三十二話 お茶会、再び
「誘っていただけて、嬉しいわ!」
「いえ、そんな……! 私こそ、自分からお誘いすると申し出ておいて……こんなに遅くなってしまい、申し訳ありません」
「ふふ、でもこうして誘ってくれたじゃない。だからね、いいのよ」
そういって、イザベラ様は優雅な所作でカップを手に取ってから、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。
____今日は、イザベラ様との二度目のお茶会だ。
「今度は私から誘う」という約束を、ようやく果たすことができた。随分、時間がかかってしまったけれど……。
イザベラ様はカップをソーサラーに置いて、内緒話でもするように小さな声で語りかけた。
「本当はね? 私、嫌われちゃったかしら〜って、ちょっと心配してたの」
「そんな! 私はイザベラ様に、すごく感謝しているんです。最近はちょっと……色々ありすぎて、ご連絡ができていませんでしたが……」
「色々っていうのは……クラウゼン侯爵のこと?」
「……はい、そうです」
イザベラ様が眉間に皺を寄せる。それから更に声を潜めて、私に耳打ちした。
「……まさかまだ、夜の営みがないの?」
「ありませんね」
「信じられない、こんなに綺麗な女性を目の前にして、何もしないなんて……」
「仕方ないです。実際、夫には本当に平民の愛人がいるようですから」
「まぁ……!!」
イザベラ様が絶句する。そういう反応になるわよね。貴婦人の間の噂話が、まさか事実だなんて思っていなかったでしょうし。
「ですから、今は……実は、離縁に向けて動いています。こんなこと、イザベラ様にしか話せませんけれど……」
「……随分、思い切るのね」
「不貞されて黙っていられるほど、私は殊勝な妻じゃなかったみたいですわ」
イザベラ様は「確かに、私も主人に浮気されたら許せなくなっちゃうわ」と悲しげに俯いた。
あぁ、あなたにそんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。
これ以上イザベラ様を悲しませるのは、なんだか申し訳ない。早速だけど、本題に入らせてもらおう。
「イザベラ様は、メルローズ男爵をご存知ですか?」
「……メルローズ男爵と、何かあったの?」
「いえ……まぁ、なかったといえば嘘となります」
「そう…………」
イザベラ様は険しい顔つきになって黙ってしまった。が、それから少しして、「あなたにだけ教えるわね」と小さな声で呟いた。
「実は……主人がね、『メルローズ男爵の動向が怪しい』と話していて……というのも、横領の疑いがあるみたいなの」
「横領……ですか」
「えぇ……でも、メルローズ男爵は中々用心深い方のようで、上手く接触ができなくて困っているのよ」
「それでしたら、私の実家に頼るのが良いかもしれません。父はメルローズ男爵と事業で関わりがあるようでしたから」
私がそう言うと、イザベラ様はパッと目を見開いた。
「本当……!? それなら、私の家も力を貸すから……メルローズ男爵について、調査をお願いできないかしら? 証拠が集まれば、ヴァイス公爵家から王家に報告させていただくわ」
「それは、私にとってもありがたい話です。父に急いで書状を送りますね。なにかわかり次第、すぐに連絡します」
「助かるわ、ありがとう…………。と、まぁ、難しい話はここまでにして……この後は、楽しいお茶会の時間にしましょうか」
「ふふ、そうですね、そういたしましょう」
____こうして私は、メルローズ男爵について大きく情報を得ることが出来たのだった。
一歩ずつ着実に、離縁へ近付いているのがわかる。
……強い女性になれるよう、頑張らなくちゃ、ね。




