でも、あわよくば気付いてほしい。そんな期待が確かにあったことは、否定ができない。
私は板挟みになりながら、この日も図書館を後にして、宮殿に戻ったのだった。




