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十話 可哀想な妻

 

 チュンチュン、という可愛らしい小鳥の鳴き声と、窓から差し込む朝日で目を覚ます。


 一夜明けてもやはり私は生きていて、部屋だって昨日と全く同じ。



 ……今更だけど、私、本当に生き返って……いえ、時間が巻き戻ったんだわ。


 昨日は正直、それどころじゃなくて状況をすんなり受け入れてしまったけれど……よく考えると変な話よね。時間が巻き戻るなんて、聞いたことがない。

 それこそ、魔法みたいな話だわ。そんなこと、ありえないと思うけれど……。


 ……いつの日か、真相がわかる日が来るのかしら?



 まぁ、今はわからないことを考えていても仕方がないわね。


 そろそろ侍女が来るはずよ。一度目の初夜とは違って、夫は部屋にいないのだけれどね。


 ____コン、コン、コン


「失礼いたします。奥様、旦那様。朝のお支度のお時間でございます。部屋の中に入ってもよろしいでしょうか?」

「えぇ、どうぞ」


 私の返答から一泊置いて、侍女が部屋に入ってきた。

 それから、ベッドを見て目を見開く。


「奥様……お一人だけですか? 侯爵様はもうお帰りになられたのでしょうか」


 あぁ、想定通りの反応をありがとう。名前は確かサラ、だったかしら。

 この子は確か、新人メイドだったはず。だったら……仕掛けるのは、今ね。


「いいえ、その……旦那様は、昨夜何もせずに帰ってしまわれたの」

「えぇ!?」

「どうしてかはわからないけれど……旦那様は私のことを、そういう対象には見ることが出来ないみたい……」


 悲しそうに俯きながらそう告げると、サラはアワアワしながら私のもとへ駆け寄った。


「き、きっと昨日は体調が悪かったんですよ! だって、奥様はこんなにお美しいのですから!」

「……ありがとう、そんなこと言ってくれるの……サラだけよ」


 少し悲しそうに、けれども儚さを感じさせる表情を作って、サラに告げた。

 サラは捨てられた子犬のような瞳で私を見てから、大きく口を開いた。


「大丈夫です! 侯爵様が夢中になるよう……これから毎日、頑張りましょう! このサラ、精一杯尽力いたします!」





 ____純粋な子ね。


 あまりの必死さに、なんだか肩の力が抜けて、ふっと笑みが溢れた。


 ……この侯爵家には敵しかいないと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。


 もしかしたら、一度目の人生で私が死んだ後、悲しんでくれた侍女もいたのかしら。

 ……そうだったら少しは救われるわね。


 それに、サラはきっとこのことで私を「可哀想な奥様」だと思うでしょう。

 そうすれば、同情を買うことが出来る。


 ……純粋なあなたを、利用することになってごめんなさい。




 それでも、死んでから初めて、他人の温かさに触れることが出来て……。

 私の心は、少しだけ解れたのだった。



「……サラ、朝の支度をお願いできるかしら」

「はい、もちろんです」


 ____この後は、夫との初めての朝食が待っている。


 一度目の人生では、この朝食会で私はあることをして大恥をかいた挙句、夫にフォローまでされてしまったのだ。

 そのせいで、私は夫に心を許してしまった。




 けれど今日は絶対に、前回の時のような『失敗』は繰り返さない。


 生まれ変わった私を、よく見ておくといいわ。……ヴィクトル・クラウゼン侯爵。

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