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二十六話 あなたはだれ

 

「あ? 誰だテメー……」

「彼女はお前のような奴が触れていい存在じゃない」

「うっせぇよ、まずはテメーからぼこしてや、うぐっ……!!!」


 フードの男はひらりと身を躱しながら、酔っ払いの男の腕を捻って鳩尾に拳を入れた。

 明らかに戦いなれている、そんな動きだ。だが、コートについているフードを深くかぶっているせいで、顔も見えないし服装もよくわからない。


 酔っ払いの男は、そのまま気を失って倒れた。少し遅れて、警備隊がバタバタと駆けつけてくる。酔っ払いは拘束され、どこかへ連れていかれた。


 私はその光景をぼんやりとみていたが、すぐにハッとしてフードの男にお礼を言おうとする。だが、そこにはもうその男はおらず、代わりに夫が立っていた。


「無事か? シャーリン!」

「……ヴィクトル様? あの、先ほどの方は……?」

「え? あぁ、その男ならさっきどこかへ行ってしまったが……」

「……そうですか」


 どうやらお礼を言い損ねてしまったようだった。助けてもらったのに、なんてことなの。

 というか、夫は一体何をしていたのよ。いくら今日は思い込んでいる様子だったからと言って、妻を助けるくらいの気概は見せてほしいわ。

 以前の私、こんな人のどこがよかったの? ただの空気じゃないの。無事か? じゃないわよ、結構危なかったわよ。


「ふぅ……今日はもう、帰りましょう。ヴィクトル様の様子もなんだかおかしいですし……」

「……そう、だな、すまない」




 言うまでもないけど、帰りの馬車は地獄のような空気だった。


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