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二十五話 デート

 

「お買い物……ですか?」

「あぁ。駄目だろうか?」

「……いえ、喜んでご一緒させていただきますわ」


 ある日の朝食会。夫に「王都に買い物をしに行かないか」と誘われた。


 一度目の人生でも、夫と出かけたことは何度もある。けれど……いつもは「買い物に行くぞ」「観劇に行こう」みたいに、断言して私の予定を勝手に決めてきた。

 あの頃の私は夫に恋をしていたから、それでも嬉しかったけれど……。今思えば、私の意志なんて丸無視した誘いだったと思う。


 なのに、今世での初めての誘いは私の機嫌や予定を伺うような言い方で……。やっぱり、夫はどこか様子が変わった。そんな風に思う。


 本心を言うと、別に夫とのデートにワクワクするような気持ちは一ミリもないのだけれど、表面上は良い妻を演じている以上、ここで断るのは不自然だわ。


「初めてのデート、楽しみにしております」

「……デート、か。そうだな、私も……いや、なんでもない」


 ……今までの夫なら、「私もとても楽しみだ。愛しているよ、シャーリン」くらいは言っていたはず。なのに、最近の夫はずっと何か考え込んでいる。キャロラインさんと上手くいっていないのかしらね。まぁ、私にはどうでもいいけれど。








「にぎやかですね」

「……あぁ、そうだな」


 王都を歩きながら、適当な感想を交し合う。夫は心ここにあらずって感じだし、私は別に夫とのデートに興味はないし……本当に、何のための時間なのかしら、これは。


「……なんだか、ヴィクトル様はお疲れのように見えますわ。少しそこのベンチで休憩しませんこと?」

「…………そうさせてもらおう」


 本当に、最近の夫は取り繕うことが下手になった。前の夫なら、「大丈夫だよ、それより美味しいケーキ屋があるんだ」とか言ってたでしょうに。


 ベンチに並んで腰かける。空は青い。なんだかやたら天気がいいのが皮肉ね。私たちの仲は冷え切っているのに……。


 ____すると、突然腕を引っ張られる感覚を覚えた。驚いて腕を見ると、見知らぬ子どもが私の腕を掴んでいる。

 ……迷子かしら?


「こんにちは、可愛いおじょうちゃん」

「こんにちは!」


 にこりと笑って挨拶すると、女の子も嬉しそうに挨拶を返してくれた。


「おねーちゃんは、おきぞくさまなの?」

「ふふ、そうよ」

「すごい! わたしね、いつもはちがうばしょに住んでるんだけどね、今日はままといっしょにあそびに来たんだよ」

「あら、そうなの。素敵ね」

「うん! ねぇねぇ、おねーちゃんのネックレスとドレス、すっごくすてき! わたしもね、いつかアレクシスおうじさまみたいな人とけっこんして、かわいいドレスをきたいの」


 女の子は、まだ五歳くらいだろうか。瞳をらんらんと輝かせて夢を語る姿はとても可愛らしく、心が和んだ。


「こ、こらアンナ! 何をしているの!? も、申し訳ございません、すぐに連れていきますので!」

「あ、ママだ!! おねーちゃん、じゃーね!」


 少し離れたところから、母親が走ってアンナと呼ばれている女の子を迎えにきた。嬉しそうに手を振って去ろうとするアンナに、私は「ちょっと待ってね」と声をかけてから、自身のネックレスを外した。それから、アンナの首にそのネックレスをつけてあげる。


「お姉ちゃんからのプレゼントよ。いつかきっと、素敵な王子様が迎えに来てくれるわ」

「わぁ……おねーちゃん、ありがとう!!!」

「ふふ、いいのよ。ばいばい」


 アンナは嬉しそうに手をぶんぶん振って、母親はぺこぺこと何度も頭を下げながら去っていった。

 ……私にも、子供がいたらあんな感じだったのかしら。別に夫との子は欲しいとは全く思わないけれど、子供に対するあこがれはある。


 遠ざかっていく女の子を眺めていると、今まで空気だった夫が急に口を開いた。


「……いいのか? あげてしまって……あれは君のものだろう」

「構いません。こんなことをノブレス・オブリージュと謳うつもりは毛頭ございませんが……未来ある子供に優しくするのは、貴族以前に大人として普通のことではありませんか?」

「それは……そうかもしれないが」


 そういうと、夫はまた何か考え込むように黙ってしまった。この人、何しに来たのかしら?


 私が半ば夫に呆れていると、目の前の広場で騒ぎが起きていることに気が付いた。何かしらと思ってみていると、なんとさっき別れたばかりのアンナが、酔っ払いの男に腕を掴まれている。


 狙いは____私があげた、ネックレスだ。


 私の馬鹿!! あんな小さな子供が宝石のアクセサリーなんてつけていたら、悪い大人に狙われるのなんて簡単に想像ができたじゃない!!!


 私はたまらず立ち上がって、夫の制止を振り切って男の前に立ちはだかった。


「やめなさい。そのネックレスは私は彼女にあげたものです。あなたのものではございません」

「……なんだぁ?」


 男はじろじろと私の全身を訝し気に眺める。それから、にやりと笑った。


「……生意気な女だが、随分上等な恰好してんな。そんなにこのガキを守りたければ、お前がガキの代わりにこっちにこいよ」

「いいわよ。その代わり、その子を離しなさい」


 ____ドサッ!と、アンナが床に放り投げられる。母親が慌てて駆け寄って、アンナを抱きかかえるのを確認してから、私は男に近寄ろうとした……その時だった。


「そこまでだ!!」


 後ろから大きな声がして、思わず振り返る。すると、そこにいたのは夫____ではなく、フードを深くかぶった男だった。


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