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【番外編】一話 青年の嘆き

 私、アレクシス・レイン・フォルティスは、この国の第一王子として生まれた。


 恵まれた美貌、完璧な頭脳、誰にも負けない剣術。

 全てを兼ね備えている私にとって、この世界は大層つまらないものだった。


 道を歩けば皆が頭を垂れ、私が命令すればどんなことでも叶ってしまう。


 それが私には、退屈で仕方がなかった。


 そして十歳になったある日、私は深いフードを被って一人で王都へ繰り出したのだ。

 すると、誰も私に気付かない。こうすれば、私も普通の子供になることが出来た。


 私は、この秘密のお出掛けに夢中になった。



 だが、二十歳になったある日のこと。

 この日も私は、一人で王都を満喫していた。


 そんな中、とある酔っ払いが私に向かって石を投げてきたのである。


 私が王太子だからではない。たまたまフードを被って顔を隠している姿が鼻についたから。男はそう言っていた。


 油断していた私は、頭から出血をしてその場に蹲った。

 しかし、助けは呼べない。呼んでしまったら、私の正体がバレてしまうからだ。


 どうしようかと内心困り果てているところに、一人の女神が現れた。


 それが、彼女____伯爵令嬢シャーリン・エルフィナードだった。


「大丈夫ですか? 怪我をしているではありませんか! よろしければ、このハンカチを……」


 そうして彼女は、真っ白な新品のハンカチを差し出してくれた。


 ____私はこの瞬間、簡単に恋に落ちてしまった。一目惚れだった。


 彼女が『氷の令嬢』と呼ばれていたことは、聞いたことがあった。

 だが、誰かもわからない、皆が見ないふりをしていた怪我人に対して迷わずハンカチを差し出せるような女性の、どこが氷なのだろうか。


 私は、彼女と一緒になりたいと願った。

 しかし、彼女には既にクラウゼン侯爵という夫がいた。


 舞踏会で姿を見かけたこともあったが、いつ見ても彼女は幸せそうで……。

 この想いが報われないとしても、彼女が幸せならそれでいいと、私は自分を納得させていた。


 しかし、ある日。

 私のもとに、信じられないニュースが飛び込んできた。


 それは、クラウゼン侯爵夫人が馬車の事故でなくなったというものだった。


 私は嘆き、憤った。せめて彼女の死の真相について、詳しく知りたいと思った。


 するとどうだろうか。なんと彼女は、事故に見せ掛けた他殺だったのである。

 犯人は、ヴィクトル・クラウゼン侯爵、そしてキャロライン・クラウゼン侯爵夫人だった。


 私はすぐに、二人を極刑にした。

 しかし、それでも私の気が晴れることはなかった。


 彼女はもう、何をしても戻ってこないのだから。

 そこで私は、ある伝説を思い出した。


 それが、この国には『対象者の人生の分岐点まで時を巻き戻すことが出来る時計』があるということ。


 私は必死に両親に頼み込み、その国宝を譲ってもらったのだ。

 そして私は、もし時を巻き戻すことが成功した時のために……シャーリンをモデルにした、とある本を書いたのである。それが、『シャーロット』という本だった。


 名前をアレックスではなくアレクにしたのは、その方が私だとバレないと思ったからだ。




 ____それから、私はその本と彼女の形見であるハンカチを持って、時を巻き戻したのだった。

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