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跡取りになれなかった公爵嫡男は、前世の夢だった“自由な旅”を選ぶ  作者: みのり
二章 海風の街

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第25話 魔眼

 荷物が消えたと騒いでいた男たちのことが妙に引っかかった。

 商人ギルドを出たあとも、頭の片隅にずっと残っている。

 副ギルド長の反応からして、ああいう騒ぎは初めてではないのだろう。

 それでも、何かがおかしい。

 ただ荷物を無くしただけにしては、男たちの反応が芝居じみていた。


「ロベルト、ちょっとあいつら追ってみないか?」


 ロベルトが露骨に嫌そうな顔をした。


「絶対面倒事だろ、それ」


「俺もそう思う」


「じゃあ何で行くんだよ……」


 呆れたようにため息を吐かれる。

 だが完全に反対する気はないらしい。

 長い付き合いではないが、ロベルトも俺がこう言い出したら止まらないことを理解し始めているのだろう。


「ラナたちは置いていこう。流石に危ない気がする」


「賛成。特にライオネル連れて行くのはまずい」


 元第一王子を裏路地探索に連れて行くとか、後で父上に知られたら確実に怒られる。


 一旦宿に戻ることも考えたが何かあった時に商人ギルドの方がいいだろうと思い、応接室を借りることにした。


「ラナ、ライオネル。悪いけど少しここで待っててくれ」


「ん?何かあるのか?」


 ライオネルが不思議そうに首を傾げる。


「ちょっと気になることがあってな。すぐ戻る」


「面白そうだから俺も行く」


「駄目」


「何故だ」


「《《元》》王子だから」


「《《元》》を強調するな」


 いや、元だろうが現だろうが王族には変わりないんだよな。

 それに、ラナも連れて行けない。

 スラム街周辺に近づく可能性がある以上、小さい子どもを連れていくのは危険だ。


「ノア、護衛頼めるか?」


『任せなさい。何かあればすぐ知らせるわ』


「ああ。念のため結界も張っておく」


 空間魔法で部屋の周囲を覆うように結界を展開する。

 悪意を持つ者が近づけば分かるし、破られれば俺にも通知が来る。

 更にノアもいる。

 そう簡単に何かされることはないはずだ。


「じゃあ行くか」


「おう」


 俺とロベルトは男たちの後を追った。

 男たちは港町の中心地から外れ、徐々に人気の少ない区域へ進んでいく。

 道端には痩せ細った人々。

 壁に寄りかかって眠る老人。

 裸足で歩く子ども。

 港町の表通りとは別世界だった。


「……スラム街か」


「みたいだな」


 潮風の匂いよりも、湿った土と腐臭の方が強くなっていく。

 ラナが寝泊まりしていた場所も、この辺りなのだろう。

 同じ街でも、少し場所が違うだけでここまで景色が変わるものなのか。


 綺麗な港町。

 活気ある市場。

 海の幸を並べた屋台。

 そんな表側だけを見ていたら気付かなかった。


 この街にも、当然ながら貧困は存在している。

 男たちは慣れた様子で路地裏へ入り、更に細い道を進んでいく。

 俺たちも気配を消しながら後を追った。


「レオルド、撒かれてないよな?」


「多分大丈夫。今のところ気付かれてる感じはない」


 魔眼で周囲を確認しながら進む。

 すると男たちはある建物の前で立ち止まった。

 そこにあったのは、今にも崩れそうなボロ屋だった。

 壁はひび割れ、屋根も歪んでいる。

 窓ガラスは割れ、扉もまともに閉まるのか怪しい。


「……あれか?」


「みたいだな」


 だが男たちは迷いなくその中へ入っていった。

 普通の人間なら住もうとも思わないような場所だ。


「なんで商人がこんな場所に?」


「さあな」


 違和感しかない。

 そこで魔眼を発動させる。

 すると、視界に文字が浮かび上がった。


 ―隠蔽魔法展開中。

 ―認識阻害。

 ―外装偽装。


「……は?」


 思わず声が漏れた。


「どうした?」


「この建物、偽装されてる」


「偽装?」


「ああ。見た目だけボロ屋にしてる」


 更に魔眼を集中させる。

 すると建物の本来の姿が見えた。

 重厚な石造りの壁。

 広い敷地。

 装飾付きの窓。

 庭園まで存在している。


「うわ……」


「これ、普通に貴族屋敷レベルだぞ」


「マジかよ……」


 ボロ屋どころではない。

 男爵家や子爵家の屋敷だと言われても納得するレベルだ。

 ただし、ここがスラム街でなければ。


「なんでこんな場所に隠蔽までして建ててるんだ?」


「分からない。逆に、この辺りをわざとスラム街化してる可能性もある」


「うわ、ありそう……」


 もしそうなら相当悪質だ。

 人目につかない場所を確保するために周囲を貧困地区にする。

 普通の人間は近づかない。

 確かに隠れ家としては最適かもしれない。


「どうする?」


 ロベルトが小声で聞いてくる。


「中入るか?」


「……いや」


 流石に危険すぎる。

 俺たちは、ついこの間まで親の庇護下で生きていた身だ。

 確かに魔法は便利だし従魔も強い。

 だが無敵ではない。

 狭い室内戦になればロベルトでも厳しいだろうし、俺の空間魔法も万能ではない。

 転移と収納、結界。

 便利ではあるが戦闘特化ではない。

 魔眼も直接見なければ意味がない。


「ロベルト。仮に中で戦闘になったら勝てると思うか?」


「無理。絶対人数いるだろ」


「だよな」


 しかも、こういう場所には裏社会の人間がいてもおかしくない。

 下手をすれば人身売買や違法薬物なんかにも関わっている可能性がある。

 俺たちだけで突っ込むのは無謀だ。


「一旦戻るか」


「賛成」


 そう言って引き返そうとした、その時だった。


 ギィ……。

 扉が開く音。

 俺たちは咄嗟に物陰へ身を隠した。

 出てきたのは、先ほどの男たちではない。

 黒いローブ。

 鋭い目付き。

 腰には短剣。

 明らかに堅気じゃない。

 何となく魔眼で鑑定する。


 ―所属:裏組織《黒蛇》

 ―危険度:高

 ―犯罪歴:多数


「おい……」


 ロベルトの顔も強張る。


「完全に裏社会の人間だ」


「だな……」


 更に男を観察する。

 すると腰辺りに妙な魔力反応が見えた。

 小型の魔道具。

 しかも空間系統の魔力を感じる。


「……あ」


「どうした?」


「分かったかもしれない」


「何が?」


「あいつらの荷物消失騒ぎ」


 魔眼を更に集中させる。

 すると文字が浮かび上がった。

 ―転移系魔道具。

 ―短距離転送可能。


「転移魔道具……」


「は?」


「荷物が消えたんじゃない。転移させてたんだ」


 ロベルトが目を見開く。


「つまり自作自演?」


「多分な」


 荷物を転移魔道具で別の場所へ飛ばす。

 そして“盗まれた”“消えた”と騒ぎ立てる。

 補償金狙い。

 しかも裏組織まで絡んでいる。


「思ったよりヤバい案件じゃねぇか……」


「だな」


 これは完全に俺たちだけでどうこうする案件じゃない。

 冒険者ギルド。

 商人ギルド。

 場合によっては領主案件だ。


「撤退するぞ」


「おう」


 俺たちは気配を消したまま、その場を離れた。

 早足でスラム街を抜ける。

 背後から視線を感じる気もしたが、振り返らなかった。

 余計な動きをすれば気付かれる。

 大通りまで戻ったところで、ようやく息を吐く。


「……怖かった」


「お前でもそう思うんだな」


「当たり前だろ。俺、別に最強じゃないからな?」


 チート能力持ちみたいに思われがちだが、実際は便利なだけだ。

 無茶をすれば普通に死ぬ。


「とりあえず商人ギルドと冒険者ギルドに報告だな」


「だな。これは大人巻き込むべきだ」


 俺たちはそのまま商人ギルドへ向かった。

読んでいただきありがとうございます!

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