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十八話 魅了と計画

 私の愛する女性であるキャロラインは、少し離れた街のパン屋で働く娘だ。


 当然、私たちの関係は社交界では誰も知らない。それは、妻であるシャーリンでさえも。

 知っているのは、侯爵家の中でも古株の使用人、極数人だけ。


「本当に、あなたが結婚してしまう時は悲しかったけれども……それでもこうして会いに来てくれてうれしいわ」

「当たり前だろう? 愛しているのはお前だけだよ、キャロライン」

「ふふ、嬉しい。それにね、今日は良い知らせがあるの!」


 キャロラインはそう言って、嬉しそうに焼き立てのパンを持ってきた。初めて見るパンだ。少なくとも、この店では見たことない。


「ふふ、美味しそうでしょう? 私が考案したパンなのよ! 店主がようやくわたくしの腕を認めてくださったのだわ!」

「すごいじゃないか。一口もらっても?」

「もちろんよ、あなたのためにとっておいたんだから」


 私はキャロラインに促されるまま、パンをちぎって口に運ぶ。妻と食べる豪華な食事より、何倍も美味しい。そう思った。


「美味しいよ、さすがはキャロラインだ。私の妻はパンなんて作れないだろうからな」

「あら、それはそうでしょうね。わたくしだって、こうして平民になることがなければ縁がなかった世界ですもの。昔のまま何事もなく成長できていいたら……」

「…………そうだな」


 キャロラインは少しだけ寂しそうに笑う。彼女のこういう表情を見るたび、私は彼女が愛しくてたまらない気持ちになるのだ。


「ねぇ、それより……計画の方は、うまくいきそうなの?」

「あぁ、エルフィナード伯爵の伝手で、跡継ぎがおらず困っているという男爵を見つけることができたんだ」

「! 本当!?」

「あぁ、うまくいけば舞踏会で接触することができるかもしれない」

「あら、直接書状をお送りするのではいけないの?」


 キャロラインが頬を膨らませる。そういうところも愛らしい。シャーリンにはない愛らしさだ。


「あぁ、こちらから接触したら不審がられてしまうかもしれないからな。妻がいる身である以上、キャロラインとの関係が公になるのはまずいだろう?」

「……それもそうね。でも、寂しいわ、ヴィクトル……。あなたが抱くのは、私だけじゃないと嫌なの」

「私もだよ、キャロライン。大丈夫、彼女と関係を持つつもりはない、それに……」

「? それに?」

「いや……とにかく、心配しなくて大丈夫だ。……時間がもったいない、あの女のことは忘れて、二人の時間を楽しもうか」

「ふふ……もう、ヴィクトルったら……こんな昼間から? まぁ、いいけど♡」


 ベッドにキャロラインを押し倒す。彼女の赤い瞳がきらりと輝いた。

 いつもそうだ。この瞳を見つめると、彼女に魅了されてしまう。それほど彼女は魅力的なのだ。出会った時からそうだった。




 彼女の艶やかな声を聴きながら、私は昼間から彼女に溺れていくのだった。


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