三十一話 複雑
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私は何をやっていたのかしら、とふと疑問に思った。
いくらあんな顔をされたからって、あんなに親切に探してあげる必要なんてなかったのかもしれない。だって私は、あの男に殺されたんだもの。
しかも香水の香りから察するに、夫は私が必死になって探している間、愛人に会いに行っていたみたいだし……本当に、馬鹿らしくなってしまう。
それでも、本当に困っている人を目の前で見かけたら、つい放っておけなくなるのが人間というものだと思うのよ。それが、過去に愛した人間ならなおさらね。
しかも見つけた後で渡したら、「ありがとう、親の形見なんだ」……なんて言われてしまったし……。そんな大事なことは一番最初に言いなさいよと、正直思ってしまった。
私が夫を再び愛することはない。けれども……。両親が亡くなっていたのは知っていたけど、いつ亡くなったのか、なぜ亡くなったのか……それを聞いたのも、一度目の人生を含めて昨日が初めてだった。
まさか、十代で両親を馬車の事故で亡くしていたなんて、初めて知った。
そういえば、アレク様によると……私は一度目の人生で、馬車の事故で亡くなったことになっていたのだっけ。
今思えば、両親と重ねられたのかもしれないわね。そう思うと、夫も愛に飢えていたのかもしれない、私と同じで……。
「はぁ……」
これ以上は、不毛ね。起きてしまったことは変えられない。覆らない。私が夫を好きになることは、二度とない。
それでも……やっぱり、夫に歩み寄ることは、できたのかもしれない。
「……アレク様に、お会いしたいわ」
こんな時、浮かんでしまうのは顔も知らない彼のこと。
ねぇ、アレク様。今の私を見たら、あなたは私を笑うのかしらね。




