三十九話 独りぼっち
喉が渇いた。
お尻が痛い。
お腹が空いた。
お風呂に入りたい。
この独房に入れられて、もう何日たったんだろう。外が見えないから、時間の経過だってわからない。
まだ一日しか経っていないような気もするし、もう一か月以上の月日が経ったような気さえしてくる。
だれか、ここから助け出して。
____カツン、カツン……。
だれかの足音が聞こえる。看守だろうか。
……いいや、ちがう、あのシルエットは、良く知っている。
「ヴィク、トル……?」
いつもみたいに元気な声を出そうと思ったのに、声が掠れてうまく発声できなかった。
でも、来てくれたんだ。私の『魅了』の力は、まだ解けていなかった!!
「ねぇ……ヴィクトル……ここから、だして……?」
暗い独房の中で、瞳を鈍く光らせる。
ヴィクトルが、私の瞳を見つめている。けれど、ヴィクトルの様子は変わらなかった。
それから、形の良い艶やかな唇を小さく開いた。
「キャロライン、私は、お前に別れを言いに来たんだ」
「わかれ……?」
「あぁ……。小さい頃、私は君のことが好きだった。確かに愛していた。でも、今は違う。君のことを、醜く恐ろしい女としてか、見られなくなってしまったんだ」
「……え……」
「私は……今はシャーリンのことが、好きなんだ。だから、今までありがとう、キャロライン。……良い夢を」
ヴィクトルがそう言って、私に背を向ける。
私はその背に向かって思いきり手を伸ばしたけれど、暗闇の中でだらんと細くて醜い手が力なく伸ばされただけで、何も掴めやしなかった。
そして、また何日かの月日が経った頃。
看守から、私の処刑日が告げられた。
*****
「奥様。侯爵様を狙った殺人未遂事件の犯人が、明日公開処刑されることになったそうです」
「……そう。名前は?」
「えっと……確か、キャロラインだったかと。見に行かれますか? 侯爵様は出向かれるようですが……」
「……私は、いいわ。もう私の人生には、関係のない人だから」




