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二十三話 ハンカチ

 舞踏会の翌朝。私は、サラとアントニーと共に再び王立図書館へ来ていた。

 昨日はなんだかよくわからない日だったけれど、あまり気にしてばかりもいられない。


 それよりも、私が一番気になっているのは、私が血文字で書いたメモの所在と、それに対する返事だ。


「えっと、『シャーロット』は……あった。……場所は、前回と変わってないわね」


 心臓がドキドキする。どうしましょう、返事が来ていなかったら。いいえ、そもそもメモすらそのままだって可能性もある。

 でも、私は可能性に賭けてみたいのよ。だって、この本を書いた人物は少なくとも私のことを悪くは思っていないはずなの。それでいてこの本を書いたのだから、きっと私に何か伝えたいことがあったはず。


 そう考えると……この本の筆者は、定期的にこの本の状態を確認しに来ているのではないかしら?


 ドクンドクンと脈打つ心臓の音を感じながら、私は『シャーロット』を手に取った。それから、ゆっくりと本を開く。

 そこに挟まっていたのは…………。


「……ハンカチ?」


 真っ白なハンカチが挟まっていた。道理で、本が分厚いと思ったのよね……。ハンカチと広げると、ひらり、と中から紙が床に落ちていった。きっと、これは返事だ。


 私は震える手で、ゆっくりとメモを開く。




【久しぶり、敬愛なるシャーリン。いや、この人生では「はじめまして」が正しいかな。


私はこの本の作者、アレクです。あなたがこの本に辿り着くか、正直私にとっては賭けでした。でも、私は賭けに勝ったと考えていいのかな?


頭の良い君ならもう察しがついているかもしれないけれど……時を巻き戻した「青年」は、私のことです。

前世で王都を歩いていた時、私は酔っ払いの男性に石を投げられてしまって……護衛もつけずにお忍びで歩いているときだったから、手当てもできずに貧血でその場に蹲ってしまったんだ。


誰もが私のことを見ないふりをして去っていった。私が正体を隠している間、こんなにも私は無力なのか、民は日々こんな思いをしているのかと……初めて知った。


その時だった。一人の美しい貴婦人が、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたんだ。そして、このハンカチを渡してくれたんだよ。シャーリン、君のことだ。

私はその時、君に恋をした。けれど、君はもうそのころには結婚してしまっていて……私は舞踏会に参加するたび、クラウゼン侯爵とダンスを踊る君を眺めることしかできなかったんだ。想いは募るばかりだったけれどね。


でもそんなある日、君は亡くなってしまった。私は君が幸せならそれでいいと思っていた。でも、違ったのだと初めて気づいた。君はずっと、あの侯爵に騙されていたのだと……調査をして気付いた。


一度目の人生で、私はクラウゼン侯爵とキャロライン、そしてメルローズ男爵を処刑した。でも、君が帰ってくることはなかった。


だから、私はこの国に伝わる秘宝を使って……『君の人生の分岐点』まで時を戻したんだ。本当は、結婚前に戻したかったのだけど、そこまではできなくて……ごめんね。


この本は、一度目の人生で全てが終わった後に書いたんだ。そして、時を巻き戻したときに一緒に持って行った。このハンカチも、その一部だ。


あぁ、ページが破れているのは気にしないで。これは、恥ずかしくて破ってしまったんだ。その……残りのページは、君への愛を綴ったものだから。


今度の人生こそ、君が幸せになれるよう……願っているよ。私の立場ではクラウゼン侯爵の不貞を裁くことは難しいけれど、シャーリン、君ならできると信じている。

この本が、君の役に立てばうれしい。


追伸 血文字は少しびっくりしたけれど、君が傷つくのは耐えられないから……。君が前に渡してくれた、このハンカチを返します。


アレク】





「お、重い……!!」


 なにかしら、この異常なまでの熱量は……。

 そもそも、この「アレク」って、国の秘宝を使えるような立場なの!? そんなの、この国では王族くらいしか…………いや、まさかね。そんなわけがないわ。

 だってそうだとしたら、私は王族に……想いを寄せられていたことになる。そんなの、それこそ夢物語だわ。


 私はハンカチを広げる。そこには確かに、『シャーリン』という刺繍が入っていた。今の私は持っていないから、きっと結婚してから貰ったものなのだろう。

 母が刺繍好きだから、きっと母がプレゼントしてくれたのね。



 というか、メルローズ男爵って……昨日の下品な男爵のことよね。あの男が関係してるとわかっていたら、話もせず切り上げたのに……。


 それにしたって、私もなにか……返事を書くべきよね。

 ちょっと、この熱量に返せる自信は……ないけれど。でもこの人は、私のことを考えて本まで書いてくれたんだもの。


「…………サラ、紙とペンを貸してちょうだい」


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