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跡取りになれなかった公爵嫡男は、前世の夢だった“自由な旅”を選ぶ  作者: みのり
三章 湖畔の街ルグレイス

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幕間 今回もまた…(《黒蛇》幹部視点)

レオルド達が森で会った幹部視点です。

 「見つけた」


 私は窓の外へ視線を向ける。

 森の向こうには穏やかな湖が広がっていた。

 数日前まで暴れていた湖の主も今は静かだ。

 全てはあの少年のおかげだろう。


「本当に、よく似ている」


 思わず苦笑が漏れる。

 姿形は違う。年齢も違う。

 だが纏う雰囲気があまりにも似ていた。

 だからこそ、私は確信している。

 あの少年こそ、あの方が待ち続けていた存在なのだと。

 我々、《黒蛇》は世間が思うような組織ではない。

 もちろん犯罪に手を染めている者もいる。

 国から見れば危険組織と呼ばれても仕方ないだろう。

 だが、それが全てではない。

 我々は捨てられた者たちの集まりだ。

 求められた属性を持たなかった子供。

 貴族として生まれながら価値がないと見捨てられた者。

 魔法適性を理由に家を追放された者。

 国の都合で切り捨てられた者。

 理由は様々だ。

 だが共通していることが一つある。

 誰にも必要とされなかったこと。

 それだけだ。

 私もその一人だった。

 生まれた家では代々、火、水、地属性いずれかを重視していた。

 だが私に与えられた適性は別のものだった。

 それだけで価値がないと判断された。

 兄弟たちは祝福される。

 私は疎まれる。

 だから家を出た。

 いや、追い出されたと言った方が正しいか。

 そんな者たちが集まってできたのが《黒蛇》だ。

 我々の目的は単純だった。

 行き場のない者たちが集まり、誰にも疎まれず生きられる場所を作る。

 ただ、それだけ。

 だが現実は甘くない。

 数十年前、一度その計画は動き出した。

 我々を導いていた方がいたからだ。

 誰よりも強く。誰よりも優しく。

 そして誰よりも孤独だった方。

 あの方なら本当に実現できると皆が信じていた。

 しかし――。

 計画は途中で止まった。

 あの方が亡くなったからだ。

 残された我々は何をすればいいのか分からなくなった。

 理想だけが残り、進む道を見失った。

 だが、亡くなる直前。

 あの方はこう言い残した。


『十数年後、私と同じ力を持つ者が旅に出る。必ず見つけろ。そして気づいてもらえ。そのためなら多少目立つ行動をしても構わない』


 その言葉だけを頼りに、我々は動き続けた。

 港町にアジトを作ったのもそのためだ。

 麻薬の密輸も。海へ毒を流したのも。

 全ては我々の存在へ気づいてもらうため。

 海の主が暴れれば必ず誰かが動く。

 そして、あの方と同じ力を持つ者なら海の主を見捨てない。

 そう考えた。結果。

 予想通り現れた。

 黒髪の少年。

 従魔を連れた冒険者。

 そして―あの方と同じ魔眼を持つ存在。

 私は遠くから見ていた。

 海の主と向き合う姿を。苦しむ魔獣を助けようとする姿を。

 その時点で確信していた。

 だが、念のため確認したかった。

 だから湖でも接触した。

 以前から少しずつ毒を流していた湖へ向かったと聞き、私も部下を連れて先回りした。

 そして実際に会った。森の中で。

 ほんの短い時間だけ。

 だが十分だった。


「あの方そっくりだ」


 困っている者を放っておけない。魔獣であろうと手を差し伸べる。力を持ちながら驕らない。

 まるで生き写しだ。

 同じ能力を持つと性格まで似るのだろうか。

 そんな馬鹿なことを考えてしまうほどだった。

 もちろん、あの場で正体を明かすこともできた。協力を求めることもできた。

 だが、それは悪手だ。

 突然現れた犯罪組織の人間を信用するはずがない。

 下手をすれば警戒され、二度と近づけなくなる。

 だから私は引いた。

 今はまだ時期ではない。

 私はアジトへ戻り、報告を行った。

 リーダーは静かに話を聞いていた。


「あの方と似ていたか」


「はい」


 私は迷いなく答える。


「雰囲気も行動もよく似ています」


「そうか……」


 リーダーは目を閉じる。

 長い付き合いだ。

 あの方への敬意が誰よりも強いことを知っている。


「我々の理想を叶えるためにも、お力をお借りしたいところだな」


「正直に話せば協力していただけるかと」


 少なくとも話は聞いてくれるだろう。

 あの少年はそういう人間だ。

 リーダーも同じ結論だったらしい。


「ならば次だ」


 ゆっくりと目を開く。


「次に訪れる街で必ず接触しろ」


「はっ」


 私は深く頭を下げた。

 ついに。長年探し続けた存在を見つけたのだ。

 焦る必要はない。慎重に。確実に。

 信頼を得なければならない。

 会議が終わった後。

 私は一人で地図を広げる。


「あの少年は次にどこへ向かうのでしょうね」


 自然と笑みが浮かぶ。

 これほど楽しみなのは久しぶりだった。

 長い年月をかけて待ち続けた。

 ようやく見つけた。

 だからこそ失敗は許されない。

 私は机の上に置かれた報告書へ手を伸ばした。

 まずは情報収集だ。

 あの少年が次に向かう場所を調べなければならない。


「先回りしなければなりませんね」


 窓の外では夜風が吹いていた。

 遠く離れた湖の方角を見つめながら、私は静かに笑った。

 次に会う時こそ。

 我々、《黒蛇》の本当の目的を話すために。

読んでいただきありがとうございます!

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