十五話 サラとアントニー
「とても有意義な時間だったわ。今日は本当に、来てくださってありがとう」
「こちらこそ、ご招待いただき感謝申し上げます。ご迷惑でなければ、今度は私がイザベラ様をお誘いしてもよろしいでしょうか」
「! えぇ、えぇ、ぜひ! 楽しみに待っているわね!」
____イザベラ様とのお茶会が終わった。一度目の人生と同じく、イザベラ様はとても明るくて、お優しい。こんな方を利用している自分が本当に、嫌になるくらい……。
私はイザベラ様に別れを告げてから、門の前に待たせてあった馬車に乗り込んでだ。それから御者に、「王立図書館までお願い」と命じる。
「王立図書館でございますか?」
「奥様は本がお好きなんですね、なんか想像通りです!」
「ちょっと、アントニー!!」
私の付き添いで来ていたサラとアントニーが、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。
サラ以外にも侍女はいるけれど……屋敷内の誰が敵かわかりきっていない以上、この子以外を信じるのは少し怖かった。だから、サラを私の専属侍女に指名したのがつい先日の話。
もう一人は、護衛騎士のアントニー。彼はなんと、サラの幼馴染らしい。正直、護衛騎士には全く良い思い出がないのだけれど……。若くて屋敷に来たばかりで、サラの幼馴染ということであれば危険性は少ないと判断して、私のそばには彼を付けることにしたのよ。
まぁ、ちょっと軽くて失礼なところはあるのだけれど……。
「えぇ、イザベラ様……ヴァイス公爵夫人からある本をおすすめしていただいて。せっかくだから読んでみようと思ったのよ」
「へぇ~! どんな本なんですか?」
「恋愛小説らしいわ」
「奥様もそういう俗っぽい本に興味持つんですね? てっきり、小難しい歴史書とかかと……」
「だから、アントニーってば!!」
サラがアントニーの頭を小突く。私より若く微笑ましい二人の光景に、思えず笑みが零れた。……なんだかうらやましいわ、私にも、こういう気安い仲の友人がいればよかったのに。
「ふふ、いいのよサラ、ありがとう。確かに私はそういうイメージの方が強いかもしれないわね。なんたって、『氷の令嬢』ですもの」
「え! いやいや、俺は褒めたつもりですよ! 頭よさそうだからっていう……。それに、実際の奥様は噂と違って、普通に笑うし使用人にも優しいし……」
……それは、私が人生をやり直しているから……なんて言っても、頭がおかしいとおもわれるだけよね。
実際、一度目の結婚生活では、私から使用人に優しくできるようになったのは……半年くらい経ってからだったもの。笑えるようになったのも、そのくらいかしら。
そう考えると、なんだか複雑ね。
王立図書館は、一度目の結婚生活でも……いいえ、結婚する前でもよく来ていた場所だ。私は本が好きで……というよりは、ただ友人がいなかったから本を読んで勉強することくらいしかやることがなかったのよね。
私は迷わず小説のコーナーへ向かってから、イザベラ様に教えてもらったタイトルを探す。
「……あった、これだわ____『シャーロット』」
少しわかりにくいところに一冊だけ置いてあったそれは、とてもきれいな新品に見えた。それにしても、私は結構な読書家な自信があったのだけれど、この本は聞いたことすらなかったのよね。貴婦人が読んでいるような本を知らないなんて、変ねと思ったくらいには。
席に着いて、ゆっくりとページを捲る。ぺら、ぺら……と、静かな図書館で私の本を捲る音だけが響き始めた。




