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跡取りになれなかった公爵嫡男は、前世の夢だった“自由な旅”を選ぶ  作者: みのり
二章 海風の街

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幕間 兄上が帰ってきた(リュシカ視点)

 去年の春頃。

 レオルド兄上は「海を見てみたい」と言い、カナルア公爵領の港街へ旅立たれた。

 最初はとても心配だった。

 兄上は鑑定の儀の後、一度大きく体調を崩されている。

 だから母上も最後まで反対していたし、僕もできれば王都にいて欲しかった。

 でも兄上は、自分の目で世界を見た言い、父上は条件付きで許可を出した。


 そして約一年後。

 初夏の暖かい風が吹く頃、兄上はランハード公爵邸へ戻って来られた。


「ただいま」


 そう言って笑う兄上は、旅立つ前より少しだけ大人びて見えた。

 それに――。


「わぁ……」


 兄上の隣には、見たこともない魔獣がいた。

 白い毛並みを持つ狼のような魔獣と、黒猫の魔獣。

 最初は少し怖かったけれど、兄上が「大丈夫だ」と言ってくれたので近づいてみた。


 白い狼の魔獣はルナ。

 黒猫の魔獣はノア。

 どちらも兄上の従魔らしい。

 聞けば、アルヴェルグの希少種と、ヴェルノクスという伝説上の魔獣なのだとか。

 父上も驚いていた。

 それだけではない。

 港街の海の主と呼ばれているノクティルカや、レヴィアシールという海の魔獣とも契約したらしい。

 兄上は本当にすごい。

 昔から勉強も剣もできたけれど、旅に出てから更にすごくなった気がする。


 その日から、僕は毎日兄上の旅の話を聞いた。

 港街のこと。

 海のこと。

 冒険者ギルドのこと。

 特に驚いたのは密輸船の話だった。

 裏組織。

 海の主の暴走。

 港での騒動。

 物語の中みたいな話ばかりで、聞いているだけで胸が高鳴った。


「僕も海を見てみたい!」


 そう言うと、兄上は少し笑って言った。


「じゃあ、連れて行ってやるよ」


 そして本当に連れて行ってくれた。

 初めて見る海は、とても綺麗だった。

 空よりも広く見えて、太陽の光を反射してキラキラ輝いていた。

 波の音も心地良くて、ずっと見ていたくなる景色だった。


「どうだ?」


「すごい……!」


 兄上が見た景色を、僕も見ることができた。

 それがとても嬉しかった。


 ライオネル殿下も一緒だった。

 どうやら兄上たちについて勝手に旅へ出ていたらしく、反省の意味も込めてしばらくは王都にいることになったらしい。

 その間、僕はルナやノアと遊んだ。

 最初は怖かったけれど、二頭とも優しかった。

 特にルナは撫でると気持ち良さそうにしてくれる。

 ノアは最初少し警戒していたけれど、おやつをあげたら許してくれた。

 それから兄上やロベルトさんとも剣の稽古をした。

 兄上は旅に出る前より強くなっていた。

 ロベルトさんもすごい。

 二人の剣を見ていると、僕ももっと強くなりたいと思う。


「リュシカも筋がいいな」


 兄上にそう言われた時は、本当に嬉しかった。

 勉強も以前より頑張るようになった。

 兄上が見てきた世界を聞けば聞くほど、自分の知らないことがたくさんあるのだと分かるからだ。

 兄上は春頃になったら、また旅へ出るらしい。

 今度はどこへ行くのだろう。

 雪国だろうか。

 砂漠だろうか。

 それとも、もっと遠い国だろうか。

 兄上が見て綺麗だと思った景色を、いつか僕も見てみたい。

 だからもっと強くなりたい。

 兄上を守れるくらいに。


 父上は、兄上の持つ四つの適正について知らなかったと言っていた。

 けれど本当は知っていたみたいだ。

 僕はまだ難しくて全部は理解できない。

 だけど、僕たちの大叔父様も兄上と同じ四つの適正を持っていたらしい。


 魔眼。

 空間魔法。

 テイム。

 召喚魔法。

 数十年から数百年に一度しか現れない特別な力。

 大叔父様は、兄上が生まれて少ししてから天へ旅立たれた。

 その時、生まれたばかりの兄上を見て言ったらしい。


『次はこの子を守れ』と。


 秘宝が存命だからランハード公爵家は栄え、この国は災害に飲まれずに済んでいるとも聞いた。

 僕にはまだ難しい。

 でも分かることもある。

 兄上はとても大切な存在だということ。

 そして兄上は、一人で全部背負おうとする人だということ。

 だから僕も強くならないといけない。


「兄上」


「ん?」


「僕、もっと強くなるよ」


 兄上は少し驚いた顔をした後、優しく笑った。


「そっか」


「兄上みたいに賢くないし、強くもないけど……兄上一人くらい守れるようになる」


「ははっ。頼もしいな」


 兄上は笑いながら僕の頭を撫でた。

 その手は昔より少し硬くなっていた。

 きっと旅をしてきたからだろう。


 兄上。

 また旅へ行く時は、無事に帰ってきてください。

 そしてまた、色々な話を聞かせてください。

 兄上が見た景色を、僕にも見せてくださいね。

読んでいただきありがとうございます!

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