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二十八話 迎えに行く

 *****


 私が王立図書館へ来るのも、これで三度目。


 目的はもちろん、『シャーロット』……いえ、『シャーロット』に返事が挟まっていないかを確認するためだ。


 もうすっかり覚えた『シャーロット』の定位置まで一直線に移動して、その存在を確かめる。……よかった、今日もあった。ドキドキしながら、本を開く。そこにはもうハンカチはなくて、代わりに封筒が挟まっていた。

 その封筒は……蝋で封がされている。


 ____間違いない、これは王家の紋章だ。


 私が「正体は聞きません」と書いたことに対する、答えだと思った。


「やはり、王族の方……なのね」


 少し怖さも感じながら、私はサラからペーパーナイフを借りた。そして、ゆっくりと封を開けていく。今まではメモでのやりとりだったのに、急にこんなしっかりした封筒だなんて……。


 なんだか、嫌な予感がした。私にとっての、悲しい予感。

 封を開け終わった私は、震える手で便箋を開いた。





【シャーリンへ


 丁寧な返事を、どうもありがとう。私は、あなたのそんな思慮深く優しいところが好きです。


 先日、王都で男に絡まれたと風の噂で聞きました。怪我はありませんでしたか?

 子供を守って勇敢に立ち向かう、そんなあなたに恋焦がれています。


 そしてシャーリン、私はあなたに謝らなければならないことがあります。

 それは、今はまだあなたに会うことはできないということです。その理由は、きっとこの封筒を見たあなたなら察してくださることでしょう。


 でも、約束します。

 あなたが全てから解き放たれて、自由の身になった時。私は必ずあなたを迎えに行く。

 だから、その時まで……どうか待っていてくれませんか。


 いつでもあなたを想っています。

 忘れないで。私はいつでも、あなたの味方です。

 そしてそれは、私だけじゃないはずですよ。


 アレク】




「……ずるいわ」


 一番最初に出たのは、この言葉だった。


 彼が私に会えないのは、私が既婚者だから。そして、彼が責任ある立場だから……。

 夫の不貞が理由で離縁しようとしているのに、そんな私が王族と隠れて会っていたら、それこそスキャンダルだわ。

 アレクという名も、偽名ね。だって、王族にそんな名前の方はいらっしゃらないもの。

 彼は徹底的に、私と会わないつもりなんだ。


 でも、なんとなくこれで、疑惑が確信に変わった。

 それは……先日王都で私を助けてくれたフードの男は、アレク様なのではないかということ。

「風の噂」なんて書いてあるけれど、そんなことが噂になるわけがない。私が大けがでもしていたら別だけれど、私は五体満足だもの。

 それに、アンナ……女の子を庇おうとしたことまで書いてある。これは、その場にいないとわからない内容だわ。


 でも、私が一番うれしかったのは、一番最後の言葉。


「私にも、味方がいたのね……」


 ぽつりと呟くと、近くで控えていたサラが「当たり前ですよ!」と声を張り上げた。次いで、アントニーも、「あ、俺も俺も!」と軽い調子で声をあげる。


「あなたたち……図書館なのに、声が大きいわよ」


 でも、そうか……私が気付いていない……いいえ、信じていなかっただけで、きっとたくさんの人が私のことを想ってくれている。

 そんなことに、今更気付くなんて。


 そういえば、イザベラ様にだって、「今度は私から誘う」と言っておいて、手紙の一つも出せていない。

 私、怖かったんだわ。誰かを信じて、また裏切られることが。


 でも、いいのね、信じても……。


「えっ、奥様なんで泣いてんすか!」

「あんたのせいよアントニー!!」

「俺のせい!?」


 ぽた、ぽたと雫が滴り落ちる。

 私、泣いているの? 泣いたのなんて、いつぶりかしら。


「もう、二人とも……ちゃんと二人のせいでもあるから、最後まで責任取ってちょうだいね」

「えっ、私もですか!?」

「やーい! お前のせいだってさ!」

「子供か!!」

「ふふっ、あははっ……!」


 私の言葉で再び小競り合いを始めた二人を見て笑いながら、私は返事を書いたのだった。




【アレク様


シャーリンです。

あなたのお気持ち、良く伝わりました。


素敵な言葉を、どうもありがとうございます。


頑張るので、見守っていてくださいね。




早くあなたに会いたいです。】


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