五十一話 『シャーリン』
『シャーリン』著:アレク
あるところに、一人の美しい伯爵令嬢がおりました。彼女の名前は、シャーリン・エルフィナード。
その令嬢はあまりの美しさから「氷の令嬢」と呼ばれていましたが、その美しさのせいで近寄れる男がいませんでした。
そんな中、一人のヴィクトルという侯爵が、彼女にプロポーズをしたのです。ヴィクトルは敏腕な事業者でしたが、なぜか二十五になっても結婚をしようとしませんでした。そんなヴィクトルが、ついに一人の女性に手を差し出したのです。
心優しいシャーリンは侯爵のプロポーズを受け入れ、二人は盛大な結婚式を挙げました。
しかし、ヴィクトルにはとある秘密がありました。それは、彼には昔から愛している女性がいたのです。彼女の名前は『キャロライン』と言いました。家名はありません。なぜなら彼女は平民だからです。
キャロラインは元々伯爵家の令嬢でした。至って幸せな三人家族でしたが、ある日両親が亡くなったことで、全てが狂ってしまいました。
彼女はとある貴族の養子になりました。しかし、彼女はとある強力な特殊能力を持っていることを隠していたのです。
それこそが、『魅了の瞳』でした。
彼女の赤く輝く瞳に見つめられると、皆彼女のことしか考えられなくなってしまうのです。
彼女を養子に迎えた男はキャロラインに魅了され、それに怒った養母は、キャロラインを家から追い出しました。そうして、キャロラインは平民として生きていくことになってしまったのです。
ヴィクトルは、キャロラインの幼馴染でした。幼い頃からキャロラインに魅了されていた彼は、本当はキャロラインと結婚したいと思っていました。
しかし、周りの貴族から何度も縁談を持ち掛けられたヴィクトルは、ただでさえ不幸な境遇のキャロラインを不安にさせてしまうことを酷く嫌がったのです。
そこで、ヴィクトルとキャロラインはある作戦を思いつきました。それが、『氷の令嬢』と呼ばれているシャーリンと結婚することでした。
表面上は仲の良い夫婦を演じ、事業を拡大し……裏ではキャロラインと愛し合うという、それはそれはひどいものでした。
もちろん、シャーリンはそんなことを知らず、健気な侯爵夫人として人々に優しさを与えました。ある時は、街で怪我をしていた青年にハンカチを差し出し、社交界では笑顔で良き妻として振る舞っていました。
しかしある日、悲劇は起こります。結婚から一年と少し経ったある日、シャーリンが亡くなってしまうのです。馬車による事故と報道されました。
そしてヴィクトルは、すぐにキャロラインと結婚しました。なぜならキャロラインは、とある男爵に『魅了の力』を貸し出すことを条件に、男爵家の養子……男爵令嬢となっていたからです。
その知らせは、彼女を愛していたとある人物のもとにも届きました。そう、街で怪我をしていた時、シャーロットにハンカチを差し出された青年です。彼は、シャーロットの美しさと優しさに虜になっていました。
そんな中で届いた訃報に、青年は憤りました。きっと、これは事故ではない、そう確信していたのです。何を隠そう、この青年はこの国の王太子アレクシス・レイン・フォルティスでした。
アレクシスはすぐに調査をし、この真相に辿り着いたのです。しかし、もうすべてが手遅れでした。なぜなら、彼が愛しているシャーリンはもういないのですから。
そこでアレクシスは、王家に伝わる『対象者の人生の分岐点に時を巻き戻すことができる時計』を使いました。
その結果、シャーリンは生き返りました。目を覚ますと、ヴィクトルとの結婚式の直前に時が巻き戻っていたのです。
そして、シャーリンは決意しました。
今度こそ、幸せになってみせると。
シャーリンは努力しました。
披露宴でヴァイス公爵夫人という友人ができたシャーリンは、夫人とお茶会をしました。
そこでシャーリンは、ヴィクトルの愛人が平民であることを知るのです。
そしてシャーリンは、とある不思議な本を見つけます。それは、一度目の人生を嘆いた青年が、シャーリンのために書いたものでした。
愛人の名前、そして二人の計画を知ったシャーリンは、メルローズ男爵を倒すために動き出しました。
メルローズ男爵の横領を知ったシャーリンは、勇敢にも男爵邸に一人で乗り込んだのです。
しかし、シャーリンにピンチが訪れます。なんとメルローズ男爵は、人身売買を行う悪党だったのです。危うく捕まりそうになるシャーリンでしたが、ヴァイス公爵夫妻の助けにより、シャーリンは難を逃れます。
そしてメルローズ男爵は処刑され、見事キャロラインの計画を潰すことに成功したのです。
直後、キャロラインも処刑され、シャーリンの敵は残すところ一人となりました。
そうです、ヴィクトル・クラウゼン侯爵です。
でも大丈夫。シャーリンは、ちゃんと不貞の証拠を集めていました。
そして離縁を突きつけたシャーリンは、侯爵邸を抜け出すことに成功するのです。
それからしばらく経ち、自由の身になったシャーリンはとある舞踏会に参加をします。
そこでシャーリンは、二度目の求婚を受けるのです。
その青年こそが、時を巻き戻した王太子でした。
それから二人は結婚し、今度こそシャーリンは本当の愛を知ることが出来たのでした。
めでたしめでたし。




