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三十八話 許せない

「諦めてって……どういうこと? ヴィクトル……」

「そのままの意味だ。私たちの作戦は失敗した。大人しく身を引こう」

「はぁ!? じゃあ私は貴族になれないってこと!? あの女のせいで!? 私のドレスは、宝石は、アクセサリーは!?」

「……術がない以上、諦めるしかない」


 静かに首を振るヴィクトルの姿を見て、私の怒りはもう限界を突破していた。


「ふざけないで!! 私を貴族にして結婚するって、約束したじゃない!」

「……すまない」

「謝って済む問題じゃないわ! もとはと言えば、あの氷女が……」


 そこまで言って、ふと思いついた。

 そうだわ、全部あの女が悪い。なら、あの女を……亡き者にしてしまえばいい。

 最初から、そうすればよかったのよ。


「……キャロライン、今何を考えている?」

「え~? きっと、ヴィクトルが最初に考えていたことと同じようなことよ? 私たちの邪魔をするあの女を、殺してしまえば、」

「ふざけるな!!!!!」


 ヴィクトルの怒号が響いた。私は思わず、肩をびくりと震わせる。


「な、なに……? 何怒ってるのよ、ヴィクトル……あなただって、あんな女、私に比べたら何の価値もないって言っていたじゃない……」

「それは……昔の話だ。とにかく、私の妻に手を出すことは絶対に許さない。君にも、もう会わない」

「はぁ……? なに、良い夫ぶっちゃってるわけ? まさか、あの女に絆されたとか馬鹿なこと言わないでよ?」


 ヴィクトルが黙って俯く。私は、その反応が信じられなかった。


「……まさか、本当にあの女のことが好きだって言いたいの?」

「…………」

「ここまできて、私を捨てて、私は貴族になれなくて、自分だけ何もなかったみたいな顔して妻と暮らそうっていうわけ……!? 意味わかんない、そんなこと、絶対させない……!!! それならせめて、責任取って私と一緒に死になさいよ!!」


 私はもう、まともに考えることができなくなっていた。

 調理用のナイフを手にして、思いっきり、ヴィクトルに突進する。


 なのに次の瞬間、私は宙に浮いていた。ヴィクトルに、腕を掴まれて乱暴に投げられたのだ。


「いった……!!!」

「…………」


 ヴィクトルが、黙って私に近づいてくる。そして、静かな声で囁いた。


「……キャロライン。今君は、侯爵である私を殺そうとした。これで、君は立派な犯罪者だ。よかったな、君のお望み通り、死ねるぞ」

「なに……いって……」


 床に打ち付けられた背中がびりびりする。ヴィクトルは、もう私のことが好きじゃないというの?


「衛兵! 今私は、この女に刺されそうになった! 殺人未遂だ! この女を確保しろ!!」

「ひっ……!!」


 ヴィクトルの声に合わせて、見知らぬ男たちが私の部屋に入ってくる。そして、わたしを一瞬で拘束したと思ったら、私を担いでどこかへ連れて行こうとする


「ねぇ、離して!! たすけて、たすけてよヴィクトル! ねぇってば!!!」





 ヴィクトルは、答えなかった。

 その代わり、ただ冷たい瞳で、私のことを見つめていた。

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