十四話 一歩
「平民……ですか!?」
「声が大きいですわ!」
「も、申し訳ありません、その、少し驚いて……しまって……」
____信じられない。
愛人がいることは知っていた。でも、それはどこかの令嬢だと思っていた。
まさか、平民の女性と愛し合っていたなんて……!
「驚くのも無理ないわ。でも、単なる噂にしては、出来すぎている証拠もあって……」
「証拠があるんですか!?」
「正確にいうと少し違うのだけれど……。私の友人に、本が大好きなハインツ伯爵夫人という方がいてね。その方がいうには、『侯爵と平民の女性が恋に落ちる恋物語がある、その侯爵がクラウゼン侯爵とよく似ている』らしくて……」
「物語……ですか」
それは、証拠と言えるのかしら……?
でも、ヴァイス公爵夫人がここまで真剣な顔で話しているのだから、話は最後まで聞くべきね。
「私も読んで見たのだけれど……なんというか、そっくりなのよ。さっき私は『侯爵が結婚して安心した』と言ったけれど、同時に少し怖くなったの」
「なぜですか?」
「……だって、物語の中の侯爵も、貴女とそっくりの伯爵令嬢と結婚していたんだもの。それも、『氷姫』と呼ばれている女性で……貴女に、よく似ているの……」
____私は絶句した。
それは、確かに偶然とは思えない。なら、侯爵はその物語をなぞって、私と結婚したというの? なんのために?
……わからない、情報が足りなすぎる。
でも、ハッキリしたことは二つある。
一つは、夫の愛人は平民であること。これはとても大きな情報。
そしてもう一つは、夫がその女性と結婚していなかった理由だわ。
私は殺されてから、「愛している女性がいるならなぜその方と結婚しなかったのか」と考えていた。
けれど、結婚しなかったのではなく、できなかったのだわ。相手が、平民の女性だから。
……なら、夫が最後に言っていた「結婚できるようになった」という言葉は、どういう意味なのかしら……。
ダメね、まだわからないことが多すぎる。でもこれは、確かな一歩だわ。
帰りにでも、王立図書館に寄ってみましょう。……侯爵家の書斎では、怪しまれてしまうかもしれないから。
重苦しくなった空気を打ち消すように、ヴァイス公爵夫人がパチン!と手を鳴らした。
「さぁ、暗い話はここまでにしましょう! 私、貴女と沢山話してみたかったの」
「そうですね。ありがとうございます、ヴァイス公爵夫人」
「さっきから思っていたのだけれど、イザベラで構わないわよ! その代わり私もシャーリン様と呼んでもよろしいかしら?」
「はい、もちろんですわ、イザベラ様」
……こうして、大きな収穫を得た私は、イザベラ様とのお茶会を楽しんだのだった。




