幕間 今回もまた…(《黒蛇》幹部視点)
レオルド達が森で会った幹部視点です。
「見つけた」
私は窓の外へ視線を向ける。
森の向こうには穏やかな湖が広がっていた。
数日前まで暴れていた湖の主も今は静かだ。
全てはあの少年のおかげだろう。
「本当に、よく似ている」
思わず苦笑が漏れる。
姿形は違う。年齢も違う。
だが纏う雰囲気があまりにも似ていた。
だからこそ、私は確信している。
あの少年こそ、あの方が待ち続けていた存在なのだと。
我々、《黒蛇》は世間が思うような組織ではない。
もちろん犯罪に手を染めている者もいる。
国から見れば危険組織と呼ばれても仕方ないだろう。
だが、それが全てではない。
我々は捨てられた者たちの集まりだ。
求められた属性を持たなかった子供。
貴族として生まれながら価値がないと見捨てられた者。
魔法適性を理由に家を追放された者。
国の都合で切り捨てられた者。
理由は様々だ。
だが共通していることが一つある。
誰にも必要とされなかったこと。
それだけだ。
私もその一人だった。
生まれた家では代々、火、水、地属性いずれかを重視していた。
だが私に与えられた適性は別のものだった。
それだけで価値がないと判断された。
兄弟たちは祝福される。
私は疎まれる。
だから家を出た。
いや、追い出されたと言った方が正しいか。
そんな者たちが集まってできたのが《黒蛇》だ。
我々の目的は単純だった。
行き場のない者たちが集まり、誰にも疎まれず生きられる場所を作る。
ただ、それだけ。
だが現実は甘くない。
数十年前、一度その計画は動き出した。
我々を導いていた方がいたからだ。
誰よりも強く。誰よりも優しく。
そして誰よりも孤独だった方。
あの方なら本当に実現できると皆が信じていた。
しかし――。
計画は途中で止まった。
あの方が亡くなったからだ。
残された我々は何をすればいいのか分からなくなった。
理想だけが残り、進む道を見失った。
だが、亡くなる直前。
あの方はこう言い残した。
『十数年後、私と同じ力を持つ者が旅に出る。必ず見つけろ。そして気づいてもらえ。そのためなら多少目立つ行動をしても構わない』
その言葉だけを頼りに、我々は動き続けた。
港町にアジトを作ったのもそのためだ。
麻薬の密輸も。海へ毒を流したのも。
全ては我々の存在へ気づいてもらうため。
海の主が暴れれば必ず誰かが動く。
そして、あの方と同じ力を持つ者なら海の主を見捨てない。
そう考えた。結果。
予想通り現れた。
黒髪の少年。
従魔を連れた冒険者。
そして―あの方と同じ魔眼を持つ存在。
私は遠くから見ていた。
海の主と向き合う姿を。苦しむ魔獣を助けようとする姿を。
その時点で確信していた。
だが、念のため確認したかった。
だから湖でも接触した。
以前から少しずつ毒を流していた湖へ向かったと聞き、私も部下を連れて先回りした。
そして実際に会った。森の中で。
ほんの短い時間だけ。
だが十分だった。
「あの方そっくりだ」
困っている者を放っておけない。魔獣であろうと手を差し伸べる。力を持ちながら驕らない。
まるで生き写しだ。
同じ能力を持つと性格まで似るのだろうか。
そんな馬鹿なことを考えてしまうほどだった。
もちろん、あの場で正体を明かすこともできた。協力を求めることもできた。
だが、それは悪手だ。
突然現れた犯罪組織の人間を信用するはずがない。
下手をすれば警戒され、二度と近づけなくなる。
だから私は引いた。
今はまだ時期ではない。
私はアジトへ戻り、報告を行った。
リーダーは静かに話を聞いていた。
「あの方と似ていたか」
「はい」
私は迷いなく答える。
「雰囲気も行動もよく似ています」
「そうか……」
リーダーは目を閉じる。
長い付き合いだ。
あの方への敬意が誰よりも強いことを知っている。
「我々の理想を叶えるためにも、お力をお借りしたいところだな」
「正直に話せば協力していただけるかと」
少なくとも話は聞いてくれるだろう。
あの少年はそういう人間だ。
リーダーも同じ結論だったらしい。
「ならば次だ」
ゆっくりと目を開く。
「次に訪れる街で必ず接触しろ」
「はっ」
私は深く頭を下げた。
ついに。長年探し続けた存在を見つけたのだ。
焦る必要はない。慎重に。確実に。
信頼を得なければならない。
会議が終わった後。
私は一人で地図を広げる。
「あの少年は次にどこへ向かうのでしょうね」
自然と笑みが浮かぶ。
これほど楽しみなのは久しぶりだった。
長い年月をかけて待ち続けた。
ようやく見つけた。
だからこそ失敗は許されない。
私は机の上に置かれた報告書へ手を伸ばした。
まずは情報収集だ。
あの少年が次に向かう場所を調べなければならない。
「先回りしなければなりませんね」
窓の外では夜風が吹いていた。
遠く離れた湖の方角を見つめながら、私は静かに笑った。
次に会う時こそ。
我々、《黒蛇》の本当の目的を話すために。
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