第27話 海上戦
タイトルに『戦』とつきますが剣で斬り合うとか血が流れるような描写はしていません。
さて、どうするか。
《黒蛇》のアジトらしき場所は見つけた。
だが、あの規模の組織に真正面から突っ込むのは流石に無謀だ。
こちらは実戦経験が少ない三人組。
従魔が強いとはいえ、相手の人数も戦力も不明。
だから俺たちはまず情報を集めることにした。
召喚魔法で呼び出せるノクスキャットは隠密行動が得意らしい。
小型で素早く、気配も薄い。
潜入にはぴったりだ。
「ノクスキャット。あの屋敷、調べてもらえるか?」
『任せて』
黒い猫型魔獣は静かに頷くと、夜の闇へ溶けるように消えていった。
それから数ヶ月。
季節は夏から秋へ変わろうとしていた。
俺たちは表向きはいつも通り過ごしていた。
冒険者ギルドで依頼を受け。
港街を巡り。
時々セレナ様の所へ顔を出す。
ラナは公爵邸で文字や礼儀作法を学び始めていた。
最初は緊張していたが、最近ではセレナ様にもかなり懐いている。
そして何より――。
ルナとノアがおやつ目当てで公爵邸へ行きたがるようになった。
いや、本当に何しに行ってるんだ君たち。
そんな日々を送りながら、俺たちはノクスキャットから定期的に報告を受けていた。
密輸ルート。
裏組織の動き。
転移魔道具の使用状況。
そして、ついに動きがあった。
『明日、薬物を積んだ船が入港する』
ノクスキャットの報告に、部屋の空気が変わる。
「ついにか……」
ロベルトが真顔になる。
ライオネルも珍しく真剣だった。
「どうする?」
「とりあえず連絡だな」
冒険者ギルド。
商業ギルド。
それとセレナ様。
この三つには知らせておく必要がある。
「ロベルト、悪いけど先触れ頼める?」
「また俺かよ……」
「一番顔覚えられてるから」
「絶対それ関係ないだろ」
ぶつぶつ言いながらも立ち上がる。
すると当然のようにルナも後ろをついていった。
完全におやつ目的である。
「ルナ、お前絶対それ目的だろ」
『違うもん!半分だけだもん!』
半分は認めるんだな。
一時間後。
ロベルトとルナが戻ってきた。
ルナの口元には食べかす。
うん、今日ももらったな。
「で、どうだった?」
「いつでも動けるってさ」
「セレナ様は?」
「ルナ抱っこしたまま離さなかった」
『今日のおやつも美味しかったー!』
完全に餌付けされている。
「じゃあ行くか」
俺たちはまず冒険者ギルドへ向かった。
事情を説明すると、ギルド長は静かに頷く。
「ついに動きますか」
「ええ。ただ、俺たちは裏組織そのものと戦う気はありません」
これは最初から決めていた。
俺たちの目的は薬物の流通阻止。
組織壊滅ではない。
「薬物を奪うだけ?」
「はい。捕まえられるならラッキー程度です」
真正面から戦えば、こちらが死ぬ可能性もある。
だったら目的だけ達成して撤退した方がいい。
商業ギルドでも同じ説明をし、最後にセレナ様へ報告した。
「無茶はしないでくださいね」
「そのつもりです」
そして翌朝。
まだ日も昇り切っていない時間。
俺たちは港にいた。
潮風が冷たい。
大型船、小型船、漁船。
様々な船が港へ出入りしている。
その中に、一隻。
ノクスキャットから聞いていた特徴と一致する中型船が見えた。
「あれか」
「普通の船にしか見えねぇな」
「逆に怪しまれないようにしてるんだろ」
密輸船です、なんて見た目で来るわけがない。
船が完全に停泊したのを確認し、俺たちは海へ入った。
「『我らに水の加護を。“アクアシールド”』」
水中でも呼吸できるよう魔法を展開。
そのまま海中を進む。
海の中は静かだった。
地上の喧騒が嘘みたいに聞こえない。
そしてノアが本来の姿へ変化する。
巨大な黒い獣。
ライオンほどの大きさになったノアの背に、俺たちは乗った。
『しっかり掴まってなさい』
「頼む」
ノアは水中を滑るように進む。
速い。しかも揺れが少ない。
数分後。
船底へ到着した。
そこから空間魔法で船内へ転移する。
「ここからは慎重に」
ノクスキャットが前を歩き始める。
気配がない。
本当に優秀だ。
しばらく進くと、見張りが二人立っている部屋の前で止まった。
『ここ』
「ありがとう」
俺は小声でノアに聞く。
「眠らせられる?」
『簡単よ』
次の瞬間。
黒い霧のような魔力が見張り二人を包んだ。
そのまま崩れるように眠る。
「便利だな闇魔法……」
『でしょう?』
俺たちは部屋へ入った。
中には大量の木箱。
魔眼で確認すると、全て薬物だった。
「うわ……」
「こんな量流れてたのかよ」
普通に街が壊れるレベルだ。
「全部回収する」
俺は異空間を開いた。
木箱が次々消えていく。
数分で部屋は空になった。
「よし、撤退――」
その瞬間。足音。
誰かが近づいてくる。
「っ!」
「急げ!」
俺たちはノクスキャットだけ残し、即座に転移した。
転移先は冒険者ギルドのギルド長室。
突然現れた俺たちにギルド長が驚く。
「早かったですね!?」
「証拠品は回収してきました」
「は!?」
その時だった。
ノクスキャットから念話が届く。
『船内が騒ぎになってる』
「は?」
『見張が眠らされて密輸品がなくなってるから裏切り者を探し始めた。このままだと港にも被害出る』
「うわ、最悪」
俺は再び船へ転移した。先ほどの部屋から様子を伺うと船内は混乱状態だった。
怒号。
悲鳴。
武器を持った男たち。
「どうする?」
「……ライオネル」
「ん?」
「眠らせられる?」
「この船全員?」
「その方が早い」
ライオネルが呆れた顔をする。
「無茶言うな……と言いたいが」
その時だった。
『わたし一人で充分よ』
ノアが前へ出る。
次の瞬間。
闇魔法が船全体を覆った。
一人。また一人と倒れていく。
数秒後。
船内は完全に静かになった。
「……終わった?」
『ええ。ただ数人、小舟で逃げたわ』
「どっちへ?」
『スラム街方面。ノクスキャット追わせてる』
優秀すぎる。
「ありがとう」
ライオネルが肩を落とす。
「俺の出番……」
「そのうちな」
「絶対適当だろ」
ロベルトが哀れみの目を向けていた。
俺たちは眠った密輸組織の人間を確認し、港へ戻る。
後はセレナ様とカナルア公爵家に任せればいい。
薬物は全て押収済み。
密輸船も確保。
完全解決ではない。
だが少なくとも、この港街へ流れるはずだった薬物は止められた。
「……何か、戦った感じしないな」
「お前の空間魔法が便利すぎるんだよ」
「あと従魔な」
ライオネルが苦笑する。
確かにその通りだ。
俺自身は、あまり戦っていない。
だが――。
誰も死なずに終わった。
それなら、これで良かったのかもしれない。
いつも読んでいただきありがとうございます!
冒頭でもお伝えしましたが戦うシーンがどうしても思い浮かばず『闇魔法で眠らせる』にしました。
ご都合主義的な感じで読んでいただければと思います。




