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跡取りになれなかった公爵嫡男は、前世の夢だった“自由な旅”を選ぶ  作者: みのり
二章 海風の街

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第24話 消える積荷

 海の依頼も終わり、ようやくゆっくり観光できるようになった翌日。

 俺たちは港町の中心地へ来ていた。

 港町だけあって朝から人通りが多い。

 海から運ばれてきた魚介類を売る露店、香辛料の匂いが漂う屋台、見たこともない果物を並べる商人たち。

 さらに海の向こうから来た船も停泊しているため、異国風の服装をした人間もちらほら見える。


「流石に港町だな。見慣れない商品が多い」


 ロベルトが辺りを見回しながら感心したように呟く。


「だなー。見てるだけでも楽しい」


 ライオネルも珍しく素直に頷いていた。

 王子という立場上、王都の外を自由に見て回る機会なんて少なかったのだろう。


「ラナ、何か欲しいものあったら言いなよ。買ってやるから」


 俺が声をかけると、ラナは慌てたように首を横へ振った。


「あ、あたしはいらないよ。毎日美味しいご飯食べれてるし、文字も教えてもらってるし……それだけで充分」


 相変わらず遠慮がちだ。

 最初に会った時がスリ未遂だったからか、何かを受け取ることにまだ慣れていないらしい。


「じゃあ、計算の練習だと思って何か買ってみな」


「計算の……練習?」


「そう。慣れてないと後で困るだろ? それに、俺たちとずっと一緒にいるとも限らない」


 ラナの耳がぴくりと動く。


「これから先、やりたいことが見つかるかもしれない。その時、自分一人でも生きていけるようにしておいた方がいい」


「……うん」


 少し寂しそうだったが、それでもラナは頷いた。


 正直、小さい子どもを旅へ連れ回すのは危険だ。

 今回みたいに血を流さず終わればいいが、毎回そう上手くいくとも限らない。

 安心して預けられる場所があるなら、その方がいい。

 もしなければ、一度ランハード公爵家へ連れて帰るのもありかもしれないな。


「とりあえず商業ギルド行くか。この街詳しくないし」


「さんせー」


 俺たちは商業ギルドへ向かうことにした。

 商業ギルドは冒険者ギルドよりも落ち着いた雰囲気だった。

 受付も整然としており、行き交う人間も商人らしく身なりがいい。


 俺は魔眼で信頼度を確認し、一番高い受付へ向かう。

 信頼度九十五。

 しかも役職は副ギルド長。

 ……また役職持ちが受付してる。


「すみません。海の向こうから来た珍しい商品を扱っている店を探してるんですが」


 受付の女性は柔らかく微笑む。


「異国の商品ですね。……あら?」


 俺を見た瞬間、表情が少し変わった。


「もしかして、レオルド様ですか?」


「え? 何で俺の名前を?」


「冒険者ギルドから話が回ってきております。面倒な依頼を即日解決してくれた方には出来る限り融通してくれ、と」


 あのギルド長、そんなことまで言ってたのか。


「なるほど。じゃあその融通、ありがたく利用させてもらいます」


「ふふっ。かしこまりました。信頼できる商人のお店をご紹介しますね」


 副ギルド長は地図を広げながら説明を始める。


「こちらのお店は異国の布や装飾品、こちらは香辛料と薬草、こちらは珍しい食材を扱っています」


「へぇ……」


「ただ、本日店主が不在のお店もありますので、もしよろしければ明日ご案内も可能ですが」


 俺はロベルトたちを見る。


「どうする?」


「明日でいいんじゃね?」


「俺もそれで構わない」


 ライオネルも頷く。


「じゃあ明日お願いします」


「承知しました。明日の同じ時間にお待ちしております」


 話を終え、商業ギルドを出ようとした――その時だった。


 バンッ!!


 勢いよく扉が開かれ、数人の男たちが駆け込んできた。


「誰か、ギルド前に停めてた馬車の荷を知らねぇか!?」


 男たちは焦った様子で周囲を見回す。


「少し目を離した隙に荷だけ消えてたんだ!」


 ……荷物紛失か。

 そう思った瞬間。


「おい、そこのお前ら!」


 何故か男たちが俺たちを指差した。


「見ない顔だな。まさかお前らじゃねぇだろうな?」


「は?」


 思わず声が低くなる。


「何で俺たちが? 見ない顔ってだけで疑われる意味が分からないんだけど」


 ロベルトも露骨に嫌そうな顔をした。

 すると受付の副ギルド長がため息を吐く。


「ラーシュさん。またですか」


「また?」


 俺が聞き返すと、副ギルド長は呆れた顔で説明した。


「彼ら、何度もこうして荷物紛失騒ぎを起こしているんです」


「おい! 今回は本当に消えたんだ!」


「ですが、その度に観光客や行商人へ罪を擦り付けていますよね?」


 男たちの顔が引き攣る。


「彼らは観光客です。それに身元は私が保証します」


「なっ!? たかが観光客に何で副ギルド長が――」


「ギルド長も保証しています」


 副ギルド長の声が少し低くなった。


「これ以上騒ぐようなら、永久追放も視野に入れますよ」


 空気が一気に冷える。

 商人にとって商業ギルド追放は死活問題だ。

 男たちは舌打ちしながらも渋々頭を下げた。


「……悪かったよ」


 全然悪いと思ってない顔だった。

 男たちが去った後、副ギルド長が疲れたように肩を落とす。


「申し訳ありません。何度注意しても繰り返すんです」


「そんなに頻繁に?」


「ええ。『盗まれた』『壊された』『消えた』……その度に補償金を要求してきます」


 安全な輸送が難しい世界だからこそ、商業ギルドには補償制度がある。


 魔物、盗賊、自然災害。

 商人だけではどうにもならないことも多い。

 だからこそギルドが一定の補償を行うのだろう。


「ただ、彼らの場合は調査した結果、自作自演だったことも多くて……」


「あー……」


 なるほど。

 だから今回もまず疑われたのか。


「最近は観光客や余所者へ罪を擦り付けようとすることも増えてまして」


「迷惑だな」


「本当に」


 副ギルド長は深くため息を吐いた。


「正直に『不注意で失くした』と言ってくれた方がまだマシなんですけどね……」


 ……まあ、その通りだよな。

読んでいただきありがとうございます!

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