十一話 トラウマ
ダイニングルームの前の扉に立った瞬間、私の足が急に鉛のように重くなった。
呼吸が、苦しくなる。
さっきまで、あんなに強気だったのに。
____でも、当たり前よね。私にとって、ダイニングルームはトラウマそのものなんだもの。
私が、裏切られ、捕らえられた場所。
そして、意識を失った場所……。
私にとって、一番新しい記憶。
でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
弱い私とは、さよならするの。
使用人が扉を開ける。
私は深く息を吸ってから、昨日と同じ笑顔の仮面を貼り付けて、ダイニングルームに足を踏み入れた。
「……おはようございます、ヴィクトル様。お待たせしてしまい、大変申し訳ございません」
「おはよう、シャーリン。ちっとも待ってなんかないさ」
既に夫は席に着いていたようだ。これも、一度目の人生と同じね。
私も執事に椅子を引かれ、着席する。
まずは給仕が温かいスープを運んできて、私はわざとらしく喜んだ。
「わぁ、とても美味しそうなスープですわね」
「はは、そうだろう。じゃあ、いただくとしようか」
「はい、そうしましょう」
愛も情もない空っぽな会話をして、震える手でスープを口に運ぶ。
大丈夫、大丈夫、薬が盛られるのは今から一年以上先よ。このスープは大丈夫、だから、勇気を出すの。
そんなふうに自分を勇気付けながら、ゆっくりと飲み込む。
____温かくて、美味しい。
なんだか、涙が出そうだった。強がっていたけれど、私、ちゃんと怖かったんだ。
「……シャーリン、どうかしたか?」
「いいえ、スープが、あまりにも美味しくて……」
「はは、それだけで泣きそうな顔をするなんて……シャーリンは心が綺麗なんだな」
「……ふふ」
私は笑って誤魔化しながら、なんとかスープを完飲したのだった。
____さぁ、ここからが正念場よ。




